|
この世界を生きるモノが眠りに就く時――それは必ず現れる。
それは夢だ。
疲れた体を、疲労した脳を休めるために眠りに就けば、不思議と夢を見ることがある。
何がきっかけで、何が引き金をなるのかわからない。
ある日突然視てしまうそれは――個人によって内容はバラバラだ。
例えば――楽しい夢。
例えば――面白い夢。
たった一夜限りの幻想であるそれは、決して記憶に残らないものではあるが。
けれども、それは生きている証拠に他ならないものだ。
――しかし。
その夢は、常に楽しい夢であるとは限らない。
時には夢であるのにも関わらず、現実と何ら変わらないモノを見てしまう時がある。
それは所謂『悪夢』と呼ばれるモノ――わかっているのに、理解しているのに。
でも何故か、それが現実だと認識してしまう、質の悪いモノだ。
その悪夢を見てしまうのは、浄化師とて例外ではない。
■■■
辺り一面が静まり返った時間帯。
窓の外を見てみれば、空の色は真っ黒に染まっており。
小さな灯りが所々に見える――完全に夜の真っ只中だ。
その夜の中で、浄化師は疲れた体を癒すべく、寝床に就いていた。
――今日も浄化師は受けた指令を解決し、感謝された。
感謝されることに対して不満はなく、むしろ心地よいと思った浄化師は。
今日も良い一日だったと思えるように、思うために。
寝床に就いて、明日を――パートナーを待ちわびながら寝ている。
だが。
寝床に就いてしばらくすると、浄化師は額に汗を浮かべていた。
完全に寝ている……そう見えるその姿に。
だが何やらブツブツ、と寝言らしきものを言っていた。
――なるほど、寝床に就いた浄化師は今、夢を見ているようだ。
それもとびっきり嫌な――『悪夢』を。
一体どのような夢を見ているのか、それはわからない。
うなされている浄化師を起こそうとする者は、誰もいない。
「――――」
と、突然浄化師がパートナーの名前を呼んだ。
夢の内容は、どうやら自身のパートナーに関してのことらしい。
■■■
――気が付くと、そこは暗闇だ。
周りを見れば、ここにいるのは自分一人。
だからわかった――ああ、これは夢なのだと。
珍しい夢を見ることもあるのだな、と呑気にそう思っている浄化師の前に。
「――っ」
突然、ソレは現れた。
目の前の暗闇の中で現れたモノ――それは己のパートナーの姿だ。
夢の中でも思ってしまうのか、と若干嬉しい気持ちになったのは束の間。
そのパートナーの姿は、いつも見ているパートナーとは違っていた。
何が違うのか――それは目だ、表情だ。
目の前のパートナーは自分に向かって『嫌悪感』を放っていたのだ。
己に向かって嫌そうな表情、視線を放つパートナーの姿。
いつ何時も共に行動し、時には笑い、時には涙を流し合ったはずのパートナーが何故、自分にそのような顔を、視線を向けるのかがわからない。
これが夢であることは十分理解している。
これが現実なわけがない。
……なのに。
どうしても、夢の中のパートナーを見てしまえば、心が痛んで仕方がない。
何故? ――と。
どうして? ――と。
疑問を口にするが、それでも夢の中のパートナーは答えてはくれない。
このまま、夢が覚めるまで待ち続ければ良いのか? ――不可能だ。
ほんの一瞬、嫌そうな顔を、視線を向けられただけでこの様なのだ。このままいつ終わるかもわからない夢に耐えるだけの力は既にない。
ならば、どうすれば良いのか……と浄化師は膝を崩しながら考える。
すると、浄化師の口から、
「――――」
己のパートナーに向けて、今までの出来事を思い出すかのように、パートナーとの過去を語られた。
それは贖罪か、または別の何かか、それはわからない。
過去の出来事を語られている間、パートナーは常に無言で。
だがその顔は、どこかしら嬉しそうに微笑んでいるように見えた。
|
|
|
「……なにを企んでいるのかと思っていたけど」
魔法により作り出された花咲き乱れる空間で、アリバは苦笑する。
その隣に座っていたグラースがテーブルを叩いて立ち上がった。丸い机上に置かれていた四人分のカップが衝撃で揺れる。
「正気の沙汰じゃないだろ!」
「正気だし本気だぞ」
アリバが持ってきたクッキーを咀嚼し、飲みこんだオベロンは不敵に笑った。
「我とティターニアの婚儀に、人間たちを招く」
はい、とオベロンの隣でティターニアは拗ねたような、照れたような表情で頷く。
彼女に反対の気がないと知り、グラースはぐっと言葉につまった。
それでも引き下がることはできず、外見だけはこの中で最年少の氷精はオベロンを見据え、絞り出すような声で言う。
「僕たちはあくまで中立だよ。そりゃあ、こっそり人間の手助けをしてるけど、それでも、表向きは神の味方でも人間の味方でもない。そうだよね?」
「そうだねぇ」
肩を竦めたアリバが、妹であるティターニアを見て目を細くした。
「そうすることで、ぼくたち――妖精種は生き延びてきた。でも、人間を妖精の結婚式に呼ぶって言うのは、つまりそういうことだねぇ」
ラグナロク以後、永く妖精たちが守ってきた立場を、崩す。
人間側に立つ、ということ。
すなわち神に対する宣戦布告であり、中立を望む他の妖精種に対する反旗にも相当する行いだ。
