~ プロローグ ~ |
ルネサンスのヴェネリア地区、ベレニーチェ海岸にセイレーンが現れる。 |
~ 解説 ~ |
今回のプランは |

~ ゲームマスターより ~ |
夏らしいシナリオらしく、存分にいちゃついてください。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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■祓魔人の夢 家族の愛を失わず、故郷で幸せに暮らす夢 ルーノが祓魔人だと判っても遠ざけたりせず、笑いかけて側にいて抱きしめてくれる 現実ではあり得ない、そんな家族と過ごす夢 ■喰人の奮闘 ルーノに近付かないよう敵を牽制 揺すっても呼んでも起きなくて もう目を覚まさないかもと不安になる 「なぁ、起きてくれよ!俺の相棒はお前だけなんだ、お前じゃないと嫌なんだ!」 揺すろうと勢いあまってルーノに頭突き 蹲る程痛いがルーノが目覚めたら飛び起きて抱きつく ■目覚めた後 ナツキ:ルーノ!目が覚めたんだな、よかった! ルーノ:わ、わかったから離れてくれ耳元で騒ぐな! 痛む額を押さえルーノがナツキを促し 味方と共にスキルでセイレーンを攻撃 |
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【目的】 セイレーンの討伐。 【フィデリオ】 夢: 庭の日向で魔術論文を読んでいる自分に声がかかる。 振り返れば、自分と同じ年頃の女性。従姉妹で幼馴染の、自分と同じ様に魔術の研究をしている相手。 根を詰めすぎだと、わざとらしく怒る君とのやり取りがこんなにも楽しくて。 起きたら: 味方に当てないように、セイレーンを逃がさないように、そこそこ離れてセイレーンに攻撃。 【ザック】 近づくセイレーンを睨み、剣を一振りして牽制。他の祓魔人を狙ってる隙に、起こす。 「見たことないぐらい穏やかな顔を……!」 「いつまで寝る気だバカ! 夢じゃなく現実を! 俺を! 見ろ!!」 起こしたら: 前衛に就き、セイレーンに攻撃。期を見てエッジスラスト。 |
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「どうしたのジエン?へんな顔をしてるわ」 綾ちゃんが…ううん、綾音が笑ってる。 何事もなかったように。 いや本当に「何事」もなかったんだ。 俺は綾音を守ることができて…綾音はアンデッドにはなってなくて。 でも、たぶんこれは幸せな夢なんだろう。 って痛い!今の結構痛かったよ綾ちゃん! 綾ちゃんが俺の事必要としてくれるなら俺はちゃんと君の傍にいなくちゃね。 いい夢だったよ…けれど今の俺には綾ちゃんがいるからね。 そっちの方が大事だから。 (昔の綾音ではないかもしれないけど今の綾音だって別人なんかじゃないんだ) セイレーン退治の任務だったね。 目は冷めた。戦おう。 俺はSH4でみんなの援護。怪我をしたらすぐに回復するよ。 |
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ぼくのしあわせ かぐちゃんがそばにいてくれれば、それでしあわせだよ だって、かぐちゃんがいなかったら、ぼくは10ねんまえにおわってた だから、あのこはぼくのたからもの。 ぼくには、あのこが、かぐちゃんがいれば、それでいい ……だから、 僕以外の誰の目に映ることなく 僕以外の誰も触ることなく 僕以外の誰も声を聞くことない ただ、二人きりの場所が欲しいとか、夢を見る。 |
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●千亞行動 …珠樹のやつ、本当にすぐに眠ったな… 「おやすみなさい、千亞さん」なんて言って、耐える気ゼロじゃないか、まったくもう… ※セイレーンの攻撃は盾で防ぎ、拳で威嚇し、スキルも使用 おい、ほら珠樹、お前も戦えっ。 起きろっ(蹴ろうとしつつ) (あまり見たことない、珠樹の幸せそうな寝顔) …こいつ、凄く安らかな表情。 いつも、寝てる時すら澄ましてるのに。 どんな夢、見てるんだろう…。 そういえば、過去の夢も見るって言ってたよな。 もしかして珠樹、何か思い出せるんじゃ…。 そう思うと、少しでも長く寝かせてやりたい。けど… (しばらく防戦後、意を決し) 「珠樹。おまえの過去は僕が探す!だから、起きろ!」 思いっきり蹴り。 |
