~ プロローグ ~ |
「……次は汝が行くか? 我が友の子よ」 |
~ 解説 ~ |
【目的】 |
~ ゲームマスターより ~ |
【マスターより】 |
◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
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ようこそいらっしゃいました こうしてまたお会いできて嬉しいですシャオマナ様 お名前も無事に決まって。ふふ、私達の案も入れて下さったのですね ありがとうございます 助っ人はヨセフに頼む 1杯目 ヨ この命薬を飲み干せば良いのですね? 健康に良いのなら試練にならないのではないですk 一口飲んで固まる シャオマナの視線に答えて気合で飲み込むも意識朦朧正気を失う ベ おいヨナ!? …なるほど これは大変な事になりそうだ 急いで救護班を呼んでおいてくれ 2杯目 ベ ヨナは完全に油断していたが二の轍を踏む訳にはいかん 心してかからねばな 目を瞑り心を無にし一気に飲み干す …どうだ これでも酒には強いんだ 酒ではない? 細かい事言うんじゃない |
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ナツキはシャオマナを大歓迎、ルーノも笑顔で迎える 助っ人にはヨセフ室長を巻き込…協力を頼む 一杯目をナツキが疑いなく飲む 飲み干せない分は心の準備をしたルーノが引き受ける ナツキ:いただきまーす!…っ!!?? ルーノ:…なるほど、心してかかるべきだな 一杯目がスケール5相当なら、二杯目・三杯目はそれより負担は少ない筈 一杯目で体の拒否反応が麻痺している所で、手分けして二、三杯目を飲む ルーノ:人は慣れる生き物だ、先の甘さを思い出して…(記憶Lv5) よし、大丈…(飲んで、突っ伏す) ナツキ:た、耐えろよルーノっ! 四杯目は二人で半分ずつ飲んで負担を分散 ルーノ:さすが神、容赦がない… ナツキ:いいか…せーのでいくぜ…! |
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…やるって言ったからにはどの道やるしかないだろ はいはい、分かった、分かったって …デリケートね それよりと室長を見て …あっちの方が心配、だな(室長が激甘平気かいろいろ気になってる) …ひとまず、 機嫌を損ねないように…気をつけるぞ つまり頑張って飲むしかないということを目でシキに訴え …っ!(まずはちょびっと飲んでみた) 甘い、な…その、割と…? まずくは、ないけど… (これ、4杯飲んだら死ぬんじゃないか) そうは思ったがやはり飲まないわけにはいかず… げほっ…(むせて手を口へ) 俺も、違うとこ入った(誤魔化した) |
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シャオマナさん、ですか……ふふ、素敵な名前です あの時は救っていただき、ありがとうございました ス:今日はあそびにきたのかー? それで、これを飲めばいいんですか? なんだか……ずいぶん簡単ですね、本当にそんなことでいいのでしょうか……? お、おどかさないでください……!飲めないものを彼女が用意するとは思えません いえ、例えそうでも命の恩人がくれたもの、残すつもりだってないです では……い、いただきます のぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ ……ステラ、その……先日、言いましたよね 私と一緒に……乗り越えてくれますか? さあ、飲みなさい? あ……ヨセフ室長…… 私達のも、ちょっとだけ手伝ってもらえたりとかしたり…… |
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サクラ:あら可愛らしいわねシャオマナちゃん……様? キョウ:…可愛いそうでしょうか? サクラ:この失礼な口をふさぐために早く キョウ:アークライトさんお久しぶりです? サクラ:あ、こら!話を逸らすな! キョウ:これが命薬ですか。飲めば良いのですね。 【行動】 サクラ あとで一発殴って良いからねぇシャオマナもキョウヤにパンチする? キョウヤは甘いもの大好きだからこのくらい(普通よりちょっと甘いは)余裕じゃないかしら もしかして普通じゃない? おっとごめんなさい。気管に入ったみたいねぇ大丈夫?水飲む? 私も霊薬飲もう 甘いというか心臓を刺しにきているというか 頭の中で鐘を鳴らすユニークな薬ね! きっとこれが美味しいなのね!ね! |
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~ リザルトノベル ~ |
その日、薔薇十字教団本部は和気あいあいとした雰囲気に包まれていた。 理由は、不意に訪れた小さな来訪者。 『太陽の命姫(みことひめ)・シャオマナ』。 慟哭龍 アジ・ダハーカの娘にして、最も若き八百万神。 人に守られ。人を守った古龍の末裔。長い悲しみの果てに掴んだ、絆の証。 そんな彼女が得た権能は、『命の守護者』。それも、必ず意味がある筈で。 佳境に入った、戦いの日々。痛む傷を癒す様に、温かい歓喜が満ちていく。 「久しぶりだなー! 今日はあそびにきたのかー?」 早速、走り寄っていく『ステラ・ノーチェイン』。 (おひさー! 盟友! 元気?) どっからか取り出したホワイトボードに、チャカチャカと書いて答えるシャオマナ。 何でも、声に強力な言霊が宿るとかで。迂闊に話すと、何が起こるか分からないらしい。で、もっぱら筆談。近く、手話でも覚えようとか言うのは本人の談。 ハイタッチを交わす、ステラとシャオマナ。 先の戦いにおけるやり取りで、二人はとっくに友達。