【神契】洞の掃除と空下の宴
簡単 | すべて
6/8名
【神契】洞の掃除と空下の宴 情報
担当 駒米たも GM
タイプ ショート
ジャンル イベント
条件 すべて
難易度 簡単
報酬 少し
相談期間 3 日
公開日 2020-07-22 00:00:00
出発日 2020-07-28 00:00:00
帰還日 2020-08-06



~ プロローグ ~

「我(わ)は浄化師と契約をしようと思う」
「待て、唐突過ぎて話が見えん」

 島国ニホン、フクシマ藩。
 抜けるような青い空。沸き立つような白い雲。青々とした山の稜線と裾野に広がる沼地の水芭蕉。
 こんもりとした巨大苔のような神木の下、古びた社の縁側に座った二つの影が同時に茶を啜った。
 伸びた枝葉のような髪。千草と朽葉の色を重ねた大袖の着物。
 いつでも眠っているかのように瞳を閉じているこの麗人こそ、フクシマ藩に住まう八百万が一柱。ミズナラである。
「以前、洞窟に夜明け団が棲みついた事があったろう」
「ああ、あの時は世話になった」
 ミズナラの隣に座るのは縮れ毛の大鬼。巨躯に似合わぬ繊細な手付きで茶の入った椀を空にした。
「我は何もしておらん。とにかく、その時浄化師たちに言うたのだ。力を貸すと」
「ほぉう。で、今がその時って訳かい」
 小さくミズナラは首肯する。
「しかし試練の内容に悩んでおる。『汝らの力を見せよ。さすれば我の力を貸してやる』というのも、我らしくあるまい。ゆえに汝に知恵を借りようと呼びつけたわけだ」
「ははぁ、そいつは困った相談だ。俺も世話になった身なんでね、正直何もせず力を貸してやりてぇ」
「……そうか。そうであろうな」
 ミズナラは長い長い溜息をついた。
「ん、どうした。雨降小僧?」
 鬼の目の前には傘をかぶった小さな鬼が一匹、箒を片手に立っていた。
「洞窟の掃除を頼む? それでは試練にならねえぞ」
「いや、それは良いかもしれぬ。雨降小僧、よくやったな。褒美に飴をやろう」
 
 鬼の住む鍾乳洞は自然の迷宮である。
 中には放置された数多の祭具が転がっており、中には付喪神と化したモノも居るという事だ。
 その総数は大家である鬼も把握しておらず「またチビが増えたか?」という程度である。
「闇に潜んだ悪ガキの相手をしつつ、洞窟の中に放置された祭具やら自然やらをできるだけ整えて欲しい」というのが試練らしい。
「雨降小僧や狐火などは久しぶりにかくれんぼができると大喜びでな。見つけてやれば満足するだろう、あとは上手く使ってやれ」
「終わったら昼餉にしよう。何が食べたい? 西瓜も冷やし飴もあるから頑張ってくれ」
「遭難に気をつけろよ」
 ミズナラと鬼は並んで竹箒を手渡してきた。

 浄化師とは。そして契約とは一体何なのか。
 その謎をつきとめるべく、浄化師たちは洞窟の奥へと向かった――。


~ 解説 ~

こちら二部構成のシナリオです。
洞窟内を掃除するパートと、その後の打ち上げパート。
どちらもミズナラ達との友好度を上げることができます。


【目的】
 洞窟内のガラクタ、もとい祭具を整理・修繕せよ
 洞窟にいる付喪神を可能な限り発見・捕獲せよ

【舞台】
 非常に広く入り組んだ鍾乳洞と、その前に広がる丘陵地帯です。
 村祭りで使った祭具が洞窟のあちこちに放置、もとい奉納されています
 いくつかは妖怪(付喪神)と化しているようで、その辺をお神輿が四足歩行しています 


【敵?】
 付喪神。物珍しさから遊んでもらおうと掃除の邪魔をしてきます
 イタズラをしかけてくる子もいるので、破壊しないよう注意しながらあしらってください
 非常に単純な子が多いです

【味方?】
 付喪神。前回、浄化師に助けられたことを覚えている子たちです。
 かくれんぼだと勘違いしていますが、見つけると浄化師たちを手伝ってくれます
 

【お掃除後】
 洞窟の外にある平原でミズナラたちがニホンの料理を振る舞ってくれるそうです
 食べたいものがあれば事前にリクエストしておきましょう
 また、掃除には参加せずにミズナラや鬼と一緒に料理の準備をすることもできます
 打ち上げが終わったあと、契約となります


