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リザルトノベル『巨大イカベリアル討伐』
『巨大イカベリアル討伐』 参加者一覧
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リザルトノベル
地中海ベレニーチェ海岸。
この地に現れたスケール2のべリアル討伐のため、集められた浄化師達は距離を取り対峙していた。
イカ型のべリアルは、すぐに動き出す気配はない。
半ば海中に身体を沈め、目玉から上を水面から覗かせていた。
この状況で考えなしに突撃すれば、それは自殺行為に等しい。
敵のテリトリーともいえる海中で戦うなど、不利を通り越して絶望的だ。
だからこそ、即座に皆は有効と思える案を出し合い、それぞれ最適な動きを取ろうとする。
そんな中、『ディルク・ベヘタシオン』はパートナーである『シエラ・エステス』に指示を出す。
「シエラ、わざと水面に音をたてて動き回れ」
かなり絶望的な命令を、しかしシエラは受け入れる。
「分かりました、ディルクさん」
その声にはべリアルへの恐怖が滲んでおり、仕方なくという気配が漂っていた。
けれど断る選択肢はない。
なにしろシエラにとっては、べリアルよりもディルクの方が余程怖いからだ。
指示したディルクは、べリアル討伐に集中する。
「慢心して姿を見せたこと、後悔させてやる」
この世界に『当たり前の安全』など無い。
彼の信念ともいえる事実を、べリアルに実力行使で叩きつける準備をしていた。
そうしてシエラが進もうとした時、『シャルローザ・マリアージュ』が声を掛ける。
「待って下さい。触腕に囚われると危険です」
シャルローザは囮役として前線に出るシエラにアーク・ブーストを使い回避力の向上を図る。
彼女は少しでも皆の被害が少なくなるよう、前線に出る仲間を中心にして支援を行うべく、皆の動きに注意していた。
そんな彼女に『ロメオ・オクタード』は声を掛ける。
「お嬢ちゃん。無理はするな」
魔力が尽きるまで仲間の支援に動きそうなシャルローザを心配するロメオ。
これにシャルローザは、柔らかな笑みで返した。
「ありがとうございます」
その笑顔には決意が感じられた。
彼女の決意にロメオも決意する。
(お嬢ちゃんの負担を減らすためにも、攻撃は外せないな)
自分が取れる最善を取ろうとしていた。
他の浄化師達も最善を組み上げようと模索する中、シエラはべリアルから離れた海岸線に踏み込み、いつでも逃げ出せる準備をしつつ水面を音を立てて走り出す。
その途端、べリアルの声が響いた。
「ごハんぅ、たべルぅふ?」
子供のようなあどけない声に殺意を滲ませ、水面に潜る。
それだけならば良かったが、さらに墨を吐き出す。
墨を吐かれたせいで、べリアルの居場所が掴み辛くなる。
しかしエレメンツの特技である魔力探知に集中していた『ユン・グラニト』が、水面に沈んだべリアルの魔力を見て動きに辛うじて気付く。
「危ないです! 凄い速さで近付いて来てます!」
ユンが切羽詰まった声を上げる。
そうなるほど、べリアルの動きは素早い。
しかも真っ直ぐに突っ込んでくるのではなく弧を描いて。
シエラが水面を走る場所を先回りするような動きを見せていた。
ユンの言葉を聞いた『カラク・ミナヅキ』が、マドールチェの特技である魔術通信を使う。
「今すぐ水際から離れて! 先回りされてる!」
シエラへの素速い警告。
それは皆への連絡役として、観測手としての役割についたユンの傍に居ることを事前に決め行動していたからこその速さがある。
ゆえに、ギリギリで間に合った。
シエラが方向転換した途端、そのすぐ先にべリアルが現れる。
「かラだぁ、ちギるぅ」
現れると同時に触腕が振るわれる。
鞭のようにしなり、弧を描いて空を切る。
シエラが紙一重、本当にギリギリのギリギリで避け切れたのは、シャルローザのアーク・ブーストのお蔭だ。
