~ プロローグ ~ |
「観光地?」 |
~ 解説 ~ |
プロローグ内では「あるかどうか分からない」と少年が言っていましたが、ありますのでご安心ください。 |
~ ゲームマスターより ~ |
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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綺麗な花だ… ドクター、少しそのまま動かないでください 花を手折りドクターの髪に差して、少し嬉しくなった直後に花が崩れて少しがっかり そう、なんですか…少し悲しいな… 確かに、摘んで消えるからそのままで置いた方がいいですね… ドクターから花言葉を聞いて少し驚き 私の全て、か… ドクター、お願いがあります 改めて、私と契約の儀を いくら同調率が高いとはいえ、貴女を欺き契約していたのは…私としてみれば… 新しいスペルに少したじろぎ ドクター、俺がまだ隠し事をしているの、分かっているんだな…かなわんな… でも、ドクターを窮地に置くようなことはしない それこそ私の全てを捧げても…必ずお守りします… …ずっと、お慕い申し上げます |
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楽しそうにきょろきょろと周りを見渡す 彼の言葉に 翡翠の瞳を見上げて無邪気に笑う だってシリウスと同じ ヴァンピールの国だもの 光の花畑に小さく歓声 星の海にいるみたい…! しゃがみ込んで花に触れる 本当に見られるなんて夢みたい 触れる事はできるけれど 摘むことはできないんですって 残念ね 母にも見せてあげたいのに …シリウス? 真っ青に見える彼の顔に息を呑み 手に触れる そう?ならいいんだけど… 張りつめた顔を不安げに見る 苦しいのを堪えている顔なのはわかる わたしにできることは 何? そこに座って? あのね 月輝花はセレナーデともいうの 同じ名前の歌を知っているから 聴いてみて 小夜曲を歌う 愛しい人を想う歌 彼が少しでも笑ってくれるよう |
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月輝花、知ってます まさかこの目で見られる時が、来るなんて 信じられないと言うように、珍しく若干興奮気味 表情が若干豊か(あくまでも若干。言われてみれば、レベル わ、あ……! とても、綺麗ですね…… 月に輝くと言う名前にピッタリで幻想的で ここでしか咲かないのですよね…… 私の花壇に植えられないの、残念です あ、クリス!摘んでは…っ いえ、もう少し早く言えば良かったです、ね 私にくれようとしたんですね、ありがとう え、私…似てます、か? そ、そんな…私、こんな綺麗な花に例えられるなんて…… クリスの目に、そんな風に映ってるなら、その……嬉しいです、けど 真っ赤になって俯き こんな些細な言葉もすごく嬉しいのは…私、やっぱり…… |
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二人で散策 へえ…きれいね シャドウガルテンにこんな所があったなんて ところでトールは何をしてるの? ふーん…熱心ね 私は少しこのあたりを歩いてくるわ 少し散歩した後、トールの背中が見える所まで戻ってきて …パパ? あ、ええと、そういう意味じゃなくて パパはアクセサリー職人でね、よくこうやってモチーフのスケッチをしていたの トールの背中を見たら思い出しちゃって …そういえば家族のそういう話をするのは初めてね パパの背中はつらい記憶でもあるけど、仕事中の背中を見るのは好きだったわ こうやってね…えいっ(背中に抱きつき いたずらすると、困ったような顔で笑ってた ふふ、今のトールと同じような表情をしてたわ パパ…会いたいな… |
