|
●激闘の予兆
「緊急事態だ! ソレイユでスケール3ベリアルの目撃情報だ!」
本部エントランスに鬼気迫る声が響く。
声の主は教団員セゴール・ジュノーだった。
「現場までの馬車は既に用意してある、支度と覚悟の出来ている浄化師は乗車してくれ!」
セゴールは計算高く冷静で、警戒心の強い男だ。
過去には浄化師に対する任務成功報酬を貴族の男爵から予定額以上にふんだくった事もあるくらいだ。
しかし、そんな彼とは思えない程切羽詰まった様子と、セゴールが叫んだ「スケール3ベリアル」という言葉に、あなたたち浄化師は只事では無いと感じ馬車に乗り込む。
●動揺の根源
馬車の中には、商人風の格好をした青年が既に1人乗っていた。
彼を訝しむ浄化師たちに、セゴールが紹介する。
「彼は本件現場付近の別の町でサクリファイス信者の動向を探っていたレヴェナント構成員だ。便宜上、今はロイとでも呼んでやってくれ」
レヴェナントは本名を明かさない。
名を変え身なりを変え敵の内情や動きを探る、それが彼らの任務だからだ。
「ロイだ……よろしく頼む」
ロイと名乗った構成員は、ぽつりとそう零しただけですぐに黙り込んだ。
間を空けず、セゴールは激しく揺れる馬車の中で今回の任務について説明に入る。
「スケール3ベリアルの目撃情報が出たのは、ソレイユの片田舎にある『クレイン・ブルメン』という小さな村だ。村民の多くは生花の栽培で生計を立てる園芸農家だが……つい数時間程前、村民の殆どが意識を失い倒れているのが発見された。倒れていた者は皆……死んでいた」
いくら田舎の小さな村とはいえ、村民の殆どが死体で発見されるのは尋常ならざる事態だ。
息を呑む浄化師たちに、セゴールは続ける。
「偶然にも任務中に通りかかったロイがその現場を目撃し、急ぎ本部に知らせてきた。ロイ、君の見た状況について浄化師たちに報告してくれないか」
セゴールに促され、ロイは口を開いた。
「ベリアルは1体しかおらず、獰猛な猫のような鳴き声を発しながら、『皆殺しだ』と繰り返していた。容姿は二足歩行する獣のようで、何やら奇妙で……恐ろしい技を用いていた。偶々そのベリアルの手で組み敷かれた野良犬が、数秒後にまるでベリアルの掌で押し潰されたかのように粉砕したんだ」
そこまで聞いたセゴールは、軽く唇を噛んだ後告げる。
「これは私の推測でしかないのだが……そのベリアルは『デストルクシオン』を行使している可能性がある」
『デストルクシオン』とは、掌で3秒間触れた物体や生物を崩壊させる能力を言う。
「鳴き声、人獣のような容姿、デストルクシオン……これらを総合して考えると、山猫のような獣が元の生物だった可能性が高く、接近戦には十分警戒する必要があると言える。少なくとも奴に触れられるのは絶対に避けたい」
皆これまでの敵とは勝手が違う相手を想像し、車内の空気はひどく重苦しくなった。
ガラガラと忙しなく車輪を回らせる馬車の音だけが、やけにうるさく響く。
●回想
浄化師たちが沈黙する馬車の中、セゴールは『名も無き友』の姿を思い出していた……。
セゴールには、友と呼べる男が1人いた。
彼とは同じ任務を担当した事がきっかけで、多少の会話を交わすうちに意気投合した。
彼は「リューズ」と名乗っていたが、それが本名とはセゴールには疑わしかった。
何故なら、彼は会うたびに商人の格好をしていたり奴隷の格好をしていたり、まるで様々な人間を「演じて」いるようだったからだ。
それでも、セゴールはリューズを詮索はしなかった。
不思議と、彼がセゴールの『警戒心』を煽るような事は無かったのだ。
『馬が合う』とは、こういう事を言うのだろう。
そんなセゴールに、リューズは一度だけ故郷の話をした事がある。
あの時は互いに酒が入っていたので、酔った勢いもあったのだろう。
何処とは明かさなかったが、銀のチューリップの飾りを付けた首飾りを見せながら『チューリップばかり植えられているひなびた田舎だ』と言っていたのをセゴールは覚えている。
そして、『過去にサクリファイスが信者獲得の為に村人を何人も連れ去った』とリューズの双眸が一瞬殺気を帯びたのも……。
そして今日、彼は偶然その首飾りを目撃した。
それは火葬された者の遺品で、返却はされず本部で人知れず処分されるという。
教団で火葬されるのは浄化師など『関係者や血縁者への報復が予想される者』だ。
