~ プロローグ ~ |
「悪いな、今回は、ある……女性が里へと帰る。その道中の護衛だ」 |
~ 解説 ~ |
今回は心情シナリオです。 |
~ ゲームマスターより ~ |
ゆっくりと、ゆっくりとお話をしてください |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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◆運命について考える ・唯月は初めて、瞬は二人目のパートナー 唯「わたしは初めてのパートナーは瞬さんですが 瞬さんは確か前にもいらっしゃいましたよね?」 瞬「…そうだねぇ 俺の場合は二人して死んで、俺だけ生き返ったんだけど…」 唯「まだ…ショックは…抜けきれてません…か?」 瞬「あはは〜あれからもう十五年経ったからねぇ …そろそろ…前に進まなきゃ、ね…」 唯「っ!」 唯(瞬さんの笑顔に陰りが見えた気がして) 瞬(彼は初めての友達だったから… 目の前で大切な誰かが死んでくのは…辛かった…なぁ) 唯「わたしも…瞬さんと一緒に…進みます! まだ未熟かもしれませんがそれでも…っ」 瞬「ほんと??ふふ、嬉しーなぁ…ありがとう…いづ」 |
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目的 道中の護衛をする。 事前に行程を確認。周囲に注意。 休憩時用に水筒に冷たい紅茶を入れていく。アリラさんの分も。 会話 リート …フェリックス、わたしが死んだら新しいパートナーを見つけてね。 フェリックス …はい、リート。 逆の場合は、リートもそうしてください。 リート …ごめんね、ごめんなさい…、それは…。 だって、フェリックスとの契約はわたしがお願いしたことだから…、わたしの、目的のために…。 …だから、お願い。無茶はしないでね…。 フェリックス どうしてですか? 確かに僕はリートの望みで契約しました。でも、 リート (フェリックスの言葉にかぶせるように) ごめんね…。わたしは、わたしに近いひとが亡くなるのは、もう…。 |
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◆アユカ パートナーとしての、絆の強さ わたし、何も知らないまま教会に来て かーくんとは、浄化師として戦うための相棒になるんだって…そう思って契約を結んだ この先どうなるかなんて…今のわたしには想像できないよ そうでした、って…今は違うの? …そうだね、わたしも、かーくんがいなくなったら悲しい ◆楓 戦闘上の相棒としての契約…そうですね、私もそうでした 私達はあの時初めて会ったのです、いきなり心を通わせることなどできはしません 今、絆の結びつきが強い浄化師たちは…時間をかけてそれを育んでいったのでしょう 今は…幾度も指令を共にしていますので、情がわいています (本当は、それだけではないが) あなたを放ってはおけませんよ |
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(護衛中、死について考えふと風景を見る。 人が死のうとしているのに世界は何も…) …僕は家族を失いました。そしてこの子…ララエルの埋められた場所も見に行きました。 ユギルさん、アリラさんの最期に立ち会わせて頂けませんか? 僕が死んだ時の為に、ララエルに見せておきたいのです。 アリラさん、僕たちがずっと手を握っていますからね。 アリラさん…っ (アリラの最期、俯いて涙ひとしずく) (アリラの死後、ララエルに) …僕、戦闘では弱いからさ。 僕が死んだら、もっと強い人と契約するんだよ。 勿論それまでは、君を守る。守り続けるよ。 僕は復讐の為に生きてるつもりだったけど 気がついたら生きてる理由の半分がララ…君になっていたんだ。 |
