~ プロローグ ~ |
朝露に湿る緑の海原へ、小さな白い点が散らばっている。空を渡る雲よりもずっとゆるやかに、もぞもぞと動くそれらを視線の果てに捉えて、オットマー・ゲーラーはほっと息を吐いた。 |
~ 解説 ~ |
【概要】 |
~ ゲームマスターより ~ |
御閲覧ありがとうございます。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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ベリアルになってしまった方は…本当に裏切ったのでしょうか… もう、確かめられないのですね せめて、あの方の魂の救いになれますように… 到着後リントブルムさん達と一緒に避難誘導に オットマーさん達が傷を負ってたら回復させて、羊達の集め方を訊く 訊いた方法と動物好きスキルを使い、羊達に「集まって下さい」と声を掛ける 集めたら戦場とは反対方向へ 小屋があるようならそこへ入れて扉を閉める 避難が終わったらスケール2の方へ 回復と鬼門封印での支援、通攻撃での援護を行う 羊さんも人も、もう誰も死なせたくない、です… 親睦会 お肉を焼くの手伝ったり、リチェちゃんとフルーツを食べてほんのり微笑 竜の皆さんの普段について、お話できれば… |
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まずリントとアリシアと一緒にオットマー達の避難誘導 主にアリシアの護衛担当 飛んでるリントを追いかける 保護後は二人を守れるように殿を務めながら移動 続けて羊の避難 途中に羊がベリアルに狙われた場合を考え対処 剣大濠に振って牽制等してできるだけ遠ざけるようにする 避難が終わったら羊ベリアルの討伐に向かう 魔術真名詠唱 手近なものから攻撃 全部倒したらスケール2の方へ 親睦会は、準備等できることがあれば手伝う リントと一緒に二人に …まああの人達気付いてると思うけどな、アンタみたいなちゃらんぽらんが例の一族にいるわけないし ともかく紛らわしい真似してすまない こいつがリントヴルムの名を悪用しないように俺がしっかり見張っておく |
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◆戦闘 むぅ、前回の下手人ですカ…できれば話を聞いておきたかったのデスガ 早々に終わらせて、宴に向かいまショウ レイと共にアートス担当 後衛 スキルメインで翼を優先的に狙って攻撃 他の仲間とも声をかけあい連携を意識する 問題ありまセン ベリアルであるなら倒すだけデス! (後味はまたきっと悪いのでしょうケド ◆宴 たくさん運動したのでお腹すきまシタ! 肉デス!肉をたくさん食べたいのデス!! グラナド達に挨拶しつつ、普段見れない竜に興味深々 火を吐いてくれたら、最高に喜ぶ→研究モードで自分の世界へ (竜の火力を魔術に応用できればさらなる発展になりますガ人が扱うにはやはり補助的な技術が必要デス魔結晶を人工的に作れればあるいはry |
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■心情 祓魔人(早く敵倒してごはんを食おう) 喰人(ヒトがべリアル化したのに、この無神経いや能天気…ある意味敬意に値する) ■羊型べリアル討伐 祓魔人「なんてまずそうな姿に…!」 2人連携し1頭ずつ確実に 羊とベリアルに割って入り 大声を出す・武器で盾を叩き音を出す 臆病な羊はさらに逃げ 敵は襲ってくる筈 敵の突撃は角に注意し横っ飛びに回避 回避不能なら体力の高い祓魔人が盾で喰人を庇う 命中率が高い喰人が敵の足・触手を狙い敏捷性を削ぎ 祓魔人が顔・首・胸を狙い暴撃 人型敵が接近したら喰人が信号拳銃で顔面を狙い目潰しを試みる 混乱した羊が敵に接近した場合も信号拳銃で追い払う ※攻撃・被ダメ時 二人共「はっ!」「ぐっ…」等 基本無言 |
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アートスさん… ううん 今はこれ以上の被害を止めないと スケール1担当 魔術真名詠唱 できれば警備隊の人達や羊達とベリアルを分断するよう 中衛位置 SH8を展開 皆さん 無理はしないでください 敵回避力を下げながら SH11で仲間の回復 回復の必要が無い場合は九字で攻撃 弱っている敵を優先 他の羊や人を狙おうとする個体がいれば 仲間に周知 魔力弾をぶつけ引きつける 鬼さんこちら、よ こっちにいらっしゃい スケール1討伐後 スケール2が残っていればそちらに 戦闘方針は先と同じ 怪我の酷い仲間から癒す 親睦会では料理を並べるお手伝い 果物を嬉しそうに口に シアちゃん これ美味しい スティレッタさんも食べてみて ドラゴンさんに 体の具合はもう大丈夫ですか? |
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何だか気の毒なお話ね あのベリアルになった人、何でこんなことしたか知らないけど、あんな姿になっちゃ何もできないじゃない 羊のベリアルの相手をするわ 羊を食われちゃったらまずいしね とっとと片付けちゃいましょ 真名詠唱後、飛翔斬で羊ベリアルを攻撃 こんな獰猛な羊と戯れるぐらいなら毛糸玉で遊んだほうが楽しい気がするわ とにかく早く片付けて、大事な羊が被害に遭わない様にしなきゃ 最初から決まってたとは言え、騒動があった後にこんな親睦会してもらっちゃ申し訳ない気もするわね リチェちゃん、私にも果物ちょーだい シロスケ、いくら親睦会だからってお酒はほどほどにしなさい …むしろこんな飲んだくれは放って私は私で楽しむべきかしら? |
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戦闘時 スケール2と戦うのは初めてね 気を引き締めなきゃ ラスと共にスケール2対応 魔術真名詠唱 JM4で常に能力強化を図る 降りてきた時を狙い攻撃 敵が味方への攻撃時は背後から斬りかかる 後衛へ注意が行かないよう常に周囲に移動しつつ ヒットアンドアウェイを意識 「あのガラクタ野郎(ヨハネの使徒)相手よりは気楽! 倒す事に集中できるし!」 敵攻撃時は横方向へ回避 必要以上に距離を取らないように意識 自分が狙われている際は回避に集中 宴会時 普通に調理されたものも美味しいけど こういう場面で食べるのもいいわよねー! あ、ラス。それ頂戴(ひょいっと果物取り 皆もお疲れ様(乾杯しながら 適度に会話しながら食事をもぐもぐ アドリブ絡み歓迎 |
