リザルトノベル『蒸気船の造船』        

『蒸気船の造船』 参加者一覧

ベアトリス・セルヴァル
ジョシュア・デッドマン
ミコト・カジョウ
アリア・ソラリユ
サイラス・フランク
メリンダ・キティ
アキ・アマツカ
カイン・レカキス
フィデリオ・ザッカーバーグ
ザック・ゲイル
アユカ・セイロウ
花咲・楓
白羽・飛世
ファリア・ブリッツ
ショウ・イズミ
ミニュイ・メザノッテ
リームス・カプセラ
カロル・アンゼリカ
降矢・朝日
籠崎・真昼

リザルトノベル


 蒸気船の造船指令。
 それを受けた浄化師達は、薔薇十字教団駅舎のひとつに集まっていた。

「わあ、蒸気船なんて初めてだよ!」
 はしゃぐような声を上げ『リントヴルム・ガラクシア』は駅舎に並べられた材料を物珍しげに観察する。
「作業よりもぶっちゃけ取材したいなあ……」
 元フリーの記者らしい事を言う彼にパートナーである『ベルロック・シックザール』は返す。
「まずは指令をこなさないと」
 お目付け役のようなベルロックの言葉にリントヴルムは残念そうに返した。
「ダメ? ちぇっ、じゃあ適当に手伝おう。甲板なら板を張って、マストは布でしょ スクリューは……何で出来てるんだろう? スムーズに回せればいいよね?」
「いや、適当じゃダメだろ。俺達も乗るかもしれないんだぞ」
 もっともな言葉に、どう動こうか考えるリントヴルム。

 そんな風にパートナーと掛け合いをしているのは他の浄化師達も同様だ。

「ふわー! おふねだぁー!」
 目をきらきらさせ興奮した声を上げるのは『白羽・飛世』。
 飛世は、まだまだ小さな女の子なので、蒸気船が物珍しいのだ。
 そんな彼女に、パートナーというよりは保護者な『ファリア・ブリッツ』が言った。
「これひよっ子! 危ないからあんまり作業現場には近付いてはいかんぞ。小さい子に気付かずぶつかられたら事じゃ」
「……ちかづいちゃ、だめなの?」
 しょんぼりとうなだれる飛世に、彼女を孫のように思っているファリアは少し考えてから返した。
「危ない所に近づかなければ良いのじゃ。少し離れて見るならば良しじゃ」
「ほんとに? やったー!」
 ぴょんぴょん跳びはねて喜ぶ飛世。
 見ていて和んだ。

 やる気を見せる者が居れば乗り気でない者も。

「サイラス君、どこに行こうとしてるんだい?」
 隙を見て駅舎から離れようとした『サイラス・フランク』に『メリンダ・キティ』が呼び掛ける。
 これにサイラスは視線を合せ返す。
「メリンダ、ボク達はこんな事してる場合じゃないと思うんだ」
「だからってべリアルやヨハネの使徒の討伐に行くつもりかい?」
「ああ。そちらに行った方が意味がある」
「そんなことはないよ」
 メリンダは確信を込めて返した。
「先を見据えれば蒸気船は大事なのさ。直接ヨハネの使徒やべリアルを倒すより、皆の役に立つんだ」
 そう言ってサイラスの手を取る。
「いまワタシ達が皆のために一番役に立てるのは、ここだよ。だから頑張ろう」
 納得しきれない、という表情のサイラスを引っ張っていくメリンダだった。

 どう動けば良いか考える者も。

「ヨハネの使徒を使った造船、かぁ。中々関われるものじゃないよね」
 駅舎に集められた材料を見ながら『降矢・朝日』は、やる気を見せる。
「よ~し、頑張ろうね真昼くん」
 彼女の意気込みに『籠崎・真昼』は返す。
「造船技術はないけれど、日曜大工程度の加工技術はあるので手を貸そうと思ってるよ」
 真昼は手伝おうと思う場所を決め、自分が出来ることを考えていく。
「風を受ける帆を張るマストは長すぎれば良いって物じゃないよな……太さは風を受ける以上、しっかりした物が良い筈だ。皆と協力して、良い物を作ろう!」
 これに朝日は、ちょっと考え込んでから返した。
「私は造船の知識は無いからね、皆の提案を纏めていこうかな? それ以外で出来ることは――」
 自分が出来る最善を。
 朝日と真昼の2人は考えていた。

 集められた材料を見ながら考え込んでいる者も。

「船って、海の上に浮くのよね? これだけの材料で出来る物が、本当に浮くのかしら」
 不思議そうに言う『アキ・アマツカ』に、『カイン・レカキス』は返す。
「先人が出来た事を、我々が出来ない道理もありません。何事も挑戦ということでしょう」
 カインの言葉にアキは賛同する。
「そーね、挑戦は大事よね。なら後は、材料が揃えば数も作れるんでしょうけれど……調達側に期待ね」
「それも大丈夫です」
 カインは確信を込めるように返した。
「我々の仲間です。きっと期待に応えてくれます」
「なら、私達も期待されてるでしょうし、出来ることを頑張らないとね」
「ええ、頑張りましょう」
 いま自分達が出来ることを。
 2人は考え行動しようとしていた。