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■護衛 ナツキはアリラ達の事で頭の中ぐるぐる いつもの騒がしさはなくアリラの選んだ結末について考え込む ルーノは難しい顔のナツキを横目にふと考える 彼は私が居なくなったらどうするだろう、と …そんな事を考える程度にはナツキを気に入っているのだと自覚 アリラだけでなく上の空のナツキも守れる位置にさりげなく移動 ■見届け アリラの見届け役を希望 ユギルに同行を申し出る ルーノ:アリラの意思を尊重する。その上であの件(11話)に関わった者として最期まで彼女を見届けたい ナツキ:自分で死を選ぶってのは、俺にはやっぱりわかんねぇよ …だけど何もわからないまま終わりたくない せめて最後まで見届けて、アリラの決断を少しでも理解したい |
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レイさんがいなくなったら、ワタシはどうなってしまうのでショウ? ずっと独りの時が多かったので、誰かを亡くすというのが想像ができないのデス レイさんはありますカ? (レイの告白に吃驚) ハイ…あぁいえ、左手に指輪をしているので 結婚しているのだろうとは思ってましたが… どうして、そうしなかったのデス? …今も死にたいと思うのデスカ? むぅ…別に振り回しているつもりはないのデスガ… (真剣な眼差しにドキッとしつつ) ではレイさんのことはワタシが守りマス! パートナーですカラ!大船に乗った気持ちでいてくだサイ! いいえ、結構デス! ワタシはネタバレは嫌いなのデス なので…最後を知るのはもっと先でいいデス! アドリブ歓迎 |
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心境: 1人を失えば世界が失われてしまう程 そんな風に誰かを好きになる事が……正直、怖い (自分を律せなくなる事が怖い) 彼女のパートナーが戦闘中に亡くなったなら 戦闘を見るのは辛いでしょう、できるだけ避けたいです 先を歩き、できるだけ使徒を避けたり露払いを行います 私は浄化師です。任務なら最後まで見届けます イザークさん、もしも私が死んだ時は 早々に私の事は忘れてくださいね あなたならもっと良いパートナーに会えると…もしかして、怒ってますか? 初めて見る、怖い顔 私いまイザークさんを傷つけたんだ…ごめんなさい もしイザークさんが死んだら?と考えがよぎったけれど そんな事はない、私が死なせない (無意識に不安から目をそらす |
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◆リームス アリラに質問を一つ 「里はどんなところですか?」 彼女とは顔を合わせたことはあれ 一人の人間として接したことはなかったから それがどんな意味を持つのかは分からない 彼女の言葉を聞いておくべきだと思った 後は護衛行動 どう、と言われても。 カロルは運命の人だろう? 自分でそう言ってなかった? カロルが死んだら別のパートナーを探すよ この身体がまだ動くならそうすべきだと思う そうだね。カロルは大胆なところがあるから 淑やかに振る舞えば上手くいくと思う アリラの最期に立ち会いたい 事情は聞き及んでいるし一端に関わりもした 興味本位では無論無く けじめか責任感とでも称すべきでしょうか 僕はそうしなければならないと強く思うのです |
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~ リザルトノベル ~ |
「では、後方はお願いします」 「露払いは任せてくれ」 『鈴理・あおい』と『イザーク・デューラー』が斥候をかって出たのは、戦いで大切な人を失くしたアリラに戦闘を見せないための配慮だ。 「よろしく」 「……頼むな」 「ワタシたちもがんばりまショウ、レイさん」 「ええ、そうですね、レディ」 『ルーノ・クロード』、『ナツキ・ヤクト』は後方の護衛を『エリィ・ブロッサム』、『レイ・アクトリス』と引き受けた。 「うえっぐ、ひっく、アリラさん……アリラさん」 馬車のなかでは『ララエル・エリーゼ』が泣いていた。