~ プロローグ ~ |
1719年12月――教皇国家アークソサエティは、今年もクリスマスムードに包まれています。
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~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
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~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜は終わらない』の対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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2
ドクターの部屋にお邪魔するのは初めてだが…予想通りといった感じだ 汚くはないが…雑然としているな ?足元に古い紙が 親愛なるレオンへ…? あの、ドクター、これは… 偽名?男性の名前じゃあないですか… ドクターの語る昔話を聞いて唖然 そうか、男性のような服装や…不誠実を嫌うのはそういう… 純粋で頭のいい人だとは分かっていたが、そういえば過去の話はあまり聞いたことがなかったな …あの、ドクター 何と言っていいか分からないのですが… あくまでそれが昔話なら、今は…その… 今は、別にその格好でいる必要もないんじゃないですか…? 確かに教団は閉鎖的な人間もいます ですが、何というか…自由主義的な部分も多いかと思います だから…もっと、その…自由でいてもいいのでは… 怒られるかと思ったが…ドクターが笑ってくれた… ではドクター、私から提案があります 予行演習の為に、今からマーケットに行きませんか? 少し可愛らしいものを見繕いましょう |
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~ リザルトノベル ~ |
薄灰色の雲が満ちた空に、幾つもの白雪が舞う。 今日は、クリスマス。須らくの想いに、束の間であれど確かな安息が約束される日。 ここ、薔薇十字教団の寮でもそれは然り。普段は、異性の部屋に入る事は禁止事項。けれど、今日は。今日だけは。明日をも知れぬ日々を送る者達に、束の間の祝福を。 其の至福が、如何なる語りを刻むものか。知るのは白の御使いばかり。 「さあ、いいよ。入っておいで」 「はい。失礼します」 開いたドア。その向こうで手招きする『レオノル・ペリエ』に一礼すると、『ショーン・ハイド』は部屋の入り口を潜った。 足を踏み入れると、微かな華の香りと薬品の匂いが鼻をくすぐる。広がる空間を見渡すと、『ふむ……』と小さく頷いた。 (予想通り……と言った感じだな) ショーンが相方であるレオノルの部屋に入るのは、初めての事。普通、女性の部屋に男性が招かれると言うのは、何なりと特別な意味が付いて回るモノ。けれど、彼らの間にあるのは、それらとはまた異なる信頼関係。実際、この場においてもショーンは平常心であるし、レオノルに至っては言わずもがな。 「散らかってて悪いね。適当に除けて、座るといいよ」 「はあ……」 呟いて、周囲を見回す。 (汚くはないが……雑然としているな) そんな事を考えながら、さて、何処にどれを除けようかと視線を落とすと……。 (うん?) 古い紙が一枚、足元に落ちている。 何だか、妙に気になった。拾って、裏を返す。そこには、流れる様な筆跡で一文。 ――親愛なるレオンへ―― 一瞬、ピシリと固まる。 書いてあったのは、明らかに男性の名前。真面目な話、この部屋の中で一番遭遇する事を想定していなかったモノ。 「? どうしたんだい?」 あからさまに挙動不審になったショーンを見て、レオノルが小首を傾げながら訊いてきた。 「す、すいません。見るつもりはなかったのですが……」 一体どんな可能性を考えているのかと自身に問いただしたくなる心境で、ショーンは持っていた紙を彼女に見せた。 怪訝そうな顔で紙を受け取ったレオノル。目を走らせて、ああ、と言った顔をする。 「こんな所に、手紙が落ちていたか」 「あの、ドクター。これは……」 オドオドと訊ねるショーンに、悪戯っけのある笑みを向けるレオノル。 「これは? 君は、何だと思う?」 「あ、いや……」 思わず口篭る彼を見て、クスクスと笑い出す。 「あはは、よくご覧。これは、私の筆跡じゃないよ?」 