その支援がなければ、確実に海中に引き摺り込まれ、ただでは済まなかった可能性が高い。
だが結果としてシエラは避け切り、べリアルから全力で逃げ出す。
しかし、すぐさま追いかけるべリアル。
水中ほどではないが、すさまじく速い。
あっという間に追い付き、再び触碗を振るおうとした所で『アーロイン・ヴァハム』が、デモンの特技である天空天駆を使い空から牽制の一撃を放つ。
「こっちだ! こっちに来い!」
べリアルへの進路妨害や場合によっては囮役も覚悟していたアーロインは、べリアルを引きつけるように声を上げる。
べリアルは届かない空に向け、嫌がるように触腕を振るう。
そこに異なる方向の空から『エルマン・ベーク』が銃撃を重ねる。
「よそ見してる暇なんてないよ!」
挑発するように声を掛けながら、銃の乱射を続けた。
そちらにべリアルが気を取られた間に、シエラが更に距離を取る。
「にゲるぅ、だメぇ」
気付いたべリアルが距離を詰めようとした瞬間、『フィノ・ドンゾイロ』が援護攻撃を行う。
「今の内に逃げて下さい!」
フィノのお蔭で、安全圏に逃げ切れたシエラ。
この時点で、べリアルは水際から僅かに離れ砂浜に上がっている。
それを嫌ったのか、べリアルは海中へと身体を向けようとした。
それを止めたのは『ルーノ・クロード』達だった。
「その牙は己の為に」
ルーノは手の甲を切り血を流すと、パートナーである『ナツキ・ヤクト』と拳を合わせ魔術真名を唱える。
べリアルの興味を引くために血を流し、装備も気を引くためにマーメイドドレスを身に着けていた。
だがこの時点では、べリアルはルーノに気付いていない。
気付かせるために気を引く必要がある。
それを成し遂げたのは『ガルディア・アシュリー』だった。
手持ちの信号拳銃をべリアルに向け撃つ。
色付きの硝煙が広がり、10mほど進んだ所で炸裂。
それに気付いたべリアルは身体を向け、ルーノを視線に収める。
すると声を上げた。
「ひラヒらぁ、ちィまクぅ?」
羽を千切る虫を見つけた幼子のように。
無邪気とさえ言える喜びを声に滲ませ、ずるずるとべリアルは巨体を引き摺りルーノに身体を向ける。
「その服効果アリだな!」
ナツキの言葉に、ルーノはべリアルから視線を離さず返す。
「こんな格好までして効果無しでは困るよ」
戦いの中で身体が強張らないように、あえて軽い口調で言いながらルーノとナツキは少しずつ移動する。
べリアル討伐のため、出来るだけ多くの仲間達が固まる場所に居た2人だが、更にべリアルに踏み込ませるために誘うような動きを取っていた。
それは功を奏し、べリアルは身体を縮めたかと思うと、一気に砂浜を滑るような勢いで突進してくる。
速い。
このまま進めば、ルーノとナツキだけに攻撃が集中しかねないほど。
しかし『グレール・ラシフォン』がそれを防ぐ。
「来るなら、こっちに来い」
断罪者のアライブスキルである制裁を発動させ、べリアルの進行上に立ちはだかる。
立ちはだかるのはガルディアも同じだ。
「お前の敵は、ここにも居るぞ」
占星術師のアライブスキルであるリヴァース・フォーチュンを発動させ、グレールと共に立ちはだかる。
立ちはだかる2人に、べリアルは触腕を放つ。
攻撃を受けた2人は跳ね飛ばされるが、その瞬間カウンターの攻撃が。
触腕に傷を与え、べリアルの動きを一瞬とはいえ止める。
そこに追撃するように『コーネリアス・ニコリッチ』が攻撃をする。
攻撃をすると即座に移動。
マドールチェであるコーネリアスは、同じくマドールチェであるカラクと対称位置になるように動く。
「こちら側の情報はオレが見て伝えるから、そちら側は頼む」
魔術通信を介し、情報伝達の役割に就いた。
この時には、他の浄化師達は攻撃のし易い距離を取っていた。
逃げられないようにしながら、一斉に攻撃を重ねていく。
(お前は両親を殺したベリアルじゃない……でもベリアルは全て殺す!)