ステラにとっては、カレナに続く盟友第2号。 「シャオマナさん、ですか……。ふふ、素敵な名前です。あの時は救っていただき、ありがとうございました」 「ようこそ、いらっしゃいました。こうしてまたお会い出来て、嬉しいです。シャオマナ様。 お名前も、無事に決まって。ふふ、私達の案も入れて下さったのですね。ありがとうございます」 「元気そうだな! どうだ? 八百万の皆には、良くしてもらってんのか? 何かあったら、いつでも相談に来いよ!」 じゃれ合う二人に近づいた『タオ・リンファ』と『ヨナ・ミューエ』が挨拶する。 駆け寄ってきた『ナツキ・ヤクト』も、嬉しそうに尻尾を振る。 「身内とは言え、強大な魂二つ分の干渉。加えて、急激な神化。幼い身に悪い影響が出ないか心配だったけど……」 「杞憂だった様だな」 見ていた『ルーノ・クロード』と『ベルトルド・レーヴェ』が、そう言って頷き合う。 シャオマナの笑顔に、穏やかな表情を浮かべるルーノ。けれど、すぐにそれを引き締める。 「だけど、彼女がここに来た理由は……」 「まあ、『神契』関係だろうな」 セルシアとカレナが渡し役となり、復讐の女神・エリニュスの手によって開かれた神々との対話。 今まで人との関わりを持たなかった神々までが動く中、人への想いが強いシャオマナが動かない筈はない。 「シャオマナは、命を司る。創造神の権能に比肩しうる力だ。それを、創造神の使徒達は良しとしない」 思い出すのは、先の戦い。シャオマナの権能を目の当たりにした、双子のベリアル。彼女達が示した敵意と殺意は、尋常ではなかった。 もし、シャオマナが戦場に出れば。 間違いなく、標的となる。 シャオマナは、幼い。いくら創造神に並ぶ存在と言っても、あくまで可能性。遠い、未来の話。高位のベリアル達に戦闘で打ち勝つ力は、恐らくない。 「来るなと言ったところで、聞きそうにもないしな……」 「問題ない」 悩むルーノに、ベルトルドは言う。 「俺達が、守ればいい。あの時、あいつが俺達にそうした様に」 「…………」 「生まれた希望一つ守れずに、他に何を守れる?」 「……そうだな」 頷いて、視線を戻す。 無垢の笑顔は、酷く眩しかった。 「僕らの案、全部くっつけちゃったんだね。無理しなくて良かったのに」 「それだけ、私達を想ってくれてる。あの娘も。そして、あの娘の母も、お兄さんも」 花壇の縁に腰かけて、彼女達を見つめる『ヴォルフラム・マカミ』。答える様に、『カグヤ・ミツルギ』が言う。 シャオマナの周りを舞う、六色の宝珠。そして、胸に輝く金の勾玉。 彼女の母、アジ・ダハーカと、兄の魂。その化身。 死闘の最中、救い主である創造神と袂を分かってまで皆を守った古龍達。 「罪も、悲しみも消えないし、消しちゃいけないけれど……」 視界を彩る輝きは、何処までも優しくて。 「言ってくれたよ。それで終わりじゃないって、あの娘達が……」 「……うん」 眩しそうに眼を細めるカグヤと共に、ヴォルフラムも頷いた。 「……あの娘の名前を付けたのは、人なんだよな?」 「らしいな」 呟く様に問うてきた『シキ・ファイネン』に、『アルトナ・ディール』も声を返す。 「良いのかな? 真名ってのは、存在を縛るんだろ? そんな大事なモンを、人(俺達)なんかが握ってて……」 「……それが、古龍(あいつら)が人(俺達)に出した答えだ」 「……?」 小首を傾げるシキ。シャオマナを見つめながら、アルトナは続ける。 「古龍(あいつら)は、誓ったんだ。かつての罪をそのままに、それでもなお人(俺達)と友でいてくれると」 「…………」 「もし、その誓いを裏切る事があるのなら……」 青の瞳が、天を仰ぐ。 「その時こそ、俺達は受け入れなくちゃいけない。滅びという名の、断罪を……」 「……そうだな……」 追う様にして、仰ぐシキ。 遠く霞む果ての座で、かの者も見ているのだろうか。 愛しく繋がる、絆の様を。 「あら。見て、キョウヤ。可愛いわね。可愛らしいわね。シャオマナちゃん……様?」 シャオマナを初めて見てテンション上がる、『サク・ニムラサ』。 一方。 「可愛い? そうですか?」 冷めた様子でのたまう、『キョウ・ニムラサ』。そっけないのは元々の性格のせいか。それとも、もっと別の理由か。 「何? 可愛くないの? あの娘? 目、大丈夫? 取って洗う?」 「……結構です。まあ、造形は良いとは思いますが……」 言いながらもう一度見ようとして、固まった。 シャオマナがいた。 さっきまで、結構離れた所にいた筈なのだが。 何ですか!? 瞬間移動!? 縮地!? それとも何かの権能!? 瞬時に色んな疑問符が浮かぶけど、全て虚しい現実逃避。何から? 決まってる。目の前の『ソレ』から。 シャオマナが原因ではない。彼女は変わらず、ニコニコ。先の言葉は聞いていないか。それとも、些事なのか。 とにかく、彼女がどうこうと言う訳ではない。 キョウを震撼たらしめるモノ。 答えは、シャオマナの周りと胸元。 アジ・ダハーカの宝珠と兄の勾玉が、異様な輝きを放っている。 (……夜人の小僧、私の娘が愛いくないと申すか……? 面白いではないか……) (いいだろう。ならば好みの面相を言うがいい。我らが全権能をしてその通りに作り替えてくれよう……) 言葉が、脳裏に響く。もの凄く、ドスの効いた声で。 誰の声かは、明白。ここに至り、キョウは戦慄の真理に行き着く。 (お……親馬鹿にシスコン……!!) それも、『ど』が付くレベル。 (如何した?) (疾く、申すが良い) 神器に身をやつしているとは言え、強大な古龍。多分、普通にやらかす。 そして、問題はそれだけではなかったり。 「何ですか!? サクラ!!」 いつの間にか背後に回ったサクが、羽交い絞めでホールドしてくださったりしている。 「この失礼な口を塞ぐために、早く!」 どうやら、件の声は彼女にも聞こえていた模様。 