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魔術真名を唱えてから突入、俺達はアートスの対応に回ろう。 羊達や警備隊の二人のとアートスの間に入って戦う。 合流まで頑張って持ち堪えよう。 攻撃はまともに喰らえない、動きも素早いようだ。 突進してきそうな挙動があれば声掛け。 飛び立つのが難しくなるように、スキルを使いつつ翼を狙う。 カタコトでも、理性がないとしても。 何かを本人が伝えようとしているのなら聞き届けてやりたい。 竜達の肉を焼く光景……なかなか迫力があるな。 甘いもの、あるかな? ああもう!だからハル、野菜もきちんと食べろって! 放っておくとすぐ肉ばっかり…… 仕方ない……なあ竜達、追加で肉を焼いてやってくれないか。 懇親会の後は片付けを手伝うことにするよ。 |
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~ リザルトノベル ~ |
●竜のキッチン、遊牧草原 サタンの襲撃以降、渓谷と教団の関係が深まったことで転移方舟の技術提供がなされ、渓谷内各地域の瞬間移動を可能とする転移魔術式の敷設が完了していたことは、不幸中の幸いだった。なにしろ竜の渓谷は教団本部から遠く離れた飛び地であるばかりか、渓谷自体が広大な面積を持っている。 「……とはいえ、ここもまた広いな」 転移先の監視小屋を出て、『ラス・シェルレイ』は左右異なる色の瞳であたりを見回した。見晴らしが良い反面特徴に乏しく、出立の直前に頭に叩き込んだ地形図との照合に少々手間取りそうだ。 「みんな、見て! あっちの空!」 ラスのパートナー、『ラニ・シェルロワ』が空を指差して声を上げる。 一同が顔をあげると、ベリアルの発見者であるオットマー・ゲーマー、あるいはアントン・ロイッカネンが再度打ち上げたと思わしき信号弾の赤い煙が、風に煽られて切れ切れになっていくところだった。視線を空から地表へと落として目を凝らせば、小さく動く影――羊たち、それと人の姿が一人分、辛うじて見て取れた。 「聞いてた位置より、西にずれてんな」 狙撃手の視力を活かし、『ハルト・ワーグナー』は他にも人影は無いかと目を凝らす。腰に下げた両手剣の柄に触れながら、『テオドア・バークリー』は頷いた。 「移動を報せるだけの余裕がある、と考えるのは楽観的に過ぎるだろう」 ベリアルの気を引くことも承知の上での信号拳銃だ。むしろ、事態は逼迫している可能性が高い。今わの際の一発でないことを祈るばかりである。 「急ごう」 集った十六名全員の気持ちを代弁するように言って、『アルフレッド・ウォーグレイヴ』は足を踏み出した。ひとつに束ねられた銀の長い髪が午前の日差しを受けて煌めく。その横顔は名工の手による美術品と見紛うほどに美しいかたちをしていたが、漆黒の双眸には無機物に非ざる意志の光が確かに宿っていた。 「さっさと倒しちまおうぜ!」 からっとした声音で『レオン・フレイムソード』は言い放ち、パートナーの背を追い抜く。 「そんで、早くごはん食おう」 あとに続いたその言葉は、すぐ後ろにいたアルフレッドにだけ届いた。戦いへの期待か、その足取りは弾むほどに軽い。人がベリアル化したというのにとことん無神経なのか、はたまた能天気なだけか――どちらにせよ、ある意味尊敬に値する、とアルフレッドは呆れ顔でレオンの後を追う。 「まずは、オットマーさん達を探そう!」 「それから避難と退治だな」 デモンである『リントヴルム・ガラクシア』は背に生えた一対の黒翼を広げた。短い助走から跳躍、その勢いに乗って飛翔する。空からの偵察を試みるリントヴルムに、彼のパートナーである『ベルロック・シックザール』だけでなく、他の浄化師たちも続いて草原を駆けはじめた。 「ベリアルになってしまった方は……本当に裏切ったのでしょうか……」 未だ遠い影を見つめて『アリシア・ムーンライト』は呟いた。その隣で『クリストフ・フォンシラー』も思案を巡らせる。終焉の夜明け団襲撃の際にも、二人は救援の為にこの地を訪れていた。当日の戦闘と調査だけでは不明な点も多く、その後も気に掛けてはいたものの、このような形で続報を受け取ることになるとは思っていなかった。 「さて、どうかな。あいつらなら魔術とかクスリで操ったりも出来そうだけど」 「……もう、確かめられないのですね」 アシッドに侵された者の魂は拘束され、たとえ肉体が生きているように見えたとしてもそこに宿る人格は全くの別物だ。理性なく他の魂を奪って力を増し、生命を屠ることだけに執着する醜悪な生き物――それがベリアルという存在である。 「せめて、あの方の魂の救いになれますように……」 「そうだね。これ以上苦しまないようにしてあげるのが、俺達のできることかな」 囚われた魂を解放できるのは、浄化師が振るうイレイスだけだ。 己の使命を再確認し、二人は頷き合った。 ●希望の名 「くそっ!」 弾切れの信号拳銃を投げ捨て、オットマーは口汚く敵を罵った。 普段の巡回同様に長剣を所持していたのは運が良かったが、いわゆる焼け石に水というやつで、恐怖を味わう時間が長引いただけだとも言える。心臓を抉らんとする触手を切断することには成功したものの、目の前で容易く再生するさまを見せつけられては戦意も萎えるというものだった。 おまけに、唯一の仲間は戦闘どころかさっきからがたがたと震えているばかりだ。オットマーがその襟首を引っ掴んで逃げ出していなければ、とっくにベリアルの餌になっていただろう。 「もうおしめぇだ、ありゃ化け物だ……俺達ァ、喰われて死ぬんだ……」 「おい、アントン! てめぇ、永遠に寝言ほざいてるつもりか?!」 羊の首を噛みちぎり素手で脈打つ心臓を抉り出すかつての仲間を見たアントンは、化け物だと悲鳴を上げ、それからずっとこの調子だった。持っていた弓矢は一度も役立つことなく破壊された。