~ プロローグ ~ |
ざ、ざ、ざ……濃厚な血の匂いと生臭さが鼻につく。 |
~ 解説 ~ |
今回、指令としての依頼は
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~ ゲームマスターより ~ |
こんにちはー。 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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◆目的 村で暴走するジルドらしき人物の対処 呪いあれば浄化、土地の正常化、マダム・タッツーの拘束 ◆情報整理 マダム・タッツーの本件への関与を懸念 呪いの確認のためジルドらしき人物の対処は調査後とする >仲間の浄化師とはぐれた際の状況から ジルド、アリラの片方あるいは両名死亡のおそれ >マダム・タッツーは死者を模して人形制作 →ジルドらしき人物がマドールチェである可能性を考慮 姿を認めたら関節部分を注視 ◆行動 村ではジルド(仮)との接触を避け調査 村人殺害の痕跡あれど遺体無し 何か引きずった跡を辿り教会に目星 仲間がアリラ接触中、ジルド(仮)警戒 教会へ入ろうとするなら時間稼ぎの足止め。防戦メイン 仲間へは魔術通信で状況報告 |
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目的 呪いを浄化する マダム・タッツーの拘束 行動 事前調査 ・マドールチェについて 制作方法、制作にかかる時間、必要な物(素材や設備?)等。 …終焉の夜明け団の魔術師が作る人形って、マドールチェ? 死んだ者の人形…、まさか、遺体、で…? もし、そうなら、生まれたマドールチェは、別人?それとも…。 ・その他 アリラとジルドの外見。 ベリアル討伐の場所とその後の時間経過。 現地 事件の原因探索優先。 フェリックスはオカルト使用。連絡は魔術通信。 ベリアル討伐の場所等痕跡を辿る。 ジルドと思わしき人物。村人を殺した人を、わたしは許すことはできないけど…。 マダム・タッツーや呪いが関係しているなら、討伐すればいいという訳ではない…? |
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■調査 マダム・タッツーの呪いについて教団の記録や資料を調査 狙いは呪いの情報、特に呪いの特徴と浄化方法 ついでに村の見取り図入手 情報を元に浄化に必要な物を準備 手順や呪い暴走の注意点等、味方と情報共有 ■アリラ 教会へ向かい会話を試みる ナツキが周囲警戒 味方とアリラを守る ルーノは協力があればジルドを殺さず済むと訴え、 ナツキはジルドを止めてやってくれと頼み、協力を得て共に彼を止める 対処後、呪いの浄化 ■ジルド 討伐は最終手段 討伐せず解決できる場合 事前情報の不足や相違から討伐の必要性に疑問 教団へ再判断を仰ぐ事を提案 彼は教団へ連れ帰る 教団にはマダム・タッツーが主犯で扇動していた事含め詳細報告 今のジルドは無害だと主張 |
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マダム・タッツーとやらは有名なのだろう? ならば教団にいくらか資料があるのではないだろうか? 特にタッツーが扱う禁術について知ることができれば現地での浄化にも役に立つだろう。 他のメンバーもそれぞれ調べるだろうが同じ人形を扱うものとして何か気付けることがあればいいのだが。 遺体の山だなこれを行なったのは誰だろうなジルドの姿を見たというが。 …はたして正しくジルドなのだろうか。 アリラを探し村の中では隠密行動。 タッツーにアリラが唆されているとするのならアリラの心理状態も決してよくないだろうな。まずは現状をきちんと理解させるべきか。 理解したくない…かもしれないがそれでも事実から目を背けることはできないのだから |
