はじめに          
下記『プロローグ』にて、掲載されている世界観用語については、
『基本情報』ページ『●用語集●』欄にごく簡単な註釈があります。あわせてご覧ください!

また、さらに『煉界のディスメソロジア』の世界観が知りたい!
という場合には、『●ワールドガイド●』をご確認ください!


プロローグ          

●  


 青空が広がり、風は穏やか。
 ニホンへの航海初日は快晴だった。

「帆を南西に向けて! スピードを上げていくよ!」
 甲板でセレスト・メデューズの指示が飛ぶ。
 指示に従い、乗員たちが帆を操作する。
 風を受け、速度の上がる船。
 素晴らしく速い。
 蒸気魔術船『ホープ・スワロー』は、その性能をいかんなく発揮していた。

 ホープ・スワローは、浄化師達の協力によって作られた船だ。
 ヨハネの使徒の残骸を建材として使い、浄化師達のアイデアにより強化されている。
 船底にヨハネの使徒の残骸を厚く使うことで、海中からの攻撃に耐性を強め。
 海生生物が不快に感じる音を魔術により海中に流すことで、元となった生物の性質が強い低スケールのべリアルなら遠ざけている。

 そして浄化師達の協力の元、トーマス・ワットによって作られた魔術蒸気機関は、魔結晶を消費する代わりに尋常ならざる速度を可能とし、航海から数時間しか経っていないというのに、ホープ・スワローに乗船する浄化師達を、アークソサエティから300km以上離れた海原に連れて来ていた。

 浄化師達がホープ・スワローに乗船し、ニホンに向けた渡航を行っているのは、終焉の夜明け団に属するホムンクルス達の襲撃が原因だ。
 襲撃により、教団本部に設置された転移方舟が破壊され、ニホンに転移することができなくなったため、破壊された転移方舟の修復を目的とした渡航なのである。
 一度破壊された転移方舟は、転移先と転移元の両方で同じ物を作らねばならず、そのためニホンに訪れる必要があるのだ。
 大量のべリアルが出没する可能性のある海での警護のため、浄化師達には乗船して貰っていた。

「帆はこのまま! しばらくは風向き変わりそうにないから、休んどいて!」
 セレストの指示に従い、乗員は船の中に。
 それなりの人数がいたが、船の内部は外から見るよりもはるかに広くなっているので、狭さを感じることはないだろう。

 これは魔女の魔法によるものだ。
 船内の空間を拡張する魔法により、各部屋は広々とした物になっている。
 そのため船内には数10人が一度に席に着ける食堂や、船旅の退屈を解消するための遊戯室。
 他にも、浄化師のための個室や、救護室なども完備されていた。
 全ては、快適な船旅になるよう作られている。

 ――のではあるが、不満を持つ者が居ない訳ではない。

『いつになったら陸に着くんダヨ!』
 人形を操り腹話術で、トーマスが不満を口にする。
「……まだ出港してから半日も経ってないでしょうが」
 呆れたように、セレストが返す。
 つい先ほどまで機関室に閉じこもっていたトーマスだが、現状が不満のようで、セレストに近付き言ったのだ。
『何のトラブルも起きない蒸気機関じゃ、いじれないじゃナイカ!』
「トラブルが起きちゃダメでしょうが……」
 頭痛を堪えるように、セレストは眉を寄せる。
 航海中に何かあってはいけないと、トーマスを連れて来ていたのだが、いじれる蒸気機関がなくてお気に召さないらしい。
「子供じゃないんだから」
『蒸気機関がいじれるなら子供で良イゾ!』
 大人げなく、駄々をこねるトーマス。
 そんな彼にツッコミを入れたのは、ロードピース・シンデレラだった。
「いい年こいた大人が、なに言ってんだ!」
 船内の雑務や体調管理として乗り込んでいたロードピースは、トーマスの首根っこを捕まえて船内に連れて行く。
 抵抗するトーマスを、ロードピースと一緒に連れて行くのは、教団に残るヨセフたちへの連絡役であるピポライト・デンジだ。
「はいはい、迷惑掛けたらダメさね」
 2人がかりではさすがに逆らえず、ズルズルと船内に連れて行かれるトーマス。

 浄化師達以外で、ヨセフ・アークライトに近しい教団員としてついてきたのはこの4人である。
 残りは、教団本部をホムンクルスが再び襲った場合を想定してついて来ていない。
 これでホープ・スワローに乗船している人員が全てかと言うと、そうではない。
 魔女と、その協力者たちも乗船していた。