その時、頭の良く働くセゴールは悟った。
リューズが浄化師の制服を着ていたのを見た事は無く、更にこれまでの彼の様子から、リューズはレヴェナントの構成員だったのだ、と。
それから殆ど時を待たずして、クレイン・ブルメンの惨劇を目撃したロイが本部に駆け込んできたのだった。
●臨場
どれほど走り続けたか、馬車はいよいよクレイン・ブルメンに到着した。
武装を整え馬車を降りる浄化師たちに、セゴールは警告する。
「この辺りはちょうどチューリップの球根を植え終えたばかりで土が柔らかくなっている。足場が悪い事を念頭に入れ、相手との間合いに細心の注意を払ってくれ。それと……」
セゴールの目は、どこか浄化師たちに縋るような切なげな色を宿していた。
「私の友の魂も、あのベリアルに内蔵されているのかもしれない……。頼む、友の……リューズの魂を、そして、彼が守りたかった村の者たちの魂を、君たちの手で解放してやってくれ」
|
|
|
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。
12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、
今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。
子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、
プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。
そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、
ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。
「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、
エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。
しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。
あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
|
|
|
「おやまぁ。お爺さん? こんな夜遅い時間まで何処に行ってたんだい?」
「いや、そこで子供が迷子になっててな。どうやら親とはぐれたらしい。自警団の屯所に連れて行ったんだが、まだ親からは連絡が無いみたいでな。屯所の連中も男ばっかりで子供の面倒もようく見切らんと泣いてせがまれたんで連れて帰って来た。何、親が屯所に来たらすぐにウチに来るような手筈になっとる。この村は誰も知り合いだでな」
ここはミズガルズ地方「樹氷群ノルウェンディ」の端にある小さな村。
氷に閉ざされた大地だが、その反面村人の心はとても温かく、笑顔を忘れずに生きている。例えるなら冬の部屋に灯った小さなランプ。そんな村だった。
「エリヤ、この間獲ってきた鹿肉があったろう。あれを細かく刻んで香草と一緒にスープにしてくれるか?」
「はいはい。まったく、お爺さんは何でもいきなりですねぇ」
エリヤと呼ばれた老婆は、口ではそう言いながらもいそいそと給仕の支度を始めた。娘や息子も手が離れ、とうにこの地からは出て行ってしまったのだ。孫を連れて来る事もあるが、特に名産も無いこの村では長く滞在する事も無い。だから久しぶりに触れ合える子供という存在が嬉しいのだ。
「ほら、お嬢ちゃん。おまえさんの名前はなんじゃったかな? 最近歳のせいか物忘れが酷くてな、ハッハッハ。そう言えばまだ名乗っておらんだったな。儂はアントン。しがない罠猟師じゃよ」
アントンは口を覆う白いヒゲを撫でながら、後ろに居た子供に声をかけた。その子供は年の頃が10歳くらいだろうか。ゆったりとしたドレス調の黒いワンピースに白いコート。瞳は澄んだ青。肌はとても白く、同じように白く長い髪の毛をひとつに纏めてマジェステと言う棒状の髪留めで留めてある。それはまるでノルウェンディの樹氷が人間になったと言われたら信じてしまいそうで、太陽に当たれば消え行く儚さを感じさせた。
