ドッペルと夏ライフ
とても簡単 | すべて
7/8名
ドッペルと夏ライフ 情報
担当 留菜マナ GM
タイプ EX
ジャンル ハートフル
条件 すべて
難易度 とても簡単
報酬 通常
相談期間 6 日
公開日 2020-07-05 00:00:00
出発日 2020-07-14 00:00:00
帰還日 2020-07-20



~ プロローグ ~

 穏やかな細波が、薄く光る月の下で優しく響いていた。
 水平線の向こうには、黄色い月がぼんやりと浮かび上がっていて幻想的な雰囲気を醸し出している。
「明日は、ドッペル達を海に連れて行けそうだな」
「そうね。ドッペル達、海水浴は初めてみたいだから大丈夫かな」
「まずは、泳ぐ練習をしないといけないかもな」
 あなたとパートナーは談笑しながら海岸を練り歩き、夏の澄み切った星空を眺めていた。
 光の檻の騒動の後――。
 疲弊していたドッペル達は徐々に回復し、コルク達の容態も少しずつ快方に向かっていた。
 休養も兼ねた夏のバカンス。
 やがて、あなた達は明日、訪れる事になる海の家の近くで立ち止まる。
「明日は、この海の家を貸し切りの状態で利用する事が出来るんだよな」
「のんびり過ごす事が出来そうね」
 あなたの呼び掛けに、パートナーはそっと遠くを見るように視線を上げる。
 穏やかな水の流れのように、ゆったりと流れる時間。
 南の空を――小さな流れ星が流れた。




 何処までも澄み渡る青空に、白と黒のコントラストが眩しい綺麗な入道雲。
 燦々と降り注ぐ陽の光に包まれたターコイズブルーの海は深い青と混じり合い、時に白砂を浮き立たせていた。
 ヴェネリアの海辺に面したベレニーチェ海岸。
 夏空の下、何処からか流れてきたボトルメールが波打ち際で転がっている。
「ここだな」
 あなたはドッペル達と共に昨日、訪れた海の家へと入った。
 海の家は、あなた達――浄化師達の貸し切り状態になっている。
 店員の話によると、夕闇にこの近くで夏祭りが開催されるようだ。
 その為、水着や遊具以外にも、浴衣等を借りる事が出来る。
「海水浴だけにするか、夏祭りだけにするか。それとも――」
「私は、どちらも行きたいな」
 あなたの何気ない問い掛けに、パートナーは同意を求めるようにドッペルと顔を見合わせた。


~ 解説 ~

〇夏のひととき
・パートナーと2人、もしくはドッペルを含めた3人でお出かけする場合は、A
・ドッペル達の想いの行方を見守る場合は、B

●A、B、どちらを希望するのか、アルファベットをプランに記載して下さい。

〇ベレニーチェ海岸で出来る事
 どちらかのみ、またはどちらもする事ができます。
 どちらかのみなのか、どちらともなのか、プランに記載して下さい。

1、海水浴
 海で泳いだり、ビーチボールやウォーターホイール等の遊具で遊んだりできます。

●海の家
 氷を作り出す魔術道具、多目的発氷符の効果で、海の家は涼しい状態です。
 海の家でかき氷等を食べたり、水着や遊具、浴衣等を借りる事ができます。

2、夏祭り
 夜になると、ベレニーチェ海岸の近くで夏祭りが開催されます。
 飲食が出来る出店、ヨーヨー釣り、輪投げ、射的等があります。
 光る笹に、願い事を書いた短冊を吊るす事ができます。

A、パートナー達とお出かけ
 パートナーと2人だけなのか、ドッペルを含めた3人でお出かけするのか、プランにお書き下さい。

B、ドッペル達の想いの相談
 ドッペルは、新しい変身能力を教えてくれたドッペルと一緒に海に行く事になりました。
 この状況を前提に、以下の内容をプランにお書き下さい。
 1と2は前に参加されていた場合、3のみお書き下さい。

1、ドッペル達はそれぞれ、どんな姿に変わっているのか?
 相談をしてきたドッペルと、想いを向けられているドッペル。両方の姿を書いて下さい。

2、新しい能力を教えてくれたドッペルに、どんな想いを抱いているのか?
 親愛でも恋愛感情でも、好意的な想いでしたら何でも構いません。
 どのような想いを抱いているのかをお書き下さい。

3、ドッペル達と夏ライフ
 ドッペルはどんな衣装を着て、相手のドッペルと遊んだらいいのか、悩んでいます。
 フォローして貰えると喜ぶので、フォローをしてあげて下さい。
 フォロー以外の行動もあれば、プランでお書き下さい。


~ ゲームマスターより ~

 こんにちは、留菜マナです。
 今回は、ドッペル達の想いの相談の続きの話になります。
 「晴れの日トロイメライ」、「インフィニティ」のエピソードの後に起こった出来事になります。
 GMページに、NPCについての情報を記載しています。
 どうぞよろしくお願い致します。

〇味方NPC
・特殊なドッペル達
 浄化師一組につき、一体、ついてきています。
 あなた達に想いの相談をしてきたドッペルです。
 今回のエピソードで、Aで選択により同行、もしくはBであなた達がフォローをしようとしているドッペル達です。

・新しい能力を教えてくれた特殊なドッペル達
 アルフ聖樹森の戦闘の際に保護されたドッペル。
 想いの相談をしてきたドッペル達に、新たな変身能力を教えてくれました。
 今回のエピソードでは、Bで想いの相談をしてきたドッペル達とお出かけします。





◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇

ショーン・ハイド レオノル・ペリエ
男性 / アンデッド / 悪魔祓い 女性 / エレメンツ / 狂信者
A1
海辺で戯れる二人を見つつ砂浜でぼうっと
ドクターとらぷ、仲良さそうでいいなぁ
安全そうな潮溜りで2人とも遊んでいるのを見て少しうとうと
気がつくとラプとドクターが二人で俺のそばに立っているのをみて何事かとおもえば
いきなり腹の上にヒトデが
らぷが何か分からなくて持ってきたらしいがあまりにもびびって声をあげたらゲラゲラ笑い出す二人
思わず追いかけっこで水の掛け合いまでに発展し…
結果俺は海の家でくたくたに
ドクター達案外体力あるな…?
こないだサクリファイスの件であんなことがあったから、ラプが元気でよかったんだが
なっちは大事を取ってまだ教団の寮にいるしな
次は、なっち連れて来ような
大人数の方が楽しいもんだ
アリシア・ムーンライト クリストフ・フォンシラー
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / アンデッド / 断罪者
B2

第二弾、ですか?
えと…じゃあ、せっかくですから…
ルウちゃんも、ミキくんも、浴衣、着ませんか?
着付け、手伝います、ので

ルウちゃんには紫陽花柄の浴衣
ミキくんには二重格子文のを

ルウちゃん?え、私も…?

