~ プロローグ ~ |
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~ 解説 ~ |
老夫婦のケンカの理由は判りませんが、とりあえず仲直りした模様。二人はただ、きっかけを待っていただけだったのかもしれません。 |
~ ゲームマスターより ~ |
二人の仲を再確認し、深めるきっかけにどうでしょうか? |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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◆現状 唯:覚えてるけど悲しくてつい余所余所しい 瞬:あの時から最初みたいに余所余所しいけど 原因は不明 唯「喧嘩…と言うか… わ、わたしが一方的に思ってる事があって…」 瞬「思ってる事?」 唯「ま、瞬さんは…悪くないんです…!ただわたしが…弱いだけで…」 瞬「いづ…不安がらせてた…のかな ごめんね、違うんだ…いづはちゃんと強くなってる …俺が勝手に守りたいって思ってて」 唯「瞬さん…でもわたし…嫌です、そう言われる度に不安なんです」 瞬「…そっか」 ◆最後のキス ・気まずさを残しつつ思い当たるのはあの時 唯月「瞬さんと演劇の代役をやった事がありまして… 手の甲でしたが…その時、でしょうか く、くく口に直接はないです…っ!!」 |
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(老夫婦の言葉に、 ララエルに覆いかぶさるようにして(身長差がある為)キスをする) …最後にキスをしたのは今です。最初にキスをしたのも今です。 ケンカの原因は、僕が世界からベリアルを消し去ろうとして そういう依頼ばかりを選んでいたからです。 これからは、この子――ララエルの心の癒しになるような依頼も 選んでいきたいと思います。 (ララエルに対して) 本当にごめん…これからは色々な場所へも一緒に行こう。 それから依頼という形を利用して、君の初めてを奪った事も。 |
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◆トウマル 互いに不機嫌な理由なら“グラが飯を食わないこと”が発端。 食堂で顔合わせないと思ってたら時々飯抜いてるんだと。 食えよ、と何度か言えばグラが完全に臍曲げた。 で、グラ。先攻任せた。 ジョ……誰だよ。いや聞かない方がいいのか 仲間だと思われてるのでは(喰人氏の頭部を見上げ) やっぱ俺も言わなきゃか 適当に嘘ついてもバレる気しかしない 昔の主じ……えーと、雇い主な。その人だな 俺わりと玩具扱いっつーか気に入られてたんだよ 俺が嫌がるのが愉しかったみたいでな。 キスもきっとその一環だな ハイ終わり。不快な話題だったらすまん なんだよグラ……? あ、やっぱ指冷てぇじゃねーか 食えってば。 絶対だな。部屋まで迎えに行くからな |
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姉が忘れた僕達の過去 話せない、と言ったら悲しませてしまって 最後のキス、ですか 数ヶ月前に…彼女と と、不意に隣の姉の額に口付けて …僕達は双子ですが 家の問題で別に育てられ、離れて暮らしていました ある日僕がこっそり立ち入った棟で 自分そっくりな女の子と出逢って友達になったんです バレたら咎められるので、会う時はいつも内緒で 別れ際には、こうしてキスをしてました また会いに来るという誓いの証に その子が、双子の姉だと知った時は驚きました 今は浄化師としていつも傍に居られて だから別れのキスは必要なくなってしまった、と言いますか… あ、額ってノーカウント…だったりします? 僕は…ただ怖いだけだ いつか話すから…ごめん、姉さん |
