~ プロローグ ~ |
1719年12月――教皇国家アークソサエティは、今年もクリスマスムードに包まれています。
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~ 解説 ~ |
現代社会とは、起源などが異なっていますが、基本的なイメージは同様のイベント内容になっています。
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~ ゲームマスターより ~ |
※イベントシチュエーションノベル『聖なる夜は終わらない』の対象エピソードです。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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桜:ここに来るのはいつぶりかしら。
境:来た事あったの? 桜:ないわ。ない。初めてね。ふふっ間違ってしまったわ。 境:?そうですか。所でどうして自分たちルインズレイクを歩いているんですか 桜:え、行きたいって言いだしたのキョウヤだったはずだけど。 境:違いますよ。サクラですよ。死者が出るらしいわ!行ってみましょうよ!って。 【行動:スポット番号11】 桜 でキョウヤは誰に会いたいの?死んでいるといえば父と母……はっ! まさか私の知らない所で恋仲になって知らぬ間に死んでいるであろう恋人?! あはははっ冗談よ。 ああ、親友?会いたいには会いたいけど会いたくないわ。 境 いや、別に父様と母様にここに来るほど会いたいわけじゃないって誰ですかそれ(恋人)?! いませんよ!いませんからね?!ちょっと!! そういうサクラは誰に?親友(『微睡みの狂想』参照)ですか? えぇ……つまりどういう事ですか。もう少しわかりやすく言って |
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~ リザルトノベル ~ |
酷く、静かな場所だった。
ほんの先頃まで、雨が降っていた。凍てつく白片ではなく、滴る水。季節の割には、暖かいのかと思ったのも束の間。雨の残り香の様に満ち始めた霧は、氷に抱かれているのかと錯覚する程に冷たかった。 足元に打ち寄せる、水。揺れる水面(みなも)。はぐれて漂う、睡蓮の華弁。打ち寄せたそれを、白い指が拾う。 「咲いてるのねぇ……。こんな、季節なのに」 つまみ上げた華の欠片。『サク・ニムラサ』はそっとキスをすると、再び水面(みなも)に放つ。ゆろりゆろりとたゆたいながら、霧の向こうに溶けて行く。見届け終わると、フゥと白い息を吐いて遠くを仰ぐ。 「ここに来るのは、いつぶりかしら」 「来た事、あったの?」 霧の向こうから歩いてきた『キョウ・ニムラサ』が、小首を傾げながら問う。対するサク。しばし思案する様に虚空を見つめ……。くすっと笑う。 「ないわ。ない。初めてね。ふふっ、間違ってしまったわ」 「?」 何というか、捉えどころのない答え。まるで、辺りに満ちる氷霧の様。ますます首を傾げるが、まあいつもの事かと気を取り直す。 「そうですか。所で……」 訊きたい事は、他にもあるし。 「どうして自分たち、ルインズレイクを歩いているんですか?」 聞いたサク。キョトンとする。 「え? 行きたいって言い出したの、キョウヤだった筈だけど」 「違いますよ。サクラですよ。死者が出るらしいわ! 行ってみましょうよ! って」 思わず、反論。当のサク、不思議そうにポカン。 焦点の合わない、とりとめのない会話。まあ、これもいつもの事。今まで、ずっとこうしてきた。もう、覚えていないくらい。そして、これからも。きっと、見晴かす事も出来ないくらい。 昔の事。今の事。先の事。全てが全て、霞色。それが、自分達。同じ白無をたたえる霧。ステップを踏む様に歩くサクを眺め、キョウも白い息をついた。 ふと、サクが足を止めた。紫の瞳が、虚空を仰ぐ。 何処か遠くで響く、鐘の音。何か思い至った様に、『ああ』と呟くサク。 「そう言えば、今日はクリスマスだったわね」 彼女に倣う様に、キョウも空を見る。白霧と灰色の雲の彼方。確かに、聞こえた。 「そうですが……。違いますね。葬いの鐘ですよ。アレは」 「あら?」 何故か、意外そうな声。何が意外なのかが分からず、また首を捻る。 「人が死んだの? クリスマスなのに?」 「そりゃ、死ぬ人はいますよ。いくら聖人の誕生日とは言っても、所詮はただの星の巡りの一部に過ぎません。