残っていた浴衣から一つ持ち出してクリスの元へ行くルウちゃんを見送り
朝顔柄の浴衣に着替え
クリスの言葉に小さな声で「ありがとう、ございます」

射的、私がするんですか?
はい、じゃあ…
構えて支えられて、近さにドキドキします…
今までにも、何度もあったのに、いつも、ですね

横を見ればルウちゃんも同じような状態で
一緒ですね、と小さく微笑み
二人の距離、は縮まったでしょうか…

最後は短冊に願いを
みんなが幸せになれますように
リチェルカーレ・リモージュ シリウス・セイアッド
女性 / 人間 / 陰陽師 男性 / ヴァンピール / 断罪者
夏祭り、楽しみね シリウス
昼間も綺麗だけれど 日が落ちてからの海も大好き
皆でまわったら きっと楽しいわ

2B
浴衣を着用
自分は白地に酔芙蓉の柄
カノンちゃんには桔梗柄
髪を編み上げ お揃いのリボンを
うん よく似合う
姉妹みたいね わたしたち

男性陣の所へ
どう?可愛くできたでしょう?
はにかむ二人をにこにこみつめ
シリウスの小さな言葉に 頬を染める
…ありがとう

4人で散策
リンゴ飴を買ったり 輪投げをしたり
カノンちゃんは甘いものは好き?アステルさんは?
ふたりの会話が弾むよう 時々質問を投げる

光る竹を見つけ 目を輝かせ
ね 皆でお願い事をしましょう?
カノンちゃんと駆け出す
何か聞こえた気がして振り返る
微笑むアステルさんと顔を赤くしたシリウスが
ヨナ・ミューエ ベルトルド・レーヴェ
女性 / エレメンツ / 狂信者 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
B-1
ドッペル達にお加減はいかがですか?と様子を見に行くと
安静にしすぎて暇を持て余していた様子
それではと 海へ誘う

ユ 海!?行ってみたい!シンも一緒に、ね?(笑顔

何か言おうとして諦めた顔のシンにぽんと肩を叩く喰人
お前も大変そうだな

水着を借り
ヨナはシンプルな黒いワンピースタイプの水着の上にパーカー
ユエはフリルの沢山ついた可愛らしい白い水着
男性陣はTシャツに膝上丈のサーフパンツ

ベ ユエは自分で選んだのか?可愛いじゃないか
ヨ …肩丸出しで寒くないですか?何か上着を…(自分の水着姿で堂々とされて気恥しい
ユ だいじょうぶ!(胸を張る
ヨ いえ そうでなくて(わたわた

海で泳ぎたい浮き輪も欲しいと言うユエに 続
ヴォルフラム・マカミ カグヤ・ミツルギ
男性 / ライカンスロープ / 拷問官 女性 / 人間 / 陰陽師
B
レオ君は紺色半ズボンの水着
僕のは膝丈の黒いスパッツみたいな水着

海に来たのはいいんだけどね…レオ君とレティちゃん…
「泳げないのに何で突撃するの」
君らそんな考えなしだった?と海の家でお説教
レオ君は特に、僕とほぼ同じ様な姿して醜態を晒すのやめてくれる?
泳げない人3人なんて面倒見れないから水辺で遊ぶだけにしよう

海水を掛け合いっこ
ホントに小さい頃以来だな、こうやって遊ぶの


…昼は酷い目にあった
3方向から水攻めは酷いよ…
おかげで尻尾洗うの大変だったし
僕は濃い灰色の甚平、レオ君は紺色の甚平を借りていざお祭り!
レティちゃんとカグちゃんはお揃いの黒地に青い花柄の浴衣
「…で、レオ君はレティちゃんをどう思ってるの」
サク・ニムラサ キョウ・ニムラサ
女性 / ヴァンピール / 悪魔祓い 男性 / ヴァンピール / 陰陽師
サクラ:初めましてかしら?
キョウ:久しぶり、の間違えではないでしょうか。
サクラ:あらごめんなさい。
キョウ:で、何をしましょう。
サクラ:わかってて聞いているでしょう?
キョウ:もちろん(ニッコリ)

【行動:A】
暑いのは嫌だから夜の祭りに行きましょう。
色恋はわからないから無駄に時間を取ってしまうより楽しむ方が勝ちだわぁ。
所であなた(ドッペル)のことはどう呼べば良いかしら。
今なら好きな名前で好きなだけ読んであげるわよ。ふふっ。
……
射的楽しかったわぁ。これは……私達には必要ないからあげるわ。
ん?光っていたのは笹だったのね。願い事、書きに行きましょうか。
例えばあなたの未来を願ってみるとか。
どう?かっこいい?
ルーノ・クロード ナツキ・ヤクト
男性 / ヴァンピール / 陰陽師 男性 / ライカンスロープ / 断罪者
■B
ドッペル達を見守りつつ、夏祭りを一緒に楽しむ

ドッペル達が衣装に悩むなら、ナツキが浴衣を大プッシュ
祭りの出店での遊び方もナツキが率先して教える
食べ物の屋台をとにかく回ってみたり、ルノとナツに教えながら射的で遊んでみたり

ルーノ:この遊びは上手く行かずに悔しく思う所までが、楽しむ要素だ
ナツキ:おっ、ルーノもわかってきたじゃねぇか!
ルーノ:…まぁ、ね

食べ物の出店にナツキとナツが並んで、ルーノとルノが一緒に残る
それぞれ話をして過ごした後で合流
笹に短冊を飾りに行く

ナツキ:ほら、この短冊に願い事書いて吊るすと願いが叶うんだぜ
ルーノ:根拠の無い言い伝えだろう?
ナツキ:こういうのは信じた方が楽しいんだって!


