魔術真名は唱えてから森を出る。俺は前に出てソードラプター達の気を引こう。引き寄せたらスキルを使って、可能な限り体力を削っていく。敵の動きが鈍ってきたら、信号銃を掲げてハルに合図。戦闘後は罠の回収を手伝う。魔結晶を探す時に気をつけることはあるかウィリに聞いておこう。衝撃には弱いかとか、どういう特徴の物を優先で探した方がいいだとか。この刀、父さんの物なんだ。故郷が襲われた時に成り行きで持ち出すことになってしまって……正直、俺はこの刀をあまり満足に使ってやれていないとは思うんだ。何かを斬るっていうことが、俺は怖いよ。情けない話だけどな。ありがとう、ハル。なら俺を守ろうとしてくれるハルを、俺が守るよ。
どんなことを好むのかは人それぞれだとは思う。だけど、他の奴を痛めつけて楽しむのを見過ごすことは出来ない。後衛の信者の無力化に向かおう。前衛の抵抗が激しい場合は、道中前衛担当の皆と共闘。あくまでも後衛へ抜けることを優先に。後ろに抜けたらハルに信者の足元を撃ってもらって、回避しようと動くところで畳み掛けたい。術のこと、回避、二つ以上のことを同時に考えるのって難しいと思うから。武器は無力化させた後に手の届かない場所へ弾くなり蹴り飛ばすなり。信者達は無力化後、術発動の時に手を使えないように、あと後々の引渡しのため、縄で縛って陣から離しておくよ。ここ、寝るにはあまり向かない場所だと思うけど、ごめんな?
俺だって戦うのは怖いさ。でも町が危ないって聞いたら、気が付いたら体が動いてた。あの人達に、あの時力があればって後悔をして欲しくないんだ。協力があればベリアルのとどめに集中して減らしやすくなる。町の人の不安を拭えるのも余所者より君達だと伝える。言葉をかけたら一足先に住民の避難誘導をしに北部へ。合図があったら門へ。前衛の端で敵の接近をなるべく押し留めよう。足元が土なら目潰しは効くだろうか…この状況だし使えるものは使わないと。後衛の攻撃で体力の落ちている敵をスキル交え優先的に狙う、突出は避ける。ハルの合図で町へ守備隊の援護があるなら体力削りを頼む無理はさせない、生きてさえいれば勝機はあると声掛け。
うっかり足を滑らせて落ちるとか、我ながら情けない…ああ、問題はないよ。い、いや、別にそこまでしなくても…次から俺が気をつければいいだけの話だから!な!それよりもハル、お前だよ。落ちた時、助けようとしてくれたのを俺が下敷きにしただろ?お前の方こそどこか痛めたりしてるんじゃ…ハルはああ言ってくれるけど…正直心配になる。出会ってからハルはずっと俺に尽くしてくれている。俺のためにと、自分の怪我も厭わずに。駄目だな…ハルに迷惑かけないよう俺がもっとしっかりしないと。ああ、悪い、少し考え事してた。えっと…腹減ったなーって。そうだ、何か食べて帰るか。ハルは何がいい?それじゃ礼にならな…ハルがいいならいいか。
夜中、ハルの部屋から凄い音がしたから心配になって様子を見に行こうとした。…まさか向こうから来るとは。しかも空けた途端抱きつかれて転倒するなんて完全に予想外だ。頭は打たなかったけど、流石に背中が痛い。所謂押し倒されてる状態ってやつだ。倒れた時に一瞬意識飛んだぞ…このままじゃ起きられない…ハル、ちょっとどいてくれ。…微動だにしない、余程のことでもあったんだろうか。背中が痛いこと以外に支障はないし、暫くはこのままでもいいか。で、どうしたんだハル。夢?どんな…いや、やめておこう。大丈夫だ。ハルが一体何を怖がっているのか俺には分からない。けれど落ち着くまで一緒にいてやることなら出来る。だから心配するな。