指令を受けるときから大きな瞳からは大粒の涙が零れていた。 アリラがララエルの頭を撫でるのに。 「あの、冷たい紅茶、よかったら」 『ジークリート・ノーリッシュ』が気づかわしげに視線を向ける。 「すいません。ありがとうございます」 『ラウル・イースト』もララエルの背中を撫でる。 馬車の隅にユギルと『フェリックス・ロウ』は腰かけていた。 馬車が進む。 芳醇な甘い、花の薫りに満たされた道をあおいはイザークと一緒に歩く。 あおいは浄化師として尽くすためにここにいる。 「イザークさん、もしも私が死んだ時は早々に私の事は忘れてくださいね。あなたならもっと良いパートナーに会えると……もしかして、怒ってますか?」 「目の前で多くの人を失った。俺が無事なら本望だと言ってくれた人もいた。だが、俺は生きていて欲しかった。死んでしまえば何もない……っ」 普段は穏やかで誰に対しても礼儀正しいイザークが下唇を噛み、睨むようなまなざしを向けてくるのにあおいははっとする。彼の複雑な事情は薄っすらと知っていた。 あおいはマヤをぎゅっと抱きしめる。 「……すまない、八つ当たりだな」 「いえ、私もすいません」 「いや、ただ……何事もなく進むことを祈ろう」 「はい」 あおいは考える。イザークが自分を置いていったら? そんなことは自分がさせない。マヤもいる。 強く握りしめた拳が、ただただ不吉な未来から目をそらしているだけ、と知るのはまた別のときだ。 「里はどんなところですか?」 『リームス・カプセラ』の問いにアリラは目を瞬かせた。 世界の終わり色の瞳はじっとアリラを見つめた。この質問にどんな意味があるのかを彼自身はよくわかっていない。以前指令で救出したアリラと、こうして接するのははじめてだ。 「美しい湖があるところよ、あなたたちも見るといいわ」 「そうですか」 それだけのやりとりのあと、リームスは護衛のためゆるやかに進む馬車の右手を歩くのに『カロル・アンゼリカ』は、その横へと歩み寄る。 「そうそう。リームスは私のことどう思ってるの? ユギルが言ってたじゃない。考えてみろって」 「どう、と言われても。カロルは運命の人だろう? 自分でそう言ってなかった?」 カロルは目を丸めて、ぱちぱちさせる。 リームスの、世界のはじまり色の瞳がカロルを捕えた。 「私の言葉を鵜呑みに……むむむっ。じゃあその運命とお別れすることになったら?」 「カロルが死んだら別のパートナーを探すよ。この身体がまだ動くならそうすべきだと思う」 少しだけしてやられた顔をしたカロルは安堵の微笑みを浮かべる。 「ああ、よかった。リームスはそうでなくちゃ! 私もよ。リームスがいなくなったら。すぐに新しいパートナーを探すわ」 馬車の先へとカロルは視線を向ける。 「そうだね。カロルは大胆なところがあるから。淑やかに振る舞えば上手くいくと思う」 「……大胆て何よう。十分淑やかよ私」 唇を尖らせてカロルは言い返した。 道に咲く黄色の花が風に揺れている。 「レイさんがいなくなったら、ワタシはどうなってしまうのでショウ? ずっと独りの時が多かったので、誰かを亡くすというのが想像ができないのデス。レイさんはありますカ?」 エリィは幼いころから教団に保護されて育ったため、一般常識からズレている。それは同時に純粋無垢ともいえた。他者に対して配慮しながらも、レイ相手には疑問を疑問として口にする。 レイはエリィの純粋さに目を細め、口を開いた。 「ありますよ。家族を……妻とお腹の子を亡くしました……驚きました?」 「ハイ……あぁいえ、左手に指輪をしているので、結婚しているのだろうとは思ってましたが」 目を見開いて、エリィはレイを見つめる。つい歩くことを忘れてしまった。 「すみません。なかなか話すタイミングがなくて……昔ベリアルに襲われた時に殺されました。なので、アリラさんの気持ちはよく分かります……できるなら僕も追いかけたかった」 「どうして、そうしなかったのデス?」 一面の紅花畑からの匂いが風によって広がる。鼻孔をくすぐり、耳を弄び、レイの言葉が真っすぐにエリィに届く。 「こう見えて僕は小心者なんですよ。