「え……?」 言われて、よく見る。成る程。筆跡は確かにショーンの知る彼女のモノではなかった。 「あ……」 「そう。コレは私が書いたモノじゃない。私に送られてきたモノさ」 「は、はあ……」 「らしくないなぁ。いつもの君なら、すぐにも気付くだろうに」 可笑しくて仕方ないと言った体(てい)で、『一体、どんな想像をしたんだい?』などと訊いてくるレオノル。 「し、しかし、『レオン』と言うのは……」 些かしどろもどろになりながら、せめての抵抗の様に口にした言葉。それを聞いた途端、転がる様に聞こえていたクスクス笑いが消えた。 「?」 前を見ると、レオノルは変わらず微笑んでいた。否。変わらずと言うのは、語弊がある。その微笑みには、色がなかった。まるで、硬く凍てついたスノードロップの蕾の様に。 「……ドクター?」 突然の変化に戸惑うショーンに向かって、レオノルは透明な表情のままで言う。 「『レオン』と言うのはね、私の前の偽名だよ」 聞いて、キョトンとするショーン。 「偽名? 男性の名前じゃあないですか……」 彼の疑問に少し、ほんの少しだけ顔を伏せて考える様な素振りをすると、彼女はポツリと呟く。 「……まあ、君になら話しておいてもいいかな?」 「……?」 声をかける前に、ひょいと顔が上がる。ショーンの姿を映す、青い瞳。彼女は、言う。 「じゃあ、今日は昔話をしようか」 微笑む顔は、やっぱり透明なままだった。 「エレメンツの母は、私を産んですぐアルフ聖樹林へと帰ってしまった。その後人間である父方の叔父の下に養子に出されてね」 明々と燃える暖炉の前。適当に荷物を除けた椅子に座り、ショーンは向かいに座ったレオノルの話に耳を傾けていた。 テーブルの上には、彼女が煎れてくれたハーブティーが甘い湯気を立てている。お茶請けに、砂糖菓子も出ている。けれど、どちらも手を付けようとはしない。 窓の外は、雪。深々と積もりゆく静けさの中に、エレメンツの少女の澄んだ声だけが響いては溶けてゆく。 「才能を見出されて学校に行ったんだけど、当時もエレメンツ、しかも女にそんな権利はなかった。私に出来たのは、性別を偽る事。そして、人種を超える才能を見せつける事だけだった」 紡ぐのは、自身が忘れたと言う年月。その遠くの記憶。怒りもなければ、嘆きも悲しみもない。ただ、淡々と。殴り書きの手帳を読む様に。 「叔父は裕福だったから縁談はあったよ。どんなお嬢さんでも受け入れますよと言いつつも、学問を嗜む女だと理解した途端片っ端から破談になったよ」 ククッと笑う。侮蔑か。哀れみか。それとも、自嘲か。そんな事も分からない程に、透明。何処までも。何処までも。まるで、何もかもを悟りきってしまったかの様に。 「男性不信じゃないよ」 色の無い声で、彼女は言う。 「尊敬する先生も男だし、信用している君も男だ」 ほんの少しだけ、色付く空気。建前じゃない。虚しい事と知りつつも、覚える安堵。 「私が信じていないのは、世間や外聞だよ」 白い指が、初めてティーカップを手に取る。促され、こちらも。 「外聞に囚われた人間は、愚かだ」 薄い唇が、薄く色づいた液に浸される。目を閉じ、噛み締めるのは香る潤いか。それとも、かの時の追憶か。 「……昔々の、お話だ」 口にしたお茶は酷く冷え、儚く甘い味がした。まるで、彼女の想いの様だ。そう思った事は、罪だろうか。 部屋の片隅で、時計が鳴いた。 いつしか針は午後の三時を指している。部屋を訪れた時は、まだ昼過ぎだった筈なのに。 レオノルは、何も言わない。 ショーンもまた、何も言わない。 ただ、秒針が無機質に時を刻む音が響くだけ。 (……そうか。男性のような服装や……不誠実を嫌うのはそういう……) 静まり返る思考の中で、ショーンは思う。 (……純粋で頭のいい人だとは、分かっていたが……) 実際の所、レオノルがその頃の事を傷として抱えているとは思わない。自分の知る彼女は、そんな弱い女性ではない。 かの時の不条理も。醜悪さも。そして、寂しさも。全てを受け入れ、理解し、熟成させて。今の自我の糧としている。 レオノル・ペリエと言う女性は。その心は。強い。 どんな刃も。鈍器も。毒も。濁らせ挫く事は叶わない程に。 それは、決して間違いではなくて。 けれど。 だけど。 それなら、あれは何だったのだろう。過去を紡ぐ中、青の瞳の中に見えていた透明な揺らぎは。 ……否。答えなど、知れている。 如何に強かろうと。如何に純粋であろうと。 彼女とて人間。一人の少女。例え傷として抱かなくとも、注ぎ込まれた汚泥は残る。