触手に穿たれて肩や脚から血が噴き出そうとも傷口を押さえもせず怯え続ける男の姿は、ある種ベリアル以上の不気味さがあった。 「狂ってやがる」 もう、真の意味では恐怖も絶望もわからなくなってしまったのか。 アートスの姿をしたベリアルは、先ほどから逃げ惑う羊を引っ掴まえてはその血肉を喰らっている。お陰でオットマー達はまだ命があるのだが、羊たちが餌食になればなるほどベリアルは力を増し、近いうちにその血濡れた牙がこちらに向くのは明白だった。 「いや、羊の餌になる方が早ぇか……」 オットマーは早々と正気を手放した仲間を羨ましく思いながら、諦め悪く長剣を振りあげる。気が付けば、四体のベリアル化した羊にすっかり囲まれている。 「リントヴルムが助けに来たよ!」 場違いなほどに明るい声が振ってきたのは、その時だった。続けて、投擲されたタロットカードが獣を牽制する。リントヴルム――その名はこの地に住むデモンにとって特別な意味を持つ。アントンの譫言がぴたりと止まった。 「黄昏と黎明、明日を紡ぐ光をここに!」 別の男女の声が響いたかと思うと、ベリアルの触手がことごとく切断されて地面に落ちる。音叉に似た風変わりな刃を持つ双剣が、閃光の如き速さで斬り落としたのだった。強い意志によって補強された断罪者の膂力は、不死の化け物に再生困難なほどのダメージを与える。気を抜くことなく双剣を構え、『シリウス・セイアッド』はさらに追撃を加えてベリアルをオットマーたちから遠ざけた。 「皆さん、無理はしないでください」 銀青色の三つ編みを揺らす『リチェルカーレ・リモージュ』は手指を組んで印をつくり、鬼門封印の呪文を唱える。通常の羊では有り得ない敏捷性を見せていたベリアルの動きが、わずかに鈍った。ベリアルとなった犠牲者に思うところはあるが、今は被害の拡大を防ぐことに集中しなければ、と立て続けに九字を切る。 「なんてまずそうな姿に……!」 本気か冗談か、判断に困るような嘆きを上げて、レオンが加勢する。最早何も言うまい――アルフレッドは沈黙を保ったまま剣を振るった。 「Traicit Et Mors Amor」 聞きなれぬ響きの詠唱から間を置かず、強烈な一打が羊型ベリアルを頭上から襲った。長い黒髪を艶やかに波打たせたヴァンピール、『スティレッタ・オンブラ』が跳躍によって全体重をかけた拳を見舞ったのである。ベリアルは前肢を無残に砕かれ、咆哮をあげて後退する。傍目には華麗に、その実油断無く爪先を揺らめかせながら、スティレッタは羊型ベリアルの向こうで仲間と対峙する人影を見遣った。 スケール2に進化したベリアルは比較的もとの姿に近い様相だが、その動きは遠目にも人から掛け離れている。 「何だか気の毒なお話ね。あんな姿になっちゃ、何もできないじゃない」 スティレッタもサタンと戦い苦労させられた一人ではあるものの、襲撃の手引きをしたかもしれない相手に対して憤りよりも憐みが勝った。 実際にアートスが内通者だったとして、その動機は歪な信仰心か、それとも金か。 「死人に口なし……いや、死んじゃあいないか」 前肢の再生を待たずに飛びかかってきたベリアルを斬撃で突き放し、『バルダー・アーテル』もまた終止符が打たれたアートスの人生に思いを巡らせる。 「いんや。ありゃ、死人も同然か……」 肉体を奪われ魂を拘束されることは、純粋な死よりも惨い末路だ。真実がいずれであるにせよ、こんな結末を望んでいたはずはあるまい。 「こうなった以上は、考えたってしょうがないわね。とっとと片付けちゃいましょ」 スティレッタは気分を切り替えると、シリウスの斬撃を避けて飛びかかってきたベリアルを身軽に躱す。無論そのまま見逃すはずもなく、バルダーの剣が閃いた。 ●進化した悪意 「テオ君大丈夫? 辛いようなら、別に羊回収の方に回っても……」 敵の姿がはっきりと目視できる距離まで来て、ハルトはパートナーを伺った。戦力の配分を鑑みて二人はスケール2のベリアルを相手取ることになっているが、今ならまだポジションの調整が可能だ。 「いや、このまま行く」 テオドアは前を見据えたまま答えた。確かに、人の姿をした敵に刃を向けるのは多少の抵抗がある。助けの手が間に合わなかった魂のことを考えると、気が重い。もともと戦いは苦手だという自覚があった。だが人として、浄化師として、脅威を見逃すことは出来ない。ハルトはテオドアの代わりに敵を穿つ武器になると公言して憚らないが、彼だけに戦わせるつもりはなかった。二人は誰に強制されるでもなく自らの意思で契約を結び、ともに歩むことを誓ったパートナーなのだ。 「そう、テオ君が決めたなら俺はそれに従うよ。俺がついてるから、安心して?」 肩に下げた狙撃銃を軽く叩いて頼もしく笑うハルトに、テオドアもちらりと笑顔を返した。どちらからともなく、手を取り合い、魔術真名を口にする。 「共に行こう」 戦いに臨むのに、これほど相応しい魔術真名は他にない。 まずは敵から羊たちを切り離すべく動き出す。人命優先はもちろんだが、敵に力を蓄えさせて良い事は無い。そこかしこで牧畜の悲鳴が上がり、可哀想ではあるが多少脅しつけるようにしてでも遠くへ追いやる。 「右手に祝福を、左手に贖罪を」 身体の隅々まで魔力が満ちるのを感じながら『エリィ・ブロッサム』は、むぅ、と唇を尖らせた。睨みつけた先は、角と翼を持つデモンの姿をしたベリアルだ。 「前回の下手人ですカ……できれば話を聞いておきたかったのデスガ」 でたらめな威力の雷撃を撒き散らしていたサタンだけでなく、命を顧みぬ抵抗を示した信者にもずいぶんと苦労させられた。敵の目論み通り竜が拉致されていれば、後々強力な武器や魔術道具、凶悪なベリアルが生み出され、甚大な被害を招いたことだろう。捕縛した信者たちは黙秘を貫き、いまだろくな証言を得られていない。 「懸念していたことが、こんな形で判明するとは……残念です」 エリィの横で嘆息したのは、占星儀を構えた『レイ・アクトリス』だ。 「せめて安らかに逝かせてあげましょう」 「ええ。早々に終わらせて、宴に向かいまショウ」 レイはムーンのタロットカードを引き、月の女神の力を借りる――味方には希望ある未来を、敵には不安に満ちた未来を定める。エリィは魔方陣を展開すると、ベリアルの翼に向けて光弾を打ち放った。 「ところでエリィ、相手は人型ですが大丈夫ですか?」 「問題ありまセン。ベリアルであるなら倒すだけデス!」 