《悲嘆の先導者》フォー・トゥーナ Lv 41 女性 ヒューマン / 墓守


司令部は、国民から寄せられた依頼や、教団からの命令を、指令として発令してるよ。
基本的には、エクソシストの自由に指令を選んで問題無いから、好きな指令を受けると良いかな。
けど、選んだからには、戦闘はもちろん遊びでも真剣に。良い報告を待ってる。
時々、緊急指令が発令されることもあるから、教団の情報は見逃さないようにね。


心の内を知りたい?
とても簡単|すべて

帰還 2018-06-29

参加人数 8/8人 リリベル GM
「アークソサエティの裏路地に、不思議なキャンドル屋があるっていう噂があるから、それを調べに行って欲しいの」  教団員が眼鏡をクイとあげながら、目の前のあなたとパートナーに言う。 「不思議なキャンドル屋……ですか?」  あなたが聞くと、教団員の人が強く頷いた。 「まあ、正確に言うと、キャンドル作り屋なんだけどね。見に行ってくれるかしら?」 「わかりました」  教団員に、どこにあるかを聞くと、あなたとパートナーはそのキャンドル屋に向かった。 ●アークソサエティの裏路地にあるキャンドル屋 「ここね……」  教団員に言われた通りのところに、怪しげなキャンドル屋があり、あなたとパートナーは扉をくぐり、中に入っていく。  中は、様々なアロマオイルと染料、ドライフラワーやドライフルーツなどが棚にズラリと並べられている。その奥には、作業台のようなものが並んで置かれており、そこにせっせと何やら作業している妖艶な雰囲気の女性がいた。 「あのぅ」  あなたが声をかけると、女性はこちらを振り向き、目を細めて綺麗に笑う。 「あらぁ、いらっしゃい。キャンドルを作りに来たのかしら」 「はい。ここが、普通のキャンドル作り屋ではないと聞いて、体験してみたくて」 「うふふ。そうね、正しいわね。あなたと……そちらにいるのはパートナーの方かしら?」 「はい。二人でも出来ますか?」 「ええ。二人でもっていうか、このお店は二人一緒のキャンドル作りしか提供していないのよぉ」 「そ、そうなんですね! それには、何か理由が?」 「あらぁ、あなた何にも聞かずに来たのねぇ」 「あ、はい。本当に噂だけで……すいません」 「いいのよぉ。嬉しいわぁ。それじゃあ説明するわね」  女性はニコニコしながら、こちらに近寄ってくる。 「ここは、キャンドルをカスタム出来るのよ。色、デザイン、形、香り、ドライフルーツやドライフラワーも入れられるわ。それをパートナーと二人で選んで欲しいのぉ。最後仕上げに私が手を加えて完成。そうして出来たキャンドルに火を灯して、お互いに一つずつ知りたい質問をすると、正直な答えが聞けるのよぉ。質問は何でもいいの。相手や自分の答えたくない・言いたくないっていう意思は関係なく、絶対に答えが聞けるのよぉ」  ニコニコしている女性の前で、あなたとパートナーはお互い顔を見合わせた。  普段、聞きたくても聞けない質問。はぐらかされていること。あなたとパートナーは、普段気になっていることのために、キャンドル作りを開始することにした。
ハミングバード
とても簡単|すべて

帰還 2018-06-29

参加人数 5/8人 GM
 その少女は、今日も一人、この路地裏でその歌声を披露していた。  澄み切った歌声は、その路地裏に響いていた。  しかし、その歌声は誰の耳にも届くことは無く。  ただの雑音として、人々の耳に届くのみで、その歌声に関心を持つ者は誰もいなかった。 「あぁ。いつかわたしも、あの舞台で、歌えるときが来るのかしら」  その脳裏に浮かんでいるのは、かの有名なミュージックホール、「フィルハーモニー・ディ・ミラノ」。  由緒正しいこのホールに、一人立って歌いたい。彼女には、そのような夢がありました。 「……まぁ、無理よね、こんな身なりのわたしには」  あのような、素晴らしいステージに立てるのは、貴族のような上流階級の人間が多い。自分のような庶民には夢のまた夢。  自分はそのような想像をするだけで、十分だった。  そう、彼に出会うまでは。 「やぁ、小さなレディ。その歌声、私に預けてくれないか?」 「……さぁ。自己紹介をしてごらん?」  所変わって、教団。  一人の貴族と一人の少女が訪れていた。 「こんにちは、わたしはユミール・ベルナールド。声楽が得意です。好きなことはダンスと歌。宜しくお願い致します」  少々ぎこちないが、恭しく礼をするユミール。 「彼女をな、一流のアイドルにしたいんだ。その手始めに、1週間後に広場でやるという歌のコンクールに出場させたいのだ。そのために、彼女のプロデュースを頼みたい。用意してほしいものは何でも用意する。頼んだぞ」 「よ、宜しくお願いします!」  ユミールは、君たちに向けて元気に挨拶をするのだった。
繰り返す一日、だけど、そこに君はいない
簡単|すべて

