~ プロローグ ~ |
ヨハネの使徒の襲撃により損害を受けた村から「復興を手伝って欲しい」と嘆願を受けた教団は、浄化師を派遣した。 |
~ 解説 ~ |
●成功条件について |
~ ゲームマスターより ~ |
こんにちは、GMのozです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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■使徒 ルーノはSH8で支援、味方体力半分以下でSH11 ナツキは敵愾心隠さず常に使徒に張り付き攻撃 味方と協力し使徒の注意を引く 発見したら魔術真名詠唱 射程に入り次第攻撃開始 ルーノはコアを探し、ナツキが脚を攻撃 攻撃箇所は味方に合わせダメージ集中 コア発見後はコア破壊優先 JM11使用、絡縛糸にも合わせる 踏付け蹴り上げは回避 突進はナツキがあえて接近、使徒の勢いも利用し剣で足を払い転倒狙う 突進に味方を巻き込まないよう位置取り注意 トーマス狙いならナツキが正面に立ち妨害 ■トーマス 村人に気付かれる前に保護したい 戦闘後、会話を試みる ルーノは村で叔母との対話を勧め ナツキは浄化師として力を貸してくれと頼み教団行きを提案 |
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※アドリブ歓迎します トーマス君の心境を考えると辛いな… 一刻も早くトーマス君を捜し出し、ヨハネの使徒が現れたら アブソリュートスペルを唱える。 トーマス君の身は命に代えても守り、攻撃が届きそうなら 敵の脚に向けてスウィーピングファイアをするよ。 僕さ、トーマス君の気持ち、わかるよ。 (食ってかかられたら) 僕もベリアルに両親ごと故郷を滅ぼされて、 一時期荒れていたからさ。 「何で故郷がベリアルに襲われた時、助けに来てくれなかったんだよ!」って。 でも、ある人に言われたんだ。それは傲慢だって。 そうしたら僕は、…僕こそ教団に責任転嫁してるんじゃないかと思った。 今回の事は君のせいじゃない(会話術3) |
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あの小僧はまるで呪われてるが、まだ選択肢はある。それを問うためにも無粋な使徒は片付ける。 リネリ(13話)は死んでも意地を通さんばかりだったが、彼はどうするか。 交戦前から魔術真名とGK6を使って魔力を放出し、使徒の矛先をこちらに向ける。攻めてきたらGK7を使って受けて立つ。鎌で敵の前足と打ちあって止めてる間に、ラファエラや同僚たちに足を攻めてもらおう。 イーストは命に代えても守ると言ってるが、彼には可愛い妹分がいる。本当に代えさせちゃいかん。GK6を使い続けて敵を俺に釘付けにする。使徒にモテても嬉しくないがな。 奴の動きの自由を奪えたら、ラファエラはDE6とDE9でコアを狙い撃ちにかかるだろう。 |
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目的 トーマスの保護/説得・ヨハネの使徒討伐 目撃情報を頼りに魔力感知を使いトーマスを探し出す ヨハネの使徒が近くにいるなら急行 森の中にいるとなると死角が多いので戦闘はやり辛いですね… ヨハネの使徒の討伐だけが目的ではないですし トーマスさんの事もしっかり対処しなければ(両手で顔を叩き自身を鼓舞 戦闘 ヨナ 中距離から片側だけの足元狙いFN11 バランス取れなくさせる 敵がトーマスに向かう場合 進行方向にFN6の岩を放ち進路を変える 足を壊したらコアを中心に攻撃 ベ JM8を使いつつヒットアンドアウェイを心掛ける 拘束や足破壊が出来れば敵に飛び乗り頭上からJM11 常にトーマスの場所は把握しておき攻撃が迫れば声をかけ注意促す |
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~ リザルトノベル ~ |
