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白い砂浜が広がるビーチ。7月の海がエメラルドグリーンに輝いている。
海はつかの間の微睡みを終え、眩いばかりの陽光を浴びて、きらきらと磨き上げられている。
ここは地中海に面した浜辺。遠くから流れる風が潮の匂いを含んで肌にまとわりつき、海へと誘う。一定のリズムを刻むさざ波があなたたちを歓迎しているようだ。
海には殆ど人がいない。さながらプライベートビーチのようで独り占めしているみたいだ。
それには理由がある。普段ならば穴場スポットであるここにも近隣に住むものが遊びに来るのだが、ここ最近海にベリアルが現れるようになって人々は不安がり、寄りつかなくなった。
浄化師達は「人々の安全・海水浴場の管理」の為、ここに派遣された。浄化師達が率先して海で遊ぶことで市民に「安全ですよ」とアピールすることが今回の狙いなのだ。
要するに指令という名の息抜きだ。指令を頑張っている浄化師へのちょっとしたご褒美といってもいい。
「人々の安全・海水浴場の管理」という大義名分を掲げ、浄化師達は思う存分、羽を伸ばす。
開放的な海を前にしてビーチボールを持っていたり、浮き輪を腰にはめて泳ぐ準備万端な者もいる。透き通った海に目を輝かせて見ている者もいれば、海に興味を示さず、パラソルの下で椅子に寝そべっていたり、本を読んでいたりと、それぞれが海を前にして様々な反応をする。
どの浄化師も今日ばかりは教団の制服を着ておらず、私服だ。中にはもう水着姿の者もいる。
その日は楽しい海辺での思い出ができる筈だった。
誰かが待ちきれないとばかりに海へ飛び出そうとしたとき、それは起こった。
突如、海面から不自然なあぶくが浮き上がる。
「何だ?」
訝しげな声が聞こえたのか、他の浄化師達も異変に気づいた。
あぶくから海を引き裂き、小島が現れた。その衝撃で波飛沫が起きる。黒土で覆われた小島はぬうっと静かにこちらに近づいてくる。
よくよく見れば、あれは巨大タコだった。それもベリアル化した。
その証拠にベリアルは海中に根を張るように黒い触手を伸ばす。成人男性の二回りもある触腕からも触手が生えていた。
人の身長を優に超えた巨大タコは海中から全容を現す。
その奇怪な姿は、もはや別の生物に見えた。
タコの頭部に巨大な触手の塊。ぬらぬらとしたタールのような粘液が不気味に光る。
軟体動物特有の動きをする度に触腕にある吸盤がさざめく。吸盤のところだけ色が薄く、まるでいくつもの巨大な目があるようにも見えた。本物の目は上下左右に目玉をぎょろりと動かすと、ある一点で止まった。
その視線の先には浄化師達がいる。
ベリアルの無機質な目。ベリアルに見慣れている筈の浄化師でも思わず目を逸らしたくなる。
生理的に、としか言いようのない嫌悪感がわくのだ。
詳細が分かってくる内に何ともいえぬ恐怖心がわく。それほど禍々しく不気味な姿だった。
眼で見ていながら現実味がない。さながら悪夢を見ているようだった。
一人が我に返ると、次々と正気に戻る。
幸い教団から事前に警備が目的である為、条件付きで口寄魔術陣の使用許可が下りている。その条件とは、ベリアル及びヨハネの使徒に遭遇したなどの不測の事態に限り、現場の判断に任せるというものだ。
こうしてベリアルに遭遇した以上、戦うしかない。
このままいくと沖に上がってくるだろう。ここには船もなく、海中戦は向こうの独断場だ。都合のいいことに海の家から離れており、ベリアルを迎え撃つには絶好の場所だった。浄化師達は静かな脅威との激闘を予感していた。
こうしてあなたたちの楽しい休暇は終了した。
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ターコイズ色の美しい海の広がるベレニーチェ海岸。
ベリアルの姿もなく安全に海水浴を楽しむ事が出来る場所なのだが――……。
「真夏だっていうのに、地中海にベリアルが出現してからお客が減っちまった……。まったく、商売上がったりだ」
浜辺に開かれたとある小さな海の家で、こんがりと日焼けした男の店主が腰に手を当て溜息と共に嘆く。
「教団からの警備も増えたし、より安心して遊べると思うんだがなぁ。不安はそう簡単には拭い去れねぇってことか」
「――こんにちは。今日も調子悪いみたいね」
「ああ、あんたか」
話しかけてきたのは若い女性。何度も足を運んでくれている常連さんなのだが、服装からして今日も海に泳ぎに来たわけではないようだ。
「私も海で遊びたいところなんだけど、怖くて海に入る人なんてほとんどいないじゃない? だからどうしても遠慮しちゃうのよね」