 そうして浄化師達が待っているとセレスト・メデューズとトーマス・ワットがやって来る。

「『さぁ、お前ら働ケ』」
「まずは挨拶でしょうが」
 人形を使った腹話術でいきなり命令しながら自分のペースで進めようとするトーマスに、セレストは突っ込みを入れると笑顔を浮かべ言った。
「みんな集まってくれてありがと。あたしが今回の蒸気船製造の責任者のセレストだ。こっちが技術顧問の人形の人……じゃなかった、トーマス」
「『こっちが責任者じゃねぇーのカヨ!』」
「あんたに任せてたら、物事がスムーズにいかないし。任せても良いけど、蒸気機関の製造には集中できないけど?」
「『ならイイ! 任せるゾ!』」
「……はいはい、任せて」
 軽くため息をつくようにセレストは返すと続けて言った。
「皆には3班に分かれて作業をして貰う。『甲板』と『マスト』と『スクリュー』だな」

 この説明に『コナー・アヴェリン』は不思議そうに言った。
「スクリューで動くのにマスト? ひょっとして見張りを置くためか? アリアは、どう思う?」
 コナーの問い掛けに『アリア・トリルビィ』は視線で語る。
「…………」
 そんなの私が知る訳ないでしょう。
 とでも言いたげな視線にコナーは笑顔で返す。
 趣味と実益を兼ねての人形好きでマドールチェと契約する為に教団に入団したコナーにとっては、どんな視線だろうが愛しのアリアの物なのでオールオッケーである。
 そんなコナーの質問にセレストは返した。
「見張りとしての役割もあるけど、風を受ける帆の役目もあるよ。普通の風、魔術で作った風を受けたりして速度を上げるんだ」
「なら通信旗ぶら下げたり航海灯燈したりもするのか。あとで獣人変身して具合を確かめよう」

 セレストが質問に応えていると『ロゼッタ・ラクローン』が納得したように言った。

「どう作るのか謎過ぎて、どんな役割があるのかも分からなかったけど、そういうことね」
 ロゼッタの言葉を引き継ぐようにして『クロエ・ガットフェレス』が問い掛ける。
「動力とかスクリューとかどうなっているのか、聞いても良いですか? これからも作るかもしれないから、今後作るための実践とデータ取りに聞いておきたいんです」
 これにセレストが返す。
「スクリューも動力もヨハネの使徒の残骸を流用して作るよ。でないと自前で作れる技術だと無理だから」
「『外輪蒸気船(パドルスチーマー)が限界ダナ!』」
 蒸気関連の話になって来たのでトーマスが口を挟む。
「『ヨハネの使徒のパーツを流用することで蒸気タービンさえ作れるんダゾ! しかも真空式で――』」
 専門的な事に話が突入しそうだったのでセレストが止めて簡略に応える。
「簡単に言うと『スクリュー式タービン型のマスト併用蒸気魔術船』だよ。
 蒸気タービンを回したり、マストに自然の風、魔術で発生させた風を受けたりするのに魔結晶を動力源にする予定」
「『30ノット(時速55キロちょっと)は出せるんダゾ! しかも開発予定の推進抵抗軽減の魔術が完成すれば60ノットはいくゾ! 理論上はナ!』」
 ……理論上?
 絵に描いた餅の話をされ、思わず不安になる浄化師達。
 とはいえ作らない訳にもいかないので、どの担当に就くかを考える。
「重要部分のスクリューに関わろうかな」
「なら一緒に作りに行こう」
 ロゼッタとクロエは自分達が担当する物を決める。

 皆が担当を決めていると『ジョシュア・デッドマン』が発言した。

「担当を決めて貰ったら、具体的にどんな作業があるか詳しく順序から説明してもらおう」
「??」
 ジョシュアの発言に、彼のパートナーである『ベアトリス・セルヴァル』が不思議そうな表情をする。
 それにジョシュアは、自分の発言の意図を皆に説明するためにも、ベアトリスに返した。
「ふわっとした流れのままだと、あれこれと手を付けてしまいがちだからだ。一つの作業を集中的にした方が良い」
 これにベアトリスは嬉しそうに返す。
「そっか。ハッキリさせた方が、作業も進むよね」
「そういうこと。だから説明して貰いたいんだが、頼めるかな?」

 セレストは頷いた後トーマスにも(物理的に)頷かせると細かい作業内容を説明する。
 そして作業に移る前に連絡役の提言をする者も。

「船の設計と蒸気機関、それぞれ専門家が担当するのはいいけど、相互の情報共有や連携も必要です」
 作業の効率化を考えて『マリオス・ロゼッティ』は言う。
「船体のどこに蒸気機関を設置するか、必要なスペースは? 蒸気機関の重さと船体のバランスは?
 他にもマストと煙突の配置や、馬力はどの位なのかも分かってた方が良いと思います」
 これにセレストが返す。
「作業班ごとに、こちらから指示を出す連絡役は必要だな。誰かが就いてくれると良いけど」
 セレストの呼び掛けに『シルシィ・アスティリア』が返す。
「なら、わたしとマリオスが就こうと思います。わたしがセレスト様の連絡要員に。マリオスがトーマス様の連絡要員に就きます」
 役職が上の相手なので様付けで呼ぶと、セレストは元貴族階級として名を馳せていた「メデューズ一族」であるからか、慣れた様子で普通に返す。
「そうしてくれるなら助かる。任せるよ」