それをオベロンは、得意げに笑いながら実行するという。最近まで森の奥深くにこもっていたティターニアも、なにがあったのか、異議を示さない。
「馬鹿じゃないの……」
疲れたようにグラースは座り、頭を抱えた。ティターニアが気遣うような視線を向ける。
「人間たちは日々、自らより強大な神の裁きに抗して生きている」
カップケーキをつまんで、オベロンは遠い目をした。
これを作ったのは、人間だ。
「人の子らはベリアルと呼んでいたか。あれもまた、日ごとに強力なものがあちらこちらで誕生し、さらにはヨハネの使徒まで闊歩している」
「……知ってるよ」
「表向きの中立を保つために、ぼくたちはあれらに殺される人間たちを、見て見ぬふりしてきたからねぇ」
なんでもないようなアリバの言葉に、グラースは叫びかけて、どうにか堪えた。噛み締めた奥歯が軋む。
「このままでよいのか?」
オベロンの問いは矢のように、グラースの胸に突き立った。
「……だって僕たちは、妖精だから……」
「保身のための古い掟に縛られて、なにもできないと諦めて。そのくせ無力感に打ちひしがれる。そのまま幸も不幸も判別できずに生きるのが、妖精種か?」
緊張を瞳に宿し、ティターニアは沈黙する。アリバはもう結論を出していた。
グラースはテーブルクロスごと、こぶしを握る。
「我は人の子らが好きだ。花のように咲き、美しく散る。長命な種族もあるが、我らにしてみればいずれも短い命だ。しかし、それゆえに――進む」
傷も癒しも、罪も許しも、悲しみも喜びも抱えて、前へ。
それは、妖精種が放棄してしまった、尊い命の輝きだ。
「妖精たちはいずれ、原初の羨望を思い出す。かつて数多の妖精の心を焦がしたその感情は、中立という建前を破壊するだろう。だが、そのためには誰かが動かなくてはならない。誰かが内側に風穴をあけねばならない」
「だからこそ、人間たちを招くと。……ティターニア。きみはそれでいいんだね? 怒った妖精たちが裏切り者だと叫びながら殺しにくるかもしれないけれど、それでいいんだね?」
ええ、とティターニアは力強く頷く。アリバが笑った。
「料理の手配は任せてよ。ぼくのファラステロで、今各国で一番おいしいものを運んでくるから」
「うむ。頼りにしているぞ、アリバ。グラースはどうする?」
三体の妖精から見つめられ、グラースはうつむいた。
人間の側で生き、妖精種の中立の掟に寸でのところで反しない程度に力を貸し、助けられない自分に憤り――なにより、細工をしなくては高い魔力を持つ者にしか見られないと分かっていながら、こうして人間の形をとっている。
それが答えだった。
「……僕だって、人間のことが好きだ」
「うむ」
「……人間たちは、ずっと前に戦う覚悟を決めたんだよね」
「そうだね」
「あんなにも弱いのに。どうせすぐに死んじゃうのに。それでも、戦うって決めた」
口許に微かな笑みを宿し、ティターニアは首を縦に振る。
「じゃあ、人間より高位の魔法生物である僕たちが、戦えない理由なんて、ない」
顔を上げたグラースの目に、迷いはなかった。
少年の姿をした氷精は、いつものように、悪戯っぽく笑う。
「招待状は僕が配ってきてあげるよ。浄化師がいいよね。人間たちの王様に一番近いのは、あの子たちだから」
「うむ。頼んだぞ」
「浄化師たちなら、ぼくたちの姿を普通に見られるしねぇ」
人間でありながら彼らは高い魔力を有している。妖精自らが魔力を消費し、顕現する必要はない。
「では改めて――。我、春精オベロンはここに、妖精種と人間による同盟を望むと宣言する」
|
|
|
少しずつ春めいていく首都エルドラドでは、イースターで盛り上がっていた。
ウサギやエッグモチーフの飾りをつけたり、イースターにまつわる物品の販売を行っていたりと、いつもとは違う賑わいを見せている。
町中だけではない。
その首都エルドラドにある遊園地トラオムパルクでも、イースターで盛り上がりを見せていた。
数多くの人々が訪れ、園内で販売されているうさぎのカチューシャやエッグモチーフのイースターグッズを片手に楽しんでいる様子。
その上、魔結晶を中心とした魔力の供給と蒸気機関によって動くメリーゴーラウンド、回転ブランコ、観覧車、コーヒーカップ、バイキング、ジェットコースターにホラーハウスなどなど、様々なアトラクションが、イースターの飾り付けをされ、いつもとは違う華やかな雰囲気に包まれている。
「そこに居る浄化師のお兄さん、お姉さん!! せっかく、ここに来たんなら、このイースターエッグ探しをしないかい?」
トラオムパルクの陽気なスタッフが、浄化師達に向かって声をかけてきた。
スタッフの話によると、今日からイースターイベントということで、園内に隠された絵付きの卵を見つけると、好きなアトラクションをひとつ、または好きなランチを一つサービスしてくれるらしい。
また、一番卵を多く見つけた者には、特別なステージで表彰される他、一日乗り放題の無料チケットも貰えるらしい。
もちろん、いつものように普通に遊ぶことだって出来る。
花に囲まれたピクニックエリアで、お弁当や園内で売られている軽食を買って食べるのもいいだろう。
イースター色に染まった、賑やかな遊園地トラオムパルク。
大切な人と、楽しい仲間とで、大いに羽を伸ばしてみては?