「だがこの海岸では目撃すらされてないんだ。不安なのは分かるが、折角の夏を楽しまねぇなんざ勿体ねぇってもんだろ」
「仕方のない事だけど、確かに足が遠退いてしまうのは寂しいわね……。せっかくのフルーツも活躍できなくて可哀想だわ」
海の家のカウンターに置かれたまま使われずに鎮座している南国フルーツ。
白髪交じりの頭を掻きながら店主も「まったくだ」と肩を竦めた。
「朝一番に収穫してきたんだが、こうもお客が来なけりゃ無駄になっちまう」
「海の家特製フルーツジュースでしたっけ? そろそろ秘密のシロップとやらが何なのか教えては頂けないのかしら」
カウンターに寄りかかり、人の頭一つ分はある大きさのフルーツをツンと指でつつく彼女。
それを店主はカハハと笑う。
「駄目だ駄目だ! どこかで聞き耳を立ててる輩がいるかもしれん。真似されたらこの店は終わりだ」
「そんなこと………無いとも言い切れないわね。本当に美味しいもの」
前に飲んだ事のある彼女だからこそ、大袈裟な店主の台詞もすんなり納得できてしまう。
「甘酸っぱくてとろける様な舌触り……。何より見た目が綺麗よね。今日も頂いて帰ろうかしら」
外見は焦げ茶色でザラつきがありとても美味しそうには見えないが、中身が白くパールのような輝きがある。しかしそのまま食べようものなら酷過ぎる酸味に舌がやられてしまう。
「それがあなたの手に掛かればまるで魔法が掛けられたかのように甘みが生まれて信じられないくらいに美味しくなるのよね……」
うっとりと語る彼女に店主は呟く。
「シロップ掛けただけだがな」
「もう! 夢をブチ壊さないでよ! だけって言うならシロップの秘密教えてくれてもいいじゃない」
ぷりぷりと不満を漏らす彼女だが、不意に両手をパン!と打ち合わせた。
「そうだわ!」
「!? 吃驚したなぁ。どうしたよ、急に……?」
彼女の豹変ぶりに店主は目を丸める。
「お客さんが来ないなら、こっちから出向けばいいのよ!」
「はあ? ……出向くって、売り歩くってことかぁ?」
彼女は目を輝かせ大きく頷く。
「近頃エクソシスト様が増えたじゃない? もちろん遊びじゃなくて警備でいらしてるようだけど、彼等にこの特製ジュースを飲んで頂くの!」
拳を握って意気込む彼女に店主は腕組みをして片眉を上げた。
「良い考えだとは思うが、仕事の邪魔になり兼ねんだろう……」
「事情を話せばきっと大丈夫よ! お代を頂戴しないかわりに宣伝して頂くの、どうかしら?」
「お代を頂戴しない!? それはさすがに……」
売り上げが右肩下がりの今、彼女の考えにはすんなり頷けない。それでも彼女は食い下がる。
「想像してみて? エクソシスト様が海でこのジュースを飲んでいたら人々の目にはどう映るかしら」
「どうって………」
店主は頭に思い浮かべた。
――フルーツを半分に割り、中身だけを潰し、頑丈な皮を器にして最後に秘密のシロップを混ぜ合わせれば完成する特製フルーツジュース……。
「ふむ……あれを抱えていたら、さすがのエクソシストさんも硬さがとれて雰囲気が緩む……か」
「その通りよ! 彼等が飲んでいたらきっといろんな人の目に留まるわ。エクソシスト様たちの楽しそうな姿に自分も飲んでみたいって足を運んでくれること間違いなしよ!」
「そう上手くいくかねえ……」
「やってみないと分からないわ! 題して『エクソシスト様おすすめフルーツジュース』よ! それに、こんな暑い中頑張ってくれてるんですもの、このとびっきり美味しいジュースを振る舞ってあげたくなるじゃない」
勝手なネーミングをつける彼女だが、この提案はそれほど悪くはない。
そう思った店主は、商売繁盛の為にもやれることは全てやろうと重い腰を上げた。
「よし、一丁やってみるか!」
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「いらっしゃい! いらっしゃい! 安いよ! 美味いよ!」
とある屋台から威勢のいい声と美味しそうな匂いが漂ってきます。
ここは教皇国家アークソサエティ、ソレイユ地区。小さな村が主催した七夕祭。大人も子供もこぞってたくさんの屋台を見たり、会場の中央に立てられている笹に付ける短冊に願いを書いたりして賑わっています。
「ねぇ、あそこに人だかりができているよ」
「面白そうだね。ちょっと行ってみよっか」
あなたはパートナーの手を引きながら屋台に向かいます。そこには小さな池があり、何人かが笹船を浮かべています。その上には色とりどりの金平糖が乗っていました。
「いらっしゃいませ。ここでは占いをやっていますよ。お二人ともいかがですか?」
池の傍に建てられた屋台には占星術師の服装をした人物が座っていました。この人物が屋台の店主なのでしょう。この服装は占いに神秘性を求める為の余興なのか、それとも本当に占いを生業としているのかは判りません。