 こうして指示役の2人と浄化師達との間で連絡網の構築がされる。
 だが浄化師間の連絡役は居ない。
 それを買って出たのは『空詩・雲羽』と『ライラ・フレイア』だった。

「僕は力仕事向けじゃないから、現場から必要な物が何か、運搬する人に伝達する係に専念しようかと思うんだ」
 雲羽は、そう言うとライラに視線を向け続ける。
「僕のお人形さんに協力して貰ってね」
 これにライラは返す。
「協力するのは構いませんけど、何をすればいいんですか、雲さん」
「作業をしている人の間を回って、必要なものを確認して欲しい。それを魔術通信で僕に伝えて貰ったら、メモって伝達するよ」
 これはライラがマドールチェだからこそのやり方だ。
 マドールチェの特技の魔術通信はマドールチェ同士であれば双方向の通信が。
 通信相手がマドールチェでない場合でもマドールチェから相手に対して一方的な通信が出来る。
 これにより浄化師同士の伝達や必要なものの融通は更に良くなった。

 準備は十分に整い皆は蒸気船製造を開始した。

「これが蒸気船の設計図か?」 
「面白いわ。部品余ったら、持ち帰りましょう!」
 確認用に張り出された設計図を、今にも持って帰りそうな『ミニュイ・メザノッテ』に『ショウ・イズミ』は返す。
「司令役に聞いてからな」
 そう言うとセレストの元に向かう。
 後をついて行くミニュイ。
「どこを手伝えば良いだろうか?」
 ショウの問い掛けにセレストは返す。
「ならスクリュー作りを手伝いに行ってくれ。他の所より手が足りてないみたいだから」
「分かった。手伝うとして、道具で必要なものはあるのかも教えて欲しい。あとは、部品は余ったら持って帰って良いだろうか?」
「部品の持ち帰りは許可されてないから諦めて。手伝いに必要な道具は――」
 ショウがセレストに話を聞いている間、ミニュイは他の浄化師と造船の作業を手伝っていた。

 セレストに指示を仰ぐ者が居ればトーマスの手伝いに動く者達も。

「お手伝いします」
 朗らかな声で『アユカ・セイロウ』はトーマスの手伝いを申し出る。
「『そうカ! なら蒸気機関を作る手伝いをして貰ウゾ!』」
「はい、お手伝いします」
 そしてパートナーである『花咲・楓』と共に蒸気機関の元に。
「思ってたのより小型なんですね」
 予め図書館で蒸気機関の基礎を頭に叩き込みメモしていたアユカは調べていたよりも小型な蒸気機関に驚く。
 するとトーマスは言った。
「『良く調べてるみたいダナ! ヨハネの使徒の残骸を利用できたからこの大きさに出来てるんダ!』」
 トーマスの言葉に楓は問い掛ける。
「小型化されているのは分かりましたが、基本的な仕組みは変わらないのでしょうか?」
「『変わらないゾ! だから蒸気機関の知識があるなら歓迎してヤル!』」
「なら大丈夫です。調べてきましたから」
 アユカ以上に事前に勉強していた楓の応えにアユカは頼もしげに言った。
「かーくんも調べて来てたんだ。なら2人で一緒に頑張れば、きっと良いものが出来るね」
「はい。頑張りましょう、アユカさん」

 着々と造船は進む。
 それは甲板で働く浄化師達の頑張りも大きな要因だ。

「ミコトは頑張るね」
 黙々と甲板に必要な部品製作をしている『ミコト・カジョウ』に、彼のパートナーである『アリア・ソラリユ』は言った。
「アリアは手伝わないのか?」
 ミコトは実直さが滲み出るような硬い口調で、同時にアリアへの気遣いを滲ませ聞き返す。
 これにアリアは作業を続けるミコトを見詰めながら返す。
「手伝うのに知識が足りないんだもん。足手まといは流石に危険だし……やることがなーい、やることがなーい」
「そうか」
 ミコトは静かに返し変わらず黙々と作業を続けていた。
 それを見詰めていたアリアは思う。
 鮮やかな手際だな、と。
 言葉には出さず、けれど心の中では凄く感心している。
 だから彼女は黙ったままミコトの傍で、彼の手際の良さを寄り添うように見詰めていた。

「おじさん、何の部品を探してるの?」
 細かい作業をするために簡易工具箱やペンチを手にしていた『ラファエラ・デル・セニオ』は『エフド・ジャーファル』に尋ねる。
 大きな作業をするために動いていたエフドが、吟味するように部品を見ていたのが気になったのだ。
「船の装甲になりそうな材料を見てる」
 用意されたヨハネの使徒の残骸を吟味しながら続ける。
「継ぎ目は弱点になるからな。少しでも大きな装甲板があれば良いんだが」
「なら、あれなんてどう?」
 ラファエラの示した装甲板を見てエフドは返す。
「大きさは良いな。あとは出来れば装甲の継ぎ目は流線形の増加装甲で覆いたいから、そういうのも探したい」
「頑張って。こっちはこっちで作業しておくから」
 2人はそれぞれ作業に勤しんだ。