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◆アユカ 二人が仲直りできてよかった…安心したよ~ キスは…浄化師になる時、かーくんの手の甲に…かな 儀式みたいなものですけど (…この人と一緒に頑張るんだって、心に誓ってしたんだったなあ) …ごめんね、かーくん それにしても…わたしたち、キスするような仲に見えますか? そんなことないのにね ◆楓 いつの間にか解決したようだ さすがは長年の連れ添いか キスだと…!? 女性相手は勿論、親愛の情の口付けすら記憶にない いっそ「朝食に使った箸」とでも言うか? 逡巡していると、アユカさんの言葉で契約の時を思い出す (そうだ、記憶を失った彼女を支えたい…そう思ったんだ) …すみません、アユカさん …… そうですね、そういう仲ではありません |
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■会話 千亞「べ、別に僕らは喧嘩なんて…!」 珠樹「そうです、お二方。私達は深い愛で結ばれております、ふふ」 千亞「嘘を吹き込むな!(蹴り)」 珠樹「ふふ、愛が痛気持ち良いです…!(恍惚)」 ■キス 千亞「…キ、キス?(赤面)」 (兄さんが行方不明になってから、僕は女性の振る舞いを止めたし、恋人もいないし…) 千亞「家族と、かな…珠樹はどうなんだよ?」 どーせ、そこいらで女性口説いてるんだろ、と嫉妬しつつ 珠樹「…記憶にございません」 千亞「殴るぞ」 珠樹「いえ、本当です。あ、でもやり方はわかりますので、千亞さんぜひ今、私のファーストキスを奪ってくださ…」 千亞「要らん!(蹴り)」 そう言いつつも、どこか安堵する千亞。 |
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~ リザルトノベル ~ |
穏やかな風がさやさやと木々を揺らし、木漏れ日が小さな家々に青いマダラの影を作る。昨日まで、村はほのぼのとした雰囲気に包まれていたのだが……。
突然始まった老夫婦たちのケンカが原因で、村はギスギスしていた。 さて、教団から指令を受けてやってきた6組の浄化師たちは、村に平穏をもたらすことができるのだろうか。 ●杜郷・唯月と泉世・瞬 「え?」 仲直りを促していたはずなのに、いつの間にか立場が逆転してしまった。ケンカの原因を問われてドキマギする。隣に座る瞬を意識して、唯月は少し腰を横にずらした。 老夫婦のまなざしを避けるように視線を落とす。 「喧嘩……と言うか……」 思いだすと今でも胸がチクリと痛む。 少し前の話だ。 戦いの最中に瞬に「守らなきゃ」と言われ、唯月は「強くなれてない?」とショックを受けていた。パートナーの足手まといになっていると思うと辛く、今日まで引きずっていたのだ。 老夫婦は年長者の経験と観察力で、二人の間に吹く隙間風に気づいたのだろう。 「わ、わたしが一方的に思っている事があって……」 「思っている事?」 瞬は体を横にして唯月に向けると、悲しそうな顔をして「なに、なんでも言って」と訴えた。 「俺、いづの気分を悪くすること何かした?」 「ま、瞬さんは……悪くないんです! ただ、わたしが……その……弱いだけで……。あの時から不安で……」 告白の思いがけない内容に、こんどは瞬が「えっ」と声をあげる番だった。 なんのことだろう。あの時っていつ? 視線を天井で泳がせて、小さな心当たりをエサに意識の下に沈み込んだ記憶を手繰り寄せる。 あ、もしかして――。 「いづ……。不安がらせてた……のかな。ごめんね、違うんだ。いづはちゃんと強くなってる。俺が勝手に守りたいって思って……それでつい、そんなことを言っちゃったんだ」 「瞬さん……。でもわたし……嫌です、瞬さんにそう言われる度に不安になるんです」 「……そっか」 はっきり嫌と否定され、瞬は悲しくなった。 唯月が強くなっていることは実感している。唯月を守るのは自分の性。エゴと言えばそれまでなのだが……。 一方、唯月はぎこちなく笑い、それっきり口を噤んでしまった瞬を見て泣きそうになった。別に瞬を困らせるつもりはなく、老婦人の言葉がいまの二人の状態を改善するきっかけになるかも、と思ったのだ。 どうしよう、と焦っていると、老婦人が朗らかに「ケンカの原因がわかったところで、仲直りしなくちゃね」と言った。 「さあ、最後にキスをしたのはいつのこと?」 