そして、どちらにつけばより面白いかも瞬時に判断した模様。 「さあ! 早く早く!」 「ちょっとぉお!?」 とっても楽しそう。 半分は冗談だろうが、もう半分は普通に本気。 この世の良識常識何するものぞ。サク・ニムラサ、ここにあり。 「何やってるんだ? お前達」 天の声に振り向けば、変なモノ見る目の『ヨセフ・アークライト』室長その人が。 まとめて『変なモノ』扱いされてる事は遺憾だが、このままでは顔面改造待ったなし。飛びつくキョウ。 「ア、アークライトさん! お久しぶりです!」 「あ、こら! 話を逸らすな!」 振りほどかれて憤慨するサク。 埋め合わせの様に『あとで一発殴って良いからねぇ。シャオマナも、キョウヤにパンチする?』等と、確約している。幼いとは言え、古龍のパンチ。神バフ込み込み。如何程か。 「アジ・ダハーカの子……。太陽の命姫・シャオマナ、だったな」 ヨセフに向かってお辞儀するシャオマナ。顔を上げると、その手にはホワイトボード。『初めまして。先においては私を含め、母と兄の御霊を救っていただいた事、感謝いたします』の文字。微笑みながら、ヨセフも礼を返す。 「そう畏まらないでくれ。礼を言うべきは、こちらの方だ。先の戦いで、部下達を助けてくれたな。ありがとう」 受けて、またお辞儀。 可憐な所作。どこまでも、温かい。 「それで、今日はどの様な趣きで参られたのだ? まさか、本当に遊びに来た訳でもないだろう? まあ、それでも構わないが」 優しい言葉にニコニコしながら、ボードにカキカキ。返したそれに書いてあったのは、『契り』の文字。 「……そうか」 目を細め、頷くヨセフ。 「お前の権能は、皆にとってこの上ない助けになる。戦場では、必ず俺達が守る。……力を、貸してくれ」 一切の迷いもなく、頷く。宝珠も、勾玉も。異を唱えはしない。彼女達全員の、意思。 「……すまない」 皆の想いを代して告げて、ヨセフは深く頭を下げた。 ◆ 「それで、お前との契りの儀はどの様にすればいい?」 ヨセフの問いに、シャオマナ懐をゴソゴソ。取り出したのは、身の丈程もあるデッカイ瓶。 片手で持ってて力凄いな。とか。 見事な意匠だ業物だね。とか。 感想は見た人それぞれだけど、取り合えず総じて突っ込みたい事は一つ。 どっから出した!? そんな疑念不審なぞ何処吹く風で、同じく謎空間から出したこれまたデッカイ杯に、瓶の中身をトクトクと注ぐ。 とろみを持った、蜂蜜色の液体。爽やかな華の香りが、辺りを満たす。その様はまるで、太陽の光を溶かし込んだ清水の様。 (はい) 書き文字と共に、こちらに差し出す。 (甘光(かんびつ)。飲んで) ニコリと笑って。 『元気に、なるから』 そう、述べた。 「ああ、成程」 見ていたベルトルドが、ニヤリと笑む。 「固めの盃と言う訳だ」 意図は正しく。 されど……。 ◆ 急遽、造られた会場。隣りの席についたヨセフを見て、リンファが意外そうな顔をする。 「驚きました。ヨセフ室長がこんな児戯にお付き合いなされるなんて」 「お前、俺を何だと思ってるんだ?」 横目で流して、そんな事を言うヨセフ。 「俺はそんな堅物じゃないぞ。それに、教団と人類の未来を担う儀式に変わりはない。俺が出ない訳にはいかないだろう? それに……」 そして、ちょっと茶目っ気でも出す様にペロリと舌なめずりなぞして見せる。 「甘光(かんびつ)とやらの味と効能にも、興味があるしな」 思わず、フフッと笑いを零すリンファ。 「そうですか。それなら、頼りにさせていただきます」 「任せておけ」 そんな二人の元に、シャオマナが杯を置く。ニコリと、促す。 杯を持って顔に寄せる。甘い香り。ちょっとだけ混じる、薬香。普通に、身体に良さそう。 「それで、これを飲めばいいんですか? 何だか……ずいぶん簡単ですね。本当に、そんな事でいいのでしょうか……?」 尋ねるリンファに、コクコクと頷くシャオマナ。可愛い。 子供好きの本能をくすぐられて、思わず蕩けそうになるリンファ。髪、モフりたいな~とか。ほっぺ、フニフニしたいな~とか。些か危ない妄想に及んでいると。 「簡単じゃないよ。きっと」 唐突に声をかけられて、飛び上がる。 「だ、誰ですかぁ!!??」 振り返るリンファ。『知った者には死を!』な形相。怖い。 後ろに立っていたのは、『カレナ・メルア』。 「な、何なんですか!? カレナさん! 驚かせないでください!」 半泣きで抗議するリンファに構わず、卓の上の杯をじっと見る。 「それ」 「へ?」 「気を付けた方が、良いと思う」 「え? え?」 妙に冷めた目。不安を煽る。 「スレイプニルさんが言ってた。それ飲んで」 「飲んで……?」 「死んじゃいかけたって」 何か、言っちゃいけない事言った。 「……何をしに来たのかな?」 嫌な顔したルーノ。脇でニヤニヤしている『セルシア・スカーレル』を、ジト目で見る。 「いーえ、べっつにー。ただー、愛しいルーノさんに会いたくなってー」 キラキラと、艶がかった声。普通に、怪しい。 「……君、男に興味はなかった筈では?」 「あらー、誤解ですぅー。綺麗なモノには、性別の差はないですよぉー?」 ……怪しい。 そもそも、いつぞやのトンチキ自白剤の一件以来、この危険な同僚とはどうも関係がよろしくない。。 実際、先の戦いでも。必要だったとは言え、明らかに無駄に痛い目に合わされた。 此奴は、執念深い。多分、まだ引きずっている。 注意しとくに、超した事はない。 「……とりあえず、大人しくしててくれ。一応、大事な儀式なんだ」 「分かってますよー。ほらほら、早く! ルーノさんの良いトコ見てみたい! そーれいっき、いっき!」 ……何か、コレと一緒にいるとエレメンツに対する認識が根底から変わってしまいそうだ。他のエレメンツの方々にとっては、誠に遺憾だろうが。 