勿論アントンの物忘れと言うのは方便である。エリヤにこの子の口から自己紹介をさせたかったのだ。
「……マゴット。本当にお父さんとお母さんが見つかるの? 私、ずっとお父さんとお母さんを探しているの」
「ああ、大丈夫だ。ここは狭い村だでな。多分おまえさんのパパとママはすぐに見つかるさ。ほれ、いつまでもドアを開けていると寒いじゃろ。中にお入り」
マゴットが会釈をし、するりと家の中に入るのを見届けてからアントンはドアをゆっくりと閉めた。
「マゴットと言ったかい? 暖炉の前にある椅子に座ると良いよ。お爺さん、多分この子はアークソサエティからの観光客かねぇ。身なりも小奇麗だし、この村から出てったモンの子供かねぇ」
エリヤは暖炉にかけた鍋をかき混ぜると、その脇に串に刺した大きめの芋を立てた。椅子に座ったマゴットがエリヤの動作を不思議そうに見つめるのに気がついたのか、アントンが口を開いた。
「この村では小麦が取れんのでな。芋を使った料理が主だ。何、パンのように柔らかくは無いが食べ応えはある。マゴットは甘いのとしょっぱいのどっちが好きなんじゃ?」
「……甘いの、好き。お母さんいつもお菓子作ってくれてた」
「そうかそうか。婆さん、蜂蜜とバターがあったじゃろ。あれを用意しておやり」
鈴が鳴るようなか細い声で語るマゴット。
アントンは親とはぐれ、迷子になったマゴットが不安に思ったのだろうと察して、精一杯もてなしをする事に決めた。せっかくの旅行だ。寂しい思い出は最小限に留めて美味しい物で上書きしてやろうと。
「まったく、お爺さんは私ばっかり働かせて。私もマゴットちゃんと話したいのにねぇ」
エリヤは苦笑すると少し曲がった自分の腰を片手で叩きながら椅子を引いてマゴットの隣に腰掛けた。
「マゴットちゃんの好きなものはなんだい? 食べ物でもおもちゃでも何でも教えてくれるとお婆ちゃんは嬉しいねぇ」
ニコリと皺が寄った顔を更に皺くちゃにしながら、優しい声色でエリヤが話しかける。それは見るものを安心させる笑顔だった。
「……お人形。ずっと話し相手になってくれるの」
「おや、そうだったのかい。それなら良い物があるよ。ちょっと待っていておくれ」
マゴットの言葉にエリヤはポンと拳で手の平を打つと、おそらく寝室があるであろう奥の部屋に入っていった。
「おやおや、婆さんは火の番を忘れているな。もう少しで出来るからな、マゴット」
「ありがとう。……少ないけれど、これ……」
席を離れたエリヤの代わりに鍋をかき混ぜるアントンに向かってマゴットはポケットから小さな硬貨を取り出し、差し出した。それは暖かい暖炉の光に当たっても尚寒々しい銀貨だった。
「子供はそんな事気にせんでも良いんじゃよ。そんな気の使いかたは大人になってからするもんじゃ。それに儂はおまえさんからそんなもんを受け取っても嬉しくはないのぅ」
咎めるつもりのアントンだったが、所在なさげに下ろされたマゴットの硬貨を握った手が視界に入り、それは苦笑に変わった。
「そうじゃなぁ……。おまえさんがお礼をしたいって言うのなら、いつか大人になった時にこの村にまた遊びに来てくれると嬉しいのぅ」
「うん。わかった。また戻ってくる」
マゴットが短く答えた時、エリヤが一体の人形を抱いて戻ってきた。
「これは私の娘が置いていった物だけれどね。一緒に連れて行ってくれると嬉しいねぇ」
「……連れていって、良いの?」
「勿論じゃ。お前さんと一緒だと嬉しいじゃろうな」
エリヤの言葉にマゴットが返し、アントンが肯定する。
「……あり、がとう」
たどたどしく礼を言い、人形を受け取り、キュッと抱きしめるマゴット。
「さて、ご飯にしようかね。マゴット、沢山食べてくれると嬉しいねぇ」
老夫婦の食卓は小さな珍客のおかげでいつもより暖かく、そして少しだけ明るい時間となった。
***
「捨て子かもしれんの」
時刻は深夜。暖炉の火も落ち、外はひょうひょうと風の泣く声が聞こえるのみ。アントンは唐突にボソリと呟いた。
「そうですねぇ……。おや? マゴット? どうしたんだい?」
エリヤがアントンの方を向いて返事をした時、開いたドアの影から片手に人形を抱いたマゴットが視界に入る。髪の毛は下ろされ、月明かりに照らされたそれは外の雪と同じようにわずかな光を反射している。
「お父さんとお母さんを……探してるの」
マゴットはどこか遠くを見るような瞳をしたまま呟き、ゆっくりとアントンとエリヤが居るベッドに近づいてきた。