自分で命を絶つなんてできなかった……かといって敵討ちをできる力もない。ずっと死んだような時間を過ごしていました」 沈む声、落ち着いた表情が、胸に鋭いナイフを突きたてられたかのように錯覚するほどの痛みをエリィ与えた。 誰かを亡くすことが想像できないと自分で口にしたのに。 恐る恐る、それでもエリィは問いかける。レイは絶対に答えてくれると思うから。 「……今も死にたいと思うのデスカ?」 「いいえ、今は全く。貴方と出会えて浄化師になれた。おまけに毎日貴方に振り回されてますからね。そんなことを考えている暇がなくなりました」 優しい微笑みのあと、馬車から遠くなりましたよ、と促されてエリィは拗ねて頬を膨らませる。 「むぅ。別に振り回しているつもりはないのデスガ」 「とても感謝しています。だから貴方のことは必ず守ります」 そこにこめられた強い信念に、歩き始めたエリィはまた足を止めて振り返る。咲き誇る紅花たちのなかでレイの真剣な瞳はエリィを捕えていた。 一瞬、心臓がどきりとした。 先ほどとは違う痛みを振り払うように、エリィはいつものように微笑んだ。 「ではレイさんのことはワタシが守りマス! パートナーですカラ! 大船に乗った気持ちでいてくだサイ!」 腰に手をあてて胸を張るエリィにレイは目じりを緩めた。そんなエリィを心から愛しんでいるように。 「さて、レディが望むなら見届け役を打診してきますが?」 「いいえ、結構デス! ワタシはネタバレは嫌いなのデス。なので……最後を知るのはもっと先でいいデス!」 エリィの決断をレイは優しく微笑んで受け止めた。 緑深い山間の道にさしかかると、川のせせらぎが聞こえる。 「わたしは初めてのパートナーは瞬さんですが、瞬さんは確か前にもいらっしゃいましたよね?」 『杜郷・唯月』が問いかけると、唯月の徒歩に合わせてゆっくりと足を進める『泉世・瞬』が目を細めた。 「……そうだねぇ。俺の場合は二人して死んで、俺だけ生き返ったんだけど」 「まだ……ショックは……抜けきれてません……か?」 唯月は頭を抱えたくなった。本当はこんなことを聞きたいわけじゃない。 瞬は笑顔を浮かべながら、少しだけ思考するように天を仰いだ。 (彼は初めての友達だったから……目の前で大切な誰かが死んでくのは……辛かったなぁ) ヨハネの使徒によって殺される恐怖より、自分が死ぬよりも、友を亡くすことは世界の終わりに匹敵した。 今も昔も、パートナーは絶対に守りたい存在だ。それが瞬の強さであり、弱さでもあった。気持ちに溺れて、唯月に迷惑をかけてしまったこともある。 「瞬さんはその時エクソシストをその……辞めたいとか……思ったり……?」 「うーん。まぁ思ったんだけど……やたら熱心な教団職員がいて、数年にわたって勧誘されたものだから仕方なく続けてた~。まぁそれから数年パートナー見つからなかったんだけどね~」 伺うような視線を向ける唯月に瞬は小首を傾げる。 「え? じゃあその間は」 「本業の演劇してたよ~」 「なるほど!」 すごく納得する唯月に瞬は強張っていた気持ちがゆるやかに溶けていくのを理解した。 「あはは~あれからもう十五年経ったからねぇ。そろそろ……前に進まなきゃ、ね」 「っ!」 さりげない言葉に唯月は胸が、つぶれるくらい痛くなった。同時に罪悪感に自分が少しだけ嫌いになる。 こんな顔、させたいわけじゃない。 唯月が口を開く前に、瞬が手を握りしめてくる。 信じていいですか、と唯月が言葉を返したあのときの気持ちが蘇ってくる。ただ無暗に心を捧げるのではなくて、相手を思うから、自分の弱さを晒して、頼ってくる。 「わたしも、瞬さんと一緒に……進みます! まだ未熟かもしれませんがそれでも……っ」 「ほんと? ふふ、嬉しーなぁ……ありがとう……いづ」 瞬が唯月の肩に、柔らかく寄りかかる。 『アユカ・セイロウ』と『花咲・楓』は先を行くあおいたちの後ろについていた。アユカと楓が後方支援として二人を助けるつもりだ。 木々の生い茂る、ゆるやかな坂道を進む。 アユカはアリラの気持ちに寄り添ってあげることができない。 パートナーとの絆の強さを、すべてを差し出しても守ろうとして、失ったから進むことができない。