「ひっ……ヨハネの使徒!?」 トーマスの恐怖で開ききった瞳孔に写ったのは、ヨハネの使徒の姿だった。 使徒を前にして引き攣った喉から声にならない叫びを上げて、転げながらトーマスは逃げ出した。 死にたくない! まだ死にたくない! ヨハネの使徒の襲撃時に刻まれた死の恐怖が蘇る。 死への恐怖は恥も外聞もなく、トーマスの剥き出しの本音を露わにした。 トーマスは鼠のようにがむしゃらに森の中を駆けずり回りながらも、村へと戻ることはできなかった。 それは正義感なんて綺麗なものじゃない。もっと利己的なものだった。 きっと村人は真実に気づき、自分を詰るだろう。それ以上に、自分のせいで人が次々と死んでいくのにもう耐えられなかった。 「母さん……助けて……」 誰も助けてはくれないのが分かっていても、助けを求めずにはいられなかった。 死が目前に迫る。 樹木の根に足を取られ、トーマスは転倒する。爪には泥が入り、無様に這い蹲ってでも逃げる。ただ死にたくない一心だった。 殺される。そう思った瞬間、トーマスは堅く目を閉じた。 刹那、何か金属がぶつかったような音が聞こえる。 「ウォオン!」 獣が吼える声と共にピシッと罅の入る音が聞こえた。 ヨハネの使徒の突進をも『ベルトルド・レーヴェ』の両手が絶妙に受け流し、その勢いを利用して凄まじい勁が迸る。 閃光の如く凄まじい拳は使徒の頭部を木っ端微塵に打ち砕く。 「……もう大丈夫だ、もう少し頑張れるか?」 安堵から涙がこぼれ落ちそうになるが、すぐに手のひらで強引に拭い取るとトーマスはこくりと頷いた。 ――エアースラスト! 凛然とした少女の声が遠くから聞こえる。 「伏せろ!」 ベルトルドの声にトーマスは訳も分からず反射的に頭ごと伏せた。 その上空を暴風が通り抜け、トーマスに襲いかかろうとした使徒を風の斬撃で阻む。 「大丈夫ですか、トーマスさん?」 「おい、ヨナ。いつも思っていたが、お前はもうちょっと丁寧に魔術を使え!」 トーマスに覆い被さるように伏せていたベルトルドがパートナーである『ヨナ・ミューエ』に文句を付ける。 「……その事は後で話し合いましょう。今は、よそ見してる暇はないようです」 ヨナは黄昏の魔導書を構えたまま、さらに遠くから使徒がやって来るのを魔力探知で視認していた。 「トーマスは無事か!?」 「……どうやら間に合ったようだね」 ヨハネの使徒を片づけながら『ナツキ・ヤクト』がトーマスの方を確認する。彼の相棒である『ルーノ・クロード』はトーマスが重傷を負っていないことに安堵する。 「ルーノ、頼む!」 「……全く、仕方がないな」 敵意を隠すことなく、使徒に張り付くように戦うナツキを横目に溜息混じりにルーノが頷いた。 「鬼門封印」 ルーノは慣れたようにナツキのサポートに回ると、素早く手印を組みながら口を閉じ舌端で唱える。 特殊な調音から生じる呪。聞こえる範囲にいる使徒の動きが明らかに鈍くなる。 「ラウル、後は頼んだぞ! すぐさまこいつらを倒して追いかけるからな」 「任せて下さい、トーマス君を命に代えても守ります!」 「やめろ!……何で簡単にそんなこと言うんだよ! 命に代えても!? 母さんも、おれの! おれのせいで……!」 トーマスは差し出されたラウルの手を振り払うと青褪めた顔のまま怒鳴る。 「ぐだぐだお喋りしてる暇はないんだ。保護対象は大人しく守られてろ」 「何も知らない癖に……っ!」 トーマスが自分よりも遥かに大きい『エフド・ジャーファル』を睨み付ける。 「元気が有り余ってるなら何よりだ。今の状況を確認しろ。控えめに言っても絶体絶命だ」 トーマスが反論するよりも先にエフドが口を開く。 「お前を無惨な身の上に追い込んだのは何だ。お前にはあの糞忌々しいカマキリ共だろ。怒りを向ける相手を見間違うな。お前にはアイツらに報復する才能がある。努力すれば手に入るわけじゃない限られた才能が。その才能がお前を追い込んだのなら、今度は利用してやれ。……だが、今のお前は足手まといの上に邪魔だ。とっととこの場から立ち去ってくれ」 エフドの鋭い舌鋒にトーマスは何も言い返せない。 