~ プロローグ ~ |
1719年12月――教皇国家アークソサエティは、今年もクリスマスムードに包まれています。
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~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
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~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜は終わらない』の対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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依頼、ですか?
真剣なイザークさんの表情に圧されるように外出 家族が亡くなる時も会ってはいけないはず… もし、それでイザークさんに責が… 一目で分かった……もう長くはない。 私を一人残していくのを心配してるに違いない 懸命に笑って細いその手を取る えっ…!? …あぁこれは父を安心させようというイザークさんの作り話だ。だったら私もそれにのろう。 お父さんそうなの、だから安心して。 震えてほどけそうになる手をイザークさんが包んでくれる 笑って…くれた?安心…してくれた? 今夜はありがとうございました。 私はまだもう少しここに居ますから、イザークさんは少し休んで……? 堪えきれず涙がこぼれた ありがとうございます。一人だったら、きっと耐えられなかったです… |
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~ リザルトノベル ~ |
○未来をアナタと共に
いつもと変わらぬ今日が、明日も訪れる。 人は意識せず、どこかで思っている。 それは日々を生き続けるには必要なことだ。 そうでなければ、恐ろしくて生きてはいられない。 けれど、それが崩される時は、必ず訪れる。 彼女のように―― 「あおい、急いで外出の準備を」 「イザークさん……?」 いつになく真剣な表情を見せる『イザーク・デューラー』に、『鈴理・あおい』は予感めいた不安を感じながら聞き返す。 「突然、どうしたんですか? 一体何が?」 あおいの問い掛けに、イザークは周囲に聞かれないか注意しながら応えた。 「指令だ。急を要する」 少しでも時間が惜しいというように、言葉短く告げるイザーク。 それが、あおいの不安を確信めいた物に変えていく。 「指令、ですか?」 不安に飲み込まれないよう、自分を落ち着けるように、あおいはイザークの言葉を繰り返す。 そんな彼女の様子に、イザークは少し急ぎ過ぎたと思ったのか、一息つくような間を空け続けて言った。 「詳しいことは道中で話す。ついて来て欲しい」 変わらず真剣な表情を見せながら、イザークは言葉を続ける。 「……分かりました」 あおいは同意する。 変わらぬ日々が、ひとつの終りを迎えるのだと、無意識に自覚しながら。 2人は歩き続ける。 足早に、少しでも早く目的地に着くために。 進み続け、その途中で、あおいは気付いた。 「イザークさん……この道は――」 言葉の途中で、イザークは応えた。 周囲に人がおらず、誰にも聞かれないことを確認しながら。 「……病院から連絡があった。御父上の容体が悪化したらしい」 イザークの言葉に、あおいは血の気が引く。 「なん、で……」 それは父の容体が悪化したことを信じたくないから出てしまった言葉。 だがそれを聞いたイザークは、違う意味に捉え返した。 「あおいは規律を守って連絡をとろうとはしないだろうから、いざという時は連絡をお願いしていた」 「それは……」 あおいは考えがまとまらない。 ぐるぐると父への安否が気に掛かり、なにを返すべきかが分からない。 それでも、呆然としたままではいられない。 それは浄化師として過ごしてきた中で、培われてきた強さでもあるのだろう。 あおいは不安を飲み込み自分を落ち着かせると、現状を把握していく。 その中で、あおいは気付いた。 「浄化師は、家族が亡くなる時も会ってはいけないはず……もし、それでイザークさんに責が……」 「大丈夫だ」 力強く、そして優しい声でイザークは返す。 「処分が下るなら、その時はその時だと思って、任務の形でねじこんで外出許可を取るつもりだったが、室長が便宜を図ってくれた」 「ヨセフ室長が?」 聞き返すあおいにイザークは応える。 「ああ。巧く処理してくれるらしい。気にせず急いでくれと言ってくれた」 その時のことをイザークは話す。 指令をねじ込もうと教団員の元に向かった時、ちょうど通りかかったヨセフは言ったのだ。 この件は、私の方で処理しよう。 気にはしないでくれ。 諸君たちは、今日を守るために、今を戦ってくれている。 ならば俺達がするべきは、諸君たちの明日を繋ぐ助けをすることだ。 「だから大丈夫だ。心配してくれなくても良い。それよりも今は、御父上に会うことが先決だ」 「……はい」 小さく頷き、あおいはイザークと共に歩みを速める。 そしてほどなく病院に辿り着き、すぐさま父のいる病室を聞くと、はやる心を抑え進む。 