~ プロローグ ~ |
昏い夜天に、真っ赤な真円が浮かぶ。 |
~ 解説 ~ |
【目的】 |

~ ゲームマスターより ~ |
【味方】 |

◇◆◇ アクションプラン ◇◆◇ |
|
||||||||
![]() |
アネモイちゃんにヴリトラの近くへ転移して貰って カグちゃんを守りながらヴリトラ撃破を目指す ルーノ君とカグちゃんのどちらかがやれればいいのだ、それまでがんばろう ヴリトラ撃破後 フィーニスを止める人達の護衛 無防備になると言うなら、いくらだって敵を倒す それが危険だと言うなら、いくらだってなぎ倒す 脳筋?なんとでも言え そうやって今まで道を切り開いて、此処に居るんだから! 「クソみたいな国だけど、此処が僕の生まれ育った国だから」 壊させるわけにはいかないんだ! フィーニス破壊後 まだ抵抗するベリアルが居るなら倒す 第三勢力が来たらセルシアの強化頼む ……まだ来るなら、ぶち倒すだけだよ… ダヌ様MP回復お願いします |
|||||||
|
||||||||
![]() |
ヴリトラ担当 ダヌ神に願うはMPの回復 魔法少女4人もダヌ神にMP回復を頼め 回復技使えるなら2人は其方メインに 手が空いてるなら殺せ アネモイに転移してもらい、魔法少女4人連れて、基本は周囲の周辺のベリアルの駆逐 ヴリトラへ攻撃したところで特殊能力で防がれる…なら! 「術師連中が致命攻撃をするまでの辛抱だ!」 攻撃は、最大の防御! なんだ悪いか!現状これが最善だろう?! フィーニス破壊時 フィーニス周辺のベリアル<第三勢力 斬り倒せというなら、いくらでも相手になってやるぞ 第三勢力(又は残存ベリアル)戦 セルシアの強化は受ける あぁ…殺せばいいのか今度はなんだ? 壊せばいいのか?あぁ、やってやろうじゃないか |
|||||||
|
||||||||
![]() |
ヴリトラ対応 撃破後ルーノはフィーニクス ナツキはベリアル・使徒対応 ■ヴリトラ ルーノは転送前に禹歩七星、ブリトラ行動終了後全力ダッシュで接近 守備面は仲間を頼り魔方陣構築 ナツキは魔法陣構築者を援護し庇う 敵が多ければ黒炎発動、敵や溶岩炎岩を特殊能力と氷結斬の凍結で止める ■フィーニクス 接触する仲間を護衛、回復 敵接近を禁符の陣で妨害、ネメシスあわせ庇う エレバウルはヘスティア+禁符・慈救咒で撃破 ■ベリアル、使徒 常に味方や武士団、魔女等NPCと共闘 ドッペル変化の飛竜に乗り空から敵捜索、急襲 フィーニクス対応に影響するエレバウルやスケール5の撃破を優先 要塞型はネメシスで砲撃反射 ヘスティア+ドッペルで接近し反旗の剣 |
|||||||
|
||||||||
![]() |
なんて、数… 敵の数に軽く目眩 来てくれたリア姉様に支えられ、足に力を入れ直し もう、終わりに、しましょう… 皆さんを守って… ベリアルからは魂の解放、を… リア姉様は、オクトの皆さんと一緒に、お願い ダヌ様には2人ともMP回復を リチェちゃんと一緒に禹歩七星を皆さんに 魔術真名詠唱後、テュポンの方へ転移 ドッペルのルゥちゃんにワイバーンになって貰って乗り 傷ついた味方への回復を ベリアルが寄ってくるなら上空から火界咒を テュポンが倒れた後は使徒が出てくればそちらへ そうでなければベリアルの淘汰へ 使徒もベリアルも、ない、平和を… コッペリアさん できれば貴女とも、手を取り合いたかった ブリジッタさんとは、それができたのだから… |
|||||||
|
||||||||
![]() |
どうか、どうか 傷つく人が一人でも減るように わたしも全力を尽くすわ 魔術真名詠唱 ダヌ様にはふたりともMP回復を 魔導書ちゃんへ 叶:両名ともフィーニスの迅速な撃破 ネ:ウコンバサラ反射 ヘ:フィーニス突入前 テュポン対応 シアちゃんと協力して近くの仲間へ禹歩七星 ワイバーンになった ドッペルのカノンちゃんに騎乗 回復と鬼門封印で支援 チャンスがあれば禁符の陣での拘束 テュポン戦後はフィーニスへ 突入前に仲間の回復 接触担当 シリウスの手が血に染まっているのに気付き その手を握る コッペリアさん わたしは逆だと思う 悪意も弱さも 相手を想う気持ちがあれば乗り越えられる 完璧じゃなくていい お互いが助け合う世界 わたしは今を そんな未来に繋ぎたい |
|||||||
|
||||||||
![]() |
ベリアルの大義、か …どうせ奴らとは目指す先も議論も平行線だ 語る言葉は要らない、か ヴァーミリオン及びオクトに協力を仰ぐ ダヌ様にはMP回復を願う テュポン対応 リングマーカーで可能な限り命中を上げ削った所に蜃の矢弾を撃ち込む これが俺達の答えだ とっとと果てろ! テュポン撃破後はオクトの連中と共に第三勢力へ カレナより先にデウスマギアにランキュヌで耐久を下げ、エナジーショットで削っていこう 生憎、毒親は俺の両親だけで腹一杯なんだ これ以上の束縛されて管理される愛なんて生憎趣味じゃない お断りだ!とっとと失せて地獄に落ちろ!ベリアルども! |
|||||||
|
||||||||
![]() |
・テュポン戦闘後フィーニスへ ・ダヌ様加護:HP ・セルシア黒炎:なし ・魔導書:テュポン戦 大きな一戦だけど、不思議と怖くない マヤ(人形)と、そしてイザークさんがそばにいるから はい、行きましょう。 魔術真名詠唱 テュポン: スキルで味方の援護に入る 味方に危険が迫った時はかばいに入る(魔道書の反射使用) イザークさんのスキルに合わせて攻撃 フィーニス:(接触) 覚悟はしていたけれどひきずられる 世界を守る為なら…任務の為なら命を落としても いいえ…それだけではなくて イザークさんとクリスマスのあの日に約束したから 私は、あなたと、共に歩んでいきたい! プロ…イ、イザークさん!最後まで気を緩めないで下さい! |
|||||||
|
||||||||
![]() |
令花と和樹はフィーニス接触に回る それまではヴリトラ戦へ ヴリトラ撃破後は、フィーニス到達までのガードも頑張る フィーニスでは接触してRAN変動を引き受ける 黒炎は持ってないが RAN値が参入当初から動いてないので こういうときこそお役に立ちたい 以前デイムズ卿とRAN変動を半分こした、師匠のラヴィさんを見習って。 上記理由により 和樹は黒炎担当イザークさんを特に厳重にガード 叶花とヘスティアはヴリトラ戦の防御に ネメシスは致命的ダメージに使用 令花 ルーナープロテクションによるサポート 戦況を観察し仲間に助言 「大攻撃来ます!」 和樹 絶対防御の誓いで仲間への攻撃をカバーリング カバーした仲間を気遣う声かけ 「ケガないか?」 |
|||||||
|
||||||||
![]() |
ダヌ様の加護はHP 魔術真名詠唱後、テュポンの方へ転移してもらったら 魔女のスカイウォークで空中に スポットライトでテュポン以外を引き付け、蜃の矢弾の射線を通しやすくする 今にあなたを撃ち落とす一射がくるわ 覚悟しなさい、偽トール テュポン、ヴリトラ撃破後はフィーニス対応組の護衛に スポットライト、戦踏乱舞で護衛組を支援したら 反転境界にギリギリ入らないくらいの距離で妨害を迎撃 フィーニスに接触する味方に寄ってくる敵の数を減らすことを優先 セルシアの黒炎は受ける 魔導書は全部ここで使用 叶花の能力は回避に ネメシスはもしもの保険に コッペリアが何か言ってきたら唾を吐いてあげるわ あなた達のやってることは、余計なお世話なのよ |
|||||||
|
||||||||
![]() |
最早、現実味がない光景ね やりきってやろうじゃないの! NPC グリージョ(双剣による近距離戦闘) ケイト&ペトル(銃による中距離戦及び能力強化) エフェメラ(禁術による範囲魔法) 全員にダヌの護衛を要請 行動 ダヌ:HP回復 魔術真名詠唱 対ヴリトラ戦 狂信者・陰陽師の味方を攻撃しようとする敵を優先して撃破 撃破優先順位はスケール3>4>5、1、2 魔法陣構築時、少しでも敵の目を引き付けるべくJM8 対フィーニス 黒炎担当者の護衛 スケール5の攻撃はネメシスで反射 撃破優先はヴリトラ戦と同じ 妨害は必ずしてくるはず…! 特殊能力持ちは早めに撃破 いざとなれば自身の身を盾に |
|||||||
|
||||||||
![]() |
サクラ:あれぇ? キョウ:ギガスは本物ではありませんね。 サクラ:そんなこと気にしてないわよ。 キョウ:では何に疑問を? サクラ:寂しくないのかし キョウ:時間の無駄では? 【行動:テュポン】魔術真名詠唱 サクラ 初めて会った三強だから最後の挨拶くらいしたいわねぇそんな暇なさそうだけど。 皆飛ぶのが好きねぇ。そんなに私達をちっぽけな存在だって見降ろしたいのかしら。 DE9命中力を上昇。地上に落としてくれるみたいだから確実に狙いましょう。 今回はキョウヤが私に専念してくれるようだし威力を重視でDE12 忘れた頃(1R後)に弾きましょう。 邪魔をしてくる有象無象がいればDE15でまとめて攻撃。退場して下さいな。 使徒?え…… |
|||||||
|
||||||||
![]() |
アンタ達のやり方で、本当に優しくて暖かい世界が来るのか? もしそうだとしても、失った過去を無かったことにすることはできない 今いる命は消させない 魔術真名詠唱 まずはヴリトラへ マリエル、マリーも共に転移してもらい、イザナミ召喚までの時間を稼ぐ 転移魔方陣構築中の味方に近付く敵のうち、なるべく高スケールを優先して攻撃 マリエル達には支援と攻撃をしてもらう 可能ならシャドウバインドでの足止めも頼む テュポン、ヴリトラ撃破後は残りのベリアル、第三勢力が現れたらそちらにも対応 フィーニス対応組に近付けさせない セルシアの黒炎は受ける 魔導書叶花、ネメシス、ヘスティアもこのタイミングで使用 叶花の能力は命中 |
|||||||
|
||||||||
![]() |
ダヌ:俺はHP、ラファエラはMP ヴリトラを倒す魔方陣構築者、フィーニスを破る黒炎使いをGK14で守る。構築者をヴリトラから庇う際はネメシス使用。 ラファエラはヴリトラ以外の敵を攻撃する。集団にはDE15で。フチュールプロメス、ヘスティアはフィーニス戦で使用。強化して多くの敵を狩るためだ。 ヴリトラの炎岩を空中で撃って破壊できるといいが。DE8が役立つか? |
|||||||
|
||||||||
![]() |
私達は転移後、ヴリトラへと向かう方々を警護、支援します 皆さんが少しでも集中でき確実に早く倒せるよう、手助けとなりましょう 魔術真名を詠唱後、ヴリトラ周辺に来る敵に対処します 私は黒炎解放、最初から本気で立ち塞がります 私は後の先を狙い、疾風裂空閃で敵の初動を押さえつつ攻撃。ステラは私に連携しパイルドライブを撃ち込みます また、ヴリトラのフルンティングが襲い来る場合は、届くかぎりの仲間を化蛇の水流に包み、炎から守ることを試みます ヴリトラ撃破成功後は、第三勢力(いなければべリアル残党)の対応に向かいます セルシアさんの黒炎を二人とも使ってもらい、更にヘスティアさんの力で覚醒し使徒を確実に破壊していきます |
|||||||
~ リザルトノベル ~ |