~ ゲームマスターより ~

こんにちは、駒米と申します。

こちらはかつて浄化師たちと縁があったニホンの八百万の神ミズナラと契約できるイベントです。
登録されると彼、または彼女が八百万の一柱として召喚できるようになります。


ミズナラ
メインフェイズで属性を指定。召喚中、指定属性の攻撃力を25%上昇させる。
1R後に対象エピソードから撤退。
フクシマ藩に住む八百万の神。高貴な気質で心配性。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

ショーン・ハイド レオノル・ペリエ
男性 / アンデッド / 悪魔祓い 女性 / エレメンツ / 狂信者
…これは人選ミスじゃあないか?
呑気なドクターを見つつため息一つ
どう考えても掃除はドクターに不適格だ
さてどうするべきかと思った矢先、ドクターが勝手に隠れんぼを始めたのを見て頭を抱える
…俺は黙って仕事をするか
竹箒で地面を掃きながら壊れた祭具があるかを確認
贋作を作るのは得意なんだが…直せるだけ努力してみよう
打ち上げの際はとりあえずシリウスの皿に食事をよそう
お前は怪我も多いんだ
身体を修復する為にも材料ぐらい摂れ
ドクターには美味しそうなものをお渡しする
…何か、大変満足そうなお顔をしていますが?
打ち上げ前に付喪神を引き連れて神輿に乗って帰ってきたのはびっくりしたが…まぁ楽しそうなら何よりだよな
リチェルカーレ・リモージュ シリウス・セイアッド
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / ヴァンピール / 断罪者
ミズナラ様 鬼さん お久しぶりです 
雨降小僧さんも 元気だった?
満面の笑みでご挨拶
洞窟のお掃除 任せてください
シリウスの呟きに頬を膨らませてそっぽを向く

洞窟の中へ 
見つけた祭具を これは神楽の楽器、こっちは飾りと仕分け
綺麗な布で乾拭きし 痛んだ紐は新しく
近づいてきた付喪神たちに
どこか壊れちゃった?おいで 直してあげる
笑顔で手招き
首筋をくすぐられて悲鳴
きゃあ!もう 悪戯した子は誰?
笑顔で追いかけっこ
夢中になりすぎて 足元が消えたのに気づかずに
…っ!?
見上げた先に 青くなったシリウスの顔
ごめんなさい …ありがとう

美味しそうな昼餉にぱっと笑顔
この餡蜜 美味しい
山盛りの料理に呆然としているシリウスに笑い声
頑張って食べなきゃね?
アリシア・ムーンライト クリストフ・フォンシラー
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / アンデッド / 断罪者
お掃除と、お片付けを、お手伝いすれば、いいのですか?
それでは、頑張りますね
…クリス?ちゃんと片付け、しますよね?

壊れてる物と無事な物を仕分け
無事な物は丁寧に拭いてあるべき場所へ
壊れた物はクリスへ
壁や床や天井も綺麗に埃を払って拭き清めましょう

そう言えば、付喪神さん達も、いるのですよね
コンタクトで魔力探知したら、見つけることができるでしょうか
もし見つけられればこっそりクリスにも教えて


付喪神さん達に会えたら
「アリシアと言います」と挨拶
あの、皆様のお名前、聞いてもいいですか?
仲良くして、頂けると、嬉しいです

食事時
食べ物を運ぶクリスの姿に思わずくすり
クリス、私にも、そうめん、ください
一緒に、食べましょう
ヨナ・ミューエ ベルトルド・レーヴェ
女性 / エレメンツ / 狂信者 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
ミズナラ様も鬼の方もお元気そうで何よりです もちろん雨降小僧さんも
掃除が試練…?とは思いましたけど、この洞窟とても広いですしね
隅々まで目を行き届かせるのも大変ですし、これを機に皆で綺麗にしてしまいましょうか

掃除
ヨ …とは言ったものの 本当に広い… ちゃんと終わるんでしょうか
  あら こんなところに隠れていた子が 良かったら手伝って貰えますか?
ベ なあヨナ ちょっと助けてくれ