エフドはそれだけを言うと振り返ることなく、鎌で使徒を殴り飛ばす。 「……走れるかい?」 何か言いたげなラウルがそう促すと、トーマスは逃げるように走り出す。 「ラウル! こいつらはジャンプできない。できるだけ高いところへ連れてってやれ!」 ベルトルドが使徒から目を離すことなく伝えると、『ラウル・イースト』はトーマスの後を追いながら、分かりましたと返事を返す。 ラウルは使徒に警戒を払いながら殿を務めて走り出す。彼らを見逃す気のない使徒が襲い掛かる。 「行かせません!」 『ララエル・エリーゼ』が絡縛糸を放ち、使徒に魔力の糸で全身を絡め取る。そのまま足を拘束された使徒は地面に転倒した。キリキリと音を立てて足から潰され、コアごと全身を破壊されていく。 二人がこの場から離脱できたことを確認すると、ララエルはほっと息を吐くのだった。 「……随分と饒舌じゃない」 「あの小僧はまるで呪われてるが、まだ選択肢はある。それを問うにも無粋な使徒を片づけるに限る」 「そうね、さっさと終わらせてしまいましょ」 彼の相方である『ラファエラ・デル・セニオ』が皮肉気な口調で問いかけると、エフドは素っ気なく答える。 エフドが亡者ノ呼ビ声を発動させる。魔術に則った発声が使徒の敵愾心を煽り、それを一身に集めた。 その隙を縫うようにラファエラが弓を引くが、使徒に掠るだけ。 「……ちょこまかとっ!」 ラファエラは鋭い舌打ちして、縦横無尽に走り回るヨハネの使徒を睨みつけた。 「皆さん、さらにヨハネの使徒の姿を複数確認!」 ヨナが声を張り上げ、魔力探知した結果を端的に知らせる。 「コアは頭部及び心臓部。魔力属性は陰気、陽気、火気の三種! ここで何としてでも食い止めます!」 トーマスの保護はもちろんこれ以上、村に損害を出すわけにはいかない。 通常の個体よりも小柄で素早い使徒にとって、この森は有利な立地だった。木々の隙間を縫うような方向転換で浄化師を翻弄していく。 「ぐうっ……!」 複数の使徒を相手取っていたナツキが使徒の蹴り上げにより、右足を負傷する。 「陰気属性か!?」 「っ大丈夫だ! 心配はいらねえ!」 ルーノの声にもナツキは振り返ることなく使徒と苛烈に戦い続ける。 ナツキの動きが鈍った一瞬を狙い突進してきた使徒をルーノが魔力弾を放ち、妨害する。 魔力弾は避けられたが、ナツキの体勢を整えるには十分な時間だった。使徒の勢いすら利用した足払いを仕掛け、ナツキは剣に魔力を込める。 磔刺――コアを目掛けて頭部と胴体に刺突を繰り返す。 コアを破壊したのを確認すると、すぐに好戦的な表情を浮かべナツキは次の使徒へと向かう。 数の多い使徒にラファエラが弓で射抜きながら愚痴る。 「前の奴らが取りこぼしたじゃないでしょうね?」 「いえ、ここは国境付近に近いですから……」 中央が一番守られているとしたら、外側である国境付近は最もベリアルやヨハネの使徒の脅威に晒されやすい場所だった。 その事をヨナは知識として知っていた。その分、浄化師候補がいた事によってさらに引き寄せてしまったのだろう。その予測をヨナは口にすることはできなかった。 「素早さだけか! カマキリ野郎っ!?」 亡者ノ呼ビ声で呼び寄せた使徒をエフドは鎌で頭部をコアごとぶった斬っていた。 ラファエラも淡々とララエルが絡縛糸で拘束した使徒のコアを破壊していく。 隙を突いて村の方角へと向かおうとした使徒をベルトルドが獲物を襲う獣のように気配を消し近づく。 「ハァッ!」 ゼロ距離で大砲のごとく撃ち出される拳。うねるような力が頭部からコアへと伝わり、炸裂する。 「すばしっこい割には脆いな……」 残されたのは、ヨハネの使徒の残骸だった。 「ロックバーン!」 使徒の前に岩を落とし、進行方向を変えようとするが、器用に回避していく。 「敵が抜けました! 誰か足止めを……ッ!?」 ヨナが周囲を見渡すが、誰もが複数の使徒を相手に戦っていて一人も動ける余裕がない。すぐにヨナも他の使徒からの攻撃を受ける。 「囲まれたか!? ナツキ、一旦引くんだ!」 ヨナの声にルーノが真っ先に状況を把握する。 