~ プロローグ ~ |
夜中に、目が覚めた。 |
~ 解説 ~ |
【目的】 |
~ ゲームマスターより ~ |
こんばんはこんにちは。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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こうなる予感はありましたが… ついにディアナさん乗っ取るつもりのようですね ここまで来たら最後までお付き合いしますよ 天姫さん 一戦目 そこを通してくれ って訳にはいかないようだな 天姫は牽制しつつ火雷大神を優先して攻撃 遠距離にはFN10 噛みついてきた頭骨は逆に押さえつけJM11 火雷大神を破壊ののち天姫と交戦 レムが命を無駄にしないよう注意と補助 死の体験はお前みたいな子供が慣れていいものではない 俺の目の前で死ぬような事はさせないからな レム 天姫さん 貴女は望んでいる イザナミとの因縁を断ち切ることを 生き残れば成せる事もあるでしょう ですが 本当に望むのは何? 渇望するほどに欲しいのではないですか 人としての死が |
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1戦目 ダヌ神が呼ばれるまでは黒炎魔喰器の相手 ホノイカヅチ…確か、ニホンの神だったか?それの模倣か何かと言った所か 私だって持ってないのに黒炎魔喰器とか…理不尽だ… ダヌ神が顕現されたら、其方の護衛 …移動できれば、の話になるが ダヌ神にご加護願うはHP回復 相棒も同様に加護を頼む 2戦目 引き続きダヌ神の護衛 八百万の神であろうと容赦なく死ぬ…顕現を解かれるらしい…とりあえず、視線阻害すればいいだろうか? マントを広げ、ダヌ神を隠す様に立ち位置は気を付ける ダヌ神が居ないなら、シャオマナ神に蝶の消滅を頼む。 …ウチの相棒は神と名の付くものは嫌いらしい 光帝の事も「上から目線で嫌い」と言っていたが… |
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約束したもの ディアナちゃんを守るって イザナミの依り代になんてさせない 魔術真名詠唱 仲間に禹歩七星 ダヌ様の護衛 攻撃には雷龍で対応 あとは回復と禁符の陣 仲間の体力に気を配る 天姫さんもうやめて 死を撒くばかりな神の力なんていらない 天姫さん わたしはイザナミじゃなくて、貴女に力を貸してほしい 2戦目 禹歩七星かけ直し ダヌ様をお守りし 蝶を倒しながらディアナちゃんの元へ 近づけたら 抱きしめる ディアナちゃん目を開けて レムちゃんも心配してる わたしもシリウスも皆も 貴女を辛い目に合わせたかったんじゃない 生きてほしいの どうか幸せに…! 託された子守歌を歌う 春の桜に夏の蛍 秋の雁に冬の雪虫 優しい世界の風景を どうか目覚めてと気持ちをこめ |
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ダヌ様は二人ともMP回復希望 【一戦】 火雷大神を優先的に狙う 素早さには私が先頭に出てソードバニッシュで対応し、合わせてステラが乱打暴擲を打ち込む 天姫さんが黒炎の発動を企てるなら、こちらも黒炎解放 水流で捕らえることで、火雷大神の動きを減衰させましょう 【二戦】 私はダヌ様とシャオマナさんの護衛係、ステラは蝶とイザナミへの攻撃 私は行動を消費し蝶を減らし、ステラは仲間を巻き込まないようにしつつグラウンド・ゼロを使用 ただし蝶は殲滅は避ける 邪視は他の者が対象にならぬよう留意 もしもの時は庇い視線を私で遮り護ってみせます イザナミには乱打暴擲で炎を浴びせる 黒炎発動可なら大波の勢いで仲間をディアナの元へ飛ばしてみます |
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第1戦開始早々にナックラヴィー、アディティ、エリニュス、リシェ(攻撃)召喚。 ダヌを呼ぶのは4R、ナックラヴィーが去った後。効果は俺にHP、ラファエラにMP。 クソガキに同行し、GK14で守ってやる。正確には光帝に引導を渡す、奴の犠牲者たちを。 オーディンの移動能力でクソガキと一緒に光帝の近くに移動、GK7で飛ばされないよう接近、GK12で拘束し、その間に陰陽図をやらせる。 ラファエラは火雷大神をDE13で狩れ。 第2戦では俺はシャオマナを隣接して邪視から護衛。他の奴と共に彼女の周りを囲む。 ラファエラはDE15で蝶を掃討。先行してまっすぐ道を開く。必要ならフチュールプロメスを使え。 |
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■第一 オーディンでの移動を希望 すぐに天姫へ攻撃を仕掛けて隙を作る ナツキは黒炎発動、特殊能力+獣牙烈爪突 ルーノは体力と状態異常回復を優先、火雷大神が近い場合・陰陽図破壊後に禁符の陣は支援 相手の禁符の陣を警戒、ルーノは離れて拘束解除に動く ナツキは接近、回復は最低限で反旗の剣 ダメージを与えて無力化・イザナミの縁を切り殺さず捕縛を試みる ■第二 仲間と協力してシャオマナとダヌを囲んで邪視から守り、 前方の蝶を倒してディアナの元へ進む ナツキは届く範囲の蝶を攻撃、ルーノは邪視に備え体力麻痺回復 守る為、邪視の威力に怯まず立ち続ける 味方が動けない場合、黒炎や慈救咒でイザナミの行動停止を狙う 蝶半数で神召喚で停止させる |
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で、でたー!イザナミ!! ってか光帝さん何してんの!? 一戦目 開幕魔術真名詠唱 ダヌ召喚…回復指定はHP 能力低下後、一番近くにいる魔喰器にJM8 魔喰器が半数になるまでは魔喰器を優先して攻撃 攻撃時は負傷が多い敵>自身に最も近い敵 味方が天姫へ向かった際は後方に移動し背後からの攻撃を警戒 対天姫になった際はなるべく峰内を …あんたが何考えてんのかわかんないけど 今死んだら特等席がなくなるわよ 死にたいなら仕方ないけどさぁ… 二戦目 シャオマナとダヌの周囲に立ち、護衛 戦闘の際はディアナの下へ行く仲間の援護を 1Rおきに待機してシャアマナの権能で蝶を消失 イザナミの射程に入った際は目線を合わせないように この蝶うざったい! |
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サクラ:んー殺人鬼となんか変なの(イザナミ)? キョウ:ええ、そうらしいですね。 サクラ:殺すしかないわねぇ。 キョウ:死で償う以外の方法はないでしょう。 サクラ:ほんとにー? キョウ:はぁ。興味ないのに聞くのやめてくれません? 【行動】魔術真名詠唱 サクラ 大変だったわねぇ。疲れたでしょう?楽になっていいのよ。 知らないけど。 DE9で命中力を上昇。獣たちからの攻撃を相殺できるようにDE5で攻撃 室内だとやりやすいわねぇ。数が多かったらDE15も使って相殺できるか狙ってみるわ。 告死蝶が現れたらDE15で一気に片づないと。 前言撤回。室内はやりにくいわ。数が多い DE15で10体も殺せてないならシャオマナに頼もうかしら |
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~ リザルトノベル ~ |
道は、死に満ちていた。 どす黒く淀んでぬかる、血泥の海。半ば沈む様に浮かぶ、無数の躯。傭兵の蛮刀。国兵の鎧。外法のローブ。そして、沈黙する魔喰器。 生きる場所も。抱く思想も。命の価値観さえも。交わらない筈の人々。 そんな彼らが、ただ一様に。 まるで、一溜まりの羊水に溶け混じる様に。 正しく、其れは死の真理。 如何に蛮勇を誇ろうと。 如何に地位に恵まれようと。 如何に才智を掲げようと。 死ねば皆、等しく腐る肉塊。 溶けて崩れた心臓も。 眼窩から流れる濁血も。 同じ。 同じ。 ただ、同じ。 後は等しく、土の虚空へ染み消える。 一歩進む度に、靴裏がねとつく。濃密な死臭が、身体に絡みつく。救いを求める、死者達の残滓。振り捨てる度に、軋む心。 唇を噛みしめる様にして歩いていた『リチェルカーレ・リモージュ』が、ビクリと歩みを止める。 足元。苦悶の表情で天を仰ぐ女性の骸。 教団の制服。浄化師。口も。目も。鼻も。耳さえも。溢れ出た血塊に塞がれた顔。 見覚えが、あった。 親しかった訳ではない。個人的に言葉を交わした事さえ、ない。幾度か、他の支部を訪れた時。事務的な会話をしただけ。 でも。 それでも。 こみ上げるモノを抑える様に、顔を覆う。その肩を支える様に抱いた『シリウス・セイアッド』もまた、横たわる躯を見つめる。 彼女の上司である室長も、デオン枢機卿の陰謀に加わっていた。その流れに、彼女も乗ったのだろう。 真意は、分からない。 何かの、思惑があったのかも知れない。 叶えねばならない、願いの為。 捨てる事の叶わない、想いの為。 破る事の出来ない、約束の為。 それとも、ただの私欲の為。 けど。 そのどれであったとしても。 『彼女』には。 『あの存在』には。 皆、同じ。 浅ましき邪念になぞった。 ただの、罪。 罪には、死を。それだけが、答え。 そして、彼女を誘った室長もまた平等に。この、地獄の中。 「……馬鹿な、事を……」 悼む言葉すら、見つからず。 ただ、唇を噛む。 「……約束、したもの……」 腕の中、震えながらリチェルカーレが呟く。 「ディアナちゃんを、守るって……」 それは、あの木漏れ日の中で結んだ約束。 「イザナミの依り代になんて……させない……」 楔の様に、打ち込む誓い。 悲痛な面持ちの彼女を抱き締め、シリウスも誓う。 「……ディアナを、取り戻そう。必ず……」 「随分、殺られたもんですねぇ」 「死んでるわねぇ。沢山」 隙間もなく広がった血溜まりを、ピチャピチャと踏み遊ぶ『サク・ニムラサ』の横。注意深く周囲を見回していた『キョウ・ニムラサ』が『おや?』と足を止めた。 視線の先には、枯れた木に寄りかかる様に倒れている男の骸。視線を追って来たサクが、覗き込む。 「御立派な服の、仏様ねぇ」 「貴族ですね。それも、結構な位の。と、言う事は……」 「『デオン・ヴェルナ』卿だ」 後ろから聞こえた声。『エフド・ジャーファル』と『ラファエラ・デル・セニオ』が、冷ややかな眼差しで骸を見下ろしていた。 「あらまぁ」 「この方がですか?」 わざとらしく驚くサクとキョウに、エフドが頷く。 「前に、護衛をした事がある。間違いない」 「如何にもな感じの、やらしい男だったけど……」 顔をしかめるラファエラ。セクハラでもされたのかもしれない。 「こうなっちゃ、ね……」 「虚しいモンだ」 形ばかりの、黙祷。さっさと終わらせて、先に進む二人。 残ったサクが、しげしげと見つめる。蠅のたかる、死人の顔。 「んー? 殺人鬼となんか変なの……『イザナミ』? てのだっけぇ? ソレが、殺ったの?」」 「ええ、そうらしいですね」 同じ様に見つめるキョウが、クスリと嗤う。 「死神を利用するために、殺人鬼を今まで飼っていただなんて。犠牲との天秤が合っていないのではありませんか? 枢機卿は馬鹿ですねぇ」 少しの憐憫もない嘲りに『そうねぇ……』などと相槌を打ちつつ、サクは言う。 「でもぉ、飼い主を殺したんだから。もう、止まらないわねぇ」 「まあ、そうでしょうねぇ。ご本人も、だいぶイカれていらっしゃる様ですし」 「いっぱい、殺したわね。これからも、殺すわね」 「多分、そうでしょうね」 「なら……」 覗き込む瞳が、クスリと笑う。 