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◆アユカ 甘い匂いに包まれる ここは…わたしのお店 「甘い甘いチョコレート、仕上げに一振り魔法をかけるよ」 わたしは当たり前のようにチョコレート細工を作り、お客さんに振る舞う あの人の遺したこのお店で… でも次のお客さんは様子がおかしい 厳しい顔でわたしを見つめ、厳しい言葉をぶつけられ わたしは一気に現実に引き戻された ◆楓 幸せな夢、か… きっと彼女は、記憶を取り戻しているだろう 肩を軽く揺さぶり、殊更厳しい口調で起こす アユカさん、いつまで寝ているのですか 指令に遅れますよ 飲み過ぎるなとあれだけ言ったでしょう 今の彼女は菓子職人ではない、浄化師だ 心の底ではそれをちゃんと自覚していると信じたい 起こした後はセイレーンを倒す |
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セイレーンの呪歌に抵抗する気であったがあえなく眠りに誘われる 万全じゃない身体でセイレーンの討伐に乗り出たところで…ま、こうなるな 気持ちゆっくり起こしに向かう 幼少の頃 いつもの静かな家。一人での食事 多忙な両親の元で育ったヨナはそれが常 ぼうっと明かりが灯ったように父と母が現れ一緒にテーブルを囲む 優しく話しかけてくる両親。疑問抱かず子供らしくはしゃぐ 母の子守歌を聞きながら満ちた気持ちで眠りにつく ヨナ。おいヨナ 軽く頬を叩かれてて起きる 夢だった 抱かれているのは母親の腕ではなく逞しい腕 強引に現実に引き戻される (…私が望んでいたものは…) 茫としながら瞬きをすると不意に零れ落ちる涙 |
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これは夢…なのだろうか? ベリアルに殺された筈の父上が、母上がいる…! 紅茶を飲みながら、庭園で微笑んでいる。 父上…私は…(涙をこらえ) 母上…もうどこへも行かないでください… こんな幸せな事なんてない、こんな…っ (夢から覚め) …現実なわけ、ないよね。 ララ、ありがとう。おかげで目が覚めたよ。 さあ、あいつを倒すよ! (アブソリュートスペル詠唱) 騙した代償は高くつくよ…! (セイレーンの胴体目掛けてエクスプロイトショット) (戦闘後) そう言えば、どうやって僕を起こしてくれたんだい? |
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~ リザルトノベル ~ |
指令にあったセイレーンのいる岩場に一行はやってきた。 しかし、そこにセイレーンの姿はなく、周囲を警戒していると寄せては引く穏やかな波の音に交じて広がる美しい歌声が、訪れた浄化師たちの鼓膜をひっかいた。 抗いがたい甘美へと誘われていく。 『ヨナ・ミューエ』は耐えようと拳を握ったが、歌声が耳にはいった瞬間に崩れ落ちるのを『ベルトルド・レーヴェ』がたくましい腕で受け止めた。 逆に『明智・珠樹』はあっさりと眠った。 「おやすみなさい、千亞さん」 などと抗う気ゼロだ。 「少しは耐えろ!」 と『白兎・千亞』が軽くキレた。 『ルーノ・クロード』が目を開けると、そこは見慣れた我が家だった。 「ぼーとして、大丈夫か?」 顔を覗き込んでくる兄にルーノは目を見開いた。 「兄さん」 「ルーノ、どうした? ほら、もうすぐ母さんのごはんだぞ」 「今日はせっかく、お前の好物を母さんが作ってくれたのに、しっかりしろ」 にこにこと笑う父、心配そうに、けれどはにかむ兄。 