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教皇国家アークソサエティに本部を置く薔薇十字教団。
教団本部には時計塔を中心に浄化師たちの生活拠点である寮をはじめとし、病棟や魔術学院などの重要な設備が設けられている。
時計塔から西部に向かってある魔術学院――通称「カレッジ」は魔術知識と読み書きを習う学校であると同時に図書館としての役目も担っている。
教団に存在する魔術について記された魔導書から一般書籍まで保管されている。浄化師はフリーパスで入館でき、そこで魔術や一般教養を学んだり、読書をしたりするために利用されている。
浄化師になりたての喰人と祓魔人が、魔術学院を訪れた。
目的は人によって様々だろう。
これから教団で活動していく上で必要な知識を得るために来たものもいれば、暇をつぶしにここにやって来たものもいる筈だ。
魔術学院で貪欲に魔術の知識を得ようと行動するのもいいし、これを機に一般的な教養と知識を学ぶのもいいだろう。
過去の事件データを読み解くことで、先人の知恵を学び、敵の情報を得たりもできるだろう。あるいは過去に巻き込まれた事件の記憶を振り返ることもあるかもしれない。
息抜きに娯楽小説を読書してゆっくりと過ごすのもいい。あるいはパートナーとの仲を深めるために1階にあるカフェテラスで談笑してみるのもよい。
どのように過ごすかは君たちの自由だ。有意義な一日になることを祈る。
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草木もゆる春。世界を股にかけ若者に大人気の旅の劇団「梟の眼(まなこ)団」が四年振りに教皇国家アークソサエティ「ブリテン」のエクリヴァン観劇場に帰ってくる。
この春の一大イベントで、国中のファンが注目する待ちに待った公演だ。
もちろん公演初日のチケットはプラチナチケットとなった。
エクリヴァン観劇場の魅力は、何といっても本格的な劇場にはない、屋外劇場であるがゆえの気軽さと公演を盛り上げる劇場周囲のフェスティバルさながらの賑やかさだ。
公演中、劇場の周囲はたくさんの屋台が並び、花火や幻燈など梟の眼団の舞台以外のお楽しみもたくさん催される予定で、カップルのデートプランとしてはこの上ないイベントになるだろう。
それに今度の公演の演目は「幻のラブロマンス」と言われる「ポーポロの紅い薔薇」。数々の苦難と周囲の妨害を乗り越え、ブリテンの貴族と城下町の針子が身分を超えた真実の愛を貫く物語。
あなたたちは、このプラチナチケットをペアで入手する幸運を得た。
絆をさらに深めるのにもってこいのこのデートプランを、あなたたちは互いにより充実したものにしたいと思っている。
屋台に、数々の余興に、そして感動的な舞台。劇場周辺のお祭りムードは否応無しに盛り上がる。
そんなシチュエーションの中、あなたたちは楽しい思い出を作り、観劇の感動を共有します。
あなたたちの絆はどこまで深まり、恋はどこまで進展するのか?
二人に恋の女神のご加護を!
健闘を祈ります。
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教皇国家アークソサエティ南部の大都市・ルネサンス。
賑やかな商店街の一角に佇むカフェで、あなたはパートナーと向かい合って座っています。
黙々とカップを口元に運ぶパートナーはだんまりを決め込み、対するあなたはパートナーとは対照的で注文した飲み物が全く喉を通らない、そんな状況です。
「なぁチャコちゃん、頼むから機嫌直してくれよぉ……」
「あぁ? テメェが明日の朝食用に取っておいた卵を全部食ったのが悪ぃんだろーが! 朝から晩まで筋肉の事しか考えねぇこの筋肉バカがっ! 機嫌直して欲しけりゃ食った卵全部吐き出しやがれっ!」
ついたてで仕切られた隣のテーブルからは、どこかしゅんとした様子の男性の声とドスの聞いた女性(たぶん、きっと)の声が聞こえます。
(ああ……何か次元は違うみたいだけれど、似たような状況だ……)
反対隣からも……
「マヤ! ワタシがいるのにあんな女と馴れ馴れしくして、許せないワヨ!」
「違うんだカイヨ、彼女とは何もないって!」
と、修羅場感満載の口論が。
(ああ……反対側も、事情は違えど状況は近いかも……)
あなたは溜め息を吐きました。
そう、あなたも今まさに、不機嫌なパートナーを前にして「機嫌を直してくれ」と言いたい、そんな状況なのです。
「まあまあアキラン、そんなに怒らないで? ケンスッケだって、悪気があった訳じゃないんでしょ? 二人とも、晴れて浄化師になれたんだから、明日の卵より今日の夕飯をいかに美味しく食べるかを考えなさいな」
どうやら、隣のテーブルには見るに見かねた教団員の女性が仲裁役としてついてきていたようです。
ていうか……こいつらも自分たちと同じ浄化師なのか、マジかっ!
