~ プロローグ ~ |
1719年12月――教皇国家アークソサエティは、今年もクリスマスムードに包まれています。 |
~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。 |
~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜は終わらない』の対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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★参加スポット:4
★ 竜の谷に居る友、竜の宵闇達に会いに行く為の土産を買いに来た ナツキはクリスマスムードの街に目を輝かせて出店を見て回り クッキーは多目に買おうと去年(42話)を思い返すルーノもどこか楽しげ 宵闇達に街の中の様子も見せてやりたいと、ナツキはあちこち写真を撮る 掌サイズのお菓子の家を眺めて微笑むルーノにもカメラを向けて素早くシャッターを切る 少し後、お菓子の家を買う親子へ一瞬だけ複雑な視線を向けたルーノをナツキは見逃さず ★ 休憩しようとナツキが提案しルーノを置いて出店へ シャドウガルテン産ホットワインと小さな包みを持って戻ってくる ワインと一緒にルーノに渡した包みの中身はお菓子の家 ルーノ:なぜこれを? ナツキ:さっき見てたから好きなのかと思ってさ。違ったか? ルーノ:そういうわけでは…いや、ありがとう ワインを飲みつつ少し話す 来年はどこに行こうかと自然と相談 来年も一緒に過ごす事に何の疑問も持たずに |
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~ リザルトノベル ~ |
真冬だというのにリュミエールストリートは大勢の人で賑わっていた。『ルーノ・クロード』もその一員だ。 広場にたどり着くと一際目を引くのは、巨大なクリスマスタワーだ。 「うわあ、でけぇな。夜になったらピカピカ光って綺麗だろうな」 そう言って『ナツキ・ヤクト』は素早くシャッターを切り始めた。 クリスマスタワーはピラミッド状の高い塔だ。この期間だけに据えられる特別なもので、サンタやトナカイが描かれていたり、様々な属性の魔結晶が宝石のように飾られている。 魔結晶は上等なものを使っているのか、結晶の中には――炎は燃え上がり、光は流星の如く――自然現象が生きたまま閉じこめられているようだった。 ナツキは寒さも感じていないようにひたすら写真を撮っている。 (いつもならば出店に向かって走り出すナツキも今日ばかりはカメラに夢中だな。それも仕方ない) ルーノはそんな相棒の姿を見ながら苦笑いした。 竜の渓谷にいる友――竜の宵闇たちにこの光景を見せたいのだろう。そもそもリュミエールストリートに足を向けたのも、彼らへのお土産を選ぶ為だった。 毎年この時期になるとリュミエールストリートはきらびやかだが、今年は去年とは違い和洋折衷な風情だ。 何しろニホンの木造家屋のような出店が建ち並んでいるのだ。見慣れた街が今は異国の情緒を漂わせる。 「悪ぃ、待たせたな。写真はバッチリだぜ」 「それは楽しみだ、宵闇達と一緒に見るとしよう。前に買ったクッキーの店に行こうか」 「あ、ちょっと待った! さっき面白そうなお店見つけたんだ、そこに行ってみようぜ」 ナツキがその店を見つけたのは偶然だった。 ショーウィンドウから覗くクリスマスツリーには、人が囲むように賑わっている。 そのクリスマスツリーは一風変わっていて、お菓子そのものがオーナメント代わりだったのだ。 見た目が美しい菓子は透明なラッピングで飾られており、時折中身が分からないようにプレゼントボックス風にされたものも混ざっていた。 一つだけならお菓子を自由に選んでいいそうで、ユニークなクリスマスツリーの前には大人も子供も関係なく賑わっていた。 それをナツキが興奮したように身振り手振りを交えて話すと、 「ああ、宣伝の一種だろうな。客寄せにもなるし、試食して美味しかったら買っていくお客さんも多いだろう」 身も蓋もないルーノの言葉にナツキががっくりと肩を落とすが、すぐに気を取り直す。結局、ナツキの熱意に押し負けてお店に踏み入れることとなった。 ナツキは「美味しいの選んでくるからな!」