~ プロローグ ~ |
1719年12月――教皇国家アークソサエティは、今年もクリスマスムードに包まれています。
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~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
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~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜は終わらない』の対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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16 ドラゴンに乗って
竜と仲良くなって 初めての空中散歩を楽しみたい たまには姉弟でゆっくり過ごせたら 許可があれば両手を伸ばし 竜をぎゅっと抱きしめる 自分たちを乗せてくれるという まだ若い竜の目を覗き込んで笑顔 始めまして 僕はリューイ こっちは姉のセラ…セシリアだよ 君の名前は? 服に埋もれるようなセラの姿に 慌てて自分の荷物を受け取る 揶揄うような声音に 少し頬を赤くして …そんなに子どもじゃないよ もう くすくすと笑う声に唇を尖らせる だけど セラが楽しそうにしているのがわかる それが嬉しくて すぐに表情は緩んでしまって 空へ舞い上がれば歓声 すごい!建物があんなに小さく…! 風に煽られたセラを慌てて抱き寄せてる いつも大人びた姉を 護れている気がして笑顔に この姿勢のが暖かいし、安心 まっすぐな青緑の眼差しにぱちくり 深く頷く 大丈夫だよ セラと一緒だもの ひとりだったら へこたれていたかもしれないけど 小さな祝福に一拍置いて満面の笑顔 |
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~ リザルトノベル ~ |
●特別な日 遮るもののない緋色の空を背に、大きな影が浮かび上がっている。 年若いエレメンツである『リューイ・ウィンダリア』は、期待に輝くまなこで聳える影――翼持つ巨体、ドラゴンを仰ぎ見た。 ここはドラゴンたちの終の棲家、竜の渓谷と呼ばれる地域にあるニーベルンゲン草原だ。 今日は、一年に一度の聖誕祭。日頃の感謝も込めて祝祭に相応しい特別な体験を贈りたいと、渓谷の管理人にして竜の守護者ワインド・リントヴルムが浄化師たちを招いたのだった。 幼い姿で教団の制服に身を包む『セシリア・ブルー』は、パートナーであり弟のような存在でもあるリューイの屈託のない表情を盗み見て、小さく微笑する。この秋から冬にかけては、終焉の夜明け団による大規模な企てやアウェイクニング・ベリアルを発症した喰人の対処など、心の重くなるような指令が多かった。パートナーの年相応な笑顔を見るのは久しぶりだ。 人々の平穏を守るため、世界の安定を図るために力をふるうのが浄化師の使命とされている。リューイは教団の掲げる理念をごく自然に受け止め、数多くの浄化師を輩出してきた家系を誇りに思い、自身もまた教団の一員として励んできた。 しかし、その純真な志に迷いが生じて来ていることを、セシリアは知っている。 教団の成り立ちや終焉の夜明け団との関わり、魔女の迫害の歴史――最近になって、世界の負の側面に触れる機会が増えてきたことが、リューイの心境に変化をもたらしているのだ。これまで信じてきたものを、今まで通り信じても良いのか。自分が誇りに思ってきたものは、本当に正しかったのか。 かげりのある表情で物思いにふけるリューイを、セシリアは一番近くで見守ってきた。 セシリア自身は迷いを持たない。幼い少女の姿をしていても、実際にはヒューマンの数倍の寿命を持つマドールチェだから、というのも一因ではある。だが最たる理由は、セシリアが己の存在意義をとうに決めてしまっているからだった。 リューイを護ること、そのためにセシリアは存在している。願うのはただ一つ、リューイの幸福。教団が掲げる正義の真偽も、浄化師のあるべき姿も、二の次だ。 教団が世界の全てじゃない。 浄化師であることが人生の全てじゃない。 リューイ自身が望むように生きれば、それで良い――教団上層部が聞けば眉をひそめるかもしれないが、それがセシリアの偽らぬ気持ちだった。 