「何体か通り抜けられました! 早く追わないと……」 「くそっ! 邪魔すんな! 悪ぃルーノ、すぐに合流するから!」 死角が多い森の中であることが災いし、使徒に張り付いていたナツキは仲間と分断される。さらにエフドとベルトルドは使徒の猛攻撃を一身に引き受けていた。 ベルトルドは正面と背後から突進を受ける。追突する直前、使徒の頭を踏みつけ高く跳び上がったベルトルドの下では2体の使徒がぶつかり、一時的に行動不能になる。 回転ながら勢いを殺して地面に着地すると同時に使徒の蹴り上げが襲いかかる。 「ふっ……っ次々と!」 咄嗟にベルトルドは受け止めるが、体勢を崩し地面に倒れ込む。 「俺に何か恨みでもあるのかっ!?」 ベルトルドが叫ぶ。 毛が逆立つような感覚――使徒の刃のような足が眼前にあった。 あれは、駄目だ。あれは、相性が悪い。そう本能が訴える。 「おぉっ!?」 あわや頭を踏みつぶされる寸前、ベルトルドは横に転がりながら避ける。 綱渡りのような回避を続けるベルトルド。 エフドもまた引き寄せた使徒から攻撃を受けていた。盾のように大きな鎌で使徒の突進に耐える。 「悪いな、俺は足癖が悪いんでね」 蹴り上げようとした使徒には逆に蹴りをくれてやる。 「エフドお前、俺まで巻き添えにしてないか!?」 「さあな、モテる男はつらいな、ベルトルド!」 地面に倒れていたベルトルドに景気よくエフドは声をかけてやる。 「エフド、そういうお前こそ引っ張りだこじゃないか」 「雄か雌かも分からんカマキリ共にモテても嬉しくないな」 「全くだっ!」 ベルトルドは足を勢いよく真上に持ち上げた反動で立ち上がる。虎のごとく腰を落とし、緩やかな動きで掌底を構えながら、使徒を迎え撃つ。 「ルル、お願い。『鏡映しの人形劇を開きましょう』さあ、踊って下さい!」 ララエルはそう唱えると、人形に生命が与えられたように動き出す。 偶人鏡。 魔力の糸で操った人形が鏡を反射するように使徒の攻撃を利用して反撃する。 美しくも、儚い人形劇は使徒すらエキストラにしてしまう。 (……ラウル、待ってて下さい。すぐにそちらに向かいます!) 使徒の防御することなど一切考えない無機質な動き。徐々に数の多さに任せた使徒の攻勢に浄化師達は押されていく。 浄化師達はいつの間にかヨハネの使徒に取り囲まれていた。 ● 「僕さ、トーマス君の気持ちが分かるよ」 「……あんたにおれの何が分かるって言うのさ」 安全な後方まで下がりきったところでラウルが口を開いた。 それまで黙りこくっていたトーマスが激高したようにラウルを睨みつける。 「僕もベリアルに両親ごと故郷を滅ばされて、一時期荒れていたからさ」 ラウルの言葉にトーマスは息を呑む。 「『何で故郷がベリアルに襲われた時、助けに来てくれなかったんだよ!』って。……でも、ある人に言われたんだ。それは傲慢だって。そうしたら僕は、……僕こそ教団に責任転換してるんじゃないかと思った」 トーマスはラウルの話を黙って聞いていた。 「今回の事は君のせいじゃない」 ラウルはトーマスと目を合わせて、はっきりと告げた。 「おれは、おれは……そんな風に思えない!」 理解したくないとばかりにトーマスは首を振る。 トーマスは溢れ出した感情が堰を切ったように言葉を吐き出す。 「だって、おれのせいで母さんが死んだのに、たくさんの人が死んだのに! そんな風に割り切れねえよ!」 まるで血を吐くような、トーマスの悲痛な感情の叫びをラウルは黙って受け止めた。 「母さんがおれを庇って、床に倒れてもおれを抱きしめたまま、だんだんとその体が冷たくなるんだ。それなのに……おれは、自分が生きていることに安堵してた……! 死ななくて良かったって思っちまったんだ……! おれはそんな自分が一番許せない!」 ラウルは痛いほどトーマスの気持ちが分かった。 きっと誰かにお前のせいだと責めて欲しかった。 ベリアルを恨んで、教団を憎み続けても大切な人を亡くした傷跡は塞がらない。より胸の淀みが酷くなるばかり。ベリアルを屠る時だけは胸の淀みが楽になった気がした。 