「……なあ、ルーノ」 こみ上げる片頭痛に耐えていると、横からナツキが潜めた声で言ってきた。 「……何だい?」 「駄目だぞ」 「……何が?」 「セルシアは、カレナと付き合ってるんだからな?」 「…………」 まとめて雷龍の餌にしてやろうかと思った。 思い止まれた自分が、誇らしい。 「うう……」 「どうした? ヨナ」 唐突な呻き声に、尋ねるベルトルド。どんよりした顔のヨナが答える。 「何か、妙な悪寒が……」 「風邪か?」 「いえ……何か、種族そのものに対する重大な風評被害が生じた様な……」 何それ? と思うベルトルドだが、真面目に悩んでるヨナを見て、余計な言葉は藪蛇となるだけと判断する。 「……まあ、世の中にはくだらん誤解や逆恨みをする奴がいるものだからな。気にするな。どうせ、何処か遠い所の顔も知らん奴だろう」 思いっきり近いし、顔もこれでもかと言うくらいご存じである。 「……そうですね。気にするだけ、負けと言うモノですね……」 釈然としない思いを押し込めて、改めて目の前の杯を見るヨナ。 「で、この命薬とやらを飲み干せば良いのですね?」 杯を持ち上げ、しげしげと。甘い香りはとても爽やか。嗅いだだけで、さっきまでの嫌な気分が消えていく。多分、精神安定の効果もあるのだろう。薬効は、確かな様だ。 口元へ運んで、味見する様に。 「健康に良いのなら、試練にならないのではないですk」 コクリと含んで。 固まった。 サクとキョウは、杯の中に満たされた甘光をしげしげと見ていた。 「綺麗ねぇ」 「否定はしません」 嬉しそうなサクの言葉を、今度はキョウもすんなり認める。 正しく、ゆらりゆらりと揺れる黄金のソレは、慈雨に溶けた日の光。 「甘いそうね」 「そう言ってましたね」 「キョウヤは甘いもの大好きだから。このくらい、余裕じゃないかしら? もしかして、普通じゃない?」 クンクン香りを確かめながら、サクは少しつまらなそう。 「何を期待してるんですか? 無難に済むなら、越した事はないでしょう」 言いながら、杯を持ち上げるキョウ。 ふと、黄金の水面にシャオマナの笑顔が映る。 さっきは流石に大人げなかったかと、ほんの少し反省。まあ、気にしてる様子は全くなかったけど。 これから世話にもなるだろうし、後で謝るくらいはしておこう。 そんな事を考えながら、杯を口元へ。 (『甘光』ですか。名前からして、すごく甘い。けどこれ飲んだら寿命が……伸びてもなぁ……) 元からして長寿の自分達には、あんまり関係ないなぁ……。とか。 (ま、とりあえず乾杯です) 安全は保障されているとは言え、未知の神薬。用心の為に、舌先だけをちょびっと浸して――。 「おっとごめんなさい。気管に入ったみたい。ねぇ、大丈夫? 水、飲む?」 周囲の方々に誤って。確認して。自分の分を見るサク。 甘いから任せるつもりだったけど。それではいけないものと理解。 「私も、飲もう」 カプリ。 ちょっと、楽しくなってきた。 「お、脅かさないでください……! 飲めないモノを、彼女が用意するとは思えません!」 カレナから真面目にヤバい情報を聞いてしまったリンファが、戦慄きながら訴える。しかし、カレナは言う。冷静に。けれど、悲しそう。 「うん。飲めないモノじゃないよ。毒じゃないから。でも、良いお薬って美味しくないよね。そういう事」 「ぐ……!」 単純にして、完璧な理屈。だよね。お薬って苦いよね~。 けれど。完全無欠な論理を前に、それでもリンファは挫けない。 「い……いえ! 例えそうでも、命の恩人がくれたもの! 残すつもりだってないです!!」 悲しげな眼差しを見せるカレナ。不帰の戦場にでも赴く様な気分になってくるが、それでもシャオマナを泣かせる訳には行かない。悲しきかな、ロリk……子供好きの性。 「では……い、いただきます!」 気合を入れて、一気にあおる。 結果。 「のぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!!!!!」 「マー! 出ちゃいけない声出してるぞ!」 「盟友! 見ないであげて! この人を、愛してるなら!」 ステラの悲鳴と、悲痛なカレナの声。 阿鼻叫喚の、幕が開く(ここまでイントロ) ◆ 周囲で展開し始めた惨劇に、ヴォルフラムは戦慄していた。 地獄の亡者の如き形相で、断末魔の呻きを上げる同胞達。 否。断末魔と言うのは正しくない。何故なら、これだけのダメージを被りながら。明らかに人体の許容を超える負荷を得ながら。気を失う者が、誰一人としていないのだ。泡を吹き、もがきながらも悶絶するばかり。 「な……何で……?」 感じた事もない。そう、かの魔将・デイムズや三強のスケール5・ベリアル達と対峙した時にすら感じた事のない恐怖に震えながら、ヴォルフラムは広がる煉獄の園を見つめる。 「……命の神の、権能……」 「……え……?」 隣りから聞こえた呟きに目を向ければ、自分と同じ様に血の抜けた肌で震えるカグヤの姿。 「甘光(これ)に宿る命の力が、物凄い勢いで飲んだ者の生命力を活性化させてる……」 「ど、どういう事……?」 「活性化が続く限り、与えられたダメージは全て回復される……。けど、甘光の後味が続く限り、ダメージも続く……」 「……って言う事は……?」 「気絶する事も、死に逃げる事も出来ない、無限ループ……」 「――――っ!!」 カグヤの出した結論。ヴォルフラムの全身を、例え様もない怖気が貫く。 「に、逃げよう!」 叫んだ声に、迷いはなかった。 「逃げよう! カグちゃん! こんな事で……こんな事で君を地獄に括る訳にはいかない! 逃げるんだ! 世界の果て……いや、神の手さえ届かない、輪廻の果てまで! 必ず……必ず僕が守るから!」 肩を掴む彼の手を、けれどカグヤは悲しげな表情で拒む。 「駄目……ヴォル……」 「カグちゃん……」 「これは、世界を守る為に通らなければならない試練……。