「占いかぁ。面白そうだしやってみたいかも」
「ははは、キミは本当にそういうものが好きだなぁ」
「ぶぅぶぅ。良いじゃない。こういうものは楽しんだものが勝ちなのよ」
「ゴメンゴメン。じゃあやりかたを教えてもらえるかな?」
パートナーを少しだけからかったあなたは店主に問います。
「ありがとうございます。では、やり方を説明いたしますね。まずはこちらの短冊に願いを書いて下さい。そして、書かれましたらこの様に船を折ります。そして金平糖を一粒、乗せて池に浮かべて下さい」
店主が鈴のような凛としながらも神秘的な声で語ります。その手には金平糖を乗せられた船があり、そっと池に浮かべられました。
「浮かべて、その後はどうするんだい? 遠くまで行った方が縁起が良いとか?」
あなたは店主が浮かべた船を見ながら聞きます。周りには先客が居て、浮かべた船の動向に一喜一憂しているようでした。
「いえいえ。逆で御座います。船が近くであればあるほど、早く星の中に届く事ができるほど、良いとされています」
店主が池をそっと指差すと天の星々が池に映りこんでいました。
「ふむふむ。何か意味があるのかい?」
あなたは澄んだ池の中に映りこんだ星々と底に留まっている空に輝く光と同じ形をした色とりどりの金平糖の美しさに見とれながら聞きます。
「はい。距離は願いの叶いやすさ、そして星の中に混じる早さで願いが叶う時間を示しております」
店主が浮かべた船はゆっくりと水に溶けて、上に乗っていた星も水底の仲間達に混じって行きました。
「どうする? やってみる?」
「勿論! 面白そう!」
あなたはパートナーに声をかけると、瞳をキラキラさせて返してきました。
「ふふ。あなた方の未来と願いに幸多からん事を……」
ここは七夕祭。今だけは二つの星が一つになる時。二つの願いが形になる夜。
さて、あなたは何を願いますか?
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ブリテンのジョンソン家。
Jマーク鍋で御馴染のジョンソン家だ。
「表向きはね」
そう言ってマウロに微笑むのは、ジョンソン家の一人娘ライリー。
つい先日誘拐され教団のエクソシスト達の働きで、無事救出されたが主犯はジョンソン家に長く務めるメイド長だった。
新聞でも大きく報道され、家出猫探しと看板を磨くしか仕事のなかった探偵マウロにも仕事が入るようになった。
「誰のおかげ?」
そう言ってライリーがマウロの事務所に入り浸る様になって数週間。
「こんなトコロで油を売ってないで、子供は勉強をしないといけないよ」
マウロがそう言っても、お目付け役のメイド長が居なくなったことを良い事に、糸の切れたタコである。
「だってパパがここなら遊びに行っても良いって言うんだもの」
16歳。大人と子供の境目。時々見せる亡き母メラニーに似た大人っぽい表情はマウロをドキリとさせる。
メラニーとマウロは、昔何かあったようだが、今となってはマウロと神のみぞ知る、である。
「おー! ライリーちゃん、来てたか! 今日のおやつはミートパイだ!」
大きな身体、大きな声、そしてその大きな手にミートパイを持って現れたのは、マウロの幼馴染精肉店店主テオだ。
「やったぁ!」
何がジョンソン氏を安心させたのか、誘拐事件以来すっかり信頼を得てしまった。
「で、ヴェネリア行きは、パパさんOKしてくれたのか?」
切り分けたパイをテオがライリーに手渡す。
「全然ダメ。ほらウチ使用人が1人減ったでしょ? 海何て危ない場所、御付きもなしに行ってはダメって」
母親代わりだったメイド長が居なくなった今、ライリーが自由に行き来できるのは事務所(ここ)だけか。見た目は成長しても、まだまだ遊びたい盛り好奇心旺盛の子供だ。
「一緒に行こうか?」
口の両端にパイを着けたライリーを見て、つい、マウロは言ってしまった。
ライリーの動きが一瞬止まったかと思うと、手にパイを持ったままマウロに抱き着いていた。
「ほんとに? 本当なの、マウロ!」
頬張ったパイを飛ばしながらライリーが叫ぶ。
「おい、俺は無理だぞ。七夕で店が忙しい時期だ」
「分かってるよ」
ライリーを引きはがしたマウロは、ライリーが口の中のパイを飲み込むのを待った。
「じゃぁ、ジョンソンさんに私と一緒なら良いか確認して、予定を決めよう。私も仕事があるしな」
「仕事ったって、どこぞの奥様の愚痴聞きだろう」
ガハハと笑うテオを、ライリーが軽く睨む。
「奥様の愚痴聞きだって、立派なお仕事です! だめよ、人のお仕事をそんな風に言っちゃ!」
ライリー、残りのパイを口に押し込むと父親の元へと飛び出して行った。
大人の男二人が思わず顔を見合わせて、吹き出す。