その一途で恐ろしいほどの気持ちを想像してもうまくいかない。 自分と楓は? 多くの経験を二人でこなしてきた。けど、アリラたちのようになることが想像できない。それは想像力が欠如しているせいなのか。もっと別の原因があるのか。 ただわかるのは、もし楓になにかあれば辛いということ。 最初に出会ったのは浄化師になるため、それだけだった。今はそれよりも、大切な存在になっている。 「パートナーとしての、絆の強さ。わたし、何も知らないまま教会に来て……かーくんとは、浄化師として戦うための相棒になるんだって……そう思って契約を結んだ。この先どうなるかなんて……今のわたしには想像できないよ」 楓を相手にアユカは言葉を選ぶ。記憶がないことを悲観はしてないが、今を一生懸命生きることでアユカはいっぱい、いっぱいだ。だから今のアユカには他人を自分の心のなかにいれる余裕がない。 楓は木々の陰りに目を伏せながら頷いた。 「戦闘上の相棒としての契約……そうですね、私もそうでした。私達はあの時初めて会ったのです、いきなり心を通わせることなどできはしません。今、絆の結びつきが強い浄化師たちは……時間をかけてそれを育んでいったのでしょう」 「そうでした、って……今は違うの?」 アユカはきょとんとした顔で楓を見つめる。 その表情が楓の一番深いところを突き刺す。 「今は……幾度も指令を共にしていますので、情がわいています。あなたを放ってはおけませんよ」 本当は、違う。アユカを失くしてしまったら自分がどれだけ絶望するかもわからない。臆病で、卑怯な上辺。表向きこうして彼女の言葉にあわせているのだと自覚しながら楓は言い返す。 「……そうだね、わたしも、かーくんがいなくなったら悲しい」 素直なアユカの声に楓は拳を握りしめる。 里は家が数軒ある規模の小ささで、浄化師たちがやってきたことに驚いていた。 ユギルがすぐに里長になにかしらの事情を説明するなか、イザークはアリラのそばへと歩み寄った。 「何度も問われているとは思うが、それでも聞かせてくれ。生きていれば変わるかもしれない。里に戻って身内と会っても考えはかわらないか?」 「身内……いないの」 アリラは優しく答えた。 「私は孤児なのよ。ただこの里の人たちが私のことを育ててくれたの。この里が私の家のようなものね」 「だったら」 「私が、なにを守るために生きてきたのか、見たかったの。だから、ここに帰れて満足」 イザークの言葉をアリラが封じた。 ナツキとルーノは里のなかでも護衛遂行のため尽力していた。 ナツキはいつもの騒がしさがなく、ずっとアリラ達のことを考えていた。もっと早く助けることができたら? もっとなにか方法があったのではないのか? もっと、とは都合のいい、苦しむための言葉が、頭のなかを埋め尽くす。 上の空のナツキも含めて守るために、ルーノは警戒を怠らなかった。 ここでナツキを失うことになれば……そんなことを考える自分がいることにルーノは驚いた。 面倒でも浄化師になったのは、それなりの指令をこなして平和に生きられたらいいと思っていた。若干不安を覚えていたナツキのことも信頼しはじめている自分を自覚する。 ナツキはユギルを見つけると、すぐに駆け寄ったのにルーノも続いた。 「自分で死を選ぶってのは、俺にはやっぱりわかんねぇよ。……だけど何もわからないまま終わりたくない。せめて最後まで見届けて、アリラの決断を少しでも理解したい」 「アリラの意思を尊重する。その上であの件に関わった者として最期まで彼女を見届けたい」 二人の言葉にユギルは小首を傾げたあと、にぃと唇をつりあげた。 「ルーノ、もう少し素直にならんのか? まぁ、いい。今回少し気になることもあるゆえ許可する」 「僕は家族を失いました。そしてこの子……ララエルの埋められた場所も見に行きました。 ユギルさん、アリラさんの最期に立ち会わせて頂けませんか? 僕が死んだ時の為に、ララエルに見せておきたいのです」 ラウルの腕にしがみついてララエルはまだ泣いていた。 「できたら、僕もお願いします。