ルーノが浄化師と判明したとたんに背を向けた両親、戸惑い視線を合せなくなった兄。そんなものはここには存在しない。 愛と慈しみに満ちた家族の団欒。 テーブルから零れそうなほどに並ぶご馳走のなかで今日はなにがあったのかを家族は語り合う。 みんな、笑っている。 「ルーノは勉強が得意だから将来が楽しみね。お兄ちゃんも見習わないと」 「こいつががんばるからいいんだよ」 兄の期待の目、両親の愛情に満ちた瞳。 夜が更けると、眠る時間だと両親はルーノに抱擁し額にキスをくれる。 ルーノは両親を強く抱擁したとき。 「お前じゃないと嫌なんだ!」 どこかで聞いた覚えのある、切実な声。 その声の主が誰なのか――。 「ナツキ……!」 『ナツキ・ヤクト』は焦りを覚えていた。 セイレーンが眠りにつかせた相手を海へと引きずり込もうと手を伸ばしてくる。その手が、ルーノに触れないように必死に牽制するが、名を呼んでも起きる気配がない。 もしかしたら、このまま起きない? ――心に恐怖が忍びこみ、ナツキはたまらない気持ちになった。 「悪いっ! セイレーンを頼む!」 「僕が引き受けるから行け!」 千亞の力強い声に背中を押されたナツキはルーノに近づいた。 びっくりするくらい優しい顔で眠っているルーノに動揺した。 「……っ! なぁ、起きてくれよ! 俺の相棒はお前だけなんだ!」 ルーノが自分をどう思っているのかわからないが、背中を預けられるのは彼だけだ。 揺さぶるため抱えたようとして、焦りに勢いあまって思いっきりナツキはルーノを抱額に頭突きをかました。 「っっ!」 その場に蹲るほどの痛みに目の端に涙が零れそうになるナツキは、自分の下からいたた、と声を聞いて、はっとした。 「額がひどく痛いな。手柔らかに頼むと言ったのに」 「ルーノ!」 尻尾をふり、耳をぴんとたてて全身で喜びを示すナツキは額を抑えて軽く呻くルーノに飛びついた。 「ルーノ! 目が覚めたんだな、よかった!」 「わ、わかったから離れてくれ耳元で騒ぐな!」 暖かな日差しの差し込む庭。 樫の木で作った二人掛けの椅子に腰かけて、『フィデリオ・ザッカーバーグ』は熱心に魔術に関する本を読んでいた。 彼女に少しでも近づくため。 「フィデリオ」 花が咲くような声。 顔をあげると、彼女が微笑んでいた。 「根詰めすぎよ? 少し休んで、はい。疲れにいいジャスミンティーをいれたわ」 「……ありがとう。あと甘いものはないのかい?」 「まぁ! 仕方ないわね。特製のクッキーを用意したから、二人で食べましょう」 従姉妹で幼馴染の彼女はフィデリオの横に腰かけると、膝の上にクッキーを広げる。それに手を伸ばしてフィデリオはさくさくと食べる。 彼女が水筒を取り出していれた優しい紅茶を受け取り、ゆっくりと口のなかを潤す。 静かな、優しい、二人きりの時間。 「喰人であれば、契約できたのにね」 彼女は祓魔人で、フィデリオも祓魔人ゆえに契約を交わすことは出来ない。 愛や好きといった甘い気持ちはないが、二人でいることが心地よくて。この空間を、この時間を永遠に守りたいと心から思った。 風が吹いたのに、彼女は髪をおさえ、微笑みかけてくる。 「見たことないぐらい穏やかな顔を……!」 千亞、ナツキと協力してセイレーンに牽制攻撃を繰り返す『ザック・ゲイル』はフィデリオの顔を見て苦虫を噛み潰した。 彼が見る夢の内容はわからないが、きっとまともに人と向き合おうとしない彼のその原因がなくなった夢なのだと察しはついた。 穏やかな顔を見ていると、むかむかむした痛みがこみあげてきた。 相棒を起こしたナツキが、ルーノとともに前線の守りを交代してくれたのにザックは走りよると、拳を一度作ったが、すぐに事前に言われていたことを思い出して手を開くと、息を吸い込んだ。 「いつまで寝る気だバカ! 夢じゃなく現実を! 俺を! 見ろ!!」 頬に放った平手打ちは、ぱん! 気持ちのいい音がした。 とたんに水から引き揚げられたように、はっとフィデリオは目を覚ます。 「っ……なんて夢だ。