茶目っ気たっぷりにウインクを飛ばしてくる。 気がつくと、唯月はある指令中のエピソードを話していた。 「瞬さんと演劇の代役をやった事がありまして……。手の甲でしたが……その時、でしょうか。あ、く、くく、口に直接はないです……っ!!」 「手の甲に誓いのキッス……初々しいのぅ。では、もう一度。わしらにも見せてくれ」 躊躇っていると、横からそっと瞬に手を取られた。 「いづ、ごめんね。でも――」 瞬は唯月の引きよせると、白い手を自分の胸に押しつけた。 「これからも俺にいづを守らせて欲しい。いづは俺にとって大切な……心の守り人だから」 指でやさしく前髪を払われた。 熱く真摯な瞬のまなざしに、胸が苦しくなるほど動機が乱れだす。 突然、拍手がなった。 「二人ともいい感じね。とくに彼女、彼に恋していた若いころのわたしを思いだすわ」 振り向いた唯月にだけ見えるように、老婦人はウインクした。 (え、それってもしかして……わたしが瞬さんに恋……え、えええ――っ!?) 内心大いに焦りつつ、唯月は瞬の横顔をそっと盗み見た。 「うふふ。わたしたちも仲良くしなきゃね。クッキーの一枚や二枚でケンカなんて……」 「まったくじゃ。……けど、わしは食べておらんがの」 「もう、この人ったら!」 唯月と瞬は慌てて二人の間に割りこむと、またケンカになる前に止めた。 ●ラウル・イースト&ララエル・エリーゼ 「最後にキスをしたのはいつ?」 ラウルは老夫婦の言葉に微笑むと、さっと体の向きを変えた。背筋を伸ばし、真剣な顔でララエルと向き合う。 「急にどうしたの、ラウル?」 人差し指をそっとララエルの唇にあてて閉じさせる。 こちらを見上げるきょとんとした顔が愛らしくて、つい――いや、意識的に降下地点をずらした。 ララエルに覆いかぶさるようにして、キスをする。 (え? ええ――っ!?) 一秒後、ララエルは目を見開いたまま、すとんと床に腰を落とした。見る見るうちに顔が赤くなっていく。 「……最後にキスをしたのは今です。最初にキスをしたのも今です」 そういう自分の顔だって、きっと赤くなっている。 「わ、わわわ、私も最後にき、ききキスをしたのは今です……。さ、最初にキスをしたのも今です……」 ラウルは両手で頬を押さえるララエルの腕を優しくとって立たせると、老夫婦と向かい合った。腕に伝わるララエルの体温と、頬のほてりが気持ちいい。ふわふと心が浮き立つ。 「ケンカの原因は、僕が世界からベリアルを消し去ろうとして、そういう依頼ばかりを選んでいたからです。これからは、この子――ララエルの心の癒しになるような依頼も選んでいきたいと思います」 心のどこかでこのときをずっと待っていた。意地を張っていたわけじゃないが、言いだすタイミングがなかなか掴めなかったのだ。老夫婦の質問はまさに渡りに船だった。 老夫婦から承認の拍手と祝福を受け、改めてララエルに向きなおる。 「本当にごめん……これからは色々な場所へも一緒に行こう。それから依頼という形を利用して、君の初めてを奪った事も」 「あ、あの、その、ラウル――」 ララエルの目が動揺の色が浮かんでいるのを見たラウルは、その小さな体を抱きしめて慰めたくなった。 「わ、私も色々な場所に行きたいです……あなたと一緒に。初めて、も……ラウルとじゃなきゃ嫌です……!」 ああ――。 ララエルもまた自分たちのあいだの絆を感じていると、ラウルは確信する。 城に押し入り、両親を殺したベリアルに対する復讐心が弱ったわけではない。だが、己が復讐を遂げるために、大切な人を傷つけたくはなかった。 ララエルを幸せにする。 それはいまやラウルにとって、両親の仇を討つということと同じぐらい大切な、生涯をかけた誓いになっている。 「素敵なキス、そして仲直りだったわ。王子様とお姫様……二人とも、ほんとうにお似合のカップルよ」 誇らしげに胸を反らせたラウルの横で、照れまくるララエル。 「そ、そんな……わわ、私たち……お、おふたりも、とっても素敵です!!」 「ええ。だからもうケンカはやめてください。お孫さんたちも心配していましたよ」 ともかく、無事に老夫婦のケンカを収め、二人の仲をとりなすことができた。そればかりか、思いがけず自分たちの仲まで深まった。