自らの過去から来る憎悪を胸に『ラウル・イースト』はエクスプロイトショットを発動するために構える。
体内から放出された魔力が武器に集中していく。
強力ではあるが、魔力が集中しきるまでは待機し続けるしかない。
そんなラウルを守るように、彼のパートナーである『ララエル・エリーゼ』が傍に寄り添う。
彼女は願うような声でラウルに呼び掛けた。
「ラウル、イカさんはベリアルだけど落ち着いてください……! いつもの優しいラウルにもどって……!」
大切なララエルの呼び声。
それがラウルに冷静さを取り戻させる。
「ありがとう。ララエル」
独りでは無く2人で。
戦いの場に立つラウルは渾身の一撃を放ち、それはべリアルの触腕を抉るほどのダメージを与えた。
しかし傷を受けた瞬間から再生が始まる。
そこに追撃が重ねられていく。
ラウルにより抉られた触腕に目掛け、火球が叩き込まれる。
それは『ヨナ・ミューエ』が放ったもの。
彼女の激しさと冷静さを象徴するかのようなフレイムは、狙い過たず命中。
命中箇所を炭化させる。
明らかな痛打。
だがヨナは止まらない。
「まだまだ、こんなもので終わらないでしょう?」
魔力が続く限り、自らの限界を試すかのように全力を出していく。
「……来なさい」
そんな彼女を目の端に捉えながら、パートナーである『ベルトルド・レーヴェ』は仲間の浄化師達との連携を意識し動いていく。
(いつもながら、戦闘だと生き生きしてるな)
最近のヨナを見て思うことが、ベルトルドの脳裏に浮かぶ。
思う所はあるが、今は戦闘に集中する。
かつて武術の師から習い受けた動きを形にするような、純朴にして簡潔な動き。
美観を排した実戦効率的な動きに合わせ拳を振るい、ヨナが傷を与えた触腕に更なる打撃を与えていった。
繰り返された浄化師達の攻撃に、べリアルは触腕を振るい反撃。
まともに受ければ吹っ飛ばされるほどの威力のある触腕に、浄化師達は避けざるを得ない。
けれど触腕攻撃の間隙をぬって、浄化師達は攻撃を続けていく。
「わたしはあなたを守ります」
「僕は貴方を守ります」
魔術真名を唱え『ジークリート・ノーリッシュ』と『フェリックス・ロウ』はべリアルへと挑む。
触れ合せた手と手を離し、フェリックスが前に、ジークリートが後衛へと就く。
「フェリックス、無理はしないでね」
「はい」
簡素な応え。
それは自意識が薄く、感情も薄い彼のいつもと変わらない応え。
けれど日常生活とは違い、戦闘では自発的に動くフェリックスを、ジークリートは心配せずにはいられない。
(守らないと)
自らの『人々を守る』という想い。
今は亡き家族からの言葉を成し遂げていくことが、ジークリートの生きる意味。
それはもちろん、パートナーであるフェリックスだって含まれている。
そんなジークリートの想いを背に受けながら、フェリックスはべリアルへと踏み込む。
仲間の浄化師達が与えた傷を少しでも大きくするために。
フェリックスは刃を振るい、ジークリートは援護するように攻撃を重ねていく。
そんな浄化師達に、べリアルは苛ついた声を上げる。
「じャまァ、つぶレろゥ」
触腕を連続で振い続ける。
その威力は凄まじく、けれど雑だ。
浄化師達の攻撃で怒りを覚えたべリアルの攻撃は単調になっていた。
そんなべリアルを更に激昂させるべく『レイ・ヘルメス』と『アン・ヘルメス』は煽っていく。
「イカの天ぷらにしてやるのです」
アンはべリアルに向かって挑発する。
それにべリアルが反応するより早く、レイが畳み掛けるように続けた。
「止めておけ、アン。どう見てもマズそうだろ」
「マズいなら、天ぷらなんかにしてやるのはもったいないです」
「油を捨てるようなものだ。せいぜいイカ刺しが良い所だが、その労力すら惜しい」
「だったらゴミ箱行きだね、にぃ」
「生ゴミなのだから、自覚を持って自分からゴミ箱に突っ込んで欲しい所だな」
「こロすぅ!」
ゴミと煽られて激昂するべリアル。
触腕を振るおうとするも、その時には既にレイとアンの2人は安全圏に退避。
べリアルが追い駆けようとした所を、横合いから『エリィ・ブロッサム』と『レイ・アクトリス』は攻撃をする。
「刺身も良いですが、イカ焼きも美味しいですヨネ!!」
(えっ、アレを食べる気ですか……?!)
