~ プロローグ ~ |
東方島国ニホン。その中のアキ藩という領内のとある町には、こんな変わった催しごとがあります。 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
鞠りんです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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【目的】 花魁衣装に着替えてウィルに見て貰いたい 【行動】 ウィルお願いして一緒に来て貰う ◇花魁衣装◇ ミントグリーンと白の着物 若草色の打掛 紺色の帯 桜の簪 着替えたらウィルと懐石料理を食べる 【心情】 ウィル!オイラン衣装を着てみたいですわ! 一緒に行きましょう♪ 何色がいいかしら? …緑色のお洋服、大好きですから緑を基調にした着物が良いですわ …あと、この前桜を見たから桜も捨てがたい… ウィル、似合いますか? …なんだか含みがある気がします 似合わないでしょうか ウィル、私は綺麗じゃありませんわ だから着飾るんですもの 貴方が、本当に思う事を言ってください ありがとうございます、ウィル 少しだけ、貴方の本音が聞けた気がします |
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町で教えてもらった遊郭でオイラン体験 少し思いつめたように見えるシリウスの気分転換になればと 行ってみない?彼の目をのぞき手を握って 桜色の着物に もう少し濃い薄紅色の羽織り 髪は軽く頭の周りに巻いて 着せてもらった衣装に少し頬を染め彼の元へ どうかな?…おかしくないかしら? 小さな彼の声に ぱっと笑顔 出しててもらった綺麗な千代紙で 鶴を折る 最初は少し不恰好 段々整った形に 不思議そうなシリウスの声にちょっと笑って 千羽折るとね 願いが叶うそうなの シリウスの苦しい思いが 少しでも消えますように …あなたが笑ってくれますように 揺れる翡翠の眼差しを見る どうしたら シリウスは笑ってくれる? 返ってきた応えに そっと彼の頭を抱きしめて |
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ユウカク…オイラン…ニホンとは変な文化をお持ちですね。(メモを書きながら) そう思いませんか、…ええと… 行動: パートナーにニホン行ってみたいと楽しもうと言われては仕方ありません。 文化の1つをを知るいい機会ということで相方が着物を着てください。 え?ダメ?…仕方ありません。では僕が着ます。 着物の色合いは…僕が着るのでこういうのは相方が決めてくださいよ。 面倒になったわけではありませんから、決して。 パートナーと懐石料理を楽しみ、客間から外をのんびり眺めていましょうかね。 …あ、あれ食べてみたいです。ニクジャガ…というものを。 |
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~ リザルトノベル ~ |
●もう一度夜桜を まだ春の気配が残るニホン。その中で『アリス・スプラウト』は、ユウカクの話を聞きつけ興味津々の様子。 「ウィル! オイラン衣装を着てみたいですわ! 一緒に行きましょう」 「オイラン……ですか? それがアリスの望みであれば一緒に行きましょう」 急に言われた『ウィリアム・ジャバウォック」は一瞬面食らうが、いつもの笑顔を見せて、優雅にアリスに向かって一礼して見せた。 (また、ですわ。私が喜んでくれること、笑ってくれること、そうウィルは言いますけど、ウィルの……ウィルの本音は?) クリスマスにウィリアムに言われた言葉。 少し前の夜桜の中で差し出された手。 でも肝心なことは、なにも言わない。それが少しだけ寂しいアリスの思い。 そうと決まれば手回しが早いのがウィリアム。ちょっと調べただけで、アリスをユウカクパークまで連れて着てしまった。 「わあー! キラキラで綺麗ですわ。それに人も沢山居て、私凄く嬉しいですわ」 浄化師になる前、病弱で外にも出れず、床に伏せってばかりだったアリス。 アリスの世界は全て絵本や童話の中だけ。 