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■目的 序→じゃジルド倒して呪いの原因捕まえっか(ロス マダムは強くはないとの事ですし逃走しそうですね(ティ ジルド対面後→これ別に倒さねぇでも殺人止めてくれるんじゃ(ロス ■ ジルドアリアの顔は始め確認 1.村人に気付かれないよう遠くから ・ティ 魔力感知で戦闘あった場所等魔力確認 地図に記しメモ ・ロス ティの後ろで警戒 次に村の周囲を離を置いて村確認 不審な場所チェック ∇調 呪いの原因となる場所や状況 被害の確認 村人が呪い等に掛かってる様子はないか ジルドアリアは? マダム:黒い外套・十字架で把握 2.マダムへ 村に入る時は周りの様子に警戒し マダムの場所が解ればそちらに 不明なら家の間の狭い通路メインで 壁に隠れつつ各家の中確認 |
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~ リザルトノベル ~ |
「マドールチェについて……制作方法、制作にかかる時間、必要な物などを教えていただけませんか?」 『ジークリート・ノーリッシュ』は伏せ目がちに受付に聞いた。 「マダム・タッツーは人形師と言われているが、今回も人形が関与していると?」 「はい」 「マドールチェについては」 ちらりと受付は『カロル・アンゼリカ』たちを見た。彼らもまたマドールチェだ。 「1706年に起こった『魔術人形研究員惨殺事件』のせいで、教団も一部の人間しかわからないんだ」 「マダム・タッツーとやらは有名なのだろう? ならば教団にいくらか資料があるのではないだろうか?」 『アーカシャ・リリエンタール』がジークリートの言葉を援護するように発言する。その背後ではオレは難しいことは分からんからなと険しい顔の『ヴァン・グリム』がいる。 「特にタッツーが扱う禁忌魔術について知ることができれば現地での浄化にも役に立つだろう」 アーカシャとしては他のメンバーもそれぞれ調べるだろうが同じ人形を扱うものとして何か気付けることがあればと願ってのことだ。 「マダム・タッツーの呪いについて教団の記録や資料をみることで、呪いの、特に呪いの特徴と浄化方法がわかるかもしれない」 『ルーノ・クロード』が畳みかけると受付男はため息まじりに口にした。 「先に一つ訂正をしよう。別にマダム・タッツーは有名人ではないから、俺が先ほど述べたことぐらいしか判明していない。だから資料もない」 「今の口ぶりではそこそこ名の知れた者みたいだが」 言いつのるアーカシャに受付男は肩を竦めた。 「残念なことにあの女は行く先々で不毛の地を作っているから、資料がない。つまり死人の道なのさ、死人に口なし、呪いは終わり。だから先ほど述べたことだけで精一杯と思ってくれ。 あと呪いについて学院で学んだろう? 強い憎悪によってこの地にとどまっている、天国にも地獄にも行くことを否定した魂のなれの果てだ。それを行為的に作り出すことはわりとよくある。つまりは恨み辛み、憎悪を蓄えさせればいい。一つは小さなものでも集まり、積もれば大きなものとなる。 祓う方法も学院にあるだろう? 魂が留まる理由をなくす、またはその魂を祓う。俺が言ったように、呪いの根源を正す、つまりは呪いの原因を解決すること、祓うとは文字通り力任せに消し去ること。お前たちは浄化師だ。呪い……どうしようもないものを抱えた魂と向き合い、理由を知り、寄り添い、場合によっては力を持って正すことができる存在だ。 浄化師っていうのはただやみくもに戦うだけが能じゃない。ここらへんは経験だな」 「本当に、この指令は簡単なんですか」 『リームス・カプセラ』の言葉に男は一瞬、目を細めたあと、 「報告を受けて判断した限り、難しいものではないはずだ……ただこちらの情報も限りがあるからな。納得しないのであれば今回はその証拠となるものの提出でも構わないよ」 「じゃジルド倒して呪いの原因捕まえっか」 「マダムは強くはないとの事ですし逃走しそうですね」 『ロス・レッグ』の言葉に『シンティラ・ウェルシコロル』が無表情で言葉を返す。今回の指令で重要度は低いがマダム・タッツーが存在した場合、彼女の捕獲も含まれている。 ルーノと『ナツキ・ヤクト』は事前の情報から、なにかに使えるかといろいろと用意を行っていた。 「もうすぐ村です。その前に情報を整理しましょうか?」 リームスが告げる。 「ジルド、アリラの片方あるいは両名死亡のおそれがあります。それにマダム・タッツーは死者を模して人形制作なら、その村で目撃されているジルドらしき人物がマドールチェである可能性を考慮したほうがいいかとおもいます。姿を認めたら関節部分を注視してください」 淡々と告げながらリームスは考える。 