|
|
|
雲一つない快晴の空、輝く太陽の光。
気持ちの良い世界の下で、浄化師達は椅子に座りながら平和に疲れを癒していた。
先日の指令――非常に困難を極めた内容であったため、その疲れはいつもよりも何倍もある。
それ故か、エントランスホールに行っても周りから『今日は大丈夫だから、たまにはゆっくりしろ』と言われる始末。
だが、まあ……それはそれで構わない。
疲れているのは事実だし、それになによりこうして和やかに過ごせるのは願ったり叶ったりだ。
――何もないのならばそれで良い。
――休めと言われれば、喜んで休もう。
これも働き者の特権……ということで、これは有難く受け取るべきで。
更に――
「よっしゃぁ! 命中っ!」
「やったなぁ、このぉ!」
こうして公園内で子ども達が無邪気に遊んでいる光景さえも、自分達を癒そうとしてくれている……ように思えるのだ。
視線の先にいる子ども達――彼等は泥団子を作って、それを投げて遊んでいるようだ。
泥で作ったそれは他人に投げていいモノではないのだが、まあ子どもだから大丈夫だろう。
それに、そんなことをしていれば――
「こらぁあんた達ぃ! 泥を投げて遊ぶなって何度言えばわかるのッ!」
年長者が止めに来るのだから。
泥を投げて遊ぶ子ども達に気付いたのか、彼等よりも少しだけ大人びた少女がやって来た。
彼女は所謂『お姉さん』的な立場の存在なのだろう。
遊ぶのは構わないが、危険なこと、やってはダメなことを教えているようだが、しかし。
遊ぶことに夢中になっている彼等がそんなことを素直に聞くはずがない。
そう、このように――
「あーあー、きこえませーん!」
「仲間外れが嫌なんだろ? ほら、一緒にやってやるからさ」
「誰がそんなこと言った! 誰が!」
「遊ぶこともできないのぉ?」
「うっわぁ、かわいそー!」
「うっさい! 良いからもう少し大人しく遊びなさい! 周りに迷惑でしょうがッ!」
「いーやーだーねっ!」
少女をイラつかせるような言葉で煽っている。
彼女からしてみれば、投げた泥が目に入ったり、見知らぬ人に怪我をさせてしまうことを恐れているから止めろ、と言っているのだろう。
しかし、一度火が着いた子ども達にとっては、そんなことはどうでも良い。
純粋に、面白ければいいのだから。
まあ少女の怒りがあるのだ、いずれ止めるだろう。
だから、自分達はその光景を暖かい目で見守るのだ……が。
「――って、今泥投げたの誰よ!? 止めろって言ってんでしょうが!」
「へっへーん、知りませーん!」
「注意した傍からあんた達は……ッ!」
「それもういっぱーつっ!」
「だから投げるなって――あ」
一人の子どもが投げた泥団子――それは少女の横を通り抜けて。
その先にいた……喰人の顔面に当たった――かのように見えたが。
喰人は紙一重でそれを避けて、難を逃れた。
「ご、ごめんなさいッ! 大丈夫ですか!?」
平和ボケしているとはいえ、仮にも浄化師の身――子どもに後れを取ることはない。
しかしながら、自分だからよかったものの、これがもし他の人だった場合は大変なことになりかねない、と。
「それは重々わかってるんですが……あいつ等、そう言っても無視してしまうので……」
――でしょうね、と。
会話をしている間でも、子ども達は先ほどの事などなかったかのように、泥で遊んでいる。
注意しても無視される――少女は味合わなくても良い苦労をしているのだ。
ならば、ここは一つ大人として。
常識ある浄化師として。
その苦労を取り除いてやらなければいけない。
そう思った喰人は祓魔人を見ると、祓魔人はただ頷く。
それは、ご自由にどうぞ、という無言の合図だ。
許可をもらったので、喰人は少女の肩を軽く叩いて子ども達の元に向かう。
さて――一体どうやって教育しようか。
|
|
|
●
「――あれは!!」
「ま、まさか。もうバレンタインは過ぎただろう!」
遅れてやって来た『アイツ』に、ブリテンの街中が凍りつく。
そう、今年はなにもなかったと安心していたのに、なぜ今頃やって来た!?
