~ プロローグ ~ |
1719年12月――教皇国家アークソサエティは、今年もクリスマスムードに包まれています。
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~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
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~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜は終わらない』の対象エピソードです。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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今年のクリスマスも寮で過ごす予定だけど、今回はリントを連れ出して一緒に買い出しに え?いや、普通にデートのつもりだったけど… アンタの気持ちはアンタがまず理解しないと俺にも分からないけど とりあえず出かけるのはオッケーってことだよな じゃあ、食事は食堂で食べるとして…あとはケーキと飲み物、飾り付けだな よし行こう 買った荷物を持って歩いてたら誰かとぶつかった すみませ…ん?どこかで見たような顔…どことなくリントに似てる と思ったらすごい勢いでリントが飛んできて口論を始めた この人、リントのお父さんなのか… なんとなく蚊帳の外になってたら、いきなり肩を抱かれて 生涯のパートナー…まあ嘘はついてないけど…あんまり真剣な顔で言われたらそういう意味にとるぞ 父親と別れた後 なあリント…さっきのってどういうつもりで言ったんだ? それに、「君はいつか後悔する、壊れるだろう」って…俺が、リントに壊されるってどういうことだ? |
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~ リザルトノベル ~ |
●聖誕祭の誘い 一七一九年の聖誕祭は、冬晴れの青空で始まった。 窓越しに空の色を確認した『ベルロック・シックザール』は、身支度を済ませると自室を後にした。去年と同じく夜は寮で過ごす予定だが、気持ちのいい天気なので日が暮れるまで何もしないのは勿体ない。 「リント、エトワールに行かないか」 かの都市には日頃から賑わう歓楽街があるのだが、例年、この時季にはクリスマス市が開かれて一層華やかになるのだった。 「この時期にマルシェだなんて、ベル君なかなかチャレンジャーだね」 誘いを受けた『リントヴルム・ガラクシア』は、はっと大仰に目を瞠った。 「さては、今年は道行くカップルにリア充爆破のベリークルシミマスをするんだね!」 「え?」 想定外の反応に、ベルロックはピジョンブラッドの瞳を瞬かせる。 「いや、普通にデートのつもりだったけど……」 「えっ」 今度はリントヴルムがぱちんと大きく瞬いた。 「そ、そうなんだ……そういえば僕、ベル君に口説かれてたんだっけ」 そういえばも何も、ベルロックがリントヴルムの胸倉をつかんでキスをお見舞いしたのは、ちょうど去年のクリスマスのことだ。自分との恋で、マリーへの執着を断ち切ってやる――そう宣言し、この一年間有言実行してきたつもりなのだが、いまだに伝わっているのだかいないのだか、呑気な反応をするリントヴルムに、ベルロックは小さく嘆息した。 二人にとってそれぞれ違う意味で特別な存在であった女、マリー――マリエル・ヴェルザンディに対する感情は、いくつかの事件を通して変化しつつあった。 マリーを見つけた暁には恋人になって一緒に暮らす、と言えば聞こえはいいが実際のところ拉致監禁を表明していたリントヴルムと、恐怖の象徴として追い続けていたベルロック。再会は破滅の始まりとなる可能性があった。だが、そうはならなかったのだ。二人は浄化師として正しく役目を果たし、そしてマリエルは現在、教団に保護されている。 今となっては、ベルロックがリントヴルムを口説く必要はないのかもしれない。だがベルロックに態度を改める気は無かった。ただそうしたいから――リントヴルムが好きだから、そうするのだ。 「デートかぁ。そうやってストレートに言われると、さすがに照れるよね。これって、やっぱり絆されかけてるってことかな?」 