~ プロローグ ~ |
指令を受けにエントランスへと訪れると、薔薇十字教団本部にて司令部受付を行っている教団員ロリクが、いつもの微笑みを浮かべて浄化師たちを出迎えてくれた。 |
~ 解説 ~ |
今回はニムファ退治です(ふわわ~さわさわ~) |

~ ゲームマスターより ~ |
あなたにとって大切なものとはなんでしょうか |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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刈り取り トールに先行して進み、根の攻撃はイレイスで捌く 攻撃が止んだら根元を切り落として抵抗を封じる 幻覚 トール、大丈夫…? 私のことは覚えているのね…でも効いてないということはないと思うんだけど 以前聞いた話を思い出し尋ねる ねえ、トール、浄化師になる前に一緒に冒険していた『相棒』の話をしてくれたわよね …ビンゴ 一瞬だけ迷う このまま忘れていた方がいいのかもしれない ううん、やっぱり駄目 辛くてもトールの大切な思い出だもの それに理由は分からないけど何故かムカつく! いい加減に思い出しなさい! トールの頬を挟み込むように両手で思い切りビンタ へえ…ファットっていうのね、その人 もしかして、恋人だったり…? え?男の人!? |
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※アドリブ歓迎します。 ララ、しっかりして、僕だよ、ラウルだよ、ララエル! (ララエルに触れようとするが拒否される) そのお母様とやらは、君を埋めた殺人鬼だろ! くそっ、先にニムファを何とかしないと…! (所持品のカマで切り裂いたり、ボウガンで撃ち抜いたりする) 腹が立つ、剣じゃないとうまく切れない…! フィノ君やリコリスさんは上手く切れているのに! ララ…頼む、思い出してくれ…! (ララエルを強引に引き寄せ、口づけをする) (記憶を取り戻し、真っ赤になるララエルに) この前(セイレーンの時)のお返しだよ(クスクス笑う) 大丈夫、この程度の怪我何ともないよ。 |
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ニムファの匂いは恐ろしいものですが薬や香水の材料になりますし出来るだけもって帰りたいですね。 喰人の方が効果が出やすいといってましたがロメオさん大丈夫でしょうか? …私の事を忘れているんですか? なんでしょう…不謹慎ですがそのことに少し嬉しいと思ってしまう自分がいます。 そうですか…私の事を大切だと思ってくださるんですね。 ショックってこういうのも効果があるか分からないんですけど。 ロメオさんちょっとしゃがんでもらえますか? (額にキス) ちょっと照れちゃいますね。 でも知らない人にこんなことされたらビックリですよね~…なんて? これでだめならこのまま頭突きしたあとビンタしますから早めに思い出した方がいいですよ。 |
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【目的】 ニムファを持っていけるだけ刈り香料や薬の材料にして 貰う あわよくば香料1個貰いたい 【行動】 前を歩く人形が止まったら、喰人を正気に戻す 敵が来たらタロットで応戦 皆と協力しニムファをナイフで刈る 【心情】 一杯繁殖してしまったのなら然るべき機関に持っていって色々作って貰いましょう!出来れば香料を一つくらい貰えたら嬉しいですわ! 【忘却時】 貴方は自分を忘れてしまったの? ふふ、じゃあ今度は私が手を差し伸べる番ですわ 物語では、王子様はお姫様にキスをしなきゃ魔法は解けませんもの 私のキスで目を覚まして下さいね?(唇にキス) ※目を覚まさないなら何度でもやる覚悟 …ウィルでなければこんな事しませんからね?(はにかみ |