帰還 2018-06-29

参加人数 5/8人 留菜マナ GM
 幼い頃のサニスは、毎日が楽しくて仕方がなかった。  日々、大好きな家族と一緒にカフェを経営して、二階にある住居に戻れば優しい笑顔で家族が迎え入れてくれる。  そんな当たり前の幸せな日々。 「今日もいつもと変わらない一日だったね」 「うん」  何気ない口調で言うサニスの言葉を聞いて、テーブルを拭いていた妹のノアは噛みしめるようにそっと微笑む。 「明日も明後日も変わることはない」 「どうしてー?」  そう言ってふて腐れたように唇を尖らせるノアの頭を、サニスは優しく撫でてやった。 「私達がそう望んでいるから。だから、サニス、これからもこの一日を望んでくれる?」 「うん」  いつものやり取りの中、店を閉じると二階にある住居に行くため、二人は仲睦ましげに階段を上がっていく。  それは二人にとって、どれだけ幸せな光景だったんだろう。  時が廻り、季節が廻っても、この一日だけはいつまでも色褪せることはない。  変わるのは――。  それは良く晴れた、穏やかな日だった。  辺りは優しく甘い水の香りで満ちていた。  初夏の日差しが差す運河を、遊覧船がのんびり進んでいる。  やがて、その遊覧船は二階建てのカフェの前に止まった。  遊覧船から降りてきたのは、教団からある指令を受けてやってきた浄化師達だった。  浄化師達は地面に降り立つと、きょろきょろと周りを見回した。  彼らを乗せていた船はゆったりと遠ざかっていく。  ここは、教皇国家アークソサエティの南部に位置する大都市ルネサンス。  ヴェネリアの外れにある『スイーツショップ』は、様々なケーキやお菓子を取り扱っているお店である。  一目で見渡せるこざっぱりとした店内には、まだ、お昼過ぎだというのに客は一人も入っていなかった。  ヴェネリアの外れにあるものの、自警団もよくこの店の近くに足を運んでいるため、べリアルやヨハネの使徒達などの脅威も少ないというのに、だ。 「ずっと前から、このお店で不思議な現象が起こっています」 「私のせいなの―」  対応した浄化師達にそう告げると、依頼者である少女と幼い少女は淡々とここに来てもらった理由を語り始める。 「君は――」  そう言いかけて、浄化師達は絶句した。  幼い少女は半透明に透けていた。  少女の身体を通して、お店の向こう側の景色が見える。 「幽霊なのか?」 「うん。私、ノア。お姉ちゃんはサニスだよ」  不似合いに明るく、可愛らしささえ感じさせるようなノアの声に、浄化師達は苦り切った顔をして額に手を当てた。  幽霊の魂は、浄化師などの魔力が高い者は比較的視ることができる。  だが稀に、サニスのように霊魂を視やすい体質の者も存在していた。 「このスイーツショップでは、以前から不可思議な現象が起きています。この店を一緒に訪れた二人は、お店を出る際に必ず、同じ一日を繰り返しています」 「同じ一日?」  サニスから思いもよらない言葉を告げられて、浄化師達はただただぽかんと口を開けるよりほかなかった。 「以前、体験したことがある現象が、全て同じように目の前で起こるんだよ。でも、その一日さえ終われば、このお店の前に戻ってくることができるの」 「一時的に、同じ日常がまた、繰り返されるのか?」 「うん。きっと、私が前と同じ日が戻ってくることを望んでいるから、お店自体に怪奇現象が起こっているんだと思う……」  静かに――そして、どこか悲しそうにつぶやいたノアの言葉に、浄化師達はわずかに目を見開いた。  幼い頃、サニスの家族はサニス以外、ベリアルによって殺されてしまった。  サニスに残されたのは、幽霊として現世に留まっている妹と父親が経営していた小さなお店だけ。  しかし、その日以来、お店では不可思議な現象が起こるようになってしまった。  お店から出る度に、お店を訪れた二人にとって幸せだった日常が繰り返されてしまうという現象。  サニス達の場合は、家族がベリアルに襲われる前――幸せだった過去の日常を繰り返すという甘い夢のような一日だった。  それはきっと、サニスとノアが望んだ日々なのだろう。  その夢のような一日を終わらせる方法を、サニスは知っている。  ノアが前と同じ一日を望んでいるのなら、実際の過去とは違う一日にしてしまえば、お店で発生している『繰り返す時間のループ』は止まるはず。  だけど、それをしてしまったら、もう二度と両親に会うことができなくなってしまう。  でも、このままでは、いずれこの現象はお店以外にも広がってしまうかもしれない――。  そうしてようやく、何度目かの躊躇いの後、サニスは居住まいを正して、真剣な表情で続けた。 「私は、今のままでもいいと思っていました。ベリアルによって殺された両親に、これからも会いたいから。だけど、同じ一日を繰り返した後、このお店を訪れる人は誰もいなくなりました」  サニスの脳裏の中には今もずっと、家族の顔と声がぐるぐると巡り続けていて、いつもいつの間にか、同じ一日を繰り返してしまっている。  これからも、時が廻り、季節が廻っても、サニスは家族のことを忘れることができないだろう。  両親が残してくれたカフェで、いなくなった家族の幻影を見ながら、今日も二人で戻ってくることのない両親の帰りを待っている。  いつか――。  いつかきっと、また前のような家族の日常が訪れることを願ったまま――。 「私は、これからも両親に会いたいです。ですが、そのせいでお父さんが築いた、このお店がなくなってしまうのは辛いんです」  サニスは最後にこう言って、自分の話を締めくくった。 「お願いします。お店を出て、あなた方が望む『同じ一日』を繰り返して頂けませんか。そして、この現象が二度と起こらないように、その日とは違う言動を起こして下さい」 「……分かった」  サニスの懇願に、浄化師達は戸惑いながらも頷いてみせた。
空に虹がかかるまで
とても簡単|すべて