可能な限り早く部屋に訪れると、そこには痩せ細った父の姿が見えた。 一目見て分かった。 死はすぐ傍に訪れ、もう長くはないのだと。 だというのに、父は部屋に訪れたあおいに気付くと、苦しげに、けれど安心させるように、笑みを浮かべた。 「来て、くれた……のか、ありが、とう」 途切れ途切れの言葉。 紡ぐだけでも苦しいのだろう。 それでも言葉を掛けてくれる。 父の優しさに応えたくて、あおいも笑顔を浮かべ返した。 「お父さん」 懸命に笑顔を浮かべ、父の細い手に自分の手を重ねる。 その手は冷たく、枯れ枝のようだった。 なにか言葉を続けなければ。 崩れそうになる笑顔を必死に保ち、あおいは自身に言い聞かせる。 (私を一人残していくのを心配してるに違いない) だから少しでも安心させるために、なにかを言わなければならない。 なのに、なにも言葉は出てくれなかった。 想いは大きく、そして強く。 溢れてしまいそうだというのに、言葉となって出てくれない。 足りない。どんな言葉だとしても、足らないのだ。 それほどに、今あおいの心から溢れる想いは限りがなかった。 そんな彼女の姿を見て、父親は苦笑するように目を細める。 「浄化師の……仕事は、巧く……いって、いるかい?」 父親は死の間近にあっても娘を想い、彼女の日々を言葉にしてくれるよう促す。 娘を思いやる父の優しさに、あおいは零れ落ちそうになる涙を必死にこらえ、父と離れてからの日々を話し始めた。 少しでも多くのことを父に伝えたくて、あおいは懸命に話していく。 それを聞く父親は、喜びを浮かべていた。 娘の言葉に、彼女が浄化師として立派に成長しているのだと思えたからだ。 あおいは言葉を紡ぎ続け、父親は時に言葉を返し、会話を重ねていく。 それは親子の最期の会話。 傍で聞くイザークは思う。 (身内もなく母も姿を消した彼女にとって、父親を失えば一人ぼっちになってしまう) それはきっと、あおいにとっても、父親にとっても、苦しく辛いことだ。 だからイザークは決意する。 2人が会話を重ね、ついには言葉がなくなってしまった、その時―― 「…………お義父さん」 イザークは、あおいと父親の手を包み込むように、自分の手を重ね言った。 「私は彼女と結婚しようと思っています」 「えっ……!?」 思わず、あおいは驚きが言葉となって出た。 混乱する自分を落ち着かせるように、あおいはイザークの言葉の意味を考える。 (……あぁ、これは父を安心させようというイザークさんの作り話だ。だったら私もそれにのろう) 「お父さん、そうなの、だから安心して」 死に逝く父を安心させたくて、あおいは言った。 その手は、感情の大きさに揺さぶられ振えている。 だから重ねた手が離れてしまいそうになる。 けれどそれを繋ぎ止めるように、イザークは力強く握り締め、心からの言葉を告げた。 「彼女をひとりぼっちにはさせません。ですから、安心して下さい」 あおいとイザーク、2人の言葉。そして真摯な眼差し。 それを受け止め、父親は娘に願うように言った。 「幸せに、なる……んだよ」 「……はい」 ぎゅっと重ねる手に力を込め、あおいは父親に応える。 イザークは、最期の別れを迎える父と娘を繋ぎ止めるように、重ねた手を握りしめる。 娘と、そして娘と共にあろうとするイザーク。 2人の姿に、父親は自然と笑みが零れた。 「そう、か……」 ひとこと、息を漏らすように父親は言うと、安堵するように全ての力を抜いた。 「お父、さん……」 最期の時、応えるように浮かべてくれた自然な笑顔。 だから、あおいは想うことが出来た。 (笑って……くれた? 安心……してくれた?) 最期まで父親は娘のことを想い、そして安堵して逝ったのだ。 なればこそ、悲しみの言葉ではなく、感謝の言葉を娘は口にした。 「ありがとう……お父さん……」 最期の別れの言葉を、あおいは父に贈り、死を見送った。 死別の言葉を告げた後、あおいは気丈に動いた。 看護師に父が亡くなったことを告げ、その後の対応をお願いする。 忙しく対応してくれる看護師に礼を言うと、その後のことも考え、あおいはこの場に残ることを決めた。 「イザークさん」 あおいはイザークに身体を向け、礼を言う。 「今夜はありがとうございました」 視線を合わせ、続けて言った。 「私はまだもう少しここに居ますから、イザークさんは少し休んで……?」 静かにかぶりを振るイザークに、あおいが何か返すより早く、優しい声が掛けられた。 「……このままそばにいるよ」 そう言うと、看護師たちに死後の世話をして貰っている父親に視線を向け続ける。 「今夜は私にとってもお義父さんだ。一緒に、最後の夜を迎えさせて欲しい」 父親を想ってくれる言葉に、あおいは堪えきれず涙が溢れてくる。 「ありがとうございます……」 誰かが、傍に居てくれる。 その温かさに、心が支えられる。 「一人だったら、きっと耐えられなかったです……」 ぽろぽろと涙を溢れさせるあおいと共に、イザークは彼女を支えるように傍に居続けた。 それは今日だけでなく、明日という未来を共にあるように。 離別の夜に、2人は寄り添っていた。
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*** 活躍者 *** |
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