杞憂であればいいけどアリラまで死亡していたら、二人とも人形の可能性もある。 それをリームスは口にしない。 けれどカロルは察したようにリームスを見つめる。色違いの瞳が宝石みたいに輝いている。 (私達みたいに?) カロルが声に出さずに、直接リームスに尋ねる。 (僕達は死者を模したわけではないだろう? ――たぶん) 「事件の原因の探索を優先したいです。オカルトの知識で、ベリアル討伐の場所等痕跡を辿ろうと思います」 『フェリックス・ロウ』にはオカルトの知識があるので、それを頼りに探ろうとするジークリートの言葉にロスが大きく頷いた。 「そうだなぁ。俺とティが村を調べる。マダム・タッツーは俺らに任せろ」 「隠密行動なら私たちも手伝うよ」 とアーカシャが告げた。 一度、もらった地図をそれぞれノートに写し、手分けをして各自調査を行うことになった。 村はたいした広さではない。 それぞれが隠密行動を行いながら村の建物ひとつ、ひとつを見てまわる。時間を決めて、深追いは決してしないとの約束のもと。 警戒しながら行った調査でわかったのは村には死体がひとつもないが、地面には血のあととひきずったあとが存在した。 それがたどり着く先は教会だった。 「マダム・タッツーや呪いが関係しているなら、討伐すればいいという訳ではない……? アリラは……どこかに隠れているのかしら?」 森の調査を行ったフェリックスの調査した結果を聞き、ジークリートは違和感を覚えて、集まった仲間に告げた。 ベリアル討伐の痕跡にはなにかをひきずったあとと男の足跡は村へと続いていた。 村人を殺した存在をジークリートは許すことはできない。けれど、もしジルドではないなら。本物とアリラが生きているなら救いたい。 「私もそう思う。事前情報の不足や相違から討伐の必要性に疑問がある。討伐しなくてもいいなら、ジルド、またはアリラと思わしき人物を探す必要がある。そのカギとなるのも見つけた」 ルーノの言葉が決め手となり、全員が教会に行く、と結論に達した。 教会はしっかりとした建物で、村人の信仰心の強さが伺えた。 「このなかに」 ルーノがドアを開けようとしたとき、ナツキがびくりと震えて振り返った。 「村人を殺したのはあいつだ」 吐き気すら覚える血の薫りにナツキの顔がゆがむ。 浄化師の服をきた彼は剣を片手に歩み寄ってきた。彼は――事前にジルドたちの外見は教えてもらっていたが、まさにその通りの人物だった。 彼はまるで散歩するように。そしてルーノたちを見ると、小首を傾げて唇を吊り上げた。 彼が剣を構えるのに、カロルが盾を持って出る。 「先にいってください」 「しかし」 「僕は人の心の機微に疎い自覚はあるので、このなかにいる可能性のあるアリラのことは任せます」 「リームスを一人にはできないわ」 カロルが片手斧を手に優雅に笑った。 「僕は、リートを守りたい、時間稼ぎ位なら出来ると思う」 「……フェリックス」 リームスたちの力強い視線にルーノたちはドアを開き、なかへと入っていく。 カロルは一歩前へと出る。 「お人形なら呼び分けが面倒ね。ジルドは死んだのかしら? そして物語は終わったのね。ハッピーエンドではなかったかもしれないけれど……この物語は素敵なものにしたいわ」 教会のなかにはいると、ルーノは息を飲む。 時間を稼いでくれているカロルたちのためにも、早急に進むべきなのだが、建物のなかは淀んだ空気で体が重く感じられた。 「これは」 「なにかあるのかもしれません。けど、いまは……アリラさん!」 ジークリートが教会の奥の椅子に腰かけるアリラを見つけた。 呼ばれたアリラは気が付いて顔をあげると、すぐに恐怖とも、嫌悪ともつかない表情となる。 「タッツーにアリラが唆されているとするのならアリラの心理状態も決してよくないだろうな。まずは現状をきちんと理解させるべきか。理解したくない……かもしれないがそれでも事実から目を背けることはできないのだから」 とアーカシャが告げる。 「私達は君と話をしに来たんだ」 ルーノが手にしていた武器を床に置く。ちらりと視線をナツキへと向ける。 ナツキも武器をおくと両手をあげた。それでも彼はライカンスロープらしく、優れた五感を駆使して周囲を警戒していた。 「君の協力があればジルドを殺さず済むかもしれない。