「殺すしか、ないわねぇ」 「死で償う以外の方法は、ないでしょう」 同意すると、すご~く不思議そうな顔で訊かれた。 「ほんとにー?」 「……はぁ。興味ないのに聞くのやめてくれません?」 ケラケラ笑うサク。意気投合とか、しないといいけど。 割りと、本気で不安。 「天姫には……生きたいって望んで欲しい……」 呟く様な『ナツキ・ヤクト』の言葉に、『ルーノ・クロード』は視線を向ける。 「死んだら、終わりなんだ……」 言葉の端に浮かぶ、苦悩。地獄の王・ハデスから聞かされた、『光帝・天姫(みつかど・あき)』の身上。それに対する憐憫と、広がる殺戮への憤りがせめぎ合う。 「人が好きなら……人と一緒に、生きられないのか……?」 難しいだろう。 天姫の所業を知りつつ、なお受け入れようとする友の優しさ。それを尊く思いつつも、ルーノは冷静に考える。 ハデスは言っていた。 天姫は、人が好きなのではない。 人を、信仰しているのだと。 信仰。本来、人が神の様な超常の存在に向ける感情。 畏れ。 敬い。 崇める。 それはもう、同族に向ける感情ではない。 求め。焦がれ。けれど決して届かない存在への、諦観。 そう。人に対し、そんな感情を抱く時点で。 天姫はもう、『人ではない』のだ。 先の戦い。 僅かであろうとも、確かに分かり合えたベリアルの少女二人。 人の敵である彼女達。それよりもずっと遠い場所に、天姫の姿はあった。 「私達は、天姫を……『イザナミ』を、まだ端的にしか知らない」 言いながら、視線を向ける。先には、『ベルトルド・レーヴェ』と、『タオ・リンファ』。そして、『ラス・シェルレイ』。 「君達は、イザナミと直に刃を交えた。天姫を、感じた」 複雑そうな顔をする三人。その心情を、如実に物語る。それでも、ルーノは問う。何かを、掴めればと。 「どう、思う」 「……どう、と言われてもな……」 軽く宙を仰ぐラス。想起するのは、あの夜。かの者と初めて出会った、冷たく昏い檻の中。 ベリアルや使徒とは全く違う、掴み処のない存在。 抗う事も。 争う事も。 意味がない。 淡々と。 奪っていくだけ。 それだけの、モノ。 「……すまない……」 予期していたのか。『そうか』とだけ、返すルーノ。 当たり前の事。 イザナミは、『死』。 死の概念、そのもの。 概念相手に、何を語ろう。 何を、求めよう。 差し伸べた手は、ただ空を掴むだけ。 全ては、無為。 『殺人現象』。 かつてアレが冠した呼び名は、奇しくも真理たる本質。 「……それでも、天姫さんは確かな『存在』です」 絞り出す様に、リンファが言う。 視界に映る骸の群れに、揺れる紫の瞳。 「……例え、何が目的であったとしても……この様な鏖殺、とても許しがたい……」 例えこの行為が、自分達への益として行われたモノであったとしても。 例え、報いとしての死を望んでいるとしても。 「……止めなければ、いけません。彼女が、人である事を望むのならば。尚の事……」 「その人である事の方法が、自身が死を迎える事だけだ……」 ベルトルドが発した言葉に、グッと息を飲む。 「お前も、察している筈だ。アイツを見た、その時から」 「…………」 答えない、リンファ。沈黙が、全てを物語る。 「認めろ。天姫はもう、人じゃない。アイツが人である事が許されるなら、それはもはや死を迎えるその瞬間だけだ。そして、何よりそれを望んでいるのは……分かるだろう?」 ルーノも。ラスも。リンファも。誰も、何も言わない。 とっくの昔に、理解していて。それでも、向き合いたくはなかった結論。 ベルトルドが、続ける。己の心に、刻みつける様に。 「望みを捨てるつもりはない。だが、他に方法がないのなら、逃げる事も出来ない」 決意を込めて、告げる。皆に。己に。 「覚悟は、決めよう」 (……しんどいじゃろうが、それが最善じゃ) 不意に割り込んできた思念に、険しい顔で歩いていた『ヨナ・ミューエ』が顔を上げた。 「桜夜姫様……」 (すまぬな……二ホンの八百万(我ら)が余計な真似をしたせいで、其方らに酷い役を負わせてしもうた……) 声の主は、『桜花の麗精・珠結良之桜夜姫(たまゆらのさくやひめ)』。イザナミと同様、東方島国ニホンを起源とする八百万の一柱。 「貴女が気に病むモノではないだろう」 気遣うのは、『クォンタム・クワトロシリカ』。 「二ホンで初めてイザナミが顕現した時、どんな事態が起こったかは聞いている。放っておけば、二ホンはおろか世界中で死がばら撒かれたかも知れない。貴女達は、それを防いだ。それも、仲間の死と言う代償を払って。貴女達に、非はない。むしろ、人(私達)こそ感謝すべきだ」 (そう言ってくれるのは嬉しいが、事実は事実じゃ。結果一つの血筋が絶え、一人の女子を救いのない呪いに堕としてしまった……) 「それとて、責を負うべきは欲に眩んだ馬鹿者達。文字通り、自業自得と言うモノだ」 (……其方、相変わらず手厳しいなぁ……。だが……) 優しく、微笑む気配。 《やっぱり、良い女じゃ……。事が済んだら、また一献交わそうや》 《ああ。私で、良ければ》 思い描く、いつかの宴。桜の、香。 また、あの夢の如き温もりを。必ず。 (……その折は、是非我(わ)もお呼びいただきたいモノだ……) また一つ、割り込む声。 『ミズナラ』。彼もまた、二ホン起源。人に寄り添う、優しき八百万。 (イザナミの件は、我ら二ホンの八百万にとって最大の無念。晴らしたくはあれど、八百万(我ら)だけでは及ばぬ。力を、貸していただきたい) 「元より、そのつもりでここに来ました。そも、イザナミは創造神達とは別な意味で危険な存在……。無視出来ないのは、人(私達)も同じです。足りないモノは埋め合いましょう。そのために、神々(あなた達)もこうして来て下さったのでしょう?」 答えて見上げる、ヨナ。視線の先には複数の気配。 (まあ、そう言う事でありんすねぇ) (ヴァルプルギスの子達のためにも、放っておく訳にはいかないから……) (ヴュヴュヴュ……余の嗜好品が摘まれるは、誠不愉快故……) 次々伝わる、同意の意思。 縁を結んだ、神々の声。 契りを交わしたとは言え、八百万の神は位相の違う存在。本来の座から呼び寄せるには相応の手順と多量の魔力が必要。常時顕現させる事も。一度に複数を召喚する事も。通常は不可能。けれど。 「感謝するよ、ダヌ様。お陰で、心強い」 (それは、こちらも同じよ) ルーノの呼びかけに答えた声の主は、最高位の八百万である『大樹の女神・ダヌ』。 アークソサエティの八百万のまとめ役である彼女の計らいによって、全ての契約神が一時的に座から解放。常時近隣の隠里世に待機し、最低限の対価で助力してくれる事になっていた。 もっとも、顕現自体に制限がかかっている事に変わりはないが。 (イザナミの事は、『なんじゃもんじゃ』から聞いた事があるわ。調伏の際には、沢山の八百万が死んで、なんじゃもんじゃ(あの子)自身も、危うかったと……) 穏やかな声に、確かに混じる畏怖と恐怖。最高位の八百万にすら、それを抱かせる。 神すらも殺す、絶対の『告死』。確かな悪寒が、改めて皆の背筋を這う。 (すまぬなぁ、伯母上。貴女にまで、とんだ迷惑をかけてしもうて) また謝る、桜夜姫。どうにも、らしくない。規格外の災厄を収め切れなかった事。それによって生じた惨劇、悲劇。悔恨の意は、強い。 そんな彼女の人臭さを嬉しく思いながらも、ヨナとクォンタムが再度声をかけようとした時。 (全くだぜ。島国のイモ連中ときたら、弱っちくててんで話にならねぇ) 突然飛んできたチンピラ言語に、ギョッとする。 (テメェらんトコで湧いた油虫くらい、テメェらで駆除出来ねぇのか? お陰で、コッチの領域(シマ)が随分と荒らされちまった。迷惑どころの話じゃねぇぞ。このド三品) 声の主は『復讐の女神・エリニュス』。役目が役目だけあって、性格がキツイ。『コラ、少しは慎みなさい』とかダヌが諫めるものの、聞きやしない。 (大体、何で出張って来てんのがテメーらみてぇな三下なんだ? こういうのは最高責任者が詫びするモンだろうが? なんじゃもんじゃの奴はどうした? 筋も通せねぇのか? それともいっぺん殺られかけたからってビビってんのか? 大した奴だな? イモ共のお頭サマは? あぁん?) 暴言の嵐。姿は見えないのに、肩イカらせてオラオラしてる様が容易に浮かぶ。何であの時、こんなのを代表者兼判定人になぞ選んだのか。話がまとまったのが奇跡に思える。八百万全員の良識を問いたい。 (ううぬ……言わせておけば!) 流石に温厚なミズナラ様も、怒る。普通、怒る。 (上方様にも、やむにやまれぬ事情があるのだぞ! 二ホン(こちら)とて、大事があったのだ! 今もお休みもなく、その始末をなさっておられると言うのに!) (はん! そんな些事もさっさとまとめられねぇから器が知れるっつてんだ) (まだ言うか!) (へーん! 黙ってやる義理なんかないねー。ほら、もっと言ってやらー。なんじゃもんじゃの能無し! 根性無し! 昼行燈! も一つついでに、大年増の猿山お局ばあさ~ん) ……それ、微妙にダヌ様に刺さらないだろうか。妹なんだけど。なんじゃもんじゃ様。 (……もはや勘弁ならん……) 憤りに詰まる声。何やら抜く気配。あ、ヤバイ。ミズナラ様、殿中でございますよ? (そこに直れ! この『神器・性根直乃大張扇』にて折檻してくれる!) 信じてたよ。ミズナラ様。 (おー、おもしれ―じゃねーか! タイマン上等! かかってこいよ、優男!) (黙れ! この十周回遅れの山姥小娘!) (おお!? 言ってくれるじゃねーか陰キャのもやし!) (日焼けて萎びたナスビよりマシだわ!) (ナス……おい! そりゃ寸胴って意味か!?) (他に何がある!?) (……ぬっ殺す……) (さればこそ!) (いい加減にしなさい!!!) だんだん中坊の喧嘩の体を成してきた所に響く、ダヌの叱咤。ゴインという小気味良い音が響いて、エリニュスの声が『ふんぎゃ!』と叫ぶ。 (な、何すんだよ!? ダヌ!) (何も蟹もありません! エリニュス、貴女が悪い!) (え~! だってぇ~! コイツがぁ~!) (言い訳、無用!) (うぅ……) ションボリする気配。母(?)は強し。 とにかく、良かった。『お前の母ちゃんデベソ』とか言い出す前で。 皆、心から安堵。 (やれやれ……やっと収まりおったか……) 「……何てゆーか、以外と人間っぽいわねぇ。八百万(アンタ)達って」 些かゲンナリした様子の桜夜姫の気配を見上げながら、『ラニ・シェルロワ』がそんな感想を述べる。 (ん? ああ、いくら自然神と言ってもな。知恵を得ればどうしたって心も得る。そして、同じ星の輪環に属しておれば、おのずとその方向も収斂される。そも、『人間っぽい』と言う表現とて、人(其方)ら主観の言い様じゃろう? 神(妾)達からしてみれば、其方らこそ『神っぽい』と言った感じじゃ) 「ふ~ん……」 (殺す気でおってなんじゃが、結局の所八百万(妾)らも人(其方)らも、共に創造神の小僧によって産み出された兄弟みたいなモンじゃ。似るのも、道理であろうよ) 「共に生まれた、兄弟……」 ふと脳裏を過る、『彼女達』の顔。 (まあ、中には気取って距離を置いとる偏屈共もおるがな) 何処かで何人かが、クシャミをする。 (それでもな、妾は嬉しいよ。ずっと己しか見ていなかった人(其方)らが、ようやく眼を上げてくれた。こちらに向かって、手を伸ばしてくれた。妾が生じて幾星霜、無かった事じゃ。一度もな) 「…………」 (神、獣、そしてベリアル。同腹の兄弟で、人(其方)らは一番強い心を持つに至った。なら、それにはきっと意味があろう。