世界の皆と、私一人の身を天秤にかけるなんて出来ない。それに……」 「それに……?」 躊躇う様に、唇を噛むカグヤ。 息を呑む、ヴォルフラム。 そして、彼女は言う。己の存在理由の、全てをかけて。 「神様の薬の効果を体験出来る機会を逃がすなんて、私の探求心が許さない!!!」 ドジャ~ン。 ……おい、この雑学お化け……。 その目に涙を浮かべ、カグヤは言う。 「ごめんね、ヴォル……。私は、もう……。次のパートナーは、もっといい子を……」 「何、馬鹿な事を言ってるの?」 彼女の別れを遮り、優しく肩を抱くヴォルフラム。 「僕のパートナーは、カグちゃんだけなんだ。幾世幾万の世を渡ってもね」 「ヴォル……」 「付き合うよ。何、僕は何度もカグちゃんの手料理を制覇してるんだ。大概のモノは、平気だよ」 「ヴォル、酷い……」 「あはは、御免御免。お詫びに、夕食のデザートには特製のベリーパイを焼いてあげるよ」 「もう、すぐ食べ物で誤魔化そうとするんだから……」 「でも、嫌いじゃないよね?」 「うん……」 「なら、乗り切ろう。一緒に!」 「うん」 気高い誓いと共に、キスを交わす二人。そして、一緒に運命の杯を煽った。 ただ、思い違いが一つ。 如何に奇怪な呪詛を上げていようと。如何に深淵なる触手を蠢かせていようと。所詮、人間の業によるメシマズ。神のソレに匹敵する奇跡の可能性など、とてつもなく優先順位が低いに決まってる。 あっちの現とこっちの現を彷徨う二人の手は、それでもしっかり握り合っていたとか。 本望であろう。多分。 ヴォルフラム氏&カグヤ嬢、脱落(記録・一杯) ◆ 「……やるって言ったからには、どの道やるしかないだろ……」 「はいはい……。分かった、分かったって……」 思いっきり渋っていた所をアルトナに尻を叩かれ、シキはげんなりしながら杯を手に取る。 実の所、周りの惨状を見た時点で即座に棄権を申し出ようと思った。 しかし。 しかし、である。 棄権の二文字を口に出そうとした瞬間。いつの間にか目の前にシャオマナがいた。ジッと見つめる澄んだ瞳とか、不安そうにモジモジする小さな手とかはまだいい。 問題は、その周りでガンを効かせる宝珠と勾玉(目ないけど) (ほう。我が妹の心尽くしを無碍にするか) (構わぬぞ? その代わり、国の同胞諸共支配(ルーラー)にて七日七晩地に這ってもらうがな……) 完全に、モンスターペアレント。それも、史上最強最悪の。 やっぱり、ベリアル化の影響が残ってるんじゃなかろうか。この方。 とにかく。自分達だけならまだしも、無辜の民草まで巻き添えにされてはたまらない。 シキに、目で訴えるアルトナ。 (……ひとまず、機嫌を損ねない様に……気をつけるぞ……) つまり、頑張って飲むしかないと言う事。 「まあ、そーだけど……。うーん……頑張れるかなあ……? 頑張るけど……」 言いながら、周囲を見回すシキ。そこは魔境。逝く事も気絶する事も叶わず、苦悶の声を上げ続ける亡者と化した者達がのたうつ叫喚地獄。 下手を打てば、自分達もまたこの亡者の群れの仲間入り。 正直に言わなくても、ゾッとしない。 「……アル! 一緒に、一緒に頑張ろうな!? 絶対に、一緒に頑張る! ……だぜ!?」 「…………」 せめても勇気を奮い立たせようと愛しい相方に寄り添うも、当のアルトナも表情に色がない。 心身ともに、強い彼。そんな彼の稀有な表情を見れた事に微かな喜びを感じるものの、だからと言って何が好転する訳でもなく。 「……やっぱ、逃げる?」 「……お前、ビビってないか……?」 「むう、アル! シキさんはデリケートなんですうっ!」 「デリケートね……」 溜息をつくアルトナ。シキの分の杯を突き付ける。 「とにかく、飲むぞ」 「……はあい、頑張りまーす……」 どの道、逃げ場はないし。死なない事は確約だし。ならば、息を止めて流し込もう。腹に入ってしまえば、皆同じ! 人参を前にした子供の様な覚悟を決めた二人。息を止め、一気に煽る。 結論。 えぐかった。 最悪を基準に設定した想定の、遥か頭上を飛び越えて。 咽るくらいはあるだろうと思っていた。 一週間くらい、好物の甘味が食せなくなる筋もあった。 数日、胸焼けで寝込む覚悟もしていた。 しかし、事実はそれを凌駕する。 不味くはない。 否、美味いとか不味いとかの次元ではない。 その感覚は味蕾を通って脳を揺さぶり、脊椎を走って全身を苛む。 えげつないと言う言葉すらかすりもしない、物理や概念を超越した感覚。 無理矢理表現すれば、その衝撃だけはスケール5ベリアルの全力全壊右ストレートに比肩する。それに、先の未知の感覚の副次効果盛り盛り。 どう考えても、人類の耐えうる現象に非ず。 気づけば、シキは膝を屈していた。乱れる鼓動。朦朧とする意識。現と知らない世界を反復横跳びする魂を必死に鼓舞し、何とか正気を保つ。 (ア……アルは……?) 見れば、愛しい彼も崩れ落ち、荒い息と共に戦慄いている。 悲壮。 あまりにも、悲壮。 されど、希望が一つ。 目の前に落とした杯は空。無我の境地で流し込んだのが、功を奏した。 (アル! 勝ったよ! 俺達は勝ったんだ!) 満身創痍を引きずり、彼と歓喜の抱擁を交わそうとしたその時。 トクトクトク。 空の杯に満たされる、新たな甘光。 「…………」 見上げると、瓶を持ったシャオマナがニコニコと。 (おかわり、どうぞ) 100%の善意。親愛。無償の愛。 飲んでもらえたの、嬉しかったね。 (アル……俺達、死ぬのかなぁ……?) 確約された筈の条件すら、もはや泡沫。 愛深き母兄の圧を受けつつ、シキは声もなく慟哭した。 ◆ ルーノは、警戒していた。 シャオマナを疑っていた訳ではない。 けれど、ずっとニヤニヤしながら引っ付いているセルシア(小悪魔)は別である。 何か、腹の内があるのは確かであった。 さて、何を仕掛けてくるか。 隙を見て、一服盛るつもりか。 