~ プロローグ ~ |
今日は「スターリー・ナイト」の日。あるいは「星の祝祭」と呼ばれる年に一度だけの特別な日。 |
~ 解説 ~ |
●目的 |
~ ゲームマスターより ~ |
ここまでプロローグをお読みくださり、誠にありがとうございます。 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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※アドリブ大いに歓迎します ※貴族なのでダンスはそこそこ上手 ※ベリアルに両親共々襲われるまでは 所謂お坊ちゃん育ちなので、甘いものが好き、まずいものは嫌い 衣装…紺のスーツ ああ、ケガは大丈夫だよ。 あれだけ本音を叫んで死んだら、 トーマス君に申し訳ないからね。 ポムドールか、気になるな(木に近づいて一口) …っ(まずいらしく、悶絶する) よ、妖精に? そうなの? (ララエルにダンスを教え、踊りながら) クリスマスの予定? うーん、そうだな…自室に籠って 残っている本を読むかな? ララは何か予定はあるのかい? |
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無事に行われた祝典に安堵し参加 ポムドールのお菓子と果実酒を頂く ベ 今日は酒を飲むのをを止めないのか ヨ 酔っ払う程飲まないのは知ってますし ベ 誰かさんは一杯でべろべろだった ヨ その話は…。飲めれば飲みたいのですけどね ベルトルドさんってお酒で自分を見失う事ないんですか? ベ さてな 試してみようか? ヨ だっ だめです 絶対だめ 喰人に踊るか聞かれ迷ってからやはり断る ドレスも無いし 踊りは 出来ないので… 踊る人々を見て少しだけ羨望 お酒も飲めない 踊りも無理 出来ない事だらけ 単純に気落ちしているのは珍しいな どうした 折角の祭りだぞ この間#59ふと 浄化師でなかったら何をしたのかなって思ったんです ベルトルドさんは想像した事ありますか? |
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屋台を回りつつ、噂で聞いた黄金の果実酒を探す ポムドールを気に入ったナツキとも協力し情報を集めよう 見つけたら果実酒を楽しむ ナツキは結構なペースで飲んでいるが平気だろうか それにしても、この国の行事に浄化師が参加できる日が来るとは… ナツキ:なに考えてんだー? ルーノ:いや、大した事ではないよ。それよりダンスが始まるようだ、見に行ってみようか ナツキ:よぉしわかった、踊るぞー! ルーノ:は…?待て、引っ張るな! 広場に出たナツキがなぜか首をかしげる ナツキ:あっ。俺、踊り方しらねぇやー ルーノ:…君、酔っているな? ナツキ:ぜーんっぜん酔ってねぇ!(酔ってる …酔っ払い、もといナツキを介抱しながら引き続き祭りを楽しむ |
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~ リザルトノベル ~ |
ここは妖精とヴァンピールが共存する町ニュンパリア。 夜空は満天の星、町中に星が溢れている夜だった。 星のランタンの温かな光が町を輝かせ、その中をピクシー達が楽しそうに羽ばたいている。 今日は年に一度のスターリー・ナイトだ。 ●『ルーノ・クロード』『ナツキ・ヤクト』 「うぅーっ……ヒデェ目に遭った……」 「ピクシーとはいえ女性のお洒落への執着は恐ろしいな……」 折角の星の祝祭だというのに、ぐったりとしたナツキが唸るように声を上げ、隣を歩くルーノも精彩の色を欠いている。 二人が疲労しきっているのは、先日の指令で案内役を務めてくれたニアを含むピクシー達が原因だった。 「あら先日は世話になったわね。おかげで無事にスターリー・ナイトが開催されるわ。私達もだけど町の皆も喜んでるわ、ありがとう」 「そりゃ良かった、頑張った甲斐があったよな。俺らもこのお祭り楽しみにしてたんだぜ」 ナツキが嬉しそうに賑やかな町の様子を眺める。 「ええ、あなた達のおかげよ。だから、星の祝祭を楽しんでいってね」 ニアはスターリー・ナイトに合わせてか、柔らかなラベンダー色のドレスを纏っていた。 花の刺繍と一緒に陰気の魔結晶をドレスのレースに縫いつけて一番上のレースに透けて見えるようにされている。それが地模様のように見せ、まるで夜空の下の花畑みたいに仕上がっていた。 「ああ、そうさせてもらおう。今夜のドレスも今日の夜にぴったりだね」 「おう、可愛いぜ」 普段のナツキだったら到底女性に対して言えない台詞もピクシー相手だと簡単に言えるらしい。二人に誉められたニアも満更ではなく無邪気に微笑んだ。 「ありがとう。そういえば二人は盛装しないのかしら?」 「いや、このままで参加するつもりだぜ」 ここで返答を間違えてしまった。 ナツキが教団服のまま参加すると聞いた途端、ニアは信じられないという表情をした。 どうにも雲行きが怪しくなったことを感じ、ルーノは嫌な予感がしていた。 ニアはあっという間に他のピクシー達を呼び寄せる。そのまま「二人のコーディネートをするわよ!」と力強く宣言し、その迫力に押されるがまま貸衣装店まで連れて行かれた。 すぐ近くにいたヨナとベルトルドがニアに挨拶しようとしていたが、危機を察知したベルトルドが巻き込まれる前に即座に離脱して行くのを恨めしげに見ていた。 