 そうして他の皆も作業を頑張っていく。

「造船に関わることになるとは」
 甲板作りに協力している『リームス・カプセラ』は図面の検算をしている。
(将来役に……立つかな?)
 細部の確認をしながら材料の切り出しや組み込みの作業をしていた。
「これで良いですか?」
 途中、確認のためにセレストに声を掛ける。
 これに返すセレスト。
「ありがと。その調子でお願い。このペースなら、思った以上に早く進みそう」
 進捗状態が良いのでセレストの表情は明るい。
 そこに癒しをもたらすべく『カロル・アンゼリカ』が笑顔で進捗状況の報告を。
「3番作業、終わりました!」
「お疲れー♪」
 とびっきりの笑顔を見せてくれたカロルに癒されるセレストだった。

 作業を頑張っているのは『ミナ・ハルカワ』と『エル・ドラド』も同様だ。

「ミナ嬢。頑張り過ぎちゃダメだよ」
 ミスがないよう丁寧な仕事を続けているミナに、エルは呼び掛ける。
 エルもミナと同じく真面目に仕事をしていたが、同時にミナが根を詰め過ぎないように注意していた。
 これにミナは返す。
「私は大丈夫。ドラドさんの方こそ、気を付けて下さい。怪我とかしたら、大変ですから」
 ミナは人に尽くす事で自身が生きる意味を見出していることもあって、一歩間違えると倒れるほど無心に作業を続けかねない。
 だからこそエルは言った。
「あとで他の人の手伝いに行かないか? その方が助かる人も多くなるだろうしね」
 単純に休めと言っても無理をしかねないので、作業量の調整が出来るよう提案する。
 これにミナは、皆の役に立てることを第一に考えて返した。
「はい、分かりました。なら今の作業が終わったら、手伝いが必要な場所に行きましょう」
 作業の手は止めず返すミナに、エルは苦笑するように頷いた。

 そんな中トーマスと一緒に蒸気機関の出力計算に勤しんでいるのは『レオノル・ペリエ』だ。

「トーマスさん。提示された魔晶石を使った場合の出力計算が終わったよ」
「『お、もう出来たノカ』」
 そろばんを使ってレオノルが算出した数値を見てトーマスは返す。
「『やっぱりこの部品の比率だと、この数値が限界ダナ。とはいえ、今以上に質の良い部品を安定して揃えるのは難しいゾ』」
「だったら、あとは今出せる最高をどれだけ維持できるかだね」
 レオノルとトーマスは蒸気機関の性能向上と維持について話を続ける。
 その横で部品の整理をしているのは『ショーン・ハイド』だ。
(楽しそうだな)
 はしゃいでいるように見えるレオノルを見てショーンは思う。
(ドクターの尽力は、きっと皆の役に立つだろう)
 確信するようにショーンは思っている。
 そしてレオノルが自分がしたいことを出来るように、そしてそれが皆の役に立ち世の中から少しでも不運が消えてくれるように。
 いつでもレオノルの頼みを聞けるよう作業を続けていた。

 そうしてレオノルと共に計算をしているトーマスの元に『シャルル・アンデルセン』と『ノグリエ・オルト』が指示を聞きにやって来る。

「何かお手伝いできることはありませんか?」
 最初に割り振られた作業を終わらせたシャルルが問い掛けるとノグリエが続ける。
「ボクもお手伝いしますよ。シャルルのお手伝いですが」
 冗談めかして言ったあと、続けて言った。
「まぁ、冗談はさておきボクにできることなんてたかがしれてますし。偽装の技術が役に立つのならそうしますが」
 これにトーマスは返す。
「『偽装カ? そういうのは娘っこに聞きにイケ』」
 蒸気機関以外のことは我関せず。
 とでも言いたげなトーマスにシャルルは返す。
「メデューズさんの傍に行け、ですか? はい、それでお役に立てるなら♪」
 そして2人はセレストの元に。
「偽装の方は、今の所は気にしてくれなくても大丈夫」
「なら、何をして手伝いましょう?」
 ノグリエの問い掛けにセレストは指示を出す。
「甲板の手伝いに行ってくれると助かる。ちょっと人が足らないみたいだからな」
 2人は引き受け作業に向かった。

 そうして指示を出しているセレストの元で『フィデリオ・ザッカーバーグ』と『ザック・ゲイル』は作業効率を上げることも考え動いていた。

「僕に肉体労働させようってのが、間違って無いかい?」
「……それは思った、けど! 人手が足りないんだ」
 フィデリオにやる気を出させようとするザックに、フィデリオは笑みを浮かべ返す。
「拗ねても可愛いなあ。力仕事は無理だけど、頭の方で貢献しようか。貴方もね」
「む。俺も?」
 フィデリオの応えに、ザックは一緒に頭脳労働を担当することに。
「算出した部品の寸法を記入して全員に情報共有しようと思うんだが、そういうことをしている人はいるかな?」
 フィデリオがセレストに問うと彼女は返す。
「蒸気機関に集中してる所で、そういう事をしてるから、そっちを手伝いに行って」
 これにフィデリオとザックはトーマスの元に。
 そこでフィデリオは計算作業を続けている皆と協力して動く。
 一方ザックは部品を磨いたり持ち運んだりしていたが、計算をしているチームが終わるまで少し手持無沙汰に。
 持ち運んでいた部品を見て思う。
(これ、パズルみたいに組合わせられないのかな?)
 考えついた組み合わせをメモに記していった。

 作業は進んでいく。
 熱い中の作業だったが、みんな休まずに続けていく。
 その分、幾らか疲れが見え始める者も。
 それに気付いた『ジエン・ロウ』は『吉備・綾音』に言った。