振り返ると付喪神にいたずらされまくり耳も尻尾も垂れて困り顔の喰人
吹き出しそうになるのを堪え

ヨ 随分と人気者ですね 悪気があってのことではないですし
  鬼ごっこでもして来ては? その間にこちらも進めておきますし
タオ・リンファ ステラ・ノーチェイン
女性 / 人間 / 断罪者 女性 / ヴァンピール / 拷問官
掃除が試練?本当にそれだけなのでしょうか……
だって、この間の試練はあんな…… い、いえ、疑ってばかりではいけませんね

ステラと二人で鍾乳洞を掃除していきます
まずは埃を落として、それから掃き掃除、最後に拭き掃除をしていきます

付喪神さん達は祭具に憑いているのなら、綺麗にしてあげれば満足してくれるんじゃないでしょうか
整列させて、順番に自分達の祭具を洗ってあげましょう

サク・ニムラサ キョウ・ニムラサ
女性 / ヴァンピール / 悪魔祓い 男性 / ヴァンピール / 陰陽師
サクラ:ミズナラ?花みたいな名前ね。
キョウ:八百万、らしいです。
サクラ:……
キョウ:サクラ?
サクラ:…ここは面白いわね!(四即歩行お神輿を見ながら)
キョウ:待ってください追いかけないで!そっちじゃないです!
サクラ:もう。仕方ないわねぇ。
キョウ:さてはミズナラ様の話をしていたこと完全に忘れてますね?

【行動】
サクラ
さあお片づけをしましょう
隠れている可愛い子たちはどこかしら?
出てきてくれたら一緒にお喋りしたら甘い物を食べる事が出来るのに。
残念だわぁ。
イタズラをする悪い子はどこかしら。
私はもっと悪い子だからあなた達に悪戯しちゃうかもねぇ。
……綺麗だから見せているだけよ?
面白い子ばかり。さわっても良い?


~ リザルトノベル ~


 契約したければ、洞窟の掃除をしてくれ。
 そんな奇妙な指令を受け取った浄化師たちは当方島国ニホンのフクシマ藩へと向かった。
 桃の季節なのか、空気の中に薄らとした甘い香りが漂っている。
 待ち合わせ場所である鍾乳洞はすぐに見つけられた。
 草原の中に巨大な岩山がそびえたっている。
 岩山を守るように木立ちが並び、涼やかな音を立てる清流の上には朱塗の眼鏡橋がかけられていた。
「遠方よりよう来てくれた。初めて会う顔もいるな。我はミズナラ。汝らを呼び寄せた八百万が一柱よ」
 男か。女か。
 和服の麗人が、団扇と七輪を抱えたままキリッと出迎えた。
「おう、洞窟の中でガキどもがお待ちかねだぜ。飯ができたら迎えをよこすからよ。まあのんびり掃除してくれや」
 筋骨隆々とした鬼が川辺で巨大な鍋を洗いながら手を振る。
「……」
 よろしくお願いします、と笠をかぶった小鬼が竹ボウキを差し出した。




「わー、洞窟だー」
 ぽっかりあいた鍾乳洞の入り口に目を輝かせる『レオノル・ペリエ』。そして彫りの深い顔に薄暗い陰を落とした『ショーン・ハイド』。
「……これは人選ミスじゃあないか?」
 ドクターに掃除。
 その言葉を呟くたびにショーンの影が色濃くなる。
 溜息をつくショーンの隣でレオノルは手持ちぶさたにホウキを揺らしてみた。次に何をすれば良いのか、なんて到底聞ける雰囲気ではない。
「うーん」
 どうしたものかと青空を見上げたレオノルの足を何かがつついた。
「遊びたいのかな?」
 足元の影から三匹の黒い丸が顔を覗かせコクコクと頷いていた。
「何がしたい? かくれんぼ? よーし、なら洞窟まで競争だー」
「ドクター!?」
 駆けるレオノルと影鬼たちの後ろ姿。一拍遅れてショーンは頭を抱えた。
「下手に掃除をさせるよりもドクターには付喪神の遊び相手になってもらったほうが良いな……俺は黙って仕事をするか」
 ひんやりと冷えた鍾乳洞の中には壊れた祭具が山のように置かれている。ショーンは視線を巡らせ、案外、簡単に修復できそうな物が多いと安堵した。
 カンテラを傍に置いて手近な柄杓を手に取る。
「贋作を作るのは得意なんだが。直せるだけ努力してみよう」
 その言葉に。
 積まれたガラクタの山が一斉に眼を開いた。
「ここ、魔力が多いねー。んーー?」
 一方その頃、ぼんやりと薄明るい曲がり角にレオノルは首を傾げていた。
 金の装飾で彩られた神輿がこちらに歩いてくる。
 担ぎ棒を器用に曲げ神々しく四足歩行する姿は輝ける獅子の如し。
 その宝珠部分はちろちろと青く燃えていた。
「あー、狐火ちゃん見ーつけた!」
「!」
 神輿の宝珠がふわりと浮かび上がる。
 くふくふと嬉しそうに笑うと、ちいさな狐火はレオノルの肩へと乗った。
「今、付喪神とかくれんぼしてるんだ」
 撫でてと額を押しつけてくる狐火を指でくすぐりながらレオノルは神輿を見やった。
「君もかくれんぼ、手伝ってくれない?」
 貫禄のある神輿は少しだけ悩む様子を見せたが仰々しく頷いた。
「ほら、直ったぞ。さあ次は誰だ」
 ショーンを囲むように付喪神の輪ができている。喜ぶ鈴を軽く撫でてやり、近づいてきた気配に新たな付喪神かと振り返る。
「あ、ショーンだ、やっほー。疲れたしもうお腹ぺこぺこーー」
「!?」
 ドクターが、神々しい神輿に乗って、帰ってきた。
 何故?
 あまりの情報量の多さにショーンは完全に固まった。