~ リザルトノベル ~

〇また、貴女に恋をする

 夏の日差しを浴びたターコイズブルーの海。
 『レオノル・ペリエ』に連れられた先で、ドッペル――らぷは初めて見る海の生き物達に目を輝かせていた。
「わーい、潮溜り! こういうところは、色んな生き物がいて楽しいんだよねー」
「すごい。色んな生き物がいるんだね。触っても大丈夫かな?」
「うん。大丈夫だよ」
 興味津々のらぷの笑顔に釣られて、レオノルも思わず、にっこりと微笑む。
 海の生き物に恐る恐る触れようとするらぷに対して、優しくフォローするレオノルの姿。
「ドクターとらぷ、仲良さそうでいいなぁ」
 海辺で戯れる二人を見つつ、『ショーン・ハイド』は砂浜でぼうっとして過ごしていた。
 比較的、安全そうな潮溜りで2人が遊んでいるのを見て安堵したせいか、ショーンは少しうとうとと眠気に襲われる。
 潮風と共に、何度も波が寄せては返っていく。


「これって何かな?」
 その頃、らぷは潮溜りで不思議な生き物を見つけていた。
「ショーンにも見せたい。私、ショーンのところに持っていく!」
「らぷちゃん、それって……ヒトデだよ」
 らぷが嬉々として発見した生き物を見て、レオノルは唖然とする。
 まさかのヒトデ。
 しかも、らぷは持ってきたヒトデを、ショーンのお腹にベタァと置いた。
(……なんだ?)
 肌に感じる奇妙な感触。
 ショーンが気がつくと、海辺にいたはずのレオノルとらぷが彼の側に立っている。
 2人の目線は、ショーンへと食い入るように注がれていた。
(何事か――っ!?)
 ショーンが2人の視線を追うと――いきなり腹の上にヒトデが居た。
「うわああっ!!」
 らぷが何か分からなくて持ってきたヒトデ。
 想定外の出来事を前にして、ショーンは驚愕の叫びを発した。
「ショーン、びっくりし過ぎだよね」
「うん、すごくびっくりしてた」
 あまりにもびびって声をあげた事に、レオノルとらぷの口元が緩み、やがて堪えきれずに思い切り笑い出す。
「……ドクター、らぷ」
「よし、らぷちゃん、逃げよう!」
「うん!」
 腰を抜かしたショーンを見て爆笑していた2人に掛けられた平坦な声。
 その声が少し震えている事に気が付いたレオノルは踵を返すと、らぷと共に海辺へと走っていった。
 逃げ回るレオノルとらぷを追いかけるショーン。
 それは単純な追いかけっこから、次第に水の掛け合いまでに発展していく。
「らぷちゃん! 2対1でショーンを追い詰めるんだ!」
「うん。こっちは任せて!」
 レオノルとらぷはそれぞれの配置に付いて、海辺に近づいてきたショーンを待ち構える。
「塩水攻撃だ! くらえー!」
「くらえー!」
「ドクター、らぷ、挟み撃ちは――っ」
 レオノルとらぷによる一斉攻撃によって、ショーンに2方向から水が喰らい付く。
 ショーンは避ける間もなく、あっという間にびしょ濡れになる。
「何しているんですか。止めて頂けないのであれば、私にも考えがあります」
「らぷちゃん、こうなったら先手必勝だよ!」
「わーい、くらえー!」
 堪え忍ぶショーン目掛けて、またもレオノルとらぷによる一斉攻撃が放たれた。
「ドクター、らぷ、覚悟して下さい……!」
 水を振り払ったショーンは、吹っ切れたようにやる気を漲らせる。
 満面の笑みで身構えるレオノルとらぷと、本腰を入れて水を掛け始めるショーン。
 互いの海面に、水飛沫が盛大に踊り始める。
 やがて、ショーンがくたくたになるまで、3人は水の掛け合いを思いっきり楽しんだ。


 思うがまま、水の掛け合いを楽しんだ後、ショーンは海の家で疲れ果てていた。
 3人でかき氷をつっつきながら、のんびりと休憩を挟む。
 ショーンを間に挟んで、レオノルとらぷは先程の海の出来事について会話を弾ませている。
(ドクター達、案外、体力あるな……?)
 疲弊した身体を休めながら、ショーンはしみじみと感じていた。
「らぷちゃん、楽しそうでよかった」
「うん。すごく楽しかった……」
 レオノルとの会話の途中で、らぷは遊び疲れたのか、ちょっとうとうとし始めた。
「なんか、こっちも眠くなってきた……」
 眠たそうならぷを見守っていたレオノルもまた、微睡みに落ちそうになってくる。
 そんな状況になっているとは思いもよらず、ショーンは胸を撫で下ろしていた。
「こないだ、サクリファイスの件で、あんなことがあったから、らぷが元気でよかったんだが。なっちは大事を取って、まだ教団の寮にいるしな」
 ショーンは一拍置くと、らぷに語り掛ける。
「次は、なっち連れて来ような。大人数の方が楽しいもんだ」
 ショーンがそう呟いた瞬間、彼の両肩にぽすんと2人の頭が乗せられた。
 肩口に頭を寄せられたショーンに、2人の想いの呟きが届く。
「ショーン、ずっと一緒にいて欲しい……」
「なっち、ずっと側にいて欲しい……」
 2人から発せられた乞うような願いに、ショーンは表情を和らげた。
「当然です。私は、貴女のパートナーですから。何があっても必ずお傍におります。それは、なっちも同じです」
 2人の寝顔を見守りながら、ショーンは確かな想いを伝える。

「……貴女達が、望む限り」

 その眼差しは真っ直ぐで、強い意思の光に満ち溢れていた。


〇夜空に焦がれて

「よし、じゃあ、今回はダブルデート第二弾と行こうか。夜店を4人で回ろう」
「第二弾、ですか?」
 『クリストフ・フォンシラー』の提案に、『アリシア・ムーンライト』はドッペル――ルウ達に視線を向けた。
 初めて行く事になる夏祭りへの期待と不安。
 戸惑う2人を見て、アリシアは柔らかな笑みを零す。
「えと……じゃあ、せっかくですから……ルウちゃんも、ミキくんも、浴衣、着ませんか? 着付け、手伝います、ので」
「浴衣か」
「浴衣……。私達、初めてですね……」
 アリシアの問い掛けに、ミキとルウは胸を高鳴らせる。
「遊び方は俺が教えるから、着替えておいで」
「ああ、行こうか」
「はい……」
 クリストフの後押しに、ミキとルウは頷くとアリシアと共に海の家へと足を運んだ。
 店員に案内された先には、様々な柄の浴衣がポールハンガーに掛けられ、下駄が置かれている。
「ルウちゃんには、紫陽花柄の浴衣。ミキくんには、二重格子文のを」
 アリシアはポールハンガーに目を向けて、2人の浴衣を選んでいく。
 着付けに手間取る2人に、アリシアは着装を手伝った。
 その時、着付けを済ませたルウが意を決したように声を掛ける。
「あの、アリシアさん、これを……」
「ルウちゃん? え、私も……?」
「はい、着付け、手伝ってくれてありがとうございます……。私、こちらを、クリストフさんに渡してきます」
 ルウは感謝を述べると、残っていた浴衣から1つ持ち出してクリストフの元へ向かう。
 ルウを見送ったアリシアは、姿見の前で渡された朝顔柄の浴衣に着替えた。