レイが突っ込みを入れる暇もなく、エリィは攻撃を叩き込む。
「イカ焼きにしてあげマス!」
フレイムを発動し、火球を触腕に叩き込む。
浄化師達の連続攻撃でボロボロだった触腕は、攻撃を受け炭化して崩れ去った。
しかし、その瞬間から再生が始まる。
エレメンツであるレイは、魔力探知により再生が始まった触腕に魔力が集中していくのを確認。
魔力の流れや量の傾向から、どの程度で再生しきるのか予測する。
「エリィ。早く、もう1本の触腕も破壊してしまいましょう。いま破壊した触腕もすぐに再生します」
「そんなに速いのデスカ! どういう仕組みなんでショウ! 調べてみたいデス!」
「命賭けになるので止めておきましょうエリィ!」
必死にレイが止める中、エリィは再び攻撃に集中していった。
連続して叩き込まれる攻撃に、べリアルの触腕は何度か破壊されていく。
けれど再生の速さに、2本同時に破壊することが困難だ。
そのせいで踏み込むことが出来ないでいる。
この状況を打破するべく、『アラノア・コット』達が動きを見せる。
「盲亀の浮木、優曇華の花、我らの縁よ永久に」
魔術真名を唱え、アラノアは持って来ていた縄を海岸付近に生えている木に結ぶ。
もう一方の端を、『ガルヴァン・ヴァレンベイル』に渡す。
「ガルヴァンさん、お願いします」
「ああ、任せてくれ」
縄の端に持って来ていたサバイバルナイフを括り固定すると、デモンの特技である天空天駆を使い上空へと飛び上がる。
上空から、縄で括ったサバイバルナイフを突き刺し、動きを阻害するつもりなのだ。
彼の動きを助けるために、仲間の浄化師達は援護するように攻撃を重ねる。
「はははー! こっちだこっちー!」
べリアルの気を引くべく『ロス・レッグ』は果敢に踏み込む。
献魂一擲を使い反撃手段を備えた状態で、触腕以外の足を攻撃して動きを止めようとする。
だが、それはあまりにも難しい。
触腕の攻撃が苛烈なため、他の足を攻撃できるほどの距離には踏み込めない。
そのため、どうしても最初に触腕を2つ同時に破壊し、その後に他の場所を攻撃するしかない。
ロスは、メインの攻撃は遠距離攻撃の手段を持つ仲間に託し、まずは手を出せる触腕への攻撃に集中する。
触腕を削るように軽く正確に。
回避を心がけながら、べリアルを逃がさぬよう仲間と連携していく。
その助けとなっているのが『シンティラ・ウェルシコロル』だ。
「ロスさん、右に移動しようとしてます。皆さんと一緒に移動を阻害して下さい」
魔力探知も使いべリアルの動きを予想すると、ロスだけでなく皆に伝えていく。
位置取りはユンと対称になるように。
べリアルの動きの把握と情報伝達だけに集中するユンとは違い、適時に攻撃にも移れるよう準備しつつ伝達役をこなしていく。
その間にも、ガルヴァンは最適な位置になるように移動。
気づかれないよう『遥・古城』が符を使った攻撃を重ねる。
最初はべリアルの引きつけ役に動いていた浄化師達を守るように動いていた彼女だが、十二分に引き付けることが出来た今は皆が攻撃に回っているため、同じく攻撃に加わっている。
そうして牽制を兼ねた攻撃を重ねながら、ガルヴァンが最適な位置に就いたことを確認し、パートナーである『クレール・フィドラー』に声を掛ける。
「そろそろ準備が整ったみたいです」
「分かった。この場は任せる」
クレールは遥に返すと、縄が括りつけてある木の元に。