時が、迫っていた。 「気に入らないなぁ」 「何がだ?」 背後から聞こえた『レオノル・ペリエ』の声に、『琥珀姫』は振り返る事もなく問い返す。 「決まってるじゃないか。ベリアルの動向だよ」 薔薇十字教団本部。地下錬成室。 他の魔女と共に作業を続ける姫の背に向かって、レオノルは続ける。 「あまりにも、情報が筒抜けだ。意図してる。奥の手のカモフラージュって言うなら、分かるよ。でも、そんな様子すらない」 「不自然じゃないだろう?」 笑い混じりの声で答える、姫。 「奴らの目的は、もはや人を狩る事じゃない。神に代わり、世界を継ぐに足るかどうかを試す事だ。言っているのさ。『晒してやる。言い訳はさせない』とな」 その言葉に、口を尖がらせるレオノル。 「だからさ。随分と上から目線じゃないか。神の傀儡が、何様だっての」 「奴らにも、大義があるからな」 宥める言葉に、別の声。 「ベリアルの大義、か」 傍らでランキュヌの手入れをしていた、『ショーン・ハイド』。 「……どうせ奴らとは、目指す先も議論も平行線だ」 覗くスコープの向こうに見るのは、穿つべき者の姿。 「語る言葉は、要らない」 肩越しに見て、姫は目を細める。 「いつぞや、私がお涙頂戴の醜態を晒した時。君達は私の泣き言を切って捨てた」 目を向ける、レオノルとショーン。 「舌を巻いたよ。君達の頑固さにはな。だが……」 回る、立体魔方陣。虹色の霧が、凝縮していく。 「それは紛う事のない『武器』だ。情にも、空気にも染まらず。信じた道を、貫ける。導としての、牙だ」 固形化していく霧。歪む空間が、七色に染む。 「他の子達は、どうにも優しいに過ぎる。美徳だが、流されて道を外れる危険も孕む」 形を成す。小さな、虹色の弾丸。 「だから、もしもの時は君達が彼らを穿て。貫いて、引きずり戻せ。それがきっと、君達が在る意味だ」 「……まるで、遺言だな」 「やめてくれない? 縁起でもない」 「そうか? まあ、歳を取るとどうしても辛気臭くなるからな」 苦笑して、手を伸ばす。掴む、弾丸。 「ほら」 放る先は、ショーン。キャッチする彼に、言う。 「『蜃の矢弾』。大人の事情で、一発きりだ。外すなよ?」 「言われるまでもない」 握り締め、踵を返す。ついて行こうとしたレオノルに、声がかかる。 「レオノル」 「?」 振り向いた彼女に、姫は語る。 「後で、私の所においで。一度、論議などしてみたい。見合う相手がいなくてな。君なら、不足はない」 ちょっと沈黙して、不敵に笑む。 「いいよ。滅茶苦茶に論破してあげる。だから……」 言い残し、出ていく背中。 見送り、琥珀の姫は思う。 「伝えた所で、嫌がらせにしかならないが……」 自分が、『そうなりえる』事は自覚済み。だから。 「想うくらいは、な……」 守れなかったモノ。 繋げなかったモノ。 今度こそ。 呼びかける声に、『ディアナ』は目を開く。 見下ろす、『ルーノ・クロード』と『ナツキ・ヤクト』。 「……お久しぶり……」 横たわったまま、挨拶。起き上がる事は、出来ない。 「具合、どうだ?」 「いつも通り、かな……」 悲しげに曇る、ナツキの顔。 ディアナの身体は、生物としての機能をほぼ停止していた。 身体の殆どは動かず、寝台の上で微睡んで過ごす。 イザナミを取り込んだ、副作用。 荒ぶる『死』を抑制する為、彼女の身体は『生』を消費し続ける。 治るのか。 このままなのか。 死が、人にまつろう事はない。 「聞いてはいたけど、酷いね……」 奥から聞こえた声に、瞳を向ける。 『ヴォルフラム・マカミ』と『カグヤ・ミツルギ』。 説明する、ルーノ。 「今日の戦いの事は、聞いているね? 敵の中に、絶対防御の者がいる。私達の力だけでは、堕とすのは難しい……」 少し、躊躇う様に。 「イザナミの力を、貸して欲しい」 滲む苦渋。ナツキが、せめてもと言葉を添える。 「本当は、もう……使って欲しくはなかったんだけど……」 「いいよ」 酷く、アッサリと。 「それは、彼女も望んだ事。証明してあげて。人の未来を。死が、それに尽くせる事を。それが成されて初めて……」 ――『天姫』は、救われるのだから――。 ナツキがまた、唇を噛む。 あの刹那。 炎雷と化してイザナミを封じた後、彼女の御魂は消えた。 かつての神話を、なぞる様に。 「わたしは、行けないけれど……」 微笑む、ディアナ。 「つないでくれるのね? ルーノ兄さま。そして……」 朱の瞳が、映す。 「カグヤ姉さま」 カグヤとヴォルフラムが、驚く。 「知っているの……? 私の、事……」 「僕達の事、話した?」 黙って首を振る、ルーノ。 「イザナミと一緒に、記憶や知識も移った。 彼女は、覚えてた。出自、経歴、思想、願い……全部。全部」 驚きはなかった。ただ、彼女らしいと。 「ミツルギ……。彼女と、同じ地の血脈……。継ぐ人が、浄化師として、陰陽師として、ここにいる。必然だね……」 気づけば、カグヤの前を舞う一匹の黒蝶。 「告死蝶!」 引き離そうとしたヴォルフラムを、カグヤが止める。 嬉しげな、ディアナ。 「掴んで。道が繋がる。願えば、開く。貴女自身が、陣。蝶と、なる」 「……大丈夫なの?」 心配そうな、ヴォルフラム。 「どうかな?」 クスクスと、揺れる。 「死が通るの。身体の底を。魂の中を。爪を、立てて。無事かもしれないし。壊れちゃうかもしれないし」 以て、問う。 「どうする?」 躊躇いがないとは、言わない。 怖くない筈も、ない。 けど。 それでも。 「――――っ!」 蝶を掴んだ瞬間、走る冷たい痛み。開いた手。浮かぶ、朱の陰陽図。 虚神の、焼き印。 「使い切り。一度だけ」 ディアナは、言う。 「色んな人が、いるよね。良い人。悪い人。証明して。生きる事に、良いも悪いもないんだって。わたしに、教えて」 流れる視線。かつて、説いた彼に。 「……ね? ルーノ兄さま……」 青い燐を握り締めたルーノが、頷いた。 「来たね」 『メルキオス・ディーツ』の声に、『レム』と『クォンタム・クワトロシリカ』が見下ろす。 エントランス中央部。転移方舟を見下ろす回廊。方船のゲートが開き、中から沢山の人が。 「アレがアンタの同胞か?」 「そーだよ。『蒼衣の民』。悪しき終焉の時至り、尊き使命に殉じんが為……ってね」 レムの問いに答えるメルキオス。知った顔を見て、笑う。 「おやおや、後進指導のじいちゃんまで来てるよ。女子供と幼子抱えた母親以外、ほぼ全員?」 「役に立つのか?」 「ベリアルにトドメを刺す事は出来ないけどね。束になれば、ヨハネの使徒をボコすくらいはね」 聞いていたクォンタムが、複雑な顔をする。 「子供がいる者まで巻き込んでしまうのは、不本意だがな……」 「負けたら、どの道オシマイだからねー」 方舟は稼働を繰り返す。 増えていく、人々。 世界中から、集う。かつての諍いを超え。結ばれた絆を辿り。 「……壮観だねぇ……」 呟くメルキオス。見つめるレムに、クォンタムが言う。 「良く見ておけ。この人々の姿を」 「…………」 「確かに人は悪しく、恐ろしい。けれど、それに反するだけの光も、確かに持っている」 「…………」 「お前の傷が、癒えるとは思わない。否定する事も、出来ない。ただ、覚えていてくれ」 「……うっせーよ。男女」 ただ、返す。酷く。酷く、つまらなそうに。 何処かで、聞こえた。 懐かしくも憎い、あの調べ。 「――っ!」 怖い顔で背後を見た『ラファエラ・デル・セニオ』に、『エフド・ジャーファル』は怪訝な視線を向けた。 「どうした?」 「……嫌な気配が、したわ」 「ああ……。琥珀姫に引っ張られて、知らん魔女が大勢来てるからな」 相方の魔女嫌いを知っているエフドは、やれやれと溜息をつく。 「気持ちは分かるが、八つ当たりはよせよ。貴重な協力者だ。内輪揉めは御免だぞ?」 釘を刺す彼に、ラファエラは首を振る。 「いいえ、他の魔女じゃない。いるわ。『アイツ』が」 「アイツって……『アクイ』か!?」 頷く彼女。絶句する。 『アクイの魔女』。ハロウィンの夜に現れて、人を殺める魔女。かつて自分達に、敗北の痛みを刻み込んだ存在。 (婆さんめ……アイツまで抱き込んだのか……?) アクイは、強力かつ危険。まさか、手を出すとは。 (『怨讐派』の連中も引っ張り出すとは言っていたが……) 力尽くか懐柔か。どっちにしろ、まともな奴に出来る事じゃない。 心強いやら怖いやら。 「おじさん……」 悩むエフドに、声。 「私、アクイの魔女の事、諦めてないから。創造神に報いを受けさせて、大きなプロジェクトが終わったら、次はあいつよ」 だろうな、と思う。彼女の気質上、当然の事。なら、次の言葉も決まっていて。 「それに協力してくれるなら……」 そら来た、と溜息。まあ、断る理由もないと思った瞬間。 「何でも、してあげる」 全く意図してなかった言が飛んできた。 誘っている様な言い方に困惑し、狼狽し。それでも何とか立て直し。 「……い、いい条件だ。そのセリフ、忘れるなよ」 「ええ」 軽く微笑む顔が、いつにもまして綺麗だと思った途端。 「駄目だよ」 全く関係ない声が、後ろから聞こえてきた。 何か手伝いでもしてたのだろう。大きな荷物を抱えた『カレナ』が、真面目な顔でこっちを見ている。 「ダメダメ。戦争の前にそう言う話。死亡フラグってヤツだから」 そして、『めっ』とか言い残して歩いていく。ラファエラ、無言のまま弓を取る。 「あれ? ラファエラさん、どうかした……って、何で撃ってくるの!? 危ない! 何かした!? ボク、何かした!?」 逃げ回るカレナを追いかけながら、撃ちまくる。リンクマーカー使ってるあたり、本気。 「やれやれ……」 悪い気などする訳もないけど、先回りされている様な敗北感もあって。 モヤモヤしてると、今度は別の方向から笑う声。 見れば、庭木の枝に腰かけてニヤニヤしている『セルシア』の姿。 「……役職上、気配を消すのが得手なのは知ってるが……。もう少し使い所を考えたらどうだ?」 「何言ってるの。役得よ、役得。お陰で、良いモノ見れたし」 そう言って飛び降りると、『おめでとうございます』等と言って頭を下げる。茶化す気、満々。 「でもホント、今夜は良いモノが沢山。皆、彼方此方でフラグ立てまくり」 「……見て回ってたのか。お前」 「だから、役得だって」 邪悪。この間、甘光とやらで特攻喰らったと聞いたのだが。 「先がどうなるか分からん。遺したくない想いがあるのは、人情だ」 「それもそうかぁ。なら、わたしも一発立ち上げとくかなぁ」 「?」 「わたくし、セルシア・スカーレル。此度の戦が終わったあかつきには、身と心捧げしカレナ・メルアと正式に結婚いたしまぁす!」 高らかに、宣言。遠くで、『はーい』なんて返事する声も聞こえたり。 「……最凶のフラグだろうが? それは……」 不敵に笑う、セルシア。 「フラグ? 上等じゃない。そんなの、へし折ってナンボでしょ?」 ツツッと近づき、エフドを見上げる。 「ずっとそうして、生きてきた。昔も。今も。そして、これからも」 深緑の瞳。その奥に見えるモノ。昏い路地。ゴミ溜まり。毒と理不尽に塗れた暗がり。 「そうでしょ? 『同胞』」 ああ、そうだった。俺達は、あの地獄を生き抜いてきたのだ。 「わたし達は、これから。『もしも』なんて、考える必要もない。貪りましょう。存分に」 映る自分の顔も、また不敵に笑んでいる。 「ああ、違いない」 貪欲たれ。 それもまた、生きる術。 ◆ 晴天だった空が、真っ赤に染まる。 閉じた結界。 門前に集結した人々が見つめる先。 地平の向こうを、塗り潰し。 沈黙のまま。 煉獄の如き、使命を纏い。 『群魔の軍勢(レギオン・アーミー)』。 顕現。 「なんて、数……」 地を覆いつくすベリアルの群れに、軽く目眩を起こす『アリシア・ムーンライト』。支えた『エルリア』は、言葉でも彼女を支える。 「しっかりしないとダメよ。貴女には、守らなきゃいけないモノがあるんでしょう。私も、一緒に護るから」 「は、はい……。リア姉様……」 答えて、足に力を込める。 「よくもまあ、こんな数を揃えたもんだ……」 先を越された『クリストフ・フォンシラー』が、誤魔化しを兼ねて呟く。 「話には聞いていたけど、想像以上ね……。それに……」 広がる静寂。何かを、待つ様に。 「……物凄く洗練された統率……。本当に、ベリアルなの?」 自分の知る姿とは、あまりにかけ離れたソレ。 「心だよ」 「心?」 「ああ。彼らは心を持つまでに進化した。今までの様な、獣じゃないんだ」 言葉の意に、息を飲む。 「でも……」 重くなる空気を和らげる様に、アリシア。 「それも、もう、終わりに、しましょう……。皆さんを守って……。ベリアルからは、魂の解放、を……」 戦い。悲しみ。痛み。後悔。 「使徒もベリアルも、ない、平和を……」 もう、あんな思いは。 「リア姉様は、オクトの皆さんと一緒に……。お願い……」 「大丈夫よ。私達は、その為に来たのだから……」 妹の願いに、姉の顔で答える。 「そうだね、終わりにしよう」 頷く、クリストフ。 「エルリア、来てくれて有難う。危なくなったら、退避してくれよ? 俺達は……」 紅く濁る、空を見る。 「大物をやったら合流するから、それまで無事で」 「当然よ」 笑って、答える。 「私は、シアの花嫁姿を見なきゃいけないんだから」 一瞬固まり、綻んだ華。 