「育ちが良いんだか、悪いんだかわからないな、あの子は」
マウロは、床に散らばったパイの食べカスを見て苦笑いをした。
「じゃーん!」
浮かれた声と共に事務所に入って来たライリーは、一枚の紙をマウロに差し出した。
ジョンソン氏からヴェネリア行きの許可を貰ったライリーは、ここ数日冒険のスケジュール調整に没頭していたのか事務所に姿を見せていなかった。
「久しぶりに来たと思ったら、もう予定を決めてしまったのか」
受け取ったスケジュール表を見て、マウロの顔色が変わった。
「海は危ないよ、ライリー」
「大丈夫よ。マウロは海が怖いの?」
ライリーに顔を覗き込まれたマウロは、自分の顔が赤くなるのを感じた。
「ち、こ、怖いとかではなく、行った事がないだけだ」
「だったら、良い機会じゃない! じゃ、けってーい!」
無邪気で強引なライリーに逆らえないのは、やはりメラニーに似ているかだろうか……。
「し、しかし私は水着を持っていないぞ」
「大丈夫、向こうで貸してくれるんですって!」
「ベリアルが出るって話だよ」
「あら、それだって大丈夫よ。パパが教団にお願いをして一緒に来てもらうように手配したわ」
抵抗する材料が尽きたマウロは、人生初の海へと挑む事になってしまった。
<ジョンソン氏からの依頼書>
ブリテンのジョンソン家当主ジョンソンです。
先般は娘ライリーを救助いただきありがとうございました。
実は、娘が生まれて初めて旅行をします。
これまで、大変な思いをして来たライリーに是非楽しく・安全な旅をしてもらいと思っております。
目付け役に探偵マウロが同行いたします。
非常に信頼できる男なのですが、正直頭でっかちで面白みに欠けます。是非皆さまでフォローしていただければと思います。
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七月七日は七夕の日。
元々は東方島国ニホンの風習で、短冊に思い思いの願いを書いて笹や竹に飾るイベントだったらしいが、七夕という風習は形を変え、ここアークソサエティにも伝わっていた。
「ねー、ママ。このろうそくなぁに? なんでこんなにたくさんあるの?」
「これはね、キャンドルナイトっていうのよ。綺麗でしょう」
七月七日の前後にはアークソサエティの至る所でお祭りが開かれており、年に一度しか会えないズラミスとサラミの再会を祝う。
ニホンで行われている七夕のように笹と竹に願いを込めた短冊を飾ったり、その笹と竹を川に流したり、ズラミスとサラミの逸話にちなんで天の川に向かって大切な人を想ってお祈りをしたりと祝い方はいろいろだ。
街によれば七夕の日は一日中踊り明かすような街もあるらしいが、どうやらあなたが訪れたこの街では川沿いに並べられた蝋燭に火を灯し、キャンドルナイトとしてお祝いをしているらしかった。
「こんなに綺麗なんだから毎日お祭りしてたらいいのに。そしたらみんな楽しいよ」
「ふふっ、それもそうね。けど、特別な日だから楽しめることだってあるのよ」
「ふーん……」
と、少女は川沿いに並べられているキャンドルの一つに顔を近づけ、不規則に揺れるキャンドルの火をじっと見つめる。
目を凝らしてよく見てみると、キャンドルが置かれている器には黒い文字で『エクソシストになりたい!』と書かれていた。
「ねーー、器になんか書いてる!」
「きっとそれは願い事ね。キャンドルを置く器に自分の願い事を書いてそれが叶いますようにってお祈りするの。桜ちゃんはどんなお願いをするのかな?」
「私? うーん、えっとね……、私はね……」
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高く昇った太陽の日差しに熱される白い砂浜はキラキラとその光を反射して、透き通ったターコイズブルーの海は奥に行くほど濃いグラデーションを描いている。絶好の海水浴日和だが、ベレニーチェ海岸に見える人の姿はまばらだ。
実は今夏、地中海でベリアルが出現したとの報があり、それは人々の間に瞬く間に広まった。ベレニーチェ海岸は幸い平穏なものの、いつこの海岸にもベリアルが現れるかという人々の不安を、この海岸を訪れている人の少なさが物語っている。
「あんたたち、時間があるならサップってのをやって見ないか?」
そんな中、海水浴客に紛れて湾岸の警戒にあたっていたあなたたちに海の家の店員が声をかけた。
「サップ?」
首をかしげると、店員は側に立ててあるボードをコツコツと叩いた。
「このボードに乗って、パドルで操作するスポーツさ。波の上を散歩するように進めるんだ。サーフボードより安定感もあるから二人乗りもできるぞ」
そして店員は後ろに立つ店を指差してあれは俺の店だと言った。