「ミズナラ様、鬼さん。お久しぶりです」
「これはしりうす殿、りちぇ殿」
「おう、久しいな!!」
 互いに弾けるような笑顔を浮かべ『リチェルカーレ・リモージュ』は丁寧な所作で頭を下げた。『シリウス・セイアッド』も軽い目礼で互いの息災を喜ぶ。
「雨降小僧さんも、元気だった?」
 リチェの問いかけに雨降小僧は元気に飛び跳ねることで答えた。柔らかく目を細めたシリウスが軽く雨降小僧の笠を撫でてやる。
「洞窟のお掃除、任せてください」
「……迷子にならないと良いが」
「もうっ」
 ぼそりと零れたシリウスの呟きにリチェルカーレは頬を膨らませてそっぽを向いた。
「相変わらず、仲が良い」
「地底湖に足を滑らせんように気をつけろ。あそこは深いからな」
 提灯を手渡しながらミズナラは苦笑を浮かべ、その背後では鬼が腹をかかえて笑っていた。
「これは神楽の楽器、こっちは飾りかしら」
 地底湖近くに建てられた小さな祠の中で、リチェルカーレは手際よく祭具を仕分けていく。ガラクタのようなそれらも手早く乾拭きをし、痛んだ紐を新しい物へと付け替えれば新品のように輝きを取り戻した。その手元をのぞき込もうと小さな付喪神たちが背伸びをしている。
「どこか壊れちゃった? おいで、直してあげる」
 横目で見守りながら、シリウスはリチェルカーレには届かぬ高段の埃や蜘蛛の巣を払っていた。シリウスの足元にはやんちゃ盛りの小さな付喪神たちが集い、体当たりをしては弾かれている。
 コロコロ転がり、またシリウスの足にタックル。どうやら彼らなりに楽しんでいるようで、危険は無いと判断したのかシリウスの方も付喪神たちの好き勝手にさせている。 
「きゃあ!」
 リチェルカーレの悲鳴にシリウスは振り返る。見れば彼女の細い首筋を黒い影法師がくすぐっていた。
「もう、悪戯した子は誰? シリウス。これも飾ってね」
「足元が悪い。気をつけ――」
 シリウスに朱色の鬼灯を手渡し悪戯小僧たちと戯れようとリチェルカーレが祠の階段を下りた時だった。彼女が踏み出した足の先に暗がりがぽっかり穴を開けているのを、誰よりも早く気付いたのはシリウスだった。
 宙をきるリチェルカーレの足と、青白い地底湖へ向かって広がる髪。
 眼前に大きく広がる青褪めたシリウスの顔。伸ばされた腕が華奢な身体を受け止める。
「……気をつけてくれ」
「ごめんなさい、……ありがとう」
 申し訳なさそうな表情で謝られてしまえば、これ以上責める言葉はかけられない。
 深く息をついたシリウスの指の隙間で、リチェルカーレと共に落下をまぬがれた付喪神が『おっ!』『おっ?』と二人を見上げていた。