恐らくは、創造神であっても知るに及ばぬ事。妾は、それが知りたい) 何かが、ラニの髪に触れる。撫ぜる、桜の香。 (魅せておくれ、愛しい兄弟達。百年でも、千年でも。例え、星の礎が綻ぶ果てであっても) 結ぶ感覚。冷たくて温かい、樹木の体温。 (妾は、待っておるよ) 「う~む……。そこまで付き合うには魔女にでもなるしかなさそうだけど……」 触れないけど、確かにそこにある手。そっと握り返しながら、ラニは伝える。 「まあ、そんなに期待されてんなら。せいぜい頑張ってみるか。ね、ひめちゃん」 (うむ。それで良い) 向けた笑顔に、返す笑顔。そして、すぐに不思議そうな声。 (それはそれとして、何じゃ? その『ひめちゃん』てのは?) 「あー、ほら。たまゆらのなんちゃらって長いし、言い難いし。なら、『ひめちゃん』で良いかなって。『桜ちゃん』だと、サクラさんとモロ被りするし。何か、歳近そうだし」 ポカンとする、桜夜姫。 (いや、其方より相当歳食っとるぞ? 妾) 「細かい事気にしない。可愛いからいーじゃん」 (はぁ?) 「ね?」 何かを、感じ入る。込み上げる、感情。 (く……くふ、ふふふふふ……。人の身で、妾に……ソレとは……) 「気に入らない?」 (いや、いい! 実に良いな! ソレ!) 「でしょー?」 (あはは、あははははは。誠、愉快な奴じゃな! 小娘) 「小娘じゃない! ラニって名前があるわよ!」 (そうかそうか! 覚えておくよ、ラニ公!) 「何よ、ソレー」 薄闇を祓う、少女達の笑い声。 満ちる死の気配はそのままだけど。 ほんの少し、差し込む光。 正しくそれは。 繋がる導。 「だいじょぶなのか? 盟友。マジ、あぶないんだゾ?」 (心配ない) 「でもなー」 大きな鎚を担いでテクテクと歩く『ステラ・ノーチェイン』。話す相手は、『太陽の命姫・シャオマナ』の気配。神と人の身ながら、友人同士の二人。一緒にいる時は、いつも一緒。 いつもなら、嬉しい時間。けれど、今のステラは少し不安。原因は、シャオマナ。 最も若い上に、アークソサエティ領内の生まれである彼女。当然の様に、古く二ホン起源の存在であるイザナミとの関わりはない。 けれど。 (『アレ』は『死』を司るモノ。そして、私は未熟とは言え『命』の権能をいただいて生まれた。偶然では、ない) 脳裏に響く声。綺麗で、心地良い。 普段のシャオマナは、言葉を発しない。その言葉に、強い言霊が宿るから。不測の事態を防ぐ為、いつも筆談。 でも、今は念話。型を成さない、心の会話。言霊は宿らず、彼女は自身の声で話す。 けれど。 いつもの筆談とは違った、厳かな口調。それが、ステラの不安を煽る。 (人(貴女)達は、一つしかない命を賭して私を守ってくれた。憎しみと悲しみに堕ちた母と兄(けい)の御魂を救ってくれた。私は、それに報いたい) 相応の少女としての言葉。厳格な、神としての声。どちらが本当の彼女なのか。ステラに、それは分からない。そして、どうでもいい事。シャオマナは、盟友。大切な、友達。大事な事は、それだけ。 (だから、私は貴女達を護る。例え、『死』と相打つとしても。それが、私が生じた意味なのだ。母と兄(けい)も、きっと……) 「バカ!」 (!) 思いきって上げた声。 聞いた事もない響きに、シャオマナの気配がビクリと竦む。 「お前、バカだな! ホント、バカだ! オレ達まもってお前が消えたら、オレ達は何のためにお前守ったんだ!?」 (……え?) 「オレ達がお前を守ったのは、生きてほしいからだ! 友達になりたいからだ! お前を死なせてオレ達だけ残ったら、ソレはお前を盾にしたって事だ! それじゃ、お前を道具にしようとしたヤツラと同じだ!」 (それは……) 「オレは、ソンナの嫌だ! 許さない! ゼッタイに!」 (盟友……) 「そうだゾ! オレ達は、盟友だ! トモダチだ! トモダチは、一緒にいるんだ! 助けて、助けてもらって! ずっとずっと! 一緒にいるんだ!」 シャオマナの、気配が揺れる。 まるで、その心の様に。 「だから! だからお前がオレ達を護るって言うなら! お前も……」 一気に吐き出した言葉。これでもと言うくらいの、想いを込めて。 「オレ達に、守らせろ……」 (…………) ほんの、少しの間。 そして。 (……うん……) いつも通りの、彼女が響く。 (そうだね……盟友、だものね……) 「そうだゾ! だから、一緒だ!」 フンスと胸を張るステラを、見えない温もりが抱き締める。 (ごめんね……ステラ……) (ありがとう……) (小さき、盟友(とも)よ……) シャオマナの声の向こう。二つの声も、幼き勇姫を愛しく抱く。 (その娘に因果付けされたのは、数千の死の『結果事実』である) 皆を導く様に先頭を歩く『レム・ティエレン』。その彼女に影の様に歩を揃える、『メルキオス・ディーツ』。 二人の内に、『無明の賢師・アウナス』が語り掛ける。 「だってねー。確定した結果だから、もうイザナミにもどうにも出来ないんでしょ? 地獄の王様が言ってたそうだし」 (然りである。されど、世に絶対はないのである) 「……ん?」 レムの肩が、ピクリと揺れる。 (定位の位相は、同位の位相によって干渉可能である。その娘の『死』が『確定』と言う位相のモノならば、同じ『確定』の位相を持つ『生』をぶつければ相殺可能である) 「確定した生? 何さ、ソレ」 「……あの女の事だろ?」 ボソリと呟くレム。メルキオスが、視線を降ろす。 (良く理解しているであるな。まあ、己の死が呼び合うであるからな。自明の理である) キキキと哂う。慈悲ではない。好奇心。 (なれば、術を示すのである。イザナミの半身たる女。かの者の胸に在する陰陽図。其れに娘、汝が刃を立てるである) メルキオスとレムが、想起する。告死の蝶の群れの中で輝く、深紅の陰陽。ディアナの胸にも刻まれた、死との契り。証。 (さすれば、陰陽図は門となり汝の死と女の生を繋げる。幾千の死は数多の生と喰い合い、相殺し、無へと帰すのである。結果、汝は定められた死を失い、女は定められた生を消費する。残るは、本来あるべき『命』のみ。其をすでに消費し尽くしている女は、疾く滅びるのである。ただし) 軽く、釘を刺す。 (娘。汝に宿りし死の数と、かの女が保有せし生の数にさしたる差はないのである。もし過程において汝が規定量を上回る死を消費すれば、女の生を相殺し切る事は不可能になるのである。そうなれば……) 嘲る様に、声が告げる。 ――汝ら全てに、告死の運命が確定するのである――。 それだけ言って、遠ざかる気配。まあ、どうせ近くに在るのだろうけど。いなくなったのを察したメルキオスが、フン、と鼻を鳴らす。 「ホント、やだねー。神様ってのは。上から目線でさ。でも、それは『あの女』も一緒かな? まあ、もう『あっち側』っぽいし。当然か」 そう言ってクククと笑い、視線を落とす。 黙り込んだまま、足を止めているレム。 「良かったじゃん」 揶揄う様に、囁く。 「あの女を殺せば、死ねるみたいだよ?」 「…………」 レムは何も返さない。ただ、何かを思う。 「……僕が布被ってる理由だけどね」 不意に語り出すメルキオス。レムの反応は、ない。構わずに、続ける。 「大体は戦闘で敵の視界阻害、聴覚阻害、認識阻害に使ってる」 「…………」 「砂漠での防寒って意味もあるけど、一番は……」 そっと、耳元に寄せる口。口説く様に、囁く。 ――死んでたら、これで包んでね! って事なんだよ――。 レムの瞳が動く。金の眼差しに映る男の顔が、楽しそうに笑んでいる。 「親しい連中には言ってるし。当然、クォンにも言ってるよ。君は、何人目だっけかなぁ?」 「……で?」 レムが、問う。 「オレにそれ教えて、どうすんの?」 「べっつに~」 笑う。砂漠の風の様に。カラカラと。 「ただ、教えただけだよ。今回、割りとマジで死ぬかも知れないし。僕だけじゃないね。皆、死ぬかも」 確かな事。 ここは、そう言う場所。 「そしたら、何だかんだで一番生き残りそうなの、君じゃん?」 数多の死。 一つの命。 明白。 「だからさ。皆死んだら、やっといてよ。君じゃ、人数分の棺桶引き摺るのは無理だろうけど。それくらいは、出来るでしょ?」 いい加減冷えるし。吹き曝しは流石にきっつい。 そう言って、また笑う。 その顔を、ジッと見つめて。 『ばーか』と言う。 「アンタは、死なねぇよ」 割と、意外な言葉。小首を、傾げる。 「何で?」 「言ったの、アンタだろ?」 見つめる目。金色の硝子玉。 ――アンタが、オレを殺すんだろ――? 「……へえ……?」 ニヤリと歪む。さっきまでとは、違う意味。 「覚えてたんだねぇ?」 「覚えてるさ。折角の、言質だからな」 「じゃあ、死ぬ? あの女、殺した次に」 「……ディアナがさー」 急に出てきた名前。目を、細める。 「夜に、泣くんだよ。行っちまったって。置いてっちまった……って」 「何に?」 「『死』だとさ」 見つめる目が、歪む。自分と同じ、闇色の笑み。 「とーぜんだよな。『アレ』に取っ捕まった天姫(ヤツ)が死ねなくなってんだ。ソレ貰ったディアナが死ななくなんの、とーぜんだよな」 確かに、そうだ。 皆、気づいている。 だから、思っている。 何とか、しなければと。 「なんねぇよ。どーにも」 読み取る様に、言う。 「こいつは、あのイザナミってヤツを消さなきゃどーにもなんねぇんだ。でも、イザナミは殺せねぇ。そうだよな。出来んだったら、神さん達がとっくに殺ってる」 声に混じる笑い。酷く楽しそうに感じるのは、気のせいだろうか。 「分かってるからさ、ディアナは言うんだ。『おいてかないで』、『傍にいて』、『ずっとずっと、一緒にいて』って。可愛いぜ。あの顔、みっともなくグチャグチャにしてさ」 加虐の喜びに満ちた笑み。 メルキオスは、理解する。 『ああ、変わってないね』と。 あの日。あの時。数千人の民人を殺した時と、彼女はなんら変わってない。人に対する敵意も。世界に対する、憎悪も。 殺せない。死なない罪人。 死でもって償えないなら、生でもって償わせよう。 それが、教団の判断。 だから、素質が判明したレムを浄化師にした。 ディアナと言う居所を与え。 仲間と言う光を与えた。 それらが彼女の道を変える事を計り。 皆もそれを望んだ。 けど、結果は逆。 眩い程の光の中で、影は寧ろ濃さを増した。 なお深く遠い、深淵に転じた。 光は、闇を照らす。 その傍らで、影を奈落に染め上げながら。 「だからさ、決めたんだよ」 「何を?」 「オレ、ディアナと一緒にいる」 金色の目。輝く。昏く。 「ずっと傍にいて、見ててやるんだ。アイツが壊れてくのを」 楽しそう。 嬉しそう。 生きる意味を、見つけた顔。 望まれていた形とは、違う事なく。真逆だけれど。 「それでさ、アイツが壊れ切って爛れ切って、堕ち切ったら。撒いて歩くんだよ。一緒に。世界中の、全部の、糞野郎共に」 上ずる声。 喜びに。 高揚に。 染め上がり。 ――『死』って奴を――。 ハッキリと。 言い切った。 「そんでさー」 悪意は。 「糞が全部死んだら、後はつまんねぇから」 冒涜は。 「ディアナは、殺す」 深淵は。 「そしたら」 虚無は。 「約束通り、アンタがオレを殺せ」 止まらない。 「……本格的に、イカれた?」 薄笑みを返して、メルキオスは問う。 「そのルートだと、君もディアナも死なないまんまじゃん。終わる頃には、僕の方が死んでると思うけど?」 「駄目だね」 答えは、即行で返る。 想定済みと、言わんばかりに。 「アンタは、死なせない。そんな風にしてやる。オレと、『同じ』に」 メルキオス。少し。ほんの少し、呼吸を止める。 「知ってるぜ。殺らかしてんだろ? 結構。