皆は誓う。その願い、必ず。 「最早、現実味がない光景ね。やり切ってやろうじゃないの!」 「……アジ・ダハーカの時の使徒の群れが、可愛く見えてきたな……。だが、必ず止めてやる」 息まく『ラニ・シェルロワ』。いつもならブレーキ役になる筈の『ラス・シェルレイ』も、昂ぶりに震える。 「二人とも、少し落ち着くといい。足元をすくわれかねん」 見ていた『エフェメラ』が忠告するが、ビビりな彼。目の前の大軍を見て、もう真っ青。 「そうだよ、ラニちゃん。アタシらがバッチリフォローするから。緊張しなくて大丈夫!」 「そうだ。リラックスだぞ、二人とも」 明るい口調で二人を鼓舞する、『ケイト』と『ペトル』。そんな二人には、『グリージョ』が釘を刺す。 「お前達も、気を付けろ。今までのベリアルではない上に、高スケールが多数だ。油断せずとも、危うい。もし、我らが死ねば……」 ラニとラスを見つめ、言う。 「兄弟達が、またあの苦しみを負う」 「グリージョさん……」 「そしてそれは、ラニちゃん達も同じだ」 「へ?」 「お前達の悲しみ、我らにも背負わせてくれるな。しっかり、生き延びろ」 「……分かってるって!」 「肝に銘じておくよ。兄弟」 頷き合った、その時。 空気が、揺れた。 ――お揃いになったようですの。子羊の皆様――? 「あらぁ? この声……」 「コッペリア、ですねぇ……」 響いた声に、『サク・ニムラサ』と『キョウ・ニムラサ』が空を仰ぐ。 「念話ね……」 「恐れをなして降伏……なんて事は、ないか」 『リコリス・ラディアータ』と『トール・フォルクス』も、次の言葉を待つ。 「『最操のコッペリア』だな。ここに至って、何の用だ?」 応じたのは、『ヨセフ・アークライト』。コッペリアの声が、愉しそうに揺れる。 ――これはこれは。賢人の誉れ高き、ヨセフ・アークライト様でございますの。是非とも一度、御言葉を交わしてみたかったですの――。 「こちらも聞いているぞ。三強最弱でありながら、最凶。奸計長けし幼貌の魔姫、とな。最も、俺は面と向かうのはご免被るが」 ――あら、つれない――。 「今更、茶を注ぎ合う道理もないだろう。用件があるなら、手短に話せ。夕食の予約に、間に合わなくなる」 胆の太さを表す冗談。返す声は、愉快に極み。 ――あら、それは大変。では、手早く要件をお伝えしますの――。 含み哂う声。言葉を紡ぐ。 ――最後通告――。 「ほう?」 ――人が歩む道は、正しく破滅。負の連鎖の果て、行き着くのは万生残らぬ絶望のみ――。 「それで?」 ――委ねなさいな――。 空気が、張り詰める。 ――さすれば、苦しみも痛みもなく。導いて差し上げますの。争いも、憎しみもない理想郷。全てが主の慈愛の元、微睡みの幸福に包まれる、完全なる世界へ――。 沈黙。 そして、誘う。『――如何――?』と。 「だ、そうだ」 ヨセフが、問う。 「どうする? 皆」 「……アンタ達のやり方で、本当に優しくて暖かい世界が来るのか?」 聞こえた声は、『ベルロック・シックザール』。 「もしそうだとしても、失った過去を無かった事にする事は出来ない。今いる命は、消させない」 「僕はね、上から目線で押し付けてくる親は大嫌いだよ。慈愛ぶって『これがあなたのためなのよ』みたいな態度取りやがってさ」 『リントヴルム・ガラクシア』も、憤りを隠さない。 「反吐が出るね」 かざすカードは、死神。 「親は絶対的存在じゃないって、教えてあげるよ」 言い放った横で、笑う声。 『言っちゃいましたね~』 『まあ、この様な方ですから、マスターもお気に召しておられる訳ですが……』 「そう言う事です。存分に、助力させていただきます」 『アイリス』と『デイジー』の会話に、拳を打ち合わせて答える『マリー』。 『痛いです。そんなに力まないでくださいませ。マスター』 手甲に変じているデイジーの嘆きを聞いて、大鎌に変じたアイリスを肩に担いだ『マリエル』が嗜める。 「そうよ。どうせこれから散々な目に合うのだから、今くらいは優しくしましょう」 『え!? そうなんです!?』 「当たり前じゃない。 アレ見て、無傷で済むとか思ってたの?」 ビビるアイリスに届く、主人の無情な宣告。 「もしもし? マリー?」 困った顔をするリントヴルムに、マリエル達は笑顔で言う。 「大丈夫よ。覚悟を言ったまで。死ぬ気なんか、サラサラないから」 「死ぬのはもう、十分ですので」 二人の言葉に頷く、ベルロックとリントヴルム。 「なら、いい」 「頼りにしてるよ。四人とも」 『了解です~』 『ご随意に』 皆々共に、意思は強く。 「生憎、毒親は俺の両親だけで腹一杯なんだ」 カチャリと言う音と共に、天を仰ぐランキュヌ。 「これ以上の束縛されて管理される愛なんて、生憎趣味じゃない」 冷ややかに言いながら、ショーンは撃鉄を引く。 「お断りだ! とっとと失せて、地獄に落ちろ! ベリアル共!」 吼える銃声が、鳴り響く鐘の音に重なる。 ――アハハハハハハ――! 哄笑。楽しげに。愉しげに。嬉しげに。 ――そうそう! それでこそですの! 可愛い可愛い、子羊達。ならばその矜持を抱いて――。 笑いが止む。告げる、神託。 ――滅びなさい――。 轟く、無間の咆哮。 地が。 空が。 世界が、怯える。 ――開戦。 ◆ 先手は、世界連合。魔女達の調査により、狙いは既知。 再召喚されるベリアル。駆逐は、不可能。 挫くべきは、三柱。 中核を担う、三体の高スケール。 『疑似雷帝・テュポン』。 『疑似石皇・ヴリトラ』。 そして、最操のコッペリア。 軍の最後部において、彼女が構築するは極大崩壊魔法・『フィーニス』。放たれれば、全ては抗う術なく灰塵と帰す。人の未来諸共に。 そうなる前に、少しでも道を。 『シリウス・セイアッド』が、オクト達の中に知った顔を見つける。 『ルシオ』と『カミラ』。彼らもまた、明日を繋げる為に集ってくれた。 「無茶は、しないでくれ……」 笑いかける友人に、縋る様に。 「どうか、どうか……。傷つく人が、一人でも減る様に……」 祈る、『リチェルカーレ・リモージュ』。重ねる手は、微かに震えて。 「コッペリアは、完璧な世界と言っていた……」 握り締めながら、囁く。 「俺には、何の感情もない、死者の国としか思えない……」 重なる手には、確かな明日への欠片。 「……水蓮の茎で、構わない……」 決して、放さぬ様に。見失わない、様に。 「俺が守りたいのは……手にしたいものは、『ここ』にしかない」 握ったそれが、握り返される。 「……全力を……」 自分を救った、温もり。全ての、者へ。 聞こえ始める、魔術真名の詠唱。出し惜しみする理由はない。続く、限り。 「蒼天の下に……」 自分達の魔術真名を唱えようとした『タオ・リンファ』が、ふと仰ぐ。 紅い。紅い。濁った空。 曇る、心。 「……今は、あの様な空ですが……」 「マー、大丈夫だ!」 寄り添う『ステラ・ノーチェイン』が言う。真っ直ぐに、前を見つめて。 「ぜったい、晴れさす!」 決意。 かき消す様に、大気が揺らぐ。 落ちてきたのは、幾条もの轟雷。幾つもの灼岩。吹き上がる、爆炎と爆風。先頭の一群が、声を上げる間もなく巻き込まれる。視界を塞ぐ粉塵と黒煙。たたらを踏んだ瞬間、煙を突き破って溢れ出す緋色の激流。 スケール1・軍隊アリ。 たちまち押し寄せると、強靭な顎で齧り付く。屈強の意思を持っても耐え難く、悲鳴が上がる。 それは、誘導。 気づいた幾人かが、御名を呼ぶ。 紅雲を裂いて落ちる光。 『大樹の女神・ダヌ』。 『復讐の女神・エリニュス』。 『ミズナラ』。 『太陽の命姫・シャオマナ』。 『皆さん!』 『くれてやる!』 『受け取れ!』 『護るから!』 四柱の八百万が、加護を降らす。瞬間、鋭い音。 あちらこちらで弾ける炸裂音と悲鳴。閃く光は、エリニュスの『報いの光鏡』。迎撃するのは、魔女達の魔法弾。 スケール2・ハチドリの群れ。 高速で飛行し、鋭利な嘴で穿ち殺す生体弾丸。機銃掃射の様に撃ち込まれたそれらの多くは、光鏡と魔女達によって大半が防がれる。 光鏡が作動せず、傷を受けた者もいる。けれど、それは致命傷に至らなかった証。第二陣が撃ち込まれるまでには、幾ばくかの間。地を舐める、焔の波。魔女達の魔法が、足に喰らいついていたアリ達を焼き滅ぼす。気力を振り絞り、なお押し寄せるアリを踏み潰して進む。 やがて、前に新たな一団。武装した、獣人達。 スケール3。相応の数の、スケール4も。 指揮を取る、マンティコアが告げる。 「待っていた。愚弟達よ」 「何言ってんのさ。順番から言ったら、年上はボク達の方だろ?」 対峙した『セパル』が皮肉に笑う。 「些事だ」 「なら、付き合わせないでくれよ。急いでるんだ」 「つれない事を言うな。兄弟」 揶揄する『ウボー』に、冗談で返す。 「洒落るわね。心を持ったって言うのは、確かみたい」 「お前達のお陰でな。存外、良いモノだ」 『セレナ』の言葉には、親しげに。 「なら、便宜図ってよ。代価としてさ」 「やってみるか? 無駄な事に時間を費やすも、人生の一興かもしれぬぞ?」 「悪くないけど、時間がないな」 「では、どうする?」 「押し通る!」 「さればこそ!」 響く、雄叫び。 ぶつかり合う、武器と武器。 引く事はない。 自分達の役目は、ただ一つ。 全ては、彼らに。 戦闘は、雪崩れ込む様に乱戦となった。 息を飲む、『桃山・和樹』。 デイムズの時とも、アレイスターの時とも違う。 純粋に、人を否定する者達の牙。淘汰の、意思。ただ、怖い。満ちていく鉄錆と臓腑の臭い。足元を濡らす血溜りに、ゴクリと乾く喉を鳴らす。 「くそ……」 微かに震える手を、握りしめる。武者震いと、思いたかったけど。 隣りの『桃山・令花』も同じ。震える、細い肩。 (まずい……) 飲まれかけている事を意識した瞬間、重い音。 「!」 驚く先で、身を起こす巨体。 長大な牙。スケール3・マカイロドゥス。 二人を見下ろし、荒ぶる呼気と共に。 「人。浄化師……」 振り上げるモーニングスターは、既に血塗れ。 「証ヲ示せ……示せナけレバ……」 「くっ!」 咄嗟に盾を翳す。振り下ろされた衝撃はそれを貫き、和樹を地へ叩き倒す。 「ぐぁ!」 「和樹!」 援護しようとした令花を弾き飛ばすと、そのまま和樹の首に手を伸ばす。 「示せヌのナラバ……」 掴む手が、漆黒の輝きを放つ。 デストルクシオン。禍の輝き、怖気を誘う。 「死ネ!」 絶望の三秒が過ぎようとした瞬間。 「マヤ!」 凛と響く声と共に、飛び込む小さな影。 「操裂糸!」 「ぐ!?」 回転した『マヤ』に弾かれたマカイロドゥスが、手を離す。 「弾け! 和樹君」 「!」 咄嗟に振るう、盾。強かに胸を打たれ、後ずさるマカイロドゥス。割り込むは、『イザーク・デューラー』。 「イザークさん!」 「令花さん、援護を!」 「はい!」 『鈴理・あおい』の呼びかけに我に返った令花が、ルーナ―プロテクションを放つ。 再び振り下ろされる鈍器。けれど、威力の下がったそれは今度こそ阻まれる。 「証と言ったな?」 隙を逃がさず、回り込んだイザーク。 「一人では、及ばない。ならば、束ねて乗り越える!」 放たれた舞踏が、虚を突かれたマカイロドゥスの魔方陣を切り裂く。 「これが、俺達の証だ」 崩れ落ちた彼にそう投げかけ、イザークは刃の血を払った。 「すまねぇ……イザークさん。オレ……」 「謝るな。怖いのは、俺も……いや、皆同じだ」 駆け付けたラヴィ率いる魔女達と共に、イザークと和樹は令花とあおいを護る。 「だから、俺はお前に力を貸す。お前も、力を貸してくれ。俺達は、そうやって進んで来た。 これまでも。そして、これからも」 言って、笑いかける。 「それが、俺達が奴らに示すべき姿だ!」 「……うす!」 頷き合い、拳を打ち合う。 「……マヤを繰る事は、私にしか出来ません」 守られる中、あおいは令花に語り掛ける。 「そして、それは貴女も同じ。この地獄に光を射すために、貴女にしか出来ない事が必ずあります」 「あおいさん……」 「行きましょう。分け合い、支え合って! 叩きつけましょう! 人の、生き様を!」 「はい!」 頷いて、両手を広げる。展開する魔方陣。舞い上がるのは、数冊の魔導書。 「皆!」 呼びかけに応じる様に、宙に舞う書のページがパララと踊る。 光の中、現れるのは幼い少女達。