「ま……魔法少女ステッキが……来たぁー!!!」
魔法少女ステッキと呼ばれる、この杖は、バレンタインの乙女が使ったと言われる物で、しかも自我まで持っているという厄介な代物。
更に言えば、このステッキを作った魔女『道化の魔女メフィスト』は、この光景を見て面白がり、魔法少女ステッキを量産して世界中に放してしまった
――なにが面白いかって?
自我のある魔法少女ステッキは、『魔法少女になって、みんなを幸せにしようよ』と言い、好き勝手に人に言い寄っては、自分を持たせて半ば強制的に魔法少女に変身させてしまうから。
――そう、魔法少女!!
男女性別など関係なく、持った人間を、フリフリのミニスカートと、ヒラヒラのレースがついた衣装に変えてしまい、ステッキの魔法で『好きな人のこと』しか話せなくなるという特技を持っている面倒くさいヤツ。
「なんで、今なんだ?」
そう言ったエレメンツの男性に、魔法少女ステッキの『1本』が、こう答える。
「だってー。バレンタインに、この街に来れなかったんだもん。だから、これからバレンタインをしようよ。さあ、みんなを幸せにしようよ!」
なんて言い分だ、と思っている街の人たちに、待っていましたと、魔法少女ステッキが襲い掛かる!
「うわわわわわー!!」
自分の意志で浮き行動する魔法少女ステッキは、話しかけたエレメンツの男性の手に飛び込み、男性は一瞬でフリフリの魔法少女にへんしーん!
しかも、魔法少女ステッキは『複数』で来ているものだから、次々とブリテンの街の人々が、魔法少女ステッキたちの餌食になってゆく。
――変身すると、好きな人のことしか言えない。
「俺はアンナのことが好きだー!」
「そんな恰好で言われても嬉しくないわよっ!!」
確かに、フリフリスカートの男性に告白されても嬉しくない。
「あなたのことが忘れられないの」
「僕ですか?あなたとは初対面のはずですよね?」
男性には初対面でも、彼女のほうは……ストーカー!?
こんな調子で、街中のいたるところに魔法少女ステッキの魔法がさく裂し、ブリテンの街は大混乱におちいってしまった
●
この悲惨な光景を見て慌てた街の人たちが、自分も被害には遭いたくないがために、集団で教団本部へと押し寄せて来てしまう。
「あの魔法少女ステッキだけはムリです!助けて下さい!」
そうは言われてもとは思うが、依頼があった以上、引き受けなければならないという、薔薇十字教団のつとめの1つなのが猛烈に痛い。
泣く泣くだが、司令部は浄化師たちに指令を出したが……。
「今年はないと思っていたのにー!」
「俺は去年、散々な目にあった」
「あんの……。あの凶悪ステッキに向かって行くの?それだったら、ベリアルを相手にしていたほうが、まだマシよー!」
歴戦の浄化師たちですらも、魔法少女ステッキには手を焼くことを『知っている』ので、この指令を受けたくない気持ちはよく分かる。
だが、やらなければブリテンの街の人たちが困り果てるのだから、指令を受けるしか道はないのが浄化師たち。
いつも以上の覚悟を決めて、ブリテンの街へと向かう、あなたたちに待ち受けるものは?
「ふふー。浄化師さんたちが来たよぉー」
「浄化師さんも幸せになろうよ」
喜ぶ魔法少女ステッキの声に、浄化師一同そろって冷や汗をかくのを隠しきれない。
さあ、真っ向勝負を挑むのか、説得してお帰り願うのか、はたまた全く違う方法を使うのか。
今こそ浄化師の腕が問われることになる……のだろうか??
|
|
|
●
ブリテン内の南端、町はずれの丘をずっと登っていった先に、綺麗なお城があるのを知っているでしょうか?
そのお城は『カルテス・モンテ・デル城』と言い、かつてこの地域を治めていた領主が住んでいたお城で、今は領主の子孫が管理し、観光客に城を開放したりもしています。
その中は豪華で華麗。
一番は『色の道』と呼ばれる、城の西棟と南棟を繋ぐ廊下が挙げられ、両側の壁の高い位置に小さな四角い窓が連なり、そこから差し込む光が、昼から夕方になると、金色から茜色に変化する見事さは圧巻の一言。
更には夜は紺碧に染まり、窓の下についたランプの橙色の小さな灯がともる中を歩くのが、恋人たちや街の人たちの、一番のお気に入り。
――ロマンチックでしょう?
そんな人気の高さから、毎日沢山の恋人たちや観光客が、ため息まじりにこの色の変化を楽しんでいます。
そして『大広間』も語らずにはいられません。
石造りの床は葉を象った幾何学模様が広がり、見る角度によって浮き上がるように見える模様が違い、更には光の加減や季節によっても違って見えるのですよ。
ですが中央の広場には、誰が描いたか分からない、誰も理由すら知らない、円形の魔方陣が、日差しの角度によって姿を現します。
古くからの噂によれば、かつての領主様お抱えの、錬金術師たちの研究所だったのではないか?