はたまた、吹き矢か暗器の類で打ち込むつもりか。 使うのは、媚薬妖薬の類かはたまたワライダケの溶液か。 何しろ、性格面においては下手な高スケールベリアルより邪悪な輩である。 隙を見せる訳には、いかない。 ……もう、どう贔屓目に見ても仲間に向ける評価じゃないが。 「ありがとな! 甘い物、好きなんだ!」 ナツキが笑顔で言いながら、シャオマナから杯を受け取る。 何かを仕掛けるなら、今であろう。セルシアに、鋭い視線を向ける。妙な動きをしたなら、即座に式神召喚・雷龍でねじ伏せられる様に。 嫌な方向で、評価が高い。 しかし、セルシアに動きはない。ただ、ニヤニヤしながら見てるだけ。 (……杞憂だったか?) 怪訝に思うルーノの横で、ナツキが『いただきまーす』とか言いながらカプリと飲んだ。 何の、疑いもなく。 そして、固まった。 「……ナツキ?」 声をかける。 返事がない。 虚空を仰ぐ顔色が、赤だの青だの通り越して土色に変わる。 ヤバい。 訳が分からないルーノ。メデューサに魅入られた贄の如く硬直したままのナツキの手から杯を外し、クピリと味見。 瞬間。 「グフゥッ!!?」 生まれてこの方感じた事ない甘撃に張り倒され、膝から崩れ落ちる。 ブルブルと震える手で口を押えていると、感じる視線。 見上げると、セルシアが見下ろしていた。そう、『邪悪』と言う言葉を具現化した様な笑みを浮かべて。 「お味は如何? 色男さん?」 必死の思いで飲み下し、睨みつける。 「……知って、いたな……?」 せせら笑う。 「わたしが、何の為に神巡りの旅をしていたと思いまして?」 いやちゃうやろ。 外野の突っ込みスルーして、勝ち誇る顔はマジ悪魔。 「まだまだ、甘い。絶望が、足りないのではなくて?」 「お、おのれ……」 「おっと、こんなおめでたい場で? シャオマナが、悲しむねぇ?」 「く……」 「相方さんは、まだ戦っていると言うのに」 符を取り出そうとしたルーノをあざ笑い、セルシアは彼の後方を示す。 そこには、再び杯を手に取るナツキの姿。 「ナ、ナツキ……」 「負けちゃ、駄目だ……。絶対、吐き出さずに全部飲む……! シャオマナは、悪意ゼロなんだぜ!? 見ろよ、あの笑顔っ! 飲んで、ありがとうって言ってやらなきゃ!」 その身体が、ぐらりと揺らぐ。咄嗟に立ち上がったルーノが、支える。 『サンキュ』と言って、微笑むナツキ。『どうして、そこまで……』と問うルーノに、やっぱり笑顔で返す。 「子供にさ、泣かれるのは……弱いんだ……」 「――――!」 その言葉が、敗北を受け入れかけていたルーノの心に火を灯す。 伸ばした手が、ナツキの手から杯を取る。 「……なるほど。ならば、心してかかるべきだな……」 「ルーノ……」 ガシッと手を握り合う二人。ああ、美しき哉。漢の友情。 そして、横で『アハハハハ! そう、命の限り足掻きなさい! そして、存分にこのセルシアちゃんを愉しませなさい! 男共!』とか言ってる魔王からは目を逸らす。 ルーノは、最大の武器である脳細胞を死力を尽くして巡らせる。 一杯目で、身体の拒否反応は大方麻痺している。ならば、二、三杯目はむしろ負担は少ない筈。ならば、麻痺が続いて間に手分けして二、三杯目を飲み干す。 方針を決め、そして覚悟を決める。 「人は慣れる生き物だ……。先の甘さを、思い出して……」 「いいか……せーのでいくぜ……!」 頷き合い、一斉に飲み干す。 「よし! 大丈……」 パッタリ。 「た、耐えろよぉ! ルーノぉおおおっ!」 「……流石……神……容赦が、ない……」 腹を抱えて笑い転げるセルシア。 創造神よりも先に、こいつを滅ぼした方がいいんじゃなかろうか……? 傍で見てた皆が、心の底からそう思った。 ◆ 「甘いというか心臓を刺しにきているというか! 頭の中で鐘を鳴らすユニークな薬ね! きっとこれが美味しいなのね! ね!」 カンカンと響き渡るサクの嬌声を聞きながら、キョウは未曾有の混乱と戦っていた。いや、ホントに未曾有なのである。 最初に襲ってきたのは、表現のしようもない甘さ。自他共に認める甘味好きのキョウであるが、好きとか嫌いとか言う話の問題ではなく。何と言うか、生命の根幹に関わるレベル。日光は植物を育てるが、過剰に当てれば枯らしてしまう。ある種の栄養素は人体に必須だが、度を越して接種すれば中毒死する。 つまりは、そう言う話。 なんぼ有益なモノでも、匙加減間違えれば害になる。 悦楽を超え、滅びをもたらす領域の甘さ。 それなりに人生を重ねてきたキョウとサクであるが、流石にそんな訳の分からない脅威には遭遇した事がない。 そして、恐怖はそれに収まらない。 先の様に許容量を超過した上での弊害は、その本来の益な効果を台無しにする。 有益効果がなくなる訳ではないが、害の方が上回って塗り潰してしまう。 けれど、悍ましい事に。 この神薬の薬効は、主権を主張する『害』に対してその権利を『頑として譲らなかった』。 ならいいじゃんという話ではない。 これは言わば、破壊の権化と創造の化身が人体の中で終わりなきハルマゲドンを繰り広げる様なモノ。 俗な言い方をしてしまうと、口の中に飽和砂糖水と飽和食塩水をダボダボ同時に注ぎ込まれる様なモンである。 訳が分からない。 情報を整理する脳が、滅茶苦茶にも程がある超感覚にオーバーヒートを起こす。 事実、普段からオープンなサクはもろにダイレクトアタックを喰らってしまった。 混乱と混沌の果て、至ったのは疑似的な精神崩壊。 完全に、ラリッている。 ケラケラケタケタ笑いながら踊り狂うサクを横目に、キョウは真剣に焦る。 目の前には、まだ甘光が半分以上残った杯。ついでに、シャオマナが親切にも置いてってくれた御代わりも鎮座。 そして、頭の上には慟哭龍の宝珠が睨みを効かせる様に浮いている。 逃げ場がない。 恐怖圧政、極まれり。 (な……何とかしなければ……) 全力の光明真言で今にも飛んで逝きそうな正気を繋ぎながら、フルスロットルで考える。 (どうか……どうか力を!) 普段からして信仰心の欠片もない輩が真剣に祈ったモンだから、誰かが気を良くしたのかもしれない。もしくは可哀想になったとか。 天啓が、降りた。 (そ、そうです! 四神浄光で回復しながら頑張れば……) そもそも神の御業に効くかどうかも不明なのだが、他に手もないし熟考する余裕もないので飛びつく。とにかく、色んなプレッシャーから逃げ出したい。 がっつり術を施して、一息でゴクリ。 ハア、と息をつくと。 目の前に再びシャオマナの顔。 ビビる。 「な、何ですか!?」 しまったバレたかと怖気るが、シャオマナは申し訳なさそうな顔で筆談用のボードを出す。 (味、薄かった? ゴメンね) 「へ……?」 何を言っているのかと思っていると、シパパと次の文言が書かれる。 (四神浄光、使ってたでしょ?) 「え、ええ……」 (四神浄光は甘光と同属の魔術だから。 かけて飲むと甘光が強化されて『甘味が増すの』) 「………」 (…………) 言葉の意味が脳漿の一滴にまで溶け込んだ頃、キョウは色の消え去った声で問う。 「……どれくらい……?」 (倍率ドン! さらに倍) 色んなモノが遠ざかり、色んなモノが近づいてくる。 サクの嬌声が、耳に優しい。 (ホント、ごめんね。今度はもっと甘くして、美味しくするから) そう書いて、ペコリとお辞儀。 答える前に、キョウは飛んだ。 蕩けたサクが、幸せそうにクルクル踊る。 サク嬢&キョウ氏、脱落(記録・二杯) ◆ 「おい、ヨナ!?」 目の前の相方をみて、ベルトルドは全てを悟った。 「……なるほど……。これは、存外に大変な事になりそうだ……」 手を伸ばし、ヨナの手から空になった杯を受け取る。 まるで、尊き遺志を継ぐ様に。 「救護班を、頼む」 近場にいた仲間に、そう頼む。全てを察していた彼らが走り去るのを見届けると、大きく息を吸い、己の席に深く座す。 差し出す杯の先には、瓶を持って待つシャオマナ。 「頼む」 誇り高き拳闘士。亡き相方から継ぎし宿命。逃げの道など、視野になく。 ……まあ、盛大にラリッてるだけで死んじゃいないのだが。 ……後で知ったら、死ぬかもしれない。 二杯目。 (ヨナは完全に油断していたが、二の轍を踏む訳にはいかん。心してかからねば……) そう心を決めるベルトルド。 息を整え。 丹田に気を満たし。 眼前の杯を。満たされた甘光をしかと見つめる。 相手は意思なき薬にあらず。 正体得体の知れぬ、神域魔境の秘法なり。 目を瞑り。 心を無にし。 「テイッ!」 気合一発。 一気に飲み干した。 反撃は、即座に来る。 甘味と言う現象に、物理と紛う衝撃で腑の中からぶん殴られる。 その威力、かつて拳を合わせた死道凶蛇の一撃もかくや。 瞬時に飛びそうになる正気を歯を食い縛って繋ぎ止め、亀裂が走る程に足で地を掴む。 「……どうだ!」 満たす覇気に身体を震わせ、大きく大きく息を吐く。 「これでも、酒には強いんだ!」 吠える彼を、不思議そうに見つめるシャオマナ。 (お酒じゃないよ?) 取り合えず、細かい事はほっといてほしい。 頑張ったんだから。 3杯目。 「ヨ、ヨナはどうしてる……?」 朦朧とする意識を誤魔化す様に姿を求め、変わり果てた様に絶望して目を逸らす。 救護班は、まだ来ない。無理もない。手が回らないのだ。 本部の中庭は、まさしく地獄の様相。 かつて此れ程までの犠牲を出した戦いはなく。 そして此れからもないだろう。 恐ろしきかな。神の威光。 「……身体は良くなっても、心が壊れかねんな……。皆は、大丈夫か……?」 案ずるベルトルドもまた、満身創痍。そもそも、あんなギリギリの戦い方が続く筈もない。手の震えに、残る甘光が嘲て揺れる。 「くそ……こんな話は、聞いてない……」 心のひびから漏れる弱音も、何も助けてくれはしない。 「俺が飲むしかないか……。ええい!」 手負いの獣の、悲痛な叫び。 「ままよ!」 そして彼は、また黄金の光を煽った。 数分後、ようやく駆け付けた救護班は声を失った。 そこには、完全に正気を失ってハイになったヨナの姿。 「もぉーべるとるどさんさいごまでのんでくださいよぉーあとちょっとですよ? あら? べるとるどさんじゃない……よせふしつちょう? おげんきですかぁ?」 誰かのほっぺをフニフニする彼女。 しかし、そこには誰もいない。 悲痛な面持ちで駆け寄ろうとする相方の肩を掴み、救護班の一人が首を振る。 「きょうはぶれーこーってことで! さぁさぁ! いきましょまいりましょ! ぐ~っとぐっとぐっとぐっとぐっとまいりましょ! ぐ~っとぐっとぐっとぐっとぐっとまいりましょ! うぇーい!」 ぶっ壊れた彼女を他に任せ、進んだ先には卓に突っ伏す獣人の姿。 覗き込めば、安らかな漢の顔。 最期まで、戦い抜いたのだろう。 こぼれた甘光を一瞥すると、勇敢なる同胞へと敬意を示す。 彼の勇気に、どうか安息を。 願いは、届くだろうか。 ヨナ嬢&ベルトルド氏、脱落(記録・三杯) ◆ タオ・リンファは、追い詰められていた。 戦いの果て、舌どころか身体の感覚がなくなり。 意識は朦朧。 もはや、自分が何者なのかすら曖昧。 「むぐ……ずずっ、ぐぷぷ……」 苦しげな声に目を向ければ、懸命に甘光と格闘するステラの姿。 健気にも、力尽き加減のリンファに代わって頑張っていた。 ホント、いい子である。 けれど、現実は非情。 「きゅうー……」 可愛い声上げて、撃沈。 良く頑張った! 感動した! しかし。 「……ステラ、その……先日、言いましたよね……」 ダウンしたステラに、幽鬼の様ににじり寄るリンファ。 「私と一緒に……乗り越えてくれますか……?」 その瞳に、正気の色はない。 小さな口に、自分の杯を押し付ける。 「さあ……飲みなさい……?」 あわや、先の感動が台無しになろうとしたその時。 