魔導書の権能。その具現。 『願望の書・叶花』。 『転移の書・アネモイ』。 『応報の書・ネメシス』。 『万炎の書・ヘスティア』。 顕現した魔導の申し子達が、呼びかける。 「待ってた!」 「願いを!」 「共に!」 頷く令花。 「アネモイ! 私達を、それぞれの行くべき場所へ! そして……」 向けた視線の先。叶花が、何かを……否、『誰か』を見ていた。 追った先。そこにはベルロック達と奮闘するマリエルの姿。 叶花の口が、微かに動く。『おかあさん……』と。 (あ……) マリエルは、魔導書に心を与えた母。それは、きっと人の想いと変わりなく。 そう。 自分達が負うモノは、人の未来だけじゃない。彼女達の様に、人と在る事を選んでくれた者達。その願いも、また。 だから。 「叶花、叶えて!」 呼びかける。全ての、想いをのせて。 「いいえ、叶えましょう! 人々の願い、貴女達の願い! 皆の、手で!」 振り向いた、叶花の顔が輝く。 「はい! ママ!」 煌めく、叶花。奇跡の権能が、降り注ぐ。 「わたし、頑張るよ! だから、みんなで!」 見上げたマリエルが、ラヴィが、皆が、微笑む。 「行こう! 明日へ!」 重ねる様に、アネモイ。 「各座標軸、固定完了! 跳ぶよ!」 使命を担った者達の身体を、螺旋の光が包む。 「頼むぞ!」 「ここは、任せて!」 「御武運を!」 周囲のから届く、願い。 その全てを、誓いに代えて。 ◆ 転送されたのは、空。真っ赤に染まった中を、真っ逆さまに落ちていく。 「おいおい。このまま地面に激突なんてオチはないよな?」 「心配いらない。手筈は整えられている」 困った顔をするトールに、冷静に言うシリウス。 「ああ、来たね」 クリストフの声に見れば、上昇してくる二体の影。ワイバーン。アリシアとリチェルカーレを拾い上げる。 「ルゥちゃん……ですね?」 (お久しぶり) 「ありがとう、カノンちゃん」 (そちらも、息災の様で) 二体のワイバーンは、ドッペルの『ルゥ』と『カノン』。彼らも、また。 「ちょっとー! 私達はどうなるのよー!」 リコリスの声。余った皆が、落ちていく。 「あ……」 「あ、あの、皆が……!」 (大丈夫) 慌てる二人を宥める様に、下から降る光。皆の足に回ると、小さな魔方陣を展開する。魔女達の空中歩行魔法、『スカイウォーク』。 「やれやれ、どうなるかと思ったよ」 息をつくトールが、辺りを見回す。 「随分、静かだな。がら空きじゃないか……」 「確かに、妙だ」 自身の翼で飛べるイザークが、赤い顔のあおいをお姫様抱っこしながら頷く。なお、彼女の足にもスカイウォークはバッチリ展開していたりする。 「空から攻めれば、優位に立てる筈。なのに……」 「あのコッペリアが、見落としをするとも思えないけど……」 クリストフが不審げに言ったその時。 「……知れた事……」 「!」 響いた声に、振り返る。 「此れは、我が望んだ事……」 重い声。パリパリと、毛羽立つ気配。 「渡しはせぬ。最強の御方を討ったと言う力……」 大気が歪み、流動する。そして。 「とくと魅せよ!」 轟く雷鳴。空気が、吼える。 「避けて!」 リコリスが叫んだ瞬間、渦巻く気流が雷を纏って突進。咄嗟に避けた皆を、落ち葉の様に翻弄する。 「きゃあああ!」 (手を離さないで!) リチェルカーレを守りながら、必死に抗うカノン。嘲笑う様に、閃く。 「まずい!」 「ネメシス、頼む!」 シリウスの声に答える様に、転移してくるネメシス。 「焼き滅ぼせ。ウコンバサラ」 轟音と共に走る深蒼の雷砲。リチェルカーレを襲うソレを、ネメシスが受け止める。 「こんのぉ!」 渾身の力で反射。逆の筋を辿った雷砲は、本来の主に炸裂。けれど。 「ヴァハハハハハハハ。攻撃の概念反射か。姑息なりしも、面白い」 散り消える雷華と白煙の向こう。酷く愉快そうな哄笑と共に現れたモノ。 体長、およそ20m。世界を覆わんばかりの巨翼と、全身を覆う蛇頭の鱗。巨蛇の如き半身をうねらせる、蒼珠の飛龍。 「お前が、『テュポン』か?」 「如何にも」 シリウスの問いに答え、持った巨鎚をブォンと振るう。 「我はテュポン。疑似雷帝・テュポン。『最強』の座を継ぎて、貴様らの在り様、見定める」 バリバリと弾ける覇気。圧倒。 「で、一人で俺達全員を相手にするって? 随分と甘く見られたモノだね?」 「甘く見た訳ではないぞ? 味わいたいだけよ。最強を挫いた貴様らとの戦いを」 皮肉も意に介さず、轟々と。 「……脳筋だわ……」 「それで、戦闘狂……」 「本当に……トールさんみたい、ですね……」 呆れる女子勢。イザークが、言う。 「成程。小細工なしの血闘が望みか。結構だな。こちらとしてもやり易い」 「ああ、勘違いするな」 「?」 「貴様らは好きにしていい。存分に細工しろ。もっとも」 言葉と共に、手にした巨鎚を掲げる。 「通じればの話だが?」 振り下ろす雷鎚・ウコンバサラ。放たれた雷弾が、真下に落ちる。 「しまった!」 「避けて!」 叫びをかき消し、着弾した雷弾が大爆発を起こした。 「……無事か? ショーン。あと、先生も」 「ああ、何とかな……ヴァーミリオン、お前は?」 「こっちもだ。光鏡とやらが役に立った。今ので、吹っ飛んじまったがな……」 瓦礫と白煙の中で立ち上がる、ショーンとレオノル。そして、『ヴァーミリオン』始めとするオクトの面々。 残った者はいるが、既に光鏡を失っていた者はどうにもならない。レオノルが、唇を噛む。 「……読まれてたね……。ショーン、『矢弾』は無事?」 「ええ。コイツを失くしたら詰みですからね。この身に代えても、守りますよ」 装填したランキュヌ。握り締めながら周囲を見て、『コイツ等の為にも』と。その時。 「成程。なら、ソレを砕けば良いんだね」 声と共に、風切る音。 「ショーン!」 レオノルが咄嗟に放ったオーパーツグラウンドが、伸びてきた鞭を弾いた。 「あちゃ、失敗失敗」 降り立ったのは、小柄な少年。けれど、その身に纏う気配は。 「スケール5……」 「あたり」 レオノルの言葉に笑う後ろから。囲む様に、更に二人のスケール5。 「これはこれは……」 「随分と豪勢なおもてなしだな……」 冷や汗と共に苦笑するショーン達に、長槍を携えた痩躯の男が言う。 「ここに至って、愚は犯さぬ」 「手抜かる事無く、絞めさせていただきます」 魔術師風の女性が、手にした杖に妖しい光を灯す。 「そう言う事」 ピシリと鞭を鳴らし、笑う少年。 「お付き合いしない? お姉さん」 「……悪いけど、年下はね……」 呟くレオノルの頬。冷たい、汗。 テュポンの一撃で吹っ飛ばされたサクは、仰向けに転がったまま空を見上げていた。 「……皆、飛ぶのが好きねぇ……」 視線の先には、テュポンと戦う皆の姿。 「そんなに、私達をちっぽけな存在だって見降ろしたいのかしら?」 「……サクラ」 「まあ、思っちゃいないでしょうけど。なんとなく」 「サクラ」 「自己嫌悪も、そろそろ……」 「サクラ! 起きてるんでしょう!?」 大概必死の様相を帯びてきた声に、頭を上げる。見れば、襲ってくるベリアル相手に奮闘しまくるキョウの姿。光明真言で防御しながら迎え撃つが、アリはワラワラたかってくるし。ハチドリはビュンビュン飛んでくるし。スケール3がいれば、4もチラホラ。 うん。マズイかも。 「モテモテねぇ」 「冗談言ってないで! 早く起きてください!」 文句言いながら守ってくれてるあたり、愛い弟。 起き上がり、マッピングファイアをばら撒く。雑魚は一掃。駆けつけてきたオクトやら国軍やらの援護を借りて、残りの相手を始めたその時。 遠くの方で、地鳴りの様な咆哮。 「あれぇ? 今の……」 「向こうも、始まったみたいですね」 視界の向こうで、真っ赤な炎が上がる。 「ギガスの方も、本物ではありませんが。それでもヤバそうですね。こっちも十分ヤバいですが」 言いながら、落ちてくる雷を躱す。 「そんな事、気にしてないわよ」 「では、何に疑問を?」 「寂しくないのかし」 「時間の無駄では?」 遮った瞬間、飛んできたハチドリがサクの肩を掠める。 「はいはい。回復しますね」 天恩天賜をかけながら、言う。 「しっかり、守りますからね。有能なサクラに、一寸でも長く戦ってもらうために。あ、逆に取らないでくださいね。『アッチ』の前では無能とか思ってるかもしれないとか、そんな……」 一人で喋るのを無視して、エクスプロイトショットとリンクマーカーをセットで仕込む。 堕として貰えたら、ガッツリぶち込むつもり。だけど。 「……それどころじゃ、なさそうねぇ……」 スケール5と戦うショーン達を見て、呟く。手伝いに行っても、相手がアレでは。なら……。 「頃合いでしょうね」 同じ事を考えたらしいキョウが言う。 「あんまり好きじゃないのよねぇ。アイツ」 「言ってる場合じゃないでしょう」 ブツブツ言いながら、天を仰ぐ。 「出番よぉ。ナックラヴィー様ぁ」 「無残な……」 転移した先に広がっていた光景に、リンファは唇を噛んだ。 幾つも転がる焼死体。何かを掴む様に伸ばした手が、無念を物語る。 「形は残した。後に命あらば、弔ってやるがいい」 響く、声。 見上げた先。四足二碗、灼鉄の鱗鎧を纏った巨龍。爛々と輝く双眼で睥睨し、炎燐混じる呼気と共に言う。 「皆、良き戦士であった。滅びる運命に在ったは、悲しき事だ」 「……皆に対する賛辞と受け取っておこう。貴方が、ヴリトラか?」 「いかにも」 ルーノの問いに答え、手にした巨矛が地を穿つ。 「此れなるはヴリトラ。疑似石皇・ヴリトラ。悲しき事だが、座を退かれし最硬の御方の意思持ちて、貴殿ら人種の検証を成す」 咆哮。怯える大気が、ビリビリと。 「こ、こわ……」 「何の因果で、こんなバケモノと……」 「今更ビビるな! ここまで来たらやるしかないだろ!?」 怯える魔法少女達に、喝を入れるクォンタム。 「まあ、気持ちは分からんでもない。あの連中を見てもな」 ネメシスに防御の願いを伝えながら、エフドがヴリトラの足元を見る。 そこには、武器を構えた人影が十数人。 「スケール5……だね」 「これだけ守りが固いと言う事は、やはり……」 「その通りだ」 ヴォルフラムとベルロックの言葉に、長刀を背負った男が告げる。 「この奥に、最操の御方が居られる。お会いしたくば、我らを抜け」 「だが、易く行くとは思わぬ様に。努々。」 二刀の小太刀を構える少女が、殺気を放つ。 気づいた令花が、叫んだ。 「大攻撃、来ます!」 穿つ炎霆『フルンティング』。吹き上がる炎渦。合わせる様に疾走してくる、スケール5達。ルーノが、叫ぶ。 「ラニ!」 「分かった!」 天を仰いだ、ラニが呼ぶ。 「お願い! ひめちゃん!」 瞬間、優しい風に舞う桜。 『ヴュヴュヴュヴュ! 血の香! 腑の香! 厄の香! 良い故! 良い故! 愉快故!』 汚水を散らして顕現せしは、『毒潮の公爵・ナックラヴィ―』。満ちる非業に歓喜する。 『おーう! 息災そうじゃな、ラニ公! ラス坊! しっかり受け取れ!』 桜の嵐と共に、『桜花の麗精・珠結良之桜夜姫』。可憐に舞いて、愛しき想いの加護を撒く。 「ヴァハハハハハ! 成程、八百万の権能か! 面白い!」 見下ろしながら、愉快に笑うテュポン。 毒霧で衰弱したベリアル達を、トールとサクのマッピングファイアが駆逐していく。再召喚は繰り返すが、一時でも隙を作れればいい。 「案の定、彼には効かないみたいだね」 「想定内だ」 数多の蛇鱗が吐き出す無数の稲妻。禹歩七星で上げた運動能力で躱しながら、クリストフはテュポンの行動を阻む様に戦う。 ベリアルリングと黒炎でブーストしたシリウスの一撃。それでも、蒼珠の鎧を抜くには至らない。 「硬い……」 「油断するな。一撃喰らえば、墜とされる」 スキルと魔導書達の力を繰りながら、削るあおいとイザーク。フィーニスの構築が終わるまで、あと如何程か。 「どうした? 手が荒くなっているぞ!? 心ここに非ずか!? 余裕ではないか!」 「言ってなさい!」 嘲笑うテュポンに向かって、スポットライトで下のベリアル達を誘導しながら舞っていたリコリスが叫ぶ。 「今に貴方を撃ち落とす一射が来るわ! 覚悟しなさい、偽トール!」 「愉しみな事だ! だが、叶うかな!?」 哂う視線の先には、なおスケール5達に阻まれるショーン達。