けじめか責任感とでも称すべきでしょうか。僕はそうしなければならないと強く思うのです」 その気持ちに名をつけられるほどにリームスは言葉豊かではない。 「行くなら待ってるわ。ユギル。今回は麻酔を使うのかしら? 別に。ただの質問よ」 「本人が望まぬならせんよ」 ふぅんとカロルは呟き、さっと背を向けた。 「私は浄化師です。指令であれば最期まで見届けます」 「汝らの同行は許可できん」 あおいは顔をあげ、口を開こうとする前にユギルが告げた。 「なんでもかんでも指令で片づけるうちは子供の使いと同じよ。少し考えよ」 イザークが反論しようとしたのをあおいが、服をぎゅっと掴んで俯き、首を横に振った。 「……外の、護衛をしています」 あおいはマヤをしっかりと抱く。 見透かされている。恐怖していることを。アリラの心を理解したら、自分を律せなくなることへの不安を抱えていることを。 里の端にある湖にいきたいとアリラは口にした。 一緒に訪れたのはジークリートとフェリックスだ。 「フェリックス、わたしが死んだら新しいパートナーを見つけてね」 「はい、リート。逆の場合は、リートもそうしてください」 淡々と、言葉を交わす。 「……ごめんね、ごめんなさい……それは……だって、フェリックスとの契約はわたしがお願いしたことだから、わたしの、目的のために……だから、お願い。無茶はしないでね」 「どうしてですか? 確かに僕はリートの望みで契約しました。でも」 「ごめんね……わたしは、わたしに近いひとが亡くなるのは、もう」 フェリックスの言葉を遮ってしまった罪悪感からジークリートが視線を巡らせる。 輝く湖を背に、アリラが佇んでいるのに逃げるようにジークリートは足を進めた。 「ジルドさんは一人だけです。替わりはいない。……わたしの父さんと母さんと、兄さんも……わたしは、ずっと守られて……最後まで……父さんと母さんと兄さんも強いから。逃げようと思えば逃げられたのに」 こんなことをアリラに話してなにになるのだろうと自問自答をしながらもジークリートは尋ねずにはいられない。 「でも、わたしと、残った村の人たちに。逃げろって、みんなを守れ、って……だから、わたしは、まだ死ねない……父さんと母さんと兄さんが、そう言った、から……アリラさん。やっぱり、もう、生きるのは、無理ですか? この前のことで、あなたの周りで何人も亡くなりました……でもあなたは生き残って、まだ」 真っすぐに向ける言葉にアリラは微笑んだ。 今から死ぬ人間がしていい笑顔ではなかった。 ジークリートは言葉を失い、俯くのにアリラは優しく抱擁する。 「ありがとう。生きてくれて。守ってくれて。リート」 なにもかも許すように彼女は告げた。 立ち合いを希望し、許可された者以外は夕顔が咲く家の外で護衛として待つことになる。 「あ、あの」 アユカが戸惑う視線でアリラを見つめる。 「今まで、お疲れさまでした」 ぺこりと頭をさげるアユカの横で楓がここまで生き抜いた浄化師の先輩へと敬礼を捧げた。 「私は……君たちにそんな風にしてもらう資格なんてないのよ。けど、ありがとう。バイバイ」 「薬は使うか?」 「いいえ。私は最後まで私として生き抜きたいです」 ベッドの上でアリラが首を横に振った。 終わりを告げる鳥が鳴いた。 アリラの体が大きく震え、悲鳴をあげる。その手をラウルとララエルが必死に握りしめた。 「アリラさん、僕たちがずっと手を握っていますからね。アリラさん……っ」 「アリラさんっ、私も一緒にいます……! 最期まで、一緒に!」 ナツキと、ルーノは結局、何も救えなかったのかという気持ちを抱えながら、決して目を逸らさないように見つめる。 死とは逃げようのない、運命。 アリラの肉体が強い血の匂いを漂わせる。 苦しむアリラは赤黒い涙を流しながら、囁く。その最期の声は掠れて、誰にも届くことはなかった。 「おやすみ。かわいい子、よくやった」 「どうして……褒めるんですか」 アリラの頭を撫でて微笑むユギルにリームスが問いかける。 「すべてを乗り越えた死とは、決して不運ではなく、悲観することもない。