「水着は店でレンタルできるから、試しにやって見ないかい?」
小麦色の肌と、それとは対照的な白い歯を見せてニカッと店員が笑った。
ベレニーチェ海岸の安全を人々に示すのも浄化師の役割でもある。浄化師二人の返答に店員は嬉しそうにまた白い歯を見せ頷くと、
自分の店へと案内するのだった。
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「たくさんの人たちの笑い声が響く、夏の海が好きなの」
べレニーチェ海岸の近くで服屋を営む女主人は、そう言って寂しそうに肩を落とした。
「でも、今年はこの通り。もうすっかり暑くなっているのに」
海洋に住む生物を元にしたベリアルが地中海に侵入した、という報せは瞬く間に国中を駆け巡った。
地中海の一部であり、薔薇十字教団の管轄下、さらに教皇国家アークソサエティ唯一の安全な遊泳が保証されたこの海岸は、夏も盛りを迎えようという今、かつてないほど寂れてしまっている。
ベリアルが地中海に現れたとはいえ、べレニーチェ海岸から離れた位置でのことだ。この美しい場所は変わらず平和が保たれていた。しかし、人々の胸に一度でも根差した不安と恐怖の芽は、そうやすやすとは消えてくれない。
「だからね、考えたのよ」
服屋の女主人は目を輝かせる。
「小さなころ、絵本で読んだの。『宝探し』っていう海の遊び。とても素敵なのよ。それを、浄化師様主催という形で執り行うのはどうかしら」
『宝探し』とは、浅瀬や砂浜に子どもの手のひらほどの大きさのゴムボールを埋め、見つけるという簡単な遊びだ。ゴムボールを宝、あるいは宝石に見立てることから、『宝石探し』ともいう。
それを浄化師――薔薇十字教団が主催することで、べレニーチェ海岸の安全性をアピールし、例年通り人々に楽しんでもらおうというのだ。
「水着はうちがお貸しするわ。ね? お願いよ、いつもの楽しい海岸にしてちょうだい?」
かくして、夏のべレニーチェ海岸を盛り上げるための指令が下された。
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「ふふっ。ねぇ知ってる?」
「何がだい?」
「この海岸の名前に関する事」
ここはルネサンスのヴェネリア地区、ベレニーチェ海岸。二人の仲睦まじそうな男女がオレンジ色に染まった砂浜を歩いている。
「興味あるな。聞かせてもらえるかい? ベーチェ」
「ええ。アレン、あなたは人魚って知っているかしら?」
ベーチェと呼ばれた女性は何がおかしいのかクスクスと笑う。アレンはそれを不思議に思いながらも答えた。
「……確か、下半身が魚で上半身が人の形をした生物だっけ。セイラーンだったかな? 歌で人間を誘惑して海に溺れさせたり船を海に沈めたり、あまり良い話は聞かないけれど」
2人の足跡と足音を波がゆっくりと消していく。
「セイレーン、よ。ただ、悪い噂ばかりじゃないわ、聞いてみたい?」
「ああ、良ければ」
ベーチェの顔は麦藁帽子に隠されてしまい、半月状に開いた口元しか見えなかった。しかしアレンは彼女が楽しそうな声だったので笑っているのだと判断し、促した。
「……セイレーンは恋をするととてもとても弱くなってしまうの。それに陸で生きていく為に魚の下半身を捨てて、人間の脚を手に入れる事はナイフで両脚を刺し貫かれる痛みを常時感じる事になるわ。だから恋をした相手に愛情を注ぎ続けて貰わないと耐え切れずに海の泡になってしまうの」
「詳しいね。でもセイレーンは想いを伝えると声を失ってしまうんだろう? 愛を伝えられなくなるし、歌も歌えなくなる。……それはとても悲しい事だと思うんだ」
アレンはベーチェの澄んだ声を聞きながら、御伽噺程度に聞いた自分の知識を掘り起こす。つがいの鳥が夕焼けに向かう姿を見送りながら。
「愛が在るならば、言葉が無くても伝わるわ。藍の海の深さよりもずっと深い愛。哀を覆い隠してしまうくらい」
歌うような言い回しをするベーチェの声がアレンの脳を満たす。それはとても心地よく、温かい海に浮かんでいるような錯覚さえ覚えた。
「ベーチェは……セイレ……。いや、何でもない……」
セイレーンなのかと冗談交じりに聞こうとしたアレンだったが、冗談にするにはあまりにも真実味を帯びているし、もし口にすればそれだけで目の前の彼女が海の泡になってしまいそうな危うい錯覚さえ覚えて出かけた言葉を飲み込んだ。
「ふふっ。冗談よ、アレン。もしかして私がセイレーンだと思った? 残念でした」
白いワンピースを翻してアレンの前に立つと顔を覗き込むベーチェ。その顔はしてやったりといった悪戯好きの子供を彷彿とさせて、アレンも毒気を抜かれてしまった。
「だ、騙したな~!」
「きゃあ! ふふっ」