そこから先はほぼピクシー達がああでもないこうでもないと盛り上がる勢いに圧倒されて、二人は全く口出しすることもできずにスーツは選び出された。 ナツキが着ているのは艶のあるシックなブラックスーツでノーネクタイの白いシャツが黒を際だたせている。上からモッズコートを羽織り、シャツの袖には艶消しされた黒い星のカフリンクスが付けられている。 ルーノはシルエットがタイトめなダークスーツだ。派手さを押さえたシャドーストライプは近づくと分かるお洒落で、光沢のあるシンプルな紫のネクタイとチーフが全体を引き締め、上品に見せている。 落ち着いた風合いのチェスターコートの隙間から銀の星のカフリンクスが垣間見える。 そのおかげでというべきか、そのせいでというべきか迷うところだが、長時間拘束したお詫びにと大変満足したニアに黄金の果実酒の在処を教えてもらったのだ。 一見さんはお断りのお店なので事前に入れるように紹介してくれるのは助かる。 ナツキは先日の指令で食べたポムドールの味が忘れられないらしく、噂の黄金の果実酒を呑んでみたいと意気込んでいた。 スーツ選び中げんなりとしていたナツキもその情報を聞いた時は目を輝かせ、下を向いていた尻尾が上機嫌に左右に振られるのを見ていたので間違いない。 「そうだ! 気を取り直して飲もうぜ、ルーノ! 折角のお祭りなのに辛気くせぇ顔してたらもったいないよな」 「そうだな……楽しまないと損か」 先ほどのことを忘れるように明るい声を上げたナツキにルーノも頷く。 「まずは食いものだな! おっ、うまそうな匂いがあっちからしてくるぜ」 そう言い終わるやいなやナツキは匂いがしていた屋台へと駆け出して行った。 「……全く仕方がない奴だ」 そう呆れを滲ませながらもルーノの口調は楽しげだった。 どうやら自分もこの祝祭の賑やかな空気に当てられて、思いの外浮かれているらしい。 浄化師として訪れた事でこの国の変化を実感し、嬉しく思う。 星の道を歩いて来た最中も、様々なランタンを見かけた。 レースで作られたランプシェードはロマンチックな光模様を描き、和紙や麻で作られたものはエキゾチックに、ステンドグラスのものは様々な色の光を反射する。 切り絵模様の入ったペーパークラフトのものや木の蔦を編み込んだものはどこか温かみがあり、真鍮の枠に填められたガラスは職人技が光る。 どのランプシェードも作り手の個性が見えて眺めているだけでも面白い。てんでバラバラなのに不思議と一体感があるのだ。 「祝祭の度に増えていくの、素敵でしょ?」 そうニアが誇らしげに町を見つめる視線を思い出す。 (確かにこれだけランタンがあると、……住民がどれだけ祝祭を楽しみにしていたのか分かるものだ) 「すまない、ホットワインを二つ頼めるか?」 ルーノはナツキを待っている間にすぐ近くにあった屋台で飲み物を頼む。 シャドウ・ガルテンは良質な果実酒・赤ワインの生産地だ。 ユニークな土着品種はもちろん世界的に好まれている品種も栽培されている。 上質なワインがたくさん造られていたが、その殆どが国内で消費される。少し前までは国交が閉じられていることも相まって、それほど有名ではなかった。 シャドウ・ガルテンが出身でもあるルーノも当然そのことを知っていた。 「待たせたな、ルーノ! 買って来たぜ」 「こちらもホットワインを頼んだよ、寒い日にはこれがいい」 白い息を吐き出すナツキは赤いシチューが入ったボウルを両手に抱え、ルーノもまた湯気が立つコップを抱えて屋台の近くに設置してあるテーブルへと歩き出す。 ナツキにホットワインを手渡すと、ふんわりとホットワインから漂う湯気に鼻をすんすんとさせる。 「はー温まる……これポムドールの匂いもすっけど、なんかいっぱいワインに入ってるのが分かるぜ」 「シナモンとカルダモンの匂いが強くてそれ以外は分からないな……」 シナモンやクローブ、アニスを使うのが定番だが、この町特製のホットワインにはポムドールの果汁に加えて他にもいくつかのハーブとスパイスをブレンドされてあるそうだ。 香辛料がふわりと鼻腔をくすぐり、ポムドールのフルーティーな香りが余韻を残す。一口飲めば身体の芯から温まる。砂糖を入れて甘く仕上げられており、まろやかな味わいはどこか懐かしいような、それでいてホッとする香りと共に喉を通る。 シャドウ・ガルテンは葡萄栽培の際に霧に悩まされることも多いが、その霧こそが葡萄に芳醇さと適度な酸味をもたらしてくれる。このワインが香りに包まれた葡萄畑と称されるわけが飲んでみると分かる。 「赤ワインって美味いんだな……あー幸せ」 「ホットワインって寒い日にはいいな……ナツキ、バケットまで買ってきたのか?」 「残ったソースに浸けて食べると上手いってお店の人におすすめされてさ」 「それで買ってしまったというわけか……他のものが食べきれなくなって後悔してもしらないぞ」 「大丈夫だって、冷めないうちに食べようぜ!」 ナツキが買ってきたコックオヴァンのシチューを二人は無言になって食べる。 地鶏を赤ワインで煮込んだもので口の中でほろほろと崩れていく鶏が美味しく、赤ワインの豊かな風味が静かに広がっていく。 鶏肉に野菜と香草の出汁が効いた赤ワインのソースはたくさんの野菜を煮込むことでとろみがつき、スパイシーでありながら葡萄の旨味がぎゅっと詰まっている。 「なあ、ルーノ。……やっぱバケット買って良かっただろ?」 ナツキはルーノに向かってにやりと笑う。 