彼を守りたいのなら、現状を自分の目で見てよく考えて欲しい」 「ジルドの事、ちゃんと見てるか? アリラの為にって剣を振るってるの知ってるか? お前がそんな事望んでないならジルドを止めてやってくれよ! 俺はもう、誰が死ぬ所も見たくねぇ!」 ナツキが必死にルーノの言葉を援護する。それにアリラはぴくりと動いた。 「死んだ。ジルドは、死んだ、私の目の前で、ベリアルに、それで、彼が助けてくれて。死んだ……失ったっ」 震えながらアリラが告げるのにヴァンが声をかけた。 「まぁ、あれだ。死んだやつはアンデッドにでもならねぇ限り生き返らねぇよ。アンデッドじゃねぇならそのジルドはジルドじゃねえだろ? あんたが守りたいのはジルドだ。別人守っても意味ないだろ?」 死んだやつ、と別人という言葉にアリラは激昂した。 「別人とか、アンデットとか簡単に言わないでよ。なによっ、なんなのよ! 私の守りたい人をあんたたちが決めるなぁ! 本当に大事な人をなくしたことがあるの! どんなことをしても取り戻したいって上面の空っぽの正義の言葉を並べないでよっ!」 アリラの片手に魔方陣が浮かぶ。攻撃の態勢に入る彼女にジークリートが前へと進み出た。 アリラが殺意を剥きだしにするのに、ジークリートは悲しみを帯びた目で問いかける。 本当に、それでいいの? 言葉は所詮、言葉で。目に見えないもので、重ねて、紡いで、必死に届けるもので。きっと彼女はわかっているから怒っている。 「わたしはあなたに何も言えません……だって、同じだから……大切な人を亡くして、自分は生き残って。 ただ、思い出してください……ジルドさんが亡くなる前に言ったこと……わたしたちにできるのは、それだけだから」 アリラが迷い、戸惑い、力が抜ける。その体をぎゅうと抱きしめた。 浄化師とは原因を探り、寄り添うことだから。 「あなたは生きてる」 必死に紡ぐ。 「いっそ、死んでしまいたかった」 本当は、失くしたものと一緒に。愛しいものと一緒に。おいていってほしくなかった。 「けど、生きてる、あなたは、わたしも、生きてる」 涙にぬれた言葉にアリラは眼を伏せ、嗚咽を漏らし、洟をすすり、悲鳴をあげた。 「一人でも、生きてる」 なにかを託してくれた人がいるから。 ジークリートは瞼をきつく閉じて、祈るように囁いた。 ロスとシンティラは二人で地図を頼りに再び村の目ぼしい調査を行い、マダム・タッツーの捕獲へと向かった。 村のなかをマダム・タッツーはふらふらと出歩いていた。 シンティラはマダムが通る道筋にある建物のなかに隠れ、彼女が通りかかるタイミングでドアを鍵開けで開き、飛び出す。 シンティラとマダムの視線が合う。 「まぁ、かわいらしい妖精さん。あなたが今回はわたくしを捕まえに、きたの?」 「つかまえたぁ!」 マダム・タッツーが声をかけると同時に背後に隠れていたロスがマダムを羽交い絞めする。 言葉を聞いたら惑わされる恐れがあるのでシンティラがマダムの口を塞ぐ。 見事なはさみうちだ。 マダム・タッツーは少しだけ残念そうに、そしてゆっくりと目を閉じた。 その瞬間、ロスの腕からマダムの体がぽろりと落ちた。 「うえっ!」 腕と足が落ちたマダムの体をシンティラが受け止める。 「ロスさん、この人」 シンティラは医学知識があるからわかる。 「手足がない」 「……人間だよな?」 「この人は……人形です。あまりにも脆いから、これだけで軽く、壊れてしまったみたいです」 ゆっくりと丁寧に毛布に包んでシンティラは告げた。マダム・タッツーは眼を伏せたまま、まるで死んだように動かない。 そのとき声が聞こえたのにロスが険しい顔でそちらを見る。シンティラはマダムを抱いてうなづく。 「見張りは私が」 「ティ、頼むぞ!」 「格上剣士だけでも大変なのに防戦て。もう」 カロルがかわいらしく怒りながら低く構える。 スピードと体格差を生かして足や下からの攻撃だ。リームスが盾で守ってくれるとカロルは信じている。 地面を蹴って真っすぐに。風のように。 彼は剣を鞘へと戻し、カロルの振るう斧へとゆっくりと足を自ら進ませた。ぐざ、と音がする。 「その武器は兜割り。打撃は得意なのでしょうが、一度肉を食らった刃は抜きずらい。それもスピード重視の相手だと一撃に勢いがあるぶん、とても捕まえやすい」 彼は片足をあげて、カロルの腕を踏みつけてその場に抑える。 「きゃあ!」 剣を上段に構え、カロルに向けて叩き落そうとする。文字通り兜割りのごとく。 