パートナーの問いに決然と答えながらも、エリィは唇をきゅっと引き結ぶ。一度ベリアルと化してしまった以上は、もう倒す他に救う術は無いのだ。きっと後味の悪さは残る。それでも、やるしかない。 「……それを聞いて安心しました」 二人は強く前を向いて、共にベリアルに立ち向かう仲間の援護に集中した。 「叫びよ、天堕とす増歌となれ」 赤と青、同じ二色の瞳を向き合わせて、ラニとラスは互いの手をしっかりと握る。同じ赤毛に同じ異色の双眸。血の繋がりこそないがよく似た存在と向き合う時、如何なる敵をも打ち砕けそうな心強さを得る。一から十まですっかり重なる存在ではないとしても、やはり、これ以上の相手は無いのだ。 「スケール2と戦うのは初めてね。気を引き締めなきゃ」 スケール1のような触手は無いが、アートスの所持品だったらしい槍もなかなかに間合いが広い。ラニは距離感を見誤らぬよう敵を見据えながら反りのある双剣を構え、強固な意志の力で自身を高めた。 「……事情は知らんが、やらせてもらう」 アシッドに冒される前の身分も人格も、ラスには興味が無いし関係が無い。敵を倒し、パートナーを守る。それが全てだ。 「来るぞ!」 テオドアが警告を発するのとほとんど同時に、ベリアルが大きく踏み込みラニに向かって槍を繰り出す。難なく避けるのを確認して、ラスは両手斧を振り下ろした。斧はベリアルの左肩を砕き、そのまま地面を抉る。核となる魔方陣には届かずすぐさま再生が始まるが、数秒の隙が生じる。 「狙うは翼デス!」 後方へ飛びのいたラスと入れ替えに、エリィの光弾がベリアルを襲う――右背面に被弾。しかし相手は構わず翼を開き、飛び上がる気配を見せる。 「痛みを気にしない相手ってのは、厄介でしょうがないぜ」 サタン戦を思い出して顔をしかめながら、ハルトは弾丸を撃ち込む。タイミングを合わせ、レイも魔力を込めたタロットを投擲した。 「はぁッ!」 右半身に複数のダメージを負い体勢を崩したベリアルに、テオドアが素早く斬りかかる。翼を狙うが、敵は体をひねって応戦する。槍の柄と剣とで押し合いをしている間に、ラニはベリアルの背後を襲った。羽の付け根の肉を裂く――斬り落とすには浅い。 「う、ぐ……ぐあああぁッ!」 牙の突き出た口から、低い呻き声が漏れる。ベリアルは悪魔の如き形相でテオドアを突き飛ばし、槍を振り回した。浄化師が回避する間隙をついて、左脚の力だけで跳躍する。異形化に伴い筋力が増強されたのか、その体は予想よりはるかに高い位置まで舞い上がった。通常のデモンの飛行能力は二分強。このベリアルは、もう少し持つ可能性がある。 「あーっ、もう、チャンスだったのに! 降りてきたら、容赦しないんだからっ」 ラニは悔しげに双剣を振って、刃についた敵の体液を落とす。 「もう少し降下してくれば、僕たちの攻撃は当たりそうです。囲い込みましょう」 レイの提案に、浄化師たちは頷いて立ち位置を調整した。 今のところ、ベリアルにこの場を離脱する意志は見られない。スケール2の知性では目の前の獲物から離れるなどという判断は出来ないのかもしれないが、万が一オットマーやアントン目掛けて急降下されたら厄介である。射程の長いレイとエリィ、それにハルトの三人がベリアルを囲んでほぼ等間隔に立ち、間に近接戦の得意な浄化師たちが入って陣形を作る。 「長期戦になるかもしれないが、アリシアたちの合流まで持ち堪えよう」 テオドアが束の間押しあった感覚では、ベリアルの膂力は尋常ではない。正面からぶつかるよりも柔軟にいなし、粘り強く相手の隙を窺って機動力を奪うのが得策だった。 ●九死に一生 「俺はベリアルの相手をするから、アリシアを頼むよ」 「わかった。避難が済んだらそっちに合流する」 クリストフとベルロックの会話が聞こえていないはずはないのに、揃いの額当てをした二人は地面にへたり込んで放心したように反応を示さない。アリシアはまず見るからに出血の酷いアントンに回復呪文を唱え、それからオットマーに声を掛けた。 「ご無事ですか?」 オットマーは、はっとしたように瞬いてアリシアを見返す。 「あ、あんたがたは」 「浄化師のアリシア・ムーンライトと申します。救援に応じて参りました」 浄化師、と覚束ない口調で復唱し、ようやく窮地を脱した実感が湧いてきたのか、オットマーは深く息を吐いた。 「そ、そうか……来てくれたのか……」 四体の羊型ベリアルは思惑通り距離をとって、それぞれ浄化師とやりあっている。行動を制限するような壁や崖が無いので追い詰めるには多少時間がかかりそうだが、苦戦している様子はない。 「疲れてるだろうけど、仲間が足止めしているうちに急いで避難しよう。……アートスさんに、これ以上罪を重ねさせないであげて」 リントヴルムは言いながらオットマーに手を貸し、立つように促す。アントンはすっかり黙り込んで反応も鈍かったが、ベルロックに助け起こされると大人しく立ちあがった。 「見たところ、僕達が出てきた小屋が一番近そうだね」 「そうだな。俺が殿を務めよう」 魔方陣のある小屋は、普通の見張り小屋よりも防備が厳重だ。このあたりで最も安全な場所と言えるだろう。リントヴルムが負傷している二人に気を配りながら先を進み、すぐ横にアリシアが付き添う。最後尾にベルロックがついて、監視小屋を目指した。 「オットマーさん、羊たちを集める方法をご存じありませんか」 このままではベリアルに捕食される可能性があるし、そうでなくても戦闘に巻き込まれるかもしれない。人も動物も、もう何者をも死なせたくなかった。 アリシアの問いに、オットマーはアントンを半ば抱えるようにして進みながら、顔を歪める。 「ふだんは牧羊犬を使うんだが……」 オットマーたちは群れを移動させる必要が無かったので、連れていなかった。犬小屋は現在目指している監視小屋よりもさらに遠い畜舎の脇だ。平生は鎖や縄を付けず自由にさせているのだが、今は緊急時なのできっと誰かが柵に繋いだに違いない。連れてくるには時間がかかる。 「ただ、小屋に行けば餌がある」 草の豊富なうちはこの草原に生えた草を好きに食べさせているが、草が乏しくなる秋冬、妊娠中の羊や仔羊がいるときには干し草や野菜屑を混ぜた餌をやることもある。その一部が監視小屋に併設された納屋に貯蔵されているというのだ。臆病な羊は一度パニックになるとなかなか手が付けられないが、餌に対しては強い執着心がある。