帰還 2018-06-26

参加人数 8/8人 あいきとうか GM
 教皇国家アークソサエティの首都、エルドラド――まであと少し、というところ。  ぽつりと一滴、空からしずくが降ってきて地面を濡らした。 「雨だ!」  叫んだのは道を歩いていた子どもだった。露店で買い物をしていた人々、どこかに向かって歩いていた人々、として馬車の御者らはほとんど反射的に顔を上げる。  間もなく、雨は音を立てて街を濡らし始めた。  露天商らは大急ぎで商品を片づけたり、雨除けの布をかけたりする。のんびりと歩いていた人々の足は速くなり、御者は帽子を目深に被りなおした。  予報されていなかった雨に、穏やかだった往来は蜂の巣をつついたような騒ぎになる。  あなたとパートナーもまた、薔薇十字教団本部に戻る道中でこのにわか雨に襲われていた。  すぐに雨はやんでしまうだろうが、濡れて帰って風邪を引くわけにもいかない。さいわいなことに近くにガゼボがあったため、そこで雨宿りをすることになった。  ガゼボの周囲に咲くアジサイは、嬉しそうに雨粒を受けている。早々に避難したのが幸いし、あなたもパートナーもあまり濡れていない。  ガゼボからは往来の様子が見えるが、人々は自分たちのことに必死らしく、こちらを気にする様子はない。  雨の中、二人きり。他の誰かの視線はなく、雨音は囁き声程度なら掻き消してくれるだろう。  しばしの休息を、楽しんでほしい。
雨の日だってデートがしたい!
普通|女x男

帰還 2018-06-23

参加人数 8/8人 GM
 最近、なんでか知らないけど二人のタイミングが悪い。  普段は浄化師として活動しているのでほとんど毎日顔を合わせているのだが、休日に限って二人の予定がなかなか合わないのである。  先週もダメ、先々週もダメ、その前の週もダメ。せっかくの休日でもこれでは休んでいる気にならない。  そんな中、今日は久しぶりにどちらとも予定が入っていなかったのでいつも以上に早起きして、朝から一日中デートをするつもりだったのだが……。 「なんで……、なんで今日に限って雨が降ってるんですか!? 昨日は晴れてましたよね!!?」 「仕方ないだろ、梅雨なんだから。むしろ最近は晴れの日の方が少ないじゃないか」 「だからって今日ぐらい晴れてくれたってもいいじゃないですか。せっかくの休日が台無しですよ」  生憎にも、今日は朝からずっと雨が降っていて、本来行くはずだったトラファルパーク・セメタリーへはいけそうにない。  今日のためにとずっと前からコツコツと予定を立てていたのに、これではせっかくのデートが台無しである。 「あーー、もうこんな時に雨なんて降るからこんなことに……」  私はソファにうつぶせに寝っ転がり、愚痴り始める。  外の天気はさっきと変わらず雨模様だろうが、私の心の中もそれと負けず劣らずの雨模様だった。 「だからってそこまで落ち込むこともないだろ。たかが雨なんだから」 「そのたかが雨に私の予定は一気に狂わされたんですよ~~。……雨なんて滅べばいいのに」 「そんな物騒な。ほら、さっさとどこ行くか決めるぞ」 「…………ふぇ?」  私は彼が何を言っているのか分からず、不思議な顔をする。  遠目からでも雨が降っているのが分かるほど外の天気は最悪だし、今から頑張ってトラファルパーク・セメタリーに行ったところでびしょ濡れになって帰ってくるだけである。  翌週は二人とも予定が入っていなかったはずだし、デートはその日までお預けになるものだと思っていた。 「実は午後から雨が弱くなるんだとよ。雨が降ってることには変わりないけど、傘があれば大丈夫だろ。それともあれか? せっかくの休みなのにずっと部屋でゴロゴロするつもりか?」  私はものすごい勢いで首を横に振り、ソファから跳ね起きる。  さっきまでの私は全てに投げやりで起き上がる気力さえ起きないほど落ち込んでいたのに、彼のたった一言で一気に私のやる気が回復した。 「分かりました、じゃあ30分だけ待ってください。その間に行きたいところ決めますから!!」  そういって私は紙とペンを取り出し、一緒に行きたいところややりたいことを箇条書きにしていく。  雨が止むことはあまり期待できないので屋根のあるところでゆっくりとしようかとも考えたが、傘を差しながらの散歩というのも悪くない。そういえば一緒に料理をする機会はこれまでにほとんどなかったし、この際お菓子とかを作るのも楽しそうだ。  ただ紙にやりたいことを書いていくだけなのに、不思議と私の顔はずっとにやけていた。
探偵マウロの事件簿~令嬢誘拐事件
普通|すべて