「今の所、順調ですね」
 セレストに声を掛けて来たのは、魔女の権利獲得に協力している、長身の青年ウボー・バレンタイン。
 一緒について来ているのは、彼のパートナーであるセレナ・エーデルハイトと、魔女セパル・ローレライである。
「このまま進めばいいけどね」
 セレストは船の縁に身体を預け、ウボーに返す。
「今のままのスピードなら、追い付けるベリアルも早々は居ないだろうし、なにごともなくニホンについて、温泉にでも入りたいね」
「向こうの温泉も、良いものらしいですから。好いと思いますよ」
「ノルウェンディの温泉とは、違った良さがあるんだよね?」
「ええ。落ち着いた雰囲気が売りだそうです。ノルウェンディの温泉のノウハウも提供しますし、より良いものになるでしょうね」
「ああ……そういえば、そういうこともするんだっけ。あと、秘伝のトロール・ブルーの製法の一部を渡すらしいじゃない」
「はい。少しでも、交渉を巧く進めたいですから」
「交渉ね……本気で、教皇の首をすげ替えるつもりなんだ」
 どこか探るような口調で、セレストは言った。

 教皇の変更。
 それは一定数の国の代表者による発議で行われ、アークソサエティ内部の一定数の貴族の賛同で行われる。
 現状は、発議の段階で数が足りていない。
 せいぜいが、ようやくふたつといった所だ。
 ひとつ目は、シャドウ・ガルテン。浄化師達の活躍により、国の代表者であるウラド・ツェペシェが起こそうとした騒動は解決され、それにより協力を得る目処は立っている。
 ふたつ目は、ノルウェンディ。ウボーの親戚筋である、ノルウェンディの王ロロ・ヴァイキングの賛同を秘密裏に取り付けてある。
 これでは、到底足りない。
 そのため、ウボーがロロの特使として、ニホンの幕府と折衝を行うため、ホープ・スワローに乗船しているのだ。

「室長には、教皇になって貰わないといけませんから」
 ウボーは静かな口調で続ける。
「可能な限り血を流さず、現状を変えるためにはそれしかありません」
「……まぁ、それしかないんだろうけど」
 ため息をつくような間を空けて、セレストは返した。
「そのためには発議も大事だけど、貴族連中の賛同も必要でしょ? そっちは大丈夫なの?」
「数を揃えるための活動を水面下で行っています。ただ現教皇シンパの貴族筋の切り崩しは難しいでしょうね。だから、スキャンダルなどで失墜させられないか調査中です」
「そっかー……まぁ、頑張って。あたしじゃ、そっちは役に立ちそうもないし」
 気だるげにセレストは言った。
 そんなセレストに、セパルは人懐っこく返した。
「気にしない気にしない! キミは、この船に無くてはならない重要人物なんだから!」
 セパルに続けて、セレナも盛り上げるように言う。
「セレストさんのお蔭で、この船は巧くいってるわ。みんな助かってるわよ」
「……そう?」
 幾らか気を良くしたようにセレストは返す。
「んー、じゃまぁ、頑張っちゃおうかなー」
「うんうん、がんばってー! 応援しちゃうー!」
「がんばったら、打ち上げでもしましょ。ウボーの奢りで」
「良いねー! それじゃ朝まで――」

 唐突に、セレストの表情が強張る。
 視線は海。
 潮の流れを見て、硬い声を上げる。

「おかしい。潮の流れが変だ」
 セレストの様子に、ウボーはセレナに船内に居る浄化師達を呼ぶよう指示。
 同様に、セパルは魔女達を呼びに走った。
「潮の流れが、どうおかしいんですか?」
 ウボーの問い掛けに、セレストは返す。
「船の進行方向と潮の流れが真逆すぎる。このままじゃ、船が止まる」
 それは明らかに、自然状態ではありえないことを示している。
 明らかな異常。
 それを加速するように、無数の異形が海中から姿を現した。
 つまりは、べリアルが。

「数が多い。10体以上は居るね」
「ですが形状からしてスケール2でしょう。この船の戦力ならどうにでもなります。問題は、不自然な潮の流れです。恐らく魔法でしょう。なら、それを操るべリアルは最低でもスケール3以上になる」
 周囲を警戒しながら推測するウボー。
 その間に、浄化師や魔女は甲板に集まり、臨戦態勢を取る。
 魔女は船の中央部に移動し、浄化師をサポートする魔法の準備を急ぎ。
 浄化師は口寄せ魔方陣を使い、武器を手元に呼び寄せる。