「クリストフさん……これを……」
 クリストフが待っていると、戻ってきたルウに幾何学文の浴衣を渡される。
「そうだな、せっかくだ。俺も着替えようか。アリシアも着替えてるんだろ?」
「はい……」
 嬉しそうに頷くルウを見て、クリストフは満足そうな笑みを返す。
 やがて、海の家から見眼麗しい浴衣姿のアリシアが出てきた。
「似合ってる」
「ありがとう、ございます」
 クリストフの柔らかな笑顔に、アリシアは小さな声で噛み締めるように応える。
「ミキくんは? 褒めてあげた?」
 海の家で浴衣の着付けを済ませたクリストフは、浴衣姿のミキにこっそりと囁いた。
「ああ、喜んでくれたよ」
「そうか。良かったね」
 優しさを滲ませたミキの眼差しに、クリストフは嬉しそうに返す。
「それじゃ、行こうか。アリシア」
「……はい」
 クリストフにエスコートされて、アリシアは2人と一緒に夏祭りが行われている場所へと向かった。


「すごい人だな」
「そう、ですね……」
 目の前の光景に、ミキとルウの高揚した響きが滲む。
 美しいターコイズブルーの海に映える、色鮮やかな夏祭り。
 篝火が焚かれ、出店が立ち並ぶ。
 普段は閑散としているはずの夜の海岸が、ここぞとばかりにごった返していた。
 クリストフ達は出店を練り歩き、射的の前で足を止める。
「まずは射的でも。アリシアが撃つと良いよ」
「射的、私がするんですか?」
 クリストフの呼び掛けに、アリシアは不安を滲ませた。
「狙いが定まるように押さえててあげるから。ルウちゃん達も同じようにするといいよ」
「はい、じゃあ……」
 クリストフに支えられながら、アリシアは射的用の銃を構えた。
 クリストフは、アリシアの腕を掴んで狙いを定める。
(やっぱり顔、近いな)
(構えて支えられて、近さにドキドキします……。今までにも、何度もあったのに、いつも、ですね)
 吐息が感じられそうなくらい近い2人の距離。
 アリシアは幸せに浸るように頬を紅潮させる。
 横を見れば、ルウも同じような状態で射的用の銃を構えていた。
(一緒ですね)
 アリシアは小さく微笑み、想いを重ねる。
(2人の距離、は縮まったでしょうか……)
 ミキとルウ。
 2人の関係が進展していくのを感じて、アリシアは顔を綻ばせる。
(ミキくんは)
 クリストフが横目で視線を追えば、ルウはミキに支えられながら、棚に置かれているぬいぐるみに対して発泡していた。
 3発目がぬいぐるみに命中し、棚の後ろに倒れる。
(なかなか、上手いじゃないか)
 クリストフはふっと息を抜くように笑う。
「俺達も負けていられないね」
「はい……」
 クリストフが照準を合わせ、アリシアは発泡する。
 豆粒のような小さなリングに命中し、見事、棚の後ろに倒す。
 1発目で小さな的に当たった事で、観客達から感嘆の声が上がった。
 盛り上がりを見せた射的を終え、クリストフ達は出店を散策しながら、光る笹がある場所へと赴いた。

『みんなが幸せになれますように』

 アリシアは短冊を笹に吊るし、願い事を夜空に託す。
 クリストフもまた、短冊に願いを込めた。

『この世界が良い方へ変わるように』

 ミキとルウも、願い事を書いた短冊を笹に吊るす。
 月の清廉な光が、いつまでも4人の願いを温かく包み込んでいた。


〇夏灯りに想いを残して

 夕闇の色に染まったベレニーチェ海岸。
 淡く染まる海面に、祭灯りが点景となって夜の海を美しく映えさせる。
「夏祭り、楽しみね。シリウス」
 『リチェルカーレ・リモージュ』は海岸沿いを歩きながら、『シリウス・セイアッド』に語りかけた。
「昼間も綺麗だけれど、日が落ちてからの海も大好き。皆でまわったら、きっと楽しいわ」
 リチェルカーレは、ドッペル――カノン達に夏の夜の感動を伝えるように両手を絡ませた。
「カノンちゃんとアステルさんも一緒に回りましょう」
「ええ、アステル、楽しみね」
「そうだな」
 2人に嬉しそうに語るリチェルカーレを見て、シリウスは苦笑する。
「……一緒は構わないが、アドバイスと言われると……」
 真面目に質問を投げ掛けてくるアステルを思い出し、シリウスは小さくため息を吐いた。
 リチェルカーレ達は海の家を訪れ、夏祭りに出向く前に浴衣を着用する。
 ポールハンガーに掛けられた様々な柄の浴衣の中から、リチェルカーレは白地に酔芙蓉の柄の浴衣を手に取った。
 カノンは桔梗柄の浴衣を選ぶ。
 姿見の前で、浴衣を着付けした2人は髪を編み上げ、お揃いのリボンを付けた。
「うん、よく似合う。姉妹みたいね、わたしたち」
「ええ、そうね」
 リチェルカーレの言葉に、カノンは花が綻ぶように朗らかな笑顔を浮かべた。
 その仲睦ましげな様子は、傍から見るとまるで本当の姉妹のようで――カノンにはその距離がどうしようもなく嬉しかった。


 支度を済ませたリチェルカーレ達は、男性陣が待っている所へ向かう。
「どう? 可愛くできたでしょう?」
 リチェルカーレの問い掛けに、シリウスは浴衣姿の2人に目を細める。
「どうかしら?」
 伺うようにして見てくるカノンの姿が、リチェルカーレの妹のシンティによく似ていると感じた。
「……よく似合っている」
「シリウス、ありがとう」
「ありがとう」
 シリウスの称賛に、リチェルカーレとカノンは顔を見合わせて嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、似合っている」
「……アステル、ありがとう」
 互いにはにかむ2人を、リチェルカーレはにこにこと優し気な微笑みで見つめる。
 シリウスはそんな2人から少し離れ、リチェルカーレの隣へと立つ。
 銀青色の髪を編み上げ、カノンとお揃いのリボンを付けた――浴衣姿のリチェルカーレの出で立ちは、いつにもまして眩しく感じられた。
 いつもと違う装いに、シリウスの鼓動が少しだけ早まる。
「――本当に、よく似合う」
 気の利いた褒め言葉が出ず、シリウスは想いを絞り出すようにして言った。
「……ありがとう」
 シリウスの小さな言葉に、リチェルカーレは心を奪われたように頬を朱に染める。
 ありふれた言葉――だけど、確かな思い。
 それでも花開いた彼女の笑顔に、シリウスは僅かに目元を染めた。