帰還 2018-06-22

参加人数 5/8人 弥也 GM
●ジョンソン家の令嬢 「おはようございますライリー様」  メイド長ジュリアの声にライリー・ジョンソンが目を覚ますと、その整った顔をほころばせる。  ライリーがベッドから起き上がると、ジュリアは朝の支度を手伝う。 (お顔立ちだけではなく、お姿までお母様そっくり……)  16歳になったライリーは、少女から女性へと成長しようとしていた。 (ご主人様は、奥様を思い出して、きっとお辛いのだわ……)  ジュリアは、ここ最近ジョンソン氏が娘とあまり顔を合わせないようにしているのは、娘に亡き妻の面影を見るからだと感じていた。 「今日は暑くなりそうですから、髪は編み上げておきましょうね」  ライリーの絹の様にしなやかで美しい髪を編み上げ、最後にリボンを結べば朝の支度は終わりである。  髪を編んだライリーは、大人っぽく見えるが、鏡を覗き込みリボンを指先でちょっと摘まむ仕草は幼さを垣間見せていた。 「ジュリア、今日こそは教えてくれるんでしょ?」  ライリーは鏡越しにジュリアを見つめた。 ●マウロとテオ  教皇国家アークソサエティのブリテン。技術革新の為の特区で、その技術力で栄え得た富は文化を育て、観光客も多く訪れる。  その華やかな街の、うっかり見逃してしまいそうな裏路地の奥にぴかぴかに磨き上げられた看板――探偵マウロ どんな仕事も断りません――が裏路地の隙間に差し込む夕日に照らされている。  看板がピカピカなのは、店主が暇すぎて看板を磨くしか仕事がない、ただそれだけである。  店主の祖父が大層な発明家で、彼の残した技術でこの一族は生き延びてきた。しかし、それも限界。年老いた母を養うためにこの家の息子マウロが突然この看板を掲げ店主となったのは1年前の事である。  そして今日も店主は椅子に上り看板を磨いている。 「やぁ、マウロ。今日も看板磨きか」  精肉店を営む幼馴染テオが、ガシっとその大きな手で椅子を掴んだ。  テオは怪力かつ豪快な男なのだが、マウロは物静かで小柄な男で、二人ともヒューマンである。 「おい、危ないじゃないか」  マウロは慌てて看板にしがみついた。 「なんだよ、転ばないよう持ってやってるんだろ」 「大丈夫だから、その手を放せ」  子供のようなやり取りだが、どちらもいい大人だ。 「この前みたい怪我でもしたら、俺がお前のお袋さんにどやされるんだよ」  手を離さないテオに根負けしたマウロは、椅子からしぶしぶ下りた。 「あれは、探していた猫を捕獲する時に噛まれただけだ」 「探偵さんのお仕事は、家出猫の捜索でしたか」  くく、っとテオが笑うとマウロは大きくため息をついた。 「それでも仕事がないよりはマシだ」  テオの大きな手から椅子を奪還し、扉の中へ入ろうとした。 「あの探偵マウロさんの事務所は、こちらでございますか」  声の主は、ジョンソン家のメイド長ジュリアである。 「はい! 迷子の猫ちゃんを探すのなら、是非この探偵マウロにお任せください! イテッ!」  間髪入れずに応えたテオの足を、マウロが思い切り踏みつけた。 ●誘拐 「で、ご依頼というのは?」  自宅一階を改装した事務所にジュリアを案内し、母特製の焼き菓子とお茶を出すとマウロもテオから奪い返した椅子に腰かけた。テオはマウロの抵抗空しく、事務所の隅に鎮座している。 「わたくし、ジョンソン家でメイド長をしておりますジュリアと申します」  このブリテンには、市民階級でありながら貴族階級よりも豊かな生活を送る者もいるが、メイド長が居る家はその中でもなかなか裕福な家である。報酬は期待できるし、上手く行けば富裕層の顧客を紹介してもらう事だってありえる。マウロは何としても、この仕事は成功させなければならないのだ。  ジュリアが静かに続ける。 「ジョンソン家の一人娘ライリー様が誘拐されました」  そう言って差し出した便箋には、  ――再び世界が救われる――。  ただ一言が書きなぐられている。 「教団に連絡は!?」  誘拐と聞いて流石にマウロの声も大きくなる。 「それが、その……。わたくし共の方からは……。以前、少し色々ありまして……」  ジュリアの視線が床へと落ちた。 ●過去の事件 「誘拐事件なんて受けて、どうするんだよ。お前、今まで猫の捜索くらいしかした事ないだろう」  ジュリアが帰ると、それまで一言も口を開かなかったテオが、頭を抱えた。 「猫より人の方が大きくて探しやすいさ。とは言え、誘拐だと必要な人手が違い過ぎるな……。彼らに頼むか」  マウロはジュリアからの情報を、紙に整理し始めている。 「彼ら?」  令嬢が誘拐されたと言うのに、ジュリアの落ち着いた様子。それに、こんな裏路地のにわか探偵に依頼すると言う事は裏がある。 「一度彼らと仕事をしてみたかったんだ」 「彼らって、もしかしてエクソシストか? 教団には頼めないって言ってたじゃないか」 「ああ、言ってた。わたくし共の方からは、ってな」  そう言って、引き出しから新聞の切れ端の大きな束を取り出した。 「何だよ、それ」  マウロは束の中から一枚引き抜き、テオに渡した。  ――メラニー事件・サクリファイス数名確保――。  メラニー・ジョンソンを殺害した罪で、サクリファイス数名確保……。 「このメラニー・ジョンソンって」 「ライリーの母親だ」  テオは慌てて記事に目を通すと、メラニー事件の日付で目が留まった。 「おい、この事件、明日でピッタリ10年じゃないか?」  マウロが頷く。 「きっと今回もサクリファイスの仕業だ。よし、できた」  マウロは情報がびっしり書き込まれた紙をテオに渡した。 ・ライリー・ジョンソン、女16歳、ヒューマン。 ・ジョンソン家はジョンソン氏とライリーの二人家族。 ・ジュリアは15歳からジョンソン家でメイドをしている。未婚。 ・今朝出かけるライリーの後ろ姿をジュリアが見ている。 ・昼食時間になっても戻らないため、部屋を確認。 ・ベッドの上に便箋が置かれていた ・ライリーの母は10年前にサクリファイスに殺された。亡骸は損傷が酷く、指輪でメラニーと確認された。 ・使用人は  執事フランツ  メイド長ジュリア  料理長グレン、キッチンメイドのサラ。二人は夫婦で、20年ジョンソン家に仕えている。  メイドはアンとメグの2名。メグは半年前に雇用された。  奴隷なし。 ・ジョンソン氏は昨日から仕事で遠方に出ており連絡がつかない。 ・サクリファイスの仕業。10年前取り逃がした主犯が? ・ジョンソン家の中にサクリファイス? ・ライリーを母のメラニー同様殺害するつもりか? ・ライリーはどこに?  候補A:10年前の事件現場  候補B:長く使われていないジョンソン家の別荘  候補C:メラニー事件で破壊された工場の代わりに建てられた別の工場  候補D:ジョンソン家が持つ稼働中の工場  候補E:ジョンソン家の隠し部屋(存在するのなら)  マウロが、部屋の中をぐるぐると歩き回り、自分に言い聞かせるように語り始めた。 「10年前、メラニーが屋敷から忽然と姿を消した直後、サクリファイスからジョンソン家へ破壊予告。  ジョンソン氏は教団に助けを求めたが一歩及ばず、ジョンソン氏は2棟ある工場のうち1棟と共に妻を失った。  後に数名確保されたが、あいつらに誘拐は無理だ。駒に違いない。とすれば、……。明日で10年……、再び世界は救われる……急ぐぞ!」  祖父から譲り受けたボーラーハットを被り家を飛び出すと、テオも後に続いた。
アフタヌーン・ティータイムをあなたと
とても簡単|すべて