「少し見て回っていいかしら?」 「勿論、私が貴方のエスコート役です」 金細工や銀細工を施した、複雑に組まれた建物。 絵本で少しだけ見たニホンの風景、それを実感しているのが夢のよう。 このきらびやかな景色に夢中で、周りに目がいかず、 「……危ないですよ。私のチシャ猫が道を作りますから、その後を歩いてください」 ウィリアムの人形チシャ猫がアリスの前に躍り出て、アリスの前を歩く。 チシャ猫を避けるように出来た場所を歩くアリスは、少しだけ恥ずかしげ。だって凄く目立つから。 「ありがとうウィル」 「貴方のためでしたらなんなりと」 (あ、また) 違う、でも嬉しい、だけど本音じゃない。 アリスの中にある、ウィリアムに対しての葛藤。 あの夜桜で、ちょっとだけウィリアムに近づけたと思ったのに、その後は今までと変わらない、開いた距離も変わらない。 パークの中を一通り回ってから、目的のオイランになれる場所に向かうアリスとウィリアム。 「いらっしゃいませー! 二名様ごあんなーい」 スタッフの軽快な声と共に中に案内されれば、そこはアリスにとって玩具箱の世界。 色とりどりの衣装から、可愛らしい小物まで、目移りするほどの衣装の数々に、アリスの目が輝く。 「この中から、お好きな物をお選びください」 「何色がいいかしら?」 「何色でも似合いますよ」 「ウィルは、どれが似合うと思いますか?」 「どんな色でも。貴方はなにを着ても似合うと思います」 (私は……ウィルに決めて欲しいと思いましたのに) 意思があるようで意思が無いウィリアムが少し残念と思いながら、アリスはクルッと見回して一枚の打掛けを手に取ってみた。 「……緑色の洋服。大好きですから、緑を基調とした着物がいいですわ」 それに、ゆっくりと笑みを浮かべながら頷くウィリアム。 「そうですね。アリスは緑が好きですから、その若葉色の打掛けが一番似合うと思いますね」 「でしょう! 大好きな緑色。ウィルがそう言ってくれるから、私決められそうですわ」 「さあ選んでしまいましょう」 「はい、ウィル」 ウィリアムが同意してくれたからこそ、アリスは自信を持って選ぶことが出来る。 初めに手に取った若葉色の打掛け、ミントグリーンと白色の着物、紺色の帯、そして……思いのある桜の簪。 全てを選んで、着替えるためにアリスは別部屋に通された。 「お連れ様もお待ちしているようですし、手早く着替えてしまいましょうお客様」 「そうですわね」 来ていた教団服を脱いで袖を通したのは、ミントグリーンと白色の着物。 袖口に近ければ近いほど白色に、それでいてグリーンの若葉模様がアリスを更に引き立たせる。 「あ、あの、どうして肩口を広く開けるのでしょう?」 「昔はこんな着方だったんです。帯と打掛けを身につければ、肌の露出はそこまで目立ちませんので、ご安心ください」 (でも、でも! 胸が邪魔するんです) 次に帯を締めて貰っても、アリスの大きな膨らみは強調されるばかり。これをウィリアムに見られると思うと、急に恥ずかしさが込み上げてしまう。 「この打掛けを羽織れば……どうですか?」 「えっ、肩が少し出ているだけ?」 「オイラン衣装とは、そんな作りですので」 思ったより悩みの胸は強調されておらず一安心。 (この前夜桜を見たから、桜も捨てがたいですわ) ウィリアムと一緒に初めて見た桜。勇気を出してウィリアムの側に寄り添った記憶。 「……ウィル」 ――また夜桜を。それがアリスの願い、アリスの思い、アリスの少しだけの勇気。 「ウィル、似合いますか?」 客間に座っていたウィリアムの元に現れたのは、光沢のある若葉色の打掛けを引きずるように歩くアリス。 普段とは違い、上げた髪と少しだけ肌を見せた大人びた姿に、ウィリアムの心のどこかが高鳴った。……そんな気さえ覚えてしまう。 「凄く似合いますよアリス。貴方はどんな姿でもお似合いになる」 笑顔なのだけど、呆然と言うウィリアムにアリスは少し不服? 「……なんだか含みがあるような気がします」 (なんでしょう、この違和感は? いつものウィルとは少し違う気がしますわ) 「まさか。私は本当のことを言っていますよ」 (嘘……ではないと思います。ですがなんでしょう、言葉だけ、そんな気がしてしまうの) ウィリアムは嘘を言っているのではなく、ただ言葉に出来ないだけ。 