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●祓 指令、やっぱり、怖い 皆、記憶、戻らなかったら、どうしよう ・行動 だめっ!(魔力感知でニムファの攻撃を察知、先行するフィノを引っ張る) えっ、えっ(突然服を脱ぐフィノに赤面し後ろ向いて、メモは見えず) フィノくん、よかっ…た… (ニムファの前でユンの名前も相棒である事も覚えてる意味を察し) …いっ、行こ… (結局期待してた恥ずかしさと失意で涙声、顔を合わせず距離を開けて歩き始め) (仲間の浄化師達と合流すれば少し落ち着き、 魔力感知による攻撃察知と根の排除、仲間の回復に徹しつつ思考 あたし自分が可哀想になっちゃってる それは違う 大切な人に酷い事したんだ、きちんと謝らなきゃ!) フィノくん…さっきは、ごめんなさい! |
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◆シュリ この泉の中に大量のモンスターがいるなんて、怖いわね ロウハの故郷にはこういう場所って少なかったでしょう え? まさか、忘れちゃったの? もしかしてニムファの幻覚…! ロウハの故郷のこと…わたし、よく知らないわ ロウハ、何も話してくれなかったから ただ、いい暮らしをしてなかったってことだけ… ロウハにとっては嫌な思い出のある場所かもしれないけど…! でも、きっと大事な場所のはずなの だから忘れちゃダメ…! ◆ロウハ 故郷?何のことだ? 俺はずっとユベール様の家にいただろ あー…忘れちまったのか、俺 お嬢、俺の故郷ってどんな所だったんだ? そうか…話してねーのか 変な話だが、俺らしいな 悪い、お嬢 思い出したら、いろいろ話すわ |
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~ リザルトノベル ~ |
「だめっ!」 震える声を『ユン・グラニト』があげ、ぐいっと強く前を歩く『フィノ・ドンゾイロ』の服を掴んだ。 「トール!」 「あそこか」 警戒を促す『リコリス・ラディアータ』の声に先頭の『トール・フォルクス』はボウガンを構え、引く。 威嚇射撃を行うと森のなかに静寂が広がる。 「……大丈夫そうね。ありがとう。ユンさん」 警戒していたリコリスがすぐに微笑みかけるとユンは目を大きく見開いて、首を横に振った。 ユンが森に入る際に魔力感知で攻撃がある程度予想できるかもと提案したのに先頭をリコリス、最終尾をユンが担当することになった。 森のなかではニムファに惑わされた生き物が襲ってこないとも限らず、トールとリコリスが率先して威嚇攻撃をしてくれて道中は安全に進んでいる。 (指令、やっぱり、怖い。皆、記憶、戻らなかったら、どうしよう) ユンがぎゅっと拳を握り、横にいるフィノを見る。フィノは力づけるようににこりと微笑む。 ユンがこの指令は怖いと怯えて嫌がったが、フィノがどうしても受けたいと半ば強引に引き受けてしまった。 (どうして、フィノくん?) ユンはフィノがどうしてこの指令を受けたいのか理由を知らない。 「ここみたいだな」 トールの前に広がるのは、静かな湖に白、黄、紫……宝石箱の蓋をあけたような美しい光景だ。 「先に根を刈り取りましょう」 靴と靴下を脱ぎ、細い足を晒してリコリスが湖のなかにはいる準備をする。 『シャルローザ・マリアージュ』もブーツを脱ぎ、髪の毛をかたく結びながら口を開いた。 「こんなにいい匂いなのに……薬や香水の材料になりますし出来るだけもって帰りたいですね」 「そうですね! 出来たら一つぐらいほしいくらいです」 「それは司令部にお願いしないとわからないけど、こんなにも美しいのに……大量のモンスターがいるなんて、怖いわね」 『アリス・スプラウト』が拳を握りしめる傍らでズボンをまくしあげ、肩にチェシャ猫を乗せた『ウィリアム・ジャバウォック』が微笑みを浮かべて肩を竦めた。少しばかり不安げに宝石色の瞳を揺らす『シュリ・スチュアート』の横では『ロウハ・カデッサ』が先に湖にはいり安全を確かめ、シュリに手を伸ばした。 「しっかりしないと」 少しだけ苦い顔で『ラウル・イースト』は呟く。 剣の扱いにあまり自信がないことを道中で皆に相談し、全員で協力して刈り取れば大丈夫だろうと話し合った。 「ララ、どうしたの。ずっと黙って」 ラウルが『ララエル・エリーゼ』の肩に触れようとした瞬間、びくりとララエルが震え、声を荒らげた。 「やだ! お兄ちゃんだれ!? さわらないでよお!」 「ララ、しっかりして、僕だよ、ラウルだよ、ララエル!」 手を伸ばすとララエルは円らな瞳にはっきりと恐怖と拒絶の色を浮かべたのにラウルは心臓に鋭い痛みを覚えた。 