盛大に撒いてやれば多少は効果があるだろう、とオットマーは言った。 オットマーとアントンを監視小屋に避難させると、三人は教えられたとおり納屋から麻袋を引っ張り出して中の餌を周囲にばらまいた。干し草の細かな破片が舞い上がり、軽く咳込む。風に乗って匂いが届いたのか、目に見える範囲にいた羊の幾頭かが足を止めてこちらを向いた。 「羊さん、こっちです……集まってください」 アリシアは祈るようにして声をかけるが、オットマーが羊は臆病で警戒心が強いと言っていたのを思い出し、撒いた餌から離れることにした。 「よし、それじゃあ戻ろう」 頷き合い、三人は来た道を足早に戻りはじめる。途中羊の小さな群れが、どっと監視小屋へ向かっていくのが見て取れた。安堵した矢先、白い羊に混じって黒い塊が向かってくるのに気が付き、ベルロックは黒猫の耳をぴんと尖らせる。 「リント」 リントヴルムは返事の代わりに拳を突き出した。握った手の甲をぶつけるようにして合わせ、魔術真名を詠唱する。 「コード・ステラ!」 突進してくるベリアルの鼻先へリントヴルムがタロットを投擲し、速度が緩んだところをすかさず踏み込んだベルロックの片手剣が突く。耳をつんざくような悲鳴があがり、怒気をたぎらせた無数の触手が伸長する。リントヴルムはペンタクルのカードを引くと、自身を中心にシールドを展開した。鞭の如くしなった触手に打たれて砕けるも、ダメージは軽減されている。 「アリシアちゃん、ここは平気だから先に行って!」 ベリアルを追いかけてこちらへ来る仲間の姿が見えていた。この場の戦力は十分だ。天恩天賜を使えるアリシアはテオドアたちの支援に向かった方がバランスが良い。 「皆さん、お気を付けて……!」 この場を離脱する背に向けて、ベリアルの触手が伸びる――それを鋭く削られた木刀が圧し切った。 追って来ていたアルフレッドとレオンが追い付いたのだ。 「お前の相手は俺だってぇの!」 レオンがベリアルの胴めがけて斧を振り下ろす。刃が半ば食い込んだところで触手に押し返され、飛び退いて反撃をかわす。身をよじったベリアルをリントヴルムのタロットが押し留めた。チャンスを逃さず、アルフレッドは前肢を叩き折るようにして切断する。 「はっ!」 体勢を崩したその首へ、レオンは今度こそ渾身の一撃を見舞った。羊のそれからは掛け離れた奇声があがり、空中に鎖で拘束された羊や鶏の姿――これまでにベリアルが喰らった、拘束された魂が浮かび上がる。その瞬間を逃さず、ベルロックの鋭い剣身が一閃した。イレイスが鎖を喰らい、断末魔を上げる間もなくベリアルは消滅する。 斬り落とした触手も無に帰したのを確認し、四人は僅かに気を緩めて刃先を下げる。 「すまない、羊たちを追い払おうとして取り逃がした」 アルフレッドはベリアルが此方に駆けだした経緯を端的に説明した。 「でかい音立てたら、羊は逃げてベリアルは襲ってくると思ったんだけどな」 当てが外れて、ベリアルも一緒に走り出してしまったのだ。羊は群れの一頭が動くとそれに全体がつられて動き出す生き物だ。その習性がまだいくらか残っていたのかもしれない。 ああ、とリントヴルムは納得して頷いた。 「だから羊たちがまとまってこっちに走ってきたんだね」 「結果的には良かったんじゃないか。仕留めたんだから、なんの問題もないだろ」 まだ敵は残っている。四人は戦況を見渡しながら次なる敵のもとへと向かった。 ●獰猛な毛玉 顔面に迫る触手を最低限の動きで避ける。微かに頬を掠めたが、シリウスは構わず大股に踏み込んだ。左右の剣を続けざまに振るう。触手が千切れ飛び、毛皮が裂ける。 「シリウス!」 「大丈夫だ」 一見した感覚よりも深く切り込まなければ刃が肉体まで届かないことは、最初の数手で把握していた。決定的な打撃を与えるには、多少の怪我を気にしてはいられない。 すぐそばでは別の敵をクリストフが一人で相手取っている。ベリアルが飛びずさった拍子にそちらへ意識を向ける気配を察し、リチェルカーレは魔力弾をぶつけた。杖を飾る竜の目が、魔力を得てぎょろりと動く。 「鬼さんこちら、よ」 こっちにいらっしゃい、と招く声に反応したわけでもなかろうが、片目を潰されたベリアルは肉食獣よりも凶悪な牙を剥いて飛びかかる。一拍早くその眼前に回り込んだシリウスは突進を双剣で受け止め、押し返した。背後でリチェルカーレの唱えた九字が触手による攻撃を封じる。 鋭く射抜く翡翠の双眸に縫いとめられたように、ベリアルの動きが一瞬止まる。その一瞬で十分だった。 「……逃がさない」 低く呟き、踏みしめた地面を強く蹴りつける。急速に間合いを詰めると同時に、二本の剣を振り抜いた。敵の目には、剣身が掻き消えたように映っただろう。閃光の如き斬撃に、ベリアルの頭蓋が四分割される。回復が始まるよりも早く、シリウスは利き手に握る剣で仰け反った獣の胸を串刺しにした。 「こちらもそろそろ、決着をつけないとね」 断末魔を上げた仲間に共鳴してか、咆哮するベリアル相手に、クリストフは臆することなく剣を構える。殺戮を使命とする獣を倒し、人々の安寧を取り戻す――その強い意志が、断罪者の力となる。束になった触手が一斉に迫りくるのを袈裟切りにして、さらに大きく踏み込んだ。魔力による補強を感じながら、クリストフは全力を込めて剣を振り下ろす。サーベルは触手の蠢く毛皮を裂き、肉を割り、骨を断つ。どぱっと広がったベリアルの体液が草上に小さな海を作る。だがそれも、数秒もすると無に帰した。 遠目に二体のベリアルが倒されるのを目にし、スティレッタはステップを踏みながら片眉を上げた。 「遅れをとっちゃったわね。シロスケ、私達もそろそろ終いにしましょ」 「別に、好きで長引かせてるわけじゃあないんだが……」 スティレッタが敵を惑わせ誘導し、バルダーが斬撃を加える。急がば回れというやつで、二人は確実にダメージを積み重ねる戦法をとってきた。だが、致命傷を与えるにはもう一歩大胆な手を取る必要がありそうだ。 牙を剥きだしにして突進するベリアルを、スティレッタは闘牛士よろしく優美に躱す。 「こんな獰猛な羊と戯れるぐらいなら、毛糸玉で遊んだ方が楽しい気がするわ」 憂いのある溜息をつくパートナーをよそに、バルダーはベリアルを正面から斬りつける。鼻先を引き裂くも、鋭く繰り出された触手に肩を突かれる。