 夏の夜。
 色鮮やかな出店が立ち並ぶ通りを、リチェルカーレ達は散策していく。
「カノンちゃん、アステルさん」
 リチェルカーレに呼ばれて、物珍しげに周囲を見渡していたカノンとアステルは振り返る。
 リチェルカーレに招かれた場所は、リンゴ飴が並んでいる出店だった。
「カノンちゃんは甘いものは好き? アステルさんは?」
「わたしは、甘いものは好き」
「俺はあまり、食べないな」
 リチェルカーレの問い掛けに、カノンとアステルはそれぞれ応える。
 リチェルカーレは、カノンにリンゴ飴を渡し、さらに出店を巡った。
 輪投げでは、的棒に向かって輪を投げ入れて喜色満面に楽しんだ。
「カノンちゃんとアステルさんは、リンゴ飴、初めて見たの?」
「ええ、屋敷にはなかったわ」
「……俺は、前に見た事がある」
 リチェルカーレは2人の会話が弾むように、時々質問を投げる。
 もっぱら、リチェルカーレとカノンが楽しそうに会話し、時折、アステルが答えを返す。
 そんな3人の姿を、シリウスは優しく見守っていた。
 やがて、幾つも連なる出店の先で、リチェルカーレは光る笹を見つけ、目を輝かせた。
「ね、皆でお願い事をしましょう?」
「お願い事、素敵ね」
 リチェルカーレは、喜びを噛み締めるカノンと一緒になって駆け出す。
「転ぶなよ」
 笹へと駆け出したリチェルカーレに、シリウスは気遣うように声を掛ける。
 その声音は優しく、そして愛おしげな響きを伴っていた。
 2人の様子を見ていたアステルは想到する。
「大切なんだな、彼女のこと」
 アステルの確かめるような言葉に、シリウスは目を瞬かせた。
「優しい顔をしている」
 アステルに告げられ、シリウスは思わず、口元を覆う。
「え……?」
 笹にたどり着いたリチェルカーレは不意に、何か聞こえたような気がして振り返る。
 そこには、優しく微笑むアステルと顔を赤くしたシリウスの姿があった。


〇懸想の恋歌

「ユエさん、シンさん、お加減はいかがですか?」
 薔薇十字教団の病棟。
 『ヨナ・ミューエ』達がドッペル――ユエ達の様子を見に行くと、2人は安静にしすぎて暇を持て余している様子だった。
「ヨナさん、ベルトルドさん」
 光の檻の出来事によって疲労困憊していたはずのユエは、2人の姿を目の当たりにして笑顔を綻ばせる。
「もう、問題ないな」
 彼女の隣のベッドに座っていたシンは2人を一瞥し、淡々と応えた。
 助け出されてからの2人はとても衰弱しており、まともに動く事が叶わない状態だった。
 長期間にも及ぶ魔術の拘束。
 それでも病室で安静に休んでいた事が攻を奏したのか、2人は日常生活に支障がない程、回復していた。
 ヨナは、ユエ達の元気な姿を見て表情を緩ませる。
「それでは、海に行きませんか?」
「海!? 行ってみたい! シンも一緒に、ね?」
 ヨナの誘いに、ユエは飛びつくような勢いで立ち上がった。
 ぱあっと目を輝かせて、嬉しそうに笑う。
「……俺は行くとは、一言も――」
「シンも一緒に行こうね」
「……はあ」
 有無を言わせぬ眼差しと笑顔に、シンは続けようとした言葉を失ってため息をついた。
「お前も大変そうだな」
 何か言おうとして諦めた顔を浮かべるシンに、『ベルトルド・レーヴェ』はぽんと肩を叩く。
 海水浴行きが、なし崩し的に決まった瞬間だった。


「シン、見て見て。すごい……」
「おい、やめろ」
 海岸沿いを歩いていたユエは、初めて目にした海の壮大さに感激していた。
 彼女は高揚した面持ちで、隣を歩くシンの腕を掴む。
「ユエさん、シンさん、そろそろ海の家に行きましょう」
「うん……!」
 煌びやかな海を前にして浮き足立つユエに、ヨナは声を掛ける。
 ヨナ達に先導されて、ユエとシンは海の家へと訪れた。
 早速、ヨナ達は水着を借り、それぞれ着替え始める。
「私はこれを」
 ヨナは、シンプルな黒いワンピースタイプの水着の上にパーカーを羽織う。
「あっ……」
 海の家にあった色とりどりの水着から、ユエは気になったものを手に取る。
 それはフリルの沢山ついた、可愛らしい白い水着だった。
「可愛い……!」
 この水着を目にした瞬間、ユエの心は決まっていた。
 男性陣は別の更衣室で、Tシャツに膝上丈のサーフパンツに着替える。
 海の家から出てきた水着姿のユエを見て、ベルトルドは言った。
「ユエは、自分で選んだのか? 可愛いじゃないか」
「……肩丸出しで寒くないですか? 何か上着を……」
 ベルトルドの称賛とは裏腹に、ヨナは焦り、動揺の色を隠せない。
 自分と同じ姿のユエが、愛らしい水着姿で堂々としている事に気恥ずかしさを覚えたからだ。
「だいじょうぶ!」
「いえ、そうでなくて」
 そんなヨナの思いなど露知らず、ユエは得意げに胸を張る。
 人目のある海の家の前。
 無防備に露出した肢体を晒すユエに、ヨナは困惑し、わたわたと狼狽えた。