泣き出しそうな不安顔のララエルはルルをしっかりと抱くと後ろにさがり、ふるふると首を横に振る。 「おかーさまが、外に出ちゃダメって言ってた! 知らない人には、あうなって……!」 「そのお母様とやらは、君を埋めた殺人鬼だろ!」 ララエルの過去を知るラウルは胸の中に広がる怒りに声をあげた。ララエルが家族になにをされたのか、そのせいでどうなったのか、時間をかけてゆっくりと氷を解かすように知っていった。そんな母親の言いつけを守ろうとするララエルにたいして悲しくて、腹が立ったのだ。 怒鳴られたと思ったララエルは頭を抱えて蹲る。なにもかも怖くてたまらないといいたげに。 「お兄ちゃん知らない人だもん、私をここに連れてきたのもお兄ちゃん……? 誰か助けてっ!」 「っ、ララエル……」 「ラウルさん」 フィノが声をかけるのに、ラウルは拳を握りしめた。 「わかってる! くそっ、先にニムファを何とかしないと……!」 焦るように鎌を構えて、自分が濡れることも構わず、ラウルは湖のなかへと入っていく。 怯えるララエルにユンは少しだけおろおろした顔で不安げに見つめる。 「これは、あんまり悠長にはしてられないな」 ロウハが目を細めて呟いた。 「こちらが終わったら、ラウルさんたちのところを手伝いましょう?」 「そうだな」 リコリスは手を傷つけないように注意し、魔力感知をフル活用して仲間たちをサポートしながら、濃い紺色の花を短剣で刈り取るとトールが持っている麻袋にいれる。その横でトールは蔓の攻撃を警戒しながらも手を動かした。 「トール、大丈夫……?」 ララエルのようになることはないと思うが、心配でリコリスは声をかけた。 「ああ、平気だけど……特に何も忘れてないな? 効かなかったのかな」 トールが普段と変わらないことにリコリスは眉根を寄せた。 「私のことは覚えているのね?」 「リコリスは俺の大切な相棒。忘れてない」 トールの言葉にリコリスは少しだけ安心したあと、あることに思い当たった。 短冊に叶わない願いだと口にしながらも書いたお願い事。 「でも効いてないということはないと思うんだけど……ねえ、トール、浄化師になる前に一緒に冒険していた『相棒』の話をしてくれたわよね」 「え、相棒? 何のことだ? 確かに昔は冒険者だったけど、相棒なんて……」 トールが唇に笑みを作ろうとして失敗し、目を見開く。吊るされた兎に涙するようなお人よしで、いつも傍らにいた、人の心の痛みがわかる――隣にいたその人物の顔に靄がかかる。声が消えていく。 「トール?」 「駄目だ……思い出せない。リコは知ってるのか? その相棒って奴のこと……っ」 頭を抱えトールは必死に記憶の糸を辿る。必死に忘れないようにしていたはずなのに。 「ビンゴ」 リコリスは手に力をこめる。受付口の説明では多少の衝動を与えれば戻せると聞いたが、いっそ、このまま忘れてしまったほうがいいのかもしれないとすら思う。トールは過去のことを思い出すときいつもどこか泣きそうで、つらそうで。 「っ、くそ」 苦しむトールを見つめて、リコリスは下唇を噛む。 (ううん、やっぱり駄目。辛くてもトールの大切な思い出だもの) ぎゅっと拳を握りしめる。 (それに理由は分からないけど何故かムカつく!) リコリスは茫然と立ち尽くすトールに近づいた。 「少し屈んでくれない?」 「へ、あ、うん? リコ?」 「いい加減に思い出しなさい!」 リコリスの両手がトールの両頬をはさむようにビンタする。 「ぶべらっ!」 トールは予想していなかった強烈な痛みに声をあげ、空をかくように両手を動かして小さく唸り、天を仰ぐと、はっと息を吐いてリコリスを見た。 「はっ、そうだ! ファットだ! なんで今まで相棒のことを忘れてたんだ?」 「へえ。ファットっていうのね、その人……もしかして、恋人だったり?」 「は? 恋人? そんなわけないだろ。第一、ファットは男だぞ」 「え、男の人!」 「……もしかしてヤキモチか?」 「そ、そんなわけないでしょ! ほら、手を動かして! 他の人たちもかかったら大変だわ」 「そうだな」 図星だったらしく、ぷりぷりしているリコリスが背を向けて、再び作業するのを見つめるトールの金色の瞳は少しだけ悲しみを帯びていた。 (俺にとっては、まだ過去の方が大切ってことなのか) ラウルは必死に揺れる花と戦っていた。