アントンはマゴットが寂しさから起きてきたのだろうと思い、抱き上げてあやそうと体を起こす。エリヤの目にはアントンの首に抱きつくマゴットの姿が見えた。だが……。
「ああ、明日には会えるから心配せずとも寝た方が良いぞ。……カッグッ!?」
「お爺さん!? ゲグッ……!」
アントンがベッドに倒れこんだのを不審に思い、近寄るエリヤにもマゴットが抱きつく。
「お父さんとお母さんを探しているの」
マゴットの手には魔術の光か血だろうか。白い髪を留めていた、どす黒く濡れたマジェステ。老夫婦は首を一突きにされ絶命した……。
「……連れて行って良いって言った。お父さん、お母さんを探して?」
ゆっくりと老夫婦の死体に近づき、自身の手をゆっくりと傷つけるマゴット。そして二人の口に赤い雫を垂らす。
「オオォォォオ……」
村で一番優しいと評判の老夫婦だったモノは人の姿をとどめたまま、人では無いモノとしてゆっくりと起き上がった……。
|
|
|
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。
12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、
今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。
子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、
プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。
そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、
ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。
「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、
エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。
しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。
あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
|
|
|
樹氷群ノルウェンディ。
教皇国家アークソサエティから程近く、かつては竜の渓谷でドラゴンとともに生活していた人々が住んでいた地域でもあるその王国は、現在では高名な観光地として栄えている。
「スキーや温泉も有名なんだけど、最近はトロール・ブルーね。伝統工芸品なんだけど、特に注目され始めてるの」
「トロール・ブルー……。固定氷塊を用いて作る、食器や人形細工でしたか」
「そう。冷たくなくて、絶対に溶けない氷」
水気の魔結晶を特殊な魔術で水に溶かし、凍らせて作る固定氷塊は、陶器のような質感と強度を有しており、不思議と冷たくなく、永遠に溶けない。ノルウェンディの伝統産業だ。
それを材料として作られる品々は、最初に固定氷塊を用いて工芸品を作る工房を開いたトロール一家と、その透き通るような青さから名前をとり、トロール・ブルーの名で親しまれている。
「冷たくならない、溶けない、っていうのが、若い子たちの心を掴んでね? トロール・ブルーのペアリングが特に人気なの」
教団本部の司令部の会議室で、ノルウェンディからやってきた女性が写真を出す。
テーブルを挟んだ対面に座る司令部教団員は、丁寧な手つきでそれをとった。不鮮明な写真には、同じデザインの指輪が二つ、並べられている。
「二人の仲は永遠に冷めず、二人を結ぶ糸は永遠に切れないってね」
「溶けない、ではなくて、ですか」
「糸は溶けないでしょ。いいのよ、なんとなく意味は通じるじゃない」
「そうですね」
つまり、トロール・ブルーのペアリングを身に着けた二人は、永遠に愛しあえるというわけだ。
若い恋人たちの間で、近ごろ浮上した伝説らしい。
「これね、雪遊びの景品なの」
「雪遊び?」
「ノルウェンディの、オーセベリのスキー場の催し。テニスコート二面分の雪の中に宝物が隠れてて、見つけたら景品がもらえるのよ」