と尻尾を大きく振って今現在、子供達の中に混ざって大いにどれにしようか悩んでいる。 ルーノはさすがに子供に混じって選ぶのは恥ずかしかったので、選びに行こうという誘いを断った。 子供以外にもちらほら親子の姿や若い女性の姿はあるが、青年であるナツキの姿は目立っていることに気づいているだろうか。 気づいていないんだろうな。 それに呆れつつも、まあクリスマスだからいいかとルーノは他人の振りをする。 ふんわりと甘いお菓子の匂いが漂う店内を見て回っていると、ルーノは足を止めた。 マカロンやゼリーで飾り付けられたカラフルなお菓子の家から素朴な家に、雪の積もった家をモチーフにしたシンプルなもの。 中には家どころかお菓子のお城としか言いようがないものもあれば、宝石のごとく美しい芸術的なものまで様々だ。 どれだけ飾りが凝ったものでもお菓子で作られているせいか、可愛らしい。 「宵闇達が喜びそうだ」 掌サイズのお菓子の家を眺めて微笑む。ルーノは無意識に宵闇たちのことを思い出していた。 突然、シャッター音が響いた。 反射的に振り返ると、カメラを構えたナツキがいつの間にかいた。 「……私をとっても仕方ないだろう」 「いいだろ、これもクリスマス写真だ!」 そうナツキが自信満々に言い張るとルーノは軽く息を吐く。目ざとくラッピングの解けた袋を見つけて、からかい交じりの口調で告げた。 「あれだけ悩んだんだ。もちろん美味しいお菓子を見つけたんだろう?」 「そうだった! これルーノも食べてみろよ。うまいとしか言いようがないからさ」 ナツキが唐突にお菓子の入った袋を渡す。思わず受け取ったルーノは中身を確かめると、ふんわりとした甘いバターの香り。 素朴なクッキーだ。 ナツキは尻尾を振りながら、ルーノがクッキー食べるのを待つ。 こうジッと見られると食べにくいのだが、と苦情を飲み込みルーノは一口食べる。 さくりとクッキーの割れる音。 「……美味しいな」 自分でも思いがけず出た言葉だった。 「だよな! すげーうまいよな!」 ナツキは分かる分かる、と言いたげに何度も頷く。 小振りなクッキーは一見地味で飾り気のない。どこにでもあるクッキーにしか見えないのに、他のクッキーとは一線を画す味わいだ。 生地はサクサク。甘すぎず、どこか懐かしい味なのに、初めて食べる味だった。ほんの数粒の塩が絶妙で、もう一枚食べようと手を伸ばしたところで我に返った。 「すまない、もう一枚食べていいか?」 「うん、いいぜ。これさ何枚も食いたくなるのに、こう一度に食っちまたら絶対に後悔するよなあ」 「ああ、分かる気がする。休日にゆっくりとくつろぎなら食べたくなる」 ルーノからも同意を得られてナツキは嬉しそうな表情を浮かべる。 「これ宵闇達の土産に買うつもりだけど、俺らの分も買っていこうぜ」 「そうしよう……だが、このクッキーは争奪戦がすごいことになりそうだな」 「おう、多めに買おうぜ。また喧嘩になったら困るもんな……」 二人の脳裏には最後のクッキー一枚を巡って宵闇を中心に子竜関係なく奪い合う姿が浮かんでいた。 「……そうならないことを祈ろう」 竜同士の喧嘩となれば、人間の喧嘩をなど比べ物にならない被害が出る。 クッキーが原因で竜の渓谷が半壊したりしない筈だ、きっと。 二人はクッキー缶を前にし、いくつ買うべきか真剣に相談を始める。 多めに、だけれど買い占めすぎない程度にクッキー缶を買い物かごに入れる。 ナツキ共に会計をしていると、不意にお菓子の家を両親にねだる子供の姿がルーノの視界に入った。 (……そういえばああして物を買ってもらったことなどなかったな) かつてはクリスマスも代わり映えのない日常に過ぎなかった。一人で過ごしたクリスマスの夜の記憶が過ぎる。 (祓魔人の体質のせいで両親から厄介者扱いされたことは変えようがない。……今更考えても無意味なのに) もう終わったことだ。そう割り切って頭を切り替えようとした瞬間。ぐうーと大きなお腹の音が聞こえて過去の記憶が途絶えた。 「悪い、ルーノ。俺、腹が減っちまった。なんかそろそろ食おうぜ」 獣耳を伏せたナツキがお腹をさすりながら、出店の方へと視線を向ける。 思わずルーノは吹き出すと、ナツキに休憩しようと声をかける。 「ああ、何か食べにいこう」 「なら、あっちにすっげえいい匂いがする出店があったんだ。