厚手のコートが功を奏し、ダメージは軽微。敵の足は止まった。脳裏で冷静に分析しながら、触手を根元から断つ。再生する暇を与えずに踏込み、剣を二度振り抜いた。 「スティレッタ!」 華奢な足が鋭く地を蹴り、戦場よりも舞台の方が似合ではないかというような艶麗な肉体が宙を舞う。着地点はベリアルの頭上。重力により威力を増したメタル・フィストが頸椎を折り、頭蓋を打ち砕く。拘束された魂の像が浮かび上がり、すかさずバルダーの剣尖が鎖を断ちきった。 草原には草が押しつぶされたような、僅かな痕跡だけが残った。バルダーはそれを見下ろして、複雑な息をこぼす。 「ベリアルになった人間じゃあ、痕跡は残らんよな……」 死者の遺留品から生前の行動や性格を推測することを『死者の声を聴く』と言う者もいるが、ベリアルとなったアートスの声を聴くことは、もはや不可能なのだった。 ●魂の解放 ひゅっ、と風を切る音と共に槍の一打が降ってくる。 ラニは咄嗟に脇へ飛びのいて回避した。魔力で強化してはいるが、純粋な力比べでは分が悪い。標的を失った槍が深々と地面に刺さる。チャンスと見て打ちかかるが、ベリアルのでたらめな膂力はラニの予想より早く槍を引き抜いた。打ち払われて、後退する。 「ラニ!」 「大丈夫、あのガラクタ野郎相手よりは気楽! 倒すことに集中できるし!」 パートナーの安否を確認しながら追撃を防ぐべく、ラスは槍を握る手を狙って斬りかかる。ベリアルと化した際に触手で引き裂かれたのであろう警備隊の装備は、ぼろきれのようになっていた。用を成さない手甲もろとも肉を裂くが、敵の動きは緩まない。素早く退いて槍の横薙ぎを避ける。エリィの魔弾がベリアルの行動を阻害し、仲間に体勢を立て直す猶予を与えた。 ラニが言うようにガラクタ野郎――ヨハネの使徒に比べたらまだ難しい相手ではないにしても、気は抜けない。 「また飛びそうデス!」 「翼を、片方でも折れれば……」 ベリアルが暗褐色の翼を広げるのを見、レイは再度月の女神の祝福を仲間に授ける。 「たとえ飛んでも撃ち落としてやる」 ハルトは同士討ちにならぬよう角度に気をつけながら、右の翼に集中的に弾丸を射ち込んだ。被膜を突き破った弾はそのまま背中へめり込む。呻いたベリアルが振り返るところへ、素早く駆け寄ったテオドアが斬りつけた。彼が槍をいなしている間に、ラスは両手斧を翼の付け根目掛けて振り下ろす。序盤にラニが斬りつけた傷は既に塞がっている。今回もまた翼を落とすには至らなかったが、テオドアもラスもベリアルの挙動に予想がついていた。テオドアは旋回する槍を難なく回避し、ラスは柄で肩を打たれたものの、その瞬間に反撃に出る。 「はぁぁッ!!」 献魂一擲――全身全霊の力を籠め、斧を振り下ろす。痛烈な殴打を受けて、槍が砕けた。よし、と手応えを得たのも束の間、鋭い爪がラスを襲う。 「ラス! さっさと離れて!」 「わかって、る……!」 一撃目は斧で受けたが、ふらついたところを追撃される。ほとんど吹き飛ばされるようにしてラニのもとまで退避した時、ラスの額からは血の筋が流れ出ていた。テオドアたちがベリアルを引きつけている間に止血を試みるが、頭部の傷は傷が浅くとも出血が多い。視界を濁す赤に苦戦していると、不意に暖かな光がラスを包んだ。 「今、治します……!」 合流したアリシアが回復呪文を唱えたのだった。 「オットマーさんとアントンさんには、避難していただきました。私も、皆さんと戦います」 アリシアの報告に一同はひとつ安堵を得る。 「オッ……マー……ア…トン……」 ざらついた声に、テオドアははっとして息をひそめた。 「何か、言おうとしている……?」 元はオットマーとアントンの同僚であったベリアルの口が、物言いたげに動いたように思ったのだ。片言であろうと、理性が無いとしても、何かを伝えようとしているのなら聞き届けてやりたい。その善なる思いが、隙を生んだ。 拘束された魂が意思表示をすることは無い。何か意味のあることを言ったように思えても、多くの場合それは単なる反射や模倣に過ぎない――。 「テオ君!」 異常な発達を遂げ、凶器と化した鉤爪がテオドアを襲う。右、左、と腕を振り回しながら前進する相手に、剣を立ててなんとか間合いから脱するが、避けきれず上腕に複数の裂傷が走った。 「俺のテオ君に、気安く触れるんじゃねえ」 緑の双眸に殺意を滾らせ、ハルトは銃口を敵に向けた。躊躇うことなく引き金を引き、脳髄目掛けて弾丸を続けざまに叩き込む。一発目で額当てが吹き飛び、二発目で体液が飛び散る。三発目で、ベリアルは奇声を上げながら仰け反った。 「脚を狙って!」 「一気に追い込みマス!」 レイのタロットとエリィの光弾がベリアルの足元を穿つ。体勢を整えようとする敵に、アリシアが鬼門封印を唱えた。 「やああっ!」 「くらえ!」 ラスとラニが左右からベリアルの脛を斬りつける。がつ、と刃が骨にあたるが、構わずに力いっぱい振り抜く。ハルトの銃弾が胸を穿ち、その衝撃が駄目押しになってベリアルは仰向けに倒れた。 空中に、拘束された魂――禍々しい黒い衣と鎖に戒められたアートス・ホーカナの姿が浮かび上がる。 「っ……!」 テオドアは歯を食いしばり、ベリアルに肉迫すると鎖を断ち切るべく剣を振りかぶった。 ●ひととき、痛みを忘れて ニーベルンゲンの草原では、親睦会の準備が着々と進んでいた。幸いにも人的被害が最小限に抑えられたことと、貴重な人員である浄化師たちのスケジュールを組み直すには手間がかかるという理由で、予定通り開催されることになったのである。 野外に大きなテーブルがいくつも出され、その隣では石組の竈やトライポッドに吊るされた鍋が並んでいる。 「騒動があった後にこんな親睦会してもらっちゃ、申し訳ない気もするわね」 「なに、気にするな」 目にも鮮やかな料理が所狭しと並べられたテーブルを見て呟いたスティレッタに笑いかけるのは、渓谷の要ワインド・リントヴルムだ。 「近頃、暗いニュースが多かったのでな。我々にも息抜きが必要だ」 警備隊にとって、この渓谷こそが生活の場だ。四六時中気を張っていては滅入ってしまう。 肉――羊型ベリアルと対峙した浄化師を慮って急遽、鶏や豚がメインとなった――の焼ける匂いがあたりいっぱいに広がる頃、ワインドは集った面々に親睦会の主旨と感謝とを告げる。それが開会の合図となった。 