「カロル!」 リームスが駆けるのを彼は剣を大きく横へと振るう。剣と鞘はチェーンで繋がり、剣から鞘が飛び出し、伸び、駆け寄ろうとしたリームスを盾ごとき吹き飛ばした。 「リームス!」 剣を持つ手首をひねって鞘を片手に受け取る彼は無表情に告げた。 「剣は鞘と一緒に使うのは基本の基本。盾として使う、投げる、突く、切るが出来るゆえに。……盾は守りに適していますが、それは動かないのが前提です。弓などの武器を用意すべきでしたね。まずは一人目」 「カロル!」 リームスが叫ぶ、目の前で、剣がカロルへと今度こそ落とされる。 それを止めたのはフェリックスの大鎌だ。 鎌は本来剣と戦うための武器――大きな曲がりは剣と絡み、奪い取るために存在する。 力任せに引く鎌に彼は一瞬顔をしかめたあと、剣から手を放した。 「っわ」 勢いあまって後ろに下がるフェリックスを彼はカロルから足をどけ、自分の足に刺さった斧を無造作に抜くと投げた。 斧をフェリックスがぎりぎりで回避する隙をついて彼は前へと身を乗り出す。鎌に絡みついた剣を両手で掴むと鞘から剣を引き抜き、剣と鞘を結ぶチェーンを絡め、ひねってフェリックスの手から鎌を落とさせる。 ぷつ、ん。 鎌の重みに剣のチェーンが切れると彼は舌打ちとともに鞘を捨て、後ろへと下がった。 リームスがカロルに駆け寄り、傷がたいしたことがないのを確認する。フェリックスは荒い息で彼を見た。 「大丈夫か!」 ロスが駆けつけ、仲間たちの前に庇うように出る。その様子に彼は、ケガした片足をかばうようにして腰を落と、剣を腰に仕舞うように中段に構える。次に攻撃してきたものへと備えて。 膨らむ殺気はいつ爆発してもおかしくない。 「やめろ!」 凛としたナツキの声に全員の目がそちらへと向く。 「もう、やめて、おねがい、おねがいだから……ごめん、なさい。あなたは瀕死になった私をベリアルから助けてくれたのに、こんなことに、なったの……死ぬかもしれない私を救ってくれた……のに」 アリラは泣きながら紡ぐ。 「ジルドを願ったから、姿は同じでも、あなたは別の人だったから」 「ちがう、俺はジルドだ」 「あなたは悲しい、寂しい、苦しいと私の心そのもの」 「ちがうっ」 「けど、誰かを不幸にして、得たものなんて幸せなんかになれない!」 「……それで、いいの?」 彼はアリラをまっすぐに見つめる。 「ジルドは死んだ。俺は、死んだ彼にただ似ている、ジルドではないもの、それでいいの? もう悲しくないの? 痛くないの? 苦しくないの?」 「苦しい、とても、くるしい。悲しみで、おかしくなって笑い続けてしまいそう。けど、彼が成したことはそうじゃないから」 「アリラ、泣かないで、アリラ、俺の運命だと思った人。母様はなくしたものを取り戻すため、と口にした。俺はあなたのために生まれた、けれどあなたがほしいものではない……アリラ、君の望みを口にして。君が笑えるようになる方法を」 「終わらせて、この呪いを、苦しみを、おねがい」 「……承諾した。教会にはいったなら、あれを見たのか?」 「あれ?」 ルーノが怪訝な顔で問う。 「ついてくるといい。すべてを終わらせる方法がある」 教会に入ると、肌を突き刺す殺意と嫌悪に満たされていた。 アリラの座っていた椅子の奥にある祭壇。そのなかに囚われていたのは狼のベリアルだ。二つの剣で首を刺されても、なお生きている。 それを見て全員が息を飲む。 瀕死で生きているベリアルに見たのはアシッド――鎖でつながれた無数の魂。あまりにもむごいありさまに吐き気すら伴うそのグロテスクな光景。 そのなかに、確かにジルドは囚われていた。 ジルドを殺したベリアルは討伐されていた――受付は口にした。 アリラたちとともにいた他の浄化師たちは一旦態勢をなおしてベリアルが倒れされた地を見て、そう報告した――アリラたち浄化師メンバーがベリアルを討伐したわけではない。 彼が、ジルドを失い途方にくれたアリラをベリアルから救ったのだ。そして彼はアリラに恋焦がれ、マダム・タッツーによって見た目をジルドに似せた。けれど魂も記憶もなにも違うゆえにアリラは否定した。 ベリアルを本当の意味で殺せるのは浄化師のみ。 瀕死のベリアルを匿いながら、それに命を捧げる、そんな無意味な儀式を行っていた。その身勝手さに死んだ魂はベリアルの周りを漂う呪いとなって漂っていた。 「このベリアルを殺し、無意味な儀式を終えれば呪いも終わる。