刈り取る度に強さを増す芳醇な香りにむせそうになりながら、必死に手を動かした。 ボウガンで撃ってみたが、狙いが定まらずうまく切れないのに鎌でひたすらに斬ることにした。 「腹が立つ、剣じゃないとうまく切れない……! フィノ君やリコリスさんは上手く切れているのに!」 冷静に行えばそこまで難しい作業ではないが、今のラウルにはひどく困難なものだった。使い慣れない鎌のせいで腕や指先が切れ、冷たい湖に傷口がひりひりと痛む。けれど、少しでも減らさないとララエルを救うこともできない。 剣の扱いが下手な自分がこんにも情けなくて、忌々しい。 「ラウルさん、落ち着いて、こっちはだいたい切りとったから」 フィノの気遣いにラウルは少しだけ落ち着いて頷いた。 「フィノくん!」 油断していたところを突如引っ張られ、フィノは目を見開く。長い蔦を伸ばし再びニムファが反撃を行ってきたのを察して、フィノが剣を持って叩き切る。 「フィノくん、よかっ……た……」 背後から、ほっとした声にフィノは振り返る。 「いきなり引っ張って痛いなぁ! きみ誰?」 つぶらな瞳で自分を見つめる少女にフィノは目を瞬かせる。何か言おうとする前に肩がちくちくと痛むのを覚えて、フィノは眉根を寄せた。 こういうの推理小説でよくあった。 フィノは躊躇わず、上着を脱ぐ。 「!」 少女の驚いた気配を覚えながらフィノは上半身裸のまま服からひらりと落ちるそれに目を止めた。小さな紙を手にとり、中身を見る。 ――その子はユン。相棒。 自分の文字にフィノは目を瞬かせる。その前では突然肌を晒したフィノに驚いて尖った耳の先まで赤くし、背を向けている少女がいた。 「……きみはユン、俺の相棒……だね?」 試しに声をかけるとびくりとユンが肩を震わせる。 「……いっ、行こ……」 ぽつり、と洩れる声は少しだけ震えているように思えた。背を向けている女の子がどんな顔をしているのかわからない。小さすぎる声は、葉擦れの音に容易くかき消されてしまう。 少女が先へと進むのにフィノは慌てた。 「ちょ、待ってよ!」 少女は止まらず離れていくのに、フィノはたまらなく心臓が痛むのを感じた。 「喰人の方が効果が出やすいといってましたがロメオさん大丈夫でしょうか?」 シャルローザはちらりと傍らで花を刈り取る『ロメオ・オクタード』を伺う。今のところ順調に作業をしている、ように見えた。 ただ他の作業しているメンバーたちがところどころ慌てているのを見ると、確かになにかを忘れているのだ。 ロメオにとって忘れるものとはなんだろう? シャルローザは小さく息をついてロメオに近づいた。 「ロメオさん、大丈夫ですか?」 「ん、あ」 ロメオが瞠目する。 「もしかして、私の事を忘れているんですか?」 ロメオが何か言おうとして失敗して、口元に手をもっていく。煙草を吸っていないことを思い出して、小さく、くそっと悪態をつくと頭をぼりぼりとかいた。 「あー……ここにいる理由はなんとなく分かるんだが。どうにも隣にいるお嬢ちゃんの事が思い出せないんだよな、名前とか関係とか」 「だから黙って作業していたと?」 「……そのお嬢ちゃんなんか複雑そうな顔してるし」 バツが悪そうに告げるロメオにシャルローザは目を瞬かせたあと、苦笑いをこぼした。 「なんでしょう。不謹慎ですがそのことに少し嬉しいと思ってしまう自分がいます。そうですか……私の事を大切だと思ってくださるんですね」 ロメオは焦っているし、こんな気持ちを覚えていいわけではないだろうが、それでも胸の中に花がほころぶような喜びが零れる。 「たぶん、な」 「ふふ、ロメオさんちょっとしゃがんでもらえますか?」 「しゃがんでくれって? 構わないけどなんで」 問いかけるロメオの言葉を封じたのは、シャルローザの優しい香りと柔らかな両手。そして額に落とされるキスだった。 ロメオは言葉を失くして目を見開く。 「ショックってこういうのも効果があるか分からないんですけど……でも知らない人にこんなことされたらビックリですよね~なんて?」 微笑むシャルローザは普段は見上げてばかりのロメオを珍しく見下ろす立場になって、その瞳と形良い眉を見つめた。 「これでだめならこのまま頭突きしたあとビンタしますから早めに思い出した方がいいですよ」 少しばかりの照れ隠しをこめてシャルローザが告げるのに放心していたロメオは降参とばかりに両手をあげた。 