「海で泳ぎたい。浮き輪も欲しい」
「荷物があるので、シンさんとどうぞ」
 意気込むユエの要望に、ヨナは持ってきた荷物を手渡す。
「うん。シン、一緒に泳ごう」
「なんで、俺まで……」
 ユエの誘いに、シンは苦々しい顔で辟易する。
 海に一直線に向かうユエと、強引に腕を引かれていくシンの姿を見送り、ヨナとベルトルドは一息ついた。
「すっかり、ユエのペースだな」
「まるで双子の妹でも出来た気分です」
「はは、間違いない」
 心情を吐露するヨナに、ベルトルドは苦笑した。
 一方、ユエとシンは浮き輪を使い、初めての海へと足を踏み入れる。
 慣れない波に流されながら、2人は少しずつ泳いでいく。
「なんで、お前と2人で泳ぐ羽目に……」
「みんなと一緒が良かった?」
 シンのぼやきに、ユエはきょとんとした顔で尋ねた。
「馬鹿、そういう意味じゃない」
 的外れな発言に、シンは不服そうに返す。
「あ~! ばかって言った。ひどい!」
「こら、やめろ」
 水を掛け始めるユエに対して、シンは制止の声を上げる。
 だが、降りかかる水の勢いは増していく。
「いや! それに私の名前はお前じゃないし、ちゃんと名前で呼んで」
「わかった。ユエ、やめてくれ」
 観念の臍を固めたという顔つきで言うシン。
 その瞬間――ユエの動きがぴたりと止まった。
「もう一回、呼んでみて」
「……ユエ」
 もじもじと顔を赤らめるユエの催促に、シンは応える。
「うん! シン!」
「うわ、いきなり抱きつくな」
「だって私、嬉しいんだもの」
 シンの戸惑いの声をよそに、抱き着いたユエはにぱっと幸せそうに笑う。
 頬を上気させて、表情には喜びの感情が満ち溢れていった。
 そんなやり取りで騒いだ後、2人は休息を取る為に海の家に戻る。

 ヨナ達が用意した――大きな西瓜のサプライズに驚くまではあと少しだ。


〇夜煌蝶は願う

 『カグヤ・ミツルギ』は、ドッペル――レティーシアと一緒に水着を買いに行っていた。
「……私は、小さい頃に、波に巻かれて溺れてから、殆ど来てない」
「……そうなんですね」
 カグヤは、レティーシアに自身の過去を語る。
 2人はそれぞれ水着を手に取り、試着室で水着に着替えた。
 レティーシアは、白いハイネックのワンピースタイプの水着だ。
 ただし、背中は大きく開いている。
 裾の長い、白いフリル付きのパレオで、清楚な雰囲気を醸し出している。
 カグヤは店員が薦めてきた、パレオ付きの黒いビキニタイプの水着だ。
 真ん中にレースのリボンが付いており、寄せ上げて谷間を強調するデザインである。
「……っ」
 レティーシアはカグヤを見るなり、自分の胸と見比べた。
 視線を感じたカグヤが怪訝そうに傾げると、レティーシアはやがて意を決したように口にする。
「あの……男性は……お胸が大きい方が嬉しいというのは、本当ですか?」
「……人にもよると思う、よ?」
 気掛かりだった事柄。
 カグヤは、不安そうなレティーシアの思いを汲んで応えた。


 本格的な夏の到来を感じられるベレニーチェ海岸。
 カグヤ達が水着に着替えて砂浜へと赴くと、『ヴォルフラム・マカミ』とレオニスは先に着替えを済ませていた。
 ヴォルフラムは、膝丈の黒いスパッツみたいな水着で尻尾を揺らしている。
 紺色半ズボンの水着姿のレオニスは、興味津々といった様子で海を眺めていた。
「カグちゃん、似合うよ」
「ヴォル、ありがとう……」
 顔を赤らめたカグヤを見て、ヴォルフラムが嬉しそうに笑った。
「店員さんのおすすめの水着……。人気なんだと、思う」
「へぇ」
 ヴォルフラムの眼差しは、どこまでも優しさに満ちている。
「あれ?」
 そこで、ヴォルフラムは周囲を見渡し、疑問を抱いた。
 先程まで側にいたレオニスとレティーシアが、いつの間にか居なくなっている。
「レオ君とレティちゃんは?」
「ヴォル、2人とも向こうで……溺れてる、みたい」
 ヴォルフラムが人込みの隙間を縫って探していると、海に視線を巡らせたカグヤは状況を示唆する。

「わああああ!! 何してるの、2人とも!!」

 ほとんど悲鳴だった。
 ヴォルフラムの視線の先では、溺れていたレオニスとレティーシアが高くうねり始めた波に攫われている。
 ヴォルフラムは近くに居た人々の協力を得て、2人を何とか救助する事が出来た。


「海に来たのはいいんだけどね……。レオ君とレティちゃん……」
 森閑とした空気が、海の家に満ちる。
「泳げないのに、何で突撃するの」
 ヴォルフラムの言葉が全てを物語っていた。
「君ら、そんな考えなしだった?」
 ヴォルフラムの視線の先には、全身ずぶ濡れになった2人が髪から水滴を零している。
「レオ君は特に、僕とほぼ同じ様な姿をして醜態を晒すのやめてくれる?」
「わ、悪かったんだぜ……」
 ヴォルフラムの言に、レオニスは深謝した。
「泳げない人、3人なんて面倒見れないから、水辺で遊ぶだけにしよう」
「うん……」
 ヴォルフラムの提案に、カグヤは応えた。


 ヴォルフラム達は近くの海辺で、海水を掛け合いっこする。
「ホントに小さい頃以来だな。こうやって遊ぶの」
 ヴォルフラムが過去に思いを馳せていると、突如、3方向から水が食らい付く。
 頭から全身まで一気にびしょ濡れになった。
「ちょっと、いきなり水攻めは酷いよ!」
「よし、集中攻撃だぜ!」
 ヴォルフラムの訴えに、レオニスが意気揚々に返す。
「これから皆で、ヴォルに集中攻撃、するみたい」
「だから、やめてー」
 ヴォルフラムの悲鳴も虚しく、再びカグヤ達による一斉攻撃が放たれた。


「……昼は酷い目にあった。3方向から水攻めは酷いよ……。おかげで、尻尾洗うの大変だったし」
 夕闇色の空。
 ヴォルフラムは周囲に満ちる静寂を押しのけるようにして言った。
 海の家に立ち寄り、今度は浴衣へと着替える。
 ヴォルフラムが濃い灰色の甚平の浴衣。
 レオニスは紺色の甚平の浴衣を借りた。
 カグヤとレティーシアは、お揃いの黒地に青い花柄の浴衣を着用する。
「いざ、お祭り!」
 ヴォルフラムの呼び掛けに、カグヤ達は夏祭りが行われている場所へと向かう。
 周囲には篝火が焚かれ、出店が立っている。
「すごい……」
 久しぶりに触れる夏祭りの喧騒に、カグヤは息を呑み、驚きを滲ませた。
「あっ……」
 レティーシアが目を向けた場所では、光る笹が周囲を明るく照らしている。
「願い事を短冊に書いて吊るす、の?」
「はい」
「レティ……短冊に書くより、直接言わないの? レオニスは……少し鈍いみたいだし」
「短冊に書くのは、願掛けなんです。彼に思いを告げる為の意思表示……」
 カグヤの不安に、レティーシアは思いが結実する事を願って短冊を吊るす。