事実が分からないがゆえの憶測だけが、この『カルテス・モンテ・デル城』のミステリーとして、ひそかに街の人々の中で飛び交っています。
●
そんな『カルテス・モンテ・デル城』を、薔薇十字教団は1日借り受けました。
そう、日頃の疲れを癒すために、教団主催で、この城で貸し切りパーティーをするのです。
非番の浄化師の参加希望は殺到しまくっています。勿論あなたたちも参加で提出しましたよね?
パーティーは立食形式のフレンドリーなもの。そして夕方の『色の道』を楽しむもよし、夜の窓の下に灯されたランプの橙色に彩られた『色の道』を楽しむもよし。
城の中で、2人だけのロマンチックな雰囲気を楽しむことだって出来ちゃいます。
だって、お城をまるまる借り受けているのです。どの部屋に入るのも自由でしょう、違いますか?
もしその気があるのならば、魔方陣の謎解きなどもいかがですか?
本当に錬金術師の研究所だったのか、はたまた全く違うものだったのか、興味はありませんか。貸し切りなのです、城の中をくまなく捜索してみるのも悪くはありません。
ただし新発見が出るかは別問題。この城は安全な観光場所と謳っていますので。
さあ、優美と不思議が入り混じった『カルテス・モンテ・デル城』でのパーティーの始まりです。
パートナーと一緒に、この城を存分に楽しんでください。
|
|
|
「遅いな」
夏が近づく晩春の気候の中、屋敷の壁にもたれてあなたは一人で立っていた。
見据える先には、氷の彫刻や人形細工が置かれている。
ここは、ミズガルズ地方の北に位置する樹氷群ノルウェンディ。
樹氷と霧氷が美しく、一年を通して国土に雪氷が覆う国だ。
あなた達は指令を受けて、『終焉の夜明け団』が魔術研究の際に使っていたとされる屋敷の調査に赴いていた。
だが、一通りの調査を終えた後、パートナーが展示されている人形細工に興味を持ち、人形細工などが置かれている部屋の中へと入ってしまったのだ。
「そろそろ戻ってくるはずなんだけど……」
あなたは待ちくたびれたように、窓から雪が舞う空を見上げる。
それでも待ち人が、戻ってくる気配はない。
あなたは深く大きなため息をつくと、こうなってしまった原因の出来事をふと頭の片隅に思い浮かべていた。
「これ、可愛いね」
調査を終えた帰り際、エントランスホールに展示されている人形細工をじっと凝視していたパートナーの声が震えた。
それは、ノルウェンディの名産品である『トロール・ブルー』の人形細工だった。
「確か、部屋の中にもあったよね。ねえ、ちょっと、見て来てもいい?」
「駄目だと言っても行くんだろう。とりあえず、ここで待っているから、早めに戻ってこいよ」
有無を言わさぬパートナーの問いかけに、あなたは呆れたように答えた。
「うん、ありがとう。行ってくるね」
パートナーは甘く涼やかな声で告げると、ドアを開けて部屋へと入っていた。
しかし、それからいつまで経っても、パートナーは戻ってこない。
(もしかしたら、夢中になって、人形細工を見ているのかもしれないな)
あなたは、室内に籠ってしまったパートナーに想いを馳せる。
「お待たせ」
そろそろ、呼びに行こうか――。
そう考えていたところに、聞き覚えのある声がした。
「遅いぞ」
「ごめんね」
あなたが振り返ると、部屋から出てきたパートナーは悪戯っぽく目を細める。
そこで、あなたはパートナーが持っている人形細工へと視線を落とした。
「その人形細工は持って帰らないからな」
あなたの指摘に、パートナーは物言いたげな眼差しでじっと見つめる。
「やっぱり、ダメかな?」
「ああ」
再度、確認するかのように尋ねてくるパートナーに、あなたはしっかりと頷いてみせる。
パートナーは持っている人形細工を先程、見かけた人形細工の隣に置くと肩を落とした。
「じゃあ、帰ろうか」
「そ、そうだな」
いつの間にか、あなたの腕を絡めていたパートナーは屋敷の外へと歩き始めようとする。
――その時だった。
「お待たせ」
不意に背後からかけられた声。
「なっ――」
聞き覚えのある声に、あなたは目を見開く。
――あり得ない。
あり得ない。
あり得ない。
あり得るわけがない。
何故なら、パートナーは、自分のすぐ隣にいるはずだからだ。
あなたは、隣で驚いているパートナーを確認してから、背後へと一息に振り返る。
そこには、部屋から出てきたパートナーが驚愕の表情を浮かべて立っていた。
「えっ? 私がもう一人いる?」
「どうなっているの?」
(――パートナーが二人? なんだ? 何なんだ、これは?)