「竜の渓谷へようこそ! 今宵が特別なものになりますように」 黒い額当てをした渓谷警備隊の青年が愛想よく二人を迎えたのをきっかけに、竜は優美な仕種で首を巡らし、小さな来訪者たちと目線を合わせた。 自分と同じ金色をした大きな瞳が瞬くのに、リューイは緊張と興奮をこらえながら歩み寄った。 「はじめまして。ええと……」 お近づきの印に抱きしめたい。そう伺いを立てると、ドラゴンは頷く代わりにゆっくりと瞬きをして了承した。 リューイは精一杯伸ばした両腕で、竜の太い首を抱擁する。ドラゴンがその気になれば首の一薙ぎ、翼の羽ばたきひとつで人間など容易く打倒せてしまえるが、巨体は身動ぎせずに親愛の証を受け取った。 とても腕には収まりきらない大きな生命力を感じて、ほう、と感嘆の息がもれる。リューイは腕を下ろすと、竜の瞳を覗きこんで感謝と共に笑みを浮かべた。 「僕はリューイ、こっちは姉のセラ……セシリアだよ」 「セシリアです。どうぞよろしくお願いします」 隣に並んだセシリアを見て、リューイはあっと声を上げる。セシリアは、分厚い布地で出来た二人分の上着を抱えていた。成長途上にあるリューイよりさらに小柄である彼女は、そうするとほとんど上着に埋もれているように見える。 「はい、リューイ。忘れないように、用意したわ」 慌てて自分の防寒着を受け取ったリューイは、からかうようなその声音にほんのり頬を赤らめた。 「……そんなに子供じゃないよ、もう」 「あら、ごめんなさい」 口を尖らせた弟分に、セシリアは肩を竦める。なんてことないやりとりだというのに、妙に胸が弾む。どうやら浮かれているのはリューイばかりではないらしい。 そんなセシリアを見て、リューイも表情をやわらげる。リューイの笑顔をセシリアが喜ぶように、リューイもまたセシリアが楽しそうにしていると嬉しいのだった。 ふ、ふ、ふ、という深い響きの笑い声が、第三者からあがった。 「仲が良いのだね、小さき友よ」 声の主は、傍らに控える竜だ。 「私はカメリア、と呼ばれている。今日は私が、きみたち二人を空の旅へご案内申し上げよう」 成熟したドラゴンは言語による意思疎通が可能だ。竜の渓谷ではまだ若い方だと聞いていたが、カメリアは流暢に言葉を操った。天然の鎧である硬い肌は、優しい紅色をしている。その色から、花の名を与えられたのだろう。 「カメリアは飛ばしすぎる癖があってね。お二人が吹き飛ばされないよう特別に鞍を仕立てたので、どうぞ安心して乗ってください」 嘘か本当か、警備隊員がおどけた口調で言う。カメリアは首を伸ばして知らんぷりだ。 リューイとセシリアは顔を見合わせたのち、促されるまま防寒着を着込み、小山のような紅色の背中へよじのぼった。 「特別な鞍……」 その正体は、革のベルトで固定されたクッションだった。 確かに竜の背の硬くごつごつとした感触は和らげてくれるが、とても安全性が保障されているとは思えない。半信半疑になりつつ、横並びに座る。クッションの縁へ取っ手の形に縫い付けられたベルトを掴んだところで警備隊員の合図する声がして、ぐわん、と竜の背が持ち上がった。立ちあがっただけだというのに、急に地面が遠くなる。 「では行こう」 カメリアは言い、キュイ、と短く鳴いた。 エレメンツであるリューイには、竜の口先から膜状の魔力が広がってヴェールのように自分達を包み込むのがわかった。間髪空けずに、視界がぶれる。カメリアが身を低く屈めたのだ。 そして、次の瞬間―― 「わあ……!」 二人を乗せた巨体は、空へと舞いあがっていた。 ●聖夜の空中散歩 夕日に照らされた広大な草原が、みるみる遠ざかる。警備隊員たちの住む集落が、瞬く間に豆粒ほどの大きさになった。 「すごい! 建物があんなに小さく……!」 「鳥になったらこんな感じかしら……」 素直な歓声を上げたリューイにつられて、セシリアも小さく声をこぼす。ハロウィンに訪れた孤島では魔法のお菓子による束の間の浮遊を経験したが、地上を離れるという意味では同じでも、今回の飛行はまったく別種の体験だった。 どうやら、竜の魔法が風の衝撃や冷気を抑えてくれているらしい。相当な速さで飛んでいるにも関わらず、二人は頼りない鞍から転げ落ちることなく会話を楽しむ余裕を持てた。竜の背は広く逞しく、間近で羽ばたく翼は力強い。墜落の恐怖は感じず、ただただ爽快だ。 カメリアは竜の渓谷の全容を見せるつもりのようで、大きく旋回する。