解放する方法、お前たちは持っているんだろう?」 彼は告げる。 「ベリアルを殺すのはする。あとはお前たちがしろ」 彼は剣を虫の息であるベリアルに突き刺す。 とたんに声無き悲鳴の怨嗟。 恨みつらみ憎悪と苦しみが広がる。 ジークリートは怯む心を叱咤し、魔喰器を握って前に進み出ると、アリラの手をとる。そして静かに微笑んだ。 一緒に、と言葉にせずに、アリラはジークリートの視線に応じるように頷く。 鎖を叩き切る。 ここに囚われた多くの苦しみに満ちた魂たちを鎖から解放すること、それは浄化師の武器でしかできない。 ベリアルが崩れる。そしてジルドも解放された。ようやく呪いが薄れても、なおまだ濃い怒りは残っている。 「墓でも作れば、この地の穢れもちょっとははれるか」 ヴァンが告げた。 「マダム・タッツー! 貴様っ」 ロスたちに拘束されたマダム・タッツーの姿に彼は一瞬殺意を剥きだしにし、すぐに表情を消した。 「その方にひどいことをしないでほしい。俺も拘束されているが、その人の身ぐらい俺が運ぶ。それともここで暴れたほうがいいか?」 ロスが一瞬迷って周りを見たが、彼の言葉や態度に嘘はないと匂いで感じ、そっとマダムの身を差し出した。彼はそれを壊れ物のように抱いた。 「それで、このままどうする? マダムも俺ももうなにもしない。殺すなら、ここで殺せばいい」 「そんなことはしない。今回の指令は情報が行き届いてないことも含めて、教団へ再判断を仰ぐ、君たちは連れ帰る……君は無害だと私たちは思っている。マダム・タッツーにそそのかされてこんなことをしたとしたら」 「そそのかされたから? 確かに、マダムが教えてくれたことを俺は実行した。そう、簡単だから。 人を殺しただけで、人の心が手に入るなら、それはとても容易いことだから」 彼は告げる。 「無害と口にするが、俺はわかっていて殺した。どんなことになろうとも、わかっていた。アリラを見たとき、俺は気持ちらしいものを持てたきがした、だからこの見た目にしてもらい、方法を得たから実行した。 お前たちは甘すぎる、そして愛する者を殺された心を知らなさすぎる。悲しみに溺れるものをわからなさすぎる」 「……それでも、君がすべて悪いとは思わない」 ルーノが言いつのる。 「力があったから行った。それは罪ではないと? 無知は罪だ。そして力があるもの無知はそれゆえに罪深い」 「なら、知れよ! ちゃんと学べよ。ぐだぐだ言わずにさ」 ナツキが声をあげた。 「……あなたたちの言葉はきっと正しい、けれど正しいだけではきっと救えないものもあるし、理解できないこともある。連れていけばいい、どんな処罰でも俺は受ける。 お母様、ごめんなさい、俺はやっぱり本物にはなれませんでした。せっかく、あなたが作ってくれたのに、せっかく、あなたが姿や方法を与えてくれたのに」 彼は腕のなかのマダムを見つめた。 「……名前は? ないわけじゃないだろう?」 ルーノが問うと、彼は少しだけ迷ったそぶりをしたあと 「タッツー・トリデカ……十三番目の偽物、本物になれない化け物の成れの果ての人形」 彼は――本物になりたいと恋焦がれ、けれどなれることのできないマドールチェは告げた。 「以上が現地での調査の結果です」 教団にはマダム・タッツーが主犯で扇動していた事含め詳細報告し、今のジルドは無害だとルーノは主張した。 「どうなんだ? アリアと契約するための知識とか与えてさ? 祓魔人と喰人じゃねぇと無理だけど、一緒にいれば守れっし」 ルーノの言葉を後押しするロスの言葉に受付の男は深い沈黙のあと 「難しいだろうな」 ぽつりと言い返した。 「今回、どういう経緯にしろ、それを行ったのはあのタッツー・トリデカだ。お前らは本人と話しているから、彼が自分の罪を認めているのもわかっているだろう? あいつは自覚してやっていたのさ。 自覚あろうが、なかろうが、人を殺すとは罪だ。どんな理由であれ。 今回犠牲となった村人はざっと二十人……その命をあいつ一人の死で償えるとは思わんが、それを無害として放置するのは危険すぎると思わないか?」 命とは一人にひとつだけ。 それはどんな理由でも奪うことは許されない。許すことが浄化師の役目だが、それを裁くのもまた仕事のひとつだ。 「あと、残念ながらあいつに適正はないことはすでに調べてあるから、アリラとの契約はどう転んでも無理だ。まぁ、上にお前たちの気持ちは伝えるが破壊処置はないにしても、牢獄だろうな。 とにかくお疲れ様。ゆっくりと休みな。今回は無茶な仕事を依頼して悪かったな。ありがとう」