「思い出したよ。大丈夫だ……だからちゃんと任務をこなして帰ろう」 「よかった! さ、がんばって刈りましょう」 「ああ」 指令に勤しむシャルローザの背を見てロメオは唇に手を伸ばして、再び煙草を吸ってないことを思い出して頭をかいた。 (自分が思っている以上にお嬢ちゃんの事が「大切」だったみたいだ……というかぶっちゃけるとお嬢ちゃん以外に大切に思えるものなんてないんだよな) そんな生活しかしてこなかった。 (エクソシストになって初めて得たパートナー。だけどこんなに大切になるなんてのは予想外だった) 足に感じる水の冷たさをアリスは心の底から楽しんでいた。 アリスの前をゆくのは楽しそうなチェシャ猫だ。アリスに危険がないようにと配慮し、前と後ろをウィリアムが警戒してくれている。 「一杯繁殖してしまったのなら然るべき機関に持っていって色々作って貰いましょう! 出来れば香料を一つくらい貰えたら嬉しいですわ!」 サバイバルナイフで刈り取った甘い花を見てアリスは無邪気だ。 その様子にウィリアムはいつもの微笑みを浮かべていた。 アリスが望むなら、それに従う。 それがウィリアムの今のところの行動方針だ。契約してからまだそこまで時間は経っていないが、ウィリアムは元気なアリスに毎日ふりまわされぱっなしだ。 この指令は比較的安全なものと安心していたが、気になることがあった。 (忘れてしまうものが自分でも良く判らないのが気がかりですがね) ウィリアムはそうしてアリスの背を見ながら自分の異変に気が付いた。 ぴたりと、ぬいぐるみが動きをとめたのにアリスは、はっとして振り返る。 「ウィル、大丈夫ですか?」 「……ええ」 「もしかして、なにか忘れてしまったのかしら?」 アリスの瞳がウィリアムを捕える。 「アリスは私のパートナーなのは判ります」 「ええ」 「ただ」 「ただ……?」 「何故アリスと一緒に居たのでしょう?」 「えっと」 「そもそも私は何者なのか」 ウィリアムは自分の両手を見つめる。 「判らない」 告げられた言葉の重みにアリスは息を飲んで、ゆっくりと吐いた。 「貴方は自分を忘れてしまったの?」 問いかけにウィリアムはどう答えていいのかわからず、困惑している。こんな表情、初めて見る。 いつも微笑んでくれているウィリアム。 「ふふ、じゃあ今度は私が手を差し伸べる番ですわ。物語では、王子様はお姫様にキスをしなきゃ魔法は解けませんもの」 くすっとアリスは微笑む。ウィリアムはいつも余裕たっぷりで、こんな狼狽しているのは見たことがない。少しだけ嬉しいと思ってはいけないのかもしれないけど。 アリスが両手を伸ばす。 「私のキスで目を覚まして下さいね?」 目をそっと、閉じて、背筋を伸ばす。 「何故赤の他人と私は一緒に……んっ!」 混乱し言葉を紡ぐウィリアムはその柔らかな衝撃に目を見開いた。自分の唇に触れる、アリスの柔らかな唇。甘酸っぱい花の薫りを打ち消す、アリスの日向のにおい。 脳にがつんと拳をぶつけられたようだ。 アリスはゆっくりとウィリアムを見つめる。 「もう一回したほうがいいかしら? 何度でもする覚悟はあるわ」 「いや、ちょっと待っ!?」 「だめかしら? じゃあ、もう一回したほうがいいかしら?」 「か、考える時間をっ!?」 アリスの唇に視線が向き、いつもの笑顔が剥がれ落ち、素の無表情をさらしてウィリアムは声をあげた。 「あら、ウィル、あなたの瞳、片方が違うわ」 「アリス」 「とっても、とてもきれいだわ」 「……」 「もう一回キスしたほうがいいかしら、ねぇウィル?」 「思い出しましたから、勘弁していただけますか?」 「ふふ。ウィルって素はそれなのね」 「……アリス」 「またあなたを知れてうれしいわ」 無邪気なアリスにウィリアムは目を強く閉じて、深いため息をこぼした。 だいぶ刈り取ったのにラウルは少しばかり疲れた様子でララエルのそばに近づいた。まだララエルは心細そうにルルを抱きしめている。 触れたら壊れてしまう硝子細工のように、ラウルは優しく、手を伸ばす。 「ララ」 びくり、とララエルが震える。 「ララ……頼む、思い出してくれ……!」 ラウルの声に、ララエルが顔をあげる。先ほどのような抵抗はないのにラウルは顔を寄せた。 「ララ」 名を紡ぎ、ゆっくりと唇にキスを落とす。願うように、乞うように。 