めでたし、めでたし――。 「あの……」 お暇するにあたり、ララエルは玄関まで見送りに来てくれた老夫婦にずっと気になっていたことを聞いた。 「どうしてケンカしたんですか?」 「「クッキーが――」」 老夫婦は怖い顔で互いに睨みあった。 またケンカになる、とラウルとララエルが焦ったその時、老夫婦が破顔した。 「もうすんだことだ。そうだろ、お前?」 「ええ、また焼けばいいわ」 と、目の前でまたキスをする。 すっかり仲良くなった老夫婦に見送られ、二人は笑顔で帰路についた。 ●トウマル・ウツギ&グラナーダ・リラ 「ケンカの理由?」 まいったな。トウマルは髪をかき上げた。横目で隣に座るすまし顔を盗み見る。どうやらグラナーダは自分から口を開く気はないらしい。悪いのは私ではありません、と言わんばかりの態度でしれっと、老夫婦が注ぐ視線を受け止めている。 先に根負けしたのは、やはりというかいつもことというか、トウマルだった。 「互いに不機嫌な理由なら『グラが飯を食わないこと』が発端だ。食堂で顔合わせないと思っていたら、時々飯を抜くんだと」 トウマルは憤懣やるかたない顔になると、胸の前で腕を組んだ。 「食えよ、と何度か言ったらグラが完全に臍曲げた。以上、俺からは終わり!」 グラナーダがやれやれと首を振る。 「他人が嫌がることを口にすべきではないと思います。まったく食べていないわけではありませんし。指令にも支障は出ていないでしょう?」 「そういう問題じゃねえ」 「うむ。ちゃんと食べんとな」 「ダイエット中なの?」 グラナーダは穏やかに微笑み返しながら、いいえ、違いますと答えた。 「つい、読書に夢中になって……気がつけば時間が過ぎているのです」 食事を抜く本当の理由は『寝ていたら一日終わっていた』なのだが、正直に告白する気はない。 「なんだよ、グラ……? 本ならいつも読んでいるだろ。飯食う時間ぐらい……」 「私は書物から様々な知識とともにエネルギーを受け取っているのです」 妙な言い訳をするなと怒るトウマルを、そうだ、そうだと老夫婦が応援する。 「わかりました。私が折れます。これからは一日一食、トーマと食事を共にする。それで構いませんか」 「絶対だな。部屋まで迎えに行くからな」 はいはい、といってグラナーダは苦笑に流れた。 「よーし、じゃあ次は――」 「仲直りのキスね」 老婆の言葉にトウマルは慌てた。 「お、俺たち子供じゃないから……仲直りの……あ~最後にキスをしたのはいつ、だったっけ? よし、グラ。先攻任せた」 急な振りに慌てるかと思いきや、喰人はすっと視線を窓の外へ向けて静かに語りだした。 「最後ならジョゼフィーヌでしょうか。教団に入る前、森の奥で啄むようなキスを。愛らしい形の耳をした赤鹿の淑女です。幸せな時間でしたとも」 トウマルはパートナーの立派な角へ目をやった。 (ジョ……誰だよ。仲間だと思われたんじゃないのか) 「トーマの番ですよ」 またしても慌てるトウマル。 「やっぱ俺も言わなきゃかダメか?」 グラナーダの目がたちまち尖る。 キスに良い思い出はなく、思い出すと不快になるので言いたくはないのだが――。 トウマルは渋々応じた。 「昔の主じ……えーと、雇い主な。俺わりと玩具扱いっつーか、その……気に入られてたんだよ。俺が嫌がるのが愉しかったみたいでな。キスもきっとその一環で……ハイ終わり! 不快な話題だったらすまん」 早口で言い終えて顔を横向ける。 気まずい空気を破ったのは、グラナーダの真摯な声だった。 「トーマ、その時のことを思い出しながらこちらを向いてください」 トウマルは素直に従った。顔にグラナーダの手が迫って来たかと思うと、指で軽く唇に触れられた。新緑の波動が体に注ぎ込まれ、心の影が払われたかのような気がした。 「な、なんだよ……やっぱ指冷てぇじゃねーか。これからはちゃんと食えよ……約束だからな」 夕暮れが迫っていた。 玄関で老婆から「一緒に食べて」とクッキーが入った袋を渡された。 「ちょっと少ないけど……あの人が食べちゃって」 老婆は夫にクッキーを食べられたことよりも、「食べてない」と誤魔化されたことに怒ったらしい。 