そのとろみあるソースにバケットを浸けて食べると二度味わいを楽しむことができ、ナツキの判断は正しかったとルーノは認めざるをえなかった。 「よっしゃ! 次は黄金の果実酒だな」 「広場の近くの店で売られているようだし、ちょうどいいな」 黄金の果実酒が売られている店はひっそりとした場所にあった。 広場から少し離れた場所だが、広場全体を見渡すことができるように店内はガラス張りだった。 「これが黄金の果実酒か! 琥珀色の液体が綺麗だな」 ナツキは嬉しそうにポムドールをモチーフにしたボトルを眺める。 お酒のボトルとは思えないリンゴの形状をした高級感漂わせるボトルは、そのままインテリアの飾りとしても使えそうだった。 ニアの紹介ですんなり人気だと評判の果実酒を確保することができ、お酒のつまみとしてサラミやチーズの他にシュトーレンを追加して注文する。 「ポムドールそのままもいいけど果実酒も美味い!」 ナツキが注がれた果実酒を一気に飲み干して、満足げな笑みを浮かべる。 「これは……本当に美味しいな」 ルーノの感想に店員も嬉しそうに目元を緩ませた。 黄金の果実酒はポムドールの白ワインにブランデーを加え、ブランデー樽でゆっくりと熟成をさせた原酒だ。 甘口のワインだが、ブランデーを使用しているので飲みやすい割には度数が高い。ここのピクシー達は見た目の割には酒豪らしいので、度数が高い酒がこの町では好まれる。 自然な琥珀色の酒がグラスの中にそそぎ込まれ、ふくよかな香りとポムドールの華やかな香りが空気に含まれる。 まろやかでありながら深い余韻を残す果実酒は思わず感嘆の息を漏らす程、美味しい。 ポムドールのえもいえぬ甘酸っぱさがもぎたてのポムドールを齧った時のような瑞々しさだった。 だが、飲み過ぎると深酔いしそうだった。 「おっ、これも旨ぇな。ルーノ、これ食ってみろよ」 「ああ、次はそれを食べよう。君こそゆっくり味わったらどうだ、行儀が悪いぞ」 シュトーレンを栗鼠のように食べていたナツキが飲み込むと、そう言って勧めてくるのにルーノは苦笑しながら答える。 シュトーレンの生地にはドライフルーツがぎっしり練り込まれており、洋酒で風味付けされたポムドールやナッツ、レモン、オレンジ等を堪能できる。その生地を焼き上げたケーキの上には新雪のような粉砂糖がまぶしてある。 シュトーレンにはいくつかの種類があり、オレンジやフランボワーズ等の数種類のフルーツを洋酒に漬けて焼き込んだものから中心にマジパンが入っていて、甘さ控えめでアーモンドやヘーゼルナッツの香ばしさと仄かに感じる黒胡椒がいいアクセントになっているものまで色々とある。 やはり人気なのはこの時期にしか食べられないポムドールのシュトーレンだ。 赤ワインに漬けたポムドールとメイプルのもので、ポムドールに合わせて調合したスパイスが効いていて、甘いものが苦手な者でも食べられるさっぱりした味わいだ。これが人気の一品に選ばれる理由がよく分かる。 「ルーノもなーんか嬉しそうだし、お酒が進むなー」 ナツキは幸せそうに顔を緩ませながらそんなことを口にされ、ルーノは思わず咽そうになる。だが、ナツキが心の底からそう思っているのが分かるが故にルーノは何も言えなくなる。 シュトーレンからスパイスがふんわりと漂いつつも芳醇なポムドールの風味をより引き立てて、チーズと一緒に食べても相性がいい。 甘いものとしょっぱいものを交互に口にし、ナツキは果実酒を飲み干す。 (ナツキは結構なペースで飲んでいるが平気だろうか) 幸せそうに飲み食いするナツキを止める気にもなれず、一通り食べ終わった頃には案の定顔を真っ赤にして酔っぱらっていた。 町のどこに行っても幻想的な光景が続く。 ガラス越しに町を眺めていると、気の早い老人がお酒に酔ったまま突然一人で踊り出し、周囲が囃し立てる。その光景をピクシーを肩に乗せたヴァンピールの少年が笑いながら見ている。意中の相手にダンスを断られたのか落ち込む若者の元へとピクシーが肩を叩くように集う。 広場前にあったランタンタワーはランタンと一緒に積み重ねた飾りはごちゃごちゃしているのに不思議と愛嬌のある美しさだった。 ピクシーたちはランタンと一緒に飾られているオーナメントに座っておしゃべりしているのが見える。 どこまでも平穏な光景が続く。 (それにしても、この国の行事に浄化師が参加できる日が来るとは……) 閉鎖的だった国を思うと、ルーノは感慨深く祝祭の光景を眺めていた。 「なに考えてんだー?」 「いや、大した事ではないよ。それよりそろそろダンスが始まるようだ」 振り香炉の前に集まる人々と楽器を手にした演奏団の姿が見え始めた。 「よぉしわかった、踊るぞー!」 「は……? 待て、引っ張るな!」 先に会計を済ませていたから良いものの、ナツキは強引に肩を組みながらルーノを引き連れて広場に向かおうとする。 広場に辿り着いた途端、 「あっ。俺、踊り方しらねぇやー」 どこか眠そうな顔をしたナツキが、何故ここに来たのだろうと言わんばかりに首を傾げる。 「……君、酔ってるな?」 「ぜーんっぜん酔ってねぇ!」 何がおかしいのかケラケラと笑いながら否定しているが、いつもよりふわふわした言動にテンションも高い。 (……酔っ払いには困るが、私が再びこの国を訪れようと思えたのはナツキの影響もある。礼代わりに介抱くらいはしよう) きっと自分一人では戻ることなど考えられなかっただろう。 こんな平和な時間がずっと続けばいい、そう考えてしまうのは少し酔っているせいなのだろう。この幸運な時間をルーノは噛み締める。 