オーセベリは温泉プールなどのレジャー施設が集中している地区だ。土産物店なども多く、観光客が特に集まる。
「つまり、教団へのご依頼とは」
「人海戦術よ。雪遊びで宝物を見つけて、ペアリングを私に頂戴」
依頼主は真剣な目で体を乗り出した。司令部教団員は、気迫に圧されるように背をそらす。
「どうっしてもほしいの。彼にあげるの!」
「はぁ……」
「もうすぐ彼の誕生日なのよ。だから、トロール・ブルーのペアリングをあげて、驚かせて、プロポーズしてやるわ!」
目の奥に炎を宿らせる女性を、両手を上下に振って落ち着かせ、司令部教団員はメモ用紙をとり出した。
「ええと、とりあえずご依頼、承りますね……」
「お願いね! あ、参加賞もあるのよ。温泉一日入りたい放題券!」
だからお願い、と女性は両手をあわせ、司令部教団員を拝んだ。
|
|
|
日が傾くにつれ街はライラック色へと染まっていく。
ぽつぽつと窓からのぞきはじめたオレンジ色の光が、柔らかく積った三角屋根の雪を照らしていた。
並んだ民家の煙突からは、夕餉の匂いを詰めこんだ煙が空へとのぼっている。
花弁のように舞っていた雪の華はいつの間にか牡丹の大きさへと変わっていた。
『ゴクスタ』は樹氷群ノルウェンディの中でも民家が多く連なる地区である。
近隣にノルウェンディの名産品、『トロール・ブルー』の生産施設が多く並ぶため、 夕方にもなれば職人たちの集まる酒場にも活気が出る。
酷くなる風雪から逃げるように滑り込んだ扉の先が、まさにそれだった。
強い酒精と水蒸気を含んだ熱気が来客を歓迎する。
天井の梁に吊られた洋灯が入店と共に風に揺れ、金赤の灯りが店内を照らした。
外観は石造りだったが内装は素朴な雰囲気を残す丸太が多い。
いかにも職人街らしく、店内の至る所にアイスブルー色の氷が溶けることなく飾られている。
飲み代を賭けて腕相撲で勝負をする職人たち。
カードゲームに興じる老人たち。
鍋太鼓と手拍子を伴奏にトナカイと森の歌を奏でる酔っ払い。
住民にとって窓の外の猛吹雪など慣れたものなのか。
入ってきた雪まみれの来客に動じることはない。しかし観光客が珍しいのか、向けられる視線の中には隠し切れない好奇が混じっていた。
「そんなに見て、客が逃げたらどないするつもりじゃ!」
視線は皿を運んでいた恰幅のよい女性が目の前に来ることで遮られる。
店内の視線全てをシャットアウトするほどの横幅。服や三角巾には焼いた肉汁と獣の油が飛び散り、クリスマスビールと野菜の匂いが深く染みている。 豪胆な赤ら顔が皺だらけの笑顔を見せる。そこに浮かぶのは歓迎の情だ。
「おう、おう。あんたら、外は寒かったじゃろ! 暖炉近くのテーブルが空いとるけ、早う行って温まり」
強い訛りで奥のテーブル席へと通された。
ぱちりと空気を含んで爆ぜた赤い薪の音。テーブルの上に立つ青いトナカイの人形が透き通った身体に暖炉の炎をうつしこんでいる。
卓上の置物。棚に並んだ皿やマグカップ、雪の打ちつける窓枠には十字架の台座、暖炉横のクリスマスツリーを彩る輝くオーナメント。
これらは陶器のような質感と強度をもつ「『固定氷塊』と呼ばれる特殊な氷を加工したものであり、トロール・ブルーと呼ばれるノルウェンディの名産品でもある。
「お待ちどうさん。見ての通りの酒飲み食堂じゃ。食器はともかく貴族様が食べるような大層な飯は出せん。まずはあったかい飲み物で体を温めるとええじゃろ」
配膳の途中なのか。両手いっぱいのトナカイ肉料理を抱え、先程の女性がやってくる。
ウィンナーのような指がメニュー表と共に名刺大の紙を二枚差し出した。
「ウチの店じゃあ、クリスマス前にはメッセージカードを客に渡しとるんよ」
樹氷のクリスマスツリーを思わせる飾り枠の中には雪原のような白紙が広がっている。
一番下には金色でメリークリスマスの文字。
「良かったらあんたらも書いて、日頃世話になっとる人に渡してあげんさい」
|
|
|
今日は「スターリー・ナイト」の日。あるいは「星の祝祭」と呼ばれる年に一度だけの特別な日。
シャドウ・ガルテンのある町では冬至が近くなると、この祝祭が行われる。この祝祭は別の国から流れ込んだ祝祭がこの町に定着したものだが、年に一度のお祭りを誰もが楽しみにしている。
大人も子供もこの日は関係なく、飲んで食べて踊る楽しい一日。こっそりと妖精も参加し、月夜の下で舞い踊る。