あと、ベリアルとかも数に入んのかな? 同じだもんな。命の価値って」 ――アンタらが、言った――。 笑う。笑う。 「貯金は十分、だろ?」 悪が、笑う。 「あー、そうだな」 罪過も。 「その理屈なら、『後ろの連中』もイケるか」 憎悪も。 「なら、アイツらも同じ様にしてやるか。ディアナは喜ぶし。可愛いディアナが壊れてく様も、見せてやれんな」 悲しみも。 「みんな、どんな顔すっかな?」 もはや、何の枷にも成り得はせず。 「あはは」 止まる事は。 「すっげー、楽しみ」 叶わない。 「心配すんな。天姫(アイツ)は殺してやる。そうしなきゃ、イザナミはディアナのモノになんねぇ。まずは、そっからだ」 言いながら歩きだしたレムが、チロリとメルキオスを振り返る。 「内緒だぞ? アンタだから、教えたんだ。もし、バラしたら」 張り付いた亀裂。また、ニヤリ。 「即行、死ねなくしてやる」 親友に釘刺す調子で、そう言った。 (う~ん) 歩いてゆくレムの背を見ながら、メルキオスは考える。 (どうにも。面白くはあるけど、愉快じゃないね) 思う事は、多々あれど。 (それでもまぁ、自分で乗った船ではあるし) ソレはソレ。コレはコレ。 (沈む際(きわ)は、看取らなきゃいけないかな) 浮かべる笑みは、やっぱり昏い。 ◆ いつしか、血泥の海が絶えた。 朽ちた門。嘘の様に綺麗に整えられた、庭園。奥に、廃墟となった教会。繋ぐ、石畳。 その、中央。濡羽の色の、長い髪。陰陽の絡まる和衣を纏い。チラチラ舞い飛ぶ蝶の中、光帝・天姫が傅いていた。まるで、御神を迎える巫女の様に。 「天姫さん……」 「何、してんの……?」 リチェルカーレとラニの問いに、面を上げる天姫。見えない眼差しが、フワリと笑む。まるで、想い人に面した少女の様に。 「礼は、尽くすべきでございましょう」 答える声。清水の様。 「お慕い申し上げる、方々でございます」 「……やめてくれ」 聞いたシリウスが、言う。 「俺達は、神じゃない。そして、お前も」 「そう仰って、いただけるのですか?」 嬉しそうに。本当に嬉しそうに、綻ぶ。 「貴方様に仰っていただけるなら、幾許かは、自惚れてもよろしいのかもしれません……シリウス様……」 ――ありがとう、ございます――。 そしてまた、頭を垂れる。恭しく。 交りそうで、届かない。 もどかしさに、唇を噛む。 「そうだな。俺達は神じゃない。俺達は……」 「処刑人、でございましょう? エフド様」 「……!」 「やつがれを、殺していただけるのでしょう?」 先取る様に、言う。声音に混じる、抑えきれぬ喜び。 「分かっているなら、受け入れるわね?」 「素直な子は、好きよぉ」 既に割り切り済みのラファエラとサクが、矢を向ける。何人かが、止めに入ろうとしたその時。 「ええ。ええ。そのつもりでございました。愛しいあなた方ならば、喜んでこの命、捧げさせていただくつもりでございました。ございましたが……」 途端、喜気に満ちていた声音が変わった。 「今この期に及んで、些か気変わりが生じてございます……」 昏く、沈んでいく声。それは、嫌悪であり。確かな憎悪の調べ。 「承知は、致しておりましたが……」 重くなる空気。周囲の温度が、明確に下がる。 「こうして前にいたしますと、どうにも抑えが利かないので……ございます……」 這い上がる怖気が、皆の身体を強張らせる。 香り始める、硫黄の匂い。 「お久しぶりで、ございますね……ミズナラ様……そして、桜夜姫様……」 底冷えのする声が、名を紡ぐ。見えない筈の眼差しが、その場所を見つめる。 (……『見える』のじゃな。顕現前の、妾達の存在が……) 何もない空間から聞こえる、桜夜姫の思念。 「ええ、勿論でございます。相変わらず、御麗しい御姿でございますね。桜夜姫様」 答えながら、スルリと立ち上がる天姫。綺麗な顔に張り付く、妖しい笑み。 (やはり、すでに『こちら』のモノか……) 「何を、仰います?」 ミズナラに答える声。酷く、透明。 「やつがれをこの様になさったのは、八百万(あなた方)ではございませんか……」 ヨナが。クォンタムが気づく。 世界を蝕んでいく、ピリピリと毛羽立つ様な魔力。 「やつがれは、ただ……『人』として在りたかっただけでございますのに……」 皆も気づき始める。 既知の者は勿論、話に聞くだけの者達も皆。 「……来ます……」 「備えろ!」 ヨナの呟き。クォンタムの警告。 構える、魔喰器が鳴く。 及ばぬ頂きに、怯え震える様に。 (……変わらぬな。天姫殿……) 見つめる気配の、桜夜姫が囁く。 (あの頃のまま……。綺麗な巫女だった、あの頃のままじゃ……) 「ええ、変わりません。変われません。ずっと。ずっと……」 長い髪が騒めく。 「嗚呼、何故でございましょう……」 憤怒。 憎悪。 悲哀。 孤独。 溜まり染み込み、血肉と化した負の願い。 「……何故、『八百万(あなた方)』が『そこ』に居られるのでございますか……?」 紡ぐ。 「『人(その方々)』の隣りに、居られるのでございますか……?」 喘ぐ。 「やつがれから、全てを奪った八百万(あなた方)が……」 呪う。 「そこは……そこには……」 すすり泣く。 ――やつがれこそが、居たかったのに――。 瞬間、ひび入る空間。弾ける閃光。轟く、爆音。 爆風と共に飛び散る火花と、押し寄せる硫黄臭。 思わず竦む皆の耳を、ガチガチと鳴く牙音が擽る。 「申し訳ございませんが、どうにも我慢がなりませぬ様で……」 混じる静声。調べに乗せて。 「少しだけ……。ほんの少しだけ、駄々をこねさせて下さいませ……」 恐ろしく。 悲しく。 「どうぞ、お嗤いください。やつがれのこの……」 そして、愛しく。 「悍ましくも浅ましき、劣情を……」 漆黒の炎と、極玄の雷。顕現する、脅威。 黒炎魔喰器『火雷大神(ほのいかづち)』。 纏った八つの獣骨。猛り荒びて、気を揺らす。 どうしようもない、主の心。 その慟哭を、せめてせめても。 代わらんと。 魔術真名の詠唱が響く。 望む事ではない。 望む筈もない。 それでも、止めなければならない。 死の荒神と化しつつある天姫。彼女の、暴走を。 それが、きっとせめてもの。 「こうなる予感は、ありましたが……」 吹き付ける雷気の嵐の中、開く黄昏の魔導書。 「ついに、本音が出ましたね」 魔方陣を複数励起しながら、ヨナは告げる。 「ここまで来たら、最後までお付き合いしますよ……」 聞こえたのか。暴風の向こう、天姫が向く。 「天姫さん!」 泣き腫らした様な顔。喜びに満ちて。 「そこを通してくれ……って訳には、行かない様だな」 竜哭を鳴らし、ベルトルドが呟く。 「全く、焦がれる女は恐ろし……」 言い終わる前に、響く激音。突撃してきた獣骨が一つ。受けた瞬間襲うのは、巨大な落石に撃たれるに等しき衝撃。発動した黒炎の助力を盾に堪えるも、足は掴む地面を削り押され、全身の骨と筋肉が軋みと悲鳴を上げる。 「……重い、な……」 黒雷彩る眼窩が見つめる。輩の鉄肌に牙咬みながら、パチリパチリと鳴いて告げる。 愛しき者に、痛く消えない口づけを。 それが、哀れな主の望みなのだと。 「天姫さん、もうやめて!」 咬みかかる火雷大神を召喚した雷龍で弾きながら、リチェルカーレは訴える。 「死を撒くばかりの神の力なんて、いらない!」 届くだろうか。届く事を、願う。 「天姫さん! わたしはイザナミじゃなくて、貴女に力を貸してほしい!」 吹き荒れる雷火の向こう。天姫が、見つめる。見えない、瞳で。 止まない、火雷大神の攻撃。掻い潜りながら、シリウスも呼び掛ける。 「……お前は、一体何がしたい?」 黒炎を発動したアステリオスが、荒ぶ獣骨と噛み合う。凄まじい膂力に歯を食いしばって耐え、なお。 「何故、ディアナを依り代にする?」 訴える。 「あいつの幸せは? 意思は?」 天姫の心。そこに、まだ『人』が在る事を願って。 「レムが横にいたら、それでいいのか?」 嘲る様に鳴く獣骨。歯牙の間に黒が弾け、咆哮と共に放たれる砲雷。 「お前は、『一人』で平気だったのか!?」 黒炎も、ベリアルリングのブーストも圧倒する威力。リチェルカーレの雷龍と共に、辛うじて耐える。途切れる雷禍。禹歩七星で強化した脚力で、踏み込む。 「……お前と比べる事は、出来ない。だが、俺は生き残ったことが苦しかった……」 雷龍を纏い、間合いを詰めながら言い放つ。 「ディアナに、そんな思いはさせない!」 迫るシリウスを感じて、天姫は微笑む。 微笑みながら、泣く。 「そうでございます……リチェ様。シリウス様。あなた方は、正しいのでございます。その想いも、御言葉も。紛う事なく、尊く、正しいのでございます。けど、けれど……」 届きそうだった泣き顔が、遠ざかる。 「やつがれにはもう、それが何故正しいのかも分からないのでございます……」 雷龍を咬み裂いた牙が、雷衝と共にシリウスを捻じ伏せる。 遠い。 リチェの声も。 彼女の場所も。 何もかも。 動きを止めた獣骨が、顎(あぎと)を開く。闇の奥、灯る雷華。砲雷。 「させません!」 前に出たリンファが、ソードバニッシュを放つ。易々と受け止める顎。刃を咬んだ牙が鳴いて、雷禍を放つ。 「ぐ……あぁ!」 共に悲鳴を上げる、リンファと化蛇。回り込んだステラが、鉄鎚を振り上げる。 「マーを、放せ!!」 渾身の乱打暴擲。けれど、獣骨はアッサリとリンファを放してこれを迎撃する。子供とは言え、人一人の重さが加わった鉄の塊。それを、単身で木っ端の様に打ち返す。 「うわわ!?」 反動でひっくり返るステラ。 「ならば!」 唱える解号。権能を開放した化蛇が、霊水を纏う。 「溺れなさい!」 巨蛇の如くのたうつ激流が、獣骨を飲む。止まる動き。けれど、それも束の間。 弾けた雷撃が、水の蛇の腹を裂き散らす。断末魔の飛沫と熱い蒸気の中、ガチガチガチガチ、哂う音。 「強い……生半可な、ベリアルよりも……。しかし、コレは……」 初めて目の当たりにした時から抱いていた、違和感。 如何にベリアルを素体とする魔喰器とは言え、所詮は武器であり、道具。場合によって危険はあれど、決してその域を大きく逸脱はしない筈。 されど、火雷大神は明らかに違う。 行動。反応。所作。どれをとっても、天姫の操作だけによるモノでない事は明白。 「意思が……あると言うのですか……?」 瞬間、聞こえたかの様に獣骨達が此方を向く。 「!」 一斉に、鳴らす牙。まるで、肯定の意を示す様に。 走る悪寒。 コレは、本当に自分の知る魔喰器なのか? 未知の恐怖。侵し行く。 「ホノイカヅチ……確か、ニホンの神だったか? それの、模倣か何かと言った所か……」 走る雷華を避けながら、呟くクォンタム。 いつか何処かで、齧っただけの知識。記憶をなぞる。 迫る砲雷。正直、手持ちの武器では一秒も止めれる気がしない。黒炎持ちの皆だって、手に負えてないのに。 辛うじて避ける。掠った髪が焼ける、嫌な臭い。 「私だって持ってないのに、黒炎魔喰器とか……。理不尽だ……」 何とも言えない不平等感に、ついつい愚痴ったその時。 (……今、何と言った?) 思念が、響いた。ミズナラ。妙に、困惑した声。 「ミズナラ神?」 怪訝に思うクォンタムに、ミズナラは問う。 (ホノイカヅチ? 『火雷大神』と言うのか? アレは) 「ええ。確かに、あの魔喰器の名ですが……? 何か?」 戦慄く思念が、言う。 (確かに、この神気は……。『彼ら』だ。正しく、『彼ら』のモノだ……!) 「……模倣、でしょう?」 嫌な、予感がした。打ち払おうと、問うた。けれど。 (否) 期待は、虚しく否定される。 (アレは……かの方々は、只の魔喰器ではない。神だ。かつて在った、高位八百万が一柱!『火雷大神(ほのいかづちのおおかみ)』だ!) 