「ラウ、ル……? あれ? 私大切なものを忘れていたような……」 戸惑う瞳で見つめるララエルはすぐに自分がなにをされたのか思い出して頬を薔薇色に染め、口をぱくぱくさせる。 いつものララエルにラウルは泣きそうになりながら、くすくすとなんのことはないように笑う。 「この前のお返しだよ」 「って、あの時、私がキスで起こした事、覚えてたんですか!? もうっ、ラウルのバカバカバカっ、恥ずかしいです、嫌いっ!」 かわいらしい反応を示すララエルはラウルの指先の怪我に気が付いて驚いた。 「ラウル、そのケガ、大丈夫ですか!」 「大丈夫、この程度の怪我何ともないよ」 ラウルは安堵の声で告げた。 ロウハが剣で刈りとっていくのを、シュリが麻袋に回収していく。はじめは攻撃もあったが、数が減り危険もほぼなくなった。 「ロウハの故郷にはこういう場所って少なかったでしょう」 「故郷? 何のことだ? 俺はずっとユベール様の家にいただろ」 ロウハの言葉にシュリは一瞬言葉を失くし、目を瞬かせた。 「え? まさか、忘れちゃったの?」 「忘れた、なにをだ」 「だから、ロウハの故郷のこと」 「あー……忘れちまったのか、俺」 焦るシュリに対してロウハはひどく落ち着いた口調で言い返した。 これは、あのとき――ロウハがシュリに背を向け、解放してくれと口にした、その時感じたひどい心細さと置いていかれたような気持ちを、いま思い出してしまう。 (ロウハってこういうの弱いのかしら……) これはこの土地のせいであってロウハのせいではないだろうが心配になる。 「お嬢、俺の故郷ってどんな所だったんだ?」 「え」 シュリはじっとロウハを見る。 シュリの不安を敏感に感じて、思い出そうとしてくれているのだとわかる。 だが。 「……っ、ごめんなさい」 シュリは押し殺したように言葉を漏らす。 ロウハの故郷をシュリは知らない。思い出も、どんなものかも。なにも、語ってくれなかった。 だからロウハにとって故郷は大切ではないと思っていた。 「そうか……話してねーのか」 「ごめんなさい、ロウハ……いい暮らしをしてなかったってことだけ、しか」 「なんでお嬢が謝るんだ? 変な話だが、俺らしいな」 ふっと笑うロウハにシュリはぎゅっと手を握りしめる。そんな風にロウハに笑ってほしいわけではない。 「気にしないでいいぜ」 「ロウハ」 シュリは途方にくれてロウハを見つめる。何事もなかったように笑って、指令をこなそうと剣をふるロウハ。彼が本当に大切なものを忘れてしまって、その価値も、思いもなくしてしまうことをシュリは寛容できない。 ロウハには大切なものをなくしたという実感がない。 故郷を忘れても、シュリたちといた家の穏やかな思い出があればこと足りる。 だから他人事のように思う。ただシュリが焦っているから。 (あー思い出さないといけねーなー) ロウハが剣を振るえば、嘲笑うように花びらが散り、零れ落ちて、湖を静かに漂う。 「ロウハ!」 シュリの細い手がロウハの腕をぎゅっと抱きしめる。 「ロウハにとっては嫌な思い出のある場所かもしれないけど……! でも、きっと大事な場所のはずなの。だから忘れちゃダメ……!」 「お嬢……」 自分のために必死に、震える声で訴えるシュリを見てロウハは眉根を寄せる。 じんわりと光差すように思い出が、蘇る。 それは決していい思い出は少ない、けれど、ロウハにとっては確かにかけがえのない場所だった。 「ロウハっ」 シュリの頬にロウハの太い指が優しく触れる。 「……思い出したの?」 シュリの静かな問いにロウハが小さく頷いた。 「よかった……よかったわ」 「悪い、お嬢。いま、じわじわっと……ちゃんと思い出したら、いろいろ話すわ」 「ええ、話して。ロウハの故郷のこと、ちょっとずつでもいいから」 シュリは目を細めて、言葉を紡いだ。 (フィノくんにとって、大切なものってなんだろう) ユンは考える。 先ほどから心臓がずきずきと痛む。フィノが忘れてしまったことはなんなのだろう。もしかしたら忘れていないのかもしれないと淡い期待を抱いたが、周りの様子からすると例外なく、大切なことを忘れてる。 フィノは普段通りで、指令をこなすために花を刈り取っている。ラウルやリコリスたちとも楽しそうにお話をしている。 心が痛い。 この気持ちに名なんてきっとない。 