祝祭の夜はまだ始まったばかりだった。 ●『ヨナ・ミューエ』『ベルトルド・レーヴェ』 冬の澄み切った香気。吸い込んだ空気が肺を刺すように冷たく、吐き出した吐息は白い。 雲一つない夜空を見上げると月が氷のように冴えきっていた。 太陽のないシャドウ・ガルテンの冬は寒い。だが、ここに住むヴァンピール達にとってはこれが冬の日常なのだろう。 冬になると色彩が失せていくが、常夜の町は極彩色な灯りが飾りたてる。 「ルーノさんにナツキさん大丈夫だったでしょうか?」 「……まあ大丈夫だろう」 遠い目をするベルトルドにヨナは呆れた眼差しを向ける。 「随分と他人事ですね。二人を見捨てて即座に逃げ出したじゃないですか……」 「あそこにあのままいたらヨナお前も着せ替えに巻き込まれたんだぞ」 「……それは遠慮しておきたいですね」 ベルトルドがじとりとした目を向けると、ヨナは言葉を濁した。 「先日の指令で懲りたからな……」 どこか遠い目をするベルトルドに先日の指令でベルトルドをピクシー達に売り払ったことを思いだし、ヨナはそっと目を逸らす。 気まずくなった空気を誤魔化すようにヨナは話題を変える。二人は野外にあるテーブルについて食事を取っていた。 「やはりアークソサエティとは料理とは少し違うんですね」 「ああ、ここは郷土食の強い料理が多いな。これはこれで旨い」 スモーキーターキーは薫製の七面鳥の足をカリッと香ばしく焼き上げられていて食べ応えがあるし、こだわりのソーセージを頼んだところ、様々な種類のソーセージが皿の上に載っている。 ブラートヴルストはソーセージの一種で粒々したマスタードを付けて食べるとさらに旨くなる。ジャーマンソーセージは噛みしめる度にジューシな肉汁が弾ける。 チョリチーはピッリとスパイシーで癖になる辛さが酒を飲む手が止まらない。中はみじん切りされたニンニクやパプリカに香辛料が混ぜられており、それらが合わさると絶妙なハーモニーを奏でだす。 クラフトビールのよく合う旨さに思わず次から次へと口にしてしまう。 ヨナはピザケーゼがお気に召したようでちびちびと食べている。 ピザケーゼはパウンドケーキ風のソーセージでチーズやベーコン、サラミ等が混ぜ込んである。見た目はミートローフのようで、屋台にある鉄板で焼くとチーズが溶けだし、焼いた香ばしさと溶けたチーズの旨味が舌で暴れ出す。 そのまま食べても美味しいのだが、パンに挟んでトマトやレタスと一緒にサンドイッチにして食べることもできるそうだ。 さっぱりとした香り高い紅茶で口直しすると、ヨナは近くにある街路樹を見上げる。 「ここにはピクシー達専用のテーブルもあるんですね」 街路樹にミニツリーハウスがあっちこっちに設置され、ピクシーが食事しているのかツリーハウスに灯りがついている。きのこのようなデッキから小さなお酒のグラスを持ったピクシー達が乾杯しているのが見えた。 「……先日の指令ではうまいこと隠れていたんだな。しかし、隠れる為だけにツリーハウスを撤去するのはやりすぎだろう。ここの住人は本当にピクシーに甘いな」 どこか呆れたようにベルトルドはツリーハウスを眺めると、ビールを呷るように呑み欲し、店員にもう一杯注文する。 「ここのヴァンピールの方は他のシャドウ・ガルテンに住む方と気質が違いますよね?」 「ああ、陰があんまりないというか、社交的な方だな……あのピクシー達と暮らしていれば落ち込んでいる暇もなさそうだ」 さぞかし振り回されているのだろう。 そんなベルトルドの言外の意味が聞こえてくる程、実感がこもっていた。 「シャドウ・ガルテンは赤ワインの生産地だと聞いていたが、ビールも旨いな……」 ここのクラフトビールは脂っこいものと一緒に飲むと、苦みが脂っこさを打ち消してくれて後味がさっぱりするのだ。味の方もガツンとした苦みでしっかりとした飲みごたえがありつつ、フルーティーな風味で飲みやすい。 「意外ですね、知ってたんですか?」 「お前が持ってくる読書感想文の本に書かれていた」 ヨナは暫く考え込むと、 「やはり関心があることなら勉学も捗るのですね……他にもベルトルドさんが興味あることはありますか?」 「その前に俺から頼んどいてなんだが、もう少し課題を減らしてくれると助かるのだが……」 「そうですね、ベルトルドさんが関心ありそうなものにして難易度を少し下げましょう」 ヨナは課題を減らすと言ってくれなかったことにベルトルドは肩を落とす。 頼んだワインが来るのが待っている間、ベルトルドはヨナから課題を増やす為の質問を受け、閉口することになるのだった。 「今日は酒を飲むのを止めないのか」 ワインの入ったグラスで飲みながら、何も口出ししないヨナにベルトルドは問いかける。 「酔っぱらう程飲まないのは知っていますし」 「誰かさんは一杯でべろべろだった」 ベルトルドは思い出し笑いながら口にすると、ヨナは一瞬口籠り、 「その話は……飲めれば飲みたいんですけどね。ベルトルドさんってお酒で自分を見失う事はないんですか?」 思いついたことを口にするとベルトルドは機嫌良さげに口端を上げ、 「さてな、試してみようか?」 「だっ、だめです! 絶対だめ!」 ヨナの慌てようをベルトルドは楽しげに見ている。 (……先日の指令のお返しだ) ヨナは酒を飲まない代わりに紅茶を飲み、グラスに色鮮やかに飾られているポムドールの果実を食べていた。ポムドールの蜂蜜色をした果肉は蜜をたくさん含んでいて、ヨナの表情が僅かに綻んでいるところを見ると美味しいのだろう。 