帰還 2018-06-21

参加人数 7/8人 しらぎく GM
 陽の暖かさもようやく安定してきたそんな初夏の頃。  ブリテンにある、かつては栄華を極めた王族が暮らし、今では一般開放もされているポーポロ宮殿へあなた方はやってきた。  今日はこちらの庭園で、紅茶のファーストフラッシュの時期を迎えたことを祝してローズガーデンパーティが催されているのだ。 「いらっしゃいませ、何名様ですか?」  ガーデンの入り口に着いたあなた方に気付き、黒の燕尾服を身にまとい、執事の格好をしたスタッフに尋ねられ頷くと「こちらへ」と先導されあなた方はガーデンの中へと足を踏み入れた。  木々の間には大きな花瓶が置かれ、色鮮やかな薔薇が生けられている。落ち着いた深い緑と色鮮やかな薔薇の様子はとても華やかで思わず笑みがこぼれた。ガーデンの中でもひときわ目を惹く薔薇のアーチ前ではバイオリン、ビオラ、チェロ、コントラバスの弦楽器カルテットがクラシカルなハーモニーを奏で、ロイヤルな雰囲気づくりに一役買っている。  このガーデンパーティーでは、かつての貴族たちが楽しんだティーパーティを疑似体験できるという趣旨で貸し衣裳も用意されており、すでにティータイムを楽しんでいる人々の中には昔の貴族たちが着ていたドレスやガウンを羽織っている姿もみえた。  そして案内されたテーブルの上には、光沢のある真紅のテーブルクロスがかけられており、縁を飾る金のフリンジがシンプルながらも豪奢である。すでに食事を始めている他のテーブルの上にはティースタンドにフィンガーフードやプチスイーツなどが並んでおり、みているだけでも楽しい。 「メニューをどうぞ」  席に着いたあなた方に執事の格好をしたスタッフがえんじ色のメニューを手渡した。 「お決まりになりましたら、こちらのベルでお呼びください。また、ご衣裳はあちらのコーナーでご自由にお召し替えすることができますのでよろしければご利用ください」  そう伝えるとニッコリと微笑み、深くお辞儀をして、彼は他のテーブルのベルの音に「はい、ただいま参ります」と返答をして去っていった。  さて、あなた方はどんなカフェタイムを過ごしますか?甘いお菓子を楽しむもよし、がっつりと食事を楽しむもよし。それから普段とは違う装いで楽しむもよし。マナーがわからないなんて気にする必要ありません。美味しいお茶とお菓子、それから会話など、楽しむことが一番大切なのです。さあ、二人で優雅で素敵なアフタヌーン・ティータイムを!
最後にキスをしたのは……
とても簡単|すべて