大体……」 己の口にしようとしている言葉の不敬を知りながら、敢えて紡ぐ。 「特別な日に気を利かせてくれる程、神様は殊勝じゃありませんよ」 「言うわねぇ」 「事実でしょう」 コロコロと笑うサク。ピシャリと鳴る、水音。彼女の足先が、澄んだ水に漬かっていた。パシャパシャと水を弾きながら、言う。 「霧の中で池(これ)を渡ると、死んだ人に会えるのよね?」 「ただの噂ですよ」 「火の無い所に、煙は立たないわ」 「……まあ、そうですけど」 口篭るキョウの前で、サクは水を弾き続ける。揺れる水面(みなも)。その波紋の中に、何かが映る事を待っているかの様に。そうやって、しばし水と戯れると、彼女はおもむろにキョウに顔を向けた。 「――で、キョウヤは誰に会いたいの?」 「え?」 「死んでいると言えば、父と母……はっ!」 目を見開いて、口に手を当てるサク。 「まさか! 私の知らない所で恋仲になって、知らぬ間に死んでいるであろう恋人?!」 「いや、別に父様と母様にここに来るほど会いたい訳じゃない……って誰ですか!? それ?!」 今度は、キョウが目を丸くする。と言うか、割と本当に焦る。 「いませんよ! いませんからね?! ちょっと!!」 喚く弟の様を存分に鑑賞すると、サクはプッと破顔する。 「あはははっ。冗談よ」 「もう……」 笑う姉を恨めしげな目で睨み、意趣返しの様に問う。 「そういうサクラは誰に? 親友、ですか?」 投げかけられた単語。笑い声が、止まる。少し。本当に、少しの間。そして、何処か能面の様に色の無い顔をキョウに向けて、お飾りみたいに微笑む。 「ああ、親友? 会いたいには会いたいけど、会いたくないわ」 返された言葉。少し、咀嚼する。また、少しの間。 「えぇ……。つまり、どういう事ですか。もう少し分かり易く言って」 結局、理解不能。仕方なく問い返すと、また色のない笑顔。 「さあ?」 「さあって……」 「分からないわねぇ」 そう言って、サクは今度こそケタケタと笑った。 「……と言うか……」 相変わらずパシャパシャと水と戯れるサクを見ながら、キョウは思い出した様に言う。 「そもそも、兄様に会いに来たんじゃなかったですか? 自分達」 「あら、そうだったかしら?」 「そうですよ」 二人の兄。長年一緒にいたけれど、故郷であるシャドウ・ガルテンを出てから一回も会ってない。 サクが人差し指を口に当て、視線を泳がせる。また、何やら思案しているらしい。 「兄って、死んでいたかしら?」 「死んでませんよ。少なくとも、自分達がシャドウ・ガルデンを出るまでは」 「今、死んでると思う?」 「死んでないと思いますよ。兄様は、強いですから」 「死んでて、欲しい?」 「嫌ですよ。って言うか、兄様に失礼でしょう。それ」 「そうよねぇ……」 しばし、無言で見つめ合う。やがて、サクはまたケラケラ笑い、キョウはまた溜息をつく。 「結局、会えないじゃーん」 「けど、来ちゃいましたよ?」 「暇ねー」 「暇ですね」 「歩くかー」 言いながら、歩き出すサク。 「軽いんだから……」 ブツブツ言いながら、結局ついていくキョウだったりする。 歩く。真っ白い、霧の中。氷の様に、冷たい。陽の光がないシャドウ・ガルデンでの育ちとは言え、寒いものは寒い。白く澄む息を吐きながら、ともすれば霧の向こうに消えてしまいそうなサクの背を追う。 パシャリ。パシャリ。 時折響く水音は、彼女が戯れる音。さっきからずっとやっているけれど、冷たくないのだろうか。 そんな事を思いながら、ふと視線を下に向ける。ユラユラと揺れる、青い水面(みなも)。向こうに、何かがおぼろげに見える。あれが、向こう岸らしい。 (あそこに渡れば、死者に会える……ですか) 何とはなしに、足を入れてみる。サクが戯れていた距離よりも、もう少し向こう。 スボリ! 一気に足首まで沈んで、ビックリする。急に、深くなっているらしい。死者との邂逅を求めて訪れ、滑落して死ぬ者が多いと言うのも頷ける。 (自分があっち側になるなんて、洒落にもなりませんね) そんな事を思いながら、足を上げる。背筋が震えたのは、濡れた足にまとわりつく霧のせいか。それとも、もっと別の理由か。 (こんな目に会ってまで、会いたいものでしょうか……) 自分達に縁ある者で、明確に亡いのは両親。けれど、会いたい気持ちは微塵もない。 嫌いだったという訳ではない。 けれど、好きだった訳でもない。 どうでもいい。 そうとしか言えない程度に、どうでも良い人達だった。 