いかに毒に犯されようと、強靭たる最高位。易くはない。 歯噛みするリコリスの頬を、稲妻が削る。 「人の強みは多様性を得て社会を作った事で、淘汰圧を可能な限り減らした事! 人に弱肉強食は要らない! 弱い人でも、支えて守ってきたから今までの歴史があって繁栄がある!」 少年と撃ち合いながら、レオノルは猛る。 「悪意は形を変えて! でも本質は変わる事なく! 善意の名の下に他者に影響を及ぼす!」 エクスプロージョン。捧身賢術とミズナラの権能で強化されたそれが、少年を包む。 「何が人類の為だ! 世界の為だ! 下らない!!」 ダメ押しにぶつける、オーパーツグラウンド。 「お前達のせいで! 沢山の血が流れて! 色んな人が死んで悲しんだ! 苦しい思いをした! お前達の罪は、人の心と命を悉く踏みにじった事なんだ!」 「……否定しないよ、お姉さん。それが、僕達の在り様だから」 囁く様に響く声。 炎を裂いて飛び出した鞭が、レオノルの杖に巻き付く。 「僕達は、人の業の具現だ。人が数多の種を喰い尽くした様に、僕達も人を喰い尽くす。僕達が、ベリアルである限り!」 動きを止められたレオノルに向かって、少年が疾走する。 「何の事はない。人の存在こそ、弱肉強食の体現・具現・結果論!」 「ぐっ!」 鳩尾に蹴りを受けて転倒したレオノル。伸し掛かる。 「喰って喰われるが、命の真理! それが嫌だと言うのなら」 笑う顔は冷たくて、悲しげ。 「やっぱり、人は神に委ねるしかないんだ」 鞭が硬化し、刺剣と化す。 「連れて行ってあげるよ! 悲しい喰い合いなんてない、安らぎの園へ」 心臓に向かって、振り下ろされる。叫ぶ、ショーンの声。そして、鈍い音。 手にはめたバンシーガントレットが、軋みを上げて刃を拒む。 「抵抗しないで。痛くない様に、してあげるから」 「……言っただろ……。お前達の罪は、人の心と命を踏みにじった事……。そして、お前達はそれを止めはしない……」 捧身賢術を重ね掛けした力で押し止めながら、レオノルは告げる。 「それだけが、私達の真実だ。お前達の矜持も理屈も、知った事か!」 もう一方の手で、少年の手首を掴む。 「私達は生きる! 守る! これまでの人の歴史を、ただの愚かな過ちでなんか終わらせない!」 吼える。不屈の、意思と共に。 「後に続く人達の未来まで! 可能性まで! 潰させてたまるか!」 少年の、瞳が揺れる。そして。 「よく言った」 迸った閃光が、少年を弾き飛ばす。 「悪いがね。その子は君如きには、些か難物に過ぎるだろうよ」 笑う鈴音に合わせ、踊る琥珀の華。 『琥珀麗装・夢幻抱華』。 踊る花束を従えて、酷く楽しそうな琥珀姫。 「良い答えだよ、レオノル。それで良いんだ。所詮は命一つ。大層な事なんて、出来やしない。目の前で。手の届く所で。泣いてる子猫一匹、救えりゃ上等だ。でも、それを百人が出来さえすれば……」 足元から散らばる、複数の魔方陣。 「結果、百の未来が救われる」 輝く無数。立ち上がるのは、琥珀に輝く騎士の隊。 「お行き。君達は正しく、その百の願いを拾う者。その果てで」 スケール5に襲い掛かる、琥珀の騎士達。ショーンの、レオノルのマークが外れる。 「見せておくれ。人の想いが真理を挫く、その様を」 後押しを受けて、走り出すレオノル。 「ショーン! 矢弾を!」 「了解です!」 「させん!」 一体の騎士を砕いた痩身の男が、槍の先から光針を飛ばす。 「グッ!?」 右足を穿たれ、体勢を崩すショーン。 「逝け!」 トドメを刺そうとした瞬間。上から落ちる、影。 「……逝くのは、お前だ」 静かな声と共に落ちる、斬撃。防御した痩身の男を、容易く両断。 「大元師……!」 「……緩めるな。成すべき事をやれ……」 ショーンにそう言い放ち、残りの二人に向き合う『クロート』。 「……黒炎を使う。放れていろ」 『はいよ』 クロートの大剣から離れる御魂。彼の恋人、『オーゾン』。 付き従い、そっと見やるはショーンに駆け寄るレオノルの姿。 『……良い、人選だ』 「……ああ」 『もう、安心だな』 「…………」 答えは、無骨に浮かべる笑み一つ。 全てを託し、最強の浄化師が静かに燃える。 「ショーン、大丈夫かい?」 「ええ、これしき……」 立ち上がろうとして、膝を崩す。落ちかけた身体を、レオノルが全身で支えた。 「支えるよ。一緒に……」 「ドクター……」 「ほう、初の共同作業ってヤツか? ショーン」 琥珀姫と一緒に二人を護るヴァーミリオンの軽口に、引きつる口元。 「……撃ち殺しましょうか? アイツ」 「……嫌かい?」 「え……」 見上げる彼女を見て。戸惑って。自分も、微笑む。 「……いいえ」 支え合う二人を、背中越しに。最古の魔女は、確かに見る。 いつか叶わなかった、幸せの未来。その、光景。 「……気づいてるかい? 皆……」 「はい……」 「無論だ……」 テュポンの雷撃に耐えながら、皆はクリストフの問いに頷く。 「来るわ……」 「矢弾は一発……俺達も、大概だ……」 口内の血をペッと吐いて、トールが言う。 「次はない。決めるぞ……」 決意を込めるシリウスの声に、リチェルカーレとアリシアも。 「腹を決めたか。良い覇気だ」 楽しげに笑うテュポンが、吼える。 「さあ、見せてみろ! 人なる種よ! 貴様らの矜持を! 魂を!」 「ああ!」 「望み通りに!」 皆が、走る。迎え撃つ、幾条もの稲妻。止まらない。神々の加護と、魔導書の助力。全てを、束ねて。 「ヴァハハハハハ! 良いぞ! 良いぞ! 実に良い! その様! 輝き! 流石は最強の御方が認めた戦士! もっとだ! もっと魅せろ!」 削られ散り飛ぶ蛇鱗と共に、歓喜の叫びを上げるテュポン。振り放つウコンバサラの一撃を、光鏡とネメシスが弾く。 「シアちゃん!」 「はい!」 アリシアとリチェルカーレ。渾身で放つ、禁符の陣。 「馬鹿め! 魔術は……」 「いいえ!」 「負けません!」 二人の声に答える様に、テュポンの権能を陣が超える。 「おおぅ!?」 驚愕と感嘆に震える古龍。頭上に、気配。紅い大気の向こう。輝く太陽を、背に。 「開けてもらうぞ……」 告げるシリウスの手。光を纏う、アステリオス。 「俺達の、道を!」 落ちる青。蒼を貫き、翼を裂く。 「ヴァハハハ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! ならば、我も見せよう!」 制御を失う身体を反転させ、宣言するテュポン。 「ベリアル(我ら)の、矜持を!」 巨体を覆う、暴風と稲妻。猛り荒ぶ、竜巻と化す。 「連れて逝くぞ! 貴様らも!」 轟音と共に、堕ちる。真っ逆さまに向かう先には、共に立つショーンとレオノル。 見上げ、ランキュヌを構える二人。 「ドクター……」 「大丈夫。怖くないよ……」 頷き合い、重ねる手に力を込める。 「これが……俺達の答えだ」 告げる、別離。 「とっとと、果てろ!」 放たれる、蜃の矢弾。巻き込もうとする風を切り裂き、真っ直ぐに竜巻の中心へ。 一瞬の、空白。そして。 「見事……」 炸裂した破心の神気が、テュポンの回路を通じて戦場を駆け巡る。 力を失い、堕ちる視界が捉える。 矢を番える、サクの姿。 「ねぇ」 彼女が、言う。 「素敵でしょ? 人って」 薄く返す、笑み。 「おやすみなさい」 走る、尊厳の矢。 偽りの雷帝は、満ち足りた思いで受け入れる。 群魔の軍勢(レギオン・アーミー)、再召喚及び権能行使、停止。 ◆ 振るわれたフルンティングが轟火の軌跡を描く。リンファが、化蛇の合口を切る。 「万象浄災!」 吹きうねる水の蛇が、皆を炎の渦から守る。負荷に耐えるリンファの頭上。降り落ちる灼熱の岩石。ラファエラのソニックショットとナツキの氷結斬が、可能な限りを破砕する。次々と地を砕く残りの炎岩。 「その武器で、性根を叩き直せるんならやってみろよ!」 啖呵を切り、挺身護衛で捌くエフド。 視界には、配下を連れて疾走してくるスケール5達。 迎え撃つラニとラス。ルーノの禹歩七星を受け、連れそう仲間達と共に。 「今までのベリアルとは違う! 連携は当然だと思った方がいい! オレ達が考える事は、向こうも思いつく可能性があるぞ!」 「分かってる! 要するに『舐めるな』って事よね!?」 出し惜しみは悪手。全力で。 「マリー!」 マリエルに向かってきた破片をタロット・ウォールで弾くリントヴルム。肩越しに見た、彼女の姿。 「無茶はしないで! 君達は……」 カルタフィリスであるマリエル達に、回復魔術は効かない。自動回復の能力があるとは言え、リスクは高い。 「分かってる。でも、私は戦いたいの」 シャドウバインドを展開するマリエル。 「迎え入れてくれた世界に、貴方達に、報いたい」 縛った相手は、スケール5。抵抗を、渾身で抑える。 「マリー……」 「分かってください。リント」 飛び出す、マリー。 「それを成して、初めて私達は歩む事が出来るのです」 繰り出した拳撃。打ち倒す。 「貴方達と、共に……」 「リーちゃん……」 「腹を決めろ。リント」 続くベルロックが、彼の肩を叩く。 「一緒に行くんだろう? その道を」 「……ああ、勿論さ!」 見据える先には、まだ多くの。 けれど、必ず。 ヴリトラが吐き出す炎岩が降り注ぐ。襲い来る、ベリアル達。 「うわぁあ!」 「ステラ!」 爆炎に炙られて転がるステラを、化蛇で消し止めるリンファ。 「大丈夫ですか!? ステラ!」 「だい、じょうぶだ……まだ……」 荒くつく息に、声が重なる。 「悲しいな……」 見上げる先。深紅の、灼眼。 「悲しい事だ。その様な弱き腕で、抗わねばならぬとは。誠、誠……」 ゆっくりと上がる、ヴリトラの前脚。 「悲しい事だ!」 轟音と共に地を踏み砕く。走る亀裂から迸る、灼熱の溶岩。 「!」 逃げる間もなく。せめてもとステラを抱き締めた、その時。 「絶対防御ノ誓イ!」 「ルーナ―プロテクション!」 間に滑り込んだ令花と和樹が、共に防御。押し切られる寸前、後ろに控えるラヴィが相殺した。 「ケガないか?」 気遣う和樹に、頷く。まあ、ケガはあるけど。 「来るぞ! 放て!」 ラヴィの指示。魔女達が魔法弾を放つ。ベリアル達も応戦。弾ける弾幕。守りの後ろで、リンファ達に駆け寄る少女。 「大丈夫?」 「あ、おまえ……」 「ハニーさん……来ていたのですか……?」 驚く二人に『モチのロン』と笑いかけ、治療を始める『養蜂の魔女・ハニー・リリカル』。 「しっかりしてね~。次の直売会じゃ、貴女達にはハニーの新作着てもらう予定なんだから」 「新作……?」 嫌~な記憶。引きつる、リンファ。 「いや~、いっつも売り子には不便しててさ~。今回はもう『二人』も確保したし、貴女達にも来てもらえりゃ、百人力だわ」 二人……。いる。確かに、思い当たるのが。 「だからさ……」 薬蜜を塗ったステラの手を包んで、笑う。 「頑張ろう!」 「……おう!」 笑って、頷いた。 「ちっくしょ~! 何なんだよ~!」 「ビクともしないじゃないか~!」 ヴリトラを攻撃する魔法少女達が、反則級の固さに嘆く。 「泣き言を言うな! ヴリトラが駄目なら他の連中を狙え! それなら通るだろ!?」 彼女達を率いるクォンタムが、半ギレで檄を飛ばす。 「いやでも、あっちはあっちでクソ強くて……」 「やかましい!」 「ひぃ!」 「術師連中が致命攻撃をするまでの辛抱だ! 攻撃は、最大の防御! 撃ちまくれ!」 「そんな適当な……」 「何だ悪いか! 現状、これが最善だろう?!」 かなり鶏冠に来ている模様。 「兄さん、アンタの相方でしょう? 何とかしてよ~」 「う~ん、無理!」 蒼衣の民と共に戦っていたメルキオス。魂の願いをアッサリ却下。 「いや~、彼女の口から攻撃は最大の防御なんて聞くとは思わなかったよねー。まぁ、そんなこと言ってられない状況だしねー」 見晴らす限りの敵。絶対防御の、怪物。 「レムとディアナちゃん、頼むよ~」 届ける声は、少し真剣。 「……私達が抑えに回る。君達が、向かってくれ」 「ルーノ!?」 乗っていたドッペルから降りたルーノの言葉に、ヴォルフラムとカグヤが驚く。見れば、防御線を抜けて追ってくるスケール5数体。 「でも……」 「どっちかが行かなきゃ、ヴリトラは止められねぇ! 高スケール相手なら、黒炎持ちの俺らの方が適任だ! 行ってくれ!」 ナツキの言葉に、もう一度視線を。