それをアリスは違和感ととらえてしまった。 「……似合わないでしょうか」 ウィリアムの前に座り、悲しそうに呟くアリスに慌てたのはウィリアムのほう。 「とても……とても綺麗ですよアリス。貴方以上に綺麗なものなど、そうそう見つかりません」 「ウィル、私は綺麗なんかじゃありません。だから着飾るんですもの」 (違う、違うんです。ウィルに綺麗な私を見て欲しくて、私は着飾るんですわ) 「アリス、私は……」 「貴方が本当に思うことを言ってください。 「私が本当に思うこと」 「貴方が私をどう思っているのかを、ウィル」 勢いで言ってしまったアリスと、なんと応えていいのか思案を繰り返すウィリアム。 (どう言葉にすれば……。それよりも言ってもいいのでしょうか? アリスの迷惑にならないでしょうか?) ウィリアムのアリスに対する気づかいの葛藤。 (ですが本当のこと、私がアリスに思う本当のこと) 分からないと思ったが、ウィリアムは薄々ながら気づいている。 ――アリスに持ってしまった心がなにかを。 だからウィリアムは思ったことを口にする。 「私は……アリス貴方を大事にさせて欲しい」 それがウィリアムから出た言葉。嘘偽りない彼の本音。 「ありがとうございますウィル。少しだけ貴方の本音を聞けた気がします」 「私もですアリス」 言い合った少しだけの本音。それはアリスにとっても、ウィリアムにとっても心地よいもの。 「ここから桜が見えます。私はまた貴方と一緒見たいのです」 「私もですわウィル」 揺れる打掛けは、アリスの心を写しているよう。 まだ新芽だが、これから大輪の花を咲かせるように。 「灯籠の灯りで桜が綺麗ですわ」 「えぇ。ニホンはいい場所ですね」 紅く光る灯籠は、アリスの姿を引き立たせ、ウィリアムは思い切りアリスの細い肩に手を回し、そっと引き寄せてみた。 「ウィル」 「ずっと、見ていましょう」 寄り添い合う二人だけの時間。 今だけはなにも考えずに、舞い飛ぶ桜を眺めていた。 ●笑ってほしい 日々襲う鈍く感じる頭痛。理由は思い出された記憶。 失った家族、村、全て『シリウス・セイアッド』が不幸にしてしまった記憶を強烈に引き出され、沈められない嫌な思いに頭痛は増すばかり。 「……はぁ」 心配そうな『リチェルカーレ・リモージュ』の瞳に、気を使われていると知れて、シリウスは彼女に分からないように、小さな吐息を吐いた。 「ねえシリウス、せっかくニホンに来ているんですもの、気分転換にでも行ってみない?」 思い詰めるように見えるシリウスに、リチェルカーレはその目を覗き、そっと手を握って問いかけて見た。 (表情を取り繕うのは、慣れているのに) 彼女の柔らかな声と眼差しが、少しだけ頭痛を軽くしてくれるようで、シリウスは微かに表情を動かし……細めた瞳で小さく頷いていた。 ――その握られた手に、安堵しながら。 リチェルカーレたちが来たのは、話には聞いていたアキ藩のユウカクパーク。 未だ桜が咲くユウカク内で、リチェルカーレはオイラン衣装を着てみたいという。 「……だめかしら?」 「いいと……思う」 「本当! 私、着替えて来るから、シリウスは待っていてね」 着替えは別部屋と聞いて、リチェルカーレはスタッフに案内されるがままについて行く。 ちょっとだけ、一人で残すシリウスのことを不安に思いながら。 「衣装はこちらから自由にお選びください、お客様」 「わぁ素敵! ニホンの着物って、こんなにも綺麗なんですね」 部屋いっぱいにある、オイラン衣装の数々。 山吹、藤、橙色、水色、様々な色があるけれど、リチェルカーレの目に止まったのは、桜色の着物に、もう少しだけ色の濃い薄紅色の打掛け。 「これでいいでしょうか?」 「淡い桜色ですね。では帯は山吹にしましょう。桃と黄は相性がいいんですよ」 「是非ともお願いします」 スタッフたちが丁寧にリチェルカーレを着付けている最中でも、リチェルカーレの頭の中にあるのは、浮かない顔をしたシリウスのこと。 考えればシリウスがまた思い悩んでいるのが分かる。リチェルカーレは漸く分かるようになった。 (私は……シリウスに笑っていて欲しいの) 辛いことに捕らわれないで、今を生きるシリウスで居て欲しい。 力になりたい、支えになりたい、笑っていて欲しい。 