以前、同僚にその事を話したら、『情が薄い』と怒られた。別の同僚には、何だか悲しそうな顔をされた。 何でそんな反応をされるのか。未だに理解出来ない。まあ、自分達が他の者と少しズレた場所にいる事は自覚しているので、気にもならないが。 何処かで、また鐘が鳴った。葬いの音。クリスマス(こんな日)に、何とも皮肉な事。アレにおくられる者。かの者が遺す者達は、会いに来るのだろうか。悲しみに暮れ。追憶に導かれ。 時が経ってなお、世に亡き存在に縛られる。酷く空虚で、不幸な事。 (ここで会いたい人がいないというのは、かなり幸せ者と言う事なんでしょうね。もっとも――) ふと浮かぶ、何人かの顔。 (会いたい人に、死ぬ道理がある方もいませんが) そんな風に思って、視線を前に戻す。 そこにはもう、思い描く姿はなかった。 「キョウヤ、何処に行ったのかしら」 そう独りごちて、サクは霧の中を見晴らす。やっぱり、探す者の姿はない。まあ、しっかり者の弟の事。迷子になる事もないだろう。 そう考え、しばし待つ事にする。 パチャリ。 足元に当たる水。さっきから散々戯れたせいで、足元はビショビショ。触れる霧の冷気が、刺す様に肌を嬲る。けれど、特に気にもしない。もともと、痛みには強い。と言うか、鈍感な所がある。 身体も。 心も。 白い息を吐いて、広がる池に向き直る。 先は、少しだけ嘘をついた。 一度だけ、ここに来ようとした事がある。 そんな必要もなかったのだけれど、何となく。何となく、ばれるのがはばかられた。 『親友』。 会えるかもと、少しだけ思った。 あの時以来、会っていない。死んでいるのか。生きているのか。今一つ、定かじゃない。悪趣味な夢の中では、あんな結果になったけれど。 でも、と思う。 もし、とも思う。 ここで会えたとしたら、それは死んでいると言う事で。 会えなければ、生きているかもと言う事で。 「……生きていたら、会いたいには会いたいけど。死んでいるなら、会いたくないわねぇ……」 ひっそりと、決めている事がある。 もし、会えたら。 生きているかの者に、もう一度会う事が出来たなら。 笑みが、浮かぶ。 先までの、空っぽの笑みではない。確かに血の通った、故に爛れた笑み。 意味だった。極めて密度の低い、自分の生。その中で、唯一定めた、あえかな意味だった。 「じゃあ、やっぱり、ここじゃ会えないわねぇ」 呟く言葉を追う様に、鐘が鳴る。故人を導く、導べの音。流れる宙を仰ぎ、問う。 「あなたじゃ、ないわよねぇ」 風が吹いた。 霧が揺れる。帳が流れ、世界が開ける。目の端に『それ』を捉え、視界に入る前に踵を返す。 「魔法の時間は、終わり」 晴れゆく霧の中、背後に在る筈の対岸に向かって手を振る。 「またいずれ。こちらの世界で」 送った言葉は、揺れる水面(みなも)に溶けて消えた。 「ああ、いたいた。全く、探しましたよ。サクラ」 「ああ、いたいた。駄目でしょ、キョウヤ。迷子になっちゃあ」 「あのですねぇ……」 全く悪びれる様子もない姉に、疲れ果てた様に肩を落とす。 「まあ、いいです。どうです? 気は済みましたか?」 「って言うかー。元から済む気の当てなんて、ないしー」 「………。そうですか。なら、そろそろ帰りましょう。日が落ちてきました」 そう言って、キョウがサクの手を掴んだ時。 「あら」 サクが、三度(みたび)宙を仰ぐ。 「また、聞こえるわ」 言われて耳を澄ますと、確かに聞こえる鐘の音。 「何人、死ぬのかしら」 「……違います。アレは礼拝の鐘ですよ。ミサが、始まるんでしょう」 「あらあら。それは、つまらない事で」 「不敬ですよ」 「本音だもの」 そう言って歩き出すサクの視界を、白いモノが舞う。思わず手の平で受けると、ほんの少しだけ転がり、溶けて消えた。 「……雪ですね」 「雨よりは、空気を読んでるわ」 落ちてくる雪片は見る見る数を増し、世界を彩り始める。 「いい感じね。帰りましょう。そして、とびきりの赤ワインで乾杯しましょう」 「つまらないんじゃ、なかったんですか?」 「ケースバイケースよ。楽しむべき所は楽しむわ」 「ああ、待ってくださいよ」 足を速めるサクを、キョウが追う。 誰もいなくなった池。 凍てつき始めた水面(みなも)。 降り来る雪が、其を深々と葬った。
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*** 活躍者 *** |
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