木に括りつけた縄の端を持ち、ガルヴァンの作戦が成功したなら押え付ける役割に就くつもりなのだ。
その作戦の要。
ナイフをべリアルに突き刺すべく、ガルヴァンは上空から一気にべリアル目掛け降下する。
成功させるべく、アラノアは絡縛糸を発動。
人形を向わせ魔力の糸を触腕に撒き付けると一気に拘束する。
その機を逃さず、ガルヴァンはべリアルの目にナイフを突き刺した。
同時にクレールは、木に括られた縄を手にしべリアルを押さえつけようとする。
しかし、スケール2の巨大イカべリアルに1人だけでは、さすがに厳しい。
その上、べリアルは自分の目を抉るようにして刺さったナイフを取り除く。
抉られた眼は、触腕ほどの速さではないが、じゅくじゅくと再生を始めている。
だが、一連の行動でべリアルの攻撃は更に雑になる。
その隙を逃さず、浄化師達は更に踏み込むようにして攻撃を重ねていった。
幾度となくべリアルは攻撃を食らい、何度も触腕は破壊される。
けれど再生の速さが浄化師達を苦しめる。
しかも触腕を2本同時に破壊しない限り、もう一方の触腕を牽制のように振り回し再生の時間稼ぎをするため、他の部分への攻撃が通り辛い。
以前に似たようなベリアルと戦ったことのあるルーノの助言により、目と目の間に攻撃が当たることもあるのだが、そこが弱点という事もなかった。
べリアルは再生するための魔方陣を持っているため、そこを攻撃出来れば大ダメージに繋がるのだが、全てのべリアルが同じ場所にあるとは限らないのだ。
じわじわと、浄化師達は傷を負わされていく。
明らかに、いま戦っているべリアルは強い。
スケール2に分類される物の中でも、特に強力な物であるのは間違いなかった。
しかし浄化師達は怯むことはない。
少しずつ確実にべリアルを追い詰めていった。
「ガルヴァンさん、援護します」
アラノアは深呼吸を一つ。
冷静さを意識しながら、絡縛糸を準備する。
「分かった。頼む」
ガルヴァンはアラノアに応え、天空天駆で上空に移動。
仲間の浄化師達の攻撃で注意が散漫になっているべリアルの目に向けて滑空する。
それにギリギリで気付くべリアル。
「はネぇ、おトすウ!」
べリアルが打ち落とそうと触腕を伸ばそうとした瞬間、アラノアの絡縛糸が発動。
動きを止め、その隙にガルヴァンはエッジスラストを使い一気に飛び込むと、再生が終わっていない目を今度は確実に破壊する。
「みエないイ、じゃマあァ!」
苛立たしそうな声を上げるべリアルは、手当たり次第に触腕を振り回そうとする。
ガルヴァンに当たりそうなそれに、攻撃して動きを鈍らせたのはクレール。
「こっちだ、こっち」
斧を叩きつけ注意を引くと、即座に離脱。
この流れにより、ガルヴァンも安全圏に移動できた。
べリアルは片目を破壊され、浄化師達への反応が遅くなる。
そこにラウルが、ララエルのサポートを受け追撃を叩き込む。
「イカさんのしょくしゅ、捕まえます!」
絡縛糸を発動させるべく、人形を操作する。
鞭のようにしなる触腕を掻い潜ると魔力の糸で拘束。
動きの止まったベリアルの触腕に、ラウルが狙いを付ける。
(べリアルは許さない。でも――)
ラウルは自分を支援してくれるララエルの言葉を思い出しながら、自らを律する。
憎悪ではなく正しい怒りを胸に抱きながら、頭を冷静にし正確に撃ち放つ。
それは的確に命中し、触腕の1本を半ば千切れさせた。