帰還 2018-06-19

参加人数 6/8人 檸檬 GM
●  ケンカのきっかけは何だったのか。思い出せないほどささいなことだ。  つい言ってしまった一言が引き金になって相手を怒らせてしまったり、失敗を責められてカッとなって言い返したりして始まったのではなかったか。たぶん、そんなことだったと思う。  2人の間でとどまり続けるぎくしゃくとした雰囲気に耐え切れず、ついと視線を空へ逃がして背を向けた。  新緑が影を作る枝の先で、二羽の小鳥が仲睦まじく身を寄せ合い、時々、くちばしの先と先でつつきあっている。  可愛らしいキスに強張った頬が少しだけ緩んだ。  ――そういえば、最後にキスをしたのはいつだったっけ?  最後にしたその時、なにを感じていたのだろう。  喜び?  幸せ?  それともそれは日々のルーチンに組み込まれた単なる挨拶で、この胸がときめくことはなかったのかもしれない。  では誰と、記憶の底に沈みかけた時、声がかかった。 「そろそろ……時間だから……」  耳に届く声が遠く感じられる。相手もこちらに背を向けて喋っているのだろう。 「行かないと」  あ、うん。気まずさを間に挟んだまま、生返事して歩き出した。  本日の依頼は「ケンカの仲裁」。  50年連れ添った仲良し夫婦の、珍しく長引いているケンカを仲裁してほしい、と彼らの孫たちから頼まれたのだ。  なんという皮肉!  ともあれ、指令を受けた以上、頑張らなくては。 ●  大きな木に寄り添うように建てられた、赤い屋根の小さな家で老夫婦は暮らしていた。  腕を伸ばせば互いの体に届くほどの小さなちいさな家の中には、緊張でパンパンに膨らんだ透明な風船がいっぱい詰め込まれているようだった。1つ割れれば次々と連鎖して割れてゆき、最後の最後に老夫婦の仲を割ってしまいかねない。  そんな雰囲気の中、なんとかふたりに仲直りしてもらおうと、一つ一つ言葉を選び、顔の表情と体の動きにも気を使いながら説得を続ける。だけど、相変わらず緊張の風船は家の中いっぱいに詰まったままだ。むしろ、自分たちが訪れたことによって緊張の密度が高まってしまったような気がする。  ふと、ここに来るまでの自分たちの姿と、目の前で互いに背中を向け合って座っている老夫婦の姿が重なり合う。このままケンカ別れしてしまうのか、老夫婦も自分たちも……。  小鳥たちのさえずりが聞こえたような気がしたときにはもう、言葉が口をついて飛び出していた。 「お二人が最後にキスをしたのはいつですか?」  老夫婦はまるで示し合わせたかのように体の向きを変えて、同じタイミングで目をぱちくりさせた。 「そういうお前たちは――」 「そういう貴方たちは――」  互いに顔を見合わせ、それからこちらへ顔を向ける。 「「最後にキスをしたのはいつ?」」  私たちは覚えているわよ、ちゃんと。と老婆は連れ合いに顔を見て微笑んだ。  なんならみせてやろう、と老祖は椅子から腰を上げると、少しあごをあげて待つ愛妻にキスをした。  そして、次はお前たちの番じゃないか、と二人そろっていたずらっ子のような顔をまたこちらへ向ける。 「貴方たちも仲直りしなさい。ケンカしているでしょ? 雰囲気でわかるのよ。ねえ、おじいさん?」 「うむ。人に仲直りを勧める前に、まず、お前たちが仲直りせんとな」 「どうしてケンカしたの? じいさんとばあさんが聞いてあげるわよ。それと……さっきの質問にもちゃーんと答えてちょうだいね」    さあ、困った。  指令中ですから、と言いわけにならない言いわけをして床に視線を落とす。  隣に並んだパートナーの靴が、先で小さく「の」の字を書いていた。    ……だいたい、どうしてケンカになったんだったっけ?
夏の思い出
簡単|すべて

