ハル、今日は酷く魘されているな。時間が時間だし眠たくない訳ではないが、心配なので暫くハルの傍で様子を見る。以前、ハルが負の感情を無理矢理具現化する術にかけられたことがあった。あの時、取り乱すハルに「ハルはハルだ」と言ったけれども、どうやらハルにとってあの出来事は、すぐには消化しきれない程にショックを受けるものだったらしい。寝言、なのか?「……お前こそ、勝手に距離を作って離れていくなっての、この馬鹿」また迷うようなことがあるなら何度だって言ってやる、ハルはハルだって。その後も何度か手を取ってはもう魘されていないかを確認。ハルが起きたら気分転換にどこか散歩してから食事にするのもいいかもしれないな。
あの、ハル…ああ、今の言い方じゃ両方振り向くよな。掴みかかってる方のハル、そっちのハルを離してやってくれ。…ひとまず収まったことにほっとする。どちらが本物にせよ、ハルが苦しがってる姿は見たくない。見た感じどちらもいつものハルのように見えるけれども、片方のハルとは話していて少し違和感がある。ああそうか、このハルはあまりにも教団に対して協力的すぎるんだ。偽者のハルの袖を引っ張って止める。なあ知ってるか。ハルはいつも俺の味方をしてくれるけど、教団のことは大嫌いなんだ。俺と一緒に来たハルはこっちだ。逃げてしまったハルを追う、あの姿なのもあって放っておけなくて…怒りたい訳じゃない、ただ理由が聞きたい。
今回の被害者、逆行。お兄さん誰?父さんの知り合い?ハルトお兄さん?ふーん…あれ、父さんは?父さん、あとで遊んでくれるって言ってたのにー!うーん、でもお父さんのお仕事の邪魔はしちゃ駄目って言われてるし…えっ、ハルトお兄さんと?うん、いいよ!呼ぶ時はハルでいいのか?それじゃあハル、この建物って大きいの?探検に行こう!ほら、はやくー!(手をぐいぐい引いて探検をせがむ)ハル大丈夫か、どこか痛いのか?(険しい顔つきのハルトを見て怪我をしていると勘違い)これでいいの?大人なのに変なのーそれじゃあ、ハルのこと俺がいっぱい褒めるな!えーっと…ハルは優しいし、遊んでくれるし、面白いし…俺、ハルのこと大好きだ!
他に何か手伝うことはあるか?大丈夫だ、大体こちらでやることは終わって比較的手が空いているし。なぁハル…ああ、出かけてるんだったな。この一週間。気がつけばとっくに夕飯の時間が過ぎていたり、物をどこに仕舞ったのか忘れていたり。意外と抜けてるところがあったんだなって笑われたりもした。俺が普段からどれだけ無意識にハルに頼ってたかがよく分かった。飲み物を持ってきてくれたり、次に必要になるものを準備しておいてくれたり。大きな声で名前を呼ばれて、気がついたら捕まえられてて少し驚く。それでもいつも通りのハルの様子に安心する。「おかえり、ハル」ハルの話は後で聞かせて貰おう。ああ、そうだ。普段の礼も言わないとだ。
周りの様子は勿論、ハルの様子に驚いていないといえば嘘にはなる。でももし俺が原因でハルがああなったのなら、それを戻せるのも俺だけだ。ハル、戻って来い。今の俺には悔しいけれども、ハルが何を怖がっているのかは分からない。だからハルが話してもいいと思ったことだけで構わないから、それを教えてくれないか。ハルが何にも怯えなくていいように、俺にもハルのことを守らせて。誰にだって秘密はある、無理矢理暴かれて辛かったよな。ハルの過保護は今に始まったことじゃないだろ?どんな理由があってもハルはハルだ。魔女を見つけたら何をおいても一発殴る。こんなことされたら流石に俺だって怒る。幻滅したか?つまりそういうこと、だ。