ケンカの原因に呆れつつ、二人は老夫婦の家を後にした。 ●リュシアン・アベール&リュネット・アベール 過ぎた日々の一つ一つを思い浮かべながら、リュシアンはうつむき加減の頭を振る。 (だめだ、話せない) ケンカになった経緯を話せば、リュネットが忘れた僕たちの過去に触れざるを得ない。姉を悲しませるようなことは口にしたくはなかった。 弟の固い横顔を見つめるリュネットの目は悲しみに満ちていた。 (シア……どうして昔のことを教えてくれないの? 僕はもっと昔を知って、ちゃんと受け止めたいのに……) 強引にせがめばまたケンカになってしまう。それは嫌だった。もどかしい。だけど、どうすればいいか解らない。 黙り込んでしまった二人をどう思ったのか、老夫婦は淡々と調子を崩すことなく言葉を続けた。 「しょうがないのう。ちなみにわしらのケンカはクッキーをどっちが――」 「わたしたちのことはもういいわ。話せない……何か深いわけがあるのよね。わかった。じゃあ、最後にキスをした時の事を思い出して」 リュシアンはのろのろと頭を上げた。 「最後のキス、ですか。……数ヶ月前のことです」 えっと小さく零して、リュネットは顔を跳ね上げた。 「キスなんて……そんなの分かんない。僕は何も知らない、何も覚えてない」 聞きたくなくて、早口でまくしたてた。 (シアがキスしたことなんて聞きたくない……もうやだ こんなのやだ) 自分の過去を知りたいという思いははぐらかされ、知りたくもないシアの過去を聞かされるだなんて。 耳をふさぎかけたとき――。 「彼女と」 リュシアンは不意に隣の姉の額に口付けた。 「こんなふうにしたのが、最後ですね」 「ふぇ? シアとキスしたのは……僕?」 リュネットは両手を頬に当てて、目をぱちぱちさせた。 「あら、覚えていないの?」 うなずく姉を見てリュシアンの胸がチクリと痛む。 このエピソードなら大丈夫かも、とほんの少しだけ過去の封印を解くことにした。 「僕達は双子ですが、家の問題で別に育てられ、離れて暮らしていました」 「僕達が離れて育った? 一緒に居たんじゃなかったの?」 リュシアンは頬を覆う姉の手を取った。 「いつか話すから……ごめん、姉さん」 潤む目から涙が零れ落ちないように姉の手を強く握りしめる。 「……ごめんなさい。でも、シアだけが苦しいのは……やだ。だから、いつか僕にも……背負わせて」 「……うん。話、続けていい?」 泣き笑いの顔でリュネットが頷いた。 「ある日僕がこっそり立ち入った棟で、自分そっくりな女の子と出逢って友達になったんです。会う時はいつも内緒でした。禁じられていたから」 老夫婦は静かに愛情深いまなざしを二人に注いでいる。 「別れ際にはこうしてキスをしていました。また会いに来るという誓いの証に」 リュシアンはリュネットに顔を近づけると、形のいい額にキスをした。 「その子が、双子の姉だと知った時は驚きました。今は浄化師としていつも傍に居られるので、別れのキスは必要なくなってしまった、と言いますか……」 ふと、いまのは答えになっているだろうかと不安になる。 「額ってノーカウント……だったりします?」 「いいえ。素敵な話だったわよ」 (さっきの話が全部じゃないのは流石に分かる。昔、僕達に起こったことは、シアにとっても思い出したくない辛い出来事だったんじゃ……。だけど) 老夫婦に見送られて歩き出したリュネットは隣に腕を伸ばし、弟の手を握った。 いつか、話してくれる日がくることを信じて。 ●アユカ・セイロウ&花咲・楓 「二人が仲直りできてよかった……安心したよ~」 アユカは仲直りした老夫婦の様子にほっとして、柔らかく微笑んだ。その笑顔がまたドキッとするほど愛らしいのだ。 横目で盗みていた楓の口元が緩む。が、すぐにキリリと表情を引き締めた。 「いつの間にか解決したようですね」 さすがは長年の連れ添いというべきか……。 これにて任務完了。それでは、と腰を浮かしかけたその時、老夫婦がとんでもないことを言いだした。曰く、自分たちも仲直りのキスをしたのだから、お前たちもしろ、と。 (キス、だと?) 楓は焦った。この老人たちは一体何を言いだすのやら。ははは、と笑って誤魔化す。 「あら、誤魔化しても駄目よ。