「アンタの気持ちはアンタがまず理解しないと俺にも分からないけど、とりあえず出かけるのはオッケーってことだよな」 うーん、とリントヴルムは顎に手を当てて考え込んだ。だがそれも一瞬のこと。自問してもわからない、相手に聞いてもわからない。それなら、考えるだけ無駄だ。 「ここで迷ってても仕方ない。僕も行くよ」 「よし、行こう」 ●光の道 エトワールの中心リュミエールストリートはその名の通り、輝きに満ちていた。行き交う人々はみな思い思いに着飾り、明るい話し声や笑い声を響かせながら祝祭を楽しんでいる。広場の噴水にはクリスマスタワーと呼ばれる塔が設置され、その周囲を取り囲むように山小屋を模した木造の出店が軒を連ねる。魔術を活用した熱の無い光の粒が街中をきらきらと飾り立て、華やぎを添えていた。 「夕飯は食堂で食べるとして……あとはケーキと飲み物、飾り付けだな」 「去年使った飾り、探せばあると思うよ?」 「アンタのは、あのおどろおどろしいやつだろ」 シングルヘルなどとふざけて、黒いクロスだの骸骨の燭台だので飾り付けられていた部屋を思い出し、ベルロックはうんざりと言った。あれならハロウィンの方がまだ似合いだ。 「花でも買うか」 「ベル君に任せるよ。……あっ、ミイラのストラップだって。オーナメントもあるよ! サンディスタムからの輸入品かな」 「……飾りは俺が任されたから、アンタは自分の好きな酒でも買ってくれ」 妙なものを買い込まれてはたまらない。ベルロックは立ち止った相棒の腕を引いて、風変わりな品々の並ぶ店頭からその体を引きはがした。 面白そうだったのに、と束の間口をとがらせたリントヴルムは、すぐに気分を切り替えてベルロックの隣に並ぶ。デモンの証である黒い翼が通行人に当たりそうになって、慌てて小さく折り畳んだ。 「この人混みじゃ、ケーキは最後に買った方が良さそうだね。まずはさ、ホットワインでも飲みながら歩こうよ」 時刻は昼過ぎ。日が暮れるまでには、まだたっぷりと時間がある。リントヴルムはシナモンのきいたホットワインを、ベルロックはホットチョコレートを買い求めた。湯気のあがるマグカップで掌を温めながら、マルシェを見て回る。 花瓶が無いことに思い当たったベルロックは、花の代わりに柊の葉と木の実で飾られたリースを買うことにした。それから深い青と赤を組み合わせたモザイクガラスのキャンドルホルダーを見つけて、僅かに思案してから手に取った。骸骨の燭台よりはずっと聖夜に相応しいはずだ。 会計を済ませていると、隣の店を覗きこんだリントヴルムが声を上げる。 「見て見てベル君、竜の渓谷のドラゴンが焼いた肉だって! 本当かな?」 「あそこの警備隊は、そんな商売っ気のある風には見えなかったけど……詐称じゃないだろうな」 「商人と手を組んだのかもよ」 二人は竜の渓谷を訪ねたことがあった。予定外の戦闘ののちに参加した親睦会では、竜と警備隊が協力し合って大量の肉を焼いていた。独自に調合されたスパイスと強い火力による野趣溢れる味わいを思い出し、リントヴルムは今夜の酒の肴を決めた。 「これに合わせるなら、ソレイユよりシャドウ・ガルテン産のワインかな。ビールって選択肢もあるけど……」 「酒のことはわからないから、好きに選んでくれ」 「それならさ、一本向こうの通りに行っても良いかな? 品揃えの良い店があるんだよね」 リントヴルムが先導して路地に入り、リュミエールストリートから離れる。抜けた先の通りは、主に辻馬車や荷馬車が行き来するための道らしい。店舗より倉庫や工房が目立ち、メインストリートに比べれば静かだったが、目的の店にはそれなりに客が入っているようである。 「俺はここで待ってる」 「了解。ベル君用のジュースもあったら買っておくね」 混みあう店内を荷物を抱えて連れ立つのは厄介だ。ベルロックは出入り口の脇に立ち、店に入るリントヴルムを見送った。 ●遭遇 「遅いな……」 酒を選ぶのに時間が掛かっているのか、それとも会計が混んでいるのか。両方という可能性もある。なかなか戻ってこないリントヴルムに、ベルロックは店内の様子を伺おうと足を踏み出した。 「おっと……」 「悪い、急いでるんだ!」 タイミング悪く、店の中から出てきた客とぶつかり、たたらを踏む。と、同時に、背後で馬の嘶きがあがった。 ちょうど通り過ぎようとした馬車が、ベルロック達のせいで急な停車を強いられたらしい。ぶつかってきた相手が一目散に走り去ってしまったので、御者の文句の矛先はベルロック一人に向けられる。 