 浄化師達が戦闘準備を取る間も、次々に海中から浮かび上がるべリアル達。
 ホープ・スワローとべリアル達の距離は、数10mほど離れている。
 その距離を縮めようと、タコ型のべリアルがホープ・スワローに向かおうとして――、
 喰われた。
 突如、海中から現れた巨大な海蛇が、一息で丸のみにし噛み潰す。

「下郎が」
 その声は、重々しく周囲に響く。
 ホープ・スワローとは数10mは離れているというのに、はっきりと聞こえた。
 視線を向ければ、それはべリアルを食らった海蛇の尾の先。
 自らの右腕を海蛇に変え操る、全身甲冑をまとった人型が居た。
 べリアルだ。
 しかも形状と威圧感からして、スケール4であることは間違いない。
 スケール4べリアルは、海面に立ちながら、周囲にたむろするスケール2のべリアルに侮蔑の視線を向け言った。
「餌を見れば我慢のできぬ畜生め。我が命もなく勝手なことをするでないわ」
 海蛇に変えていた右腕を人型に戻し、それは浄化師達に宣戦布告した。
「我が名はカース! 貴様らをすべからく喰らうものなり! だが我は、貴様らに生存の機会をやろう!」
 傲慢な物言いで、カースと名乗ったべリアルは告げる。
「我に抗うことを許す! 正々堂々、我に向かって来るがいい! 我を楽しまべぶっ」
 口上を言いきるより早く、カースは脳天から真っ二つに切り裂かれた。

 切り裂いたのはウボーの大剣。
 ウボーは、複数の魔女により発動される魔法、空中を走ることができるスカイウォークの助けを借り、カースの上空まで移動。
 辿り着くと自由落下。その勢いも込めた斬撃を振り抜き真っ二つにしたのだ。
 しかし、その状態でもカースは動く。

「キざまぁ、ひキょうナまねを――」
 切断面から触手を伸ばし無理やり体を繋げ、急速再生しながらウボーに憎悪の声を向ける。
 が、その時には既にウボーは全力で逃げていた。
「に、げるなああぁぁ!」
 カースは激怒すると右腕を海蛇に変え、周囲に居たスケール2べリアルの一体を食らう。
 その途端、一瞬で傷の全てを回復。
 同時に、海に向け魔力を放出。
 魔力を受けた海水は、無数の水塊となってカースの周囲に浮かび上がり、高速で撃ち出された。
 それは当たればただでは済まないという威力を感じさせる。
 だが、命中精度は高いとは言えない。
 せいぜい10mも離れれば、避けられない事もないだろう。

 事実。不意打ちをして即座に逃げたウボーには当たっていない。
 カースから逃亡したウボーは、スカイウォークで甲板まで戻ると、不意打ちから一連の動きを見ていたセパルとセレナに問い掛ける。
「再生の核となる魔方陣は判別できたか?」
 先ほどのウボーの不意打ちは、威力偵察だ。
 この後の浄化師の戦いを有利にするためのものである。
「魔方陣があるのは頭部だね。再生する時に、頭部が一番魔力の密度が濃かったから」
「再生速度は、べリアルを共食いした途端に上がったから、気を付けた方が良いと思う」
「あと、ウボーに向けて撃って来た水の塊だけど、撃つ前と撃った後に隙ができるよ。それと魔力が一気に減ってたから、一度撃ったら次を撃つまでに、少し時間が空くと思う」

 その情報を受けながら、即座に対応するべき3つの班が決まる。

 ひとつ目は、スケール4べリアルと戦う前衛。強力な相手と、直接戦うことになる。
 ふたつ目は、スケール4べリアルと戦う後衛。前衛のサポートと、スケール4べリアルに協力するべく動くスケール2べリアルの排除を行うことになる。
 みっつ目は、船内および甲板活動。内容は、ベリアルと戦う浄化師を強化すべく魔法をかけている魔女の助けと、船内および甲板の備品の固定や調整。
 場合によっては、スケール2べリアルが甲板に上がってくる可能性もあるため、状況によっては対応する必要が出て来るだろう。

 浄化師達は、どの班に向かうかの選択を即座に決め、対応策を決めなければならない。
 そして戦いに向かう浄化師たちには、魔女達によるサポート魔法が。

 空中を走ることの出来るスカイウォークと、海面を足場にし陸上と同じように歩けるようになる魔法シーウォーク。
 強化魔法として、回復・攻撃・防御のどれか一つを強化することができる。
 この条件で、どう戦っていくかを決めねばならない。
 それぞれの班の成果が、他の班に影響を与えるため、どの班に協力するとしても気は抜けない。

 航海の安全は、皆さんの活躍に掛かっています。
 ニホンに向けて無事辿り着くためにも、皆さんの活躍を見せて下さい!



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