最悪だ」 フィデリオは呻き、額に手をあてると顔を軽く横に振った。 「何をぶつぶつと。ほら、さっさと倒すぞ!」 「わかっているよ」 返事をするが、脳裏に残るのはフィデリオ――彼女の声は枯れた花のように切なさを与える。 彼女がいればだなんて。そんなのは責任を押し付けているだけの、酷い侮辱で彼女を貶めているのと同じだ。 フィデリオは胸の上で強く拳を作るとセイレーンを睨みつけた。 「どうしたのジエン? へんな顔をしてるわ」 綾ちゃんが……ううん、綾音が笑ってる。 『ジエン・ロウ』は目の前で何事もなかったように笑う彼女を見た。 手を伸ばすとあたたかい。 「本当に、どうしたの?」 不思議そうに問われるのに、ジエンはこみあげてくる思いに震え、沈黙した。 なにもなかったのだ――! 村は燃えず、守りたい人を守り切り、怒りは生まれなかった未来。ずっと続くと思っていた未来だ。 ――綾音を守ることが出来た! すとんと胸に落ちてきた喜びは飴玉のように甘く、そして心をとろとろにさせる。 だからジエンは何も言わない。いつも持っている飴玉を綾音へと優しく差し出す。甘い幸せをわけあうように。 『吉備・綾音』はジエンを見つめて黒い瞳を細めた。 幸せな夢と聞き及んだが、どんな夢を見ているのかはわからないが、ジエンは穏やかに眠り続けている。 軽く揺さぶりながら綾音は声をかける。必死に。 「私は貴方に戻ってきてほしい。私の記憶の中にいる貴方が大事です。でも、それだけじゃなくて、何もわからないままの自分を優しく受け入れてくれたジエンさんが大事です。だから私には貴方が必要です」 たとえ、あなたが望む綾音でないとしても、二人で今まで歩んできた真実は嘘偽りはないから。 起きて、と揺さぶるが夢のなかはそんなにも居心地がいいのか起きる気配がないジエンに綾音は唇を軽く噛む。 「すみません、痛いかもしれませんが」 ぱんと平手打ちがジエンの頬を襲った。 とたん。 「って痛い! 今の結構痛かったよ、綾ちゃん!」 「あぁ、よかった。起きてくれましたね。……涙がでるほど痛かったですか? 加減が出来ずすみません」 ジエンの涙の理由は痛みではないことを綾音はなんとなく察しながらも、そう言葉をかける。 ジエンは目の端を濡らす涙を指の腹で拭い、綾音をまっすぐに見つめた。 「綾ちゃんが俺の事必要としてくれるなら俺はちゃんと君の傍にいなくちゃね。いい夢だったよ……けれど今の俺には綾ちゃんがいるからね。そっちの方が大事だから」 ジエンの言葉に綾音は拳を握りしめる。 「さぁ、セイレーンを倒しましょう。自分の身は自分で守ります」 綾音の強い言葉にジエンは頷いた。 『ヴォルフラム・マカミ』の夢は、いつもとかわらない夢。けれど少しだけ「いつも」とズレた夢。 『カグヤ・ミツルギ』がどこにもいかず、誰にも触れることのない箱庭で過ごしてくれていること。 だって、かぐちゃんがいなかったらぼくはここにいなかったから。 だから、閉じ込められた白い部屋のなかからカグヤは一歩も外へと出なくて、誰もそれを咎めず、当たり前と思っている。カグヤに触れるのはヴォルフラムだけ、声をかけるのも。二人だけの場所で、ずっと笑っている。彼女は自分に文字を教え、物語を聞かせてくれる。まどろみのように甘い夢。 笑っているカグヤ。 それだけで。 ぼくはしあわせ。 「ヴォル」 カグヤは大きな瞳を少しだけ細めて、彼を見る。何人か起きた仲間にセイレーンの牽制を任せて、眠り続けるヴォルフラムを見つめる。 厄介な子供である自分を受け止めてくれた大切な相棒は今なにを夢見て、こんな顔をしているのだろう。 命に係わることで動揺はしない、それに自分は好かれていいのかだって、いつも迷っていた。だからこんな風な顔をさせる夢の内容もわからず、胸が苦しいばかりだ。けど、今、彼を起こせるのは自分だけ。 「ヴォル! 起きて!」 カグヤは声をあげて、ヴォルフラムの体を揺さぶった。 「カグ……ちゃん?」 「よかった」 薄っすらと目を開けたヴォルフラムは少しだけ残念そうに眉を寄せ、手を伸ばすと、カグヤの頬にかかる髪をかきあげた。 