この日にふさわしい服装は星月夜をモチーフにしたもの。女性は星が散りばめたようなドレスを着て星月夜をモチーフにしたネックレスやピアスしていれば、男性は月や星のカフリンクスやネクタイピンをしているものも多い。総じて夜空を連想させる紺色や黒の生地を使った服を着ている。
夜になり表通りを歩いていると、どこの店や家も星形の手作りランプシェードに明かりを灯している。
星形や月形のランプシェードとはいっても様々なものがあり、美術品のような金細工でできたものからから可愛らしいレースをカバーにしているものすらある。
きらめく星々が町を照らすと、見慣れた場所がまるで知らない場所のように見える。
ランタンの他に星や月をモチーフにしたオーナメントが店や家の内外に飾られたり、星の形をしたリースが扉にかけられたりしている。
この日のシンボルともいえるポムドールという果実がある。その果実は暗闇の中でもほんのり輝いて見えることから黄金の果実とも呼ばれている。
ポムドールは滋養も良いことから「長寿」の意味も込められている。滅多に食べられないこの果実は子供達に大人気だ。
ポムドールを使った菓子や果実酒が振る舞われ、たくさんの料理と共に人々は楽しげに飲み食いし、歌ったり踊ったりする。
冬至になる前に行われるこの祝祭の夜には、先祖の霊が帰ってくると同時に悪霊や魔女もそれらに紛れて現れると考えられていた。
星は光の象徴でもあり、悪しきものを寄せ付けないことから「魔除け」として用いられてきた。そして、月は満ち欠けの周期で姿を変えるため、「成長」の象徴でもある。
元々の起源を遡ると、太陽の再生を祈るための儀式だった。この祭りは今年も無事に冬を越せますようにと祈りが込められているのだ。かつては火を焚き、大いなる存在に生け贄を捧げた。人が自然の恵みを受け取ることを感謝し、この日になると大いなる循環の一部であることに畏敬の念を示したとされる。
しかし、近年になると大人も子供も関係なくお祭り騒ぎするイベントになっている。
先祖の霊が迷うことがないように星を道標とし、悪霊から身を守るために魔除けとして焚き火の代わりに今では星のランタンを飾る。
「スターリー・ナイト」の夜には魔神が率いるワイルドハントが訪れる。ワイルドハントは目に見えない狩猟団である。その側には常に多くの黒い犬が連れ添っている。彼らを見たものはワイルドハントの一員に引き込まれると言い伝えられている。この時期になると大人は「悪い子はワイルドハントに浚われるよ」とヴァンピールの子供にそう言って聞かせる。
「スターリー・ナイト」の本番は夜である。大抵は町の広場にあるガゼボに巨大な振り香炉を吊す。それを振り子のように人力で押し、徐々に香炉の振り幅が大きくなっていくと香が人々に行き届くようになる。
古来から強い匂いはケガレを退け、ワイルドハントから身を守ると信じられていた。
香炉には火気の魔結晶と乳香にレモンやサンダルウッド、ラベンダー、ネロリ、ゼラニウムなどから精油を選び、町ごとに違った調合がされている。その特殊な香は周囲に香りを充満させるだけでなく、香の匂いがするところはまるで焚き火に当たっているように暖かい。
太陽の再生を祈る儀式から星の祝祭へと変わった経緯は不明だが、その名残は今でも残っている。
振り香炉は大抵金色であり、金色は暗闇や寒さと戦う太陽の象徴である。香炉から立ち上る煙は祈りが届くようにという意味が込められているのだ。
煙が立ちこめる中で踊るダンスは冬の霧のベールに包まれて、その夜だけ別世界にいるように感じられるだろう。煙がくゆる中、星のランプの明かりが幻想的に揺れる。暗闇の中では星のランプに照らされていても薄暗くて周囲は見えづらい。ダンス相手だけを感じて踊っていられる。だからこそ、若者達はこの日のためにとっておきの衣装を準備して、ダンスの時間の訪れを心待ちにしている。
あなたは指令によって星の祝祭が行われる日にこの町にやってきた。
指令の名目はシャドウ・ガルテンと教団の協力関係を深めるためだが、実質は浄化師達への息抜きだ。
星を散りばめた町の光景を堪能するのもいいし、屋台を見て回るのもいいかもしれない。他にもポムドールで作られたお菓子やジュースも売られている。この日だけしか食べられない一品だ。
もしあなたが成人済みだとしたら、一部の好事家にしか知られていない黄金の果実酒を探してみるのも面白いだろう。