「な……!?」 背筋を走るは、畏れか。恐怖か。 「ちょ、どういう事よ!? それ!」 「アレも神……それも、高位八百万だって言うのか!?」 (否……違う……) ミズナラの言葉に戦慄するラニとラスに、桜夜姫が言う。 (今の火雷大神(あやつら)の性は、確かに魔喰器のモノじゃ。神の位相は保っとらん。そも、火雷大神は当に滅した存在。その座は、空のままじゃ) 「滅した?」 「何で……?」 (先の戦いの時、イザナミに殺された) 「!」 桜夜姫は語る。 火雷大神は二ホンにおいて最も地獄に近い相を持つと言う霊地、黄泉平坂を起源とする八体一心・雷の八百万だった。 その出自故、イザナミの『告死』に対して幾ばくかの耐性を持ち合わせていた彼ら。かの戦いの際には、その特性と二ホン八百万屈指の戦闘力を以て切り込み役を担った。 数多の八百万が告死の理に堕ち行く中、ついに火雷大神はイザナミへの突貫を決意する。八つの身に因果を絡め、イザナミの頭、胸、腹、下腹部、両手両足に喰らいつき、己自身を結界と成してイザナミの権能を封じた。当時のイザナミは存在全てが死の権化。如何に耐性があろうと、直に喰らいついて蝕まれない道理はなく。消えゆく命の中、火雷大神の願いを聞き届けたのは二ホン八百万の祖・なんじゃもんじゃ。彼女は、全力を以てイザナミに真名を刻み、滅びゆく火雷大神諸共顕界の理の中へと押し込んだ。 (その折、火雷大神(あやつら)の神核はイザナミの中へ溶け込み、一体と化した。ならば、そのイザナミを宿した天姫に其れが移るも、また道理……) 悍ましき忌話。ラニもラスも、息を飲む。 (恐らく、浄化師となって魔喰器を得た際、それを依り代にして内にあった火雷大神の神核を再顕現させたのじゃろう。己の、『傀儡』としてな) 「そんな事……」 (出来るさ) ラスの疑念を、切って捨てる。 (天姫自身が、なされた所業じゃ……) 呆然と見やる二人。黒い雷華がパチパチ、パリパリと咲いては散る。まるで、自分達の輪廻を描くが如く。 (あの娘を玩具に堕とした八百万(妾ら)が、今度はその娘に手駒にされたか……) 乾いた、笑い声。自嘲の、響き。 (誠、因果じゃなぁ……) そう。 咎は等しく。 降り注ぐ。 「本当に、ろくな事しないですねぇ。わざとやってません?」 (やらかしたは、島国の阿呆共故。余の知った事では、ない故) 迫る火雷大神を境ノ夜符・斬で迎撃しながらぼやくキョウに、あからさまにやる気がない感じで『毒潮(ぶすしお)の公爵・ナックラヴィ―』が答える。 「にしたって、同じ八百万でしょう? 事情くらい把握しといてくださいよ」 (知らん故。余は、余さえ楽であれば御機嫌故) 抗議の言葉にも、なしのつぶて。 「……まあ、生き物としてはそっちが普通でしょうけど……」 考える、キョウ。 この忌み神、どうにも人に対しての性が悪い。お互いの都合上協力関係にあるものの、事が終わればどんな行動に出るか分からない。と言うか、それこそろくな事をする気がしない。 (……場合によっては、先手を打つ必要もあるかもしれませんねぇ……) どんなに頑張ろうと、世界は一枚岩には成り得ない。 例え創造神とその眷属達を滅ぼした所で、人は色々やらかし過ぎた。幾ばくかの償いをしたとは言え、敵意嫌悪を抱く存在が全て消える道理もない。 共存は、決して共栄とイコールではない。 (大事終えても、小事は残りますか……) やれやれと溜息をついたその時。 「こら、キョウヤ! やられてるじゃない! もっとしっかり働きなさい! 馬車馬の様に! 伝書鳩みたいに!」 背後で喚く、サクのキンキン声。前を向けば、飛ばした境ノ夜符が咥え獲られた上に噛み噛みされてペッペされてる。 「ちょっと、やめてくださいよ! 歯磨きガムじゃないんですから!」 知った事かとゲラゲラ笑う獣骨達。完全に、舐めプ。 「やな骨ガラねぇ。キョウヤ、黒炎使って干からびさせちゃいなさい」 「いや、血吸いの呪いかけても意味ないでしょ。骨じゃないですか。カラッカラじゃないですか。ないでしょ。血なんか。どう考えたって」 「役に立たないわねぇ」 「世の中には適不適と言うのがあるんです! だいたい、黒炎に加えて神様内蔵ってどんな魔改造ですか!? 明確な条約違反です! 悪質チートです! って言うか、それ言ったらサクラだって似た様なモンじゃないですか!」 正しく。キョウに守られながら、リンクマーカーで命中率上げてトリックショットで狙い撃ってたサク。 当たるにゃ当たるのだけど、如何せん膂力に差が在り過ぎて。放った矢は全部咥え獲られてバリボリされて、ペッペされてる始末。 さっきも書いた、この下り。 「無知ねぇ。世の中には適不適ってあるの、知らないの?」 「……たまには怒っても、許されますよね?」 (……汝ら) ギャアギャア喧嘩してる二人に、ナックラヴィーが声をかける。 「何ですか!? 取り込み中ですよ!?」 (死ぬ故?) 瞬間、二人の足元に着弾する砲雷。爆炎と共に吹っ飛ぶ二人。絶対当てれたのに、外してる。やっぱり、舐めプ。 「う~ん。流石にマズイかしら?」 「ちょっと、強すぎますねぇ。本体の天姫さんを潰すのがセオリーなんですが、これじゃ近づく事も届かせる事も出来ません」 瓦礫の中、煤だらけの顔で悩む二人。と、そこへ。 (……ならば、『呼ぶ』故……) 昏く響く、忌み神の声。 (大概、退屈で仕様がない故……) ヴュヴュ、ヴュヴュ。哂う声。 (もう、分かっている筈故……) 囁く誘い。顔を、合わせる。 「まあ、そりゃそうなんですが……」 「決めるのは、私達じゃないわねぇ……」 そう言って見やるのは、『彼』。 理解している、自分達の立ち位置。首狩りの刃は、ただ役目を果たすだけ。 導を決めるは、あくまで柄の持ち手。 (……我らは、汝らの刃となるを約定した) 戦況を見つめるルーノに、『軍神・オーディン』の声が静かに語る。 (汝らが選ぶ道は、我らの導。汝らが信ずるモノは、我らの友) 遠くを見やる。戦火の向こうに座する天姫。微笑みを被った、泣き顔。 その、もっと向こう。 沈黙に包まれた、教会。でも、確かに感じるあの娘の存在。 (過ちも。咎も。全てを受け止め、痛みさえも明日への糧とする。其れが汝ら。人と言う、稀有なる存在) そう。 全部を救う事など、出来はしない。 幾ら砂を手の平いっぱいにすくっても、指の隙間から零れる事を止めれはしない。 でも、だからこそ。 「……シャオマナ……」 (何?) ルーノの呼びかけに、声が答える。 「イザナミが、現れない。在るのか? 今アレは、彼女の傍に」 しばしの間。答える。 (……あの方の傍に、死はいない。恐らくは、次の依り代の元へ……) 「そうか……」 もう一度、教会を見る。 待っている。 あの子が。 哀しい暗闇の中。 迷子になったままの。 かけがえのない、友人が。 未来が。 猶予は、ない。 「――天姫!」 声を、上げる。 皆の視線が、集まる。 獣骨達が、止まる。 天姫も、また。 その彼女に向かって、届ける。 確かなる、決意を。 「私達は、君を討つ」 そう。 「成すべき事を、成す為に」 決まっているのだ。 「守るべき者を、守る為に」 この道を。術を。定め決めた、その時に。 「私達は、『死』を捻じ伏せる! 刃とする!」 悲しみも。不条理も。零れる一掴みの砂さえも。 「それが、君の意味ならば! 君の、証ならば!」 無くす事は、出来ないけれど。 「私達は、それを成そう!」 だからこそ。 「浄化師として!」 手に残る砂は、絶対に。 「人として!」 そして、零れた砂にも。 「確かに共に在った……」 必ず、証を。 ――仲間として――。 貴女が居た、意味を。 届いた、声。 咲く事すら叶わなかった蕾が。 綻んだ。 ◆ 「神々達!」 呼び求める、声。 開く、顕現の扉。 幾条も閃く、光。 『……わっちの同胞(はらから)でありんすか。どうにも、哀れな様子でございんすねぇ』 舞い踊る虹の羽。火雷大神を高く見下ろした『覇天の雷姫・アディティ』が哀れみ告げる。 『よしみでありんす。いっそ、綺麗に散らしてあげんしょう』 虹の閃、黒雷を穿つ。 『人にとって、命ある者にとって、死はただ怖いモノ。認めたくないモノ。……でも、無ければ、永久に悲しみが募るだけ……』 緑の涼風を纏って、ヴァルプルギスの優しき守神。『リシェ』。 『辛かったね。寂しかったね。だから、もう……』 哀れなる咎。なお、慈悲を。 『ヴュヴュヴュ……ようやく、出番故……』 あからさまに機嫌を良くして、ズルリと這い出るナックラヴィー。 眉を潜めて、キョウがチクリ。 「……あのですね、真面目にやってくださいよ?」 『……あの女ぁ゛、美味そう故……。死憑きであるが、残念故……』 聞きやしない。 雷が吼え。 風刃が舞い。 毒が犯す。 強力極まりない火雷大神と言えど、同格の八百万複数体の権能に抗い切れる道理はない。じわじわと削られ、その影響は明らかに減じていく。 もっとも、それでようやく。 「シリウス……」 襲い来る牙と凌ぎ合うシリウスを援護しながら、リチェルカーレが呼びかける。 「分かっている」 聞く前に答える、シリウス。 「望みは、捨てない」 チラリと見やる先。敢えて、苦渋の判断を晒した戦友。その表情が、物語る。 「アイツだって、そうだ」 頷く、リチェルカーレ。 例え、それが運命(さだめ)で。 確かに、彼女の願いであったとしても。 「こんの!」 振り下ろしたソードバニッシュが、咬みかかってきた獣骨を弾き飛ばす。手に痛い痺れは残れども、掴める確かな手応え。 「おっし! 行ける!!」 ガッツポーズを取るラニの傍らで、ラスも振るう斧で獣骨を薙ぐ。 「これなら、何とかなるかもしれない! 少しでも、削るぞ!!」 「オッケー!」 ぶつかり合い、爆ぜる雷華の向こう。ラニの目に映るのは、佇む天姫の姿。 「天姫さん……」 彼女は、笑っていた。とても。とても嬉しそうに。 もう、明日なんてないかもしれないのに。 それとも、それこそが貴女の明日なのか。 「あんたが、何考えてんのか分かんないけど……」 直に、話した事なかったなぁ……。 思って、語り掛ける。埋め合わせと言う訳じゃ、ないけれど。 「今死んだら、特等席がなくなるわよ……」 届く筈も、ないけれど。 「ろくな事、無かったかもしんないけどさ……」 それを、思う事も叶わないけど。 「死にたいなら、仕方ないけどさぁ……」 それでも。 「折角ここまで、生きてきたんじゃん。なら……」 これは、きっと我儘。 隣りにいた貴女に気づけなかった、やるせなさへの。 自分勝手な、抵抗。 その時が、訪れるまでは。 貴女が駄々をこねるなら。 こっちだって、諦めてやらない。 それがきっと。 仲間と言う事。 「もうちょい、粘って欲しいかな!」 閃く剣閃が、ついに一つの牙を穿つ。 「シャオマナ、頼めるか?」 (大丈夫。私は、その為にいる) 顕現したシャオマナが、ルーノの問いに筆談で答える。 「皆の黒炎魔喰器に、二つ目の命を。弱体化したとは言え、火雷大神は黒炎無しでは辛い。まだ、イザナミが居る。アレも、黒炎無しでは無理だ」 (分かった) 権能を開放するシャオマナ。ホープレーペンに新しい鼓動が宿るのを感じながら、ナツキが言う。 「ルーノ、俺は……」 「分かっている」 彼の想いは、理解していた。 自分も、同じだから。 「足掻いてくれ。私も、足掻く」 「おう!」 信じていた通りの答えに、嬉しそうに肯くナツキ。走り出す彼への援護を始めるルーノに、届く思念。 (……何故、妾達の扉は開かなかった……?) 気配。桜夜姫と、ミズナラ。 「天姫は、貴女達ニホンの八百万に対する憎しみが顕著だ。貴女達の姿を直に目にして、逆上でもされたら面倒な事になりかねない」 もっともな、理由。