「カイヨ、君が見た女性は教団に助けを求めてきた村の村長さんの娘だよ。ベリアルを倒した礼を言いに来てくれただけで、君にもよろしくって言ってたよ。嘘だと思うなら、教団員に確認すればいいさ」
反対側も反対側で……浄化師かっ!!
って、そんな事より面前のパートナーの機嫌をどうするかが問題なのですが……。
……
…………
「……分かった。こっちもつい腹を立ててごめん。もう行こう? 今日は美味しい夕飯を食べよう」
どうやらあなたのパートナーは、機嫌を直してくれたようです。
あなたもようやく安堵の笑みを浮かべ、パートナーと手を繋ぎカフェを出ました。
空はすっかり橙に染まり、もうすぐ夜の帳も降りるでしょう。
パートナーとの楽しく美味しい夕飯の時は、すぐそこです……。
さて、あなたのパートナーは一体何が原因で不機嫌になっていたのでしょうね?
そして、何をきっかけに機嫌を直してくれたのでしょう?
こうした些細な日常も、浄化師として歩み出したあなたたちの軌跡を彩る素敵な思い出の一部になる筈です……。
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「教皇国家アークソサエティ」ルネサンス内のヴェネリアに水上マーケットがあるのはご存知だろうか?
そこは船で巡っていく市場であり、それ自体が珍しいというのもあるが時に珍しい品が置いてある事でも知られている。
世界各地から隊商が運んでくる品の中には、骨董品のような物もあるし、希少な物もある。
一つの国の色に染まらない水上の市場は、船で巡るという性質上、賑やかでありながら緩やかな空気を持っている。
デートを兼ねて訪ねてみたら、何か珍しい物があったり、相手の琴線に触れるプレゼントに向く物が見つかるかもしれない。
ちなみに水上マーケットなだけあって、内部には海産物を食べられる食堂が沢山あるが、それと同時に世界各地の美味しい物も楽しめる。
歩き疲れたりしたら、それらの食堂で何か食べて休憩するのも良いのではないだろうか。
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ある日の昼下がり、とある浄化師の2人が教皇国家アークソサエティのエトワール地区にあるピットーレ美術館を訪れていた。
喰人が最近気になっている新人画家の絵が期間限定で展示されていると知ったからだ。
心地良い静寂に包まれた館内を、目当ての絵画だけではなくひと通り鑑賞した2人は、出入口付近に設けられた特別催事場に、「絵画講座」という小さな看板が立てられているのに気が付いた。看板の端には、ご自由にご参加ください、と小さく書かれている。
木製パネルが架けられたイーゼルが並んでおり、一般参加者とみられる人々が数人、絵画用木炭を手にパネルに向かっていた。
イーゼルの間を歩き参加者にアドバイスをしている青年は……例の、最近気になっている新人画家その人だった。
講座の様子を見ていた喰人の視線に気づいた新人画家は、顔をあげるとにっこり微笑み、
「あなたたちもいかがですか。今日は人物の顔の描き方について教えています。お互いをモデルに、絵を描きあってみませんか」
と声をかけてくれる。
お互いの顔を描く。
喰人と祓魔人は思わず顔を見合わせた。
「面白そう」
「やってみようか」
お互いにイーゼル越しに向き合って、木炭を手に握る。
相手の顔をこんなにじっくり観察するのは初めてかもしれない。
綺麗な二重。長い睫毛。
よく見たら、この人前髪の一部が少しくせ毛だ。思わずくすっと笑みがこぼれる。
新人画家から時折アドバイスを受けて、2人はそれぞれ木製パネルに描いた木炭画を完成させる。
出来上がった絵を、お互いに見て。
「あなた、意外と器用なのね」
「君って……ええと、独特のセンスがあるね」
「……いいのよ、無理に褒めてくれなくっても……」
そんなやりとりに新人画家が笑う。
どちらも、相手をよく見て描いた素敵な絵だと言って。
そして2人は画家にお礼を言って、美術館を後にした。
彼の目が好きだとか。
彼女の唇の形が魅力的だとか。