そこに間髪入れず、攻撃が重ねられる。
シエラがべリアルの気を引くように踏み込み切り付けると、即座に飛び退く。
そちらにべリアルが気を取られた瞬間、ディルクが狙撃。
「ディルクさん、こっちには当てないでください」
飛び退くのが一歩遅ければ自分にも当たっていた狙撃にシエラが声を上げるも、ディルクは相手にせず狙撃を続ける。
「慢心しなければ当たらん」
ディルクは当然のことのように言うと、攻撃を続けていった。
繰り返された攻撃に千切れかけている触腕を、エリィが焼き払う。
「エリィ、無茶はしないで下さい」
レイが庇うように前に出る中、エリィは攻撃に集中する。
「わかってマス! ですがこれだけ強い相手だと燃えてきマス!」
楽しげに笑みさえ浮かべながら、エリィはフレイムを発動。
火球を仲間の攻撃で千切れかけた触腕に命中させると、千切れ飛ばした上に炎で焼き払う。
炭化した触腕に、かんしゃくを起こしたようにべリアルは、もう1本の触腕を振り回そうとする。
しかしそれよりも早く、残った触腕は浄化師たちに破壊された。
遥が呪符を使い、触腕に攻撃を叩き込む。
それは牽制のような一撃。
あとに続く仲間の攻撃が通り易くするための物だった。
「今です。お願いします」
遥の後に、間髪入れず踏み込んだのはガルディアとグレール。
「先手は譲る」
「分かった」
前へと踏み込むのはグレール。
遥の呪符攻撃で動きが鈍った触腕に、踏み込む勢いも込めた斬撃を放つ。
ざっくりと切り裂いた所で、べリアルは反撃の一撃を。
それをグレールは、あえて避けない。
掠るように受け、事前に掛けていた制裁を発動。
すでに切り裂いていた箇所の傷を、さらに押し広げる。
べリアルへの攻撃は、それだけでは止まらない。
即座にガルディアが追撃を入れる。
グレールが与えた傷に正確に攻撃を重ね、触腕を切り落とした。
べリアルの触腕が、ほぼ同時に2本破壊される。
この絶好の好機を逃さず、浄化師達は一気に止めを刺しに行く。
「逃げるな。お前が殺したい相手は、ここに居るぞ」
ルーノがべリアルの前に立つ。
それは触腕を2本同時に失ったべリアルに、時間稼ぎをさせないため。
身を挺して、べリアルの気を引き付けていた。
「にクぅ、つぶスぅ。たマシい、くウぅっ!」
中途半端な知能しか持たないスケール2のべリアルは、ルーノの意図など気付けず残った足を動かし口を開く。
噛み千切ろうと迫る中、ナツキが立ちはだかる。
「させるか!」
エッジスラストを使い一気に踏み込むと、渾身の一撃を叩き込む。
それはべリアルの移動用の足の1本を切り飛ばした。
触腕とは違い、移動用の足の回復速度は遅い。
移動用の足を切り飛ばされバランスを崩し動きが止まった所に、追撃が重ねられていく。
「ご武運を」
疲労の色を隠し、シャルローザは前線に踏み込む浄化師達を笑顔で送り出す。
ロスやアーロインだけでなく、可能な限り皆にアーク・ブーストを掛けていたシャルローザの魔力は、すでに尽きている。
けれどそのお蔭で、皆の戦闘がかなり有利になったのは事実だ。
「お嬢ちゃん、すこし後ろに下がっておくといい」
ロメオに守られるように前に立たれたシャルローザは、疲労を隠すように笑みを浮かべたまま、息を整えるように少しだけ下がる。
そんな彼女の頑張りを見ていたロメオは、少しでも早く戦いを終わらせるべく戦いに集中する。