アレンはまんまと一杯食わされたという風体でベーチェの手を取り、そのまま胸の中に体ごと抱き寄せる。後ろから抱きしめる形になり、太陽の光を吸った麦藁帽子の香りとベーチェの香りがアレンの胸を満たした。
「……ねぇアレン」
「ん?」
ベーチェが一段、声のトーンを落として語りかける。それは水平線の向こうに沈みかける光と今の空と同じ、どこか憂いと藍を含んだ声音だった。
「セイレーンはね。その涙が輝石になるの。だから過去には高値で取引されていたわ。一日二日で溶けて消えてしまうような物だけれど、過去にはそれで乱獲の憂き目にあったらしいわ。人間って馬鹿よね。見た目だけに惑わされて物事の本質を見抜けないなんて」
「……」
ベーチェのポツリポツリと独白じみた言葉にアレンは沈黙で返す。
「本当のセイレーンの涙はね、真実の愛情を受けた時にしか流せないの。それは永久に残るとも言われているわ。どんな苦難が降りかかろうが決して砕けない。愛する者達がそうであるように」
「この海はセイレーンの涙で出来ているのかも知れないね。けれど僕はセイレーン達に悲しい想いも哀しみの唄も味わってほしくない。目に入るのが哀の海だなんて辛過ぎるだろう?」
「ふふっ……。アレンったらいつ詩人になったの? でも、そうね。アレンの様な人が沢山居たらセイレーンの住む場所は愛の海になるかもしれないわね」
「ははは。詩人って、僕はそんなものには向いてないよ。でも、そうだね。詩人ならこう言うかな? ベーチェ、僕と一緒に幸せの音色をセイレーンの居る海に響かせてくれませんかってね」
アレンは丘の上を指差す、そこには恋人達や友人同士が鳴らす幸福の鐘と呼ばれるものがあった。
「ええ、喜んで。行きましょう?」
ベーチェはアレンの手を引き、嬉しそうに一歩踏み出す……が、その足が急に止まる。
「ベーチェ? どうし……」
「居たぞ! 魔女だ!」
「こっちだ! 歌に気をつけろ! 口を開く前にしとめるんだ!」
アレンの訝しがる言葉は降りかかる怒声にかき消された。
「何だ、お前ら!」
ベーチェを男達の視線から自分の背に隠す様に立つアレン。震えるベーチェの手を心配ないと安心させる為に強く握った。
「そいつは魔女だ! 俺達の船を何隻も沈めたセイレーンがノコノコと陸に上がってきやがって! 爺さんの仇だ! 覚悟しやがれ!」
「待ってくれ! ベーチェがセイレーン!? そんな筈は無い!」
銛や斧で武装した漁師風の男達に負けじと声を張り上げるアレン。
「うるせぇ! コイツが証拠だ!」
何かの薬だろうか、男が液体の入った小瓶をベーチェの足元に投げると白い煙が発生した。
「キャア!?」
「そ、そんな!」
ベーチェの悲鳴と驚愕したアレンの声が響く。そこには下半身が魚の人魚、いや……セイレーンが居た。
「これで分かっただろう! そこをどけ!」
「……断る! セイレーンでもベーチェはベーチェだ! 僕が真実の愛を注ぎたいただ一人の存在だ!」
男達の前に立ちふさがるアレン。少し驚いたが何となく予感はしていた。それに自分の言葉に嘘は無い。
「ベーチェ、僕が担ぐから一緒に逃げ、グアガッ……!」
後ろの彼女に優しく語り掛けるが、それは悪手だった。男の一人が放った投石が側頭部に当たったのだ。脳を激しく揺さぶられ、倒れこむアレン。
「良いの、アレン。理由はどうあれ船を沈めたのは私。だけれど、セイレーンの姿を見ても庇ってくれて嬉しかった」
「ぐぅっ! ベ、ベーチェ!」
ベーチェがアレンの側頭部に真っ白いハンカチを当てるが、それは見る見るうちに赤く黒く染まっていった。まるで今の空と海のように。
「そういえばずっと言って無かったわね。愛しているわ、アレン」
アレンの唇に柔らかい感触が落とされた。そしてベーチェの瞳から涙が零れる。それはすぐに透き通る青さの石へと変わり、アレンの額に落ちた。
「――――」
口を4回ほど開くベーチェ。それは声にしなくても判る別れの合図だった。
「ベーチェェェェ……」
押し寄せる潮騒は無慈悲に男の嗚咽を掻き消して行った……。
***
「こんな事があったんじゃよ」
総白髪の男性は竪琴を置くと、杖を手に取った。
「毎日探しておったが、もう儂は足が悪くて上手くは歩けん。誰かに拾われておるならそれはそれで諦めもつくんじゃが……。未練じゃの。見つかった場合はコレを渡そう。金貨が入っとる。見つからなかった場合でも報酬は出す」
ドサリと音を立てて目の前に置かれた皮袋の重さにどよめき立つ酒場。
「……余生少ないジジイの戯言だと思って聞いてくれんか」
ここはベレニーチェ海岸近くにある、とある酒場。
老いた吟遊詩人の詩は今もアイの海に響いている。
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七夕。