衝撃的な出来事は、その場の空気ごと、全てをさらっていった。
|
|
|
●
シャドウ・ガルデン、カーミラ郊外にある、とある古く小さな洋館。
その中で、終焉の夜明け団の元信者『セリオ・アロ』は、長年追い求めていた『あるもの』の入手の為に、禁忌魔術である口寄魔方陣を発動した。
「これで、これが――」
黒く輝きを放つ魔方陣に身を乗り出して、その中心から現れるものを、不気味に口角を上げながら今か今かと待ち続ける。
この研究は終焉の夜明け団でも異質であり、その危険性を指摘され追放処分を受けながらも好奇心を止めることが出来ず、身を隠しつつ入手法を模索し現在に至る異端の男。
「とうとう……とうとう手に入れた。運命の『アストラガルス』を!!」
口寄魔方陣は成功し、魔方陣から出てきたのは、手のひらに簡単に乗ってしまうほど小さい四角形の塊。
それを見つめセリオ・アロは、声を高々にして笑う。
「運命だ、俺は運命を手に入れたのだ。これで俺を見下した世界に復讐できるぞ」
『アストラガルス』とは、遠くニホンの国に存在する宝の1つ。終焉の夜明け団が奪取したが、その性質上ゆえに危険な物として、信者にも悟られないよう地下深くに保管を決めた。
だがセリオ・アロは諦めず、終焉の夜明け団を追放される直前に、信者たちを騙して保管庫に忍び込み、誰にも分らないように口寄魔方陣を設置した。
すぐに奪わなかったのは、終焉の夜明け団に追われないため。
それから数年が経ち、1人になりながらも多大な手間と時間をかけ、こちら側の口寄魔方陣を準備した結果、今こうして『アストラガルス』はセリオ・アロの手の内に収まった。
『アストラガルス』を転がし出た面によって運命が変わる。その運命を左右する危険性が、終焉の夜明け団でも問題とされたわけだ。
そしてもう一つの特徴は、持ち主に強大な力をもたらすとも言われており、セリオ・アロは口寄魔方陣を使い、何重にもなる厳重な管理下にあった『アストラガルス』を召喚し、運命と力を得たことになる。
●
それを外から偵察していたのは、レヴェナントの構成員である『エイス』と呼ばれている男である。
エイスとは、レヴェナントで活動するうえでのコードネームであり、その意味は第8の男という。
エイスは長年にわたりセリオ・アロを追い続けて来た。
彼が終焉の夜明け団を追放になった後も。シャドウ・ガルデンに流れ着いた後も。
そして協力者を見つけ出し、資材調達をしながら、この小さな洋館に籠り研究に執念を燃やす姿を遠目で監視しつつ、セリオ・アロが禁忌に触れるのを、ただひたすらに待った。
元々危険視されていたセリオ・アロが本格的に動き出す。それだけを信じて。
(これで決定的な証拠にはなるが……。だがなんだ?まだ動きがある)
遠眼鏡で室内を確認すれば、セリオ・アロが発動させた口寄魔方陣はまだ起動したままの状態であり、あの小さな物体以外にもなにかを呼び寄せるつもりなのだろう。
「――もの……じゃない、あれはスケルトン。生物を口寄魔方陣で召喚しているのか!?」
複数のスケルトンを確認。でも生物を召喚するとは……。やはりセリオ・アロが入手したものは本物なのだろうか?
「ここからでも高い魔力は感じられる。しかし、あの男にこんな魔力は……ない」
終焉の夜明け団に認められる程度の魔力とエイスは認識していた。
だが、こんな高魔力をセリオ・アロから一度として感じたことはないというのに、今のセリオ・アロに感じるのは異質なる魔力。
「早急にセリオ・アロの拘束と、あの物体……『アストラガルス』の奪還をしなければならない」
偽物にしろ、本物にしろ、力があるものなのは確からしい。
それにセリオ・アロがいまだに終焉の夜明け団のローブを身に着け、左手の甲に十字架を埋め込んだままというのが気になる。
――あの男は諦めていないのではないか?『アストラガルス』を持ち、その力をもって終焉の夜明け団信者に返り咲こうとしているのではないかと。
エイスは少しでも多くの情報を得ようと、洋館周りをくまなく捜索する。
それで得たのは、スケルトンは6体存在し、内2体は洋館の中。残り4体は外に配置し、多分ノワールバインドで動きを拘束して、侵入者が近づけば拘束は解かれ動き出す。
これはエイス自身が試しに近づいた結果論。倒せはしないが逃げるように一定の距離を取ったら止まったので分かったことだ。
「これ以上は俺には出来ない。後は司令部に連絡し浄化師たちの到着を待つしかあるまい」
長年追いかけたセリオ・アロをこの手でしとめたい意思は確かにあるが、自分では力不足なのも重々承知しているエイスは、今一度洋館を見上げ、思いを振り切るかのごとく足早にその場から立ち去ることにした。
●
エイスからの報告を受けた教団本部は、この一件を重要案件とみなし、ただちに浄化師派遣の指令を下す。
セリオ・アロの捕縛。それが不可能であれば確実な抹殺。ならびに、いわくつきの品である『アストラガルス』の回収か破壊。そして召喚されたスケルトンの処分と、課せられた指令は重い。
あなたたちは指令を受け、転移方舟でシャドウ・ガルデンへ。そして馬車に乗り換え、セリオ・アロとスケルトンが待ち受けるカーミラ郊外の古く小さな洋館へと向かう。
スケルトンを退治し、狂信者セリオ・アロを拘束して『アストラガルス』を見事に回収出来るのか?