(絶対に、当てる)
ハイパースナイプを使い、高まる集中力で精密射撃。
移動用の足の根元に命中。
その威力にべリアルの足は破裂するように千切れ取れた。
「あァああァァ! じャマぁ! おマえラじャマぁ!」
移動用の足を破壊され、動く事すら鈍くなってきたべリアルは憎悪の声を上げる。
そして少しでも遠ざけようと、墨を吐こうとした。
しかし、その挙動にユンが気付く。
「気を付けて下さい! 墨を吐こうとしてます!」
それは魔力探知を使い、観測手として最初から今まで集中してべリアルを見ていたからこそ、気付くことが出来ていたのだ。
べリアルが海の中に潜り、墨を吐いた時の魔力の移動。
それを必死に覚え、皆の役に立とうと集中していたからこそのファインプレー。
ユンの警告に、浄化師達は警戒し動く。
だからこそ、べリアルの墨吐きは不発に終わる。
勢い良く吐き出したが、顔に受けて視界を塞がれる者は居ない。
幾らか身体に掛かる程度だ。
それを受けたベルトルドは、濡れて不快に思い、ネコ科の動物のように体を震わせる。
幸い、べリアルの墨吐きを皆が警戒してそれぞれ距離を取っていた事もあり、仲間に掛かることはなかった。
とはいえ、濡れて不快な気持ちにさせられたのは事実。
ベルトルドは仇を返すべく踏み込む。
その寸前、ヨナのフレイムが先んじてべリアルの眉間に叩き込まれる。
「私の方が速かったですね」
「危うくこっちに当たりそうだったぞ!」
ベルトルドはヨナに返しながら、べリアルに接近。
触れ合えるほどの距離から、身体のひねりを拳に集中するような拳撃を放つ。
それはべリアルの移動用の足を、更に1本千切り飛ばした。
足を更に1本失ったべリアルは、反撃とばかりに食いつこうとするが、そこにフィノの一撃が。
「やった。当たった!」
ベルトルドにべリアルが集中した隙に放たれた一撃は、べリアルの残った目に傷を与えていた。
一連の攻撃で、べリアルの視界は削られ、移動すらおぼつかない。
2本の触腕は再生しそうだが、べリアルを仕留める絶好の好機なのは確かだ。
そこにレイ・ヘルメスが跳び込む。
「今だ! 攻撃しろ!」
べリアルの後方に向けての呼び掛け。
視界が不自由なべリアルは、身体ごと動かすようにして反射的に見てしまう。
そこには誰も居ない。
その瞬間、べリアルの背後を攻撃するレイ。
「バーカが見るー」
「こオろすゥゥ!」
残った足を無茶苦茶に振うべリアル。
しかしレイには当たらない。
それは後方で呼び掛けるアンの支援もあったからこそ。
「にぃ、一歩下がるといいです」
アンは後方で俯瞰して見ながら、魔術通信を使い指示を出す。
実質、2人掛かりの牽制に翻弄されるべリアル。
レイは引っ掻き回すようにべリアルを挑発すると、最後に口に目掛け魔力弾を叩き込む。
「ぎイぃぃぃッ!」
再生した触腕を振り回し暴れるべリアル。
しかし最初の頃のような勢いはない。
止めを刺すべく、一気に攻撃を重ねる。
カラクは仲間の盾になるような動きをしながら、武器を振るう。
「無茶するなよ!」
パートナーであるアーロインの声に、カラクは魔術通信で返す。
「そんなことより、今がチャンスだ。こっちで引き付けてる間に、上空から攻撃して」
静かなカラクの返答に、アーロインは何か返そうとするが、今が絶好の好機なのは事実。
何かを言うのは後にして、べリアルを倒すことに集中する。
上空からの連続攻撃を叩き込む。