元々は東方の島国ニホンの風習なのだが、今では教皇国家アークソサエティにも広まっている。
それは教皇国家アークソサエティに属する「ソレイユ地区」にも類似した逸話があったからだ。
その逸話は、今でも語り継がれている。
むかしむかし、ある所にズラミスとサラミという仲睦まじい夫婦がおりました。
夫婦は死んだ後、別々の場所で星になりました。
ですが星になっても2人は、逢いたいという想いが募ります。
どうしても逢いたいと思った二人は、妙案を思いつきました。
星屑を集めて橋にしようと思ったのです。
二人は来る日も来る日も星屑で橋を作り、ついに二人は出会うことができました。
そうして、橋は天の川として、夜空を照らすようになったということです。
語り継がれたその逸話に、ニホンの笹と竹に短冊を飾る文化が入ってきてからは混同され、今では教皇国家アークソサエティでもニホンの風習に準じるものとして広まっている。
七夕の時に行われる風習は、大きくは三つ。
ひとつめは、ニホンで行われるもののように笹と竹に願いを込めた短冊を飾ること。
ふたつめは、短冊を飾った笹と竹を川や海に流す禊の行事を行うこと。
みっつめは、ズラミスとサラミの逸話にちなみ、天の川に向って大切な人を想って祈ること。
そうした風習が、七月七日の前後に行われていた。
その時期には、ソレイユ地区だけでなく他の地区でも七夕は行われている。
もちろんその中には、商売としても盛り上げようとしている所も。
リュミエールストリートの中にある大手ファッションショップ「パリの風」も例外ではない。
七夕にちなんだ浴衣を売り出そうとしていた。
その一環として、浄化師に浴衣のデザインを頼んでみよう、という話が持ち上がった。
浄化師にデザインを頼み、出来上がった物をリュミエールストリートで着て貰い、宣伝しようというものだ。
そうした依頼が教団に舞い込んできました。
内容は、次のようなものです。
浴衣のデザインをして欲しい。
出来上がった浴衣を着て、リュミエールストリートを宣伝を兼ねて回って欲しい。
とのことでした。
教団員は早速、その要望に沿って指令書を出しました。
その指令を受けて、アナタ達は――?
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ざ、ざ、ざ……濃厚な血の匂いと生臭さが鼻につく。
納屋に隠れ、生き残っていた村人はそっと外へと出ると、その有様に息を飲んだ。
「ひぃ」
一人だけ立ち尽くした男が笑って剣を振るい、山となった死者たちを崩していく地獄が広がっていた。
誰も彼もが死んだことに唯一生き残った村人は絶望し、茫然としていた。その前に男が近づいてきた。
「アリラ、きみのため、きみのため、きみが悲しまないため……必ず取り戻す」
剣が、落ちてきた。
教皇国家アークソサエティの東南に位置したアールプリス山脈の根本にある小さな村に狼型のベリアルが出現し、浄化師へと指令がなされた。
が。村は静寂に包まれる。
そのなかでただ一人だけ動いているその男は血に汚れた剣と重いそれをずるずると引きずり村にある教会へとやってくるとドアを開けた。
「ああ、アリラ、アリラ、君のために、君のために殺してきたよ。これだけの死体ではまだ足りない? この村人たちだけでは足りない?」
教会の奥の椅子に腰かけた黒髪の少女に男は問いかける。少女は微動だにせず、その瞳から涙が零れている。
「アリラ……アリラ……君を手にするにはまだ命が足りない? 完璧ではないのかい? だったら、ここにくるやつらを殺し尽くす。大丈夫、ベリアルに貫かれたあいつはもういない。俺が……マドールチェだから? それともベリアルに食い殺された、役立たずのあいつではないから? だから契約もできないのか?」
「この子を喜ばせるにはまだ命も死体も足りないようですわねぇ」
狂ったような問いかけのなか、品のよい声が落ちてくる。
男が顔をあげると、黒髪の少女の座る椅子の横に黒いドレスの女。
黒い外套に、左手の甲には十字架が輝いている。
「ほら、もうすぐここにちゃんとした浄化師がくるわ。その人たちを殺して、その命を捧げれば、きっとあなたは本物となって契約もできるはずよ」
「マダム・タッツー……本当ですね? 本当に、本当ですね? 嗚呼、まったく信じられません。大切な人がいるのに。本当にどうしてベリアルなんかに食い殺されたのか……マダム・タッツー。我が母、あの役立たずに似せて作ってくれたこと感謝しています。俺は嘆き悲しむアリラのために生まれた。彼女を見て俺は生まれた意味がわかりません……けれど契約が出来ない、どうしてアリラは俺を見ないのですか? マダム・タッツー、我が神、あなたなら俺の問いに応えられるはずだ」