他の仲間たちと刈り取った花をまとめる手伝いをしながらユンは落ち着かなかった。 「どうかしたんですか?」 シャルローザが気づかわし気に視線を向けてくる。 「少し、休んだほうがいいんじゃない?」 「ユンさん、がんばりすぎですよ」 シュリも、ララエルも優しい声をかけてくる。 ずきんずきんと胸が痛くて、痛くてたまらない。 「あたし」 ユンは拳を握りしめる。 (あたし自分が可哀想になっちゃってる。それは違う。大切な人に酷い事したんだ、きちんと謝らなきゃ!) 自分のことを覚えていたから拗ねて無視した。そんなこと許されないことだ。 「フィノ、くん」 「……ユン?」 「さっきは、ごめんなさい!」 真っすぐな声にフィノは茫然としたあと、大きく目を見開いて首を横にふる。衝動的にぎゅっと小さなユンの体を抱きしめる。忘れていたものを取り戻すように。 「ちがう、ちがうよっ! ユンは悪くない。俺が……勇気がなくて、嘘ついたせいだ」 ユンは目を瞬かせる。 「ごめん、ユン。今思い出した。忘れたって知られたくなくて、紙にユンのことを仕込んだんだ。……この指令も、ユンの記憶を取り戻すのになにか使えるって思って受けたのに、これじゃ、ごめん、ユン」 高ぶった感情のせいで涙声になりながら、必死に訴えるフィノにユンは安堵と喜びから、えへへっと小さく笑った。 「やっぱり、ちょっと、……ちょろい、です」 ユンは小さな声で憎まれ口を叩いて、フィノをぎゅっと抱きしめ返した。不自由な言葉よりもずっとずっとちゃんと自分の気持ちをフィノに示せると考えて。
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*** 活躍者 *** |
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[14] シュリ・スチュアート 2018/09/03-21:47
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[13] アリス・スプラウト 2018/09/03-15:44
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[12] シャルローザ・マリアージュ 2018/09/01-04:37
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[11] ラウル・イースト 2018/08/31-22:46
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[10] フィノ・ドンゾイロ 2018/08/31-21:24
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[9] リコリス・ラディアータ 2018/08/31-16:22
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[8] フィノ・ドンゾイロ 2018/08/31-00:40 | ||
[7] ラウル・イースト 2018/08/30-18:26
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[6] フィノ・ドンゾイロ 2018/08/30-12:58
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[5] アリス・スプラウト 2018/08/30-00:51
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[4] シャルローザ・マリアージュ 2018/08/29-10:53
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[3] リコリス・ラディアータ 2018/08/29-07:22
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[2] ラウル・イースト 2018/08/29-04:26
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