それはリチェルカーレにとって、シリウスが『特別』だと思う人だから。 「お暇でしょうか?」 「……い、いえ、違うんです」 しどろもどろに答えてしまい、恥ずかしさに俯くが、スタッフは『本当に暇ですし、いつものことですから』と、にこやかに笑っている。 「お客様、暇潰しになるかは分かりませんが、こんなのはどうですか?」 気を使ってくれたのか、着付けに髪だ化粧だと動けないリチェルカーレの前に差し出されたのは、着物にも使われているような模様をあしらった綺麗な四角い紙。 「綺麗ですね」 「千代紙と言うんですよ。これを折って形を作るんです。見ていてください」 器用に、でも繊細に形を変えていく千代紙。 リチェルカーレは心惹かれたように、夢中でその千代紙を見詰めてしまう。 「鳥ですね」 「はい、鶴の形で、折鶴と言います。ニホンでは千羽鶴という、一つ一つ心を込めて折り、この折鶴を千個作って願いをかけます」 「……千個折れば」 (私の願いも叶えてくれるかしら?) 「私も折鶴を折ってみたいです。沢山、沢山、千個出来るまで」 「では着付けの間に教えますので、後でお連れ様と折ってみては如何でしょう?」 「はい、そうさせてください」 残りの時間は、スタッフに折鶴の作り方を教えて貰い、覚えた頃には着付けも終わっていた。 一方シリウスは、リチェルカーレが別室に行ってから、また続く頭痛に僅かに顔をしかめ、窓際に座ったまま動かない。 頭痛は堪えられる。堪えられないのはシリウスの心のほう。 (リチェだけは、失いたくない) 大切な存在だと理解しているだけに、心は悲鳴を上げる。 同じ過ちを繰り返したくないと、リチェルカーレを失いたくないと。 「……俺は」 心の悲鳴は、頭痛を更に促す。 もしまた暴走しかけてしまったら、確実にリチェルカーレを失ってしまうと分かっているだけに、シリウスは……怖い、失うのが怖い。 では近づかなければいいと思う心と、あの温もりに安堵していたい心。 今のシリウスは危うい均衡、そうあの時のように。 「……シリウス?」 「……!」 リチェルカーレに声をかけられ、彼女が戻ったことに漸く気づき、視線を上げたシリウスだったが。 リチェルカーレの姿を見た途端、今まで思い悩んでいたのが嘘のように、目を見張ってしまっていた。 リチェルカーレの大好きな桜色を基調とした着物、打掛け、手前で結ばれている山吹色の帯が、更に桜色を際立たせ、いつもは下ろしている水色の髪を上に巻き、ベッコウと桜をあしらった簪の数々。 それはシリウスが予想していた以上の美しさ。その姿で頬を染めた彼女がとても綺麗で、シリウスのほうが目を背けられない。 「どうかな? ……おかしくないかしら?」 おかしなところなんて一つもない。そうシリウスは言おうとしたのに、出た言葉は、 「……いいんじゃないか?」 ――ろくな感想すら言えず。 でもリチェルカーレは、彼のその小さな声をしっかりと聞き取っていた。 ずっとリチェルカーレを見てくれるシリウスに、思わず笑顔がこぼれ。 「よかった」 リチェルカーレは、ふわりと微笑む。 嬉しそうに笑うリチェルカーレ。それに惹かれるようにシリウスも少し頬を染めてしまう。衣装も彼女も本当に美しいから。 「あのねシリウス、着付けの最中に折鶴というのを教えて貰ったの」 そう言ってシリウスの前に座れば、スタッフが心得たように、リチェルカーレの前に大量の千代紙を置いた。 「これをこうしてね」 置かれた綺麗な紙を一枚持ち、教えて貰った通りに折鶴を折ってみるけれど、初めは少し不恰好な鶴が一つ。 でもリチェルカーレは諦めない。一枚また一枚と楽しそうに微笑みを称えて千代紙を折っていけば、段々とスタッフが折ったような整った形の折鶴が出来上がるようになった。 だけどシリウスは不思議そう。 「……どれだけ折るつもりだ?」 (こんなに沢山必要なのか?) 少し首を傾げるシリウスに、リチェルカーレは思わず笑ってしまう。そして。 「千羽折るとね、願いが叶うそうなの。だからね、一つ一つ願いを込めて……。シリウスの苦しい思いが、少しでも消えますように。あなたが笑ってくれますように」 反って来たリチェルカーレの言葉に、シリウスは絶句し言葉すらわすれたように、リチェルカーレを見詰めてしまう。 ――そんなことを思われていたのかと。 