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◆ローザ 今回は私の希望でヘイリーを花畑へ誘った 彼が乗るかは五分五分だったが…少しだけ安心した 皆と離れた場所で月輝花の花畑を眺める …美しい光景だな 向日葵畑の秘密を知られている以上、隠す事もない 私はこの国出身じゃない…ここは母の故郷だ。よく話を聞かされていた 母は何故…シャドウ・ガルデンを出てしまったのだろう? …今はまだ、会えそうにない 花を一輪手折り、崩れ落ちる様を見送る なぁヘイリー。あの問の私の答えを…聞いてくれるか? 私の姿は、この王子様を最初に願ったのは母だったかもしれない だが今は私が王子様を望んだ。守られるだけのお姫様じゃない 例え…愛されなくとも、私は戦い、母を…皆を守る それが、私の戦う理由だ |
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■目的 月輝花の花畑を見学 ■花畑にて ルーノはあまり気乗りしない様子 ナツキは興味津々で辺りを見回す ナツキが月輝花を一輪摘んで持ち帰ろうとするが崩れてしまい断念 せめて写真に収めようと気を取り直し、花畑を散策しつつあちこち撮影 ナツキ:おわっなんだこりゃ!? ルーノ:やれやれ、だから無理だと言っただろう? 楽しく写真を撮って回るナツキだが、一人でぼんやりと花を眺めるルーノを心配して大丈夫かと声をかける ルーノ:何でもないさ、少し昔を思い出してね。聞いても楽しい話ではないし、気にせず続けるといい ナツキ:…わかった、でも一人で抱え込むなよ?なんかあったらちゃんと話せよな! ルーノ:…ありがとう、その言葉だけで十分だ |
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◆二人ともシャドウ・ガルデンへは初めて 唯「ずっと夜の国…シャドウ・ガルデン あの出来事が無ければ入れなかった国…少し緊張します…」 瞬「そうだね… ずっと暗いし明かりはあっても歩くのは気をつけなきゃね~」 ◆月輝花を見て ・唯月は折るのは可哀想だと思いつつ触れてみたい が、怖くなって結局触れない 唯「綺麗…」 唯(こんなに綺麗な花がこの世界にはまだあるんですね… 崩れてく様子は何となく気になりますが…いえ 手折るなんて…こんなに綺麗に咲いてるのに…出来ません) ◆せめて絵を描こう ・メモ帳とペンを使って描く 唯「今は白黒のラフっぽいですけど 記憶のあるうちにアトリエで描きたいです…っ!」 瞬「いづなら素敵な絵になるね~!」 |
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緊急依頼で来て以来ですね。 この国にこんな風に訪れることになるなんて思ってもいなかったです。 『月輝花』とても綺麗なお花なんでしょうね。 …ロメオさん先日からぼんやりしてることが増えましたし…私を避けているのがまるわかりなので無理矢理つれてくる形になってしまったのですが…今更になって少し不安になってきました。 この間の魔女の魔法の影響なんでしょうね。 その影響で期せずしてロメオさんの過去を覗き見ることになってしまって…。 私が知るべきではなかったでしょうか? それでも私は知れてよかっただなんて思ってる。 今は…このお花を愛でましょう。 このお花は手折ると崩れてしまうそうですから。 ここで精一杯愛でて帰りましょう。 |
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~ リザルトノベル ~ |
● 月明かりに照らされた白い花園で、『レオノル・ペリエ』が感嘆の声を上げる。 「わぁ! この花、知ってはいたけど、こんな花畑は信じられない!」 「綺麗ですね」 彼女の後ろで頷いた『ショーン・ハイド』は、屈んで月輝花に手を伸ばした。 「……ドクター。少し、そのまま、動かないでください」 「ショーン? 動くなってなに……」 膝を折って花に顔を近づけていたレオノルが、きょとんと顔を上げる。 花を一輪手折ったショーンは、それを彼女の髪にさした。 きらめくような銀色の髪に、幻想的な白の花がよく似合う。思った通りだと、少し嬉しくなったショーンの眼前で、花の色がじわじわと変わり始めた。 穢れなき白が爛れるような赤に。さらには花弁や葉の端が、ぼろりと崩れる。 「な……っ!?」 予想外の展開にショーンは驚く。 瞬いたレオノルがふふっと笑った。 「この花は、摘むと簡単に消えちゃうんだよ」 「そう、なんですか……」 嬉しかった分だけ、悲しさが押し寄せる。 