清冽の中、麗水に淀む痼りの様に。 「……あの、ドクター……」 知らずの内に、声が出ていた。 彼女が、『?』と言った顔でこちらを見た。自分を映す、青。その清さが、己の逸りを咎めている様に思える。 ああ。自分は、何を言おうとしているのだろう。ショーンは、自問する。 届かない時間と。及ばない思考。受け止める事など、叶いもしない器。 そんな己に、この女性(ひと)の想いを抱き導く事など出来る筈もないのに。 けど。それでも。 「何と言っていいか、分からないのですが……」 届けたかった。 「あくまでそれが、昔話なら……」 力に、なりたかった。 「今は……その……」 せめて。せめても。 その青の奥で揺らぐ淀みを、少しでも溶かす一滴を。 「今は、別にその格好でいる必要もないんじゃないですか……?」 象った言葉は、思う以上に強かった。 「確かに、教団には閉鎖的な人間もいます」 自分の思いを。届けたい、願いを。 「ですが、何というか……自由主義的な部分も、多いかと思います」 愛する師へ。信頼するパートナーへ。 「だから……もっと、その……自由でいてもいいのでは……」 ささやかでも、この聖なる日の贈り物となる様に。 「………」 「………」 再び戻ってくる静寂。何となく気まずくて、誤魔化す様にお茶をガブリと飲む。急いで流し込んだから、ちょっとむせた。 咳き込みながら、視線を上げる。正直、怒られるだろうと思っていた。冷ややかな視線を覚悟して見た先には――。 キョトンと目を丸くした、レオノルの顔。 予想外の反応に、ショーンもキョトンとする。 しばしの間。そして――。 「フ……フフフ……」 コロコロと転がり出す、笑い声。口元に手を当てたレオノルが、ひどく可笑しそうに笑っていた。 「どんな反応をするかと思えば……」 目尻に浮かんだ涙を拭いながら、彼女は言う。 「そうか。昔の事だから、か……。これは、一本取られたね」 外した眼鏡をかけ直して、上げる顔。そこにはもう、先の様な透明な憂いはなくて。 「些か、癪に障らなくもないけれど……」 ニコリと浮かぶ微笑みは、まるで日向に綻ぶスノードロップ。 「お礼を、言わせてもらおうかな。ありがとう、ショーン」 「いえ……。ドクター」 その笑顔を、これまでで一番美しいと思いながら、ショーンは満ち足りた思いで頭(こうべ)を下げた。 「うん。じゃあ、来年の目標はちょっと変わってみる事にしようか」 煎れ直したハーブティー。甘い湯気が漂う中で、ポリポリと砂糖菓子を齧りながらレオノルがそんな事を言う。 聞いたショーン。少し考えて、ポンと手を打つ。 「ではドクター、私から提案があります」 「ん、何だい?」 小首を傾げるレオノル。その仕草を不躾ながらも愛らしいと思いながら、名案と自負する思いつきを口にする。 「予行演習の為に、今からマーケットに行きませんか?」 「マーケット?」 「ええ。少し、可愛らしいものを見繕いましょう」 提示された案に、ほんのちょっとだけ思案顔。そして、レオノルはニコリと笑う。 「可愛いものか。うん、賛成だよ」 「では」 立ち上がったショーンが、恭しく差し伸べた手。それを、迷う事なく伸びた手が優しく包んだ。 外に出ると、辺りはすっかり白い衣装に包まれていた。見上げると、薄闇の満ち始めた空からは、まだ降り続ける雪の帳。 ああ、ホワイトクリスマスだね。 何処となく嬉しそうな彼女に『そうですね』と笑いかけ、転ばぬ様にエスコート。門の向こう、灯り始めた街の灯り。優しく。暖かく。そして鮮やか。年に一度。聖夜の輝き。 シャンシャンシャン。シャンシャンシャン。 耳に奏でる、鈴の呼び声。早くおいでと、急かす様に。 踏み出す足。純白の絨毯、キュッキュと歌う。 寒くありませんか? ああ、大丈夫。 気遣う声と、寄り添う声。少し歩いて門を潜れば、そこはもう祝福が満ちる場所。 微笑み合い、歩き出す。繋いだ手。断てる事なき、聖鎖の様に。 光の中、寄り添う二人。その姿を、どう見るかはひとそれぞれ。でもきっと、そのどれも彼らの絆を上回る事はない。 雪が舞う。光が踊る。鈴が歌う。 満ちる安らぎの中に、二人の姿は消えていく。 願わくば。願わくば。 いつかこの幸福が、永久のモノへとならん事を。
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*** 活躍者 *** |
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