何本もの矢がべリアルの身体に突き刺さっていく。
そこに合わせるように、エルマンも上空からの射撃を重ねていく。
「逃がさないよ!」
べリアルの退路を断つような攻撃を続けていた。
複数から攻撃され、どれに対処すべきか迷うような動きをべリアルは見せる。
その迷いを更に広げるように、コーネリアスが攻撃を叩き込む。
「こっちの足を集中して攻撃するから、反対側は頼む」
魔術通信で、対象位置に居るカラクと連絡を取りながら、移動用の足を狙い攻撃を重ねる。
浄化師達の繰り返される攻撃に、べリアルは追い込まれていく。
そこに一撃を加えるべく踏み込んだのは、ロスとシンティラ。
「ロスさん、触腕が1本破壊されそうです。破壊されると同時に踏み込んで下さい」
「おう! 任せろ!」
べリアルの再生された触腕が仲間の浄化師達の攻撃により切り落とされた瞬間、シンティラは小咒を発動。
詠唱の終わりと共に現れた炎の蛇は、べリアルの切り落とされた触腕の傷を焼き固めるように食らいつく。
それにより、胴体への道筋が開く。
触腕の残りを仲間の浄化師達が攻撃し引き付けてくれている間に、ロスは跳び込む。
そこに移動用の足を放つべリアル。
しかし、それは切り落とされた。
事前に掛けていた献魂一擲により、カウンターの一撃を叩き込んだのだ。
これでべリアルは、まともに動くことが出来なくなる。
そこに止めを刺すように、手にした斧をロスは振り上げる。
狙いは目と目の間。
渾身の力で振り降ろす。
地烈豪震撃。
地を振動させるほどの強烈な打撃が、べリアルの体組織を粉々に撃ち砕いた。
真っ当な生き物ならば、すでに死に絶えるほどの一撃。
だが、べリアルは真っ当な生き物ではない。
ぐちゃぐちゃになった体を撒き戻すように再生させながら、囚われの魂を露出させた。
「こんなにも、多くの魂が……」
ジークリートは悼ましげな声を上げる。
今までスケール1のべリアルに囚われた魂を見たことのあるジークリートだが、いま表に現れた魂達は軽く上回る。
多くの海洋生物のみならず、たくさんの人間も含まれていた。
「……スケール2のベリアル。全てが、これほどの魂を囚えているというの……」
その声には悲しみがある。
目の前に広がるのは、自分が守ることが出来なかった犠牲者。
人々を守ることが生きる意味であるジークリートにとって、それは無力感を突き付けられるようなものだ。けれど――。
「リート」
フェリックスの呼び掛けが、引き戻してくれる。
「助けてあげよう」
出来ることは、今もある。
それは浄化師全てに言える事だ。
べリアルに囚われた犠牲者は、死すら終わりではない。
解放し、救うために。
浄化師の出来ることはある。
「……ええ。助けてあげましょう」
死すら終わりになれない魂を助けるために。
ジークリートはフェリックスと共に、魂を囚らえる鎖を破壊する。
鎖から解放され、空に昇って行く魂達。
だが、囚われの魂は数多く。
だからこそ、浄化師達は力を振るう。
撃ち砕き、切り裂き、焼き尽くし。
最後の囚われの魂が解放されると、べリアルは砂となって崩れ去り跡形もなくなった。
浄化師達の疲労は濃い。
だが倒れた者は一人もおらず、見事スケール2のべリアルを倒し、ベレニーチェ海岸に平和を取り戻したのだった。
成功判定 : 大成功
巨大イカベリアル討伐 | ||
(執筆:春夏秋冬GM) |