肩を落としたショーンに、レオノルは目を細めて頷いた。 「このまま摘んでおかない方が、この子たちにとっては幸せだよ」 「確かに。摘んで消えるなら、そのままにしておいた方がいいですね……」 肩を落としたショーンは、レオノルの髪から崩壊し続ける月輝花をとる。そういえば、とレオノルが明るい声を放った。 「確かね。摘みとったら崩れるから、私のすべてを貴方に捧げる、って花言葉があるんだよ」 「私の、すべてを」 悲嘆に沈んでいたショーンの双眸が、わずかに見開かれた。 左右で異なる色の瞳に映るのは、白い花畑でかすかに笑う美しい人。過去に起こした罪が、ショーンの胸に瞬時、嵐を巻き起こす。 「ドクター、お願いがあります」 「ショーン? どうしたの、跪いて」 王に忠義を示す騎士のように片膝をついたショーンが、頭を垂れた。 「改めて、私と契約の儀を」 同調率が高かったとはいえ、ショーンはレオノルを欺く形で契約を交わしていた。彼にとっては胸の底に根を張った業だ。 一方で、レオノルはふっと肩の力を抜き、笑む。 「ショーンがそれを望むなら」 「ドクター……」 「血は流さなくていいよね? じゃあ、改めて真名を考えようか。そうだね……」 かすかに目を伏せ、レオノルは思案する。ショーンはその間、身じろぎもせずに待っていた。 「fac quod rectum est dic quod verum est.」 やがて囁かれた言葉に、ショーンは息をのんだ。 「で、どう?」 「……はい」 正しいことをなせ、真のことを言え。 まるでショーンがまだ隠しごとをしているのを、知っているかのような呪文だ。貴女には敵わないと、男は小さく笑んで、差し伸べられた彼女の手をとる。 「私のすべてを捧げても、必ずお守りします」 ずっと、お慕い申し上げます。 祈るような思いで、ショーンはレオノルを見た。 ● 目をきらきらさせながら、『リチェルカーレ・リモージュ』は周囲を見回す。 「……楽しそうだな」 「だってシリウスと同じ、ヴァンピールの国だもの」 常夜の国に足を踏み入れたときから、ずっと胸を躍らせている様子だった少女の言葉に、『シリウス・セイアッド』は目を丸くした。 満開の花のような笑顔を直視できず、シリウスは視線を明後日の方に投げる。その目元は、ほのかに赤かった。 やがて、二人の眼前に純白の花畑が現れる。リチェルカーレが小さく歓声を上げた。 「すごいわ、シリウス!」 足早に月輝花の花畑に踏み入った少女が、くるりと回る。 「見て、星の海にいるみたい……!」 膝を折り、この国にしか咲かない花を観察し始めたリチェルカーレの隣に、シリウスは立った。子どものように無邪気に双眸を輝かせる姿に、自然と淡い笑みが浮かぶ。 「本当に見られるなんて夢みたい」 白く小さな手が、そっと花弁に触れる。少女は残念そうに眉尻を下げた。 「触れることはできるけど、摘むことはできないんですって」 実家で花屋を営む母にも見せたかったのだが、月輝花は特性上、持ち帰ることができない。 「詳しいな」 「花屋の娘だもの。シリウスも、もっと近くで見てみない?」 胸を張ったリチェルカーレに手招かれ、シリウスも屈んで白い花弁を指先で撫でる。 不意に。 遠い日の、父の声が彼の耳の奥でよみがえった。 連鎖的に様々な――胸の奥に封じた、思い出したくない記憶が泡のように浮かんできて、呼吸を忘れる。 ――月や星の光が花になったようで、とても綺麗なんだ。いつかみんなで、見に行けるといいな。 「……シリウス?」 月光の下で真っ青に見えるシリウスの顔に息をのんだリチェルカーレは、とっさに彼の手を優しく握った。 その感触と温もりで我に返ったシリウスは、強く閉じていた目をゆっくりと開き、噛み締めていた奥歯から徐々に力を抜いていく。 「……リチェ」 「どうかしたの?」 「……なんでもない。少し、寝不足で」 「そう? ならいいんだけど……」 まだ張りつめた様子のシリウスを、リチェルカーレは不安げに見つめた。 彼が苦しんでいる。なにかを堪えている。 わたしにできることはなに、と考えた少女は、唇を引き結んで立ち上がった。 「そこに座っていて?」 腰を浮かそうとした彼を、笑顔で制止する。 「あのね、月輝花はセレナーデともいうの。同じ名前の歌を知っているから、聞いてみて」 甘い香りの空気を吸う。 