「おはよう、カグちゃん」 「おはよう。ヴォル。セイレーンを退治しましょう」 「そうだね」 千亞は盾でセイレーンの手を防ぎ、さらにアライブスキルも出し惜しみせずに珠樹を含む他の仲間たちを必死に守っていた。 数名の仲間が起きて前線を交代してくれるのに千亞は珠樹に駆け寄った。 「まったく! おい、ほら珠樹、お前も戦えっ。起きろっ」 片足をあげ――動きが止まる。 本当は思いっきり蹴ってやるつもりだったのだが。 (……こいつ、凄く安らかな表情。いつも、寝てる時すら澄ましてるのに) 千亞ですらあまり見たことがないほどに幸せな顔に戸惑ってしまう。 (どんな夢、見てるんだろう……そういえば、過去の夢も見るって言ってたよな。もしかして珠樹、何か思い出せるんじゃ……そう思うと、少しでも長く寝かせてやりたい。けど) 千亞は地団駄を踏みたい気持ちになってすぐに他の仲間たちのフォローをするため前線へと戻った。 「あれ、起こさなくていいのか?」 「起こすけど」 ナツキが驚いて声をかけると千亞は葛藤した表情で言い返す。 千亞が考え及ばない夢のなかで珠樹は幸福を貪っていた。 バニーだ。 ナースだ。 真夏らしい誘惑満載のちょっときわどい水着だ。 浴衣なんかもあったり、メイド服もあったり、ここには古今東西のすべての服が存在し、それをすべて着ているのは――。 「千亞」 なぜかどこぞの神のごとく、白布で美体を覆った珠樹はうっとりとした声を漏らす。 ちなみに彼らがいるのは大理石を研いで作ったような立派な神殿だ。ここは愛の神殿といっても過言ではない。 なぜなら、珠樹を取り囲むのは、右を見ても、左を見ても可愛かったり艶ぽい姿の千亞だらけ。 最強にして最強の千亞神殿! 「ふふ、ふふふ!」 笑い声をあげて悦に入る珠樹。 すると千亞たちがおずおずと距離をとりはじめた。 いつものパターンを察した珠樹はほくそえむと、さぁ、来てください、とばかりに両手を広げて、イッツ・スタンバイ。 「珠樹。おまえの過去は僕が探す! だから、起きろ!」 バニーも、ナースも、水着も、浴衣も、その他全部の千亞が思いっきり片足をあげて――珠樹を蹴った。 嗚呼、なんたる。 し・ゅ・く・ふ・く! 現実の千亞はものすごく悩んでいた。過去の夢で幸せなら、起こさないほうがいいのではないのかと考えて、ぐるぐるとまわる思考。口には出せないが、珠樹にふりまわされて、いろいろと得たものがあった、だから、彼を、助けるのは自分の役目だ。 再び前線をナツキたちに任せて、意を決して、渾身の蹴りを放つ。 ――やはり蹴りである。 「ふぁあ、よく寝ました。さぁ、運動タイムです…! ふふ」 千亞の蹴りを受けたのにまるでそよ風が吹いたごとく目覚める珠樹に千亞は未だにもんもんとした気持ちを抱えて奥歯を噛み締めた。 (清々しい顔して……) なにか言葉をかけようとして、千亞は諸々を飲み込んで戦うことに集中した。 甘い匂いがする。 ――アユカ、甘い幸せをひと匙、さぁふりかけて。 幸せの、ふわふわした、クリームとバニラが混じったみたいな……。 『アユカ・セイロウ』は手入れの行き届いたあたたかな店でせっせっと手を動かしていた。その前では小さな子どもが目をきらきらさせてその様子を見ていた。かわいらしいアユカのお客様だ。 「甘い甘いチョコレート、仕上げに一振り魔法をかけるよ」 「わぁ!」 ふふと、アユカは笑って丁寧にチョコレート細工で作ったうさぎさん、いぬさん、お花と食べてしまうのがもったいないお菓子を子どもたちの前に並べる。 「これは試作品だから、みんな、食べてみて」 子供たちが、わっとチョコレート細工を食べていく。 おいしい! あまい! 喜びの声にアユカは嬉しくて口元を綻ばせる。 子供たちは満足して足早にかけていくのをアユカは見送る。 ここで、こうしてずっと甘い幸せを広げていく。あの人の残したこの場所で。ずっと、ずっと。 心満たされる甘い幸福を噛み締める。 客の訪問を告げるドアベルが鳴るのにアユカは顔をあげ、はっとした。 やってきた赤い瞳の青年は厳しい顔でアユカを見つめていた。 