|
|
|
武術とは突き詰めてしまえば、どんな手段であれ殺せればいいと言う技術だ。
身を守る術と言えば聞こえがいいが、実際は卑怯万歳。生き残った方が勝者というシンプルな理念がある。
教団寮にある修練場は魔術学院にある魔術修練場のような大規模な戦闘訓練はできない。
教官が常駐し、魔術の使用が許可されている魔術学院の方が本格的に訓練できると圧倒的人気だ。
教団寮の修練場にも人気が少ない分、空いている。基本出入り自由で、時間が空いたときや夜や早朝に自主訓練したり、イレイスを振るったり、体術や基礎を鍛えるのに向いている為、こちらを利用する者もいる。
本来ならあなたたちも指令に出かけている筈が、司令部の不手際で半日ほど中途半端に時間が空いてしまった。
今から魔術修練場に行こうにも予約しておらず、定員オーバーだ。
あなたはパートナーと教団寮2階にある修練場で手合わせを行っている。
幾度かの指令をこなし、実戦の中で力不足を感じたあなたたちは指令の合間に自主的な訓練を行うようになった。
大抵新人の時に、教官から魔喰器(イレイス)を手放すことは死とイコールだと浄化師は徹底的に叩き込まれる。
初めから対武器のような高度な訓練ではなく、構えやステップと言った教官に習った基礎的な動きを反復する。
特に魔喰器を用いた型稽古は決められた動作を反復することでいざという時に反応できるようになるまで体に一連の動作を教え込む。
万が一イレイスが弾き飛ばされたり、何らかの理由で使えない時、対処できるように体術の基礎を学ぶ。それは基礎体力を付ける為でもある。さらに堅い地面に叩きつけられても受け身が出来るようになれば、戦闘で気を失わずに済む。
浄化師はベリアルやヨハネの使徒だけでなく、時には人である終焉の夜明け団やサクリファイスの残党を相手取ること求められる。
ベリアルやヨハネの使徒の時のようにただ倒すだけではなく、情報を得る為に生かして捕らえなければならない。
基本的な体術を身につけることで、次の攻撃を予測し、相手より先んじ制圧。できなければ防御及び逃走できるようになることが重視される。
浄化師は人々を守ることも大事だが、時には誰かが生き延びて敵の情報を司令部に持ち帰ることが優先されるときもある。
力なき正義は無力である。
それはあなたたち浄化師が一番知っているだろう。
力がなければ生かせる命を助けることもできず、己の身を守ることすら危うい。あなたが犠牲者の一人になるか、さらなる犠牲者を増やすだけ――それが現実だ。
あなたは何の為に強くなるのか、強くなって何を成したいのか、その力で何を手にするのか。
あなたはこれから先、浄化師としてではなく一人の人間としてどこを目指すのだろう。
その答えを見つけた者もいれば、未だ迷いの中にいる者もいる。だが、今はただひたすら何かを掴む為に足掻くしかない。
|
|
|
教皇国家アークソサエティのブリテンにて。
「つまらない……つまらないわぁ――ッ!」
とある屋敷の中で大声で叫んでいるのはアナという名前の少女。
一体何故大声で『つまらない』と叫んでいるのか、それはとても簡単な理由だ。
「なんで誰もわたしの相手をしてくれないの!? これじゃあちっとも楽しくないわ!」
アナ――彼女はとある資産家の一人娘だ。
彼女は貴族ではないものの、だが立場的には『お嬢様』である。
この屋敷のお嬢様である彼女は、子どもながらに毎日を楽しんで生きていて。
楽しんで、笑って、喜んで――それこそ本物のお嬢様らしく、自由気ままに過ごしたいのだ。
だが当然ながら、そんな願いはいつまでも叶うわけがなく、
「お父さまもお母さまも……お仕事ばっかでつまらない!」
アナの父と母は仕事のために、彼女の相手をしていられないのだ。
大人には大人の事情があるのだが、しかし子どものアナにしては、それは理解し難いもの。
何故? ――と。
どうして? ――と。
だが無論、いつも父と母がアナの相手をしているわけではない。
両親が相手出来ない場合は、この屋敷の使用人――『執事』や『メイド』達が相手をしているのだ。
だから今日も、我が儘を言うアナの相手は彼等がするのだが……今回はそうではないらしい。
「みんなみんな……みぃんなお仕事ばっかで、わたしは全然楽しくないわ! つまらない……つまらないのぉッ!」
そう、悲しいことに。
今日この日は、アナを除いたこの屋敷全員が仕事に追われているのだ。
全てが急ぎの用であるため、どうしても仕事に専念してしまう。
それにより、アナの相手をしてくれる者は誰もいないため、彼女は不満をまき散らしているのだ。
「――こうなったら」
ふと、アナはとある考えを思いついた。
一体どうすれば自分は満足出来るのか。
この退屈な時間をどうすれば楽しい時間に変えることが出来るのか。
その解決策は――
「お外に行けばいいのだわ! お外に行けば、わたしと遊んでくれる人がいるはずだもの!」
外――つまりは屋敷の外。
少女が一人で出歩くのは危険な行為なのだが……しかし。
不運なことに、それを止める者は今現在、全員が仕事に追われているのだ。
つまり、誰も彼女が屋敷の外に出たのかは知らないわけで。
「さあ、お外にはどんな人がいるのかしら!」
アナは屋敷の正門から堂々と外に出て行ってしまった。
■■■
「さて――お外に出たはいいけど、一体なにをすればいいのかしら?」
外に出ることは出来た――だが何をすればいいのかを決めていなかったアナ。
誰彼構わず声をかけて、一緒に遊ぶ……というのは。
「……よくわからない人に声をかけるのは、怖いわ……」
『人見知り』にとっては、とてつもなくハードルが高いのだッ!