あなたたちもケンカしているでしょ?」 「ま、とりあえずケンカの理由を聞こうかの」 問われて口を尖らせたのはアユカだった。原因を思いだしてまた腹が立ったのか、ぷうっと頬を膨らませる。それがまた可愛い。 いかん。ここで甘い顔をしてはいけない。楓は下がりかかった目じりに力を入れた。 「アユカさんが待ち合わせに微妙に遅刻してきたのです。『浄化師としての自覚が足りないです』と注意したら……急に……」 だって、と言いかけてアユカは口をつぐんだ。 浄化師の勉強で夜更かしして、ちょっぴり寝過ごしてしまった、というのが遅刻の理由だった。そう、悪いのはわたし。わたしなんだけど――。 かくん、と顔を倒す。 (かーくんが厳しいこと言うから、つい反発しちゃう。でも……。わたしもおじいさんとおばあさんを見習わなきゃ) そう、これは仲直りのいいチャンスなのだ。ポジティブに捕えよう、いまなら素直に謝れる。 「……ごめんね、かーくん」 「あ、いえ、こちらこそ……言葉が過ぎました。すみません、アユカさん」 かたや照れ、かたや恐縮の表情で互いに謝りあう。 楓はほんわかと心が温かくなった。 仲直りした二人を見て、よしよしと老夫婦が頷く。 「よし、最後にチューじゃ」 大いに慌てだす楓の横で、アユカはきょとんとしていた。 どうして最後にキスなのか、ぜんぜんわからない。 楓はなんとか冷静を保っていたが、内心ではかなりドキドキしていた。 もしかして、もしかすると――。 「そう。残念ね。それじゃあ、最後にキスをしたのはいつ?」 緊張で体を固まらせながら楓は考えた。 女性相手は勿論、親愛の情の口付けすら記憶にない。 (いっそ「朝食に使った箸」とでも言うか?) 真面目にそんなことを考えていると隣で、うーん、と愛らしい声がした。 「キスは……浄化師になる時、かーくんの手の甲に……かな。儀式みたいなものですけど」 そうそう、とアユカは思った。 (……この人と一緒に頑張るんだって、心に誓ってしたんだったなあ) 楓も思いだした。 (そうだ、記憶を失った彼女を支えたい…そう思ったんだ) どちらからともなく顔を見合わせ、微笑みあう。 「それにしても……わたしたち、キスするような仲に見えますか? そんなことないのにね」 天国から地獄へ急降下。 息を止め、不自然な間をあけたのち、楓は「そうですね、そういう仲ではありません」と言った。 その後、どうやって老夫婦の家を辞退したのか全く覚えていない。気がつくと村の外れまできており、アユカからクッキーの入った小さな袋を手渡されていた。 「はい、これ。かーくんの分。これなら『どっちが多く食べた』てケンカにならないね。あとで一緒に食べようね」 人の気も知らないで罪な笑顔を向けてくる。ああ、もう――。 楓はこっそりため息をついた。 ●明智・珠樹&白兎・千亞 「べ、別に僕らは喧嘩なんて……!」 ケンカしていると勘違いされるほど態度に出ていたのかと、千亞は大いに焦った。そうとも、ケンカじゃない。ただ自分が一方的に不機嫌になっているだけで――。 不機嫌の理由は、目の前で珠樹がナンパされているのを目撃したことだ。珠樹はにこやかに、手慣れた感じで『有難いお申し出ですが、大事な用がありますもので、ふふ』、などと断ってはいたけれど。 「そうです、お二方。私達は深い愛で結ばれております、ふふ」 「嘘を吹き込むな!」 千亞は反射的に珠樹の尻を蹴っていた。 「ふふ、愛が痛気持ち良いです……!」 このド変態、と罵倒するも珠樹にはその言葉すらご褒美だったらしく、ますます機嫌を良くする。黒く艶やかな前髪に指を伸ばし、気障なしぐさで横へ流した。 あーうー。ますますイライラする。 「あらあら、とっても仲がいいのね。わたしたちの勘違いだったかしら」 「ふむ。では、せっかくじゃ、答えてくれ。最後のキスはいつじゃ?」 「……キ、キス?」 どきっとして頬が熱くなった。 (兄さんが行方不明になってから、僕は女性の振る舞いを止めたし、恋人もいないし……) 千亞は背筋をしゃんと伸ばした。 これも任務のためだ。正直に答えよう。 「家族と、かな……」 「ふ、ふふ。なるほど。千亞さんが最後にキスをしたのはご家族、ですか」 「うっさい。