リチェルカーレもまた、揺れるシリウスの翡翠の瞳を見詰め。 「どうしたら、シリウスは笑ってくれる?」 そう質問してみたけれど、シリウスからの返事は中々返って来ない。 後の言葉が続かなく、どちらともなく黙ったまま見詰め合う。 長いような短いような沈黙。それを打ち破ったのは……シリウスの一言。 「……少しの間だけでいい、どうか、側に」 「シリウス」 驚くようなシリウスの言葉だった。 でもリチェルカーレは、返って来た応えに、自分から動き、そっと彼の頭を抱き締めてみた。 「リチェ」 シリウスかなら見えるのは、オイラン衣装のせいで見えるリチェルカーレの白い肩。 その場所に額をあて、安らぐ感覚と共に目を閉じる。 互いの温もりみ感じる中、シリウスには分からないが、リチェルカーレはシリウスを抱き締めたまま穏やかに笑っていた。 ●逃がさない 「ユウカク……オイラン……ニホンとは実に変な文化をお持ちですね」 そう感心してメモを書くのは『ツィギィ・クラーク』。 メモを書くのはツィギィの癖、なぜなら彼は。 「そう思いませんか。えぇと」 「アーティだろう?」 「アーティでしたね」 ツィギィにとって『アーティ・ランドルフ』は、一番覚えている唯一の家族であり、大切なパートナーでもある。 「ニホンに行きたいのか?俺もニホンに行ってみたい。すぐに行こう」 「すぐ」 「あぁ、教団はニホンにテコ入れしているんだ、指令は幾らでもある。そのついでにユウカクを回って楽しもう。なぁ、いいだろ?」 ツィギィに甘えるのがアーティの好み。 今もソファーに座るツィギィの隣に座り、少しだけ耳にしたニホンのことをアーティなりに解釈。 それはツィギィの記憶を失う呪いのため。いや違う、漸く手に入れたツィギィを放したくないアーティのため。 記憶があるうちに行動し、ツィギィがアーティを思い出させること。 その思いだけでアーティは必死になる。最近行けるようになったニホンに、簡単に行くと言うほどには。 「ニホンに行ってみたいと、楽しもうと言われれば仕方ありません、ニホンに行きましょう」 「そうか! 決まりだな」 こんな経緯で、ツィギィとアーティは指令を受託しニホンに行くことになった。 「ここがニホン。メモを見れば変な文化と書いてありました」 転移方舟でニホンに来たツィギィの第一声。この時点でもう自分がなぜニホンに来たのかを忘れているが、そのたびにアーティはにこやかにツィギィに話す。 何度でも、例え一生でも、ツィギィが思い出してくれるまで、いつまでも。 「さぁニホンだ、思いっきり楽しもう!見るもの、たべるもの、きっと沢山あるはずだ」 「そうだね、楽しいもの。えぇと」 「アーティだろ」 いつものやり取りをしながらも、アーティはツィギィを誘導する。 ツィギィが気になっていたユウカクへと。 「いらっしゃいませー、ユウカクパークへようこそ」 一歩中に入れば、そこは同じニホンでも別世界。 金銀装飾をふんだんに使った豪華な建物。 アークソサエティでは、季節が過ぎたはずの桜が咲き乱れ大通りを彩っている。 「凄いな、これがユウカクか、俺に合っていると思わないか?」 「桜、ひらひら舞い踊る。儚くて……綺麗な景色だね」 「俺を見ろよ。桜より身近にいるのは誰だ?」 ツィギィは舞う桜から、隣のパートナーへと目を移す。 「……アーティ」 唯一の家族。ツィギィがかろうじて、僅かでも思い出せるパートナー。 アーティが居てくれるから、ツィギィはツィギィとして居られる。それくらいは分かる。 自分がツィギィで、隣に居てくれるのがアーティだと教えてくれるから。……今までも、これからも。 「そう、オイラン体験だったな? おまけに旨い料理も食えそうだし、やるぞオイラン体験」 「え? あぁ、文化を一つ知るいい機会ですね」 「だろう?」 「あなたがオイランになるのですか?」 その言葉に、アーティが『おや?』という顔を示す。 「俺? ダメダメ、俺を着飾っても面白味がないだろう」 「ダメ? ……仕方ありません、では僕が着ます」 予想外にツィギィのほうが動く気になった。それに歓喜するアーティ。 何事も『面倒くさい』と、アーティに任せるツィギィにしては、至極珍しい反応。……ここがニホンだからなのだろうか? 