誰かを責め立てても恨み言を吐いても、決して楽になどなれなかった。 ラウルはかつて己を救った浄化師がしたようにただトーマスの慟哭を受け止めた。 ● 亡者ノ呼ビ声。 エフドが引きつけた敵をベルトルドが阻み、槍の如く掌底を打ち抜く。 鬼門封印。 手印を組んだルーノが包囲網を逆手にとって使徒の機動力を奪い取る。 エアースラスト。 ヨナが使徒の包囲網を突破するために、風の斬撃で使徒を斬り刻んでいく。 磔刺。 ナツキが裁きによって身体強化し、渾身の一撃でコアごと貫いた。 徐々に包囲網が崩れていく。 「ラウルを助けるの! 邪魔をしないで下さい!」 ようやく出来た道を急ぐララエルの前に立ち塞がる使徒に偶人鏡を放った。 不意にヨナの目にラファエラの姿が映った。 「駄目です、ラファエラさん! それは火気――……!?」 忠告は遅かった。頭部を射抜いたものの、コアには届かなかった。 「しとめ損ねたわ……」 属性の相性の悪さを痛感しつつ、ラファエラはそれでも攻撃の手を緩めない。 コアが剥き出しにした使徒がラファエラの視界から一瞬消える。 違う、ラファエラが見失ったのだ。 すぐに使徒はラファエラの前に姿を現した。気づいた時には遅く、死の刃がラファエラの身に降りかかる――筈だった。 「うあっ……」 ヨナが身を挺してラファエラを庇っていた。 「っ! これでも食らいなさい!」 すぐさまラファエラは魔力が蒼弓に吸い取られていくのを感じながらも弓を引く。蒼い軌跡を描きながら、今度こそコアごと撃ち抜いた。 「く、魔力切れか……」 体内の魔力が空っぽになった脱力感を感じながら、ヨナの方へ向かう。 「……ラファエラさん、大丈夫ですか?」 「私は平気よ。自分の心配をしなさい」 再度襲ってきた別の使徒に向かって弓を引くと、使徒は距離を取るように離れる。 「この借りは必ず返すわ」 ラファエラはヨナに向かってそう言うと、屈辱と憎悪に満ちた目で使徒を睨みつけた。 ● 「……ヨハネの使徒っ!?」 (ララは、皆は無事なんだろうか……いや、きっと無事だ! 今はトーマス君を守ることだけを考えるんだ!) ラウルは一瞬動揺したものの、すぐにそう自分に言い聞かせた。 自分達の足よりヨハネの使徒の方が速い。追いつかれる、ならば―― 「トーマス君。木に登れるかい?」 トーマスはバカにするなと口にしつつも、素直に木の上に登る。高い場所に辿り着き、ラウルを見下ろしながら声を掛ける。 「あんたはどうすんだよ!?」 「僕はここで戦う」 「はあっ、一人でか!?」 言葉と裏腹に心配そうなトーマスに安心させるようにラウルは微笑む。 「君を守るよ。これでも浄化師だからね」 ラウルは鋭い双眸で追ってきた使徒を銃で迎え撃つ。 即座に施したリンクマーカーで使徒を撃つ。それは確実に頭部を狙って銃弾が飛ぶが、その直前で使徒が消える。 いや、消えたのではない。ヨハネの使徒の動きが早すぎるのだ。 あっという間に距離を詰められたラウルは突進を真正面から受け止める。 「くっ……!」 別の方角からやってきた使徒を蹴りつけることで退けるが、ラウルの不意を突くように使徒の突進をまともに受けてしまう。ラウルは銃を抱えたまま吹き飛ばされ、地面を数回転しながら木に打ち付けられた。 「おい、大丈夫か……!?」 トーマスの悲鳴のような叫び声にも答えることが出来ない。さらに追撃を仕掛けてくる使徒の踏みつけを転がり回避することで精一杯だった。 「この……っ!」 地面に倒れ、体勢を崩しながらも踏みつけてきた使徒の頭部のコアごと撃ち抜く。 一体を倒したことにより、ラウルに警戒し使徒は連携するように攻撃を仕掛けてくる。ラウルも応戦するものの、彼の身体は致命的な傷こそ受けてはいないが、それでもダメージは確実に蓄積していく。 多勢に無勢ではラウルの分が悪くなるのも時間の問題だった。 痛めつけられるラウルを見ていられず、トーマスが悲痛な声で叫ぶ。 「ボロボロの癖に……もう止めてくれよ! 死んじまったらお仕舞いだろ!」 「……君の、言うとおりだ」 ラウルはふらつきながらも立ち上がる。 