彼の真剣な表情が少しカッコ良かったりとか。
彼女が実は絵が苦手だったりとか。
今日は、初めて知ったことがたくさん。
お互いのことを、昨日よりよく知ることができた、そんな一日だった。
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――これは、世界のはじまりの物語。
そして、ふたりの紡ぐ物語に捧げる、はじまりの歌。
あなたの生きる世界、アースガルズ。その世界はいま、大いなる脅威に晒されている。
だがその発端となる事件は、ほんの小さな出来事だった。
はじめに神は、世界を創り給うた。
ヒューマンは他の生物や種族と絆を深め、愛を育み、それによってライカンスロープやエレメンツ、デモンなどの種族が誕生した。
しかしヒューマンの持つ強い正の感情は、同時に強い負の感情――憎しみや悲しみをも生み出していた。
あるとき、ヴァンピール達を「悪魔の使いである」とする一部の者達が、ヴァンピールに対する迫害を開始した。
これにより彼らは多くの同胞の命を失ったが、彼らは迫害から逃れるために常闇の国『シャドウ・ガルテン』を作り上げると、他種族の暮らす住処から去った。
当初ヴァンピールにのみ向けられていた差別意識は、被差別種族の消失によって矛先を失い、徐々に「異質な存在」を攻撃する事に目的が変化していくこととなる。こうして小さな火種は瞬く間に燃え広がり、各地で燻っていた炎は遂にアースガルズ全土を焼く戦争へと発展した。これがのちに『ロスト・アモール』と呼ばれることとなる、全てのはじまりの事件だ。
ロスト・アモールによる戦火の拡大は、世界の大きさに比べるとあまりにも速かった。大戦はヒューマンが他種族との間に築き上げた絆と愛とを失わせ、神の創造し給うた美しきアースガルズは死と憎しみで満たされた。
こうして人間はいつ終わるとも知れぬ戦乱に明け暮れていたが、その血と炎の日々は唐突に崩れ去った。突如として世界に出現した『希望の塔』から『ヨハネの使徒』が、そして『アシッド』から『ベリアル』が生み出されることによって。
ヨハネの使徒は、人間のみを狩るために存在する異形の怪物だ。この怪物は人間の所業に怒った神が、それらを滅ぼすために希望の塔より遣わしたと考えられている。ヨハネの使徒が天使を連想させるような白い姿をしていることが多いのも、この説の信憑性を高めている一因だろう。この怪物が行動する理由は、たった一つ。それらは生ある人間を、種族を問わず殺戮することのみを目的としている。
いっぽうベリアルは、生きとし生けるものを殺し、その魂を喰らうことを目的としている魔物だ。それらは怒れる神が地上に降らせた雨『アシッドレイン』によって生み出された瘴気、アシッドの影響で発生している。この霧状の瘴気を少しでも吸い込むと、魂は拘束されてこの世に留まり続け、肉体はベリアルそのものへと変化する。そうして生み出される怪物は、他の魂を喰らうことによって、天に還れぬ哀れな魂を生み出し続けるのだ。
ヨハネの使徒とベリアルが引き起こした世界的な大混乱は、終末の日の意味を込めて『ラグナロク』と呼ばれ、世界に大戦を招いた人間に与えられた神の裁きとして畏れられた。
このラグナロクを受け、「戦いを続ければ全ての種族や生物が滅びる」と気付いたヒューマンは和平を強く主張。それに同意した各国は和解し、ロスト・アモールはようやく終結を見た。それまで各国が軍事費に注ぎ込んでいた巨額の資金は全て大戦からの復興等に回されるようになり、これまで争っていた者たちの多くも、手を取り合って世界の脅威へ立ち向かうようになった。
そして大戦終結後まもなく、魔術の開祖アレイスター・エリファスによって、教皇国家アークソサエティに薔薇十字教団が設立される。この組織の最大の存在理由は、ラグナロクを引き起こしたヨハネの使徒とベリアルの根絶を主軸とすること。
――そう、この薔薇十字教団こそが、あなたたち『浄化師』の所属する『教団』なのだ。