「船の造船……みなさん大変そうですね」
 材料の運搬を綾音と一緒にしていたジエンは続ける。
「まかないとまではいかなくても、冷たい飲み物とか準備できれば良いかもしれない」
「ええ。それが良いかも」
 綾音の賛同を受け2人はセレストの元に。
「何か冷たい物を用意しようと思うのだけど、良いですか?」
 綾音の言葉にセレストは返す。
「良いね、ナイスアイディア。代金は教団で建て替えておくから用意してくれる?」
「はい、分かりました」
 ジエンはセレストに返すと綾音と一緒に冷たい物の手配に動いた。

 作業は続いていく。
 分担をこなしていき、船は形を組み上げていく。

 例えばマストの作業場では、こんな感じに。

「これがマストの布か」
 用意されたマストの布を手に取って、ベルロックはマストに登る。
「わぁ、高いねぇ」
 一緒になって登ったリントヴルムは作業用に作られた足場に立って、命綱になる安全帯を括りつけ作業をしていく。
「落ちないよう、気を付けろよ」
「大丈夫大丈夫。任せて」
 ベルロックとリントヴルムは会話を重ねながら、セレストに指示された通りに帆を付けていく。
 2人の息は合っている事もありスムーズに進んでいった。
 着々とマストが出来ていく中、同じように作業していたコナーは途中からうろうろと。
 マストの見張り台にまで登ると獣人変身しユキヒョウに。
 パッと跳び出すと手足を広げるムササビジャンプ。
 尻尾をぴんっとさせ滑空すると、すとんと着地。
 それを見ていたアリアは無言のまま。
「…………」
 なにしてるの?
 とでも言いたげな視線をぶつけられ尻尾を丸め。
「嗚呼、愛しのアリア、怒らないで」
「……」
 そんなことはいいから作業をして。
 アリアの視線を受けコナーは作業に戻った。
 こうして着々と出来ていく中、皆の意見を聞いていた朝日はマストの調整をしていた真昼の元に。
「真昼くん、航海の成功を祈るモチーフをどこかに入れるのはどうかな?」
「モチーフか。良いね」
 真昼の賛同を受け、2人はセレストの元に行き提案をしてみる。
 セレストは快諾した。
「船につけるモチーフなんだから、ツバメにすると良いかなぁ」
 セレストの話では、ツバメは航海の世界では『幸運』を意味するという。
 ツバメを見ることが出来れば、それは陸地が近い証拠であり、どこに出かけても家への道を見つけられる鳥としても知られているからとの事だった。
「いつでも家に帰れるってのは良いよね」
 朝日はセレストの話に喜び、真昼と一緒にモチーフ制作に。
「目立つように、帆のどこかに入れるのはどうかな?」
 真昼の提案を受け、朝日は他の賛同者を探し協力して、帆にツバメを描いて行った。

 こうしてマストは出来て行く。
 同じように甲板も。

「ジョシュア。これ、どこに持って行けば良いのかな?」
 長い板を手にしたベアトリスが甲板の嵌め込み作業をしていたジョシュアに聞く。
 ベアトリスが手にしている板は、彼女の身長を超えるほど長く大きいが素晴らしく軽い。
 ヨハネの使徒の残骸から作られている物だ。
「それは、あっちの方だな。ちょうど良い。ここが終わったから一緒に持って行こう」
 2人は最初から集中して甲板作業をしていたが、それだけに作業に慣れるのは早くテキパキとこなしていく。
「そっち持ってくれるか」
「うん」
 両端を持って板を甲板に嵌め込む。
「よし、ここはこれで良い」
 ひとつ作業を終わらせたジョシュアにベアトリスは言った。
「この船が出来たら、色んな場所に行けるんだよね」
「そうだな」
「そうしたら、一杯色んな人に会って、仲良く出来ると良いね」
「……ああ」
 彼女らしい言葉に小さく笑みを浮かべ返すジョシュアだった。
 そうして甲板は出来ていくが、それは黙々と作業を続けるミコトの尽力も大きい。
「ねぇ、ミコト」
 全力で作業に取り組むミコトを見詰めていたアリアは呼び掛けるように言う。
「疲れてない?」
「いや、大丈夫だ」
 変わらず実直な様子で、けれどどこかアリアに心配させないよう気遣いを滲ませながらミコトは返す。
 そんな彼にアリアは続けて言った。
「疲れてないんだ。それなら良いけど……でも喉とか乾いてない?」
 これにミコトは、ちょっとだけ作業の手を止め応えた。
「……そうだな。少し喉は乾いたかもしれない」
「じゃあさ、何か飲み物もらって来てあげようか?」
「ああ……そうしてくれると助かる」
「ちょっと待っててね!」
 嬉しそうに言って飲み物を取りに行くアリアを見詰めたあと、ミコトは作業に戻って行った。
 甲板が出来あがっていく中でシャルルも頑張って手伝い、そんなシャルルの手伝いをノグリエはしていた。
「シャルル。その材料、ボクが持って行くよ」
 甲板用の板材を手にするシャルルにノグリエは申し出る。
「ありがとうございます。でも大丈夫です」
 シャルルは明るい声で返す。
 彼女が手にした板材は彼女の背を超えるほどだが、素晴らしく軽いので持ち運びが苦になるほどではない。
 他の材料でも言える事だがヨハネの使徒の残骸を流用しているからこその作り易さがある。
 もしヨハネの使徒の残骸が使えなければ今ほど速く少ない人数で作るなど絶対に無理だっただろう。
「ノグリエさん、板材を嵌め込むのを手伝って貰えますか?」
「もちろんだよ」
 2人は仲良く一緒に作業を続けていく。
 ノグリエはシャルルの手伝いが出来るので機嫌よく、そしてシャルルは作業効率を上げるために歌を歌いながら。
 リズミカルなその歌に合せるように、皆は作業を続けていった。
 甲板は段々と形になっていく。
 制作終盤に差し掛かり、リームスはカロルと共に細部の確認や最後の調整に動いていた。
「リームス、こっちは出来たけど、そっちは大丈夫?」
 2人はマドールチェなので小柄な体と特技である魔術通信を活かし、入り組んだ場所に潜り込みながら目で確認できないほど距離が離れていても双方向のやり取りが出来る。
「こっちも大丈夫。ここを内側から固定しよう」
 リームスはカロルに返すと材料を嵌め込む。
 今回の船は組木細工のように材料を組み合わせて作られている。
 制作速度の向上と作業員が少なくても済ませる為だが、これもヨハネの使徒の残骸を流用しているからこそできることだ。
 そうでなければ何もかも大幅に掛かっていたことだろう。
「よし、ここは完成だ」
 しっかりとリームスは検分する。
「うん、これなら十分よね」
 リームスの傍に来たカロルも確認し、明るい笑顔を見せる。
 その笑顔にリームスは、やわらかな表情になると言った。
「ここは終わったから、セレストさんに報告に行く?」
「うん。カロルも一緒に行く?」
「そうだね……うん、そうしようか」
 こうして2人は報告に行った。