悩む暇はなかった。 「行こう、カグちゃん!」 「でも……」 「ヴリトラを墜として『最操』を崩壊させなきゃ、ジリ貧だ!」 「……!」 「僕達の、やるべき事を!」 「うん!」 走り出す二人を見送り、敵と対峙するルーノとナツキ。相手の目に見える、強い意志。 「お前達に心があっても、怯まない……」 見据えるナツキが、呟く。 「何が相手でも負けられない……。アークソサイティも、この世界も……」 正眼と共に構えるホープ・レーペンを、黒炎が彩る。 「守るって決めたんだ!」 決意の声を辿り、ルーノも告げる。 「今更危険だ面倒だ等と言いはしない。この我儘を! 意志を!」 取り放つ符が、不退の意思を示す如く陣を張る。 「持てる力を、尽くし通させてもらう!」 ベリアル達が、微かに笑む。 嘲笑でも。 侮蔑でもなく。 ただ、その気高さを称えて。 辿り着いたのは、ヴリトラの足元近く。危うい位置取りだが、イザナミの力もまた脅威。距離を取り、万が一暴走を許せば。 緊張と、確かな恐怖。乱れる鼓動を抑える様に、胸に手をやるカグヤ。 「皆に気を取られて、気づいていない。大きいのも、考え物だね」 ヴリトラの巨体を見上げながら、ヴォルフラムは頷く。 「じゃあ、始めるね……」 「カグちゃん……」 「大丈夫……絶対、成功させるから……」 心配する彼に微笑んで、静かに座する。 左の掌に浮かぶ陰陽図。胸に抱き、目を閉じる。 (お願い……) 手の中から、陣が開く。 蝕む様に覆っていく、蒼の文様。 願いの先で、蠢く。 「……来たのか?」 「……うん」 胸の陰陽図が光り出すのを見止めたレムに、薄く目を開けて頷くディアナ。 「出来んのか? あの姉ちゃん」 「さあ……」 薄く笑って、小首を傾げる。 「どうかなぁ……?」 微か微かに、音が鳴った。 心臓の吐いた異様な鼓動に、カグヤは悲鳴を上げた。 悍ましい。 身体の奥。魂の、底。 居た。 昏い。昏い。何か。 燐火が見上げ。枯れ枝を伸ばし。ゆっくりゆっくり。爪を、立てる。 「カグちゃん!」 人のモノとは思えない声を上げる、彼女。 蹲り、苦しむその身に駆け寄ろうとした瞬間。 殺気。 振り向いた先。幽鬼の様に佇む影。 小太刀二刀。紫髪の少女。 「スケール、5……」 「その方が、そちらの要か?」 「……だとしたら?」 ゆっくりと抜き放つ、刃。 「獲らせて、いただく」 「させないよ!」 疾風の速さ。振るう斧を擦り抜け、脇腹を撃つ。 「ぐっ!」 こみ上げる嘔吐感を飲み下し、転倒だけは避ける。追撃は来ない。佇んだ少女が、えづくヴォルフラムを見下ろす。 「……何さ……?」 「ヴォルフラム・マカミ。其方に、問う」 「……知ってるの? 僕の事……?」 「然り。今の我らは、最操の御方の記憶を共有している。其方達の事、全て。其を前提に、聞け」 小太刀を下げて、一言。 「何故、人に与する?」 「……は?」 「其方は、『実験台』であろう」 「!」 過去の痛み。過ぎる。 「人に蹂躙され、翻弄されたその身。何故、人を守る? 戦う?」 「………」 「知る筈だ。愚かさ。悍ましさ。悪辣さ。なのに、尚『そこ』に立つは何故か?」 問いかける。ただ、純粋に。 「如何?」 こみ上げる。怒りではなく、笑いが。 「何だ……君達は、そんな事も……分からなかったのか……」 ユラリと立つ。見つめる、少女。 「そうさ……」 呟く。 「此処は、クソみたいな国さ……。世界さ……」 争いは絶えず。怨嗟は消えず。悲しみに、満ちて。 「けどね……」 その暗闇の中、輝くモノが。 小さくて。 儚くて。 か弱くて。 けど、確かに。 「けどさ」 その光が、救ってくれた。 彼を。 『彼女』と言う、形を成して。 「此処が、僕の生まれ育った国だから! 世界だから!」 そう。 苛んだのが世界なら。 出会わせてくれたのも、また。 そして、それはきっと他の命にも。 だから。 「壊させる訳には! いかないんだ!」 振り絞り、振りかざす。 少女が、小太刀を抜く。 捧げる、一言。 「……敬意を……」 疾風。真っ直ぐ、彼の中へ。 大斧を振り下ろそうとしたスケール4が、細切れになって散った。 ハッと見上げた令花の前で、血染めの刃を振るう男。派手に浴びた返り血の呪いは、『無明の賢師・アウナス』によって無効化される。 「何をしている。さっさと立て」 「デイムズ卿……」 駆け付けた和樹とリンファを見て、『デイムズ』はつまらなそうに。 「ラヴィの弟子と、ヨセフの犬か。この程度も散らせぬとは、な」 また、切り捨てる。 強い。単純に。 呟く、リンファ。 「貴方も来ているとは、聞いていましたが……」 「対価だ。ヨセフ殿に貸しを作ったままでは、寝覚めが悪い」 会話の隙をつく様に、また。けれど。 「そう憎まれ口を叩くモノではないのである」 落ちてきた巨体が、巨盾で阻む。そのまま、あっけなく叩き潰した。 「おー、おっちゃん!」 「無事であるな。娘」 手を振るステラにサムズアップし、『大ヘラクレス』は豪快に笑む。 「余計な真似を」 「守りばかりでは、鈍るのである」 「大ヘラクレス、貴方も……」 「良く持ちこたえたである。お陰で、間に合ったのである」 示す先を見れば、エフド達の元にも援軍。『ロノウェ』や『デンジ』始めとする、教団幹部達の姿。 「局長達……」 「これなら……」 「緩めるな。死ぬぞ」 安堵の声を漏らした令花と和樹に釘を刺すと、歩み出すデイムズ。 「死神とやらの顕現まで持たせる。その気があるなら、ついてこい」 「は、はい」 「エラソーだな。でも、いくぞ!」 追随するリンファ達に続こうとした令花と和樹を、大ヘラクレスが呼び止める。 「ラヴィ殿は、無事であるか?」 「……はい」 「お師匠様が、やられる訳ないでしょ?」 「そうであるか……」 静かに、言う。 「後で、礼を言いたいのである。お前達の力と、ラヴィ殿の言葉があって、あの偏屈は戻れたのである。お陰で、また共に戦う事が出来たのである」 そして、無双の英雄はニカリと笑う。 「ありがとうで、ある」 「……はい!」 頷き合い、三人もまた走る。 リンファが、気づく。 デイムズの剣。かつて感じた邪気が、消えていた。 「……もう、『転魔』は使っていないのですね……」 「必要ない」 返された言葉。何かを、感じる。 だから。 「……貴方の罪の数々は、許されざる行いです……」 告げる。彼は、視線を向ける事もしない。 「……ですが、もう一度妹と話せた……。その一点において、私は数奇にも幸福でした……」 少しの間。そして。 「そうか」 それだけ言って、歩を速める彼。その背中に、かつての上司の想いを見る。 少しだけ、嬉しかった。 かけられた声と感じた熱に、カグヤは我に返った。 這い上がってくる、『死』の感触。耐える事もままならず、逆に引きずり込まれそうになった自分。 誰が……。 「良かった。戻って、来たのね……」 声に、振り返る。 霞む視界に、映る顔。 『サクヤ』と、『サヨ』。二人の、姉。 「上姉さま……下姉さま……」 「私達だけじゃ、ないよ」 そう言って、サヨが示す。 佇むベリアルの少女。立ちはだかるヴォルフラムと、もう一人。 熱い風に揺れる、ミッドナイトブルーの髪。見慣れた、大きな背中。 「父さま……」 「カグヤ、見て……」 差し出されたサクヤの掌を見て、息を飲む。 朱く刻まれた、陰陽図。イザナミの蝶の、証。 「上姉さま……」 「父さまも、よ……」 「!」 向けた視線の先に、確かに見る。父の手の中に満ちる、朱い光。 絶句するカグヤに、言う。 「例え貴女が及ばなくても、後の道は私達が繋げるわ。だから思いっきり、頑張って」 「ただし、参っちゃう前にね」 「姉さま……」 「カグヤ……」 聞こえた声に、彼を見る。 「見せてくれ。お前が選び、歩んで来た道を。その答えを。私と、そして……」 かける言葉は、あの女(ひと)の為に。 「レティシアに」 「……はい」 強く頷いて、目を閉じる。 再び誘う、願い。 また、蠢く。這い上がる、死の感触。 でも。 (怖くない……) 周囲に、『命』が満ちていた。 姉達。 父。 母。 そして、彼。 全ての命が。愛する者達の鼓動が、彼女を引き戻す。 抱き締める。 (私が、出来なかったとしても……) 頼もしい。そして、ただ嬉しい。 寂しかった子供の頃は、思いもしなかった。 こんな風に、一緒に立ち向かう事が出来るなんて。 だから……。 「私のやれる事、精一杯やるから!」 扉が、開く。 ――人は、正しく愚かしいのでしょう――。 誰かが、言う。昏い、光の中で。 ――それでも、その愚かさの中で、大切な手だけは決して――。 とても、嬉しそうに。満ち足りた様に。 ――だから、やつがれは最期まで――。 そう、だから。私も。 ――ならば、参りましょう――。 優しい、声。 ――カグヤ様。そして――。 ――愛しき、方々――。 「ぬわぁ!」 「な、何だ!? こりゃあ!」 戦場を覆う蝶の群れ。 舞い散る青と、黒の羽。 戸惑う皆の中、クォンタムが確信と共に仰ぐ。 「来たか!」 「ぬぅ!?」 異変を感じたヴリトラが、フルンティングを振るう。放たれる炎波。けれど、全てを嘗め尽くす筈のソレは降り落ちる青燐の中で瞬く間に枯れ消える。 続けて、溶岩。結果は、同じ。 「ならば!」 術者諸共。カグヤ達を薙ぎ払おうとしたその時、地を割って飛び出す影。八つ。ナツキが、叫ぶ。 「ルーノ、あれ!」 「『火雷大神』!」 それは、古の荒神。彼女の、魂の具現。 「そうか……」 微笑む、ルーノ。 「来てくれたのだね……。貴女も……」 そう。 彼女もまた、未来を願う仲間だから。 「うぉおお!?」 黒雷を纏った獣牙に動きを封じられたヴリトラが、呻きを上げる。 「此れは……人が、此れ程の……!」 上げた視線の先に、蝶が舞う。燐火の中から鳴る、虚神の歌。 「……フ、ファハハ……そうか、そうか……」 全てを悟り、理解する。 「神を捻じ伏せ、死すら牙とし、業を背負い、尚生き足掻く。それが、人の生き様……」 ゆっくりと持ち上がる、白痴の面。 「悲しい事だ……。辛き道だ……。だが……」 開く、青燐の目。邪視。 「素晴らしい事だ!」 貫く、告死。 全てを受け入れ、偽りの石皇は砂と帰す。 確かな答えを、焼き付けて。 死が、巡る。 群魔の軍勢(レギオン・アーミー)、戦闘継続能力・崩壊。 ◆ 「これが、イザナミの権能……。味方につけると、何と強力な……」 リンファが感嘆の声を漏らした時、それが聞こえた。 静かに唸る、ステラの声。 「ステラ……?」 「くる……」 「え……?」 戸惑いの向こう。 歯車が、回る。 (……テュポンとヴリトラが、堕ちましたか……) 昏い輝きの中で、彼女は思う。 (ならば、おいでなさいの。子羊達。わたくしの、元へ。証を、届けに……) 何処か嬉しげだった顔が、ふと曇る。 (無粋な……真似を……) 戦っていたスケール5が膝を付くのを見て、ベルロックは刃を止めた。 肩で息をしながら、ベリアルの男は言う。 「……お前達の、勝ちだ……」 周囲を見回す。戦いの音が、止んでいた。 「殺すがいい……。我らを。同胞の、仇を。其れがお前達の、権利だ……」 「……決めるのも、俺達の権利だ」 悔しげな、それでも何処か清々しげな男にそう告げ、ベルロックは刃を収めた。 『ソレ』は、見ていた。 全てを。 全部を。 そして、結論付ける。 行動、開始。 淡々と。 ただ、淡々と。 「……え……?」 ピクリと動く、ナツキの耳。 「どうした? ナツキ」 ルーノの問いに、答えは返らない。 彼は、見つめる。 その、方向を。 「……ラス……」 「ああ……。まさか……」 ラニの身体が震える。 忘れない。 忘れる、筈がない。 この、冷たい殺意。 「これ……? え……」 サクの見つめた空間。 ピシリと、割れる。 誰かが叫んだ。 砕ける空間。 迸る、白の極光。 触れた全てを蒸散させ、一直線に。 射線上にいたベルロックを、ベリアルの男が突き飛ばす。ニヤリと笑む彼を飲み込み、真っ直ぐ地平の果て。 思わず伸ばした手。欠けた刃だけが、ポトリと落ちた。 「何だ……アレは……」 稼働音と共に、割れた空間から現れた『ソレ』。ショーンが、息を飲む。 「ヨハネの……使徒……? 大きい……」 レオノルの声も、震える。 「ベリアルの連中まで、巻き込みやがった……」 「仲間じゃ、ないの……?」 (……馬鹿な事、言わないでいただけますの?) エフドとラファエラの呟きに、思念が答える。 「コッペリア……!」 「どういう、事だい……?」 (使徒はあくまで、主の創った『道具』。従者と庭の掃き帚を一緒にされては、たまりませんの) シリウスとクリストフに不本意そうに答え、魔姫は続ける。 (アレは、『支配皇機・デウスマギア』。世に放たれた全ての使徒を統率する、マスター機ですの) 「全ての使徒を……統率……?」 「じゃあ、アイツのせいで村やシィラが……」 震える、ラニとラス。 (本来なら、主の統制下にあるのですが。主があの様になったせいで、自立行動を始めましたのね。まあ、ぶっちゃけ……) キッパリ。 (『道化』のせいですわねぇ) 「……メ・フ・ィ・ス・ト……」 「余計なオマケ付けてんじゃないわよ! あのポンコツ魔女ー!」 キレるトールとリコリス。 風評と言えないのが、何とも。 不気味に稼働するデウスマギア。その周辺にも、ヒビ。割れ目を広げ、次々と這い出して来るヨハネの使徒達。 「まずい!」 「皆、もう……! 止めないと!」 (何処に行きますの?) 冷たい、コッペリアの声。皆の足が、止まる。 (まだ、終わってませんのよ?) 「コッペリアさん……」 悲しげなリチェルカーレの声も、切り捨てる。 (不測とは言え、全ての事象は必然。ならば、此れも人が超えるべき課題。叶わなければ、せめても……) 冷酷に、告げる。 (ベリアル(わたくし)が、滅ぼします) 沈黙。 やがて、クリストフが告げる。 「行ってくれ」 「クリス……」 躊躇うシリウスの肩を、イザークが掴む。 「……死ぬなよ。ここまで来て」 「当然さ」 頷き合い、別れる。 果たすべき、最後へ。 「コッペリアさん……」 少しだけ振り返り、アリシアが呟く。 「出来る事なら、貴女とも手を取り合いたかった……。ブリジッタさんや、あの方達とは、それが出来たのだから……」 せめても、届けば。 「任せた」 「ああ」 頷き合い、拳を打ち合わせるルーノとナツキ。 走り出そうとしたナツキを、すれ違うラニとラスが呼び止める。 「すまない、ナツキ。オレ達の分も、持って行ってくれないか?」 「ラス?」 「ホントは……、あたし達でぶっ壊してやりたいんだけど……」 使徒達を睨み、悔しげに。 「やらなきゃいけない事、あるから……。あたし達だけじゃなくて。皆の、為に……」 二色の瞳。 そこにあるのは、かつての憎悪に染まったソレではなく。守る決意に満ちた光。 そう。彼女達には、もう。 「分かった、任せてくれ!」 「お願い」 「頼む」 また拳を打ち合い、走り出す。 そんな彼に、追随する者達。 「……友に心願を託されるか。武士冥利に尽きるな。ナツキ」 並ぶ『源隆斉』が、笑う。 「ならばその誉れ、我らも分け前に預かるとしよう」 『万斉』も、また。 「大丈夫なのか? 皆だって、もう……」 「侮るなよ。これしきの傷や疲労、如何程のモノと?」 『茜』も、不敵に。 「使徒殺しは得手。存分に散らします」 力強く、『葵』。 「我ら、『真神武士団』の御名において!」 付き従う猛者達が上げる、時の声。 まだ、絶えない。 力も。 想いも。 「黒幕にしては、力技ね。カレナとアジ・ダハーカみたいな陰湿なネタはもうなし? なら、悪趣味なゲームは終わりよ」 目の前で渦巻く『境界』を見上げたラファエラが、ボロボロの体で笑む。 踏み出す前。 「俺がやられる前に、済ましてくれよ?」 エフドの軽口に頷いて。 「コッペリアが何か言ってきたら、唾を吐いてあげて。貴女達のやってる事は、余計なお世話なのよって」 リコリスの言伝に苦笑して。 「絶対、守るからね!」 ラニの言葉に、『頼む』と返して。 踏み入れる。 最後のベリアル。 神の審判者が待つ、その場へと。 「来ます!」 リンファの声に、散開する。 一瞬遅れて迫る、極光。触れた万物が、蒸散する。人も。ベリアルも。 「……ベリアルまで滅ぼすつもりか……?」 「用済みって事? いや……」 乾いた笑みを浮かべる、リントヴルム。 「そもそも、そんな感情もありゃしない……か」 「そんな、モノに……」 ベルロックの心が、燃える。誰の為かは、分からないけど。 砲撃の後を追う様に、レーザーをばら撒きながら迫る使徒達。前脚が跳ね上がり、展開する光刃。黒炎を残していた者達は、解号を。ヘスティアの力を、願う。尽き欠けの力。少しでも。ルーノが呼ぶのは、三柱の御名。空が、輝く。 『……戦士の戦いに、泥を塗るか……』 『……お仕置きが、要り様でありんすなぁ……』 『ここで終わりになんて、させない……』 『軍神・オーディン』。 『覇天の雷姫・アディティ』。 『ヴァルプルギスの守神・リシェ』。 三柱が落とす、裁きの権能。 迸る雷撃と、緑風の刃。そして。 流れた星々が戦士となって、全ての使徒に深い一刃を与える。 『ワイルドハント』。天に導かれた魂の、帰還。 一機の使徒を捻じ伏せた魂が、駆け抜けるクリストフに呼びかける。 『……生きろよ』 「……ああ……」 いつか交わした、約束。 もう一度。 目を開ける。 煌めきの向こう。待っていた。 薄く笑って、手を上げる。 優しく。 愛しく。 迎え、抱く様に。 囁く意思は、一つだけ。 「さあ、いらっしゃい」 「……初めて会った三強だから、最後の挨拶くらいしたいわねぇ……」 彼女がいる筈の方向を見ながら、呟くサク。でも、すぐに向き直って。 「そんな暇、なさそうだけど」 「ちょっとサクラ、何してるんですかー!?」 喚くキョウに『ハイハイ』と答え、弓を構える。 「じゃあ、気分良く殺させてねぇ」 滾る憎悪を、解き放つ。 目の前に現れた、巨大な紫の結晶。煌めきの中に立つ少女に、イザークは告げる。 「待たせたな。コッペリア……」 少女は微笑んで、手招く。 作法は、知っているだろうと。 取り出す、ライム・ブルーム。 解号。 カグヤ、リチェルカーレ、シリウス、令花、和樹、そして、あおい。 頷き合い、手を伸ばす。 輝く鏡面。映る自分に捧げる様に。 押し当てた、黒炎。 手。 光の向こう。魔姫が笑む。 「皆、受け取って!」 ボロボロのセルシアが、宙に向かってダガーを放つ。転移を願い、送る先は皆の元。突き刺さる毒。力と変わる。 雄叫びと共に、ぶつかり合う黒炎と光刃。 圧倒的な戦力。潰える寸前の、力。 削られる、命。 それでも。 「斬り倒せというなら、いくらでも相手になってやるぞ!」 刃をぶん回しながら怒鳴るクォンタム。 使徒より彼女にビビる、魔法少女一同。 「殺せばいいのか? いや、違うな? 壊せばいいのか? あぁ、やってやろうじゃないか!」 「……うーん……。相棒が敵の多さにキレたー。こわーい!」 流石にちょっと引きながら、後ろを見るメルキオス。 (……さて、間に合うかなぁ……?) 「おい!」 相棒の声に振り替えると、発射態勢に入った主砲。 「やばっ!」 咄嗟に避けた後を貫く閃光。追って、何体かの使徒が抜けていく。 「あっちゃー!」 「何やってる、馬鹿者!」 思いっきり、ぶん殴られた。 フィーニスは、世のあらゆる事象から生ずる『負』の結晶。 万物への否定である其れは、触れたモノ全てを否定する。 流れ込む、負。 蝕まれる心。苦悶を、上げる。 霞む目で、隣りのシリウスを見たリチェルカーレ。彼の手が、刃を握りしめている。 止めようとは思わない。彼も、望みはしないから。 手を重ね、握りしめる。この痛みも、共に。 「コッペリアさん……」 輝きの向こうの、彼女に囁く。 「わたしは、逆だと思う……。悪意も弱さも、相手を想う気持ちがあれば乗り越えられる……」 あえかな、願い。だけど。 「完璧じゃなくていい……お互いが、助け合えれば……」 無理じゃない。証明してきた。してくれた。 「わたしは今を……そんな未来に繋ぎたい……」 「そうだ……」 シリウスの、声。 「……他でもない彼女が、未来を信じるのなら……」 握り返す、手。 「神ではなく……俺は、リチェの願いにかける……」 否定は、無かった。見つめるその目が、不思議と優しくて。 嬉しかった。 「大丈夫か……? 和樹君、令花君……」 「大丈夫……です……」 「こんなモン、どうって事……ねぇ!」 苦悶の中、気遣うイザークに笑顔を返す二人。 「お師匠様だって……やったんだ……」 「大事な人の……為に……」 だから。 「だから、オレも……」 「私も……」 大事な、世界の為に。 「みんなで半分こです(だぜ)!」 不思議と、怖くなかった。 マヤと、イザークさんがいるから。 伝わる、心配。それでも、『行こうか』と言ってくれた。 だから、答える。『はい、行きましょう』と。 そう。 何処までも。 「あおい……」 「大、丈夫……やれます……」 返す声が、擦れる。 覚悟はしていたけれど、引きずられる。 引き離そうとする彼に、『駄目』と言う。 「世界を守る為なら……任務の為なら……」 言いかけて、やめた。 そうじゃない。 本当は。 「……いいえ…それだけでは、なくて……」 言わなきゃ。 「イザークさんと、クリスマスのあの日に約束したから……」 この人と、ずっと。 「私は……」 その為に。 「私は、貴方と、歩んでいきたい!」 驚いた、彼の顔。そして、本当に嬉しそうに。 「……プロポーズ、確かに受け取ったよ」 言って、くれた。 「プロ……イ、イザークさん! 最後まで気を緩めないで下さい!」 真っ赤になる彼女が、心から愛しい。だから、言う。 「そう言う訳だ。コッペリア」 キッと見据えて。 「終わりにさせて貰うぞ。俺達の未来の為に!」 コッペリア。呆れ顔。 「何を今更……。散々、言ってたでしょうに」 ん? 「……何を、言っている?」 「だから、魔術真名とやらで毎回言ってたですの。アレの意味は……」 全身の血が一気に下がって、上がる。 「ま、待て! 貴様、分かるのか!?」 「伊達に頭脳労働専門やってませんの。と言うか、教えてませんでしたの?」 「い……いや、それは……!!!」 負の権能以前の問題で逝きそうなイザークを眺め、フッと笑うコッペリア。 「まあ、わたくしが言うのも野暮でしょうし。自分でお言いなさいの」 「お……恩に着る……」 楽しそう。 「……来たぞ」 「まあ、想定通りね」 エフドとラファエラが、防御線を抜けて迫る使徒の群れを見据える。 「さて、フラグ折りと洒落込むか……」 「何?」 「いや、何でもない」 お返しは、まだ早い。 「通さないよ。いくらだって倒す。いくらだって、なぎ倒してやる」 「……随分と、脳筋だな」 「何とでも言ってください。そうやって切り開いて、此処に居るんです」 何か辛辣なカグヤの父に、そう返して胸を張るヴォルフラム。 「お義父さんこそ、死なないでくださいよ。孫の顔、見たいでしょ?」 「誰がお義父さんだ。まだやるとは言ってない」 「いえいえ。カグちゃんはもう、僕のモノですから」 「……おい、お前ら何処まで……!?」 笑い堪える、姉二人。 「……やらせない。もう二度と、アンタらなんかに奪わせない!」 「あの時のオレ達じゃない。守って見せる……。今度こそ!」 握り締めるラスの目に、迫る機影。閃き、降り注ぐ閃光。切れた頬が血を散らしても、構いやしない。 「来い! ガラクタぁ!!」 天叫の双刃が、吼えた。 「うおお!」 猛攻を仕掛ける使徒に、渾身で抗うベルロック。 「奴らは、敵だ……。交わる余地もない、敵だ……」 感情のない、レンズの眼。今際の、笑みが重なる。 「それでも、貴様らにだけは!」 輝くレンズ。閃光が穿つ瞬間。 弾く、タロット・ウォール。絡む、シャドウバインド。貫く、拳撃。 崩れる使徒に、ベルロックが止めを刺す。 「貴方の怒りは……」 「私達の怒りです」 「一人で気張っちゃ、駄目だよ」 傷ついた顔で笑う恋人達に、感謝と共に頷いた時。 叫ぶ、アリシアの声。 デウスマギアが、砲門を開く。同時に、四方に展開した使徒達も発射態勢。 一掃殲滅の布陣。 逃げ場が、ない。 「鬼門封印を……。皆さんは、逃げて……」 「……馬鹿を、言わないでくれ」 覚悟を決めた顔で立つアリシアに、クリストフが寄り添う。 「約束したんだろう? エルリアに」 「クリス……でも……」 「俺だって、望んでるんだよ?」 「……!」 俯く彼女の頬を、撫でる。 「行こう、未来へ。