「?」
 誰かの声が聞こえた気がして『アリシア・ムーンライト』はふわりと顔をあげた。
「どうかしたの」
 『クリストフ・フォンシラー』に、なんでもありませんとアリシアは首を横に振る。
 彼女の手には磨かれた鏡面が輝いていた。
 曇りの晴れた鏡面は美しい輝きを取り戻したが周りを彩る装飾が外れている。
 このままでは祭具として使えないだろう。
「そう言えば、付喪神さん達も、いるのですよね」
「この辺にもいるのかな」
 鍾乳洞の中に隠れているという話は聞いているが、まだ二人の前に姿は現していない。
 シャイなのか。
 それともかくれんぼをしているつもりなのか。
 時折、アリシア達を伺う視線を感じるので、興味をもたれているのは間違いないのだが。
 一度瞬きをしたあと、アリシアの紫瞳に陣が浮かび上がった。
 視界の中に魔力の集う部分が輪郭として残される。
「あちらに、いらっしゃいますね」
 細い鎖をシャラリと指にからませ、鏡をクリストフに手渡す際にこそりと打たれた静かな耳打ち。
 彼女の視線を追いかけたクリストフも黒い何物かの影を見ることができた。
 敵意は無い。
 ただし、そわそわワクワクとした感情を全身にみなぎらせている。
「本当だ」
(柱に隠れながら徐々に距離をつめている。もしかして驚かせるつもりかな)
 気づかれないようにクリストフは相手を観察する。
(彼女に危険がなければ、まあいいか)
 曲がった金具を器用に直しながら僅かに笑って見せた。
『客人よ、気に障ったのならすまぬ。あのヤンチャ坊主どもは人の驚く顔を見るのが好きでな』
 鏡の中から声がして、二人は思わず手の中の物を凝視した。
「まあ」
 アリシアがとっさに口元に手をあて、頭をさげた。
「こんにちは、アリシアと言います。仲良くして、頂けると、嬉しいです」
「俺はクリストフと言います」
『わしの名は鏡鬼。直してくれて感謝するぞ。ありしあ殿、くりすとふ殿』
 のんびりと鏡は笑った。
「あの、あちらにいる彼らは?」
『恥ずかしながら、わしの眷属じゃ。今すぐ止めさせ……』
「いいえ、大丈夫ですよ。折角だから驚いてあげましょう」
『ばあ!』
「うわ、びっくりしたー!」
 クリストフ迫真の演技に小鬼たちは上機嫌でくるくると踊る。
『ケケケケッ』
「君たちは誰? もしかして暇かい?」
『我らは影鬼!』
『影に潜みし、なんかアレな存在!』
『現在、とても暇しております!』
 なら丁度よかったとクリストフは微笑んだ。
「暇なら一緒に片付けをしないか? そしたら遊んでやれるんだけどな」
『おおー!』
『我らの本気をお見せする時がきたようだ!』
『終わったら、もう一回おどろいてね!』
『単純な……いや、お主の相方が上手なだけじゃな』
 呆れたように呟く鏡を抱え、アリシアは満足げに微笑んだ。


「……食欲がない」
「お前は怪我も多いんだ。身体を修復する為にも材料ぐらい摂れ」
「このそうめんだけでもいいから食べとけよ」
 おかずを山盛りにされた皿をショーンから渡され、シリウスはげんなりとした顔で首を横に振った。
 クリストフの盆の上にはシリウスの為によそってきたのだろう。そうめんや蕎麦に茶わん蒸しといった食べやすそうなものが乗っている。
 木匙を使って器用にあいすくりん入りの餡蜜を食べるリチェルカーレは楽しげにその様子を見守っていた。
「頑張って食べなきゃね?」
 微笑みながらリチェルカーレに言われてしまえば否とは言えず。遂に根負けしたシリウスが箸を取る。
 アリシアもまた柔らかく唇のはしに笑みを浮かべた。視線の先には生姜を摩り下ろした焼き茄子を取り分けるクリストフの背中。

「クリス、私にも、そうめん、ください」
「お待たせ、アリシア。先に食べていても良かったのに」
 クリストフはアリシアへと硝子の椀を渡した。
 絹糸のようなそうめんの中に一筋、愛らしい薄桃色が収まっている。
 珍しい色付きはアリシアのためにわざわざ残していたもの。
「クリストフの心遣いにほんのりとアリシアは目じりを緩め、ぽんぽんと自分の隣を叩いた。
「一緒に、食べましょう?」