ほどなくして、どこまでも続くかと思われた緑の草原が途切れ、眼下に大地の裂け目が現れた。真上から見下ろすと、その底を水が流れているのがわかる。上流へ目をやれば、冬の寒さにも凍ることなく瀑布が白い飛沫をあげていた。 「あの滝でドラゴンたちが水浴びをするのかな」 「天然のシャワーね」 しばらく渓流に沿って飛んだあと、カメリアは首を巡らせると、今度は一直線に飛び始める。どこへ向かっているのか、先に聞いてしまうのは勿体ない気がして、リューイとセシリアは黙って流れる景色を味わった。 この時期、陽が沈むのはあっという間だ。空は緋色から紫紺、そして深い藍色へと染まり、地上は暗く沈む。 風に千切れる雲を追い、ふと頭上を仰いだリューイは、目を瞠った。 「セラ、上を見て」 上? とセシリアは首を傾げたが、その言葉の意味はすぐにわかった。足元の景色にばかり気を取られていたが、絶景は頭上にも広がっていたのだ。 果ての無い夜の空に、無数の星々が瞬く。日頃は街の灯りに掻き消されてしまう小さな星までもが、宝石のように澄んだ輝きを放っていた。木々や屋根といった余計なものが無いおかげで、より一層空の広さが沁みてくる。 「こんな夜空は初めて見るね」 「ええ。月も、あんなに近いわ」 じっと見上げていると、深い夜の彼方へ吸い込まれてしまいそうだ。セシリアは片手をあげ、天を指差しながら星の名前を諳んじた。小さな指先が示す星を目で追って、リューイは脳裏に星座を描く。 「友よ」 すっかり星空に目を奪われている二人へ、カメリアが殊更優しい声音で呼びかけた。 「地上の星空も見えてきたようだ」 言葉に従って視線を下げ、今夜何度目かの感嘆の吐息を漏らす。黒々とした海のただなかに、小さな光の粒が島の形を浮かび上がらせていた。 「あれはブリテン? いつの間にか、こんなところまで来ていたなんて」 見渡せば他にも街明かりが見て取れたが、ブリテンは工業の盛んな地域だけあって一際まばゆく煌めいていた。一列に連なって動く光の筋は、聖夜仕様に飾り付けられた特別列車だろうか。 「一番明るい所はアルバトゥルス駅かし、ら……っ!」 「セラ!」 わずかに前のめりになった矢先、風に煽られ大きく揺らいだセシリアの肩を、リューイは咄嗟に抱き寄せた。間の悪いことにカメリアが高度を下げたため、少女の軽い体が浮いてしまったのだ。 申し訳なさそうに詫びるカメリアに、リューイは大丈夫、と明るく返した。慌てはしたものの、日頃は大人びた姉を護れた気がして少し誇らしい気分だった。 そのリューイの腕の中で、セシリアは目を丸くしていた。 「ああ、びっくりした。……ありがとう」 夜景がよく見える高さまで降りてきて、飛行は安定を取り戻した。それなのに、ぎゅっと強く肩を抱かれ、セシリアは不思議そうにリューイを見返す。 「リューイ?」 「この方が暖かいし、安心」 ね、と屈託なく笑いかけられて、セシリアの唇にも自ずとやわらかな笑みが湧いた。幼い頃から変わらぬ純真なその笑顔を、どうかこれから先も見せてほしいと思う。 「……ねえ、リューイ。仕事は辛くない?」 深い湖の色をした瞳に見つめられて、リューイは瞬いた。 一般的にマドールチェは感情表現が乏しいと言われているが、リューイは全くそう思わない。セシリアが心の底からリューイに親愛をよせ、案じてくれていることは、その目を見れば明白だった。 「大丈夫だよ。セラと一緒だもの」 返す声に、迷いはない。 「ひとりだったら、へこたれていたかもしれないけど……」 セラがいるから、と繰り返された言葉にセシリアは微笑んで、一塊にくっついた体を更に寄せた。背伸びをして、リューイの額へそっと口付けを贈る。 「……貴方の道行きに、幸いを」 きょとんとした顔で祝福を受け取ったリューイは、一拍おいて満面の笑みを浮かべた。 世界は綺麗なだけじゃない。辛くても、苦しくても、立ち向かわねばならない時もある。だがきっと、二人一緒ならば前に進んでいけるだろう。 竜の魔法に守られてなお、びょうびょうと吹き抜ける夜風はきりりと冷たい。だが身を寄せ合ったリューイとセシリアの胸は、ぽかぽかと温かかった。 二人の先行きを寿ぐように、天上の星と地上の星がきらきらと輝いている。
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*** 活躍者 *** |
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