二人……いや、皆で」 「……はい」 重ねた手が、ロキを掲げる。 せめても。いや、決して。 「……やらせねぇ……」 血を吐きながら、ナツキが呟く。 「任せたって、言われたんだ……」 ルーノの顔。仲間の顔。そして……。 「絶対に、やらせねぇー!」 襲い掛かる使徒を、渾身で断ち割る。 散り飛ぶ残骸の向こうで、溢れる極光。飛び出すネメシスが見える。防ぎ切れない。 慟哭が、響く。 気づいたのは、彼女だった。 「ああ、そうですの……」 ちょっとだけ、溜息をついて。 「まあ、好きになさいの……」 呟く声は、誇らしく。 落ちた巨盾が、極光を弾いた。 回る鎖刃が、使徒を裂いた。 呆然とする彼らに、笑いかける。 『へえー。アリシアさんが、お嫁さんっスか』 『この非常時に、見せつけるモノです』 夢かも。 幻想かもしれないけれど。 今確かに、『彼女達』はいた。 ほんの少し紡いだ、絆を辿って。 『……この者達は、認めし宿敵……』 『魂無き木偶にくれてやる程、安くはない』 使徒のコアを貫いた手刀を引き抜き、四人の闘士が告げる。 「君達、は……」 ヴォルフラムに、かける声。 『久しいな。戦士よ』 「あんた……」 「どういう、事だ……?」 『どうもこうもねぇよ』 訳が分からないエフド達。ぶっきらぼうに。 『払ってやらぁ。『名前』の、代価くらいな』 不貞腐れた『蝗帝』が、不機嫌に使徒を蹴り飛ばす。 「何なのよ……? どうして……」 『頼まれました。貴女の『母』と、生まれぬ『兄弟』に』 戦慄くリコリスに、雲雀の姫は答える。 「何言ってるのよ!? ママは……ベリアルに……皆、あんたが!!」 『そうです。私が殺しました。ベリアルの、『私』が。確かな、事実です。そして……』 肩越しの瞳が、隣りの彼を見る。 『貴女の母がいたから、私が生まれた。それも、事実です』 「……!」 『許しは、乞いません。意味も、ありません。ただ、今は……』 ――『あの方』の、為に――。 羽ばたく翼。 託された、願いは一つ。 『勘違いすんじゃねぇぞ』 声も出ない皆に、『最強』だった『彼』が言う。 『贖罪だの、理解だの、そんな糞くだらねぇモンの為じゃねぇ……。俺達を負かした連中が、ガラクタなんぞにかっさらわれんのが我慢ならねぇ。これは……』 上げた親指が、ビッと自身の胸を示す。 『俺達の、誇りの問題だ!』 一同、唖然。 コッペリアが、ククッと笑う。 「役目を解かれても、相変わらず脳筋ですのねぇ……」 『うるせぇ。お前はお前のやる事やっとけ』 「はいはい」 向き直る、彼女。 「もう、言い訳は通じませんの……」 ニヤリと笑む先。理解し、頷く皆。最強が、吼える。 『てめぇら! さっさと片付けろ!!』 「これは……」 変容していくロキに戸惑う、クリストフ。 宿った、『陽光』が説く。 『ま、こーゆー事っスよ。お貸しするっス』 そして、見つめるアリシアにも。 『アリシアさん。『約束』、っス』 涙と共に、頷く。 「いいのか……?」 『ソレは、此方の台詞でして』 問うナツキに、答える『月影』。 『わたくし達の助力など、不本意でしょうが。『あの方』の意向ですので、ご理解ください』 「そうか……」 微笑む、ナツキ。 「会えたんだな……」 『……はい』 あの時の、想いは確かに。 「トール……」 「すまない、ララ。理解れとは言わない。それでも、俺は守りたい」 『彼女』が宿った弓を構え、トールは告げる。 「自分達の選んだ道を信じて、ここまで来たんだ。今更後戻りは出来ないし、神様に言われたからってはいそうですかと従う気もない」 空に向ける弓。流れる歌。舞う、羽。 「俺は、リコと……」 広がる、翼の円陣。吼える。 「ララと一緒に、この世界の明日が見たい!」 『そして、それが……』 重なる、雲雀の歌。 ――あの方の、願い――。 吹き上がった羽の風。無数の星となり、降り注ぐ。 取り囲む使徒達の、一斉射撃。 掲げ上げる、ロキ。 展開する、無数の円陣。全ての閃光を残らず受け止め、余さず返す。威力を増したソレは自在に走り、回避も許さず尽く。 砕け散る使徒の中を、一匹の獣が抜ける。振り上げる、パイルバンカー。狙いは、デウスマギア。 唸る鉄杭が、皇機の守りを挫く。 「行っちゃえ! ナツキさん!」 カレナの声に答えて、一匹のワイバーンが舞う。 反応したデウスマギアの砲門が、上を向く。 飛び降りる、ナツキ。 「行くぞ!」 『熱血は柄ではありませんが、合わせましょう』 放たれる極光。突き降ろすホープ・レーペンの切っ先に広がる円陣。回転し、光を潰し散らす。そのまま、一気に。 「これが、皆の分! そして、ラニとラス達の分だ!」 突き刺した刃。吹き上がる、青の炎。 「堕ちろぉおおお!」 砕け散る、コア。 理解不能のノイズを上げて、神の玩具が爆散した。 『……もう、答えなんざ出てんだろ?』 「まあ、そうですわねぇ……」 降り注ぐ星の中、立ち向かう者達を見つめる。 もう、揺るがない。 崩れない。 続けるだけ、無駄。 結晶の表面に、ヒビ。だんだんと、広がって。 「やれやれ。全く、我儘だったら……」 笑う声は、何処か安らかで。 「残るは、主だけ。せいぜい、頑張りなさいの。無様だけは、晒さない様に」 欠け行く結晶。彼女も、共に。 『勘違いすんじゃねぇぞ。此れっきりだ。主との喧嘩には、手出ししねぇからな』 当たり前。 強く、頷く。 「じゃ、楽しかったですの。子羊達」 彼女が告げた、その時。 「コッペリア!」 聞こえた、ラニの声。 「一つだけ、アンタに言いたい事があって!」 傾げる、小首。 「今更だけど……とっても、今更だけど!」 ちょっとだけ、悩んで。 「……あんたとは、甘味の趣味は合ったわね! それだけ残念、そんだけ!」 「……誘いに乗ってやれなくて、悪かったね。『兄弟』……」 続いて、ルーノ。 「また、会おう。未来で!」 ちょっと、微笑んで。 それが、最後。 全ては、夢の光と消えた。 「終わった、のか……?」 真っ青に晴れた空を仰ぎ、呟くステラ。 喜びは、ジワジワと。 「か……かかっ……勝った~!!」 弾けて、隣りで呆けるリンファに抱き着く。 「むぶっ!? ス、ステラ! 苦しいです……」 もがきながら、抱き締め返して。 「でも、本当に勝ったんですね……。えへへ……」 歓喜の声は、後。 今は、この安らぎを。 未来に託した、祈りと共に。 教会の、鐘が鳴った。
|
||||||||
![]() |
![]() |
![]() |
*** 活躍者 *** |
|
![]() |
|||
該当者なし |
| ||
[65] 鈴理・あおい 2020/10/29-23:56
| ||
[64] 桃山・令花 2020/10/29-23:55
| ||
[63] エフド・ジャーファル 2020/10/29-23:45
| ||
[62] ルーノ・クロード 2020/10/29-23:06 | ||
[61] ルーノ・クロード 2020/10/29-23:06
| ||
[60] クリストフ・フォンシラー 2020/10/29-21:30
| ||
[59] リチェルカーレ・リモージュ 2020/10/29-21:15
| ||
[58] ルーノ・クロード 2020/10/29-19:07 | ||
[57] クォンタム・クワトロシリカ 2020/10/29-18:25 | ||
[56] カグヤ・ミツルギ 2020/10/29-18:10
| ||
[55] リコリス・ラディアータ 2020/10/29-12:42 | ||
[54] クォンタム・クワトロシリカ 2020/10/29-01:43
| ||
[53] ルーノ・クロード 2020/10/29-00:22 | ||
[52] タオ・リンファ 2020/10/29-00:02 | ||
[51] クリストフ・フォンシラー 2020/10/28-23:32 | ||
[50] クリストフ・フォンシラー 2020/10/28-23:27 | ||
[49] ラニ・シェルロワ 2020/10/28-22:44 | ||
[48] 桃山・令花 2020/10/28-22:30 | ||
[47] リチェルカーレ・リモージュ 2020/10/28-22:01 | ||
[46] リントヴルム・ガラクシア 2020/10/28-21:36
| ||
[45] ショーン・ハイド 2020/10/28-21:26 | ||
[44] 桃山・令花 2020/10/28-15:22
| ||
[43] エフド・ジャーファル 2020/10/28-13:19
| ||
[42] ルーノ・クロード 2020/10/28-02:14 | ||
[41] クリストフ・フォンシラー 2020/10/27-23:47 | ||
[40] シリウス・セイアッド 2020/10/27-23:43 | ||
[39] クリストフ・フォンシラー 2020/10/27-23:34 | ||
[38] キョウ・ニムラサ 2020/10/27-22:59
| ||
[37] イザーク・デューラー 2020/10/27-02:11
| ||
[36] イザーク・デューラー 2020/10/27-01:49
| ||
[35] ナツキ・ヤクト 2020/10/27-01:30 | ||
[34] アリシア・ムーンライト 2020/10/26-23:28
| ||
[33] ショーン・ハイド 2020/10/26-23:27 | ||
[32] リコリス・ラディアータ 2020/10/26-23:01 | ||
[31] クリストフ・フォンシラー 2020/10/26-23:00 | ||
[30] リントヴルム・ガラクシア 2020/10/26-09:29 | ||
[29] ナツキ・ヤクト 2020/10/26-02:10 | ||
[28] ルーノ・クロード 2020/10/26-01:59 | ||
[27] クリストフ・フォンシラー 2020/10/26-00:30
| ||
[26] クリストフ・フォンシラー 2020/10/25-23:55 | ||
[25] クォンタム・クワトロシリカ 2020/10/25-23:33
| ||
[24] シリウス・セイアッド 2020/10/25-22:11 | ||
[23] シリウス・セイアッド 2020/10/25-21:48 | ||
[22] サク・ニムラサ 2020/10/25-19:59
| ||
[21] 桃山・令花 2020/10/25-06:27
| ||
[20] 桃山・令花 2020/10/25-06:25
| ||
[19] 桃山・令花 2020/10/25-06:19 | ||
[18] ラニ・シェルロワ 2020/10/25-00:31 | ||
[17] リコリス・ラディアータ 2020/10/24-22:54 | ||
[16] シリウス・セイアッド 2020/10/24-22:53 | ||
[15] クリストフ・フォンシラー 2020/10/24-21:48 | ||
[14] クリストフ・フォンシラー 2020/10/24-21:42 | ||
[13] 鈴理・あおい 2020/10/24-17:22
| ||
[12] ルーノ・クロード 2020/10/24-12:16 | ||
[11] リチェルカーレ・リモージュ 2020/10/24-11:10
| ||
[10] ショーン・ハイド 2020/10/24-10:28
| ||
[9] シリウス・セイアッド 2020/10/24-09:47 | ||
[8] クリストフ・フォンシラー 2020/10/24-09:12 | ||
[7] カグヤ・ミツルギ 2020/10/24-01:58 | ||
[6] クリストフ・フォンシラー 2020/10/23-23:58 | ||
[5] クリストフ・フォンシラー 2020/10/23-23:57 | ||
[4] メルキオス・ディーツ 2020/10/23-20:35 | ||
[3] リチェルカーレ・リモージュ 2020/10/23-19:33 | ||
[2] カグヤ・ミツルギ 2020/10/23-01:18
|