幻想的な花に囲まれ、少女は澄んだ声で歌い始めた。 「深き思いを、君や知る」 それは、小夜に愛しい人を想う歌。 「わが心、騒げり」 彼が少しでも笑ってくれるようにと、少女は願いをこめる。 シリウスは目を伏せ、小夜曲に聞き入った。花の香りとリチェルカーレの声が、じわりと胸に染みこむ。 ● よく観察しなければ分からない程度の変化だが、『アリシア・ムーンライト』は普段に比べて少し興奮しており、表情も豊かだった。 「わ、あ……! とても、綺麗ですね……」 「へぇ、こんな花があるんだね」 「月輝花といって……。月に輝く、という名前がぴったりで、幻想的です……」 彼女の感情とわずかな顔色の変化を的確に読みとり、『クリストフ・フォンシラー』は微笑む。 「アリシアはさすがに知ってたんだね」 彼女は恥じらうように、首肯とも少し俯くともとれる仕草を見せた。 「でも、この国でしか咲かないんですよね……。私の花壇に植えられないの、残念です……」 落胆したのもつかの間、目の前の風景に心を奪われたアリシアは、また嬉しそうにする。 膝を折って花弁に触れる彼女の隣に屈みながら、こんなに喜ぶならここに度々、きてもいいんじゃないかな、と彼は考えた。 「甘い香りも、素敵です……」 月明かりを浴びる花々の中、アリシアの表情はさらに柔らかになっていく。 気づけば彼女に見惚れていたクリストフは、ほとんど無意識のうちに手元の花を摘んでいた。彼女の夜のように黒い髪に、この白はよく似合うに違いない。 「あ、クリス! 摘んでは……っ」 「え?」 瞠目したクリストフの手の中で、白かった月輝花が赤く色づいていき、花弁や葉の端から崩れていく。 「もう少し早く言えばよかったです、ね」 「ごめん、アリシアに似合いそうだと思って、つい」 ゆるりと目蓋を上下させて、アリシアはほんのかすかに口の端を上げる。感情をあまり表に出さない彼女にとって、それは照れを交えた笑顔だった。 「私にくれようとしたんですね……。ありがとう」 その表情と言葉に、胸の底がくすぐられるような感覚を覚えたクリストフは、それにしても、と話題を少し変えた。 「この花、アリシアに似てるよね」 「え、私……、似てますか?」 「暗闇に咲く白い花と、黒髪で白い肌。ほら、ね?」 (それに、はかなくて触れると壊れそうなところとか) 声に出すのをためらい、胸の内でクリストフはつけたす。 「そ、そんな……、私、こんな綺麗な花にたとえられるなんて……」 真っ赤に染まった顔を隠すように、アリシアが下を向く。 (クリスの目に、そんな風に映ってるなら、その……、嬉しいです、けど) 彼にとってはきっと些細な一言なのに、アリシアの心臓はたくさん走った後のように高鳴って、心がふわふわする。 (私、やっぱり……) 目をつむる彼女の頭を見下ろしながら、クリストフは手の中で崩れていく花を想っていた。 摘めば消えてしまう、彼女によく似た常夜の白花。 (アリシアも、うっかり踏みこみすぎたら) 脆く、崩れてしまうかもしれない。 (だから、消えないように大事にしないと) 目を伏せ、クリストフは密かに誓う。 ● 月輝花の花畑を、『リコリス・ラディアータ』と『トール・フォルクス』は見回した。 「へえ……。綺麗ね。シャドウ・ガルデンにこんなところがあったなんて」 「本当に全部白いんだな」 「ところでトールはなにをしてるの?」 感嘆したように応じながら、素早く屈んだトールは鞄の中からペンと紙をとり出し、なにかを描き始めていた。 「せっかくだからスケッチしようと思ってな」 世界中を旅する冒険家だったトールでも、つい最近まで鎖国していたシャドウ・ガルデンに観光目的で訪れたことはなかった。 常世の国にしか咲かない幻の花として月輝花のことを知っていたものの、実物を見るのはこれが初めてだ。 「ふーん、熱心ね」 さらさらと描かれていく紙面の花を、リコリスはちらりと覗き見る。腕前は可もなく不可もなくといったところだった。 「私は少し、このあたりを歩いてくるわ」 「気をつけてな」 視線を上げたトールに片手で了承の意を示し、リコリスは純白の花群の中を歩き始める。 行くあてもなく、思案というほど思考もせず、ただ進む。 ふと気がついたとき、前方にひとりの人物が見えた。月輝花の花畑に座り、その人物はしきりに手と首を動かしている。 