そういう珠樹はどうなんだよ?」 そこいらでいつも女性を口説いている珠樹の事だ、キスなんてほんの挨拶がわりに違いない。 千亞が向ける嫉妬の目を横顔で受けながら、珠樹はまたも含み笑いする。 「……記憶にございません」 覚えきらないほどありすぎて、という言葉が後に続いたような気がして、千亞はかっとなった。 「殴るぞ」 「いえ、本当です。あ、でもやり方はわかりますので、千亞さんぜひ今、私のファーストキスを奪ってくださ――」 「奪わないし!」 手ではなく、またも足が出た。 蹴られながらもすり寄ってくる珠樹にウーと低く唸って威嚇しつつ、心のどこかで安堵する。 「私はいつだって千亞さんに唇を始め、全て奪われたいと思っておりますからね……!」 珠樹が気障な立ちポーズを決めてウインクを飛ばすと、老婆がキャーと黄色い声をあげた。 妻の隣で老人が、苦虫を噛み潰したような顔をして腕を組む。 千亞は慌ててフォローにかかった。またケンカになったら困る。 ――おじいさんのほうがずっとかっこいいですよ。渋い。こいつなんて、見かけだけです云々。 「そうよ。焼きもちやくなんてみっともない。この方はとっても格好いいけど、わたしはあなたのほうがずっと好きよ」 老婆は不機嫌な夫の頬にキスをしてご機嫌を取った。 「これは、これは……お熱いことで。私は振られてしまいましたね」 ああ、悲しい。珠樹は片手で顔を半分隠すと、薔薇を一輪胸にあてて、大げさなしぐさで天井を仰いだ。 (確かにこいつ、黙ってれば格好良いんだけど……) 残念な男前とはまさに珠樹のことだ。 ふと、気がつくと珠樹の顔が目の前に迫っていた。 「千亞さん、私たちもキスを……」 「するか!!」 グーで殴った。 珠樹はくるくると回ってから床にバッタリ倒れた。 「おや、千亞さん。いかがなされましたか? クッキーをもっと頂きたかったとか?」 「違う!」 ケンカの理由となったクッキーはとっても美味しかった。つまみ食いしたくなるのもむりはないほどに。しかし、千亞には老人が嘘をついているようには思えなかった。ほんとうに食べていない、と言ったときの目に悲しみの色があったのだ。 パートナーに信じてもらえないことが何よりも辛そうだった。もしかしたら、珠樹も平気な顔の裏で傷ついているのかもしれないな、と千亞は思う。 (仕方ない、信じてやる、か) 「では、なんです?」 「……別に。行くぞ、珠樹」 珠樹はいつもとは違う千亞の素っ気なさに気付きながらも、飄々とした態度で背中を追った。 ● 甘々の報告に胸やけを感じながら、教団員はひとり指令室の隅でタイプライターを打つ。 どいつもこいつも青春しやがって、と毒づきながら。 「あ!? またクッキーが出てきたのだ……」 浄化師たちの頑張りで村に平和が訪れた。 だが、どうやら老夫婦たちのケンカには別の理由がありそうだ。 それはまた別のお話。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[7] 白兎・千亞 2018/06/04-21:50
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[6] リュシアン・アベール 2018/06/04-00:01
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[5] トウマル・ウツギ 2018/06/03-15:13
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[4] アユカ・セイロウ 2018/06/03-04:43
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[3] 杜郷・唯月 2018/06/02-11:53
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[2] ララエル・エリーゼ 2018/06/02-11:15
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