けれど、桜夜姫は直ぐに悟る。 (それだけ、か……?) 答えは、沈黙。 それで、十分。 (すまん、な……) 無骨な優しさ。ただただ、愛しい。 「……ベルトルドさん……」 「ああ」 『彼女達』の動きを見たヨナの呼びかけに、頷くベルトルド。 「……行きますか?」 察したリンファが、問う。 「ああ。悪いが、ここは頼む」 「いえ、こちらこそ……。辛い役を、託します」 「それは皆同じ、ですよ」 放たれた砲雷をファイヤーボールで相殺し、走る二人。 見送ったリンファが、やるせなさに口を噛む。 「さて、じゃあ行こうか?」 「何だ。ついてくんのかよ」 「まーだまだ。君一人に任せられる訳、ないじゃん」 へらへら笑うメルキオスを、ジト目で睨むレム。 「俺も行くぞ」 声に振り返れば、エフドがいた。 「話は聞いていた。クソガキ、お前なら光帝を仕留められるんだな?」 「……そんなに声、大きかったかい?」 「皆、知ってるぞ。聞こえたからな。そのクソガキのご意向も。光帝の仕留め方も。『あからさま』に、な」 忌々しげに舌打ちをする、レム。 「あ~、そう……」 (やっぱり、ねぇ……) 理解する、メルキオス。と言うか、薄々。 (とことん、気に食わないね。『神様』ってのは……) 無明の中に聞こえる、哂い声。 影に彩る猿の手が。繰々。狂々。駒を、繰る。 「……気持ちは分かるが、割り切れよ」 「大丈夫だよ、クォン。そう言うの得意なの、知ってるじゃん?」 阻もうとする獣骨を迎え撃ちながら、言った言葉。返ってきた返事に溜息をつくクォンタム。 「……ウチの相棒は、『神』と名の付くものは嫌いらしい」 変えて語り掛ける相手は、レム。 「光帝の事も、『上から目線で嫌い』と言っていたが……まあ、こんな調子だ。私情に負けて暴走はしないし、盾にもなる。好きな様に使え。ただ……」 少しだけ、情の彩。 「無駄死には、させないでくれ。ソイツの為にも……」 ――お前の、為にも――。 微かな呟き。聞こえたモノか。素知らぬ顔のレム。 「行くぞ。他の連中が骨共を抑えている今が、チャンスだ」 「そうね。守ってばかりも辛いから。さっさと行って」 エフドの言葉に、エアーズスナイプを弾きながらラファエラが頷く。 「はいはい。じゃあ、頼むよ」 ――オーディン様――。 瞬間、天から叩き落ちる氷嵐の柱。凍てつく大地を踏み砕き、現れるのは漆黒八脚の神馬に乗った銀騎士。 『用向きは承知している。寄るがいい。かの者への道を、開く』 『軍神・オーディン』の誘いに頷く皆。鎧の奥の眼差しが、上を向く。 『汝らも望みであろう。急げ』 「すまない」 「失礼します」 間一髪、飛び込んでくるヨナとベルトルド。ラファエラとエフドが、意外そうに言う。 「あら、貴方達も? ブラックパンサー」 「お前らは、『あっち側』だと思ったがな」 「天姫さんには、言いたい事もありますので。それに」 ヨナの言葉が終わらないウチに、巻き上がり始める風。包み込む中で、ベルトルドがレムに言う。 「……死の体験は、お前みたいな子供が慣れていいものではない」 「…………」 「俺の目の前で死ぬような事は、させないからな。レム」 ――例えお前の望む道が、昏いままであったとしても――。 レムの答えは、聞こえない。 吹き上がる豪風。弾け合う氷雪の中、嘶くスレイプニル。 『――参る』 軍神が、告げる。 瞬間、弾ける氷風一陣。阻もうとした火雷大神達が、術もなく吹き飛んだ。 「――――!」 気が付いた時には、天姫の背後。振り向いた彼女の顔が、喜びに満ちる。 「天姫!」 「ここまでです!」 飛び込んだベルトルドの拳と、ヨナの放ったソーンケージ。瞬時で召喚された漆黒の雷龍が、まとめて阻む。 「ああ! 来たのですね! 来て下さったのですね! やつがれの為に! ヨナ様! ベルトルド様!」 歓喜に上ずる声が、迎える。 「それが、貴女の望みなのでしょう!?」 「ええ! ええ! そうでございます!」 天姫の爪が、切り裂く様に一閃。九字。桁外れの威力のソレが、雷龍ごと二人を薙ぐ。 「歓迎致します! 心から! 全てを以て!」 もう一撃。吹き飛ばす。 「ノウマク・サンマンダ・バサラダン・カン!」 灯る炎渦。小咒。鎌首をもたげた炎蛇の群れが、襲い掛かる。 「踊ってくださりませ! 遊んでくださりませ! 戯れてくださいませ! もっと! もっと! やつがれと! そして! そして!」 蠱霧散開。掴みかかる、蠱毒の呪い。 「刻んでくださりませ! 消えない様に! 忘れない様に! その御身体に! 御心に! やつがれを!」 舞い狂う。狂喜と、狂気。 「やつがれとの、思い出(証)を!」 三度、九字。まとめて吹き飛ばす。 幾百積もった、願いをぶつける様に。 「そういや、陰陽師だっけ。アライブスキル、全部使えたり? って言うか、ガチ強」 「火雷大神やイザナミ頼りじゃなかったか……。だが……」 辟易するメルキオスと共に、挺身護衛でレムを護るエフド。 「承知の上だ」 「そう言う事だ」 再び飛び出す、ベルトルド。負った傷も、構わない。 「天姫さん」 天姫の攻撃を相殺しながら、ヨナが呼びかける。 「貴女は望んでいる。イザナミとの因縁を断ち切る事を」 焔と焔の向こう。見えない目が、見つめる。 「生き残れば、成せる事もあるでしょう。そして、皆さんもまだ諦めてはいません。それでも……」 絡み合う、視線。そして。 「本当の望みは、変わらない」 彼女の目が、細む。あの目は、何を見ているのだろうか。 「欲しいのですよね。渇望する程に。人としての、死が」 叫びを聞いた。 理解した。 「断言します」 傲慢なんじゃない。 妄信している訳でもない。 壊れている訳でも、無い。 「貴女が、生きて『人』である術は……」 ただ。 怖いだけ。 「ありません」 人でなくなる事が。 一緒でなくなる事が。 大好きなモノの隣りに、居られなくなる事が。 「そして、それを以て。誓いましょう」 だから、私達はそれを成そう。 「貴女を」 それが、たった一つ。出来る事だから。 「救います」 確かな、仲間として。 「ただな、コレも確かだ」 繰り出した磔刺を鬼門封印で止められながら、ベルトルドも言う。 「ヨナも言ったが、諦めていない。リチェも。シリウスも。リンファも。ステラも。ラニも。ラスも。ナツキも。そして、ルーノの奴も」 掻き切る九字。竜哭越しの痛み。想い。 隙を抜いたオーパーツグラウンドが、印を弾く。 「無理かもしれん。いや、分かってるだろう」 それが、どうしようもない現実と。皆。 「それでもな。アイツらは足掻く。最期まで。お前が、ここにいる限り」 貫く、封印。 拳が、穿つ。痛く。けれど、優しく。 「構わないだろう? それも……」 声。 微笑み。 心。 見えなくても。 「お前が求めた、人の姿だ」 求め続けた。 仲間の、心だ。 見える。 見える。 人の姿。 人の心。 人の、想い。 貴方が来る。 貴女が、来てくれる。 皆が、いてくれる。 手を、伸ばしてくれる。 差し伸べてくれる。 ああ。 ああ。 そうです。 だから。 だから。 もう、十分。 『私』は、満たされた。 だから、もう溢れるだけの。 その、優しさは――。 「……喰らえ……」 ベルトルドが、手を止めた。 「……貪れ……」 ヨナが、息を飲む。 「……噛み砕け……」 エフドが、少しだけ目を伏せる。 ――喰い千切れ――。 「……出番だよ」 メルキオスが、レムの肩を叩く。 「解き放って、おあげ」 ――意味の潰えた――。 「ろくでもない」 ――この、未練――。 「神の籠から」 火雷大神が、吼える。 吹き出す黒炎。 纏う、黒雷。 球雷。 万物を焼き尽くす、黄泉神の業雷。 迸り。 ぶち当たる。 伸ばした手。 掴もうとした手。 繋ぎたかった、心。 もういいよ、と。 十分だよと。 押し戻す。 顕現する、ダヌ。 削られかけた、意識をくべる。 せめて、最期の瞬間を。 見送る、時間を。 渾身の力をもって、押し退けた火雷大神。 今度こそ、寝かしつけようと迫る。 叩き伏せようとした瞬間、輝く光鏡(ひかがみ)。 『……聞いてやれよ……』 復讐の女神が、優しく告げる。 『……どうって事ねぇ、我儘だろうが……』 還る雷華。 高天の原に。 「分かっているな。アイツに引導を渡し、お前の姫さんを助けるために。お前が殺した彼らが必要だ」 天姫に向かうエフドが、レムに告げる。 「責任もって、連れて行け」 全ての命に。 「彼らを、英雄にしろ」 確かな、意味を。 「戦闘って騙し合いの駆け引きみたいなもんなんだよ」 身を屈めるレムに、メルキオスは囁く。 「僕ら魔性憑きは、相手を翻弄して何ぼだ」 まるで、狩りを仕込む兄狼の様に。 「そいつの感覚を、騙してやるのさ」 一撃で。 「足捌きで」 苦痛なく。 「布を翻す音で」 解き放つ為に。 「惑わせてあげな」 あの、死神の首輪から。 「……うっせぇよ。『変態』さん……」 金色の目が、光る。 舞い飛び始めた、蝶を映して。 「光帝」 エフドが、呼びかける。 蝶に愛でられる、天姫に向かって。 「俺の相方が、伝えたい事があるそうだ。例の、『お姫様』にな」 天姫の瞳が、上がる。妖しい神気に、染まりつつあるソレ。 「アイツが他人にそんな事望むのは、初めてでな。叶えてやりたい」 「…………」 「悪いが……」 構いませんよ。 声が、囁く。 大切な、御方でしょう? と。 「物分かりの良い奴は、助かる」 浮かべる、親しげな笑み。 「アンタとは、いい仕事が出来たかもな」 蝶が、燐を散らす。 天姫の身体を、繰る。 イザナミの、残滓。防衛本能。 九字を放とうとした、瞬間。 風が鳴って、蝶が散る。 「いい加減、無粋よ」 「大変だったわねぇ。疲れたでしょう? 楽になって、いいのよ」 「ま、知りませんけど」 憮然と、ラファエラ。 面白そうに、サク。 興味なさそうに、キョウ。 増えようとする蝶を、次々撃ち抜く。 「この期に及んで、邪魔はさせん」 まとめて切り捨てた残滓を払いながら、クォンタムが言う。 「行け」 「OK」 墓前ノ決意を纏い、突撃するエフド。 残った蝶が禁符の陣を誘うが、飛んできた符が蝶ごと弾く。 ルーノ。 分けるなら、痛みも共に。 「……じゃあな」 縛る、搦メ手。勢いのまま、駆け抜けるエフド。 その、後ろから。 「……結局、同じだよな。アンタも」 幼く、冷たい。けれど、生きた声。 「持ってってやるさ。ディアナも。イザナミも」 声が、聞こえる。 誘う、声が。 「アンタが望むモンに、なってやる。だから」 肩からぶつかり、押し倒す。 「安心して」 仰向けの感覚。馬乗りの、重み。振りかぶる、音。 抱き締める様に、伸ばす両手。 その間を、風鳴りが抜けて。 「逝けよ」 終わりの言葉。 貫く、刃。 霧散する、朱の陰陽。 痛みはなくて。 苦しくもなくて。 ただ、ホッとして。 声が、聞こえて。 皆の、声が呼んでくれて。 嬉しくて。 とてもとても、嬉しくて。 最後の、最期。 ちょっと。 ほんの、ちょっとだけ。 『死にたくないなぁ』って……。 ◆ 『まだ、死んでねぇ。入った『死』達が、『生』を喰ってる最中だ』 つまらなそうな声で、エリニュスが言う。 『だが、戻っちゃこねぇ。コイツ自身の『生』は、とっくに尽きてるからな』 嘆く声は、ない。 分かって、いた事だから。 『教会ん中にゃあ、ヤツの神気が満ちてやがる。縁が続いてる姐さんやシャオマナ以外の連中が割り込む、隙間がねぇ。だが、オレの光鏡は持っていける。そんで、ソレが顕現してる間はオレも残る』 溜息、一つ。『しけた面、してんじゃねぇ』と、青い髪の少女をこづく。 『見ててやる。だから、行ってこい。それが、コイツの望んだ事だろ?』 一人。 