なにかをよく観察して、紙に描き出していく動き。リコリスの中で、彼と過去が重なる。 「パパ?」 「パ……!?」 衝撃を受けたように振り返ったのは、リコリスの父ではなくトールだった。は、と少女の唇から空気の塊が吐き出され、全身の力も抜けそうになる。 「せめてお兄さんと言ってほしい」 「あ、ええと、そういう意味じゃなくて」 苦みを帯びた笑みを微かに浮かべ、リコリスはトールの隣に腰を下ろした。 「パパはアクセサリー職人でね。よくこうやって、モチーフのスケッチをしていたの。トールの背中を見たら、思い出しちゃって」 「……ああ、なんだ。そういうことか」 思えば、リコリスが家族の話をトールにするのはこれが初めてだ。 「彼岸花の髪飾りも、親父さんが作ったのか」 「そうよ」 「腕のいい職人だったんだろうな」 「世界で一番の職人だったわ」 父の背中は、少女にとってつらい記憶の一部であり、誇らしいものでもある。仕事中の父を後ろから見るのが、彼女は好きだった。 「そうか、リコの親父さんは」 「えいっ」 「うわっ!?」 詳しくは知らないが、少女の両親も他界していることを思い出したトールの背中に、リコリスが抱きつく。 「な、なんだよ、びっくりするだろ!?」 「こうやってね、いたずらすると困ったような顔で笑ってたの。ふふ、今のトール、そっくりだわ」 「……リコ」 ぎゅっと力をこめられた腕が、パパに会いたいと叫んでいるようで。 俺たちはきっと、大切な人を失った者同士なのだと、トールは胸が軋むような思いで、リコリスの頭を撫でた。 ● かすかな風が、甘い香りを運んでいく。 いつか、背の高い向日葵に囲まれたことを『ローザ・スターリナ』は思い出す。秘密を求めたあの花園で、彼女は一番のものを告白した。 すくみかける心を呼吸ひとつで叱咤し、振り返る。常夜の国の白い花園に、『ジャック・ヘイリー』がぶっきらぼうに立っていた。 「美しい光景だな」 「甘ったるい匂いだ」 彼を月輝花の花畑に誘ったとき、気持ちとしては五分五分の賭けだった。 了承された際に感じた少しの安堵と、固めた覚悟を糧に、ローザは淡々と声を放つ。 「私は、この国の出身じゃない」 ヴァンピールでありながら、彼女は生まれも育ちもこの常世の国ではない。 「ここは、母の故郷だ。……よく、話を聞かされていた」 明けない夜のこと。オイルの灯に照らされる町のこと。深い霧のこと。月と星の光で咲く花のこと。 母の影を探すように、ローザは夜空に目を向ける。ジャックは口を挟まなかった。 「母はなぜ、シャドウ・ガルデンを出てしまったのだろう?」 「さぁな。……まだお袋さんは生きてるんだろ。聞きゃあいいじゃねぇか」 「……今はまだ、会えそうにない」 考えただけで体が強張り、喉がひりつくほどに渇く。整理ができていない、と心の奥底が叫んでいるようだ。 腰を折ったローザは月輝花を一輪、手折った。 話に聞いていた通り、爛れるように赤く色づいていき、花弁や葉の端から崩れていく。その様子を、彼女はじっと見つめる。 「なあ、ヘイリー。あの問いの、私の答えを……、聞いてくれるか?」 視線を花に注いだままでも、ジャックが頷いたのが分かった。 一度目を伏せ、ローザは深く息を吸い、吐き出す。 「私の姿は、この王子様を最初に願ったのは、母だったかもしれない」 母を支えるため、ローザは幼いころに男手になると決めて、男装を始めた。 物分かりがよく大人びた子どもだったローザは、母の願いを汲みとってその通りにあろうとしていた。 愛されるために。 「だが今は、私が望んだ。守られるだけのお姫様じゃない。たとえ……、愛されなくとも、私は戦い、母を……、みんなを、守る」 手の中で崩れる月輝花ではなく。 厳めしい表情で聞いているジャックを見て、ローザは宣言する。 「それが、私の戦う理由だ」 「……そうか」 その答えは、最初にジャックが聞いたものと似ている。だが、本質も覚悟もまるで違っていた。 「分かった」 彼からの返答は、それだけだ。肯定も否定もせず、ローザの答えを受けとめる。 肩が少し軽くなったような気がして、ローザは小さく頷き、ジャックに背を向けた。改めて見る月輝花の花畑は、この世のものとは思えないほど幻想的だ。 「……綺麗だな、ここは」 佇むローザの背をじっと見つめ、ジャックが言う。ローザがかすかに首を縦に振った。 ● 幻想的な月輝花の花畑に高揚する『ナツキ・ヤクト』とは対照的に、『ルーノ・クロード』は静かだった。 「ルーノ! 全部真っ白だぞ!」 「そうだね」 「こんな綺麗な場所があるんだな。みんなに知ってもらいたいな」 ってことで、とナツキは鞄から簡易カメラをとり出す。 「じゃん。これで撮って、報告のときに提出するぜ。言葉じゃうまく説明できねぇからさ」 「白くて綺麗な花畑でした、って報告するよりは、伝わりやすいかもね」 「だろ? よーし、どんどん撮るぞ!」 月光の射しこみ具合も考慮し、最も美しく月輝花の花畑を撮影できる場所を探すナツキに、ルーノは緩慢な足どりでついていく。 「なぁ、ルーノ。この花って摘んでもいいのか?」 「いいけど、摘めないよ」 「どういうことだ?」 何枚か撮影したナツキの問いに、ルーノは淡い笑みを浮かべて応じる。瞬いたナツキは屈んで、そっと一輪、手折ってみた。 直後、真っ白だった花は徐々に色づいていき、花弁や葉の端が崩れる。 「おわっ、なんだこりゃ!?」 「だから無理だと言っただろう? 月輝花は摘むと赤くなって、十分ほどで完全に崩れるんだよ」 「そっか……。悪いことしたなぁ」 耳と尾を下げて落ちこんだナツキは、すぐに気をとりなおして立ち上がった。 「摘むとこうなるってことも報告しないとな」 植物図鑑によっては記載がある、とルーノは言わず、ただ眩いものを見るように目をすがめる。 「シャドウ・ガルデンか」 少し離れた位置で簡易カメラを構えるナツキを眺めつつ、ルーノは小さく息をついた。 常世の国の出身であるルーノは、一方でこの地に再び足を踏み入れることを厭っていた。ここにくると、祓魔人であることを危険視され、家族にまで拒絶された過去を思い出してしまうのだ。 「ルーノ?」 花畑を走り回っていたナツキは、ルーノがぽつりと佇んで花を眺めている姿を見て、駆け寄る。 「なんだい?」 「……どうした?」 平然と笑って見せるルーノに、ナツキの胸がざわついた。 「なんでもないさ、少しむかしを思い出してね。聞いても楽しい話ではないし、気にしないで」 「……分かった。でも、ひとりで抱えこむなよ? なんかあったら、ちゃんと話せよな!」 自分のことを話そうとしないルーノが、放っておくとひとりで解決しようとすることを、ナツキはもうよく知っている。 本音を言えば少し心配で、あまり秘密にせず頼ってほしいのだが、今はまだそのときではないらしい。 「……ありがとう、その言葉だけで十分だ」 話すべきか、という迷いを笑みの下に隠し、ルーノは穏やかに応じた。むかしのように拒絶されることが怖い。 一方で、ナツキの一言で少し気が楽になっていた。彼が望むなら、またこの国を訪れてもいいと思える程度に。 怯えと感謝が、胸の内で混ざる。 ● シャドウ・ガルデンに初めて訪れた『杜郷・唯月(もりさと・いづき)』と『泉世・瞬(みなせ・まどか)』は、少し緊張していた。 「あの出来事がなければ、入れなかった国……」 永遠に朝を迎えない空に視線を向け、唯月が呟く。 「ずっと暗いし、明かりがあっても気をつけて歩かなきゃね~」 特に、今回の目的地である月輝花の花畑に続く道は、町から少し外れているためか街灯がまばらだった。 「あ、瞬さん、あれ……!」 「すごいね~! 真っ白~!」 やがて二人の眼前に現れたのは、純白の花の群れだった。 月の光を浴びた花々は、夜闇の中でぼんやりと光っているようにさえ見える。かすかな風が、花の甘い香りを運んできた。 「綺麗……」 恐々と月輝花の花畑に入った唯月は、屈んで花弁に手を伸ばし、途中で引っこめる。 (手折ると崩れるんですよね……。崩れていく様子は気になりますが……。いえ、こんなに綺麗に咲いているのに、できません) 摘みとらない、と決めた唯月は、持参したペンと紙をとり出した。 (こんなに綺麗な花が、この世界にはまだあるんですね……) 胸が跳ねるようなこの鮮やかな感動を、描き出したい。 「いづ、やっぱり上手だね~!」 「ありがとうございます……。今は白黒の、ラフっぽいものですけど。記憶があるうちに、アトリエで描きたいです……っ!」 はにかんで応じる間も、唯月の手はとまらない。瞬は描き上がっていく紙面の花に、驚嘆の声を上げた。 「いづなら素敵な絵になるね~!」 