「……で、レオ君はレティちゃんをどう思ってるの」
「……俺が強くなりたい理由は、レティーシアを守りたいからだ」
 レオニスの胸に去来する想いが――一気に形を帯びていく。
「レティちゃんも、レオ君と同じ気持ちだと思うよ」
 煌めく星空の下、ヴォルフラムは安堵し、胸を撫で下ろしていた。


〇これからも一緒に

 夏の兆しが高まったベレニーチェ海岸は、多くの人々が行き来し、雑踏に溢れている。
「暑いわ。溶けてしまいそうね」
 人々が行き交う海岸沿いで、ドッペルが2人に声を掛けた。
「初めましてかしら?」
「久しぶり、の間違えではないでしょうか」
 『サク・ニムラサ』の問い掛けに、『キョウ・ニムラサ』は応えた。
「あら、ごめんなさい」
 サクはドッペルに謝罪する。
「で、何をしましょう」
「わかってて聞いているでしょう?」
 話題を振ったキョウに、サクは疑問を返す。
「もちろん」
 サクの言葉に、キョウはにっこりと笑った。


 日が落ち、夕闇へと包まれる海岸。
 夏祭りを迎えた小暑の夜。
 夜の海を照らす幻想的な月明かりを横目に、サクは言った。
「暑いのは嫌だから、夜の祭りに行きましょう」
「ええ、そうね」
 サクの提案に、ドッペルは頷いた。
「祭り、ですね。お付き合い、よろしくお願いしますね、ドッペルさん」
「よろしくねぇ」
 キョウの呼び掛けに、ドッペルの口元に自然と笑みが浮かぶ。
 海岸に沿う、色鮮やかで美しい提灯。
 朧気に揺らめく優しい光。
 石灯籠は暗い道を照らす。
 他愛ない会話をしながら、サク達は出店を順に巡る。
「色恋はわからないから、無駄に時間を取ってしまうより楽しむ方が勝ちだわぁ」
「同感ね。楽しみましょう」
 立ち並ぶ出店に視線を走らせるサクに、ドッペルは同意を示す。
「所で、あなたのことはどう呼べば良いかしら。今なら、好きな名前で好きなだけ呼んであげるわよ。ふふっ」
「そうね……」
 サクの懇意に、ドッペルは目を閉じ、自分の名前を思考する。
 様々な名前が、心の中で浮かんでは消えていった。
 彼女が再び、目を開けた時、その明眸には確かな意思が宿っていた。
「『レニー』はどうかしら?」
 ドッペルは心に刻むように、その名前を口にする。
「レニー……、ベレニーチェ海岸から名前を取られたんですね」
「ええ、そうよ」
 キョウが疑問を投げ掛けると、ドッペル――レニーは肯定した。
「レニー、いいと思うわ」
「レニーさん、よろしくお願いしますね」
「ありがとう」
 溢れる程の感謝の想いが、ドッペル――レニーの胸に広がった。
 サクは出店を見渡し、射的へと足を運ぶ。
「キョウヤ、勝負しましょう!」
「負けませんよ!」
 サクの挑戦に、キョウは応える。
 射的用の銃を構え、狙いを的に定めた。
 射的の出店は、階段状になった台座に景品が置かれている。
「射的、初めてだわ」
 レニーは射的自体が分からなかった為、2人の対決を静かに見守っていた。

 それぞれが発砲。

「……」
「……」
 出店に静寂が舞い降りる。
 サクのコルク玉が景品に命中し、棚の後ろに倒れる。
 だが、キョウのコルク玉は目的の的から外れてしまった。
「射的楽しかったわぁ。これは……私達には必要ないからあげるわ」
「ありがとう」
 サクの笑みに釣られたように、景品を受け取ったレニーの顔に喜びが溢れてくる。
「射的は、まあ、サクラは本物使ってますからね。
 負けてしまうのが当たり前……別に悔しくなんかないですよ……型抜きなら勝てますから……」
 そうは言いながらも、キョウの表情からは悔しさが滲み出ていた。
「ねえ、型抜きって何かしら?」
「レニーさんは、型抜き、初めてなんですね。今度、教えてあげます」
「あら、ありがとう」
 キョウの誘いに、レニーは期待を膨らませる。
 出店をさらに巡り、3人は一緒に楽しんでいった。
 目移りする出店の中で、サクは棒を取り、リンゴ飴を購入する。
「これ、美味しいわね。キョウヤとレニーもどうかしら?」
「頂きますね」
「美味しそうね」
 サクから手渡されたリンゴ飴を、キョウとレニーは受け取った。
 3人は戯れ合いながら、夏祭りを楽しんでいく。
 その道中、サク達は揉め事を起こしていた者達の間に入り、それぞれの武器で騒ぎを収める。
 夏祭りが終わる間際、サクは遠くで光る笹を発見した。
「ん? 光っていたのは笹だったのね。願い事、書きに行きましょうか」
「笹に願い事? 笹だからなのか、光っているからなのか。こんなこと考えてもしょうがないですし、早く願いましょう」
 サクに促される形で、キョウは笹へと赴いた。
 近くに置いてあった短冊を手に取り、3人は願い事を考える。
「願い事ねぇ」
 サクは意味ありげに、レニーに視線を向ける。
「例えば、レニーの未来を願ってみるとか。どう? かっこいい?」
「かっこいいわぁ」
 サクの問い掛けに、レニーは喜びを噛み締めた。

 サクの願い事は、『レニーの未来に幸ありますように』。
 キョウの願い事は、『勝てますように』。
 もちろん、誰にとは言うまでもない。
 レニーの願い事は、『これからも2人と一緒にいられますように』。