 作業は続いていく。
 その中で連絡役を買って出たシルシィとマリオスも忙しく動いていた。

「甲板の方は作業が終わりに近いから、他の場所で人手が足らない場所がないか調べてくれる?」
「はい、分かりました」
 セレストに頼まれ、シルシィは作業場を回って確認する。
「マストもスクリューも順調に進んでいます。人手を回すのでしたら他の細々とした場所に回した方が良いかもしれません」
 シルシィは確認して自分が感じた所見を伝える。
 これにセレストは少し考えたあと返した。
「なら人手が必要な所を見て回って、細かく教えてくれると嬉しいよ」
「はい、すぐに見てきます」
「ありがと。すっごく助かる」
 笑顔で礼を言うセレストに、同じように笑顔で返すシルシィだった。
 一方トーマスの連絡要員として動いているマリオスも忙しく動いていた。
「この部品は、どこに持って行けば良いんですか?」
「『娘っこに聞いトケ!』」
「セレストさんは他の作業の指示で忙しそうなんですが」
「『こっちだって忙しいんダゾ!』」
「さっきから同じ部品をバラしては組み立てているだけですけど」
「『良い組み合わせを思いついたから実験してるんダゾ!』」
「……それは今するべき事ではないと思うんですが」
 面倒なトーマスの相手をマリオスは頑張ってこなしていた。

 2人と同じように連絡役として動いているのはライラだ。

「雲さん。船の装甲板になる材料がないか探してる人が居るよ。あとゴミが溜まってきたせいで効率が落ちてるみたい」
 ライラから魔術通信による連絡を受け雲羽は全体を見回す。
「さてどうしようか?」
 少し考えて傍を通ったファリアに声を掛ける。
「筋肉おじいさん。装甲板になる材料があったら、持って行ってくれるかな」
 両肩に角材を乗せ運搬していたファリアは返す。
「かまわんぞ。これを運び終えたら持って行ってやろう」
「助かるよ。あと掃除をしてくれる人が居たら教えてくれるかな。ゴミが溜まってるみたいなんだ」
 雲羽の言葉に、ファリアは離れた場所に居る飛世に視線を向け返す。
「掃除なら、ひよっ子が頑張っておるぞ」
 ファリアの言葉通り、飛世はお掃除を頑張っていた。
「おそうじおそうじ~♪」
 小さい体で、あっちに行ったりこっちに行ったり。
「あっ、これみつけたー! だいじなものー?」
 小さな部品を見つけては持って行ったりもしている。
 それを離れて見ていたライラは雲羽に魔術通信を介して言った。
「私も掃除の手伝いに行きますね」
 そう言うと飛世と一緒に掃除を始める。
「おそうじ、いっしょにするの?」
「はい。お掃除は仕事の潤滑油係みたいなものだから、頑張りましょう」
「うん! がんばるー!」
 にこにこ笑顔でライラと共に掃除に励む飛世だった。