大切なパートナーを思う切実な声に彼女は――マダム・タッツーは口元に笑みを浮かべた。
「私はただの魔術師ですわ。ただバットエンドが嫌いなの。せっかく、浄化師は二人で想いあう素敵な人たちなんですもの。だったら、大切なパートナーを亡くしても、また同じもの与えてあげたくなるじゃない? ただねぇ、見た目だけが同じで、記憶も魂も違う。
さぁ、急いで、急いで! この地のかわいそうな魂を増やして、呪いを生み出して食らいつくして、本物になるの!」
甘い毒を滴らせたような言葉に彼は嬉しそうに頷いた。
「待っていて。アリラ、アリラ、すぐに……殺し尽くしてあげる。ここにくる浄化師たちを、そいつら君に捧げて、そうして契約をしよう。今度こそ、守り抜いてみせるから」
アリラと呼ばれた少女は虚空を見つめ、涙を流し続ける。その唇からこぼれるのは罪悪に染まった言葉。
「ジルド、ジルド、ごめん、ごめんなさい、私のせいで、私をかばったから、あなたは……ジルド、ごめんなさい……」
マダム・タッツーは泣き続ける少女の頭をひとつ撫でると、くるりっと背を向ける。
「私はなくしたものに悲しむ人に、なくしたものと同じ顔をした人形をあげるだけ。それがどうしようが、どうなろうが、幸せな結末にかわりはありませんわ
あなたたちがそうやって想いあって、悲しんで、ないものをねだって、純粋に求め合うために……ほぉらすてき、すてき、あなたがなくしたものに悲しんでなにも見ないから、愛しいと呪いがあなたをおもうから
いっぱい死んだ嘆きも、悲鳴も、憎悪も、絶望も……この地を満たしている。次に誰かが死んだら、他の呪いを食らい続けて大きく染まった呪いは今度こそ暴走して、この地を不毛の地にすることでしょう。
正義感強く、悪を倒した浄化師がすべての引き金になるなんてすばらしいわ」
マダム・タッツーは少し、考えるようにして少女の耳元に囁いた。
「ほぉら、また、あなたの大切なジルドを殺す人がくるわ。命をかけて守らないと、また失うわよ」
その言葉にアリラの目がカッと大きく見開いた。
「ごめんなさい、私のせいで……彼を殺すやつから彼を今度こそ守らないと、守らないと、私は死んでもいいから、彼を殺さないで、また殺すなんてしないで。守るわ、こんどこそ、彼を、私の命に賭けて、誰からも、どんなことからも、私が犠牲になっても構わない」
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少し厄介な依頼なんだ、と受付口の男は口にした。
「数頭の狼らしいベリアルに困っていた村にアリラとジルドと二組の浄化師が指令で向かったんだが、予想よりもベリアルが強く、一旦退こうとしたとき……アリラがベリアルに襲われ、パートナーのジルドが止める声も聞かず、アリラを救おうとして戦ったそうだ。他の二組はそのまま一旦森のなかに退いて態勢を立て直したそうだ。ベリアルは討伐されていたが、アリラとジルドはいなかった」
ここからが問題なんだよ、とつけくわえる。
「依頼した村から連絡がはいらない。調査すると村人は全員がジルドらしい男によって殺害されていたそうだ。ただし、アンデッドやゾンビというかんじもしない、あいつはアリラのためにと口にしているそうだ。強い魂と力を捧げれば、アリラを手に入れると……原因はわからないが、ジルドの討伐と、事件の原因を探ってくれ。いくらジルドの腕がたつといっても大勢で囲めば問題はないと思うが……気を付けてくれよ? それにアリラについても生きているか死んでいるのか不明だ。もし、この事件の犯人が本当にジルドならば、アリラの言葉であれば届く可能性があるかもな」
あと、と険しい顔で続けられた。
「なんでも終焉の夜明け団に属している魔術師であるマダム・タッツーの姿が目撃された。
こちらでわかっている限り、彼女自身戦闘能力は皆無だが、口八丁や魔術で人を誑かして操ることから【人形師】マダム・タッツーと呼ばれている。
噂ではマダム・タッツーが作るのは死んだ者の人形だけだそうだ。なんでもその死者を模した人形は呪いのようなもので、他の呪いを食らうことで完璧な、生者の記憶と魂を宿すともいわれているそうだが噂はただの噂だ。……もしかして、ジルドもマダム・タッツーの言葉に惑わされてアリラを蘇らせようとしているのか?
マダム・タッツーの行く先では大きな呪いが生み出され、それが暴走して、災いをふりまいている……呪いを浄化しようにもただ闇雲にその地を祓うだけじゃ意味がない、その呪いを食らう大本をどうにかして、きちんと正し、浄化すること。でなければ多くの血を吸ったこの地は不毛の地となるだろう」
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