「次は赤ワインでも飲んでみるか……さてどれを飲もうか」 ヨナがシュトーレンを味わっている間、ベルトルドはワインを物色し始める。 どうやらここのワインは癖があまりなく柔らかい口当たりのものが多い割に、アルコールの度数は高めだった。 おすすめのワインを聞いたところ、赤ワインは滑らかな口当たりに引き込まれるような飲みごたえがあるものと国内でも120本程しか入荷しない貴重な一本だが、まだ開いていないと説明を受けて前者を注文することにした。 酒場に通うこともあるベルトルドはワインは生き物だということを知っていた。一度ワインが閉じている状態のものを飲んでみたことがあったが、渋みが突出して飲めたものではなかった。どうせ飲むなら飲み頃を迎えて美味しいワインを飲みたい。 「……本で見るのと実際自分の目で見るのは違いますね」 「それはそうだろうな。実際体験してみなければ分からないことも多い」 素朴でありながら幻想的な星のランタンの灯りが彩る町を。その光景を見つめながらヨナは自分の世界がいかに狭かったかを実感していた。 「シャドウ・ガルテンに関する資料は教団内でも少なくて、指令では余裕がなくてポムドールとピクシーの成り立ちや生活について聞けなかったことが残念です」 「ニアに会ったら聞けばいいだろう」 知らない文化に興味があるヨナは心底残念そうにしているのを見てそう答えたが、 「質問の答えを得るためにベルトルドさんが犠牲になりそうですね……」 あのピクシー達は随分ともふもふに執着していたことから十分にありえる事態だと思ったのかベルトルドが黙った。 不意にベルトルドの鼻先を通り過ぎたのは、先日の指令で行ったポムドールの庭を連想させる香りだった。 (そういえば、この祭りでは踊る前に振り香炉を揺らすと言っていたな……まるで何かの儀式のようだ) 乳香の甘い香りの中にいくつかの香木や香草が調合されているのか、冬の森の透き通った落ち着く香りとなっている。心を落ち着かせ仄かにポムドールの香りが余韻を残していく。 「……どうやらダンスが始まったようだ、ここまで匂いが漂ってくる」 ヨナは飲み物を抱えたまま動く気配を見せなかった。 「……踊らなくてもいいのか? 折角の機会だろうに」 「ドレスもありませんし、ダンスは、出来ないので……」 ここのテーブルからは広場で楽しそうに踊る人々の姿が見えて、星の祝祭が無事に行われて良かったという安堵と僅かな羨望を感じていた。 (……お酒も飲めない。踊りも無理、出来ない事だらけ) 浄化師でない自分に価値はあるのか。 そんな考えが脳裏を過ぎる。 前はそんなこと考えたこともなかったのに、今は自分が不完全なところばかりが目についてしまう。 「単純に気落ちしているのは珍しいな……どうした? 折角の祭りだぞ」 ベルトルドの気遣うような声が頭上から落ちてきて、ヨナは顔を上げる。 「この間ふと浄化師でなかったら何をしていたんだろうって思ったんです。ベルトルドさんは想像した事はありますか?」 ヘスティアの火が灯った蜜蝋の群れを見つめながら、そんな詮無き考えが浮かんだことを昨日のことのように思い出す。 あの時も自分の願いはなく、誰かのための願いしか持たなかった。 ベルトルドはグラスをテーブルの上に置くと、腕を組みながら考え込む。 「……俺は浄化師になっていなかったらスラムで野垂れ死んでいたかもしれない。教団の黒い話はあれど、俺にとっては可能性を広げる救いの手だった。だからその質問に答えるのは難しいな」 「私は……よくよく考えてみても結局何も思い浮かばなかったんです」 「前に言っていた個人での生きる目的。つまりそういう事ですよね?」 あのときはベルトルドの言う事が理解できなかった。でも、今は少しだけ分かった気がする。 魂の発露ともいえる欲求は未だ見つからず、何を指針に進めばいいのかヨナには未だ分からない。 ヨナの真っ直ぐすぎる愚直な生き方は、ベルトルドには眩しかった。 あの頃のヨナは自身が浄化師であることに何の疑問を持たず生きる姿に危うさを感じたものだ。本人が選んだ生き方ならベルトルドも口を出さなかったかもしれないが、それ以外に生き方を知らないヨナについ口出ししてしまった。だが、今になると感慨深くなる。 ベルトルドの言葉は時間は掛かったがヨナの心にちゃんと届いていたようだ。 自分が言った言葉を流すことも出来ず、真面目に悩んでしまう姿を見ていると、もう少し肩の力を抜けばいいのにとそう思う。 「急に気が付いて、浄化師に固執することこそ危険なのだと、でも他の拠り所を見つける事がまだ出来ない。私の負の感情が怪物化して助けて貰った時も他に無かった。それに焦りを感じます」 「そこまで分かってたなら焦る事はない。何でも挑戦して好きなものを探していけばいいさ。まずは……ダンスだな」 綺麗な衣装もアクセサリーもない。だが、ベルトルドがくれた機会を今度は断れるわけもなく、黒い毛並みが美しい手を取る。 広場に辿り着くと、振り香炉の前には人だかりができていた。 広場から少し離れたガゼボに、振り香炉と呼ばれる存在感のある黄金の香炉があった。 いつしか振り香炉は滑車にロープで吊され、正装を着た八人のヴァンピール達が頭上の高さまでロープで引き上げる。 「教会の鐘ぐらいの大きさだな。あれは純金でできてるのか?」 「ロープで繋がれているとはいえ、あんな重たいものを吊るして揺らすんですよね。事故は起きないんでしょうか?」 