そこにしようぜ!」 「君の嗅覚を信頼しているよ」 「任せろ! ちょっと行ってくる! 席の確保よろしくな」 いつのまにか過去の幻は消え去り、ルーノは賑やかで美しい時間を楽しみながらナツキを待つ。 *** 「これ買って! お願い、お父さん」 子供の声が聞こえる。これ一個だけだぞ、という父親に母親は夕食の後からだからねと念を押す。 ぼうとルーノはそんな親子の後ろ姿を見ていた。そんなルーノの横顔をナツキが見ていたことにも気づいていない。 (あの親子を見て昔の事思い出しちまったのかもな……) ルーノには言ってないが、家族の関係が複雑だったのは少し知っている。 一瞬、親子に複雑な視線を送った後、普段通りに振舞っていたからナツキは何も言わなかった。 ルーノは過去を語らない。 無理に聞き出すつもりはナツキにはなかった。 頼ってほしいのは本音だけど、話したくないなら話さなくていい。 いつか本人が話したくなった時に話してくれればいい。 (よーし、ルーノを元気づける為にお菓子の家を買うか。せっかくのクリスマスなんだし、昔色々あったなら尚更、良い思い出を作らなきゃな!) どんな過去を抱えたとしても今からたくさんの楽しい思い出に塗り替えればいい。ナツキは先ほど来た道を走り出した。 *** 思いのほか遅いな、と中々帰ってこないナツキ。ルーノは内心心配しながら待っていると、ようやく人混みの中から彼の姿が見えた。 ナツキは額に汗を浮かべながら、その両手にはたくさんの飲食物を抱えて戻ってきた。ルーノはナツキが腕に抱え込んだ食べ物をテーブルに置くのを手伝う。 「随分と時間がかかったようだが、どこまで行ってたんだ?」 待ちくたびれたルーノがそう問いかける。 「あっちこっちからうまそうな匂いがするから、迷っちまってさ」 「何か買い忘れでもあったのか?」 彼の右腕にある先程クッキーを買ったお店の同じ紙袋に気づき、ルーノは尋ねた。 「そうそう、ルーノこれ!」 ナツキが紙袋から取り出したのは透明な箱に入れられたお菓子の家だった。 「なぜこれを?」 「さっき見てたから好きなのかなと思ってさ。違ったか?」 「そういうわけでは……いや、ありがとう」 ルーノは瞠目し、一瞬言葉に詰まる。ナツキの心遣いにルーノは口元を綻ばせた。 (理由は分からないが喜ばせようとしてくれたようだし、有難く受け取ろう) 雪の積もったお菓子の家を眺めながら、ルーノは湯気立つホットワインに手を伸ばした。 「……これは」 ホットワインを一口飲むと、ルーノは驚愕した。 懐かしい味だった。一度飲んだことがある、それは記憶の中にある味だった。 「……シャドウ・ガルテン産か」 「向こうでは定番のワインの一つだって言うから買ってきたんだ、もしかしたらルーノも飲んだことあるかもと思ってさ」 「久しぶりに飲んだ気がする」 シャドウ・ガルテンでは定番の銘柄の一つだ。 赤ワインにシナモンやクローブを加えた伝統的なワイン。 「それにさワインだけじゃなくて他にも色々売ってあったぜ」 「……そうか、シャドウ・ガルテンも変わっていってるんだな」 改めて故郷が変わりつつあるのを実感する。 「またルーノの故郷に行ってみようぜ」 「そうだな、それもいいかもしれない」 昔ならばそう思えなかっただろう。少なからず複雑な記憶が残る故郷だ。それでもルーノは穏やかな気持ちで答えた。きっとナツキが隣にいるなら大丈夫だろう、と。 (本人には言うつもりがないが、ナツキと出会うきっかけと思えば、この厄介な体質も悪い事ばかりではない) 「来年は花火とかニホンの正月もいいよな!」 「その前に宵闇たちに会いに行くんだろう?」 「もちろん、今日撮った写真も渡さなきゃな。そんでニホンに行ったら宵闇達にたくさん知らない光景を見せてやるんだ」 「ニホンでのお土産は和菓子かな?」 「宵闇達は行きたいって騒ぎそうだもんな、絶対に食い物買ってこないと拗ねるぜ」 「ああ、確かに……リントヴルムの管理者にも迷惑をかけては申し訳ないからな」 二人は楽しげに来年はどこに行くのかを自然と話し合う。 来年も一緒に過ごすことに何の疑問を持たず。 穏やかなクリスマスの午後。浄化師達は平穏な時間を今だけは享受するのだった。
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*** 活躍者 *** |