「おや。何か、大変満足そうなお顔をしていますが?」
「へへへ、そう見える?」
 穴子と青シソの天ぷらに蓮根と鯛の手毬寿司。色鮮やかな一皿を手渡されたレオノルの顔がゆるむ。上機嫌。そう言われてみると、そうかもしれない。
 親しい友人たち、美味しいご飯、鍾乳洞からの涼しい風。木陰で眠る神輿と狐火。
 首を傾げた拍子に、結んだ銀の髪がさらりと揺れた。
「お腹すいたから何たべても美味しいよね」
 んーっと噛み締める至福の表情。空腹は最高の調味料とはよく言ったもので。
「ショーン、だし巻き卵ってある!? 私あれ食べたい!!」
「はいはい、いま取ってきますね」
 満足そうなレオノルが見られただけでも善しと、ショーンは再び立ち上がった。



「よな殿、べるとるど殿! 再び元気な顔が見られて嬉しく思うぞ」
「ミズナラ様も鬼の方もお元気そうで何よりです。それに」
 もじもじと笠をかぶった小鬼がミズナラの背中から顔を半分覗かせている。
「もちろん雨降小僧さんも」
 『ヨナ・ミューエ』の言葉に、雨を司る小鬼は顔を輝かせた。
「掃除が試練? とは思いましたけど、この洞窟とても広いですしね。これを機に皆で綺麗にしてしまいましょうか」
 やる気を見せるヨナであったが、改めて鍾乳洞の中へ足を踏み入れるとその自信が急速に萎んでいくのを感じた。
「本当に広い……ちゃんと終わるんでしょうか」
 くたびれた祭壇があちこちに放置されている。以前、陣を追っていた時には気づかなかったが、随分と数が多い。
 共に来た浄化師達と手分けをして掃除することになっているが、果たしてどれだけ出来るだろう。
「……なあヨナ、ちょっと助けてくれ」
 今まで無言を貫いていた喰人が声をあげる。
「!!」
 そこには小さな付喪神たちにしがみつかれて困り顔の『ベルトルド・レーヴェ』が立っていた。自由過ぎる相手に本当に弱りきっているのか、耳も尻尾もシュンと垂れている。
 ヨナの脳裏にクリスマスツリーという単語が過ぎったが、それを言葉に出すことは辛うじてしなかった。代わりに咳払いで場を誤魔化す。
「……随分と人気者ですね」
 吹き出しそうになるのを堪え、何とか言葉を紡いでみるも震える語尾までは隠せない。
「悪気があってのことではないですし、鬼ごっこでもして来ては? その間にこちらも進めておきますし」
「作業にならないくらいならそうするか」
 ベルトルドは一声唸ると獣の姿へと変化した。ふるりと身体を揺らした拍子に、パラパラと付喪神たちが落ちていく。
「よぉしお前達、俺を捕まえてみろ」
『よしきたー』
『うおおおー』
 やる気満々の付喪神と彼らの歩調に合わせて逃げるベルトルドに、いってらっしゃいとヨナは手を振った。
「おかえりなさい。あら」
 雨降小僧と共に祭壇を整えて回っているとベルトルドたちが神輿と共に帰って来た。
 丁度綺麗になった祭壇に案内すると、神輿は猫のように脚を折り鎮座する。
「ふふ、丁度良かったですね」
「そうだな……ん?」
 小鬼たちが示す方を見れば座布団がこちらにむかって飛んでくる。
 迎えだ。どうやら宴の準備ができたらしい。
「これはサービスが効いているな」
「ええ本当に」