『花咲・楓』はすーすーと眠るアユカを見つめていた。その顔は、たぶん、今までいろんな表情を見てきたが、初めて見るくらいに安堵の表情をしていた。 (幸せな夢、か……) きっと彼女は記憶を取り戻しているのだと察することはたやすい。 (だが、所詮は夢だ) 楓はアユカの肩を掴み、以前、揉めたことのある「二日酔いで指令に遅刻しそうな彼女を起こす」設定で声をかけることに決めた。 「アユカさん、いつまで寝ているのですか。指令に遅れますよ。飲み過ぎるなとあれだけ言ったでしょう」 彼女は今は自分のパートナーで、浄化師だ。忘れないでほしい。 夢の中のアユカは目をぱちぱちさせて困惑したまま彼を見つめる。 アユカさんと、彼は口にする。鋭い声、歪み始める床。落とし穴に落ちてしまう――。 「わあああ、ごめんなさい!!」 勢いよく飛び起きるアユカの目の前に厳しい表情をした楓の顔があってびっくりした。 「おはようございます」 「あ、あれ?」 「今は指令中ですよ?」 「あ、そうだ。わたし、あ、あれ? なにを見ていたんだっけ」 目をぱちぱちさせるアユカの混乱を楓は小さな嘆息とともに受け止めた。それが夢を忘れていたことに対する安堵なのか、落胆なのかは自分でもわからずに。 静寂のなかに用意されたテーブルと椅子。冷え切った食事。一人きりで咀嚼、嚥下、繰り返す――日常。 誰もいない、独りぼっち。 両親が忙しいことはわかっているから平気だ。 まるで時計の針を巻き戻すみたいに、再び用意される一人のテーブル、椅子、冷え切った食事……そこに小さなキャンドルが現れる。 揺らぐオレンジの光を幼い少女はじっと見つめていた。 「ヨナ」 優しい声が降ってくる。 母は微笑みながらあたたかな料理を運び、父は心配そうに見つめてくる。 「大丈夫かい?」 「疲れてるのかしら? 大丈夫? ヨナ」 両親はかわるがわる娘を心配し、頭を撫でてくる。 「……へ、へいき! おなかすいた」 頬が期待に火照る。 ヨナはわくわくした気持ちで母に声をかけた。 「今日のごはん、なぁに」 「ふふ、ヨナとパパの好きなものよ。ほら、ママを手伝って」 「はぁい」 ヨナはじゃれるように母の足元に抱きつく。 「お、二人ともずるいなぁ」 パパがヨナを抱えて頬すりしてくれる。 「よぉし、今日はみんなで寝ような」 ママのおいしいごはんでおなかが満たされて欠伸を噛み締める。ベッドではヨナは真ん中で、両端に両親が横になる。母は歌声を、父は腕枕をしてくれる。ヨナは一日あった楽しいことを両親に笑顔で報告し、うとうとしはじめる。 幸せな家族の姿。 「ヨナ。おいヨナ」 それは両親のものではない、ぜんぜん別の、無粋な声。ヨナは両親の腕にぎゅうとしがみつく。どろ、と両親の腕が溶けて、闇へと落ちていく。時計の針を乱暴に進められ――静寂。 ヨナは目を覚ます。両親の腕ではない、もっとたくましいベルトルドの腕のなかという現実と、セイレーンの見せた夢の内容に落胆した。 (……私が望んでいたものは……) 胸に沈む重石がころがるように、右目から一筋の涙が溢れて、零れる。 「大丈夫か」 ベルトルドの冷静な声が落ちてくる。 「この間といい最近どうした。なあ聞け。指令に感けて自分を危険にさらすような行動はよせ」 ベルトルドは少しばかり迷ったあと、真剣な表情で続けた。 「何を望んでいるかは俺にはわからんが、誰かの期待に答える為だけに生きていくのは辛いだけだろう」 その言葉にヨナは目を閉じたあと、深く息を吐いて、そして目を開けた。 「ベルトルドさん……あの、顔近いです」 静かな返答は、ベルトルドの欲するどの言葉とも違っていた。 「お前なあ。人が折角……」 不満そうな声を聞きながらヨナの目じりが少しだけ緩む。その瞳からあふれる涙はまだ零れ続けていて。 ヨナは髪をかきあげる動作と一緒に涙をぬぐい、自分の力で立ち上がると背にした彼へと告げた。 「わかりました。今度からはもう少し考えてみます。今はセイレーンに対応しましょう」 「……ああ」 (調子は狂ったが言うべきことは言った。