帰還 2018-06-19

参加人数 8/8人 リリベル GM
 教皇国家アークソサエティのルネサンスに夜が訪れる。  少し前の肌寒い空気から、今はもう草の香りとじめっとした生暖かい風が頬を撫でるようになる。夜になれば、昼間よりかは幾分か過ごしやすくなるこの季節だが、やはりまだ暑いらしく、夜道を歩いている二人の少女のうちの一人が汗を拭いながら文句を言う。 「あー、あっつい! もう! 汗がしたたるわ」  もう一人の少女は、季節に怒る彼女の友達を見て、楽しそうに笑うと、 「まあまあ。水も滴るっていうじゃない」 と、こちらは涼しげに言う。 「あんたは、あんまり汗かかないからいいのよ。あたし、汗っかきだから、夏は汗かくわ、蚊に刺されるわで大変!」 「でも、夏も良いことあるわよ? ほら、こうやって夜の風に当たると、なんだか花火大会とかお祭りの夜思い出さない?」 「あたしは、あんたみたいな良い思い出ないからなー。なんだか切なくなる」 「ふふふ。恋人同士でも、友達同士でも、感情に触れる思い出が作れるから。夏はいいと思うわ。それに、夏には夏の魔法があるっていうじゃない?」 「なあに? それ。ロマンチストみたい」 「あら。ロマンチストで何が悪いのかしら」  笑いながら歩く彼女達の目に、一枚のチラシが目に入る。 「ねえねえ、このチラシ……」  パタパタと汗を乾かす少女が涼しげなもう一人に向かって、指を差しながら言う。  そこには、 『◯月×日 ヴェネリア「ベレニーチェ海岸」花火大会 19:00~』 と、華やかなイラストと共に、打ち出されていた。 「へえ! 花火大会! ねえ、これ行こうよ!」  友達のはしゃぐ声に、もう一人は凛とした声で、 「あら、あなた、私にお供してくれる殿方がいらっしゃらないと思ってるのかしら」 「げ、まさか。いるの?」 「……いないわよ」 「何で、嘘つくのよ」 「いいわね。花火大会……そうだわ。確か、教団から花火大会に対して指令が出ていた気がするわね」 「え、そうだっけ?」 「ええ。確認してみたほうがいいわね」 「そしたら、教団に向かってみますかね」 「そうね」 ◯教団にて  教団の司令部、指令掲示板の前に立ち、二人は目をはりめぐらせる。 「あ、ほら、ありましたわよ」  涼しげな一人が指をさし、もう一人を促した。 『◯月×日 ヴェネリア「ベレニーチェ海岸」花火大会 19:00~ 花火大会を盛り上げる目的として、エクソシスト派遣要請 ※教団より浴衣貸出あり』  それを見て、今まで凛としていた彼女が不敵な笑みを浮かべた。 「花火大会……。うふふ」 「な、何笑ってるの?」 「いいえ。花火があがるロマンチックな夜空の下……暗い中にお祭りのような灯、生暖かい空気。よく知っている人のいつもと違う姿。何か特別なことが起こりそうでドキドキするわね」 「なんか、あんた怖いよ?」 「あら、それを陰ながら見るのも楽しみの一つなのよ?」  綺麗に笑った彼女に若干引きながらも、相変わらず汗が止まらない彼女の友達は固い笑顔を浮かべた。
銀波館の惨劇
普通|すべて