あなたたち浄化師は、神が人間に与え給うた滅びの運命に抗うため、教団から出される指令を受けて様々な事件を解決する存在だ。ベリアルに囚われた魂を開放し、天へ還すことができるのはあなたたちだけであり、ヨハネの使徒をより安全に討伐することができるのもまた、あなたたちだけなのだ。
さて、『浄化師(じょうかし)』または『エクソシスト』という呼称が、『喰人(くいびと)』と『祓魔人(ふつまびと)』のペアを指すものだということは、この世界の人々には広く知られている。しかしここでは念のため、重ねて説明をしなくてはいけないだろう。
喰人はグールとも呼ばれる、アシッドによる感染に高い抵抗力を持つ者だ。彼らは類稀な魔術の才能と魔力を持つが、その膨大な魔力ゆえにヨハネの使徒やベリアルから狙われることが多い。また魔力の生産が消費に追い付かなかった結果、脅威に晒されなくとも短命に終わることが多い存在だ。だから彼らは周囲の人々や自分自身を守るため、薔薇十字教団に所属する。
いっぽう祓魔人は、ソーサラーとも呼ばれている。これは常人以上の魔力を生成・蓄積できる特異体質の者を指して呼ぶための言葉で、彼らも喰人と同じく、魔力の消費が生産に追いつかなかったために短命で終わることの多い存在だ。そのため彼らもまた、自分自身を守るために教団に所属する。
だが祓魔人には、浄化師として戦うために重要なものが一つだけ欠けている。
それがアシッドへの抵抗力だ。彼らはそれを補うために、喰人と契約を行う必要がある。
また、契約をすることで、喰人と祓魔人の魔力生産力も安定し、寿命が一般的な種族に順ずることになる。
――そして、教皇国家アークソサエティ、薔薇十字教団本部前。あなたたち二人は、浄化師となるためにこの場所を訪れた。
あなたたちが浄化師となるのは、ふたりが生きていくうえで必要だからだ。しかし戦いに身を投じる決意や、契約に至るまでの過程は、浄化師によって異なるだろう。契約は定められた手順に従って行われるが、ふたりが浄化師となるためには、二つの適性判断に合格しなければならない。
一つ目の判断は、喰人の血液から抗体を作成するにあたり、祓魔人の体質が適合するかどうか。二つ目は、魔力量と魔力の性質が、互いに悪影響を及ぼさないかどうか。そしてこれらの数値を総合して算出される『同調率』が、規定以上になるかどうか。この同調率が一定以上でなければ、あなたたち二人のペアが浄化師となることはできない。
今、あなたたち二人は、どんな想いを胸に抱いているだろうか。それは契約への不安か、絶対的な自信か、あるいはその他の様々な感情だろうか。
そして二人が今日この場所に至るまでの道のりや理由は、どのようなものだったのだろうか。それは世界に生きる人々への限りない愛情か、世界を滅ぼすものへの強い怒りや憎しみか、あるいは言葉に尽くせない想いの数々があるのだろうか。
ふたりの周りを、風が吹き抜けた。あなたたちはそれを合図に、どちらからともなく歩き始める。
――これは、あなたたちが浄化師になるための大切な儀式。ふたりを繋ぐ血の契約だ。
あなたたちの歩む道の先に、どうか光がありますように。
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春の目覚めが感じられる季節。
しかし、冬の名残も至る所に。
――教皇国家アークソサエティ、ソレイユ地区。
観光名所としても有名なアールプリス山脈は常に白い雪に覆われているが、この時期にはより色濃い白が残る。山の麓では春の到来を前にして冬を楽しむ人々がいた。
「ちくしょー!当てやがったなー!」
「へへっ、悔しかったらやり返してみろよっ」
無邪気に雪合戦を楽しむ子供たち。あらかじめ低い雪の壁が作られており、壁に隠れてやり過ごす子もいれば、壁などお構いなしの子もいる。雪玉を当てたり当てられたり、一喜一憂しながらはしゃいでいた。
別の場所では、もう少し年上の子供の姿や、大人の姿も混じっている。実は、休日にはチーム対抗の雪合戦が行われる。勝ち抜いたチームには賞品が出るというのだから、その練習かもしれない。
「これでいいかなあ?」
「もう少し大きい方が良いかもしれないわね」