「そうか、それはショックだったな……」 にわかに周囲が賑わう中、アルフレッドは包帯姿のアントンと向き合っていた。救出当初は放心状態で口を利かなかったが、浄化師がベリアルを倒したと告げると、今度は堰を切ったように喋りはじめたのである。心の均衡を持ち崩した男の異様にぎらついていた目が、アルフレッドの穏やかな相槌によって次第になりを潜める。 「真相はどうあれ、仲間の末路として哀れだ。墓を作るなら、私の分も花を手向けてほしい」 ベリアルとなったアートスの遺骸は欠片も残らなかった。だが、遺された者のためにも死者には弔いが必要だ。アルフレッドの言葉にアントンは繰り返し頷き、最後に、なんでこんなことになったんだかなぁと無念そうに呟いてぽろりと涙を零した。 「美味そう~!」 香ばしい匂いをたっぷりと吸い込んで、レオンは喜々として料理にフォークを伸ばした。ふと、あとからやってきたアルフレッドが一向に皿を手に取らないのに気が付いて、首を傾げる。 「あれ、腹減ってねぇの?」 「ああ……いや、蘇って以来、あまり関心が持てなくてな。食べれば美味いと感じるんだが」 「えぇっ!?」 アンデッドってそんなんなの、とレオンは大仰に声を上げた。 「お前、可哀想な奴だったんだな。何が楽しくて生きてんの?」 遠慮の欠片もない質問だが、そもそも普段からレオンはアルフレッドを『腐乱死体』などと呼びつけているような男なので、今更である。気を悪くした風でもなく、アルフレッドは微かに口角を上げた。 「君と居るのは楽しいよ」 「……そ、そうかよ」 余人が見れば美しいと見惚れてもおかしくない微笑を向けられて、レオンはぞっと肩を震わせる。それ以上の追及を止めて食事に専念した。 「沢山運動したのでお腹すきまシタ! 肉デス! 肉をたくさん食べたいのデス!」 アートスや終焉の夜明け団について思いを巡らせていたレイは、パートナーの弾けるような声で我に返った。情報収集も大事だが、今は親睦会の真っ最中。無粋なことは止めようと気持ちを切り替える。 「せっかくなので、渓谷ならではの料理を楽しみたいですね」 調理場で額当てをしたデモンの青年に料理の名前やレシピを聞き、火にかけられた鍋から直接料理をよそってもらう。渓谷で採れるというハーブが利いたスープに舌鼓を打っていると、遠くから大きな生き物が舞い降りてきた。随分離れたところに降りたように見えたが、それでも着地の際にはエリィたちのもとまで風が届いた。 「あ! あれはグラナトではないデスカ?」 サタンらに拉致されそうになった竜の一頭だ。 「竜の魔法、とても凄かったデス! また見たいのデスガ、駄目でショウカ?」 傍へ寄って挨拶を交わした後、エリィは好奇心を抑えきれずに尋ねた。竜の性格も色々だが、レイの印象ではグラナトは人間に対してあまりサービス精神がある方ではない――のだが、前回のことがあるからか、赤い竜は短く了承の返事を返した。 もっとも、額当てをしたデモンの青年が 「わーっ、グラナト、待ってくれ! 火を吐くなら肉を持ってくる!!」 と叫んだことを考えると、レイが想像するよりもずっと渓谷の住人と竜はフランクな関係を築いているのかもしれない。 「竜の火力を魔術に応用できればさらなる発展になりますガ人が扱うにはやはり補助的な技術が必要デス魔結晶を人工的に作れればあるいは……」 以下省略。エリィがすっかり自分の世界に没入する頃、テオドアはその光景を少し離れた場所から眺めていた。 「なかなか迫力があるな」 自分は何か甘いものでも、と視線を戻して、目の前のテーブルの肉料理ばかりが露骨に減っていることに気が付く。犯人は明白だ。 「ああもう! だからハル、野菜もきちんと食べろって! 放っておくとすぐ肉ばっかり……」 「テオ君が食べさせてくれるなら、考えるけど」 そうでもない限りは断固拒否、と頑なな姿勢を示すハルトに、テオドアは溜息を吐いた。仕方ない、と首を横に振る。竜たちに追加で肉を焼いてもらって、あとで片付けの手伝いでもすることにした方が良さそうだ。 「いつものご飯も美味しいけど、こういう場所で食べるのも良いわよねー! あ、ラス、それ頂戴」 欲張りに盛り付けた皿を手にしながら、ラニはラスの皿から葡萄をひょいと摘まみ上げた。 「おいこら、勝手に人のものを取るな!」 文句を言いながらも、ラニの分まで大皿から取り分けてやる。ついでに籠からくびれのある梨を取って、果物ナイフでさくさくと剥いていった。 「アンタもいるか?」 甘い香りに誘われて、リチェルカーレは差し出された果物を受け取った。一口齧り、共にいたアリシアへ笑みを向ける。 「シアちゃん、これ美味しい」 アリシアもひとかけら貰い、その甘さに微笑む。 「美味しい……。ラニさん、ありがとうございます」 「ラニ、こういうの慣れてるもんね。もっと剥いてよ、あたしにも頂戴~!」 「ちょっと待てって! ナイフ危ないだ、ろ……?」 伸びてくる手を避けたところで後ろからずしりと圧を掛けられ、ラスは怪訝に振り返った。 「うわっ、竜!」 「ヴァージャちゃん、ですね」 まだ幼い仔竜が、背後から首を伸ばしてラスの手にしていた梨をぱくりと食べたのだった。見覚えのある緑の鱗にアリシアが名前を呼ぶ。 「ドラゴンさん、体の具合はもう大丈夫ですか?」 リチェルカーレの気遣いに、ヴァージャはこくこくと首を縦に振った。 「アマイ、モット」 キュイ、と嬉しそうに喉を鳴らす。どうやら梨がお気に召したらしい。 「あら、皆良いもの食べてるわね。私にもちょーだい」 「どうぞ、スティレッタさんも食べてみて」 ベリーの入った炭酸水を手にスティレッタが寄ってくる。リチェルカーレから受け取った梨を食べ、うん、と満足げに笑む。共にやってきたバルダーは既に何杯か空けたらしく、葡萄酒の香りを漂わせていた。ラスの手から二個目の梨を貰う仔竜を、しげしげと眺める。 「これも食うか」 と、牛肉の串焼きを差し出す。ヴァージャが口を開けたかと思うと、バルダーの手元には串だけが残った。表情らしい表情はないのだが明らかに上機嫌な様子につられて、そっと頭を撫でてみる。ヴァージャは嫌がるどころか、自分から角を擦りつけるような仕種をした。 「案外……」 可愛いな、と言いかけた矢先に、手をぱくりと食われて短く悲鳴を上げる。勿論甘噛みだ。 