ベルトルドとヨナは互いに全く違う感想だが、情緒がないという点では一致していた。 八人がタイミングを合わせてロープを引っ張ると、香炉は揺れはじめ左右に大きな弧を描き揺れる。 「あれ天井近くまで上がってますけど、ぶつかりそうになってませんか?」 「このスピードで本当に大丈夫なのか……」 ヨナが振り香炉の勢いに呆然としている。ベルトルドですら若干引き気味に腕を組んだまま見ている。 神秘的だと感じる前に迷いなくすごい勢いで揺らされる香炉を見ると、滑車が壊れてしまわないかと不安になる。それ程、揺れる振り香炉は迫力があった。 ガゼボにしては妙に天井が高く、新しいのは事故が起きたからではないだろうか。ヨナはそんな疑惑が脳裏に過ぎる。 ここの住民は動じることなく歓声を上げているのを見ると、自分達の反応がおかしいのではないかという気になる。 あのピクシー達と日常生活を共にしているヴァンピール達なのだ。逞しく強かに生活しているんだろう。 揺れる香炉はもくもくと白い煙を吐き出し始めると、広場にまで白煙がゆっくりと広がっていき、霧が降り立ったような薄い煙が立ちこめ始める。霧の中では暖かくもあり、星々のような宝石を散りばめたような燐光が舞い始める。 「きれいですね……」 「ああ、星の中にいるようだ」 それ以上言葉はいらなかった。町を飾る星のランタンも美しかったが、白煙の魔術的な光景にヨナは目を奪われる。 (まるでヘスティアの火と同じく祈りの場のよう……) 夜の甘さを含む香りと樹木の温かみのある匂いに生命の息吹のようなポムドールが風に乗って吹き抜ける。 どこか神聖な空気が漂う中、しっとりと静かにワルツ曲が鳴り響く。歌うようなワルツは、夜風の中をたゆたうように曲が進んでいく。 「いくぞ、ヨナ……そんな決死じみた顔をしなくてもいいだろう」 「私そんな顔してましたか?」 「無意識か……お前はもう少し肩の力を抜くことを覚えた方がいい」 ヨナはベルトルドに手を引かれながら、煙の中に消えていくのだった。 ●『ラウル・イースト』『ララエル・エリーゼ』 先に支度が終わったラウルが貸衣装店内で待っていると、ラウルの目の前に冬の妖精が現れた。 「ラウル、お待たせしました。えへへ、このドレスキレイですよね」 「え、あ、そのララエルずるいよ……」 ララエルがくるりと回ると青いドレスがふわりと浮き、ラウルは顔を赤く染め、弱々しく呟いた。 「え? ラウルどうしたんですか?」 よく分かっていないララエルが首を傾げている。 ララエルが着ているのは、目立った装飾はあまりなくとも柔らかな透明感を持つ青のエンパイアドレス。 胸の下から裾に向かって広がるスカートはふわりと揺れて、冬の寒空に咲く一輪の青い花のようだ。 エンパイアドレスを纏ったララエルは幼い少女の無垢さを神秘さに変えて、大人っぽくさえあった。 ハートカットネックが絶妙にララエルの胸元を見せ、さらにチュールスカートのフロントがミディ丈でさりげなく足首を見せる仕掛けだ。後ろのドレープラインが広がりが歩く度に踊るように揺れる。 両サイドに入った星をモチーフにしたレースがお洒落だ。 ふわふわとした柔らかなチュールがより女の子らしい柔らかな肢体に触れたくなるドレスだった。それなのにどこか手折ることが出来ない花のようにも感じられる。 寒そうに露出した白い肩の上には落ち着いた色合いのショールがかけられている。 ラウルの視線に気づいたのか、ララエルは満面の笑みを浮かべる。 「ふわふわなのにとろりとした手触りが素敵なショールなんです!」 「……ちょっと露出が多くないかな。それに寒いじゃないかと思って」 「このショールに防寒用の魔方陣が刺繍されているから大丈夫です! それにこれくらい肌を出した方が普通だってお店の人が言ってましたよ?」 ペールブルーのショールには防寒の魔方陣の刺繍がさりげなく縫い込まれ、まるで模様のようだった。 ラウルは内心こんなに可愛い彼女を見せたくないという独占欲とよくこの衣装を選んでくれたと店員に感謝したい気持ちがせめぎ合っている。 「ララエル、よく似合うよ。なんだか、その、……綺麗だ」 誉め言葉を口にしようとするが、うまく言えない。 ララエルはラウルの言葉に目元を赤くし、蕾が花開くように表情を綻ばせた。 ――まるで物語に出てくる恋する乙女ね。 突然、誰もいないのに声がすると思ったら、ピクシー達が燐光を纏いながら姿を現した。「ラウル、見てください! 妖精さんです! 私達妖精さんに囲まれてますよ!」 ララエルは無邪気にピクシーがいきなり現れたことに喜ぶ。それを穏やかな目で見ていられたのは、ピクシー達のお喋りを始めるまでの事だった。 ――あれでしょ? 柔肌に触れたくなるってテーマの…… ――無垢な少女のドレスシリーズの一つね。 ――なるほど、触れてみたくなるドレスって触れ込みは確かのようね。 ――ほら、パートナーが骨抜きよ。まあ、本当だわ。 ――やるわね、あなた。 ピクシー達が好き勝手に話し出すのをラウルは呆然と聞いていたが、すぐに我に返り、 「わーっ! 頼むから、二人っきりにさせてくれ!」 からかってくるピクシーにラウルは懇願するように頼み込むと、ようやくピクシー達はクスクスとさざめく笑いを残して去っていった。 「妖精さんが消えちゃいました! どこへ行ったんでしょう?」 「……うん、どこに行ったんだろうね」 ララエルが首を傾げると、ぐったりとしたラウルが遠い目をして答えた。 二人は外に出ると、ララエルが感嘆の溜息を漏らした。 