二頭立ての四輪――安い辻馬車などではなく、貴族が所有するキャリッジだ。 「すみませ、ん……?」 謝辞を口にしながらも、ベルロックはこの通りには珍しい――エトワールは国内有数の大都市だが、主に暮らしているのは市民と軍事階級である――馬車をそれとなく観察した。こちらには無関心に座っている乗客の姿を見て取って、ひっかかりを覚える。 (どこかで見たような……) 浄化師として働いていれば、貴族と面識を持つこともある。だが、元探偵であり観察眼と記憶力に自信のあるベルロックが曖昧にしか思い出せないことは、不思議だった。 御者が手綱を操り、せわしなく白い息を吐く馬を宥める。 進路の邪魔にならぬよう下がろうとしたベルロックの腕を、何者かが後方へ強く引っ張った。 「せっかく縁が切れたと思ったのに、こんな所で会うなんてね。……父さん」 「リント……?」 驚いて見遣れば、リントヴルムが警戒もあらわに車上を睨みつけている。そこで初めて、乗客の視線が地上を向いた。 「誰かと思えば、久しく見ない顔だ。まさか、今頃になって帰る家を思い出したなどと言うのではあるまいね」 ニール・ガラクシア――正真正銘リントヴルムの父親であるが、両者の間に家族のぬくもりは微塵もない。記憶の中のそれと寸分違わぬ酷薄なまなざしに、リントヴルムは心臓が冷えるのを感じた。 「馬鹿を言うな。母さんは……」 言いかけて、いや、と撤回する。 「予想はつくからいい」 母にしか興味のない父と、息子を自身の一部のように愛する母。あの息苦しい家庭が、リントヴルムが抜けたくらいで健全になるとは思えなかった。 「僕はもう、親なんて必要ない。生涯のパートナーがいるからね」 見せつけるようにベルロックの肩を強く抱き寄せれば、車上の男は小さく笑った。決して、祝福のそれではない。 その証に、男はベルロックを見て言った。 「君はいつか後悔する。壊れるだろう」 それは予言のようであり、呪いのようだった。 「……うるさいよ。僕はあんたのようにはならない」 男が片手をあげて、御者に合図を送る。鞭が振るわれ、車輪が回る。 馬車が走り去るのを待たずに、リントヴルムはベルロックの肩を抱いたまま、逆方向へと脚を動かした。 (リントのお父さんだったのか……) 車輪の音を背後に聞きながら、ベルロックは目の前で交わされたやりとりを思い返していた。それと同時に、納得もする。見覚えがあると感じたのは車上の男がリントヴルムに似ていただけでなく、以前、ある魔女の魔法を通してその姿を見たことがあるせいだった。ベルロックは舞台を観るようにして相棒の過去の一部を垣間見たにすぎないから、即座には思い出せなかったのだ。 「なあ、リント……。さっきのって、どういうつもりで言ったんだ?」 馬車の気配が彼方に去り、ようやくリントヴルムの歩調が緩んだところで、ベルロックは声を掛けた。 「生涯のパートナー、って」 「えっ! だって僕とベル君は契約を結んだパートナーでしょ?」 リントヴルムは大袈裟に両手を広げておどけた。 「……まあ、嘘はついてないけど」 ベルロックは釈然としないまま呟く。 祓魔人と喰人は互いの命を支え合う存在だ。一人では長生きできない。いったん契約を結べば、滅多なことが無い限り一生を共にする。 だが、あんまりにも真剣な顔で言うから――そして、ベルロックはリントヴルムを口説いている最中だから、別の意味にとりたくもなるというものだ。 「それに……俺が、リントに壊されるって、どういうことだ?」 「さー? 僕に聞かれてもね」 ひょうきんな仕種でリントヴルムは肩をすくめた。話をはぐらかそうとしているのは明白だ。 ベルロックは言葉を重ねる代わりに、その横顔をじっと見つめる。うやむやにしていいようなことではないと、直感的に悟っていた。 やがて、根負けしたように黒曜石の瞳がベルロックを見返した。 「……ベル君には、いつか話すよ」 それが、今のリントヴルムの精一杯なのだろう。いつか話す、という言葉に嘘は感じられない。 「待ってる」 ベルロックは頷き、相棒の肩を軽く叩いた。 「ところでアンタ、酒は?」 「あっ」 リントヴルムにしては珍しい素の声があがって、ベルロックは遠慮なく笑った。
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*** 活躍者 *** |
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