帰還 2018-06-17

参加人数 8/8人 狸穴醒 GM
●午前7時 浜辺  水平線の彼方から、湿り気と潮の匂いを含んだ風が吹きつけてくる。  初夏の太陽が、波頭を銀色にきらめかせる。  ラグナロク以来、ベリアルの跳梁する海は人間の領域ではなくなった。  それでも徐々に気温が上がる季節になれば、やはり人々は海に惹きつけられるものらしい。  穏やかな波が砂浜を洗い、波打ち際を散歩する人の姿もちらほら見られる、そんな朝――。 「きゃあぁぁっ!!」  浜辺にしゃがんで貝殻を拾っていた子供が弾かれたように立ち上がった。  散歩中の街娘が眉をひそめる。 「……いまの、悲鳴?」 「銀波館の方から聞こえたぞ」  中年の男が言い、集まってきた数人の視線がいっせいに同じ方向へ集中した。  半月型の浜を囲む湾のはずれ。海に張り出した崖の上に、2階建ての瀟洒な館がたたずんでいる。  アスコリ男爵の居館、銀波館である。  教皇国家アークソサエティの貴族は首都エルドラド周辺に住むことが多い。  しかしアスコリ男爵一家は風光明媚な海辺の街が気に入り、別荘として購入した銀波館で暮らしていた。 「確かに悲鳴だと思ったんだが……」  そのあと、銀波館からは何も聞こえてこない。  静けさがやけに不気味に感じられる。人々は館を見上げ、不安そうに言葉をかわした。 ●午前7時 銀波館前  崖の上の館では、使用人たちが囁きあっていた。  浜辺の人々より表情は深刻だ。隅で若いメイドがうずくまり、別のメイドに背をさすられている。 「ううっ……どうしてこんなことに……」 「自警団が来るまでそのままにしておけと、旦那様はおっしゃったが」 「でも、こんなもの奥様やフィオレお嬢様にお見せできないわ」  彼らのある者は恐怖を、ある者は嫌悪を顔に浮かべ、一様に青ざめて、遠巻きに「それ」を囲んでいた。  館の前庭、刈り込まれた芝生に横たわる「それ」。  人、なのは間違いない。  うつぶせに倒れた、おそらくは男性。周囲の使用人と同様の質素な服装だ。  両脚と左腕を投げ出し、右腕を曲げている。何かを握り込んでいるように見えた。  年齢や種族、人相は不明。なぜならその男には――、  首がなかった。 ●午後3時 銀波館書斎  樫材のドアが外からノックされた。 「入れ」 「失礼いたします、男爵閣下」  立派な装丁の名著が整然と詰め込まれた書斎である。  室内に滑り込んできたのは、お仕着せをまとった初老の執事だ。 「今朝死んだ馬丁の件で、少しお話が」  執事が言うと、針金のように痩せた中年紳士――アスコリ男爵が、不機嫌そうにため息をついた。 「まったく、恒例の夜会を控えた時期に迷惑極まりない! 自警団の連中は帰したんだろうな?」 「もっと調査をさせろと申しておりましたが、どうにか」 「それでいい、死体の処理以上のことを頼んだ覚えはない。また何か言ってきたらいくらか握らせて黙らせろ」 「かしこまりました」  執事はうやうやしく頭を下げた。 「あの馬丁に身内がなかったのは不幸中の幸いだな。騒がれてはたまらん」 「さようでございますね」  同意しながらも、執事は立ち去ろうとしない。  男爵は眉根を寄せる。 「まだ何かあるのか?」 「実は、ご確認いただきたいものが……」  男爵の前のデスクに、執事が一通の封筒を置いた。男爵は片目だけを封筒に向ける。 「死んだ馬丁が、この封筒を握りしめていたのでございます」 「中身は見たのか?」 「はい。それが……」  そのとき、半開きのドアから肉づきのよい貴婦人が顔をのぞかせた。 「あなた、お茶の時間でしてよ」 「すぐ行く。――構わん、ここで読め」  男爵に促された執事は夫人にちらりと目を向けて逡巡するも、すぐ観念した表情を浮かべた。  白手袋をはめた手で封筒を開け、何の変哲もない便箋を取り出して読み上げる。  それは、こんな内容だった。  ――世界の救済のため、夜会を犠牲に捧げる――。 「……何だそれは」  男爵が内容を理解する前に、夫人がひっと息を呑んだ。 「脅迫状じゃありませんの!? 夜会を襲うという予告ですわ!」  男爵は首をかしげた。 「脅迫? そう読めなくもないが、心配せずともこれを持っていた男は死んだのだぞ」 「いいえ、いいえ! あの馬丁は字が読めなかったではありませんか。彼を殺した者が握らせたんですわ!」  切羽詰まった夫人の言葉に、執事がすっと視線を逸らす。実は執事もその可能性を考えていたのだった。  夫人は化粧の濃い頬に恐怖の色を浮かべてさらに仮説を口にする。 「もしかして――馬丁は脅迫状を届けさせるために殺されたんじゃありませんの!?」 「何を馬鹿な」  そんなことのために人ひとり殺す者がいるだろうか。  しかし夫人はヒステリックに言い募った。 「2週間前には書斎が荒らされて、夜会の招待状が盗まれましたし……おかしなことばっかりですわ!」 「それは関係ないだろう」  面倒くさそうに話を終わらせようとする男爵を、夫人はキッと睨む。 「夜会は取りやめにすべきですわ!」 「冗談じゃない!」  男爵はデスクを叩いた。 「夜会までもう一週間もない。こんな手紙一通を恐れて中止したら、どんな噂を立てられるかわからん!」 「フィオレだって怖がりますわ。近頃すっかり塞ぎ込んでいますのよ」 「おまえはフィオレを甘やかしすぎだ。あれはもう15歳、婿を探すにも夜会に出さねばならん」 「わたくしどもだけの問題ではありませんわ。お客様を危険に晒したら……」 「うるさい! とにかく夜会は決行する! これは我がアスコリ男爵家の名誉の問題だ!」  夫妻の言い合いは平行線で、終わる気配がない。  そこへ、執事がそっと割り込んだ。 「――でしたら、夜会に特別な警備をつけたらいかがでしょうか」  夫妻の視線が執事に集中する。男爵が太い眉をしかめた。 「番兵以外にか? しかし、信用できる者を今さら雇うのは難しいだろう」  執事は胸に手を当てて頭を下げた。 「ですので、薔薇十字教団に依頼するのはいかがかと。浄化師なら素性は確かです。不測の事態にも対処できましょう」 「薔薇十字教団……」  男爵夫妻はそれぞれ考え込む。結論が出るまでには、さほどかからなかった。 ●3日後 薔薇十字教団本部 「新たな指令です。場所はルネサンス地区、ヴェネリア近郊の街」  集まった浄化師たちに、薔薇十字教団の団員が説明する。 「アスコリ男爵家の使用人が殺害され、脅迫状と思われる文書が届きました。文面からしてサクリファイスかもしれません」  浄化師たちがざわめく。  サクリファイスとは『罪を犯した人間は滅び、世界救済の生贄になるべき』という考えをもつ狂信者集団である。  その教義からたびたび破壊活動におよび、人々に恐れられているのだ。 「とはいえ今回皆さんにお願いするのは、男爵の所有する『銀波館』で行われる夜会の警備です」  教団員は指令書に目を落としたまま言った。 「会場内で警備するなら服を貸してもらえるそうですし、ご馳走も出ますよ。夜会が何事もなく終われば、指令は完了です」  それほど困難な仕事ではなさそうだが、さて。