「ふわ……まるでここだけ別世界です」 星のランタンが彩る町は、時折ピクシー達が楽しげに飛び交っていたり、ヴァンピールの肩に乗って楽しそうにお喋りしている。 不意に楽しげにしていたララエルの表情が翳る。 「……あのラウル、この前のケガは大丈夫ですか?」 「あっああ、怪我は大丈夫だよ」 心配そうにラウルを見上げるララエルを安心させるように笑みを浮かべる。 「……あれだけ本音を叫んで死んだら、トーマス君に申し訳ないからね」 「トーマス君が無事で良かったです……でも、ラウルが怪我をしてしまうのはイヤです」 「うん、二人で強くなろう……トーマスくんがいつか浄化師になった時、二人で胸を張れるように」 ラウルの言葉にララエルはこくんと頷くと、いつもの無邪気で明るい笑みを浮かべていた。 ララエルは星のランタンに見惚れている振りをして、そっとラウルを横目で見ていた。 (今日のラウルはまるで王子様のようだわ……なんだかいつもと違って緊張してしまう……) 町を歩くラウルは堂々としていて、隣に歩く自分は釣り合わないんじゃないかと不安が過ぎる。 フランネル独特の鮮やかさは柄物によく合う。風合いが柔らかなフランネルのスーツはシルエットが美しく、紺のスリーピースはストライプのライン間隔を短くすることで近くで見なければ柄物だと気づかないだろう。 星が描かれたシンプルな金のネクタイピン。深紅のチーフやネクタイに追加することで遊び心がありながらも、彼の美しい所作がシックで落ち着いた雰囲気を醸し出していた。 通行人やピクシーの視線を集めているのにラウルはとことん周囲の視線に無頓着だった。ララエルはそんなラウルに気が気ではなく、彼の手を握りしめた。 ラウルは少し目を瞠ると口元を綻ばせ、握り返してくれた。そのことにも安心したが、ラウルがホットチョコレートの屋台を発見し目を輝かせたのを見て、いつものラウルだと分かってようやくララエルは緊張が解けた。 ホットチョコレートを買った二人は、屋台の傍に設置されたテーブルに座る。 濃厚なチョコレートの香りに混じるラベンダーの香りが贅沢な大人のホットチョコレートを満面の笑みで飲む。触れている手が温まり、背伸びした味わいはちょっぴりほろ苦くて、温めたミルクで溶かしたチョコレートは甘くて幸せな気分になる。 ラウルはホットチョコレートの中でも一番甘いものを当たり前のように選んだ。マシュマロを入れれる限りと注文し、店員をどん引きさせていたが、当の本人は「もっと甘くていいのに……」と呟きながらも満足げに飲んでいた。 チョコレートの芳香に負けることなく麗しい香りが漂う黄金の果実が大皿の上にたくさん積み重なっている。 「ポムドールか、気になるな……」 「ふふふ、ラウル。ポムドールは妖精さんにお願いをしないといけないんですよ」 「よ、妖精に? そうなの?」 そういう風習なのかなとラウルは首を傾げつつ、ララエルが楽しげに魔法の呪文を口にしていた。 「妖精さん、妖精さん、ポムドールの実を、くださいな!」 クスクスと誰かが囁くように笑う声が再び聞こえる。 ――どうぞお食べなさい。お願いしてくれたことだし、もっと美味しくしてあげなくちゃね。 ふわふわと蛍火にしては大きな光がララエルの周りを行き交い始める。 ララエルの前にポムドールを数人で抱えたピクシー達。ララエルは慌ててポムドールを受け取る。 「ありがとうございます、妖精さん!」 ピクシーはお礼に気をよくし、ポムドールの果実に「おいしくな~れ!」とたくさんの祝福をかけていた。 二人が実際の風習を一部誤解しているのだが、勘違いを正すものは誰もおらず、ピクシーたちは面白がっていた。 ――教えなくていいの? しー、黙っておいた方が面白いわよ、きっと。 ――素敵なドレス……私達みたいな格好に似てるわ。海ってこんな感じなのかしら? 来年はもっと明るい色にしようかしら? 「んっ、あまーい♪ 美味しいです」 「僕も、僕もお願いします!」 ――おいしくなーれ! ――あーあ、信じちゃってるよ。まっ、いいっか。 複数のピクシーが重複して美味しくなるようにと魔法をかける。 ポムドールはまるで宝石のような美しさで、一口齧ると蜂蜜のような透明感ある果肉が見える。 舌の上に芳醇に広がる鮮烈な甘酸っぱさは複雑な甘みと酸味が見事に調和しながらも濃密で奥行きのある味わいなのだ。 今まで食べた果実とは比べものにならない程、美味しい。 その繊細な味は噛みしめる度に幸せな気持ちを思い起こすほどだった。 次に甘いものに目がないラウルが購入したのは二つの菓子パンだった。 パネットーネはドライフルーツをふんだんに混ぜ込んで焼き上げた甘く柔らかな菓子パンだ。 逆にドライフルーツが入っていないもののことをパンドーロと呼ばれ、星形の円錐型が特徴で、卵たっぷりの口溶けの良さと甘く柔らかな食感は後を引くおいしさだ。 そのまま食べても美味しいが、お店で売られているものにはパンドーロをアレンジしたものも売られていた。 パンドーロを横にスライスすると金太郎飴のように星形のスポンジができる。それをフランボワーズやブルーベリーと生クリームを挟んで積み重ねていくと小さなクリスマスが出来上がる。ラウルはそれを購入するか最後まで迷っていたが、これを教団まで持ち帰るのは難しく、渋々断念していた。 ラウルはできるだけ日持ちするお菓子を購入していたが、ララエルも可愛らしいクッキーが売られているのを見て買うかどうか迷ってしまった。 