「リンファさん!」 「はっ!?」 間一髪。カレナの声が、リンファを我に返した。 「わ、私は一体……!?」 「駄目だよ! 貴女が盟友を……ステラを裏切っちゃ!」 悲痛な声に全てを理解し、よろめくリンファ。 「私は……何て事を……」 限界は、明白だった。 これ以上続ければ、取返しのつかない過ちを。また……。 されど、小さな友神の想いを無碍にする事も出来ない。 「どうすれば……」 苦悩の果て、リンファは思い出した。 先の、『彼』との会話を。 振り向いた先。果たしてそこに。ヨセフ・アークライトは居た。 「あ……ヨセフ室長……」 救いを求める様に、呼びかける。 「ん?」 振り向く、彼。 「私達のも、ちょっとだけ手伝ってもらえたりとかしたり……」 「ああ、いいぞ」 「一口! 一口だけですから! 飲んでください!! 教皇は逃げませんよ……え゛?」 ポカンとするリンファからヒョイと杯を受け取ると、美味しそうにコクコクと飲み干してしまう。 「え……? え……?」 「ヨセフさん……人間じゃなかったの?」 カレナが大概失礼な言葉を漏らすが、気持ちはリンファ含め全員一緒だったり。 「うむ。この甘光とやら、なかなかだな。どうも市販の甘味は薄くてな。すまないが、もう少し貰えないか?」 見れば、彼の足元には空の杯が四杯どころか山積み。 ……何なの? この人……。 「ヨセフさん……凄い……」 「ああ……着いて行きます。何処までも……」 感涙を流すカレナとリンファ。その他大勢。 御代わりを注ぐシャオマナも嬉しそう。 傾いた日が、ヨセフの背後から後光の様に射す。 それは正しく、人が歩む希望の導だった。 ◆ 結論から言うと、ヨセフとリンファ達の他に、ルーノとナツキ。そしてアルトナとシキの四チームが生き残った。 無明の地獄からの奇跡の生還。 歓喜の声が上がる中、小さく舌打ちする者が一人。 「ちぇー。ルーノさんは生き残ったかー。しぶとい! けどまあ、いいか。十分、楽しんだし。かーえろっと」 セルシアが、そんな事言って身を翻したその時。 誰かが、その肩を掴んだ。 「ん?」 振り向いた彼女の顔が固まる。 立っていたのは、満面の笑みを浮かべたルーノとベルトルドとヴォルフラム。 「何処へ行くのかな? これから祝杯だ。君も味わって行くと良い」 ニコニコ笑うルーノの手には、見覚えのある杯。 「え、あ……いやいや、セルシアちゃん、何もしてないし? 混ざっちゃうのも、どうかなーって……」 「くだらない事は気にするな」 「そうだよ。仲間じゃないか。喜びは分かち合おうよ」 「いやいやいや! ってか、何でベルトルドさんとヴォルさんまで!?」 「何。そういえば、俺もお前には借りがあったのを思い出してな」 「そうそう。あの時は、お世話になったよね」 何て事言ってるが、多分この二人は八つ当たりも多分を占めてる。 焦るセルシア。何とかしなきゃと考える。 「あ、そ、そうだ! 虫歯! セルシアちゃん、虫歯なの! だから、残念だけど甘いモノはちょっと――」 (大丈夫) 割り込んできたホワイトボード。シャオマナ。 (甘光は万能薬。飲めば、虫歯も治るよ) 「……え?」 途端。 「おっ?」 聞こえてきた声に、振り向く皆。 何かを持ったステラが、嬉しそうに跳ねている。 「マー! 見てくれ!! はがぬけたー!」 「あら」 「わあ、良かったねー。盟友」 「お塩の天使様とたたかってから、ずっとぐらぐらしてたんだー! これでまた、大人に近づいたな!」 キャイキャイと、歓喜の声。 「…………」 無言で目を合わせるセルシアと、男衆三人。 シャオマナが、エヘンと胸を張る。 詰み。 「良かったじゃないか。セルシア」 「これで、何の問題もないな」 「それじゃあ、思う存分……」 「え……あ……あの……」 「悪霊、退散!!!」 「いやー!! そんなにいっぱい、入らないー!!!」 「誤解招く様な発言、しないでくれる?」 「ぎーやー!!!」 かくて、清浄なる光の元。 一つの邪悪が滅びたのだった。
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*** 活躍者 *** |
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該当者なし |
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[10] タオ・リンファ 2020/08/04-22:17
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[9] ヨナ・ミューエ 2020/08/04-14:23
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[8] ルーノ・クロード 2020/08/04-00:20
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[7] タオ・リンファ 2020/08/03-23:36 | ||
[6] ヴォルフラム・マカミ 2020/08/03-22:25 | ||
[5] ヨナ・ミューエ 2020/08/03-14:30
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[4] シキ・ファイネン 2020/08/02-09:12
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[3] ルーノ・クロード 2020/08/01-18:45
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[2] ヨナ・ミューエ 2020/08/01-14:07 |