「オイラン体験ですね、二名様ごあんなーい」 スタッフが古式ゆかしく、ツィギィとアーティをオイラン体験が出来る客間へと案内する。 そこにあるのは、色とりどりの着物の数々。 金糸、銀糸、象牙、ベッコウ、ニホンの贅沢を極めた、本当のユウカクだった頃の名残。 「どれにする?」 「着物の色合いですか? そうですね」 きらびやかな着物を見て歩くツィギィだが、色も数も多すぎて中々決められない。 「はぁ、僕が着るので、こういうのは相方が決めてくださいよ」 始まったかと思うアーティだが、これだっていつものこと。ツィギィがその気……記憶があるうちに、さっさと決めてしまいたい。 「俺が決めるのか、そうだな」 まず目に止まったのは、藤色の打掛け。銀髪のツィギィに、淡い藤色はよく似合うだろう。 次に藤色に合う着物、白色だが金の刺繍が施された鮮やかさ。帯は藤色より濃く、ワインレッドの帯。 「これがいいだろう」 「選び上手いですね」 「お客様、髪はどうされましょうか? 少々上げて簪を身につけることも出来ます」 飾るのもいいが、ツィギィの銀髪はそのままのほうが綺麗に思えた。 この衣装に、銀髪と緑の瞳は絶対に栄える、上げるなんて勿体ない。 そのままを選び、ツィギィを着替えに送り出すアーティだが、一抹の不安もある。それはツィギィが途中で忘れ、着替えて貰えない可能性。 「……大丈夫だ、ニホンに来てからは少し安定してる」 遠く離れたニホンだからなのか? それはアーティにも分からない。 アーティが通されたのは、『お座敷』と呼ばれる客間。 何もかもが初めてで、アーティでさえその不思議さに興味津々。 「変わってる、旨いのだろうか?」 まだツィギィは戻って来ていないが、気になるものは気になる。 つまみ食いではないけれど、出された魚料理らしきものを一口、口に入れて見れば! 「薄味だが、出汁が効いていて、これは旨いだろ!」 懐石料理に驚きを隠せないアーティ。そもそも教団に居るせいか、アーティはかなりのグルメなため、気に入らなければ全く手をつけない。 でもこれは、グルメなアーティでも納得出来る味。そしてこう形式的なのがまたいい。 フライング気味に懐石料理を美味しそうに食べていれば、ツィギィの着付けが済んだらしく、スタッフに手を取られ、アーティが居る客間に入って来た。 「…………」 言葉が出ない。 白の壮麗な着物と、藤色の打掛け、そして赤紫のコントラスト。 しかも中の着物は、ゆったりと着付けられていて、ツィギィの白い胸板が少しばかり見えるのがまたアーティの心をくすぐるよう。 「似合って……いるんでしょうかね?」 「これほどなく。もっと近くで見たい、いいだろ?」 「オイラン衣装は重いです、歩きにくい」 愚痴を溢しながらも、アーティの隣まで歩き座るツィギィ。 近くで見れば見るほど、その魅力に惹き付けられる。 堪らずツィギィを引き寄せ、膝の上に乗せてしまっていた。 「なにをするのです」 「目の保養だ」 「この格好で?」 「あぁ、一番近くで見れるだろう」 勢いで乗せたはいいが、アーティだって多少は困っている。 本当に触れてよかったのか? アーティの心と、ツィギィの心は……違う、違うはず。 (今は考えたくない) この甘い雰囲気に浸かっていたい、例えそれをツィギィが忘れてしまっても。 ツィギィが覚えていない分、アーティが覚えていればいい。 いつかツィギィの呪いが解けるその日まで。 「あ、あれ食べて見たいです。ニクジャガというものを」 「ニクジャガ?」 「メモに書いてありました『ニクジャガが食べたい』と。なぜは……覚えていません」 聞けばニクジャガは家庭料理なれど、ここでも出してくれるという話。 揃ってニクジャガを見て、アーティが腹部をがっちりホールドされているツィギィは、アーティが箸で掴んだニクジャガをパクっと一口食べてみた。 「甘くてしょっぱい。ですが素朴な味です」 どうしてニクジャガなのだろう? でも、少しだけ懐かしい味がしたとは思う。 ――それがなぜかは分からない。
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*** 活躍者 *** |
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