まあ、と目をぱちくりさせたアリシアとリチェルカーレの横で、スティレッタは顔を俯けて笑っている。 「スティレッタ、くすくす笑うな! 誰だって驚くだろう、なにがそんなに面白い!」 バルダーが抗議すればするほど、スティレッタには可笑しくてたまらない。 「くそっ……酒飲むぞ、酒!」 「シロスケ、いくら親睦会だからってお酒はほどほどにしなさい」 聞く耳持たず、という風情でアルコールの並ぶテーブルに陣取ったバルダーに、スティレッタは肩を竦めた。 「お酌しようか?」 クリストフは栓の開いたボトルを掲げながらバルダーの横へ移動する。竜に普段の生活について聞いてみたかったのだが、グラナトは肉を焼くのに忙しくヴァージャは食事に夢中だ。親睦会はまだまだ続くのだから、飲んだくれの相手をしながら待つのも良い。 「何かクリス、セーブしてるだろう!?」 暫くののち、苦情を訴えるバルダーへ、クリストフは応とも否とも答えずに笑ってかわした。 食事を摘まみながら、リントヴルムはきょろきょろと会場を見回した。集まった多様な人々に元記者の性分が疼くが、今はそれよりもやることがある。 「名前のこと謝っておきたいんだけど、見つからないな」 探しているのは救助したデモンの男たちだ。 「まあ、あの人たち気付いてると思うけどな。アンタみたいなちゃらんぽらんが例の一族にいるわけないし」 そうは言いながらベルロックも人探しを手伝う。そのうちに鍋の番をしているオットマーを見つけた。ベッドよりもこの方が気持ちが休まるらしい。リントヴルムが名前を利用したことを詫びると、助けてもらっておいて文句を言うつもりはない、と彼は苦笑して首を振った。 「ともかく、紛らわしい真似をしてすまない。こいつがリントヴルムの名を悪用しないように、俺がしっかり見張っておく」 「うわ、ベル君ひどい!」 そんなことしないよ、と抗議するリントヴルムに、オットマーは笑い、恩人たちへ湯気の立ち上る兎肉のシチューを振舞った。 火を噴く竜や、ボトルを抱えているバルダー――友好的な喧噪をシリウスは会場の端から眺めていた。火を熾したりテーブルを並べる手伝いはしたが、いざ始まるとこうした交流は苦手だ。 「シリウス」 輪の中へ加わるつもりは無かったのだが、駆け寄ってきたリチェルカーレに手を引かれて、ひとつ瞬く。やわらかな力に逆らわず、立ち上がった。 目の前には渓谷の住人と教団の浄化師、人と竜、身分も種族も問わない和やかな宴の光景が広がっている。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[28] テオドア・バークリー 2018/10/06-23:55
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[27] アルフレッド・ウォーグレイヴ 2018/10/06-23:32 | ||
[26] レイ・アクトリス 2018/10/06-22:25
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[25] アリシア・ムーンライト 2018/10/06-20:21
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[24] アルフレッド・ウォーグレイヴ 2018/10/06-19:18
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[23] リチェルカーレ・リモージュ 2018/10/06-18:07 | ||
[22] リントヴルム・ガラクシア 2018/10/04-22:22
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[21] リチェルカーレ・リモージュ 2018/10/04-22:08 | ||
[20] クリストフ・フォンシラー 2018/10/04-21:56 | ||
[19] リントヴルム・ガラクシア 2018/10/02-23:21 | ||
[18] クリストフ・フォンシラー 2018/10/02-22:12 | ||
[17] スティレッタ・オンブラ 2018/10/02-20:37
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[16] リチェルカーレ・リモージュ 2018/10/02-19:49 | ||
[15] レイ・アクトリス 2018/10/02-13:37 | ||
[14] ハルト・ワーグナー 2018/10/02-02:28 | ||
[13] ラニ・シェルロワ 2018/10/01-22:12 | ||
[12] アルフレッド・ウォーグレイヴ 2018/10/01-21:51 | ||
[11] リチェルカーレ・リモージュ 2018/10/01-21:27 | ||
[10] テオドア・バークリー 2018/10/01-02:11 | ||
[9] バルダー・アーテル 2018/10/01-00:29 | ||
[8] クリストフ・フォンシラー 2018/09/30-23:37 | ||
[7] ベルロック・シックザール 2018/09/30-20:43 | ||
[6] エリィ・ブロッサム 2018/09/30-16:47
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[5] リチェルカーレ・リモージュ 2018/09/30-15:03
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[4] テオドア・バークリー 2018/09/30-13:56
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[3] レオン・フレイムソード 2018/09/30-00:50
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[2] ラニ・シェルロワ 2018/09/30-00:43
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