「そうだな。もう一度、パパと転がそうか」
「うん!」
賑やかな場所から少し離れると、今度は雪だるまを作る家族の姿が。体はすでに出来上がっているようで、頭のほうを作っている最中だ。
周囲には完成した雪だるまがいくつも並んでおり、なかには雪だるまと言うには些か手の込んだものもある。何故かというと、ここでは雪だるまコンテストが開催されているからだ。
定められた期間中に作られたモノの中から、いくつか受賞作が選出される。そして、こちらも賞品が用意されているようだ。
このように、冬に雪を楽しみたいという人もいれば、やはり冬は暖かい場所が一番だという人もいるだろう。
「んー美味しい!」
「幸せって、こういうことを言うのかも~!」
現に、コテージの中で若い女性の2人組が料理に舌鼓をうっていた。この地区の特産といえば、乳製品。そして寒いときに食べたくなるといえば――そう、チーズフォンデュだ。
ここのコテージではソレイユ産のチーズを使ってフォンデュを楽しむことができる。パンやソーセージ、基本的な野菜といった定番の具材は用意されているが、それ以外は持ち込みも可能だ。
暖かい室内での美味しいチーズフォンデュ。観光と共に、これを目当てに訪れる人も多いという。みな一様に、ひと口頬張れば、その顔は美味しさに緩んでいた。
これら以外にも、冬の雪原の楽しみ方は様々だ。
幸いにも、あなた方が訪れるその日はイベントの開催日。
春が来る前にいま一度、冬を満喫してみるのはいかがだろうか。
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アークソサエティの東南にあるソレイユ地区にはチェルシー植物園がある。
ここでは春を迎えタンポポやクロッカス、スノードロップなどが可憐に咲き、それらの黄色や白、紫などが緑の大地に可憐な色を添え、訪れた人を出迎えてくれており、暖かく柔らかな風が運ぶ春の花の甘やかな香りでいっぱいだ。
胸いっぱいに息を吸い込むと、体の中まで花が咲いたようにウキウキしてくる。
「本当にいるのかなぁ」
だがそんなウキウキも飛んでいきそうな声でパートナーが呟いた。振り返ると、渋い顔で入り口でもらったパンフレットを見ているパートナーの姿が見えた。
「さっきすれ違ったカップル、いない~ってぼやいていたよ」
「う……そうなの?でもさ、火のないところには煙は立たないっていうじゃん?」
た。
実は今、アークソサエティではこの植物園にまつわるある噂が広まっていた。それは、見ると幸運が訪れるという生物ケセランパセランが目撃されたというものだ。契約したばかりの浄化師二人は日々の訓練の息抜きにこの噂を確かめようとやってきたのだ。
チェルシー植物園には珍しい植物がたくさんあり、普段から研究者や愛好家が訪れている。そこにいまはケセランパセランを探しに来た観光客も加わってたいへん賑やかであり、さらに今日は薬学の学会もちょうど開かれる日であったようでたいへん混雑している。その人混み具合にもう疲れたと言わんばかりにパートナーはため息をついた。
「それに、こんなに人がいたらはぐれちゃいそう」
「そうだね。はぐれないようにしないとね」
ここには美しい花のみを集めた美花の園、毒を持っていたり怪しげな見た目の植物を集めたミステリアスな毒花の園、薬草を集めた薬草の園の三つの花園がある。その中のどれかにケセランパセランがいるのではないかと、咲き誇る花を愛でつつ、白い綿毛のような幸運の生物をここを訪れた人々は探しているのである。
「とにかくさ、せっかく来たんだし色々見ながら回ってみようよ。宝探しみたいな感じでさ!」
「宝探し……か」
そういうと、パートナーは気持ちを切り替えるようにうんと伸びをした。
「そうだね。せっかくだし。じゃあどこから回ろうか」
浄化師二人はパンフレットを一緒に覗き、計画を立て始めた。
さあ、幸運をもたらす白い綿毛の生物ケセランパセランを探しに行こう。
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