笑顔で見送っておやり」 笑顔、といわれてもリームスにはそれが出来なくて、かわりに目を伏せた。 「ララ……僕、戦闘では弱いからさ。僕が死んだら、もっと強い人と契約するんだよ。勿論それまでは、君を守る。守り続けるよ。僕は復讐の為に生きてるつもりだったけど気がついたら生きてる理由の半分がララ……君になっていたんだ」 「あああぁぁああっ、あああああぁぁーっ!」 ラウルの言葉がすべて届く前に、ララエルが咆哮をあげる。 ナツキとルーノがぎょっと視線を向けた。 「ララエル! オイ!」 ナツキが声をかけるが、ララエルの目はラウルだけを見ていた。 アリラを見て、ナツキは理由を探した。死ぬことすら厭わず、ただ一人のことを思うことを。 今も理解しようとして、結局何も浮かばない。ただ、ただ苦しくてたまらない。 そして、何度か同じ指令をこなしたララエルが同じ道へと進もうとしている。否、それよりも深いところに向かっているのにナツキは身を竦ませる。 「一人の女性が亡くなったのに、世界は何も変わらないんですね……こんなに残酷なら、私は新しく契約なんかしませんよ。ラウルが死んだら、私も死にますね。ラウルだけ天国に行くなんて、ずるいもの」 困惑するラウルの横を過ぎてユギルがララエルの前に立ち、片手をあげた。 びくりとララエルが身をかたくする。 ぎゅっとユギルはララエルを強く抱擁する。 「一人で泣かなくて良い、かわいい子。依存と献身は違う。お前は一人ではない。けれど一人で立たねばならぬ。でなければラウルを不幸にするだろう」 「でもっ。あるべき所へ還れって、私のあるべき所は、ラウルですから。私の生きてる理由も、ラウルですからっ!」 苦しいと全身で訴えるララエルをユギルが、今は受け止める。 「それは違う。汝の命は汝のもの、他に責を求めるものではない。それはただの傲慢。……己を己と思えぬことは、さぞや苦しかろう。少しお眠り、今だけは吾が汝を何からも守るゆえ、安心おし」 荒い息が整い、意識を手放したララエルを抱えて、ユギルは視線を巡らせた。 「汝らは考えるといい。己の定め運命をいかに進むのか。 ラウル、お前の願いも傲慢だ。相手を想うなら相手を識ることだ。弱者という逃げ道に甘んじるな。考え、進め」 ラウルが言葉を探す。教団への憎しみはただ持て余した理不尽に対する怒りだ。今、アリラの死に感じているものと同じものだ。それをどうすることもできなくて、言い訳を作っている。 「汝はちゃんと強くなっている、自信を持て。悩むならお前たちの話を聞き、共に考えてやる。それはルーノ、ナツキ、リームス、ここにいる皆、同じよ。考えなさい。わからないならいくらでも相談には乗ろう」 ラウルが俯いて、ララエルの手を握る。その頭をユギルは優しく撫でた。 ナツキはぎゅっと拳を握りしめた。 自分が、もしルーノを失ったら、新しいパートナーを受け入れられるのかわからない。ララエルのようになるのかも。 「ナツキ」 「俺……よくわかんねぇけど、けどっ」 言葉に出来ないナツキは俯いて下唇を噛むのにルーノは黙って肩を抱いた。 しじま。 世界が終わるような闇のなか、浄化師たちは指令に尽くしていた。 指令に徹するあおいの肩をイザークは抱いて引き寄せた。あおいはびくりと震えて、目を伏せる。 紗砂をまいたような星空の下。 カロルの瞳が煌めいた。 「リームス。パートナー探しって面倒なのよ。もう少しこの運命を手放さないで頂戴ね」 夜空から、小さな星が落ちた。 東の空に眩しい光が溢れ出す前にジークリート、イザーク、あおいの手でアリラの肉体は整えられた。 アリラは再び教団へと戻る。 浄化師はその生涯を終えれば、教団の手で火葬され、持っているものは誰の手にも渡らず、管理される。 本来、浄化師の死は誰かに報らされることもない。ただひっそりと終わる。 馬車は帰路を進む。 浄化師たちは、自分たちが選んだ運命におかえり、と迎え入れられた。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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