「掃除が試練? 本当にそれだけなのでしょうか……」
 むむむと『タオ・リンファ』は聡明な眼差しを細めた。そこに浮かぶのは疑いの色。
「だって、この間の試練はあんな……い、いえ、疑ってばかりではいけませんね」
 頭を振って悪い考えを頭から追い出す。
「おー! ここ面白いなー! とげとげしてるし、つるつるしてるぞー?」
 ぞー、ぞー、ぞー……。
 反響した声が遅れて奥からも聞こえた。
 両手を広げた『ステラ・ノーチェイン』はワクワクと洞窟の中を見渡している。
 よく見れば、ぼんやりとした乳白色の石灰岩で壁面は覆われている。
 微かに聞こえる水の音は洞窟内を流れる地下水か、流水か。どこかに繋がっていることは間違いないだろう。
「鍾乳洞です、地下に流れ込んだ水が何年もの歳月を経て作る洞窟なんですよ」
「水ってすごいんだなー」
 タオが説明をすると感心と得心を織り混ぜた顔でステラは頷いた。
「マーがばしゃー! って出すやつがなんで強いかワカったぞ!」
「ばしゃー……」
 心なしか、腰に挿した化蛇がショボンとした気配をまとわせる。
「マー、ステラたちはこれから何をすればいいんだ?」
 そうですね、とタオは鍾乳洞の中を見渡した。
 手分けをするとは言え、埃まみれの祭具に泥だらけの社と掃除が必要な場所は至る所に存在している。
 一体いつから掃除をしていないのか。
「まずは埃を落として、それから掃き掃除。最後に拭き掃除をしていきます」
「そうか、わかった!」
「ひゃあっ!?」
「マー!? どうしたっ」
 タオの悲鳴にステラは目を丸くする。
「だっ、誰ですか!! お尻を触ったのは!?」
 振り返ってみれば付喪神だろうか。小さな食器達が二人の足元でワイワイと盛り上がっている。
 タオは埃まみれの祭具を見た。さっきまで積まれていた食器が、すべて無くなっている。
 そして付喪神を見下ろした。
「良い子は洗ってあげようと思ったのですが」
 鍾乳洞の中に静寂が満ちた。
 ……すっ。
『!?』
 こいつです。こいつがやりました。
 全員が一斉に蝙蝠羽の格衣を売った。
 清々しいほど、迷いなく。
「……分かりました」
 教師の如くタオは手を叩いた。
「もう悪戯をしないと言うなら洗いましょう。さあ皆さん順番に並んでください」
「よーし! こーい!!」
 気合は十分とばかりにステラは腕をまくった。


 鍾乳洞の中、並んで歩くのは『サク・ニムラサ』と『キョウ・ニムラサ』の二人。
「ミズナラ? 花みたいな名前ね」
「八百万、らしいです」
 ぴちょん。天井から滴り落ちる水滴は、長い年月を経て洞窟を支える白い柱と化している。
「……サクラ?」
 返事の無いサクに、思わしげにキョウが声をかけた。
「ここは面白いわね!」
 その視線の先には軽やかにスキップする神輿の姿。
「待ってください追いかけないで! そっちじゃないです!」
「もう。仕方ないわねぇ」
 仕方なしに戻ってくるとサクは腰に手を当てた。
「さてはミズナラ様の話をしていたこと完全に忘れてますね?」
「まさか。さあお片づけをしましょう」
「はいはい……おや」
 キョウは首を傾げた。先ほど移動させた神棚や花器が元の位置に戻っている。
「おかしいな」
 くすくす、だれかの笑い声。
 竹箒を地面につけて白柱の陰に視線をやれば、こそこそと隠れる小さな影たち。
 犯人の目星がついたサクは、あーあと大げさにため息をついてみせた。
「隠れている可愛い子たちはどこかしら? 出てきてくれたら一緒にお喋りしたら甘い物を食べる事が出来るのに。残念だわぁ」
『えっ、あまいもの?』
『おかし?』
『こらっ、見つかっちゃうでしょ!』
 その声に、サクの口元にニマリと笑みが浮かぶ。
 カツカツと靴音を反響させて柱の陰に近づいていく。 
「イタズラをする悪い子はどこかしら。私はもっと悪い子だからあなた達に悪戯しちゃうかもねぇ」
 きゅうっと紫色の瞳が細くなる。
 サクの手には鋭い鏃。敵を一撃で貫く鋭い刃先がぎらりと獰猛に光った。
「もう、サクラ。何をやっているんですか」
「……綺麗だから見せているだけよ?」
『はわわわわ、猟師だぁぁぁ』
 三匹の茶瓶が震えている。
 蓋の下から狸の顔がとびだしているので本来の姿は狸なのかもしれない。
「冗談でもそんなこと言わないで下さ、矢はしまいましょう!」
 きょとんとした顔のサクに仕方ないとキョウは屈みこんだ。
「良いですか付喪神さん。自分たちを手伝ってくれたらサクラの言うようにお菓子をプレゼントいたします。それに、んん」
 キョウはチビ狸たちの注意をひくために、わざとらしく咳払いをした。
「一番頑張った付喪神さんはサクラがギュッとしてくれるそうですよ」
『その話、くわしく』
『美女が無料で抱擁してくれると聞いて』
『この付喪神たち、だーれー?』
「申し訳ありませんが下心ありの方はご遠慮ねがいます」
「私は別にぎゅっとしても構わないけど」
『よっしゃー!』
『おかしー!』
 食い意地の張った子狸たちに琵琶や琴を加え、やけに熱意を滾らせた付喪神のお掃除軍団を二人は見守る。
「面白い子ばかり。さわっても良い?」
「だから、まず矢をしまってからにしましょう!」