あとはヨナ次第か) ベルトルドは内心小さなため息をつくとヨナの背を追い、武器を構えた。 「これは……夢なのだろうか」 『ラウル・イースト』は呟いた。 見慣れた我が家の庭では季節の花たちが短い命を惜しげもなく咲かている。 庭の端には白いテーブルと椅子を置いたテラスがあり、母と父が紅茶を飲みながら談笑していた。 それをラウルは茫然と見つめる。 両親はラウルに気が付くと微笑んで、手招いてくれた。 呼ばれている真実に、駆けるようにラウルは両親に近づいていく。 「父上……私は……」 喉がひきつり、うまく言葉に出来ない。 「母上……もうどこへも行かないでください……こんな幸せな事なんてない、こんな……っ」 ラウルは言葉のかわりにまるで幼い子のように母と父に抱きつく。二人は戸惑いながらも、優しくラウルを受け止めてくれた。優しい両親の手が自分の頭を撫でてくれる。 「ラウル」 父の声が降ってきた。 「貴族として、選ばれた者として、恥ずかしくないように行動しなさい」 その声と一緒に、大切な少女の声が脳裏によみがえってきた。 「ラウル、せいれーん? さんに惑わされちゃダメです、起きてください!」 現実では『ララエル・エリーゼ』は必死にラウルを起こそうと声をかけていた。 穏やかで幸せそうな顔のラウルがどこか遠くへと行ってしまいそうで、ララエルは不安になる。 彼が欲しているものは、なんなのか。 きっと、失くしてしまったもの――家族。 魔術真名を決めたとき、彼が告げた怒りと悲しみの原因。 「……っ、私じゃ代わりになれないかもしれないけど……私がラウルの家族になります! だから起きてください」 必死に声をかけて、ララエルは指令受付が口にしていた方法をとることにした。 ラウルの唇に自分の唇を押し当てる。 これで衝撃になるはずだ。 ララエルがそっと離れると、ん、と瞼が震える、ラウルが薄っすらと目を開けた。 「ラウル! よかったです!」 「っ……あれが現実なわけ、ないよね。うん、ララ、ありがとう。おかげで目が覚めたよ。さあ、あいつを倒すよ!」 「はい、このまませいれーんさんを倒しましょう!」 ララエルが応じ、二人は手をとりあい、二人で決めた言葉を紡ぐ。 あるべき所へ還れ! ララエルはルルを操り、海のなかを自在に動き回るセイレーンに糸を絡める。 セイレーンが巻き付いた糸に悲鳴じみたヒステリックな声をあげて忌々しげに暴れながら、狙いを定めたのは構えの状態の綾音だった。 強烈なひっかきを与えようとするが、それは鎌によって防がれた。 「『迎エ討チ』! やられたらやり返します。……そういう技ですよね?」 綾音が鎌を大きく回転させ、すぐさまに持ち直すと振り下ろす。それはセイレーンの片腕を切り落とし、悲痛の声をあげさせた。 「今だ!」 千亞が素早く飛び、二段蹴りを繰り出し、セイレーンを宙へと浮かせる。タイミングを合わせたラウルは無防備なセイレーンの懐へと飛び込むと強烈な一撃を叩きつけた。 歌が、消えた。 「そういえば夢、覚えてるのか?」 ナツキが問いかけるとルーノは少しだけ考える顔をしたあと。 「忘れてしまったよ」 「ふぅん」 「それに夢なんかより現実の方が大切だからね。……起こしてくれて、ありがとう」 「な、なんだよ急に改まって!」 ナツキは照れて真っ赤になり視線をそわそわさせる。その尻尾は先ほどからずっと忙しく動きぱなしだ。 「そう言えば、珠樹。どんな夢見たんだ? 何か、過去のこととか……!」 千亞も気になっていたので、勇気を出して珠樹に尋ねた。 「それがですね、千亞さん……!」 にこにこと笑って告げる珠樹に千亞は目をぱちぱち瞬かせ、次第にその顔が怒りに赤く染まり――珠樹は語ることの忙しくて気が付いていない――ぷるぷると震える長い耳と拳。 そして、我慢は限界へと達した。 「この、ド変態!!!!!」 「ふふふ!」 思いっきり蹴られるなか、とっても幸せそうな珠樹の笑い声がした。 他の仲間を横目に見ながらラウルは気になっていたことを傍にいるララエルに問いかけた。 「そう言えば、どうやって僕を起こしてくれたんだい?」 ララエルは目をぱちぱちさせてラウルを見つめたあと、ぼっ! と音がするほど急激に真っ赤になった。 「ララ! どうしたんだい!」 「え、えーとそれは……秘密です!」 ララエルは真っ赤になったままナツキのふわふわの尻尾の後ろへと隠れてしまった。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[21] ルーノ・クロード 2018/07/25-23:45
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[20] 白兎・千亞 2018/07/25-22:34
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[19] 白兎・千亞 2018/07/25-22:32 | ||
[18] ララエル・エリーゼ 2018/07/24-23:56
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[17] ナツキ・ヤクト 2018/07/24-22:10
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[16] ラウル・イースト 2018/07/24-22:09
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[15] 明智・珠樹 2018/07/24-21:34
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[14] アユカ・セイロウ 2018/07/24-13:10
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[13] ヨナ・ミューエ 2018/07/24-03:34
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[12] ララエル・エリーゼ 2018/07/24-02:27
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[11] フィデリオ・ザッカーバーグ 2018/07/22-20:09
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[10] 白兎・千亞 2018/07/22-10:47
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[9] 明智・珠樹 2018/07/22-10:44 | ||
[8] ナツキ・ヤクト 2018/07/21-23:51
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[7] 吉備・綾音 2018/07/21-05:44
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[6] カグヤ・ミツルギ 2018/07/21-01:40 | ||
[5] ヴォルフラム・マカミ 2018/07/21-00:52
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[4] ザック・ゲイル 2018/07/20-22:04
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[3] 吉備・綾音 2018/07/20-18:21
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[2] ナツキ・ヤクト 2018/07/20-16:44
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