普通のジンジャーブレッドだが妖精の羽の形をしており、ホワイトチョコで細やかな羽模様が描かれていて、作り手によって微妙に翅脈が違うのだ。 食べるのがもったいない可愛さで絵柄の精巧さにお土産としてララエルが買ってしまうのは仕方がないことだった。 パネットーネに生クリームやバニラアイスを添えて食べるのも美味しく、次はザバイオーネというカスタードクリームのようなコクとふわふわな口溶けが特徴のソースだ。 もちろんラウルは迷うことなくトッピングも全部注文していた。 「ラウル、このソースにポムドールをかけると美味しいですよ」 「うん、……今の内に食べておかなくちゃ駄目だ……持ち帰れないんだから」 今回外で食べることを考慮してザバイオーネソースは温められており、ポムドールに浸けて食べたり、ビスケットで掬いながら二人は食べる。 食事が終わるとちょうど振り香炉の鐘の音が鳴り響いていた。 広場はすでに深い霧に包まれ、星が散りばめられたように仄かに光る。 「ララ、手を……」 「ラ、ラウル……私ダンスした事がなくて……」 紺のスーツを着たラウルはまるでお伽噺の王子様のようでララエルはどきりとする。ラウルが折角手を差し出してくれるのに、ララエルは戸惑いの表情を見せながら佇んでいた。 「大丈夫だよ、ララエル。この煙の中じゃ誰も見えやしない……それに僕がリードするから身を委ねて」 優しくララエルに声をかけると、おずおずと白い手がラウルの手を取る。 手を重ね、腰に手を当ててワルツの最初の一音が鳴り響くのを待つ。近づいた体にララエルは心臓が高鳴り、ラウルの紅玉の瞳と目が合うと顔が赤くなる。 ちゃんと踊れるだろうかと不安と恥じらいの影を揺らすララエルは、愁いを帯びていても彼女の無垢な美しさは損なわれることはなく、ラウルはもっと困らせたいという残酷な気分にもなる。 最初は物悲しかったメロディーも賑やかな夜にふさわしい軽快な明るいものへと段々と変わり始める。 「ララ、僕に合わせて……」 ララエルの耳元で囁くと、朱に帯びた顔には恥じらいの色が見える。 くるりくるりと優雅に広場を回転しながら、ターンを繰り返す。 ララエルはラウルにリードされるまま夢中で踊る。 「そうそう、上手だよ、ララエル」 ララエルをリードしながら、誉めながら教えるラウル。 初めてのダンスだが、ラウルのリードで踊るとまるで自分の身体じゃないみたいに踊れ、ララエルはいつしか心から楽しんでいた。 「ラウル、ダンスって楽しいですね!」 最初の憂いはどこにもなく、ララエルは心の底からダンスを楽しんでいた。 まとめられた銀の髪には星をちりばめたカシューシャをはめている。 不意にララエルの項が見えて、どきりと心臓が跳ねる。ドレスに合わせて緩く編み込まれたシニヨンスタイルだと後れ毛がなんだか色っぽい。 「ラウル、ラウルそういえば、クリスマスの予定はありますか?」 「……クリスマスの予定?」 そんなことを考えてダンスをしていると、ラウルは返答に遅れてしまう。それを不自然がないように取り繕いながら答える。 「うーん、そうだな……自室に籠もって残っている本を読むかな?」 「自室に籠もって読書……」 そうララエルは反芻しながら、何かを思いついたように悪戯っこのような表情を浮かべた。 (キュピーン、ふふふ、これはクリスマスケーキを買って渡しに行くチャンスです! 一緒に食べたらきっと美味しいはずです!) 残念ながら手作りという選択肢はない。でも、甘いものが大好物であるラウルなら絶対喜ぶ筈だという確信があった。 わくわくとする予定が決まり、クリスマスが来るのが待ち遠しくなる。 「ララは何か予定はあるのかい?」 「わ、私ですか? えへへ、秘密です♪」 ララエルは急に尋ねられ、上擦った声で誤魔化した。 何か隠していますと顔に書かれているが、ララエルが楽しそうに笑っているのでラウルは深く追求することを止め、当日を楽しみにすることにした。 二人はスターリー・ナイトが終わるまで踊りあかした。
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*** 活躍者 *** |
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[8] ナツキ・ヤクト 2018/12/17-19:16 | ||
[7] ヨナ・ミューエ 2018/12/17-18:45
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[6] ヨナ・ミューエ 2018/12/17-13:46
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[5] ララエル・エリーゼ 2018/12/17-08:17
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[4] ナツキ・ヤクト 2018/12/17-02:14
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[3] ラウル・イースト 2018/12/16-10:03
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[2] ヨナ・ミューエ 2018/12/16-08:44
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