「結局、何事もなく終わりましたね……」
 木陰の下で、どこか遠い目をしたタオが告げる。
 その手には笹の葉に巻かれた山菜入りのチマキが握られていた。
「戦々恐々としていた自分が、なんだか恥ずかしいです……」
 顔を覆うタオにステラは桃を一つ差し出した。
「なあなあ、マー。これ、うまいぞ!」
 赤く熟れた桃は直前まで洞窟の水に浸けられていたのか、ひんやりと冷たい。
 口の周りを果汁で汚しながらステラは健康的な歯で桃にかじりつく。
 お代わりあるよとばかりに雨降小僧が追加のスイカを持ってやってきた。
「そうですね。せっかくですし、今は素直にごちそうになりましょう」
「おー!」

「琴に琵琶? 姿を見るのは何十年ぶりか。よく、この気まぐれ物どもを見つけたのう」
「約束しましたからね」
 黒糖蜜のかかった葛餅を切り分けながらどこか疲れたようにキョウが言う。
「それで、ミズナラ様だっけ。何の用かしら」
 サクが弾く琴の音がほろりほろりと芝生の上に転がる。隣には掃除疲れで眠る小狸が三匹。
 そしてソワソワと弾かれ待ちをする琵琶の姿。
「汝らの髪飾りをもっとよく見たいと思うてな。ほれ、水菓子じゃ」
 盆の上には真っ赤な雫が木椀の中で揺れている。
 太陽の陽射しの下で、氷の中に揺らいだ桜桃がきらりと光った。
「我も植物のはしくれ。草木を愛でようとする者は気配で分かる」

 朱塗りの椀に注がれた冷製スープを飲んだヨナはほふぅと息を吐いた。
 雨降小僧があれも食べてこれも食べてと持ってくるお陰で、腹がすっかり満ちてしまった。
 貝柱でとった出汁とは珍しいが、梅や茗荷の薬味と合わせて優しい味が疲れた体にしみこむようだ。
 ベルトルドは蕎麦をすすれずに苦労していたが、今は諦めてフォークに巻き付けてつゆにつけている。
「ヨナ殿は以前、洞窟内に配置されていた魔方の陣の事を覚えておられるか」
 ミズナラからの問いかけにヨナは頷いた。
「どうやらあの洞窟は魔力が溜まりやすいようでな。それに魅かれた妖怪が集いやすい環境にある。前はそれを敵に知られてしまったようなのだが……おや、おまえたち。どうした?」
 雨降小僧と狐火。神輿と鏡。狸や座布団、食器までもがぞろぞろと集い、訴えるようにミズナラを見上げている。
「おい、ミズナラ。誰も異論は無えとさ」
 鬼が肩をすくめている。
「そうか、そうか」
 ミズナラは悪戯を思いついたように愉快そうに笑った。
「浄化師達よ、腹は満ちたか。約束通り契約しよう」


 葉がざわめいた。
 流れる川に太陽のきらめきが反射する。
 風に木陰がゆらいで、砂が流れた。

『水に雨降』
『火に狐』
『土に牛鬼』
『陽の九十九神』
『陰の鏡鬼』
『以上、五方の総意を承った』

 妖契りの縁運び。
 百には至らぬ我らが助力。
 召しませ、召しませ。
 我らは六曜。
 
「八百万の名の下に、木の水楢がここに告げる」

 八百万の名にかけて。
 たとえ彼岸の先さえも。
 黝ずむ木下闇より参じましょう。

「我ら水楢一門。これより汝らに力を貸そう」


【神契】洞の掃除と空下の宴
(執筆:駒米たも GM)



*** 活躍者 ***


該当者なし




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2020/07/22-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。