 願いや想いを短冊に乗せて、サク達は星空に未来を託す。
 新たに築いた、確かな絆を胸に抱いて――。


〇あまねく星の息吹

「そろそろ、夏祭りが始まる時間帯だな」
 海の家に向かう海岸沿いで、『ルーノ・クロード』は空を見上げる。
 日が落ちて暗くなり始めた夜空には、夏の星々が灯り始めていた。
「それにしても、ルノとナツは海を見た事がないんだなぁ」
「そうだな。ドッペル達は、ノルウェンディの生まれだと聞く。海を見た事がなくても、おかしくないだろうな」
 『ナツキ・ヤクト』は、ルーノと会話を交わしながら海の家へと入る。
 海の家では、ドッペル――ルノとナツが夏祭りに出向く際の衣装で思い悩んでいた。
「ルノ、ナツ、どうしたんだよ?」
「夏祭りには、どんな格好で行った方がいいんだろうか?」
「夏祭りは初めてなんだろ? なら、浴衣にしようぜ!」
 思慮を巡らすルノに、ナツキは浴衣を大プッシュで薦める。
「ほら、ルノ、ナツ、見ろよ。色んな柄の浴衣があるんだぜ。帯とか数種類あるし、下駄とかも色々ある!」
「すげぇな! ルノ、浴衣にしようぜ!」
「……そうだな」
 ナツキとナツの後押しに、ルノは頷いた。
 店員の薦めの浴衣を着用し、4人は夏祭りへと足を進める。
 連なる出店には、美しい提灯の光が揺れ、篝火が焚かれていた。
「出店がたくさんで目移りしちまうな……!」
「同感だな」
 ナツの生き生きとした眼差しに応えるように、ルノは感慨深そうに周囲を見渡す。
「どれも楽しめるし、せっかくだから色々と回って見ようぜ。なんたって、夏祭りだからな!」
「ああ、そうだな」
「おう!」
 ナツキの問い掛けに、ルノとナツは返す。
 祭りの出店での遊び方も、ナツキが2人に率先して教えていった。
「まずは、食べ物の屋台からだよな!」
「これは、見た事のない食べ物だな」
「おっ、ルノ。うまそうな匂いが、あっちからしてくるぜ!」
 先行するナツキから、ルノとナツは訪れた出店がどんな所なのか教わる。
 立ち並ぶ食べ物の屋台を回っていると、射的の出店がナツキの目に入った。
「なあ、ルノ、ナツ。射的、やらねぇか? やり方、教えるからさ!」
「射的か。私に出来るだろうか……」
 ルノの不安を吹き飛ばすように、ナツは意気込む。
「いいじゃねぇか、楽しもうぜ!」
「そうだな……楽しまないと損か」
 呆れを滲ませながらも、ルノの口調は楽しげだった。
「景品のどの位置に当たるのかによって、倒れるかどうかが決まってくるからな」
 ナツキに教わりながら、ルノとナツは射的用の銃を手に取る。
 狙うべき景品を定め、射的用の銃を構えた。
 2人はそれぞれ発泡する。
 だが、放ったコルク玉は、景品には当たらず、逸れてしまった。
「当たらなかったか……」
「くっ、悔しいなぁ……!」
 気落ちするルノとナツに、ルーノが声を掛ける。
「この遊びは上手く行かずに悔しく思う所までが、楽しむ要素だ」
「おっ、ルーノもわかってきたじゃねぇか!」
「……まぁ、ね」
 嬉しそうなナツキの言葉に、ルーノは苦笑した。
 何度か挑戦し、やがてナツの放ったコルク玉が命中し、景品が倒れる。
「射的には驚かされたな」
「面白かったな。撃った瞬間、景品がガタッと倒れてさ! もっとやりたかったくらいだぜ!」
「そうだね」
 ナツの楽しそうな顔を見て、ルノは喜びを噛み締めた。
「ナツ、今度はあっちに行こうぜ!」
「おー、美味しそうだな!」
 食べ物の出店に出向いたナツキとナツが並んで、ルーノとルノはその場に残った。
「ルノ。仲良くなりたいなら、自分の得意な事でナツを助けるといい」
「得意な事か……」
 胸に沁みる静寂の中――ルーノから告げられた助言。
 ルノの胸に確かな想いがこみ上げてくる。
「私はナツキによく助けられている。射的の遊び方も、最初はナツキに教えてもらったんだ」
「……私も、ナツに助けられている。だが、得意な事と言われても、何も思い付かないな」
 そう吐露をするルノの表情はどこか苦しげだった。
 彼の気持ちを察したルーノはさらに続ける。
「得意な事がわからなければ、これから探せばいい」
「ああ、ありがとう」
 ルーノの導きの言葉に、ルノは小さく笑った。


 購入した食べ物を手に取り、ナツキは話を切り出した。
「ルノと一緒にいて楽しいか? えーっとほら、また一緒に遊びたいとかさ!」
「すげぇ楽しいぜ。また、来年も一緒に来て遊びたいな!」
 ナツキは喜び勇んで答えたナツに視線を移す。
(もし、ナツも一緒に遊んで楽しくて、また遊びたいって思うんだとしたら。ルノは仲良くなりたいって言ってたけど、もうとっくに仲良い友達なんじゃ……?)
 ナツキは散らばった言葉の欠片を探すように空を仰いだ。
 ルノとナツ。
 2人の関係が明確になった瞬間だった。
 それぞれが話をして過ごした後、4人は合流し、光る笹に短冊を飾りに向かう。
「ほら、この短冊に願い事書いて吊るすと、願いが叶うんだぜ」
「根拠の無い言い伝えだろう?」
「こういうのは信じた方が楽しいんだって!」
 ナツキの言い分に、ルーノは祭りの最後の余韻に浸りながら小さく笑った。

『ルノがナツと更に親しくなれるように』
『ルノとナツの思ってる事がちゃんと伝わりますように!』

 ルーノとナツキは、願いを短冊に乗せて星空に託した。
 ルノとナツも、願い事を書いた短冊を笹に吊るす。
 夏空を背景に、幾多の星々が輝いていた。


ドッペルと夏ライフ
(執筆:留菜マナ GM)



*** 活躍者 ***

  • ショーン・ハイド
    全ては生きる為。ただそれだけです
  • レオノル・ペリエ
    君が誰であっても私には関係ないよ
  • サク・ニムラサ
    サクラよ。ぜひサクラと呼んで。
  • キョウ・ニムラサ
    はぁ……キョウと呼んで下さい。
  • ルーノ・クロード
    まぁ、ほどほどに頑張ろうか。
  • ナツキ・ヤクト
    よーし、やるか!

ショーン・ハイド
男性 / アンデッド / 悪魔祓い
レオノル・ペリエ
女性 / エレメンツ / 狂信者

サク・ニムラサ
女性 / ヴァンピール / 悪魔祓い
キョウ・ニムラサ
男性 / ヴァンピール / 陰陽師

ルーノ・クロード
男性 / ヴァンピール / 陰陽師
ナツキ・ヤクト
男性 / ライカンスロープ / 断罪者




作戦掲示板

[1] エノク・アゼル 2020/07/03-00:00

ここは、本指令の作戦会議などを行う場だ。
まずは、参加する仲間へ挨拶し、コミュニケーションを取るのが良いだろう。