 そうして皆は頑張っていく。
 中には、休みなく続けているせいで少しバテている者も。

「少し休みますか?」
 カインは運搬作業で疲れた様子のアキに声を掛ける。
「大丈夫……って言いたい所だけど、この暑さだと、そうも言ってられないわね」
 アキの言葉通り、連日の酷暑は今日も健在だ。
「飲み物でもあると良いのですが」
 そう言って周囲を見渡したカインは、飲み物を持ってパートナーの元に向かう人物に目を止める。
「ミナ嬢、少しは水分を取らないと熱中症になるよ」
 エルは冷えた麦茶をミナに差し出す。
 ミナは細かい作業をしていたのだが小休憩すらとっていなかった。
「ありがとうございます。でも作業の途中ですから」
 作業の手を止めないミナに、どうしたものかとエルが考えていると、カインが近付き声を掛けてきた。
「飲み物は、どちらに行けば貰えるのか教えて頂けますか?」
 これにエルは返す。
「休憩用の飲み物や食べ物を用意されている方が居たので、貰ってきたんです」
 それはジエンや綾音のことだ。
 エルは、少し離れた場所でバテているアキと、作業の手を止めないミナに視線を向けたあと返した。
「全員の用意をされているので、人手が足りていないようでした。ですから手伝いに行こうかと思うのですが、一緒に行きませんか?」
 これにカインは、作業の手を止めないミナに心配するような視線を向けるエルの事情を察したのか、賛同するように返す。
「それが良いですね。私はアマツカ氏と一緒に向かいますが、そちらはどうしますか?」
 これにエルは、ミナに麦茶を渡し言った。
「ミナ嬢、一緒に行ってくれるかい? 手が足らないんだ」
「分かりました」
 気遣うようなエルにミナは頷き、冷たい麦茶を飲み干した。

 ちょっとした小休憩を挟んだりもしながら作業は続いていく。

「ショウ、もうちょっと奥に挿し込んで」
「これぐらいか?」
 スクリューの軸を船内に挿し込む役に就いていたショウとミニュイの2人は、協力して指定の場所に軸を移動させていく。
「良いわよ。そのままそのまま。はい、ストップ」
 図面を確認しながら指示を出していたミニュイは、軸に描かれていた印と合う場所に細かな修正をすると、軸がひとまず動かないように仮止めする。
「こっちは、これで良いんだよな?」
「ええ。あとは蒸気機関と組み合わせていくだけね」
「そうか。なら、こっちの作業が終わったことを外に知らせないとな」
「ええ。じゃ、行きましょう」
「ああ……って、ちょっと待て」
「なに?」
「いま胸元に隠した図面を出せ。持ち出し禁止と言われたろ」
「良いわよ。じゃ、取って」
「自分で取れよ! 俺だと取れないだろ!」
「別に良いわよ?」
「そっちは良くても俺は良くない!」
 などと2人がやり取りしている間、外のスクリュー部分を担当しているロゼッタとクロエの2人はスクリュー部分を調べるように検分していた。
「これも魔術道具の一種なのかしら?」
 ロゼッタはスクリューを触りながら感想を口にする。
「材質は全部、ヨハネの使徒の残骸からでしょうね。でないと、この大きさでこの軽さはあり得ないでしょうし」
 スクリューを触り続けながらロゼッタは呟くように言う。
「少し削って持って帰って調べたい所だけど」
「それはダメだから、ここで調べられるだけ調べてみましょう」
 クロエはロゼッタの言葉に返すと魔力探知を使ってみる。
「水気の魔力が、微量だけど流れてる。魔力を流すことで何かしらの効果が発動されるのかも」
「蒸気機関の動力源に魔結晶を使うと言ってたし、これもそうなんじゃない?」
 ロゼッタの言葉にクロエは頷く。
「水流操作の魔術が発動するってことかも。実際の効果を見てみたいけど」
「出来あがるまで、おあずけね」
 2人は船の構造や施されている魔術効果の推測をしながら作業を続けていった。