また一人と、立ち上がる。 軽く目を伏せる者。 優しく髪を撫ぜる者。 『行ってくんね』と、囁く者。 最後に、リチェルカーレ。彼女の両手を胸に乗せて、立ち上がる。 「……お願い、します」 『ああ。心配すんな』 サッサと行けと手を振るエリニュスに一礼して、皆を追う。 託された、願い。 成すべき事を。成す為に。 『……つまんねぇ終わり方、すんじゃねーぞ……』 教会の闇に消える背中にそう言って、傍らを見る。 静かに眠る、天姫の顔。 『……焦がれ焦がれて、狂って踊る、か……』 少し呆れた様に、言ってやる。 『そう言うのを、『人』って言うんじゃねーのかねぇ……?』 届いた、だろうか。 ◆ 開いた扉の向こうは、薄闇と、無数の蝶に満ちていた。 視界すらも覚束ない蒼の燐光。その向こうに、リチェルカーレが気づく。 ステンドグラスから注ぐ光の中。祭壇の上で眠る、少女の姿。 「ディアナちゃん……!」 「おーおー、こっちの苦労も知らずに。お気楽におねんねかよ」 呆れるレムを追い越して、咄嗟に走り出すリチェルカーレ。けれど。 「――――っ!」 蝶の燐に触れた途端、襲い来る猛烈な怖気。一瞬で全身が汗を拭き、硬直する。 「何だ、これは……」 後を追おうとしたシリウスも、異常な感覚に絶句する。耐えれば良い等と言う次元のモノではない。本能が。命ある者としての存在そのものが、接触を拒む。 『……『死の概念』だわ……』 見回したダヌが、言う。 『この蝶自体が、『死』そのもの。生きる者は、触れるだけで拒否反応を起こす……』 「何よ、ソレ……」 「前の時は、そこまで……」 『地獄の欠片としての本質を、取り戻し始めている』 ラニとラスの問いに、シャオマナが答える。 『適合者である天姫殿の器を離れた事によって、アレを顕界の理に括っていた枷が外れた。このままでは、いずれ疑似八百万としての型すら失い、本来の『死そのもの』へと戻る』 「そしたら、どうなるんだ……?」 『かの災厄の再現。この蝶一匹一匹が『告死』となって、世界中に無秩序な死を振り撒く』 自分の問いに返った言葉に、息を飲むナツキ。 「つまりどうあっても、ディアナにこいつ等を制御してもらうしかないと言う訳か……」 「元から、そう言う予定でしょ」 呟くエフドの横を抜けたラファエラが、立ち尽くすリチェルカーレの隣りに立つ。 「ラファエラ、さん……?」 構わずに、マッピングファイアを放つ。散らばった矢に撃たれた蝶達が、あえなく散る。 「あらあら」 「脆いですねぇ」 感心とも呆れとも取れない声で、サクとキョウ。 「取り合えず、始末する事は出来るわね。なら、やる事は決まってる。リチェ、片付けるわよ。ディアナの所まで、真っ直ぐ」 「ラファエラさん……」 「取り戻すんでしょ。あの娘を。私も、言いたい事があるから。付き合うわ」 「……はい」 頷き合う二人。ラファエラが、レムに呼びかける。 「アンタも来なさい。パートナーなんだから、お目覚めのキスくらいしてあげるものよ」 「へいへい。元からそのつもりだよ……」 面倒くさそうに。けれど素直に進み出るレム。 蝶を観察していたルーノが、首を傾げる。 「滅ぼされたのに、再召喚しない……。この蝶には、同族を召喚する魔法式が内蔵されている筈だが……」 『顕界の存在から、地獄の存在へ変わる過程。力の大部分が、存在の維持に回されている。召喚能力も、最低限まで落ちている』 「成程。朗報ですね」 「ああ。ならば、抜けるのは易い」 シャオマナの言葉に、リンファとベルトルドが微かに安堵したその時。 「ふぅーっ!!!」 急に怖気立つ、ステラ。 「ステラ!?」 「マー! 皆! 来るゾ!!」 彼女が警告するのと、同時だった。 「ヨナさん!!」 気づいた、ラニの声。 ヨナの前に、イザナミがいた。 忽然と。 「――な……!?」 咄嗟に、視線を逸らす。けれど。 悍ましい感覚が走った瞬間、遮る様に顕現する光鏡。 弾かれた何かが、逆にイザナミを撃つ。 リィイイイイイ……。 すすり泣く様な音を上げて、消えるイザナミ。 「大丈夫か!? ヨナ!」 「は、はい……。けど、今のは……」 駆け寄ったベルトルドに答えるヨナ。激しく脈打つ胸を押さえて、えずく。見たルーノが、呟く。 「エリニュス様の『報いの光鏡』が発動した……。『邪視』だ……」 「で、でも! ヨナは視線を外したんだぞ!?」 ナツキの疑問。ダヌが、答える。 『……邪視の力が、増しているのでしょう。恐らくは、視線を合わせずとも。『視るだけ』で……』 一斉に、息を飲む。 「無理ゲーも、大概にして欲しいモンだな。こちとら、命は一つだってのに」 「……それでも、逃げる選択はない」 引き攣った笑いを浮かべるラスに、シリウスが言う。 「俺達が逃げれば、世界に死が満ちる。ディアナも、助けられない。そして……」 向ける視線。扉の、向こう。 「天姫(アイツ)に、合わせる顔がない」 「……ま、そりゃそうだ」 「厄介な置き土産だけど、始末はつけなくっちゃね」 苦笑するラスと、フンスと胸を張るラニ。ポツリと、一言。 「仲間、だもんね」 ◆ 『皆さんの加護は、必ずや努めます』 『あなた達を、易々と死には委ねない。だから、進んで』 ダヌとシャオマナの確たる約定。残る、エリニュスの光鏡。 神々の加護を纏って、踏み出す。 「さて、奴さん消えたけど。アレでお亡くなりって事はないよねぇ」 「当たり前だ。毒蛇が自分の毒で死ぬか?」 淡い期待を相方にバッサリ否定され、ヘラリと笑うメルキオス。 「避けるしか、能ないんだよねぇ。ただの布でも、視界阻害くらいはなるかにゃー?」 背後のシャオマナに、言う。 「君の盾になるくらいしか、思いつかなくてね?」 悲しそうな顔をする彼女に、またヘラリ。 告死の権能は、神をも殺す。彼女もまた、未来のために欠けてはいけない欠片。 「――っ! おい!」 クォンタムの声と同時。鏡が発動して、弾く。 「僕が倒れたら……他の人、頼んだよ」 確かな、死の感触。それでも笑みは、絶やさない。 リィイイイ……。 黄泉の蟲の音。鳴いて、消える。 「ああ、もう! ウザったい!」 舞い飛ぶ蝶を落としながら、息を吐くラニ。 「イラつくと、隙が出来るぞ。何処から出るか分からない。気をつけろ」 同じく蝶を駆逐しながら、青い顔でラスが注意する。 荒い呼吸。不安に駆られる、ラニ。 「……大丈夫?」 「ああ、三人の神様の加護だ。抜けちゃいない。けど……」 先刻、邪視を穿たれた。 顕現したイザナミ。皆を護ろうと放った、乱打暴擲。持ち前の火気によって祓ったものの、引き換えに叩き込まれる。三重の加護を超え、なお感じた死の愛撫。 「やっぱり、死なんて受け入れるモンじゃないな。絶対、後悔するぞ。コレ……」 「ラス……」 「イチバチだったが、やっぱり駄目だったな……」 投げ捨てるのは、錆の塊となった『呪詛返し』。呪詛を跳ね返す魔術も、『理』には無意味。 沈黙。 ただ、沈黙。 ただただ満ちる、死の気配。 「……気が、狂いそう……」 目に入る汗を拭い、ラニは呟く。 舞い飛ぶと蝶と。降り散る燐火。虚夢の、幻想。 「こんなのと、一緒にいたんだ……。一人で、何百年も……」 壊れるのが、当たり前。 「天姫さん……」 気づくと、目の前に輝く青燐の単眼。 「――!」 押し寄せる、感覚。 痛みではなく。不快でもなく。ただ、ただ。深淵。昏い、昏い、喪失。 (うっわ……きっつぅ……) 死した者達は、皆コレを。 村の人達も。 親友も。 朧げな、両親も。 それが、悲しい。 ただ、悲しい。 (誰だよ……? 死は、救いなんて言った奴……) こんなモノが、救いだと言うのならば。 (ぶん殴ってやる……!) 生きる意味。 また、一つ。 穴がない訳ではない。 エリニュス達、神の権能。 かつて火雷大神が縛り付けた、火気への忌避性。 そして、事前に『地獄の王・ハデス』から受けていた黒炎への位相干渉の加護。 殺す事は出来ない。 滅ぼすにも及ばない。 けれど、当てればイザナミは消える。ほんの一時、この世界から弾かれる。 束の間の、タイムラグ。その間に、進む。 無数の蝶の壁を削りながら、一歩ずつ。 蝶達は、沈黙のままそこにあり。 沈黙のまま散っていく。 まるで、それが死の在り方と言う様に。 (遠い……。すぐ、そこだと言うのに……) ジワジワと蝕まれていく身体を引きずりながら、リンファは霞む視線を送る。 蝶の檻の中、幻想の様に現れては死を告げるイザナミ。 世界の理であるそれは、如何なる防具も魔術も防ぐ術がない。 対抗手段の一つであったエリニュスの鏡は、すでに潰えた。無防備の身に注がれる死は、命を統べるシャオマナが無効化し続けてくれる。 けれど、シャオマナは神としての歴は浅く。 長い時を経て熟し、そも生物ですらないイザナミと比べれば差は歴然。消耗激しく、いつまで持つか分からない。 もし彼女が潰えれば、死は全てを蹂躙する。 (せめて、リチェさん達だけでも……) そのものは免れても、感覚は構わずに身を犯す。 霞みがかる思考を巡らせようとした、その時。 「ふぅっ!」 傍らの、ステラが震える。野生だけが感じる、兆し。 皆の間に、緊張が走った瞬間。 現れた。 誰の元でもない。 シャオマナの、前。 『!』 八百万と言えど。 古龍と言えど。 所詮は、生きる存在。 俯いていた、白痴の面。面を上げる。 青い燐光。灯る、単眼。 告死が、命を捕らえる。 「盟友!」 ステラが、悲鳴を上げる。 そして――。 発動する邪視。 受けたのは、咄嗟に割り込んだリンファ。 「カフッ!」 死が、心臓を握り潰す。溢れる、血反吐。引きずり込む。 すんでのところで、シャオマナが相殺。捕らえ損ねた、獲物。小首傾げるイザナミの後ろで、ステラが激情に吼える。 「このヤローッ!!!」 叩きつける、乱打暴擲。自前の、火気。細く鳴いて、消えるイザナミ。 「マー!」 駆け寄るステラと、抱きかかえるシャオマナ。 共に、泣きそうな顔。 ダヌが癒すも、ダメージは深く。 何か言いたそうなシャオマナに、笑う。 「そんな顔は、しないでください……」 伸ばした手で、流れる雫を拭う。 「大丈夫……。悲しい思いなんて、させませんから。大事な、大事な……」 ――娘(ステラ)の、友達――。 『!』 空気が、変わった。 満ちる怒気。命の鼓動が、死の静寂を乱す。 「盟友……」 呆然とするステラの前。リンファを抱き締めるシャオマナの髪が、ザワザワとざわめく。 『許さぬ……』 響く、声。力故、封じていた言葉。護る宝珠が。勾玉が。爛々輝く。まるで、愛しき者の怒りを継ぐ様に。 『居ね……』 それは、古龍の怒り。 命統べる、王の逆鱗。 『下郎!!!』 圧に固まる皆の間を、言霊が駆け抜ける。 絶対の王令。数多の蝶が、一気に爆ぜた。 『盟友!』 シャオマナの示しに、振り返るステラ。 見えたのは、驚きに立ち尽くすリチェルカーレ達。彼女達とディアナを隔てる、蝶の数。 意を察したステラが、飛び出す。 蝶の消えた道を疾走し、二人の頭上を跳ねて超える。 「ステラちゃん!?」 「ちょ、何!?」 「どうした? 馬鹿」 驚く連中はほっといて、振りかぶる鎚。 「ぶっとべー!!」 渾身の、グラウンド・ゼロ。吹き飛ぶ、蝶の群れ。 開ける、最後の道。ディアナの眠る祭壇。一直線。 走る悪寒。 死の顕現。 ステラが、叫ぶ。 「マー!」 結ばれた心。意は、すぐに。 「ダヌ様! 加護を!」 注がれる命。 渾身の、力を。 「化蛇! 今一度!」 権能開放。迸る激流。顕現しかけのイザナミをかき消し、リチェルカーレ達をディアナの元まで一気に。 「リンファさん……ありがと……」 「何しやがんだ! この行き遅れロリコンババア!」 「あんた、殺されるわよ……」 喚くレムを引きずって、ディアナの元へ。 