「なら!」 「そうだ、死んだら終わりなんだ!」 ラウルは有らん限りに叫ぶ。 「君は生きていいんだ! 浄化師の力を持つからなんだ! そんな理由で死んでいいわけがないだろ! 君はこんな理不尽に負けていいのか! 僕は嫌だ! 最後まで抗ってみせる!」 ラウルの心からの叫び。剥き出しの本音の叫びだからこそトーマスの心に響く。 「がっ……!?」 相性の悪い使徒の蹴り上げを腹部に受けラウルはふらつく。それでも倒れない。彼の目から闘志は失われることはなかった。 ● 「あんたの命で贖いなさい」 残酷なまでに美しい蒼穹を描いて矢がコアを射抜く。 「さっさとお眠りしな!」 エフドが鎌で引き寄せた使徒を刈り取っていく。ベルトルドは光が迸るように螺旋状に力を振り絞った掌底を放つ。 「ヨナ達が間に合えばいいが……」 「ああ、イーストは命に代えても守ると言ってるが、彼には可愛い妹分がいる。本当に代えさせちゃいかん」 二人は使徒を迎撃しながら会話している最中も、ラファエラは冷徹なまでにコアを撃ち抜き続ける。 「……お前の相方機嫌が悪くないか?」 「いつものことさ」 「どこも相方には苦労するな」 ベルトルドはそう溜息を吐くと、使徒を蹴り飛ばすのだった。 ● 「ぐあっ……!」 トーマスは唇を噛みしめながら、ラウルの戦いを泣きながら見続けていた。ラウルがついに地面に倒れても、使徒は容赦ない攻撃を加える。 弱くて、守られている癖に被害者ぶっている自分が惨めだった。 ――助けてくれ。おれのために戦ってくれる人を、誰でもいい誰か助けてくれ! トーマスが強い祈りが届いたように、ラウルを呼ぶ声と複数の足音がこちらに近づいてくる。 「ラウル! 大丈夫……っ!?」 真っ先に駆けつけたナツキの言葉が途切れる。ラウルが使徒に嬲られているのを見て、視界が真っ赤に染まる。 「……許さねえ!」 ナツキは目の前の使徒に剣を振るう。相性が悪さにも関わらず、裁きの力を上乗せにし、力尽くで使徒を貫く。 ナツキの圧倒的な殺意が肌にびりびりと伝わるのを感じながら、ルーノが邪魔しようとする敵の妨害をする。 冷徹なまでに剣は研ぎ澄まされ、振るう度に鋭さを増していく。 ようやく駆けつけたララエルは、ラウルの姿を見て足を止めた。 地に伏したラウル。 頭の中が真っ白になり、足元から土台が崩れていくような感覚に襲われた。 「……ラウル?」 場違いなまで静謐な声。刹那、ララエルの顔から表情が抜け落ち、まるで人形のようだった。 「ラウル! 嫌です、そんな……ああぁっ! ラウルラウルラウルぅあああぁああああっ!?」 わが身を引き千切られたかのような声だった。 「ララエルさん!?」 ヨナが呼び止めるのにも気づかず、ララエルは走った。ラウルしか目に入っていないというように。 使徒が突進してくるのにも構わずララエルはラウルの元へ駆け寄ろうとする。ララエルは無意識に邪魔者を排除しようと手を動かす――至近距離で偶人鏡を放つ。 使徒と相打ちする形でララエルは吹き飛ばされ、使徒は人形に引き裂かれた。 一部始終を見ていたヨナとルーノは絶句し、慌ててララエルの元へと駆け寄る。倒れたララエルにルーノが天恩天賜をかけると、ララエルは瞼をゆっくり開く。 「ラウル……私、ラウルのところに行かなくちゃ……」 「待って下さい、まだ動いちゃ……」 ヨナが引き留めるが、ララエルはふらふらと立ち上がって歩き出す。今のララエルの耳には誰の言葉も届いていない。 「……早急に片を付けよう、それに向こうも心配だ」 今の状況で戦闘を続けるのは危ういと考えたルーノにヨナは頷く。 「そうですね、私が使徒を片づけます。なので、ルーノさんはララエルさんをお願いします」 ルーノは分かったと返事を返すと、すぐにララエルの後を追う。 ヨナは黄昏の魔導書に魔力を込め、唱える。 「エアースラスト!」 使徒は風の斬撃に切り刻まれ、骸を晒す。 奇しくも離れた場所にいたベルトルドが最後の一体を撃破したのと同時だった。 浄化師達は傷を負いながらも、ヨハネの使徒を全滅させることに成功した。 