 着々と船は出来ていく。
 心臓部ともいえる蒸気機関は、トーマスを中心にして浄化師達の意見を取り入れながら組み上げが進んでいた。

「ショーン、回転部品を磨いておいて」
「回転部品ですか?」
 レオノルの言葉にショーンは確認するように聞き返す。
 これにレオノルは説明するように返した。
「いくら馬力があっても回転が鈍ければ動きは鈍くなっちゃうから。各部品のメンテで効率化を図るしかないんだよ」
「『そうだゾ!』」
 横合いから口を挟んできたのはトーマス。
「『だから娘っこの計算通りの出力を維持するために、メンテ要員は増やすことにしタ!』」
 これによりいつでも最大速度を誇る船が用意される下地が出来ることに繋がった。
「ドクターは、この後も計算を続けるのですか?」
 ショーンは磨く部品を探しながら尋ねる。
 これにレオノルは楽しそうな表情を浮かべ返した。
「うん。やりがいのある計算だよ」
 はしゃぐレオノルをショーンは見詰めたあと、黙々と部品を磨いていった。
 そうした浄化師のアイデアや行動で船の運用や性能などが変わったのは他にもある。
「『お前何してるンダ!』」
「部品を組み合わせられないか考えています」
 パズルの要領で部品の組み合わせ方について考えメモを取っていたザックにトーマスが声を掛ける。
「『ちょっと見せてミロ!』」
「はい、どうぞ」
 指令中という事もあり敬語で返すザックの手からメモ帳を取ると、トーマスは真剣な表情で見続ける。
 そしてセレストを呼んだ。
「『おい、娘っコ! ちょっとこれを見ロ!』」
「ん~、なに?」
 最初は軽い気持ちで見ていたセレストだが、途中から真剣な表情になって返す。
「なるほどね……元から同じ規格の部品を使うんじゃなくて、違う部品を組み合わせて望む規格の部品を作るやり方か」
「『ヨハネの使徒の残骸は、毎回同じじゃないかラナ! こっちはその事に慣れ過ギテ、毎回違う規格の部品で作るのが当たり前だと思っちまってたかラナ!』」
 2人が話しているのは、製造する部品が毎回異なるので、それをそのまま使うことに慣れていたという事だ。
 つまり同じ蒸気機関の乗り物があったとしても、それぞれ互換性に乏しいという事でもある。
 だがザックのアイデアのお蔭で、異なる部品の組み合わせによる同一規格部品の製造が考えられ、それが故障の際に迅速に修理が出来る下地に繋がった。
「うん、大したものだ」
「……そうか?」
 恥ずかしそうに返すザックにフィデリオは言った。
「やはり可愛らしいね」
「誰がだ!」
 いつものようなやり取りをする2人だった。
 他にも浄化師のアイデアにより機能が付加されたものもある。
「魚介類の嫌がる物を塗料に混ぜてみるのはどうだろうか?」
 エフドは航行の安全性を少しでも高めるために提案する。
 これにセレストは返す。
「塗料に塗るのは難しいかなぁ。水中だから溶け出して流れたり、フジツボとかで覆われる可能性があるんだ。でも嫌がる何かを使うアイデアは良いと思う」
 考えるセレストに返したのはトーマス。
「『なら音を流したらドウダ』」
「それはいけるかも。海中に向けて不快な音を出す道具や、魔術を使えば出来るんじゃないか」
 エフドのアイデアにより、海洋生物や、海洋生物の特徴を強く残す低スケールのべリアルを遠ざける機能も付加されることになった。
 またエフドは装甲板の強化に関するアイデアも出しており、それも採用された。
「ねぇ、おっさん」
「なんだ?」
「これだけアイデア採用されたなら、報酬上乗せしてくれるかしら?」
「……だと良いがな」
 ラファエラの期待に静かに返すエフドだった。 
 こうしたアイデアが形になるのは地道に作業をしてくれる仲間の浄化師達が居ればこそ。
「かーくん、部品の磨き終わったよ」
「お疲れ様です、アユカさん」
 持参の工具も使って一生懸命に作業を続けるアユカを楓はサポートするように手伝う。
 その仕事は丁寧だ。
「かーくんのお蔭で、作業が早く進んでるよ」
 作業ごとに、アユカ以上に勉強してきた楓は手助けをしていた。
「……これくらい、当然ですよ」
 アユカのために。
 楓にとって、そのための苦労ならどうという事はない。
 その苦労を、アユカは感謝するように受け取った。
「ありがとう、かーくん」
 心からの喜びを伝えてくれるような、朗らかな笑顔を浮かべるアユカに、楓は柔らかな笑みを浮かべ返した。

 こうして作業は続き船は完成した。
 その打ち上げをするようにジエンと綾音は軽食と飲み物を持って来てくれた。

「どうぞ。数は十分にありますから、好きなのを選んでください」
 ジエンは飲み物を配っていく。
 それは果物を使ったソフトドリンクだ。
 井戸水で冷やしておいた色々な果物、スイカや林檎、オレンジやメロンなどを贅沢に使いジュースにしている。
 ひんやりとして甘く、ほど良い酸味の物もあり美味しい。
 喉の渇きを潤した所で、次は軽食を。
「いくつか種類がありますから、好きなものを言って下さい」
 綾音が涼やかなガラスの器に盛っているのはフルーツポンチだ。
 井戸で冷やした果物を適度な大きさに切ってシロップを注いでいる。
 好みでナッツ類も入れられる。食感と味の違いが嬉しい。
「みんな喜んでくれてるね、綾ちゃん」
 皆に一通り配り終えたジエンは綾音に言う。
「見た目も綺麗で良かったよ。料理の勉強の成果が出てるね」
 以前2人で食堂のメニューになる料理を作ってから、綾音は料理の勉強をしていたのだ。
 ジエンの言葉に綾音は笑顔を浮かべ返す。
「一緒に食べましょうか、ジエンさん」
 こうして2人は皆と一緒に船の完成を祝うように食事を楽しんだ。

 完成した蒸気船。
 それを見詰める者の中に、メリンダが居た。

「この船のお蔭で、きっと今よりも助けられる人は増えるね」
「そうだろうか?」
 サイラスは疑問の声を上げる。
 メリンダに言われて造船作業をこなしたサイラスだが、直接べリアルやヨハネの使徒を倒すことに比べて実感が湧かないのだ。
 そんな彼にメリンダは言った。
「間違いないよ。だって、今まで届かなかった人の所に、助けるための手を伸ばすことが出来るようになるんだから」
 この言葉にサイラスが何か返すよりも早く話を聞いていたセレストが言った。
「助けることができるよ、確実に」
 浄化師全員に伝わるよう続けて言った。
「この船は始まりだ。海のせいで訪れることの出来なかった場所、関われなかった人達、その全てに手が届くようになる。
 海を渡ることができれば、どこにでも行けるんだ。いずれ、海を越えた場所での指令も出るようになると思うしさ。だから、期待してて」
 その応えに、サイラスは未だ見ぬ敵を思うように拳を握りしめた。
 そして浄化師達はそれぞれ思うことがあるのか無言になる。
 彼ら、そして彼女達の想いが、これからどう形になるかは分からない。
 けれど確実に、今日作り上げた船が想いを形にする一助になるに違いない。
 そう思えるほどの成果を見せた浄化師達だった。




 成功判定 : 成功

蒸気船の造船
(執筆:春夏秋冬GM)