外を歩いている様々な通行人――しかしアナにしてみれば全く知らない、わからない存在だ。
――もしかしたら怖い人かもしれない。
――もしかしたら危険な人かもしれない。
そのような恐怖が頭の中を埋め尽くしているために、アナは怯えてしまう。
「うぅう……せっかくお外に出たのに、こんなに怖いなんて知らなかったぁ……」
外に出たのに、周りは全然知らないモノばかり。
知らない――それは未知だ。
未知はわからないからこそ恐怖であり、恐怖は怖いモノだ。
周りが怖いからこそ、アナは何も出来ずにその場で固まってしまう。
――こんなことなら、もうお屋敷に帰った方が……と。
そう考えるアナに、だが。
「君、大丈夫?」
「ッ!?」
声をかける者が現れた。
「ぁ……わたしは、その――――あれ?」
声をかけられたことで無意識にその方向を向いたアナ。
知らない人に声をかけられて、驚いて声が震える彼女だが。
声をかけたのは――そう、無論ながら。
「あなた達――浄化師ね! その服には見覚えがあるわ!」
アナに声をかけたのは偶然傍を通りかかった浄化師達だ。
小さな女の子が道の真ん中で立ち尽くしていることを不思議に思った浄化師達は彼女に声をかけたのだ。
知らない人ではなく『浄化師』という立場は知っているアナ。
面識はないが、全然知らない存在ではないために、少しは安心出来るもの。
それにより、アナの沈んでいた心は一気に浮上した!
「ねえ、あなた達――わたしと遊んでくれないかしら!?」
…………はい? と。
突然のお誘いに、浄化師達は疑問の声をあげた。
「わたしね、退屈してたの。だからわたしと遊んでくださらないかしら?」
遊ぶ……遊ぶとな?
そう誘われた浄化師達は互いの顔を見る。
彼等はアナが着ている服がその辺で手に入れることが出来るようなモノではない――上等なものであることはわかっている。
そう、アナがどこかのお嬢様であることは何となく察しているのだ。
だからこそ、彼女と遊んでしまえば、怪我をさせてしまうのではないかと。
お嬢様に怪我をさせてしまえば、一体どうやって謝罪をすればいいのかがわからない、と。
ゆえに、素直に頷くことが出来ないのだ。
「でもただ遊ぶだけじゃつまらないわ……どうしましょう」
普段とは違う相手と遊ぶ――それを楽しむためには一体どうすれば良いのか、と。
アナは真剣に、だが子どもながらに考えて……そして。
「そうだわ! お茶会――お茶会をしましょう!」
…………、
……………………お茶会?
「そう、お茶会だわ! わたし、浄化師のことは詳しく知らないの。
だけど目の前に浄化師がいるのだから、お話が聞きたいの。せっかくお外に出たんだもの、知らないことが知りたいわ!
ねぇ、良いでしょう?」
……まあ、お茶会程度は問題ないだろう。
怪我をする危険はない。
目の届く範囲にいる。
更には――今日はアナと同じく、退屈をしていたのだ。
暇を潰し、尚且つ少女の願いを叶えることが出来る――まさに一石二鳥で。
そのことに、浄化師達は笑みを浮かべて頷いた。
「やったわ! 浄化師とお茶会だわ! 楽しみだわ楽しみだわッ!」
無邪気に喜ぶアナの姿を見て、浄化師達の顔は和らいでいく。
ああ、やはり子どもが喜ぶ姿は見ていて飽きない、と。
――だが、お嬢様がただのお茶会に満足するわけないだろう。
せっかくのことだ、少し本格的にやってみるか。
そう――貴族が嗜むような喫茶をッ!
|
|