たくさんの星空のようなランプの灯りが揺れる中、散歩をしてみるといい。それはとても幻想的な光景で忘れられない記憶になるだろう。広場にいくと星月夜の下でワルツを踊り出す。パートナーと参加するのもいいし、見ているだけでも楽しめるだろう。
さあ、あなたはどんな一夜を過ごすだろうか。
|
|
|
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。
12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、
今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。
子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、
プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。
そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、
ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。
「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、
エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。
しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。
あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
|
|
|
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。
12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、
今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。
子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、
プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。
そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、
ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。
「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、
エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。
しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。
あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
|
|
|
1718年12月――教皇国家アークソサエティは、「クリスマス(ユール)」ムードに包まれています。
12月24日の「アレイスター・エリファス」の生誕祭として、教皇国家アークソサエティを中心に普及したイベントでしたが、
今では、恋人や家族が食事や団欒を楽しむ、一大イベントと変化していました。
子ども達にとっては、アレイスター・エリファスよりも知名度の高い「伝説の魔術師:サンタクロース・ニコライ」が、
プレゼントを届けてくれるという、希望溢れる日です。
そんなクリスマスに、エクソシスト達にも息抜きが必要だとして、
ヨセフ・アークライトから、束の間の休息が指令として与えられました。
「シャドウ・ガルテンの事件」から、サクリファイスが動くことは目に見えているため、
エクソシストはそちらの対処をする必要もあります。
しかし、だからこそ。生死を賭ける戦いに望むためには、パートナーとの仲を縮める必要があるでしょう。
あなたのクリスマスは、どのような1日になるのでしょうか!
|
|