ラウルは多数の傷を負ったが、幸い致命傷には至らず、ルーノが天恩天賜をかけるとすぐに目を覚ました。 「ラウル、良かった……本当に死んじゃ……ったかと、ラウル……っ」 「ごめん、ララエル。心配かけたね……」 ララエルは痛々しい声で彼の名前を呼びながら、嗚咽を零す。そんなララエルをラウルは優しく抱きしめた。そして、トーマスの方を見ると、 「無事で良かった」 「……おれが、弱いから。あんたが傷つけられてるのを見てるだけしか出来なくて、あんたの大切な人まで泣かせて、……ごめんなさい」 トーマスが嗚咽混じりに喋る。何度もラウルに泣きじゃくりながら謝る。 「……お前のせいじゃねぇよ」 そんなトーマスの頭をナツキが撫でる。ルーノがトーマスと目を合わせるように膝をつく。 「村へ戻ろう、心配しすぎて君の叔母が倒れてしまう」 「……叔母さんが?」 「信じられないなら直接話してみるといい。……それと、襲撃が君の影響であっても命を落としていい理由になど断じてならない。君の母親もそんな事望まない筈だ」 「そんなの……分かってるよ」 今にも泣き出しそうな声だった。 「……そうだよな、自分のせいじゃないなんて思えないよな」 大切なものを一気に失った絶望と喪失感。ナツキは寄る辺のない不安を抱えた幼い日の自分とトーマスを重ね合せた。 「俺の住んでたところも使徒に襲われてさ、使徒を倒してこういう被害を防ぐ為に浄化師になったんだ……でもまだ俺達だけじゃ防ぎきれない時もある」 ナツキの言葉にトーマスは驚いたように顔を上げた。 「だから、俺達に力貸してくれねぇかな、これから悲しい想いをする人、少しでも減らしたいんだ」 「……俺にもできるかな、死んだ人も許してくれるかな」 「分かんねえ、でも何もしないよりはずっとマシだと思うぜ。経験者の言葉だ、少しは信じられるだろ?」 トーマスは目を腫らしながらも、しっかりと頷いた。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[16] ナツキ・ヤクト 2018/12/05-23:24
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[15] ヨナ・ミューエ 2018/12/04-22:55 | ||
[14] エフド・ジャーファル 2018/12/04-19:10
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[13] ララエル・エリーゼ 2018/12/04-16:34
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[12] ルーノ・クロード 2018/12/04-12:43 | ||
[11] ヨナ・ミューエ 2018/12/04-08:03
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[10] ヨナ・ミューエ 2018/12/04-08:02 | ||
[9] エフド・ジャーファル 2018/12/04-02:32
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[8] ラウル・イースト 2018/12/03-16:47
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[7] ルーノ・クロード 2018/12/02-22:25 | ||
[6] ラウル・イースト 2018/12/02-16:20
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[5] ルーノ・クロード 2018/12/02-00:06 | ||
[4] ララエル・エリーゼ 2018/11/30-21:25 | ||
[3] ナツキ・ヤクト 2018/11/30-17:14 | ||
[2] ラウル・イースト 2018/11/30-11:21 |