「ディアナちゃん……」 横たわる彼女を、リチェルカーレが抱き起す。 反応はない。浅い呼吸。冷たい身体。彷徨う、現と黄泉の狭間。 抱き締める。力、いっぱい。 「目を、開けて……。レムちゃんも、心配してる。来てるの、ここへ」 レムが、バツ悪そうに眼を逸らす。 「わたしも、シリウスも皆も! 貴女を辛い目に合わせたかったんじゃない! 生きてほしいの! どうか、幸せに……!」 流れる髪を、ラファエラが櫛削る。 「私は、あなたのご両親を助けられなかった」 語り掛ける。優しく。囁く様に。 「恨めしい恩人と、絶対殺したい奴の犠牲者、そしてティエレン(コイツ)の犠牲者も」 誤魔化しはしない。 「だからせめて、仇が分かれば復讐するの。この世には間違いなく悪党がいて、見えてる奴には報いをくれてやりたいから」 飾りもしない。 託されるであろう、役目。 でも、一人ではないのだと。 「コイツはもう、殆ど不死身じゃないわ。処刑しようと思えば、出来る。貴女が戻らなければ。私はこの極悪人を許してない」 冷たい頬に触れ、告げる。 「貴女にしか、出来ないのよ。コイツを、外道で終わらせないのも。『あの歌』に、意味を持たせるのも」 ディアナを抱き締めたまま、リチェルカーレが歌い始める。 それは、あの木漏れ日の子守歌。 彼女の母が、最期まで歌い紡いだ命の絆。 どうか。 どうか、もう一度。 レムが、顔を上げた。 気配を、察して。 「クソが……」 歪む空間。 まろび出る。 幕間は、終わり。 動ける者は、もう。 『……ちっ』 教会の外。エリニュスが、舌打ちをする。 『最期まで、駄々こねやがって……』 けれど、その顔に苦々しさはなく。 『……まあ、いいさ……。くれてやる……』 ゆっくりと、分け与え。 『結んでやりな。シャオマナ』 そう、告げた。 『――承知した。エリニュス殿』 シャオマナが、伺う様に見る。 頷く、ダヌ。 そして。 『――其が願い、承る』 唱う、声。 『大樹の女神・ダヌの名に置き、太陽の命姫・シャオマナが結ぶ』 紡ぐ、言の葉。 『数多数多の契りの契りの許に、神霊となれ』 願う、言霊。 『――陰陽の、巫女よ――』 雷華が咲いた。 傍らを走り抜けた熱が、朦朧としていた意識を覚醒させる。 牙を鳴らし。 白雷を纏い。 猛る叫びと共に。 『彼女達』は、今まさに飲み込もうとした死に喰らいついた。 頭。 胸。 腹。 下腹部。 両手。 両足。 牙立て、縛る様。まさに、かの神話の再現。 「ほの……いかづち……?」 「何で……?」 呆然とする皆の耳、微かに鳴る鈴の音。 シリウスが。そして、ベルトルドが目を見開く。 初めて会った時。『彼女』が付けていた、鈴櫛。 「……天姫?」 喜ぶ様に、白い華。 雷が通った道が爆ぜる。燃え尽きる、大量の蝶。空いた隙間。届く、思念。 受け取った、ルーノが呼ぶ。 開く、扉。 満ち行く、桜華の香り。 青樹の匂い。 蠢く、闇。 『ようやく……じゃな』 『誠、大したモノだ……』 『キキキ。全く、研究しがいのある玩具である』 桜夜姫。 ミズナラ。 アウナス。 顕現した三柱の神が、加護を放つ。 「これ……!」 ラニが、桜の花弁を纏った剣を見つめる。 『それでイケる! 気張れ! ラニ公!』 「あー、そーゆー事ね!!」 友神の激励、奮い立つ。他の者も同じく、立ち上がる。 牙に縛られるイザナミ。もがく身を、貫く刃。 「……お帰り。天姫さん」 傍らの獣骨に、微笑むラニ。 邪視を穿とうとした単眼。深緑を纏った大鎌と蒼剣が抉る。 「やはり、良い仕事が出来るな。アンタとは」 不敵に笑む、エフド。 穏やかに、シリウス。 抵抗するイザナミを、次々と縫い留める刃。 ナツキが、叫ぶ。 「ディアナ! 分かるだろ!? 皆が来てる! レムも、一緒に!」 そう。皆が。分かってくれた、彼女もまた。例え、束の間でも。 「起きてくれ! そして、帰ろう! 皆で!」 蝶に解けようとする所を、加護を得た陣で縛りながら。ルーノも呼ぶ。 「帰ったら、君と話がしたい……」 いつか、伝えようと思っていた事。 「善悪の性質ではなく、死ねない理由がある。だから、私は死ななかった。君を助ける為、成すべき事の為」 あの時は、伝わらなかった。 だけど、今なら。 「正解は、一つではない。そういうケースも、あるというだけの事だ。だから、君も」 必ず。 「大騒ぎねぇ」 「お祭りですねぇ」 残る蝶を落としながら、サクとキョウ。 「でも、愉快だわぁ」 「まあ、悪くはないですかね」 自分達は、お門違いだけど。 キキキと笑う、嫌みな声。 「バカ騒ぎしやがって」 呆れた声でぼやいたレムが、姉の腕で眠る彼女を見下ろす。 「早く起きろよ。でないと、馬鹿共がうるせぇ」 浅い寝息。答えは、ない。 「……あのな」 屈める、腰。 「オレの中、まだ結構、残ってる」 溶け切れなかった、罪。 「付き合ってやるよ。そんで、駄目だったら」 近づける、顔。 「一緒に、死なせてやる」 口づけるは、無限の旅路。 気づいたら、彼女が立っていた。 昏いけど、生に満ちた眼差しが見下ろす。 「決めたよ……。わたし、決めた……」 細いけれど、強い声。 「受け止める。背負う。皆の想いも。あの女(人)の願いも。お母さんの、歌も」 決意。それは、人の罪を見つめ続ける事への。 「だから、『アナタ』も、おいで」 術は、もう。 「光帝・天姫の命を継ぎて、ディアナ・ティールが命ずる」 輝く、朱の陰陽。 「死よ。契れ。従え。跪け。我の。人の。刃となれ。我、掴みし真名は」 新たな、加護。そして、籠。 「――『黒死の虚神・伊邪那美』――」 仄火が消えて。 蝶が、散る。 ◆ この世界は、それほど優しくないけれど。 せめて、あの子らの未来が明るく照らされる様に。 私達は、その為に。 絶やさず、繋いで。 自由の利かない身体で。 呟く様に。 聞こえる、子守歌。 せめてと拙い、声を重ね。 目を覚ましてと。 祈る。 人の業が産んだ存在も。 いつか、輪廻の輪に戻れる事を。 せめて、貴女が眠るまで。 私が抱き締め。 傍にいよう。
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*** 活躍者 *** |
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[39] ヨナ・ミューエ 2020/10/02-23:50
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[38] ルーノ・クロード 2020/10/02-22:46
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[37] クォンタム・クワトロシリカ 2020/10/02-21:13
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[36] ヨナ・ミューエ 2020/10/02-17:40
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[35] ルーノ・クロード 2020/10/02-15:05 | ||
[34] ラニ・シェルロワ 2020/10/02-11:27 | ||
[33] クォンタム・クワトロシリカ 2020/10/02-03:47 | ||
[32] リチェルカーレ・リモージュ 2020/10/02-01:13
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[31] エフド・ジャーファル 2020/10/02-00:15
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[30] ルーノ・クロード 2020/10/01-21:51
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[29] ルーノ・クロード 2020/10/01-21:37 | ||
[28] ヨナ・ミューエ 2020/10/01-14:04
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[27] ヨナ・ミューエ 2020/10/01-13:54 | ||
[26] エフド・ジャーファル 2020/10/01-00:55
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[25] リチェルカーレ・リモージュ 2020/10/01-00:44
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[24] エフド・ジャーファル 2020/10/01-00:36 | ||
[23] ナツキ・ヤクト 2020/10/01-00:28
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[22] ルーノ・クロード 2020/10/01-00:17
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[21] リチェルカーレ・リモージュ 2020/10/01-00:16 | ||
[20] ルーノ・クロード 2020/09/30-23:59 | ||
[19] クォンタム・クワトロシリカ 2020/09/30-23:55 | ||
[18] ラニ・シェルロワ 2020/09/30-20:43 | ||
[17] メルキオス・ディーツ 2020/09/30-04:42 | ||
[16] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/29-21:37 | ||
[15] ルーノ・クロード 2020/09/29-02:07 | ||
[14] ラニ・シェルロワ 2020/09/28-23:22 | ||
[13] エフド・ジャーファル 2020/09/28-22:34
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[12] ヨナ・ミューエ 2020/09/28-20:57
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[11] ナツキ・ヤクト 2020/09/28-12:58 | ||
[10] ヨナ・ミューエ 2020/09/28-10:18 | ||
[9] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/27-23:24 | ||
[8] ナツキ・ヤクト 2020/09/27-11:56 | ||
[7] ルーノ・クロード 2020/09/27-11:55 | ||
[6] ラニ・シェルロワ 2020/09/27-11:36 | ||
[5] エフド・ジャーファル 2020/09/27-10:50 | ||
[4] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/27-10:05
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[3] エフド・ジャーファル 2020/09/27-07:54 | ||
[2] リチェルカーレ・リモージュ 2020/09/26-09:17 |