彼がそう言うと、本当にいつもより上手に描ける気がしてくるのだから、不思議だ。 (そういえば、月輝花の花言葉……) ある程度、描いたところで速度を落とし、唯月はすぐ近くで微笑んでいる瞬をちらりと見る。 (道標、灯火、私を導く人……。瞬さんはどちらかというと太陽のような方ですけど) なんとなく彼に似ている。 暗い道で迷ってしまっても、この花が咲いていれば進んで行けそうで。 瞬が呼んでくれたり、近くにいてくれたりしても、前を向いて歩いて行ける。 「そういえばここ、観光地にしたいんだっけ~」 「素敵なところなので、きっと人気になりますね……!」 「そうだね~!」 「私は特に、恋人さんたちにきてほしいです。若い方々でなくても、ご年配の夫婦でも……!」 月の夜、白い花畑で二人きりになれば、きっとロマンチックな気持ちになる。 「恋人の俺たちがきてそう思えたんだから、間違いないね~」 誇らしそうな瞬の言葉に、唯月は顔を赤くして慌てた。 「も、もう! ……あ、ああとはきっかけですっ! どんな宣伝文句がいいでしょうか……」 「言い伝えとかあったらいいねぇ……。ここで口づけた二人は結ばれる、とか?」 「ひえっ!?」 さり気なくいっそう距離をつめた瞬に、唯月は目を回しそうになった。 ● 以前シャドウ・ガルデンに赴いたとき、その指令と目的は戦いだった。 「この国に、こんな風に訪れることになるなんて。思ってもいなかったです」 月輝花の花畑に向かう『シャルローザ・マリアージュ』は、柔らかな声で斜め後ろを歩く『ロメオ・オクタード』に話しかける。 「そうだな。足元、気をつけろよ、お嬢ちゃん。このあたりは町より暗いからな」 「ロメオさんも気をつけてくださいね」 何度も繰り返したような会話。しかしその中に潜むぎこちなさに、シャルローザはこみあげる不安を押し殺す。 近ごろ、ロメオがシャルローザのことを避けているのは明らかだった。さり気なさを装っていたようだが、彼女はしっかり見抜いている。 加えて、彼がぼんやりしていることも増えた。物思いにふけりつつ、ときおり自らの傷口に爪を立てたような顔をする。 見られていることに気づくと曖昧に笑んで、なにかと理由をつけてどこかに行ってしまうのだ。 しびれを切らしたシャルローザは、ついに半ばむりやり、ロメオをこの指令に引っ張ってきたのだった。 「見えましたよ、ロメオさん。……綺麗ですね」 「全体的に白いんだな。それに、甘くていい匂いもする」 幻想的な光景に、二人はしばらく目を奪われる。やがてシャルローザが歩き始めた。ロメオは重い足どりで後を追う。 決定的な原因は、以前の指令で魔女の魔法を受けたことにあった。 さらけ出されたロメオの過去は、彼にとって永遠に忘れていたいほど最悪のものだったのだ。よりによって、それを彼女に見られた。 しかし、その後シャルローザに抱き締められたことにより、ロメオの心は失墜しきる前に宙づりになった。 すべてを受けとめるような、優しい抱擁が救いとなってくれたのだ。 (今もきっと、お嬢ちゃんにいろいろ、心配かけてるんだろうな) 気遣われていることくらい理解している。それでも、ロメオはまだ罪過の泥の中から抜け出せない。 「このお花は、手折ると崩れてしまうそうですよ」 「へぇ。摘んだところで俺みたいな男には似合わないだろうけどな」 「前にも言いましたが、花は誰が愛でてもいいんですよ、ロメオさん」 屈んだシャルローザの指が、花弁の輪郭をなぞる。 彼女に手が届きそうで、届かない位置に立ったロメオは、前にもらった一輪挿しにも飾れないわけだ、とぼんやり考えていた。 「だから、ここで精一杯、愛でて帰りましょう」 彼の過去を知ったことを、シャルローザは悔いていない。知るべきではなかったかもしれないが、知れてよかったと思っている。 ロメオが抱えた、その闇を。 「……そうだな」 屈んだロメオは、口の端をわずかに上げた。 真白の花。手折ることを許さない花。 「誰かさんによく似てるよ」 こんなにも近くにいて、それなのにひどく遠い、彼女に。
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*** 活躍者 *** |
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