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*** 活躍者 *** |
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[32] ナツキ・ヤクト 2018/06/29-23:49
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[31] リームス・カプセラ 2018/06/29-23:48
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[30] ロス・レッグ 2018/06/29-23:30 | ||
[29] ジークリート・ノーリッシュ 2018/06/29-22:53
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[28] ナツキ・ヤクト 2018/06/29-22:38
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[27] リームス・カプセラ 2018/06/29-22:34 | ||
[26] ルーノ・クロード 2018/06/29-21:09 | ||
[25] ロス・レッグ 2018/06/29-20:27 | ||
[24] ロス・レッグ 2018/06/29-19:07
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[23] シンティラ・ウェルシコロル 2018/06/29-19:07
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[22] ルーノ・クロード 2018/06/29-10:24 | ||
[21] ジークリート・ノーリッシュ 2018/06/29-07:28 | ||
[20] シンティラ・ウェルシコロル 2018/06/29-07:14
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[19] ロス・レッグ 2018/06/29-06:36 | ||
[18] リームス・カプセラ 2018/06/29-02:33 | ||
[17] ナツキ・ヤクト 2018/06/29-01:06 | ||
[16] ルーノ・クロード 2018/06/29-00:30 | ||
[15] ロス・レッグ 2018/06/28-20:28 | ||
[14] ジークリート・ノーリッシュ 2018/06/28-20:21
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[13] リームス・カプセラ 2018/06/28-01:55 | ||
[12] ジークリート・ノーリッシュ 2018/06/27-22:49 | ||
[11] ルーノ・クロード 2018/06/27-21:11 | ||
[10] アーカシャ・リリエンタール 2018/06/27-05:59 | ||
[9] リームス・カプセラ 2018/06/27-01:53 | ||
[8] ジークリート・ノーリッシュ 2018/06/26-21:09 | ||
[7] ルーノ・クロード 2018/06/26-11:42 | ||
[6] ジークリート・ノーリッシュ 2018/06/26-00:18 | ||
[5] ルーノ・クロード 2018/06/25-22:58 | ||
[4] リームス・カプセラ 2018/06/25-22:32 | ||
[3] ジークリート・ノーリッシュ 2018/06/25-20:51
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[2] ジークリート・ノーリッシュ 2018/06/24-22:29
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